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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2008800043 審決 特許

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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  G10H
審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  G10H
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G10H
管理番号 1266232
審判番号 無効2010-800171  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-09-29 
確定日 2012-12-06 
事件の表示 上記当事者間の特許第3918826号発明「楽音データ再生装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 理 由
第1 手続の経緯
平成16年 3月30日:出願(特願2004-97383号)
平成19年 2月23日:特許権の設定登録(特許第3918826号)
平成22年 9月29日:本件無効審判請求
平成22年12月28日:答弁書提出(被請求人)
平成23年 2月22日:口頭審理陳述要領書提出(請求人及び被請求人)
平成23年 3月 8日:上申書提出(被請求人)
平成23年 3月 8日:口頭審理

第2 本件発明
請求人が無効とすることを求めている請求項4に係る特許は、請求項1から請求項3のいずれかの項を引用するものであるが、請求人は、請求の理由の中で、請求項1を引用する請求項4について、無効理由を主張するものである。
請求項1及び請求項4には、以下のとおりに記載されている。

「【請求項1】
圧縮楽音データと非圧縮楽音データとから構成される楽音データが記憶された記憶媒体から前記楽音データを圧縮楽音データ、非圧縮楽音データの順に読み出して再生する楽音データ再生装置であって、
前記記憶媒体から前記非圧縮楽音データを読み出すとともに、前記非圧縮楽音データの読み出しを終了した時点で読み出し終了通知を出力する第1の読出手段と、
前記記憶媒体から前記圧縮楽音データを読み出す第2の読出手段と、
前記第2の読出手段によって読み出された圧縮楽音データを伸張して出力するデコーダと、
前記第1の読出手段の出力と前記デコーダの出力とを切り換える切換手段と、
前記第1の読出手段、前記第2の読出手段、および前記切換手段を制御する制御手段とを具備し、
前記圧縮楽音データは、楽音データの再生における所定の再生処理単位の整数倍のデータサイズを有し、
前記制御手段は、ループ再生指示を受けて、前記第2の読出手段へ前記圧縮楽音データの読み出し指令を出力するとともに前記切換手段を前記デコーダの出力に切り換える第1手順、前記デコーダによる前記圧縮楽音データの伸張および出力が終了した時点で前記第1の読出手段へ前記非圧縮楽音データの読み出し指令を出力するとともに前記切換手段を前記第1の読出手段の出力に切り換える第2手順、を順に実行し、前記第1の読出手段から出力される前記読み出し終了通知を受けて再び前記第1手順を実行することにより、前記楽音データをループ再生させる
ことを特徴とする楽音データ再生装置。」
「【請求項4】
前記非圧縮楽音データに代えてADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データを用いることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかの項に記載の楽音データ再生装置。」

請求項4は、「非圧縮楽音データ」に代えて「ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データ」を用いるものであるから、請求項1における「非圧縮楽音データ」を「ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データ」と読み替えれば、請求項1を引用する請求項4は、以下のとおりとなる。以下、これを「本件発明」という。

(請求項1を引用する請求項4)
「圧縮楽音データとADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データとから構成される楽音データが記憶された記憶媒体から前記楽音データを圧縮楽音データ、ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データの順に読み出して再生する楽音データ再生装置であって、
前記記憶媒体から前記ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データを読み出すとともに、前記ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データの読み出しを終了した時点で読み出し終了通知を出力する第1の読出手段と、
前記記憶媒体から前記圧縮楽音データを読み出す第2の読出手段と、
前記第2の読出手段によって読み出された圧縮楽音データを伸張して出力するデコーダと、
前記第1の読出手段の出力と前記デコーダの出力とを切り換える切換手段と、
前記第1の読出手段、前記第2の読出手段、および前記切換手段を制御する制御手段とを具備し、
前記圧縮楽音データは、楽音データの再生における所定の再生処理単位の整数倍のデータサイズを有し、
前記制御手段は、ループ再生指示を受けて、前記第2の読出手段へ前記圧縮楽音データの読み出し指令を出力するとともに前記切換手段を前記デコーダの出力に切り換える第1手順、前記デコーダによる前記圧縮楽音データの伸張および出力が終了した時点で前記第1の読出手段へ前記ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データの読み出し指令を出力するとともに前記切換手段を前記第1の読出手段の出力に切り換える第2手順、を順に実行し、前記第1の読出手段から出力される前記読み出し終了通知を受けて再び前記第1手順を実行することにより、前記楽音データをループ再生させる
ことを特徴とする楽音データ再生装置。」

第3 当事者の主張
第3-1 請求人の主張
請求人は、特許3918826号の請求項4に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由として、以下の無効理由を主張し、証拠方法として甲第1号証?甲第11号証を提出した。

[無効理由1]
本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものとすることができないので、特許法第36条第6項第1号に違反するものであるから、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきである。

[無効理由2]
本件の特許請求の範囲の記載は、発明を特定するものとして不明瞭であるので、特許法第36条第6項第2号に違反するものであるから、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきである。

[無効理由3]
本件明細書の発明の詳細な説明の記載は不備であって、特許法第36条第4項第1号に違反するものであるから、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきである。

[無効理由4]
本件発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開平2-146599号公報
甲第2号証:特開2002-341896号公報
甲第3号証:国際公開99/59133号
甲第4号証:特開平5-341790号公報
甲第5号証:特開平2-230200号公報
甲第6号証:特開平4-58291号公報
甲第7号証:特開平7-181974号公報
甲第8号証:特開昭61-53696号公報
甲第9号証:特開昭61-205998号公報
甲第10号証:特開平2-137896号公報
甲第11号証:特開昭62-242996号公報
なお、甲第2号証及び甲第4号証?甲第11号証は、技術水準を示す証拠として提示されている。

第3-2 被請求人の主張
被請求人は、答弁書を提出し、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人の主張する無効理由に対して、以下のように反論し、証拠方法として乙第1号証を提出した。

[無効理由1について]
本件発明は、特許第36条第6項第1号の規定に違反していないので、請求人の主張する無効理由1は理由がない。

[無効理由2について]
本件発明は、特許第36条第6項第2号の規定に違反していないので、請求人の主張する無効理由2は理由がない。

[無効理由3について]
本件明細書は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反するものではないので、請求人の主張は誤りである。

[無効理由4について]
本件発明は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に推考し得たものではないので、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。


第4 無効理由1(特許法第36条第6項第1号違反)に対する判断
第4-1 請求人の主張する無効理由
請求人は、本件特許請求の範囲の記載が不備であるとして、次の事項を主張している。

(1)請求項1を引用する請求項4による課題解決の可否
本件発明の技術的課題の解決手段としての第1の実施形態においては、先頭のPCMデータのサンプル数がMであること、最後の非圧縮楽音データがMOD{(N-M)/1152}サンプルであること、先頭のPCMデータの読み出しと圧縮楽音データの読み出しを平行して開始すること、切換手段がPCMデータを出力するかデコーダからの伸張済みデータを出力するかを切り換えること、圧縮楽音データの読み出しが終了してから時間Tが経過して楽音データの終了部のPCMデータの読み出しを開始すること、楽音データの終了部のPCMデータの読み出し終了時点で、先頭のPCMデータの読み出しと圧縮楽音データの読み出しを並行して再び開始すること、という構成が不可欠であることが明らかである。
しかし、請求項1においては、非圧縮楽音データの読み出し終了時点で出力される読み出し終了通知に基づき圧縮楽音データの読み出しを開始する発明が記載されているのであって、これでは、非圧縮楽音データの読み出し終了後、圧縮楽音データの伸張に要する時間分は圧縮楽音データに基づく楽音の出力ができないため無音部分が生じてしまうことになる。すなわち、請求項1は、発明の詳細な説明に開示された発明とは異なるものとなっている。

また、発明の詳細な説明には、制御部17が後部のADPCMデータの再生終了時点より一定時間前に圧縮データ読出部13へ読み出し開始を指示する構成によって初めて所望の作用効果が生じる発明も記載されているが、請求項1を引用する請求項4はかかる記載とは異なる圧縮楽音データの読み出し開始時を特定しており、発明の詳細な説明に記載した発明とは異なる発明を特定している。

(2)フレーム単位での圧縮
発明の詳細な説明の記載においては、圧縮楽音データはフレーム単位で圧縮処理・伸張処理・再生処理を行うものであることを前提とし、かかる圧縮楽音データの無音部分についてループ再生をする場合の不都合を解消するための発明が記載されているところ、本件発明の特許請求の範囲においては、フレーム単位で圧縮処理・伸張処理・再生処理を行うものであるか否か特定をしていないから、フレーム単位で圧縮処理・伸張処理・再生処理を行う圧縮楽音データ以外のものを対象とする発明を包含することとなり、このため発明の詳細な説明に記載した以外の発明が記載されていることになる。

(3)楽音データの再生における所定の再生処理単位の整数倍のデータサイズを有していることは、無音データを含まないことを保証していないこと
請求項1を引用する請求項4は、圧縮楽音データについて何らの限定もないので、無音データを包含する圧縮楽音データ及び無音データからなるADPCM方式により圧縮された圧縮楽音データを包含するから、発明の詳細な説明に記載された発明が意図する作用効果を奏することができない発明を包含し、このため発明の詳細な説明に記載された以外の発明が記載されていることになる。

(4)ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データの取扱いが不明であること
請求項1の非圧縮楽音データをADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データに代替させてループ再生を実行させる請求項4において、引用する請求項1の非圧縮楽音データの読み出しをする第1の読出手段とADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データの読み出しをするための構成との関係がいかなるものであるのか、また、ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データの伸張処理手段をどのような構成とし、引用する請求項1の圧縮楽音データのデコーダとの関係がいかなるものであるかは、発明の詳細な説明の記載において不明であるために、発明の詳細な説明の項には発明が具体的に開示されておらず、その結果、請求項1を引用する請求項4の発明は、発明の詳細な説明に記載したものとすることはできない。

第4-2 当審の判断
上記(1)の主張について
本件の明細書を参酌すると、「パチンコ等のゲーム機の分野においては、同じ楽曲を続けて繰り返し再生するループ再生がしばしば行われる。しかしながら、上述した圧縮楽音データをゲーム機において使用する場合、例えばMPEGは1152サンプル、AACは1024サンプルを1フレームとし、このフレーム単位で再生処理を行うようになっているので、曲の最後のフレームが規定数のサンプルを含まない場合にフレームの後部に無音部分が含まれることになる。このため、繰り返し再生において曲の終端部と先頭部との間に無音部分が生じてしまう問題があった。」(段落【0002】)と、従来技術における問題点が示されており、「本発明は上記事情を考慮してなされたもので、その目的は、無音部分を作ることなくループ再生を行うことができる楽音データ再生装置を提供すること」(段落【0003】)が、発明が解決しようとする課題であると記載されている。
また、その効果として、「この発明によれば、楽音データの終了部に非圧縮データを配置したので、圧縮楽音データを、無音部分を作ることなく任意の箇所でループ再生することができる効果が得られる。また、この発明によれば、楽音データの先頭部に非圧縮データを配置したので、圧縮楽音データのデコードによる遅れの影響を無くし、無音部分のないループ再生をすることができる効果がある。」(段落【0008】)と記載されている。

さらに、発明の第1の実施形態として、図2に楽音データのフォーマットが記載され、「楽曲の先頭部と終了部が圧縮されていないPCM(Pulse Code Moduration)楽音データ(以下、PCMデータという)であり、中央部が圧縮楽音データ(以下、圧縮データという)という構成の楽音データが使用される。」(段落【0009】)ことが記載されている。そして、圧縮データを全て読み出した時点でPCMデータを読み出すことにより、圧縮データの終了部に無音データを含めずに楽音再生できる構成(請求項1に対応)が記載されているとともに、圧縮データの先頭部において、圧縮データの伸張に要する時間が無音とならないようにするための、2つの手段が例示されている。
すなわち、1つは、PCMデータの読み出しを始めるとともに、圧縮データの読み出しも始め、圧縮データの伸張処理が終了して、第1番目の伸張済みデータを出力するタイミングで、PCMデータから伸張済みデータへ切り換えるもの(段落【0016】?【0017】)であり、他の1つは、圧縮データの先頭部にはPCMデータを配置せずに、圧縮データの終了部にのみPCMデータを配置し、PCMデータの再生終了時点より一定時間前に圧縮データの読み出しを開始するもの(段落【0021】第2センテンス)である。
ここで、これら2つの手段は、圧縮データを読み始めるときの伸張処理に要する時間が無音とならないようにするためのものであり、圧縮データの終端部にPCMデータを配置することにより、圧縮データの終端部が無音とならないようにすること(請求項1に対応)とは、そもそも作用が異なるものである。

確かに、ループ再生すれば、圧縮データの先頭部に無音部分がないのか、終端部に無音部分がないのかは、聴感上は区別がつかないものであるが、両者において、そもそもその作用は全く異なるものであって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載からは、後者の、終端部に無音部分がないようにする発明(請求項1に対応)と、圧縮データの先頭部に無音部分がないようにする発明との両者が記載されているものと認識できるものである。

それゆえ、先頭部に無音部分がないようにするための構成として、(a)圧縮データの先頭部にPCMデータを配置し、該PCMデータの読み出しを始めるとともに、前記圧縮データの読み出しも始め、前記圧縮データの伸張処理が終了して、第1番目の伸張済みデータを出力するタイミングで、PCMデータから伸張済みデータへ切り換える点、あるいは、(b)終了部のPCMデータの再生終了時点より一定時間前に圧縮データの読み出しを開始する点が請求項に記載されていないからといって、発明の詳細な説明に記載されていない発明を特許請求の範囲に記載したこととはならず、請求項1を引用する請求項4に記載の発明が、発明の詳細な説明に記載したものではないとすることはできない。

上記(2)の主張について
「フレーム」は、一定のサンプル数から構成されるものであるから、「フレーム」は、「所定の再生処理単位」を単位として構成されているということができる。すなわち、「フレーム」は「所定の再生処理単位」に含まれるものである。その一方、本件発明における「所定の再生処理単位」の意味するものが、「フレーム」とは異なる概念の再生処理単位を想定できるものでもない。
本件発明は、「例えばMPEGは1152サンプル、AACは1024サンプルを1フレームとし、このフレーム単位で再生処理を行うようになっているので、曲の最後のフレームが規定数のサンプルを含まない場合にフレームの後部に無音部分が含まれることになる。」(段落【0002】)という従来技術の問題点を解決するためのものであって、「所定の再生処理単位」が「フレーム」と全く同義であるとまではいえないまでも、「所定の再生処理単位」は、本件発明のような特段の処理を施さなければ、無音部分を再生する可能性のある「所定の再生処理単位」である。
審判請求人は、PCM方式の非圧縮楽音データやADPCM方式の圧縮楽音データも、1サンプルずつ再生処理されるから、この場合の「1サンプル」は「所定の再生処理単位」に相当すると解することもできると主張している。
しかし、そのような「1サンプル」を「所定の再生処理単位」と解するならば、「所定の再生処理単位」の中に除外できない無音部分が含まれるのでループ再生に支障が生じるという、本件発明の課題がそもそも生じないものであるから、請求項における「所定の再生処理単位」を、PCM方式の非圧縮楽音データやADPCM方式の圧縮楽音データの「1サンプル」を含む概念であるとすることはできない。

審判請求人は、「フレーム」はバイトやビットといったデータサイズを表さない、また、単純なPCM方式の非圧縮楽音データやADPCM方式の圧縮楽音データも、1サンプルずつ再生処理されるので、この場合の「1サンプル」は「所定の再生処理単位」に相当すると解することもできるから、「圧縮楽音データは、所定の再生処理単位の整数倍のデータサイズを有する」との規定が、フレーム単位で圧縮処理・伸張処理をして再生を行うことを規定していないことを意味すると主張している。
しかし、「所定の再生処理単位」は、バイトやビットといったデータの総量をいうものではなく、「フレーム」に対応する、時間のドメインにおける単位を表すものであることが明らかであり、また、上述したように、そもそも請求項における「所定の再生処理単位」を、PCM方式の非圧縮楽音データやADPCM方式の圧縮楽音データの「1サンプル」を含むものととらえることは失当である。

それゆえ、請求項1を引用する請求項4に記載の発明が、発明の詳細な説明に記載したものではないとすることはできない。

上記(3)の主張について
本件発明は、「曲の最後のフレームが規定数のサンプルを含まない場合にフレームの後部に無音部分が含まれることになる。このため、繰り返し再生において曲の終端部と先頭部との間に無音部分が生じてしまう問題があった。」(段落【0002】)ことを解決するための発明であって、「圧縮楽音データ」の後部に「ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データ」を配置することにより、課題を解決している。
請求項1を引用する請求項4には、圧縮楽音データが無音データを含まないことの明示的な記載がないが、例えば、ループ再生する一連の楽音の中に休符部分を含むもののように、仮に楽音データが無音部分を含むものであったとしても、そこに含まれる無音データと、フレームの最後の無音部分とはループ再生における意味が異なるものである。
すなわち、請求項1を引用する請求項4に記載の発明が、無音データを包含する圧縮楽音データ及び無音データからなるADPCM方式により圧縮された圧縮楽音データを包含するからといって、直ちに、請求項1を引用する請求項4に記載の発明が奏する効果を滅却するものではなく、請求項1を引用する請求項4に記載の発明が、発明の詳細な説明に記載されたものでないとすることはできない。

上記(4)の主張について
本件明細書の発明の詳細な説明には、楽音データの終了部のPCMデータの代わりにADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データを用いることに関して、具体的な適用方法は何ら記載されていない。
審判請求人は、請求項1の第1の読出手段は、ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データを記憶媒体から読み出すが、読み出し終了通知を発しないこと、ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データを伸張する第2のデコーダを備えること、第2のデコーダがADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データの伸張および出力が終了した時点で当該終了通知を発すること、制御手段は、圧縮楽音データの伸張および出力が終了した時点で第1の読出手段の出力に切り換えるのではなく第2のデコーダの出力に切り換える切り換え手段を設けること、といった構成の変更を行っていない請求項4は、「ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データ」の取扱が不明であると主張している。

審判請求人の主張は、要するに、PCMデータに代えてADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データを用いる際には、単に、前者を後者に置き換えるだけでは足らず、後者を用いるための構成が必要であるところ、発明の詳細な説明には、そのような構成は記載されていないため、請求項1を引用する請求項4に記載の発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないというものである。

しかし、ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データについては、その圧縮楽音データを伸張するデコーダが必要であることは、当業者にとって当たり前のことであり、本件の請求項1を引用する請求項4において、「前記切換手段を前記第1の読出手段の出力に切り換える第2手順」を実行する際に、「第1の読出手段」が出力するものは、ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データそのものではなく、これをデコーダによって伸張したデータであることは、当業者にとって自明のことであり、これに伴い、終了通知の発信時が、ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データの読み出し時ではなく、伸張及び出力が終了した時点であり、読出手段の出力に切り換えるのではなく、デコーダの出力に切り換えるといったことは、当業者にとって自明のことである。

それゆえ、請求項1を引用する請求項4に記載の発明が、発明の詳細な説明に記載した発明ではないとすることはできない。

第4-3 無効理由1(特許法第36条第6項第1号違反)の判断のまとめ
以上のとおりであるから、請求項1を引用する請求項4に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載されたものではないとすることはできない。


第5 無効理由2(特許法第36条第6項第2号違反)に対する判断
第5-1 請求人の主張する無効理由
請求人は、本件特許請求の範囲の記載が不明瞭であるとして、次の事項を主張している。

(1)楽音データの再生における所定の再生処理単位について
本件の特許請求の範囲の記載では、圧縮データがどのような圧縮方式に基づくものであるかの特定はなく、フレーム単位により圧縮、復号が行われるものであるのか否か何らの特定はないから、圧縮楽音データは、フレーム単位で圧縮処理・復号処理・再生処理を行うもの以外のものも包含している。このようなフレーム単位で圧縮処理・復号処理・再生処理を行うもの以外の圧縮楽音データにおいて「楽音データの再生における所定の再生処理単位」と規定しても、そのような圧縮楽音データについて、楽音データの再生における所定の再生処理単位は観念できないから、その技術的意義は不明瞭である。

特許請求の範囲に記載された「圧縮楽音データ」については、何らの限定をしていないから、MPEGや圧縮楽音データのようにフレーム単位で圧縮されるものに限定するものではない。

「フレーム」自体には単位がなく、ビットやバイトといったデータサイズの単位ではないので、「所定の再生処理単位」を「フレーム」であるとすることはできない。

「再生処理単位」のデータサイズが、所定数のサンプルを単位に圧縮した場合のデータサイズであるとするなら、楽音データの周波数成分の分布に応じて圧縮されるため、圧縮率は一定ではなく、フレーム単位の圧縮楽音データのデータサイズは一定ではない。そのため、複数フレームの楽音データを圧縮した圧縮楽音データのデータサイズは、圧縮楽音データのデータサイズが1フレームの圧縮楽音データのデータサイズの整数倍になるわけではない。

(2)ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データの読出手段及び同データの伸張処理手段について
本件の特許請求の範囲の記載には、ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データの読出手段及び同データの伸張処理手段の記載がなく、引用する請求項1の第1の読出手段及び圧縮楽音データのデコーダとの関係が不明であって、発明が明確であるとすることはできない。

第5-2 当審の判断
上記(1)の主張について
上記第4-2(2)で述べたように、本件の特許請求の範囲に記載された「楽音データの再生における所定の再生処理単位」は、実質的には「フレーム単位」であって、特許請求の範囲において「フレーム単位」と明記されないことをもって、発明が明確でないとすることはできない。

上記(2)の主張について
PCMデータ(非圧縮楽音データ)に代えてADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データを用いる際に、ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データを具体的にどのように取り扱うかについて、特許請求の範囲に明記はない。
しかし、ADPCM方式の再生処理技術自体は周知のものであって、請求項1に記載された発明は、「所定の再生処理単位」でしか取り扱えない圧縮楽音データと、「所定の再生処理単位」にかかわらずに取り扱える非圧縮楽音データとを組み合わせることで、圧縮楽音データの終端部に無音部分が生じないようにするものであって、当業者であれば、非圧縮楽音データが、ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データであっても、圧縮楽音データの終端部に無音部分が生じないようにするための構成がごく普通に想起されるものであるから、請求項1を引用する請求項4において、第1の読出手段及び圧縮楽音データのデコーダとの関係が不明であるとすることはできない。

第5-3 無効理由2(特許法第36条第6項第2号違反)の判断のまとめ
以上のとおりであるから、請求項1を引用する請求項4に記載された発明が明確ではないとすることはできない。


第6 無効理由3(特許法第36条第4項第1号違反)に対する判断
第6-1 請求人の主張する無効理由
請求人は、本件明細書の記載は不明瞭であるとして、次の事項を主張している。

請求項1の非圧縮楽音データをADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データに代替させてループ再生を実行させる請求項4において、引用する請求項1の非圧縮楽音データの読み出しをする第1の読出手段とADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データの読み出しをするための構成との関係がいかなるものであるのかが、発明の詳細な説明の記載において不明であり、また、ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データの伸張処理手段をどのような構成とし、引用する請求項1の圧縮楽音データのデコーダとの関係がいかなるものであるかが、発明の詳細な説明の記載において不明である。

すなわち、請求項1の第1の読出手段は、ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データを記憶媒体から読み出すが、読み出し終了通知を発しないこと、ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データを伸張する第2のデコーダを備えること、第2のデコーダがADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データの伸張および出力が終了した時点で当該終了通知を発すること、制御手段は、圧縮楽音データの伸張および出力が終了した時点で第1の読出手段の出力に切り換えるのではなく第2のデコーダの出力に切り換える切り換え手段を設けることが、発明の詳細な説明に記載されていないが、そのような事項が発明の詳細な説明に記載されていなければ、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないというものである。

第6-2 当審の判断
ADPCM方式の符号化・復号化(伸張処理)技術は周知のものであり、加えて、請求項1に記載の非圧縮楽音データに代えて、ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データを用いる際に、ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データを用いることによって、特別な工夫が必要となるものでもない。

また、請求項1に記載された発明は、「所定の再生処理単位」でしか取り扱えない圧縮楽音データと、「所定の再生処理単位」にかかわらずに取り扱える非圧縮楽音データとを組み合わせることで、圧縮楽音データの終端部に無音部分が生じないようにするものであって、当業者であれば、非圧縮楽音データに代えて、ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データを用いるようにした際に、圧縮楽音データの終端部に無音部分が生じないようにすることがごく普通に想起されるものであって、そのために、請求項1の第1の読出手段は、ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データを記憶媒体から読み出すが、読み出し終了通知を発しないこと、ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データを伸張する第2のデコーダを備えること、第2のデコーダがADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データの伸張および出力が終了した時点で当該終了通知を発すること、制御手段は、圧縮楽音データの伸張および出力が終了した時点で第1の読出手段の出力に切り換えるのではなく第2のデコーダの出力に切り換える切り換え手段を設けることについての明示的な記載がないからといって、当業者が本件発明の実施をすることができないとまではいえない。

第6-3 無効理由3(特許法第36条第4項第1号違反)の判断のまとめ
以上のとおりであるから、発明の詳細な説明の記載が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとすることはできない。


第7 無効理由4に対する判断
第7-1 甲各号証の記載事項
(1)甲第1号証(特開平2-146599号公報)
甲第1号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
なお、下線は当審において付した。

(ア)「〔産業上の利用分野〕
本発明は、例えば楽音信号等の音源データの圧縮符号化方法に関するものである。
〔発明の概要〕
本発明は、波形データを複数サンプル毎のブロック単位で圧縮データ・ワードと圧縮に関するパラメータとに圧縮符号化する音源データ圧縮符号化方法において、波形データの所定周期分を所定数の圧縮データ・ワードとパラメータを含む1または複数の圧縮符号ブロックに圧縮符号化してメモリ等の記憶媒体にストアし、1または複数の圧縮符号ブロックのうち少なくとも始めのブロックの始めの所定数ワードをストレートPCMとすることにより、音源データを再生する時のデコード処理の際に、始めのブロックのデータの非連続性に起因するエラーを、記憶媒体容量を増加させずに回避可能とするものである。」(第1頁左下欄第18行?同頁右下欄第16行)

(イ)「〔従来の技術〕
・・・(中略)・・・
このサンプラー音源においては、一般的に音源データ記憶用のメモリに大容量を要することから、メモリ節約のための手法が各種提案されており、例えば、楽音波形の周期性を利用したルーピング処理や、非線形量子化等によるビット圧縮処理がその代表的なものとして挙げられる。
ここで、ルーピング処理は、サンプリングされた楽音の元の持続時間よりも長い時間音を出し続けるための一手法でもある。すなわち、例えば-般の楽音信号波形を考えるとき、発音開始直後等の波形の周期性が不明瞭なフォルマント部分以外の部分においては、楽音の音程(ピッチ、音高)に対応する基本周期で同じ波形が繰り返し現れており、この繰り返し波形のn周期分(nは整数)をルーピング区間とし必要に応じて繰り返し再生することにより、少ないメモリ容量で長時間の持続音を得ることができるわけである。」(第1頁右下欄第17行?第2頁右上欄第6行)

(ウ)「〔発明が解決しようとする課題〕
ここで、ルーピング区間を持つ楽音信号に対して上記通常のオーディオPCM信号のビット圧縮処理を施すことを考えた場合、上述のルーピング区間の繰り返し波形の接続の際に問題が生ずる。
すなわち、ルーピング区間のルーピング開始点とルーピング終端点の値とは、互いに近い値が設定されるものの全く同じ値ではない。したがって、フィード・フォワード形のデータ圧縮方法では、ルーピング開始点とルーピング終端点の値に差がある場合、デコーダ側のIIRフィルタは過去の出力値(復元データ)をフィードバックして参照するので、ループの折り返し部分の非連続な点により、それ以後の出力にエラーが生じ、また、IIRすなわち巡回型のためその非連続な繋ぎ目が後々まで伝播されてしまうという問題がある。
・・・(中略)・・・
本発明は上述のような実情に鑑みて提案されたものであり、音源データの所定周期分(ルーピング区間)の始めの部分、特にルーピングの折り返し点(ルーピングポイント)での非連続性をなくすことができ、しかも記憶容最の増大を防ぐことが可能な音源データ圧縮符号化方法の提供を目的とするものである。」(第2頁右上欄第16行?同頁右下欄第5行)

(エ)「〔課題を解決するための手段〕
本発明は上述の目的を達成するためになされたものであり、所定周期分のアナログ波形に対応するディジタル・データを、所定数のサンプル毎のブロック単位で圧縮データ・ワードとその圧縮に関するパラメータとを生成し、所定数の圧縮データ・ワードとそのパラメータを含む1または複数の圧縮符号ブロックを構成して記憶媒体にストアする音源データ圧縮符号化法であって、上記1または複数の圧縮符号ブロックのうち少なくとも始めのブロックの始めの所定数ワードはストレートPCMのワードがストアされるようにしたことを特徴としている。
すなわち第1図において、ルーピング区間LPが上記アナログ波形の所定周期分に対応し、このルーピング区間LP内の始めの圧縮符号プブロックBLの始めの所定数のワードをストレートPCMワードW_(ST)としている。このストレートPCMワードW_(ST)の個数は、圧縮符号化の際のフィルタの次数以上とすればよい。」(第2頁右下欄第6行?第3頁左上欄第6行)

(オ)「〔作 用〕
本発明によれば、例えばルーピング区間に対応する所定周期分の波形データを圧縮符号化した1または複数の圧縮符号ブロックのうち少なくとも始めのブロックの始めの所定数ワードをストレートPCMのワードとすることにより、ルーピング処理のルーピングポイントの接続の際に、ルーピング開始点のデータとして上記ストレートPCMのワードをそのまま用いることができ、ルーピング終端点近傍のデータから予測する必要がなく、過去のデータによる影響を受けることがない。(第3頁左上欄第10行?同頁右上欄第1行)

(カ)「〔実施例〕
・・・(中略)・・・
先ず第2図は、サンプリング前のアナログ楽音信号波形の一例を示している。この第2図のアナログ波形からも明らかなように、一般の楽器音の発音開始直後においては、ピアノの打鍵ノイズや管楽器のブレスノイズ等の非音程成分が含まれることにより、波形の周期性が不明瞭な部分であるフォルマント部分FRが生じていることが多く、その後、楽音の音程(ピッチ、音高)に対応する基本周期で同じ波形が繰り返し現れるようになる。
この繰り返し波形の所定のn周期分(nは整数)をルーピング区間LPとし、この区間LPの始点及び終点をそれぞれルーピング開始点LPs及びルーピング終端点LPE(ルーピングポイント)と表している。そして上記フォルマント部分PR及びルーピング区間LPのアナログ波形に対応するディジタル・データを記憶媒体に記録し、再生時にはフォルマント部分FRの再生に続いてルーピング区間LPを繰り返し再生することにより、任意の長時間にわたって楽音を発生させることができる。
ここで、このようなルーピング区間LPを含む楽音データをメモリ等の記憶媒体にストアするに先立ってビット圧縮符号化することにより、データ量の低減を図るわけであるが、本実施例においては、本件出願人が先に特開昭61-158217号公報、特開昭62-008629号公報あるいは特開昭62-003516号公報等において提案しているビット圧縮符号化方式、すなわち波高値データの所定数のサンプル(hサンプル)毎にブロック化しこのブロック単位で最適のビット圧縮を施すような高能率符号化方式を用いるものとし、この高能率ビット圧縮符号化方式について、第3図を参照しながら概略的に説明する。」(第3頁右上欄第2行?同頁左下欄最終行)

(キ)「このような構成のビット圧縮符号化システムにおいて、上記第2図のルーピング区間LPのルーピング開始点LPsから始まるブロック(ルーピング開始ブロック)の最初の所定数のワードを、第1図に示すように、ストレートPCMデータのワードW_(ST)とする。この所定数としては、上記エンコード・フィルタ74の次数(予測フィルタの次数)の最大値と同じかあるいはそれ以上とすればよく、上記具体例ではエンコード・フィルタ74の最大次数が2次であるから、2個以上のストレートPCMデータのワードW、Tを配置するようにすればよい。
このためには、例えばエンコード出力端子82の直前に切換スイッチを設け量子化器76からの圧縮データとストレートPCMデータとを切換選択して出力可能と成し、上記ルーピング開始点LPsからの上記所定数ワードの間は上記切換スイッチによりストレートPCMデータを選択して出力するように構成すればよい。」(第5頁左下欄第2行?第19行)

(ク)「この第5図において、メモリ1には、上記圧縮符号化されたサンプル・データやパラメータ情報(第4図のヘッダ情報RF、付属情報)等(音源データ)が記憶されており、さらにルーピング開始アドレス(上記ルーピング開始ブロックのメモリ内アドレス)等も例えばディレクトリ情報として記憶されている。この少なくともルーピング開始アドレスは、メモリ1のデータバスを介してアドレス・レジスタ2に送られて一時記憶され、ルーピングの終了直前にアドレス・カウンタ3にプリセットされるようになっている。デコーダ4はアドレス・カウンタ3からの出力及び上記ループ・スタート・フラグLSFに応じて、上記ルーピング開始ブロック内の始めの上記所定数ワードの間(ストレートPCMデータが出力される間)ストレートPCM切換制御信号を出力するものである。」(第5頁右下欄第10行?第6頁左上欄第6行)

(ケ)「データ・レジスタ6に一時記憶された上記圧縮データは、上記第3図のデコーダ90のシフタ92に対応するデコーダ20のビットシフト回路7に送られ、このビットシフト回路7からの出力はマルチプレクサ8を介して第3図の加算器93に対応する加算器10に送られる。加算器IOからの出力は、出力レジスタ16に送られると共に、第3図の予測器94に対応する予測器21に送られ、この予測器21からの出力が加算器lOにフィードバンクされる。予測器21は、2個の遅延レジスタ14、15と、これらの遅延レジスタ14、15からの出力に係数を乗算する係数乗算器12、13と、これらの係数乗算器12、13からの出力を加算する加算器11とから成り、係数乗算器12.13の各乗算係数は係数発生回路9により決定されるようになっている。この予測器21、加算器10及びビットシフト回路7により、上記ビット圧縮符号化データを復号するデコーダ20が構成される。」(第6頁右上欄第9行?同頁左下欄第7行)

(コ)「ここで、ルーピング再生を行っている場合に、ルーピング終端点からルーピング開始点に戻るときの動作について説明する。ルーピング終端点を含むブロックの音源データを読み出している際には上記付属情報のループ・エンド・フラグLEFが立ち、このループ・エンド・フラグLEFに基づいてルーピング開始点に達した時点でアドレス・レジスタ2からのルーピング開始アドレスをアドレス・カウンタ3にプリセットする。従って、アドレス・カウンタ3はアドレスバスを介してメモリ1のルーピング開始ブロックをアクセス開始し、上記始めの所定数のワードは上記ストレートPCMデータを読み出す。
このストレートPCMデータを読み出している間は、デコーダ4が前記ストレートPCM切換制御信号を出力してマルチプレクサ8及び係数発生回路9に送り、このストレートPCMデータをそのまま出力レジスタ16に送るような制御がなされる。すなわち、マルチプレクサ8はメモリ1からの上記ストレートPCMデータを選択して出力し、係数発生回路9は0次のフィルタを構成するような乗算係数を係数乗算器12、13に送るから、加算器10からの出力には上記ストレートPCMデータがそのまま得られることになる。
従って、ルーピング開始点でのデータとしては上記ストレートPCMデータがそのまま用いられるため、ルーピング終端点でのデータから予測する必要がなく、ルーピングポイントでの不連続性に起因するエラー発生を有効に防止できる。
この場合の音源データとしては、通常の圧縮符号化方法に比べて、ルーピング開始点LPs部分のストレートPCMデータの分が増加するだけで、圧縮率は全体として殆ど変わらないため、メモリ容量の増大を抑えることができる。」(第6頁右下欄第2行?第7頁左上欄第10行)

(サ)「〔発明の効果〕
・・・(中略)・・・メモリ等の記憶媒体の容量の増大を招くことなく、ルーピングの折り返し点の不連続性によるエラー発生を予防でき、ルーピングノイズ等の発生しない楽音再生が可能となる。」(第7頁右下欄第18行?第8頁左上欄第12行)

(シ)以上を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲第1号証発明」という。)が記載されている。
「ルーピング区間に対応する所定周期分の波形データを圧縮符号化した1または複数の圧縮符号ブロックのうち少なくとも始めのブロックの始めの所定数ワードをストレートPCMのワードとすることにより、ルーピング処理のルーピングポイントの接続の際に、ルーピング開始点のデータとして上記ストレートPCMのワードをそのまま用いることができ、ルーピング終端点近傍のデータから予測する必要がなく、過去のデータによる影響を受けることがないようにしたものであって、
メモリ1に圧縮符号化されたサンプル・データ等が記憶されており、
デコーダ4がアドレス・カウンタ3からの出力及びループ・スタート・フラグLSFに応じて、ルーピング開始ブロック内の始めであって、ストレートPCMデータが出力される間の上記所定数ワードの間、ストレートPCM切換制御信号を出力するものであり、
ループ・エンド・フラグLEFに基づいてルーピング開始点に達した時点でアドレス・レジスタ2からのルーピング開始アドレスをプリセットされるアドレス・カウンタ3によってアドレスバスを介してメモリ1のルーピング開始ブロックをアクセス開始し、上記始めの所定数のワードは上記ストレートPCMデータを読み出すものであり、
このストレートPCMデータを読み出している間は、デコーダ4が前記ストレートPCM切換制御信号を出力してマルチプレクサ8及び係数発生回路9に送り、このストレートPCMデータをそのまま出力レジスタ16に送るような制御がなされ、マルチプレクサ8はメモリ1からの上記ストレートPCMデータを選択して出力するものであり、
圧縮データとストレートPCMデータとを切換選択して出力可能と成し、上記ルーピング開始点LPsからの上記所定数ワードの間は上記切換スイッチによりストレートPCMデータを選択して出力するものであり、
ルーピング開始点でのデータとしては上記ストレートPCMデータがそのまま用いられるため、ルーピング終端点でのデータから予測する必要がなく、ルーピングの折り返し点の不連続性によるエラー発生を予防でき、ルーピングノイズ等の発生しない楽音再生できる音源データ圧縮符号化装置。」

(2)甲第3号証(国際公開99/59133号)
甲第3号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(ス)「技術分野
本発明は楽音生成装置および方法、提供媒体、並びに、データ記録媒体に関し、特に、1つの楽音を生成するデータの先頭部分を伸張する際にかかる時間が少ない圧縮方法が用いられ、または圧縮がされず、その他の部分に高圧縮方法を用いて圧縮された楽音データを用い、そのデータの先頭部分が伸張処理され、発音されている間に、その他の部分が処理されるようにすることにより、所定の楽音が発音要求されてから、発音されるまでの遅延時間が、使用者に認識されないようにした楽音生成装置および方法、提供媒体、並びに、データ記録媒体に関する。」(第1頁第3行?第11行)

(セ)「背景技術
・・・(中略)・・・
また、電子楽器やゲーム機などでは、同時に複数の楽音が発音要求される場合があり、そのような場合にATRAC2などの処理の負荷が重い圧縮方法を用いられていた場合、即座に全ての楽音が生成できない(発音できない)という課題があった。
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、1つの楽音を生成するためのデータのうち先頭部分とその他の部分とで、異なる圧縮方法を用いて圧縮された楽音データを用いることにより、または、伸張処理されたデータのうち、一部を記憶するようにすることにより、発音要求から発音されるまでの遅延時間をなくし、かつ、高効率符号化音声圧方式を用いることができるようにするものである。」(第1頁第12行?第2頁第23行)

(ソ)「第1に記載の楽音生成装置は、圧縮されていないか、または伸張処理に要する時間が短い第1の圧縮方法により圧縮された第1のデータと、第1の圧縮方法より伸張処理に要する時間が長い第2の圧縮方法により圧縮された第2のデータから構成される楽音データを読み出す読み出し手段(例えば、第6図のステップS1)と、読み出し手段により読み出されたデータのうち、第1のデータを必要に応じ伸張して出力する第1の出力手段(例えば、第6図のステップS6)と、第2のデータを伸張して出力する第2の出力手段(例えば、第6図のステップS7)とを備えることを特徴とする。」(第6頁第8行?第16行)

(タ)「上述した説明では、非圧縮のデータと高圧縮のデータを用いたが、非圧縮のデータの代わりに、低圧縮のデータを用いても良い。ここで、非圧縮または低圧縮と、高圧縮という記述についてだが、非圧縮または低圧縮は、伸張処理を施すのに要する時間が少ない圧縮であり、高圧縮は、その逆に伸張処理を施すのに要する時間が長い圧縮という意味で用いている。従って、本明細書中においては、高圧縮でも伸張処理の際に要する時間を少ない圧縮については、非圧縮または低圧縮と記述している。」(第15頁第2行?第8行)

(チ)「請求の範囲
1.圧縮されていないか、または伸張処理に要する時間が短い第1の圧縮方法により圧縮された第1のデータと、前記第1の圧縮方法より伸張処理に要する時間が長い第2の圧縮方法により圧縮された第2のデータから構成される楽音データを読み出す読み出し手段と、
前記読み出し手段により読み出されたデータのうち、前記第1のデータを必要に応じ伸張して出力する第1の出力手段と、
前記第2のデータを伸張して出力する第2の出力手段と、
を備えることを特徴とする楽音生成装置。」

第7-2 対比
甲第1号証発明は、楽音データについて、圧縮符号ブロックのうち少なくとも始めのブロックの始めの所定数ワードをストレートPCMのワードとするものであるから、圧縮符号ブロックは、ストレートPCMワードと、これに続く圧縮データとから構成されており、メモリ1に記憶されたストレートPCMデータと圧縮データとを読み出して楽音を再生する装置である。
ここで、甲第1号証発明の「メモリ1」は、本件発明の「記憶媒体」に相当し、甲第1号証発明の「圧縮データ」は、本件発明の「圧縮楽音データ」に相当し、甲第1号証発明の「ストレートPCMデータ」は、本件発明の「ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データ」に対応するものであり、甲第1号証発明の「ストレートPCMデータ」も、本件発明の「ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データ」も、ともに読み出しに要する時間が、「圧縮楽音データ」を伸張するほどには要しない“圧縮楽音データでない楽音データ”である点で共通する。

また、圧縮楽音データを元に戻す処理を、甲第1号証発明においては「伸張」といい、本件発明においては「復号」といっているが、両者に実質的な相違はない。

甲第1号証発明は、ストレートPCMデータを読み出している間は、上記ストレートPCMデータをそのまま出力レジスタに送り、圧縮データと上記ストレートPCMデータとを切換選択して出力するものであるから、明記はないものの、上記ストレートPCMデータの読み出しを終了した時点で読み出し終了通知を出力する機能を備えた手段、すなわち、本件発明の「第1の読出手段」に相当する手段を実質的に備えているものと認められる。

甲第1号証発明の「デコーダ4」は、本件発明の「デコーダ」に相当する。
そして、甲第1号証発明は、記憶媒体から読み出した圧縮符号化された楽音データを伸張して出力するものであるから、明記はないものの、本件発明の「第2の読出手段」に相当する手段を実質的に備えているものと認められる。

甲第1号証発明の「マルチプレクサ8」は、圧縮データとストレートPCMデータとを切換選択して出力するものであるから、本件発明の「切換手段」に相当する。

上記したように、甲第1号証発明は、「第1の読出手段」に相当する手段、「第2の読出手段」に相当する手段、「切換手段」に相当する手段を備えるものであって、それゆえ、それらを制御する「制御手段」は、自ずと備えているものと認められる。
甲第1号証発明は、この「制御手段」により、楽音データをループ再生させるものであるから、本件発明と甲第1号証発明とは、ループ再生指示を受けて、「圧縮楽音データ」と、“圧縮楽音データでない楽音データ”とを順に読み出してループ再生させるものである点で共通する。

したがって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりと認められる。

[一致点]
「圧縮楽音データと圧縮楽音データでない楽音データとから構成される楽音データが記憶された記憶媒体から圧縮楽音データと、圧縮楽音データでない楽音データとを読み出して再生する楽音データ再生装置であって、
前記記憶媒体から前記圧縮楽音データでない楽音データを読み出すとともに、前記圧縮楽音データでない楽音データの読み出しを終了した時点で読み出し終了通知を出力する第1の読出手段と、
前記記憶媒体から前記圧縮楽音データを読み出す第2の読出手段と、
前記第2の読出手段によって読み出された圧縮楽音データを伸張して出力するデコーダと、
前記第1の読出手段の出力と前記デコーダの出力とを切り換える切換手段と、
前記第1の読出手段、前記第2の読出手段、および前記切換手段を制御する制御手段とを具備し、
前記制御手段は、ループ再生指示を受けて、前記楽音データをループ再生させる
ことを特徴とする楽音データ再生装置。」

[相違点1]
本件発明は、楽音データが、圧縮楽音データとADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データとから構成され、前記楽音データを、前記圧縮楽音データ、前記ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データの順に読み出して再生するのに対して、
甲第1号証発明は、楽音データが、圧縮楽音データとストレートPCMデータとから構成され、前記楽音データを、前記ストレートPCMデータ、前記圧縮楽音データの順に読み出して再生するものであって、これに伴い、ループ再生指示を受けて実行する第1手順、第2手順の順序が本件発明とは異なる点。

[相違点2]
本件発明は、圧縮楽音データが、楽音データの再生における所定の再生処理単位の整数倍のデータサイズを有するのに対して、
甲第1号証発明は、圧縮楽音データが、楽音データの再生における所定の再生処理単位の整数倍のデータサイズを有するものにはなっていない点。

第7-3 判断
[相違点1]について
本件発明は、「圧縮楽音データをゲーム機において使用する場合、例えばMPEGは1152サンプル、AACは1024サンプルを1フレームとし、このフレーム単位で再生処理を行うようになっているので、曲の最後のフレームが規定数のサンプルを含まない場合にフレームの後部に無音部分が含まれることになる。このため、繰り返し再生において曲の終端部と先頭部との間に無音部分が生じてしまう問題」(本件明細書段落【0002】)を解決するために、「無音部分を作ることなくループ再生を行うことができる楽音データ再生装置を提供する」(本件明細書段落【0003】)ものである。

一方、甲第1号証発明は、「発音開始直後等の波形の周期性が不明瞭なフォルマント部分以外の部分においては、楽音の音程(ピッチ、音高)に対応する基本周期で同じ波形が繰り返し現れており、この繰り返し波形のn周期分(nは整数)をルーピング区間とし必要に応じて繰り返し再生することにより、少ないメモリ容量で長時間の持続音を得る」(上記(イ))際に、「ルーピング区間のルーピング開始点とルーピング終端点の値とは、互いに近い値が設定されるものの全く同じ値ではない。したがって、フィード・フォワード形のデータ圧縮方法では、ルーピング開始点とルーピング終端点の値に差がある場合、デコーダ側のIIRフィルタは過去の出力値(復元データ)をフィードバックして参照するので、ループの折り返し部分の非連続な点により、それ以後の出力にエラーが生じ、また、IIRすなわち巡回型のためその非連続な繋ぎ目が後々まで伝播されてしまうという問題がある。」(上記(ウ))ので、「音源データの所定周期分(ルーピング区間)の始めの部分、特にルーピングの折り返し点(ルーピングポイント)での非連続性をなくすことができ、しかも記憶容最の増大を防ぐことが可能な音源データ圧縮符号化方法の提供を目的とする」(上記(ウ))とするものである。

このように、本件発明と甲第1号証発明とは、そもそも課題を異にするものであり、楽音データの読み出し順が異なるのも、課題が異なることによるものである。
それゆえ、甲第1号証発明に接した当業者にとって、楽音データの読み出し順を変えようとする動機が何ら生じないものであるから、甲第1号証発明における楽音データの読み出し順を本件発明における楽音データの読み出し順のように変更することが容易になし得たものとすることはできない。

審判請求人は、本件発明において、ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データの読み出し後は、圧縮楽音データ、ADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データの順に読み出す点では一致すると主張している。
しかし、ループ再生している状態にあっても、楽音データ自体は、圧縮楽音データと、これに続くADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データとによって、ひとまとまりのデータとして構成されている点は変わらないものであり、本件発明と甲第1号証発明とは、ループ再生される楽音データの先頭が圧縮楽音データとなるかADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データになるかが相違し、同様に、楽音データの最後が圧縮楽音データとなるかADPCM方式によって圧縮された圧縮楽音データになるかも相違するものであって、審判請求人の主張を採用することはできない。

[相違点2]について
甲第1号証において、上記(エ)及び第1図を参照すれば、(i)ルーピング区間LPがアナログ波形の所定周期分に対応すること、(ii)ルーピング区間LP内の初めの圧縮符号ブロックBLの始めの所定数のワードをストレートPCMワードWSTとすることが記載されている。
上記(i)を補足すれば、甲第1号証発明の目的は、「音源データの所定周期分(ルーピング区間)の始めの部分、特にルーピングの折り返し点(ルーピングポイント)での非連続性をなくすこと」(第2頁左下欄最下行?同頁右下欄第3行)であるから、ルーピング区間は、音源データの周期に対して、該音源データの波形レベルで連続してつながるように関連付けられたものであって、そもそも、本件発明が課題とするような、無音部分が生じる余地がないものである。

上記(i)によれば、ルーピング区間LPは、入力されたアナログ波形の周期に基づくものであって、予め決められた所定の周期を持つものではないものであり、上記アナログ波形の周期が変われば、これに応じて変わる周期を持つものであるといえるので、甲第1号証発明における圧縮楽音データのデータサイズが、楽音データの再生における所定の再生処理単位の整数倍のデータサイズを有しているものであるとすることはできない。

この点に関して、審判請求人は、甲第1号証発明におけるADPCM方式の楽音データの1サンプルが、本件発明における「所定の再生処理単位」に相当すると主張している。
しかし、仮に、そうであるとするならば、1サンプルはそれ以上に細分化できないものであるから、1サンプルの中に無音データが入り込む余地はないので、審判請求人が主張するように、甲第1号証発明におけるADPCM方式の楽音データの1サンプルを、本件発明における「所定の再生処理単位」に相当するものととらえることはできない。

また、上記(ii)によれば、甲第1号証発明における圧縮符号ブロックBLの始めの所定数のワードはストレートPCMワードであって、圧縮データではなく、かつ、該ストレートPCMワードが「所定の再生処理単位」に対応するものでもない。
ここで、上記第4-2に記したように、「所定の再生処理単位」は、「フレーム」に対応する、時間のドメインにおける単位である。
そうすると、仮に、甲第1号証において、圧縮符号ブロックBLが「所定の再生処理単位」に対応するものであるとしても、前記ストレートPCMワードは「所定の再生処理単位」に対応するものではないから、前記圧縮符号ブロックBLから前記ストレートPCMワードを除いた残りの圧縮データ、すなわち、「所定の再生処理単位」の整数倍のデータから、「所定の再生処理単位」に対応したものではないストレートPCMワードのデータを減じたものが、「所定の再生処理単位」に対応したものとすることはできない。
また、そうでなくとも、甲第1号証発明において、圧縮符号ブロックBLから前記ストレートPCMワードを除いた残りの圧縮データが、楽音データの再生における所定の再生処理単位の整数倍のデータサイズを有しているとする根拠を見いだすことはできない。

以上のとおり、本件発明と甲第1号証発明とは、そもそも発明が解決しようとする課題が異なるものであるから、甲第3号証に記載された発明を組み合わせようとする動機付けが何ら生じないものである。

加えて、甲第3号証にも、「繰り返し再生において曲の終端部と先頭部との間の無音部分が生じてしまうという問題」を解決するために、「無音部分を作ることなくループ再生を行うことができる楽音データ再生装置を提供する」という、本件発明の課題は開示されておらず、甲第3号証発明は、ストレートPCMデータ、圧縮楽音データの順に読み出して再生するものでもない。

そうすると、甲第1号証発明に甲第3号証に記載された発明を組み合わせたとしても、本件発明を想到することができたとすることはできない。

第7-4 無効理由4の判断のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明が、甲第1号証および甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。


第8 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件発明に係る特許は、無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2011-03-30 
出願番号 特願2004-97383(P2004-97383)
審決分類 P 1 123・ 121- Y (G10H)
P 1 123・ 537- Y (G10H)
P 1 123・ 536- Y (G10H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 板橋 通孝  
特許庁審判長 吉村 博之
特許庁審判官 千葉 輝久
加藤 恵一
登録日 2007-02-23 
登録番号 特許第3918826号(P3918826)
発明の名称 楽音データ再生装置  
代理人 大場 弘行  
代理人 山田 徹  
代理人 船橋 茂紀  
代理人 辻本 恵太  
代理人 大橋 厚志  
代理人 田中 成志  
代理人 内藤 義三  
代理人 遠山 光貴  
代理人 森 修一郎  
代理人 西山 彩乃  
代理人 大友 良浩  
代理人 飯田 秀郷  
代理人 飯塚 義仁  

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