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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B62B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B62B
管理番号 1266932
審判番号 不服2012-3036  
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-02-16 
確定日 2012-11-30 
事件の表示 特願2008- 10217「手押し運搬車のブレーキ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 7月30日出願公開、特開2009-166800〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,平成20年1月21日の出願であって,平成23年11月24日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成24年2月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2.原査定
原査定における拒絶の理由は,以下のとおりのものと認める。
「この出願の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
1.特開平9-207786号公報
2.特開2004-131001号公報
3.特開2007-8239号公報
上記刊行物のうち,特開平9-207786号公報を,以下「引用例1」といい,特開2007-8239号公報を,以下「引用例2」という。

第3.平成24年2月16日付け手続補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年2月16日付け手続補正(以下「本件補正」という)を却下する。

[理由]
1.本件補正の概要
本件補正は,平成23年7月20日付けで補正された特許請求の範囲をさらに補正するもので,請求項1については,補正前に
「荷台に取付けた車輪枠の一対の側部片にディスクホイールとゴムタイヤで成る車輪を車軸で転動自在に軸支した手押し運搬車において,前記ディスクホイールの片面に間隙を存して重ね合わせて取付けて前記車輪を構成する係止板と,該係止板に前記車軸を中心とする同心円上にして並設した多数の円形の係止孔と,該係止孔を係離する丸棒状の規制杆が係合する方向に付勢するコイルばねと,前記係止板に相対し,しかも,前記車輪枠の一方の側部片の表面に設けて,前記規制杆を前記係止板方向に移動自在に受支する装置基枠および前記コイルばねに抗して前記規制杆を前記係止孔から離脱させる駆動ハンドルとで成る,手押し運搬車のブレーキ装置。」
とあるのを

「荷台に取付けた車輪枠の一対の側部片にディスクホイールとゴムタイヤで成る車輪を車軸で転動自在に軸支した手押し運搬車において,前記ディスクホイールの片面に間隙を存して重ね合わせて取付けて前記車輪を構成する係止板と,該係止板に前記車軸を中心とする同心円上にして並設した多数の円形の係止孔と,該係止孔を係離する丸棒状の規制杆が前記車軸に沿って係合する方向に付勢するコイルばねと,前記係止板に相対し,しかも,前記車輪枠の一方の側部片の表面に設けて,前記規制杆を前記係止板方向に移動自在に受支する装置基枠および前記コイルばねに抗して前記規制杆を前記係止孔から離脱させる駆動ハンドルとで成る,手押し運搬車のブレーキ装置。」
と補正するものである。

請求項1の補正は,規制杆が係合する方向について,「車軸に沿って」との限定を付したものである。そして,請求項1の補正が,産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものでないことは明らかである。
したがって,少なくとも請求項1の補正は,平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。

2.引用刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である引用例1には,手押し運搬車の停止装置に関し,図面とともに次の事項が記載されている。

1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】荷台に取付けたキャスター枠の一対の側部片に車輪を転動自在に軸支した手押し運搬車において,キャスター枠の一方の側部片と該側部片に並べて荷台に取付けた支持片に架設した規制杆と,該規制杆を車輪のホイール部に交差するように付勢する押圧スプリングと,この押圧スプリングの付勢に抗して規制杆を前記ホイール部から後退させる作動片および作動片を駆動する駆動レバーとで成る手押し運搬車の停止装置。」

1b)「【0010】実施例の手押し運搬車Aは,荷台1の下面の先端側に一対の自在キャスター2,2を,後端側に一対の固定キャスター3,3を取付け,荷台1の上面の後端側に一対の側杆部4a,4a間に把手杆部4bを水平方向に架設して成る把手枠4を起伏自在に取付けて構成し,固定キャスター3のそれぞれを,取付部片5bと該取付部片5bの両端に配して相対設した一対の側部片5a,5a′から成るキャスター枠5の側部片5a,5a′に車軸6を架設し,この車軸6にスポーク型の車輪7を転動自在に軸支させて構成して,固定キャスター3側に本発明を適用したものである。
【0011】なお,固定キャスター3を構成する車輪7(自在キャスター2側は本発明の実施に直接影響ないので説明を省略)は本体7aに踏面を構成するゴム製リング7bを組付け,本体7aにスポーク部8を設け,該スポーク部8,8間を規制杆9が出入する間隙10としたものである。
【0012】固定キャスター3は,荷台1に固着したナット材11にボルト12を螺合締め付けてキャスター枠5の取付部片5bにおいて荷台1に取付け,ボルト12による取付部片5bの螺合締付けと一緒に,キャスター枠5の一方の側部片5a側に該側部片5aと並べて配した支持片13を,部片13aにおいて荷台1に取付けてある。
【0013】この支持片13と前記側部片5aのそれぞれには互いに一致し,しかも,車輪7の前記スポーク部8,8間の間隙10と対応するようにして支持孔14,14′を設け,該支持孔14,14′に貫通させるようにして前記規制杆9を支持片13とキャスター枠5の一方の側部片5aに架設してある。
【0014】規制杆9は,側部片5aの支持孔14を貫通させて側部片5aより車輪7側に突出させた先端側を丸くして車輪7の間隙10に係合し易くし,側部片5aと支持片13との間の中間部の側部片5a側に係止部片9aを突設し,また,支持孔14′を通じて支持片13より突出する後部に部分的に小径にした頸部15を設けて構成したもので,側部片5aと支持片13との間の中間部に押圧スプリング16を該中間部に巻回させて配して,押圧スプリング16の一端側を支持片13に,他の一端側を係止部片9aに係止させて,この押圧スプリング16の付勢によって規制杆9の丸みの有る先端部9′は車輪7のスポーク部8間に介在,すなわち間隙10に係合する位置に配するようにしてある。
【0015】支持片13より突出する規制杆9の後部に設けた前記頸部15には,作動片に設けた切欠18を係合し,この切欠18を構成する作動片17の分岐部片17′,17′が規制杆9の後端部に係止して規制杆9を前記押圧スプリング16の付勢に抗して強制的に車輪7部から後退させ,規制杆9の先端部9′を間隙10部位置より外すようになっている。」

1c)「【0020】しかして,支持片13と係止部片9a間に介在させた押圧スプリング16の付勢によって規制杆の先端部9′は車輪7のスポーク部8,8間すなわち間隙10に介在し,このため,把手枠4の把手杆部4bを指先で握って運搬車Aを移動させようとしても,規制杆9の間隙10への係合により車軸6を中心とする車輪7の転動は規制され,自在キャスター2側が自由な状態であっても,固定キャスター3側が動きを規制されるため,手押し運搬車Aは停止状態におかれるのである。
【0021】そして,この停止状態時に,駆動レバー23を回動させると(図3の実線で表わした位置から鎖線で表わした位置方向へと),該回動に伴って牽引ワイヤー21は引張られ,この結果,押圧スプリング16の付勢に抗して,作動片17は軸杆部19を中心にして回動して(図2の実線で表わした位置から鎖線で表わした位置へと),該作動片17の分岐部片17′,17′は規制杆9を引張り(頸部15と切欠18の係合関係により),規制杆9の先端部9′は間隙10から外れて車輪7位置から後退し,規制杆9で転動を規制されていた車輪7は転動可能状態となり,この状態を駆動レバー23を操作しつつ維持させて運搬車Aを移動させ,駆動レバー23を指先より離すことにより,規制杆9が原位置に復帰して運搬車Aは停止状態となるのである。」

1d)「【0023】実施例のものは,本発明を荷台に取付けたキャスター枠の一対の側部片にスポーク型の車輪を転動自在に軸支した手押し運搬車に適用し,スポーク部間の間隙に規制杆を係合するようにして車輪の転動を規制するようにしているが,車輪は必ずしもスポーク型に限らず,規制杆が車輪のホイール部を貫くなどしてホイール部と交差する位置に配せられる構造のものであれば良い。」

1e)図1,2を参照すると,規制杆9が,丸棒状であり,車軸6に沿った方向に移動することが看取できる。

1f)図2を参照すると,押圧スプリング16がコイル状であることが看取できる。

上記記載事項1a?1f及び図面の記載によれば,引用例1には以下の発明が記載されているといえる(以下「引用発明」という。)。
「荷台1に取付けたキャスター枠5の一対の側部片5a,5a′に車輪7を転動自在に軸支した手押し運搬車において,キャスター枠5の一方の側部片5aと該側部片5aに並べて荷台1に取付けた支持片13に架設した規制杆9と,該規制杆9を車輪7のホイール部に交差するように付勢する押圧スプリング16と,この押圧スプリング16の付勢に抗して規制杆9を前記ホイール部から後退させる作動片17および作動片17を駆動する駆動レバー23とで成り,前記キャスター枠5は,荷台1に固着したナット材11にボルト12を螺合締め付けてキャスター枠5の取付部片5bにおいて荷台1に取付け,ボルト12による取付部片5bの螺合締付けと一緒に,支持片13を荷台1に取付けてあり,前記車輪7は,本体7aに踏面を構成するゴム製リング7bを組付け,本体7aにスポーク部8を設け,該スポーク部8,8間を規制杆9が出入する間隙10とし,前記規制杆9は丸棒状であって,車軸6に沿った方向に移動し,前記押圧スプリング16はコイル状であり,前記押圧スプリング16の付勢によって規制杆9の先端部9′は車輪7の間隙10に介在し,規制杆9の間隙10への係合により車軸6を中心とする車輪7の転動は規制され,駆動レバー23を回動させると,押圧スプリング16の付勢に抗して,規制杆9の先端部9′は間隙10から外れて車輪7位置から後退し,規制杆9で転動を規制されていた車輪7は転動可能状態となる手押し運搬車の停止装置。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である引用例2には,軌道走行可能な作業車両に関し,図面とともに次の事項が記載されている。

2a)「【0001】
本発明は,軌道(鉄道用レール)上を走行可能な多目的作業車両に関し,より詳細にはエンジントラブル等によって鉄道用レール上で動かなくなった作業車両を,迅速に移動できるようにする技術に関する。」

2b)「【0049】
一方,前記アーム29の先端近傍,本実施例では,後方のガイド輪4R・4R近傍には,ガイド輪ロック機構90を取り付けて,前記手動操作用ハンドル87の把持部87bに設けた操作手段により,ロック・解除操作可能に構成している。
ガイド輪ロック機構90は,前記車軸40Rに固定したロックホイル92と,ボス29Raに左右摺動可能に取り付けたロックピン91からなり,該ロックピン91はワイヤ28を介して操作手段と接続される。
【0050】
即ち,図16に示すように,ガイド輪4Rの機体内側の車軸40R上にロックホイル92が固設され,該ロックホイル92の同一半径上には所定角度ごとにピン孔93・93・・・が開口されて,ロックピン91を挿入可能に設けている。該ロックピン91は平面視コの字型のブラケット94に左右摺動自在に支持され,該ブラケット94内のロックピン91外周上には圧縮バネ95が外嵌されて,該ロックピン91をロックホイル92側へ付勢する構成としている。こうして,通常はロックピン91はピン孔93に嵌入するようにして,ガイド輪4Rが回転しないようにロックしている。
また,前記ブラケット94は,アーム29R先端のボス29Raに固設した取付ブラケット96にボルト97・97で着脱可能に取り付けている。
前記ガイド輪ロック機構90を操作する操作手段として操作レバー24が,前記手動操作用ハンドル87に取り付けられている。
【0051】
このような構成において,非常時に本機を移動させようとする場合,ガイド輪ロック機構90と手動操作用ハンドル87を取り付けて,ロックピン91をピン孔93に挿入してガイド輪4R・4Rを固定した状態する。
そして,ジャッキ72・72を左右の第二の昇降リンク82F・82R間に取り付け,連結ボルト70・70・70・70を外す。この状態でジャッキハンドル81を回動して,アーム29F・29Rを下方に回動させてクローラ式走行装置3を持ち上げる。
この状態で手動操作用ハンドル87に設けたレバー24を握ると,ワイヤ28が引っ張られて,ロックピン91がバネ95の付勢力に抗してロックホイル92の孔93から抜けて,ガイド輪4R・4Rのロックが解除されてフリーとなり,手動操作用ハンドル87を持って押すことにより,ガイド輪4F・4F,4R・4Rにより所望の方向に移動可能となるのである。レバー24を離すことで,圧縮バネ95がロックピン91を押してピン孔93内に入り,ロックピン91はもとの位置に戻され,ガイド輪4Rは再びロックされる。
【0052】
すなわち,ガイド輪ロック機構90は,レバー24を握っているとき以外はガイド輪4Rをロックした状態に保ち,レバー24を握っているときにのみ,ガイド輪4Rのロック状態を解除するものである。こうして作業者が手動操作用ハンドル87を握っている時以外は動かすことができず,誤って傾斜地等で自重により自然移動することを防止している。」

2c)図16を参照すると,ガイド輪4Rとロックホイル92との間には間隙を有することが看取できる。

2d)図17を参照すると,ピン孔93が円形であることが看取できる。

3.対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「荷台1」,「キャスター枠5」,「一対の側部片5a,5a′」,「ゴム製リング7b」,「車輪7」,「規制杆9」,「駆動レバー23」及び「手押し運搬車の停止装置」は,それぞれ本願補正発明の「荷台」,「車輪枠」,「一対の側部片」,「ゴムタイヤ」,「車輪」,「規制杆」,「駆動ハンドル」及び「手押し運搬車のブレーキ装置」に相当する。
引用発明の「スポーク部8」と本願補正発明の「ディスクホイール」とは,車輪の「ホイール」である点において共通する。
引用発明の間隙10は,規制杆9と係合し,駆動レバー23の回動によりその係合が外れるものであるから,本願補正発明の「係止孔」に相当する。
引用発明において,押圧スプリング16は,その形状がコイル状であり,規制杆9は丸棒状であって,車軸に沿った方向に移動するのであるから,引用発明は,本願補正発明における「係止孔を係離する丸棒状の規制杆が車軸に沿って係合する方向に付勢するコイルばね」との要件を備える。
引用発明において,規制杆9は,支持片13に架設されて移動するのであるから,引用発明は,本願補正発明における「規制杆を移動自在に受止する装置基枠」との要件を備える。

以上のことから,本願補正発明と引用発明は,本願補正発明の表記にできるだけしたがえば,
「荷台に取付けた車輪枠の一対の側部片にホイールとゴムタイヤで成る車輪を車軸で転動自在に軸支した手押し運搬車において,係止孔と,該係止孔を係離する丸棒状の規制杆が前記車軸に沿って係合する方向に付勢するコイルばねと,前記規制杆を移動自在に受支する装置基枠および前記コイルばねに抗して前記規制杆を前記係止孔から離脱させる駆動ハンドルとで成る,手押し運搬車のブレーキ装置。」
である点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点1]
本願補正発明では,ホイールが,ディスクホイールであるのに対し,引用発明では,スポーク部である点。

[相違点2]
本願補正発明では,ホイールの片面に間隙を存して重ね合わせて取付けて車輪を構成する係止板を有し,係止孔が,前記係止板に車軸を中心とする同心円上にして並設した多数の円形の孔であり,装置基枠が,前記係止板に相対し,規制杆を係止板方向に移動自在に受支するのに対し,引用発明では,規制杆9と係離する係止孔は,車輪7のスポーク部8間の間隙10であって係止板に並設された円形の孔ではなく,規制杆9を受支する支持片13が相対するのはスポーク部8である点。

[相違点3]
本願補正発明では,装置基枠が,車輪枠の一方の側部片の表面に設けてあるのに対し,引用発明では,規制杆9を受支する支持片13は,ボルト12によるキャスター枠5の荷台1への螺合締付けと一緒に荷台1に取付けてあるが,側部片5aの表面には設けていない点。

相違点1について検討する。
引用例1には,車輪が必ずしもスポーク型に限らないこと(記載事項1d参照)が記載されている。
車輪のホイールをディスクホイールで構成することは,例えば,特開2004-131001号公報(拒絶査定で引用した文献,図3,4参照),国際公開第03/101547号(第12頁第13?16行,図3,4参照)に記載されているように周知技術である。
したがって,引用発明において,上記周知技術を参照し,相違点1に係る構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

相違点2について検討する。
引用例2には,ガイド輪4Rの車軸40R上にロックホイル92を固設し,該ロックホイル92の同一半径上に所定角度ごとに円形のピン孔93を開口し,ロックピン91を挿入可能に設け,ロックピン91がピン孔93に嵌入するようにして,ガイド輪4Rが回転しないようにロックすることが記載されている。
引用例2に記載の「ロックホイル92」及び「ピン孔93」は,本願補正発明の「係止板」及び「係止孔」に相当する。
引用発明及び引用例2に記載の事項は,共に手で押して移動させる車のブレーキ装置に関するものである。また,引用例2においては,円形のピン孔93にロックピン91が嵌入するようになっているので,スポーク8間の間隙10に規制杆9を係合する引用発明に比べて,制動時の車輪の動きが少なく,安定した制動状態が得られることは明らかである。そして,ブレーキ装置において,安定した制動状態を得ることは周知の課題である。
そうしてみると,引用発明において,安定した制動状態を得るために,規制杆をスポーク間の間隙に係合する構成に代えて,引用例2に記載の技術を採用して,車輪と共に回転する係止板を規制杆9を受支する支持片13に相対するように設け,前記係止板に車軸を中心とする同心円上に多数の円形の係止孔を並設し,前記規制杆9を前記係止板方向に移動させて前記係止孔に係合する構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得たことである。
係止板を取り付ける位置は車輪と共に回転するところであれば良いことは明らかであり,どこに取り付けるかは当業者が適宜選択し得る設計事項である。また,手押し運搬車のブレーキ装置において,規制部材が係合する係止板をホイールに重ね合わせて取付ることは,例えば,特開2004-131001号公報(拒絶査定で引用した文献,段落【0028】,図3,4参照)に記載されているように従来から行われていることである。してみると,係止板を車輪のホイールの片面に重ね合わせて取り付けることに格別の困難性は認められない。さらに,ホイールと係止板との間に間隙を設けることは,係止孔に規制杆を係合したときに規制杆の先端が係止板のホイール側に突出した状態とするか否かに応じて当業者が適宜なし得る設計事項に過ぎない。
以上のことから,引用発明において,上記相違点2に係る発明の構成とすることは当業者が容易になし得たことであるといえる。

相違点3について検討する。
引用発明において,支持片13は,ボルト12によりキャスター枠5と一緒に荷台1に取付けられ,キャスター枠5の側部片5aとともに規制杆9を支持するものであるから,該支持片13は,前記側部片5aとの位置関係が固定されるように,キャスター枠5に対して取り付けられれば良いことは明らかである。そして,支持片13をキャスター枠5のどの位置に取り付けるかは当業者が適宜選択し得る設計事項であり,キャスター枠5の側部片5aの表面に係止片13を設けて,上記相違点3に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

そして,本願補正発明により得られる作用効果も,引用発明,引用例2に記載された事項及び周知技術から当業者であれば予測できる程度のものであって,格別なものとはいえない。

よって,本願補正発明は,引用発明,引用例2に記載された事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおりであるから,本件補正は,平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第4.本願発明
本件補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成23年7月20日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである(以下「本願発明」という。「第3」の「1.本件補正の概要」参照。)。

第5.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は,前記「第3」の「2.引用刊行物」に記載したとおりである。

第6.対比・判断
本願発明は,本願補正発明から,前記「第3」の「1.本件補正の概要」に記載した限定を外したものである。
してみると,本願発明の発明特定事項をすべて含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が,前記「第3」の「3.対比・判断」に記載したとおり,引用発明,引用例2に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由で当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明,引用例2に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,本願は拒絶されるべきものである。
したがって,原査定は妥当であり,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-16 
結審通知日 2012-09-11 
審決日 2012-09-24 
出願番号 特願2008-10217(P2008-10217)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B62B)
P 1 8・ 121- Z (B62B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 孝幸  
特許庁審判長 千馬 隆之
特許庁審判官 杉浦 貴之
小関 峰夫
発明の名称 手押し運搬車のブレーキ装置  
代理人 江藤 剛  

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