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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02B
管理番号 1267723
審判番号 不服2011-9873  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-05-11 
確定日 2012-12-19 
事件の表示 特願2007-539491「直接噴射方式の内燃機関」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 5月11日国際公開、WO2006/048134、平成20年 6月 5日国内公表、特表2008-519200〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本件出願は、2005年(平成17年)10月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年11月3日、独国)を国際出願日とする出願であって、平成19年5月2日付けで国内書面が提出され、同年5月18日付けで明細書、特許請求の範囲及び要約書の翻訳文が提出され、平成22年8月30日付けの拒絶理由通知に対して、同年12月1日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年5月11日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けで手続補正書が提出されて特許請求の範囲を補正する手続補正がなされ、その後、当審において同年12月5日付けで書面による審尋がなされ、これに対し、平成24年6月6日付けで回答書が提出されたものである。


【2】平成23年5月11日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成23年5月11日付けの手続補正を却下する。


[理 由]
1.本件補正の内容
平成23年5月11日付けの手続補正書による手続補正(以下、単に「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成22年12月1日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の下記の(b)に示す請求項1を、下記の(a)に示す請求項1へと補正するものである。

(a)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
ピストン(3)とシリンダヘッド(5)との間に燃焼空間(4)が形成される少なくとも1つのシリンダ(2)と、
前記燃焼空間(4)内に配置される点火プラグ(7)と、
前記シリンダヘッド(5)内に配置され、燃料を中空の円錐体(8)の形で前記燃焼空間(4)内に噴射する外向きに開口した噴射ノズル(11)を有し、
前記点火プラグ(7)は、前記噴射ノズルによって生成される前記中空燃料円錐体(8)の円周表面(9)の外側に配置され、
前記噴射された燃料の噴射の円周表面(9)から燃料の境界渦(10)が形成され、前記点火プラグ(7)の電極(12)が該境界渦(10)の中に突き出るように配置された内燃機関(1)において、
前記シリンダ(2)は85mm?100mmの直径(D)を有するシリンダボア(2a)を有し、
該直径(D)の寸法は、内燃機関(1)の点火時点において、前記境界渦(10)の平均直径(dmR)と前記直径(D)との比(dmR/D)が、0.1?0.12の範囲内にあるように定められ、
前記中空の円錐体(8)の角度αが80°?90°で形成され、
前記境界渦(10)が、前記燃焼空間(4)の背圧が10?16barの時において180?220barの燃料噴射圧で形成されることを特徴とする内燃機関。」(下線部は審判請求人が補正箇所を示したものである。)

(b)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
ピストン(3)とシリンダヘッド(5)との間に燃焼空間(4)が形成される少なくとも1つのシリンダ(2)と、
前記燃焼空間(4)内に配置される点火プラグ(7)と、
前記シリンダヘッド(5)内に配置され、燃料を中空の円錐体(8)の形で前記燃焼空間(4)内に噴射する外向きに開口した噴射ノズル(11)を有し、
前記点火プラグ(7)は、前記噴射ノズルによって生成される前記中空燃料円錐体(8)の円周表面(9)の外側に配置され、
前記噴射された燃料の噴射の円周表面(9)から燃料の境界渦(10)が形成され、前記点火プラグ(7)の電極(12)が該境界渦(10)の中に突き出るように配置された内燃機関(1)において、
前記シリンダ(2)は直径(D)を有するシリンダボア(2a)を有し、
該直径(D)の寸法は、内燃機関(1)の点火時点において、前記境界渦(10)の平均直径(dmR)と前記直径(D)との比(dmR/D)が、0.1?0.12の範囲内にあるように定められることを特徴とする内燃機関。」


2.本件補正の目的
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に関して、
シリンダボア(2a)の「直径(D)」を「85mm?100mmの直径(D)」と限定し、
「中空の円錐体(8)」を「中空の円錐体(8)の角度αが80°?90°で形成され、」と限定し、
「境界渦(10)」を「境界渦(10)が、前記燃焼空間(4)の背圧が10?16barの時において180?220barの燃料噴射圧で形成される」と限定するものであるから、
請求項1に関する本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。


3.本件補正の適否の判断
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて、以下に検討する。

3-1.引用文献記載の発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特表2002-539365号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】 各シリンダ(2)において長手方向に動くピストン(3)とシリンダヘッド(5)の内壁(15)とによって限定される燃焼室(4)と、インジェクタ(6)とを有する、直接噴射式内燃機関において、前記インジェクタ(6)の噴射ノズル(11)は燃料を円錐状に燃焼室(4)の中に噴射して、個別に導入された燃焼空気と共に点火可能な燃料と空気との混合気を形成し、この混合気は点火プラグ(7)によって点火され、点火プラグの電極(12)は噴射ノズル(11)によって形成される円錐形燃料(8)の外表面(9)の混合渦流領域の外側に位置するように配置された直接噴射式内燃機関であって、円錐形燃料(8)は燃焼室の限界によってほとんど影響されない中空円錐状形状の自由噴流で噴射され、燃料の渦流(10)が燃焼室の外形にほとんど依存せずに形成され、点火プラグ(7)の電極(12)は噴射の際に出現した燃料の渦流(10)の外表面(9)の中に突入することを特徴とする直接噴射式内燃機関。」(平成12年11月10日付け手続補正書の【請求項1】)

(イ)「【請求項2】 円錐形燃料(8)の開き角(α)が70°から100°の間に含まれることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】 噴射の自由噴流が中空円錐状であることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関。
【請求項4】 電極(12)の火花位置が円錐形燃料(8)の外表面(9)から1mm?15mmだけ離れていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の内燃機関。
【請求項5】 インジェクタ(6)が外から開く噴射ノズル(11)を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の内燃機関。
【請求項6】 電極(12)の火花位置が噴射ノズル(11)から7mm?30mmだけ離れていることを特徴とする請求項5に記載の内燃機関。
【請求項7】 インジェクタ(6)が圧電によって作動することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の内燃機関。
【請求項8】 内燃機関(1)が圧縮サイクル中に装入成層化と燃料噴射を含む広い性能曲線範囲で運転されることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の内燃機関。」(【特許請求の範囲】の【請求項2】ないし【請求項8】)

(ウ)「【0001】
本発明は、請求項1のプリアンブルに記載の種類の直接噴射式オットー内燃機関に関する。」(段落【0001】)

(エ)「【0005】
周知の直接噴射式オットー内燃機関では、燃焼室の限界は、点火可能な混合気渦流の形成に対する望みの流体技術的効果を達成するために、特にシリンダヘッドの内壁によって経費をかけて精密に形成しなければならない。混合気渦流形成に必要な燃焼室の形状と必然的にインジェクタの近くに配置された点火プラグを有する周知の燃焼室外形構成は、最適の燃焼過程を達成できず、また内燃機関の所要の運転挙動を保証できないことが多い。
【0006】
本発明は、内燃機関が最適の運転挙動で動作する種類の直接噴射式オットー内燃機関を作り出すという課題に基づくものである。」(段落【0005】及び【0006】)

(オ)「【0012】
ただ1つの図は、直接噴射式オットー内燃機関1を示し、そのシリンダ2内にピストン3が縦可動に配設され、シリンダ2の上に装着されたシリンダヘッド5の内壁15で燃焼室4は限定される。シリンダヘッド5内に燃料インジェクタ6が配設され、これはシリンダ軸線14上中央にある燃料をピストン3に向けて直接燃焼室4に噴射する。内部混合物形成に必要な燃焼用空気は、吸入管13を通って燃焼室4に供給される。シリンダヘッド5内にはさらに点火プラグ7が配設され、その電極12は燃焼室4内に突出し、その際点火時に電極12間に点火スパークが起こり、これがスパークの際燃焼室4内の点火可能な混合物と衝突する。
【0013】
インジェクタ6は、外側に開いた噴射ノズル11を備え、この噴射ノズル11は、ピストンへ広がる中空円錐形の燃料噴気を生じる。点火プラグ7の電極12は、噴射ノズル11により生じた円錐形燃料8の外面9の外側にあり、そのことから噴射工程の際燃料で濡れることはない。
【0014】
インジェクタは圧電で稼動し、その際噴射ノズル11は圧電要素により迅速かつ正確に調節可能で開閉される。噴射時間を適当に選択し、インジェクタの圧電操作を用いて操作工程中これを正確に保持することにより、円錐形燃料の所望の自由噴気形が形成される。」(段落【0012】ないし【0014】)

(カ)「【0015】
内燃機関は、交代給気操作中広い固有場領域で働き、その際シリンダ2の圧縮行程中に燃料が噴射される。操作工程中燃料が遅れて噴射されるために、場所により燃料濃度が異なる交代の燃料給気が生じる。その際円錐形燃料8の外側には非常に乏しい混合物が形成されるか又は純粋な空気が存在する。
【0016】
点火可能な混合物を点火プラグ7の電極12間にもたらすために、内燃機関は、円錐形燃料8がシリンダヘッド-内壁15による燃焼室境界から十分に影響を受けない自由噴気内に噴射されるような燃焼室配置を有する。円錐形燃料8の外面9は、内壁15からかなり離れて存在し、その際燃焼室境界の壁効果を受けない自由噴気の所で渦状燃料10が形成され、これは外面9から突出している。円錐形燃料8の開き角αは70°と100°の間にあり、その際渦状燃料10は円錐の縁に特に際立って生じる。
【0017】
渦状燃料10は、空気の流れを基にして、円錐形燃料の外面9領域で燃料噴気に巻き込まれた空気により生じる。その際この流れと逆に、生じた減圧により同じく空気の流れが生じる。渦状燃料10は燃料を円錐形燃料8のはるか外側にある燃焼室領域に運び、そこで燃焼用空気と混合する。
【0018】
点火プラグは、電極12が渦状燃料10内に突出するように配設される。電極12が燃料により直接濡れないように保護されている円錐形燃料8の外側にある燃焼室領域でも、そのようにして自由噴気噴射の際存在する点火可能な混合物の渦状燃料10が、点火プラグ7に供給される。
【0019】
渦状燃料10は、燃焼室の形にほとんど依存せずに形成され、シリンダヘッド5の内壁15は、それゆえ任意に形成される。噴射自由噴気は、中空円錐形であり、そのことにより全燃料噴射量の大部分が円錐形噴気8の外面9に運ばれ、それゆえ渦状燃料10により把握され得る。渦状燃料が比較的長い時間安定して燃焼室で作られ、噴射終了後約50KWまだ燃料が点火プラグ7に存在するので、点火時は噴射時にほとんど依存せずに広い範囲で変化させることができ、必要な場合には調整される。
【0020】
渦状燃料10の安定性と点火のために用意された長い時間を基にして、点火プラグ7はシリンダヘッド内で、インジェクタ6から比較的遠くに離して配設され、そのことにより燃焼室の配置とシリンダヘッド5の構造形は著しく容易になる。スパーク位置の間隔は、電極12の噴射ノズルへの配置に応じて7mmから30mmとなる。その際スパーク位置は、円錐形燃料8の外面9から1mmから15mm離れている。電極12から円錐形燃料8への距離は、直接噴射式内燃機関1を使用する場合のその時々の所望の操作法に応じて選択される。」(段落【0015】ないし【0020】)

(2)ここで、上記(1)の(ア)ないし(カ)及び図面の記載からみて、次のことがわかる。

(キ)上記(1)の(ア)、(イ)、(オ)、(カ)及び図1の記載からみて、直接噴射式オットー内燃機関1は、ピストン3とシリンダヘッド5との間に燃焼室4が形成される各シリンダ2、すなわち、少なくとも1つのシリンダ2を有し、前記燃焼室4内に配置される点火プラグ7を有し、前記シリンダヘッド5内に配置され、燃料を中空円錐形となっている円錐形燃料8の形で前記燃焼室4内に噴射する外側に開いた噴射ノズル11、すなわち外向きに開口したものとなる噴射ノズル11を有していることがわかる。
また、前記点火プラグ7は、前記噴射ノズル11によって生成される前記円錐形燃料8の外面9の外側に配置されており、直接噴射式オットー内燃機関1においては、前記噴射された燃料の噴射の外面9から燃料の渦状燃料10が形成され、前記点火プラグ7の電極12が該渦状燃料10の中に突き出るように配置されていることがわかる。

(ク)上記(1)の(ア)、(イ)、(オ)、(カ)、上記(キ)及び図1の記載からみて、直接噴射式オットー内燃機関1におけるシリンダ2は、内部にピストン3が縦可動に配設されているので、円筒状の空間である、直径を有するシリンダボアを有しているといえる。
また、前記直径の寸法は、直接噴射式オットー内燃機関1の点火時点において、渦状燃料10の略円形部分の幅と前記直径との割合が、1/2以下であり(特に、図1参照。)、点火プラグ7の電極12が渦状燃料10内にあるように配設される寸法であることがわかる。

(ケ)上記(1)の(イ)、(カ)及び図1の記載からみて、円錐形燃料8の開き角αが70°?100°で形成されていることがわかる。

(3)上記(1)及び(2)を総合すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用文献記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「ピストン3とシリンダヘッド5との間に燃焼室4が形成される少なくとも1つのシリンダ2と、
前記燃焼室4内に配置される点火プラグ7と、
前記シリンダヘッド5内に配置され、燃料を円錐形燃料8の形で前記燃焼室4内に噴射する外向きに開口した噴射ノズル11を有し、
前記点火プラグ7は、前記噴射ノズル11によって生成される前記円錐形燃料8の外面9の外側に配置され、
前記噴射された燃料の噴射の外面9から燃料の渦状燃料10が形成され、前記点火プラグ7の電極12が該渦状燃料10の中に突き出るように配置された直接噴射式オットー内燃機関1において、
前記シリンダ2は直径を有するシリンダボアを有し、
該直径の寸法は、直接噴射式オットー内燃機関1の点火時点において、前記渦状燃料10の略円形部分の幅と前記直径との割合が、1/2以下であり、点火プラグ7の電極12が渦状燃料10内にあるように配設される寸法であり、
前記円錐形燃料8の開き角αが70°?100°で形成され、
前記渦状燃料10が形成される直接噴射式オットー内燃機関1。」


3-2.対比
本件補正発明と引用文献記載の発明とを対比すると、引用文献記載の発明における「ピストン3」は、その機能、形状、構造又は技術的意義からみて、本件補正発明における「ピストン(3)」に相当し、以下同様に、「シリンダヘッド5」は「シリンダヘッド(5)」に、「燃焼室4」は「燃焼空間(4)」に、「シリンダ2」は「シリンダ(2)」に、「点火プラグ7」は「点火プラグ(7)」に、「円錐形燃料8」は「中空の円錐体(8)」及び「中空燃料円錐体(8)」のそれぞれに、「噴射ノズル11」は「噴射ノズル(11)」及び「噴射ノズル」のそれぞれに、「外面9」は「円周表面(9)」に、「渦状燃料10」は「境界渦(10)」に、「直接噴射式オットー内燃機関1」は「内燃機関(1)」及び「内燃機関」のそれぞれに、「開き角α」は「角度α」に、それぞれ相当する。
また、引用文献記載の発明における「渦状燃料10の略円形部分の幅と前記直径との割合が、1/2以下であり、点火プラグ7の電極12が渦状燃料10内にあるように配設される寸法であり」は、「境界渦の略円形部分の幅と直径との比が、0.5以下の範囲内にあり、点火プラグの電極が境界渦内にあるように配設される寸法であり」という限りにおいて、本件補正発明における「境界渦(10)の平均直径(dmR)と直径(D)との比(dmR/D)が、0.1?0.12の範囲内にあるように定められ」に相当し、以下同様に、
「70°?100°」は、「70°?100°の範囲内」という限りにおいて、「80°?90°」に、相当する。

したがって、本件補正発明と引用文献記載の発明は、次の一致点及び相違点を有するものである。

<一致点>
「ピストンとシリンダヘッドとの間に燃焼空間が形成される少なくとも1つのシリンダと、
前記燃焼空間内に配置される点火プラグと、
前記シリンダヘッド内に配置され、燃料を中空の円錐体の形で前記燃焼空間内に噴射する外向きに開口した噴射ノズルを有し、
前記点火プラグは、前記噴射ノズルによって生成される前記中空燃料円錐体の円周表面の外側に配置され、
前記噴射された燃料の噴射の円周表面から燃料の境界渦が形成され、前記点火プラグの電極が該境界渦の中に突き出るように配置された内燃機関において、
前記シリンダは直径を有するシリンダボアを有し、
該直径の寸法は、内燃機関の点火時点において、前記境界渦の略円形部分の幅と前記直径との比が、0.5以下の範囲内にあり、点火プラグの電極が境界渦内にあるように配設される寸法であり、
前記中空の円錐体の角度が70°?100°の範囲内で形成され、
前記境界渦が形成される内燃機関。」


<相違点>
なお、〈 〉内に本件補正発明において相当する発明特定事項を示す。
(1)相違点1
シリンダボアの直径及び該直径の寸法の度合いに関し、
本件補正発明においては、シリンダボアの直径が「85mm?100mm」であり、
該直径の寸法の定められる度合いが「境界渦(10)の平均直径(dmR)と前記直径(D)との比(dmR/D)が、0.1?0.12の範囲内にあるように定められ」るのに対し、
引用文献記載の発明においては、シリンダボアの直径の具体的な寸法は不明であり、
該直径の寸法の度合いが「渦状燃料10〈境界渦(10)〉の略円形部分の幅と前記直径〈直径(D)〉との割合が、1/2以下であり、点火プラグ7〈点火プラグ(7)〉の電極12〈電極(12)〉が渦状燃料10〈境界渦(10)〉内にあるように配設される寸法であ」る点(以下、「相違点1」という。)。

(2)相違点2
中空の円錐体角度に関し、
本件補正発明においては、「80°?90°」であるのに対し、引用文献記載の発明においては、「70°?100°」である点(以下、「相違点2」という。)。

(3)相違点3
境界渦が形成されるための燃焼空間の背圧と燃料噴射圧に関し、
本件補正発明においては、「燃焼空間(4)の背圧が10?16barの時において180?220barの燃料噴射圧」であるのに対し、引用文献記載の発明においては、燃焼室4〈燃焼空間(4)〉の背圧及び燃料噴射圧の具体的な数値は不明である点(以下、「相違点3」という。)。


3-3.判断
上記各相違点について検討する。
(1)相違点1について
(ア)内燃機関において、成層燃焼時に、点火プラグの周りに混合気が位置するシリンダボアの直径の寸法を「85mm?100mm」とすることは、当業者が必要に応じて実験等で最適化又は好適化して適宜選定する設計上の事項であるし、本件補正発明の前記数値範囲自体は格別のものとはいえない(必要であれば、例えば、特開2004-19596号公報の特に、請求項1、段落【0006】ないし【0008】、【0021】及び図2参照。)。

(イ)一方、本件補正発明におけるシリンダボアの直径「85mm?100mm」の数値範囲の技術的意義、前提となる条件及び上限・下限の臨界的意義は、本件出願の明細書及び図面を見ても、格別のものとはいえない。

(ウ)また、本件補正発明における境界渦(10)の「平均直径(dmR)」は、当該境界渦(10)の略円形部分の幅に包含されるものということができ、本件補正発明におけるシリンダボアの直径(D)の寸法の定められる度合いが「境界渦(10)の平均直径(dmR)と前記直径(D)との比(dmR/D)が、0.1?0.12の範囲内にあるように定められ」るということは、点火プラグの電極が境界渦内にあるように配設される寸法となるものである。なお、前記「比(dmR/D)」の「0.1?0.12」の数値範囲の技術的意義、前提となる条件及び上限・下限の臨界的意義は、本件出願の明細書及び図面を見ても、格別のものとはいえない。

(エ)一方、引用文献記載の発明におけるシリンダボアの直径の寸法の定められる度合いは、「渦状燃料10〈境界渦(10)〉の略円形部分の幅と前記直径〈直径(D)〉との割合(すなわち、比)が、1/2以下であり、点火プラグ7〈点火プラグ(7)〉の電極12〈電極(12)〉が渦状燃料10〈境界渦(10)〉内にあるように配設される寸法であ」る。
上記の度合いについては、混合気の燃料濃度の点でみると、略円形部分の幅が小さい程混合気の燃料濃度が高く、逆に、略円形部分の幅が大きい程混合気の燃料濃度が低くなることは明らかであり、点火プラグの電極周りの混合気の位置し易さの点でみると、略円形部分の幅が小さい程混合気を位置させ難く、逆に、略円形部分の幅が大きい程混合気を位置させ易くなることは明らかである。
以上のことから、最適な成層燃焼をさせるために、混合気の燃料濃度の点と点火プラグの電極周りの混合気の位置し易さの点の相反する両者のバランスをとることにより、渦状燃料10〈境界渦(10)〉の略円形部分の幅とシリンダボアの直径〈直径(D)〉との比を選択することは、当業者が必要に応じて実験等で最適化又は好適化して適宜選定する程度のことにすぎない。

(オ)そうすると、引用文献記載の発明において、シリンダにおけるシリンダボアの直径の寸法を「85mm?100mm」と選定し、その数値範囲を基として、点火プラグの電極が境界渦内にあるように配設されるために、渦状燃料10〈境界渦(10)〉の略円形部分の幅と前記直径との比を適宜選定し、上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。

(2)相違点2について
中空の円錐体角度について、本件補正発明も引用文献記載の発明もいずれも「70°?100°の範囲内」という点で共通するものであり、本件補正発明の「80°?90°」の数値範囲自体は格別のものとはいえない。
また、本件補正発明における「中空の円錐体(8)の角度α」が「80°?90°」の数値範囲の技術的意義、前提となる条件及び上限・下限の臨界的意義は、本件出願の明細書及び図面を見ても、格別のものとはいえない。
そうすると、引用文献記載の発明において、中空の円錐体角度を「80°?90°」と選定することは、当業者が必要に応じて実験等で最適化又は好適化して適宜選定する設計上の事項にすぎない。

(3)相違点3について
境界渦について、本件補正発明も引用文献記載の発明もいずれも「境界渦」が燃焼空間内に形成されている点で共通する。また、境界渦の形成の際に、引用文献記載の発明も燃焼室4〈燃焼空間(4)〉の背圧及び燃料噴射圧がそれぞれ存在し、燃料噴射圧が前記背圧よりも高いことは明らかである。
また、本件補正発明における「燃焼空間(4)のの背圧が10?16barの時において180?220barの燃料噴射圧」の2つの数値範囲の技術的意義、前提となる条件及び上限・下限の臨界的意義は、本件出願の明細書及び図面を見ても、格別のものとはいえない。
さらに、内燃機関において、「180?220bar」の燃料噴射圧とすることは、当業者が必要に応じて実験等で最適化又は好適化して適宜選定する設計上の事項であり、当該数値範囲自体は格別のものとはいえない(例えば、特開2004-132226号公報(平成16年4月30日公開。)の特に、段落【0003】の「15?25MPa程度」、すなわち、換算すると「150?250bar」参照。)。
そうすると、引用文献記載の発明において、境界渦が形成されるために、燃焼空間の背圧と燃料噴射圧との関係を選定し、上記相違点3に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が必要に応じて実験等で最適化又は好適化して適宜選定する程度のことにすぎない。


また、本件補正発明は、全体として検討してみても、引用文献記載の発明から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。


3-4.まとめ
したがって、本件補正発明は、引用文献記載の発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


4.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。


【3】本件発明について
1.本件発明の内容
平成23年5月11日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1ないし11に係る発明は、平成19年5月18日付けの明細書の翻訳文、平成22年12月1日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲及び国際出願の際の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、単に「本件発明」という。)は、前記【2】の[理 由]の1.(b)に示した請求項1に記載されたとおりのものである。


2.引用文献記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献(特表2002-539365号公報)の記載事項及び引用文献記載の発明は、前記【2】の[理 由]3.の3-1.(1)ないし(3)に記載したとおりである。


3.対比・判断
本件発明は、実質的に、前記【2】で検討した本件補正発明における発明特定事項を全て含むものである。
そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、前記【2】の[理 由]3.の3-1.ないし3-4.に記載したとおり、引用文献記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、同様の理由により、引用文献記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件発明は、全体として検討してみても、引用文献記載の発明から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものではない。


4.むすび
以上のとおり、本件発明は、引用文献記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-17 
結審通知日 2012-07-24 
審決日 2012-08-06 
出願番号 特願2007-539491(P2007-539491)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02B)
P 1 8・ 575- Z (F02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩▲崎▼ 則昌  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 柳田 利夫
藤原 直欣
発明の名称 直接噴射方式の内燃機関  
代理人 山口 栄一  
代理人 石戸 久子  

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