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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G02F
管理番号 1268242
審判番号 不服2012-7430  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-04-23 
確定日 2013-01-04 
事件の表示 特願2006-167420「光変調器」拒絶査定不服審判事件〔平成19年12月27日出願公開、特開2007-334124〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年6月16日の出願であって、平成23年4月22日に手続補正がなされたところ、平成24年1月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月23日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、これと同時に手続補正がなされたものである。


第2 平成24年4月23日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年4月23日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成24年4月23日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前(平成23年4月22日付け手続補正後のもの)の請求項1として、

「電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光を導波するための光導波路と、前記基板の一方の面側に形成され、前記光の位相を変調する高周波電気信号を印加するための中心導体及び接地導体からなる進行波電極とを有し、
前記進行波電極が、前記高周波電気信号を印加することにより前記光の位相を変調するための相互作用部と、少なくとも外部回路から前記相互作用部に前記高周波電気信号を印加するための入力用フィードスルー部を具備する光変調器において、
前記進行波電極にはその進行波電極の基本モードが伝搬し、
前記光導波路の長手方向にほぼ垂直となる前記基板の断面の最も長くなる辺の長さL_(longest)と前記基板の断面の最も短くなる辺の長さL_(shortest)の比をほぼ2倍以上に大きく、該最も短くなる辺の長さL_(shortest)とこの方向における前記高周波電気信号の等価屈折率n_(shortest)の積を0.4mmより大きく且つ15mmよりも小さく構成し、
前記基板の断面の最も短くなる辺の長さL_(shortest)方向の共振の次数をm_(shortest)、真空中の光速をc_(O)とするとき、
f_(C) = (c_(O)/2)・m_(shortest)/(n_(shortest)・L_(shortest))
として与えられる共振周波数f_(C)が、前記高周波電気信号の周波数よりも高くなることを特徴とする光変調器。」

とあったものを、

「電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光を導波するための光導波路と、前記基板の一方の面側に形成され、前記光の位相を変調する高周波電気信号を印加するための中心導体及び接地導体からなる進行波電極とを有し、
前記進行波電極が、前記高周波電気信号を印加することにより前記光の位相を変調するための相互作用部と、少なくとも外部回路から前記相互作用部に前記高周波電気信号を印加するための入力用フィードスルー部を具備する光変調器において、
前記進行波電極にはその進行波電極の基本モードが伝搬し、
前記光導波路の長手方向にほぼ垂直となる前記基板の断面の横幅L_(X)を前記基板の断面の厚みL_(Z)のほぼ2倍以上に大きく、該基板の断面の厚みL_(Z)とこの方向における前記高周波電気信号の等価屈折率n_(Z)の積を0.4mmより大きく且つ15mmよりも小さく構成し、
前記基板の断面の厚みL_(Z)方向の共振の次数をm_(Z)、真空中の光速をc_(O)とするとき、
f_(C) = (c_(O)/2)・m_(Z)/(n_(Z)・L_(Z))
として与えられる共振周波数f_(C)が、前記高周波電気信号の周波数よりも高くなることを特徴とする光変調器。」

と補正して新たに補正後の請求項1とすることを含むものである。

そして、本件補正は、補正前の請求項1において、「基板の断面の最も長くなる辺の長さL_(longest)」を「基板の断面の横幅L_(X)」と限定するとともに、「基板の断面の最も短くなる辺の長さL_(shortest)」を「基板の断面の厚みL_(Z)」と限定し、「高周波電気信号の等価屈折率n_(shortest)」を「高周波電気信号の等価屈折率n_(Z)」と限定し、「(基板の断面の最も短くなる辺の長さL_(shortest)方向の共振の次数)m_(shortest)」を「(基板の断面の厚みL_(Z)方向の共振の次数)m_(Z)」と限定するものであるから、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

2 独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-249995号公報(以下「引用刊行物」という。)には、図とともに以下の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 40GHz以上の広帯域で使用するための導波路型光デバイスであって、
電気光学効果を有する材質を含む基板と、この基板に形成されている光導波路と、光導波路を伝搬する光波を制御するために基板上に設けられている進行波型の信号電極と、信号電極の両側に設けられている一対の接地電極とを備えており、基板の厚さが0.4mm以上であり、基板の光導波路と垂直な断面の最も長くなる長さが1.8mm以上であることを特徴とする、導波路型光デバイス。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、40GHz以上の広帯域で使用できる導波路型光デバイスに関するものである。」

ウ 「【0002】
【従来の技術】現在、通信容量が飛躍的に増大しており、アナログ領域では、キャリア周波数が、マイクロ波帯(数GHz)からミリ波帯(30GHz以上)へと高周波化が進んでいる。このため、40GHz以上の広帯域で使用できる高速導波路型光デバイスが要請されている。導波路型光デバイスとしては、電気光学効果を有する材質からなる基板上に、接地電極、信号電極および光導波路を形成し、信号電極にマイクロ波信号電圧を印加し、光導波路を伝搬する光波を変調する光デバイスが知られている。こうした光デバイスにおいては、特定の周波数において、いわゆる「ロスディップ」と呼ばれる、伝送特性が劣化する問題があった。こうした光デバイスの使用可能な周波数帯域は、ロスディップの生ずる最低周波数(以下、ロスディップ周波数と呼ぶ)以下に制限される。」

エ 「【0006】本発明の課題は、導波路型の光デバイスにおいて、40GHz以上の周波数領域に、ロスディップが発生する最小周波数をシフトさせることによって、40GHz以上の広帯域で実質的に使用可能な導波路型光デバイスを提供することである。」

オ 「【0020】図2(a)は、本発明の光デバイスの一例を示す平面図であり、図2(b)は、図2(a)のIIb-IIb線断面図である。光デバイス11Aは、いわゆるマッハツェンダー型の変調器である。基板1の主面には、例えばチタン拡散光導波路3が形成されている。光導波路3は、入力部3a、分岐部分3b、3cおよび出力部3dからなる。また、基板1の主面に、一対の接地電極4、5と、一対の接地電極に挟まれた信号電極2とが設けられている。各接地電極4、5と信号電極2との間は、絶縁領域である。光デバイスにおいては、動作速度を一層向上させる目的で、いわゆるコプレナーウエーブガイド型(CPW)の形態を有する接地電極および信号電極を使用している。信号電極2は,入力部2a、変調部2b、出力部2c、入力側のR部2dおよび出力側のR部2eからなる。
【0021】本発明に従い、基板1の光導波路と垂直な断面の対角線の長さdを1.8mm以上とし、厚さtを0.4mm以上とする。」

カ 「【0030】
【実施例】(実験A)図2に示すような光デバイス11Aを製造した。Zカットのニオブ酸リチウムのウエハー上に、フォトリソグラフィー法によって、チタンをパターニングし、熱拡散法によってチタンを拡散させ、光導波路3を形成した。…基板1の主面に、SiO2の絶縁バッファー層を形成した(厚さ0.5-2μm)。次いで、これらの上に厚さ15-30μmの金属メッキからなる電極2、4、5を形成した。次いでウエハーを切断し、各寸法の光デバイス11Aを作製した。ただし、基板1の長さは60mmとし、厚さは0.4mmとし、光導波路と垂直な断面の対角線の長さdは、0.8、1.0、1.8、2.0、2.6mmにそれぞれ変更した。
【0031】各光デバイスと測定器との間を高周波ケーブルで接続した。測定器から、周波数が徐々に変わるスイープ信号を出力し、0-80GHzの各周波数における伝送特性を測定し、ロスディップ周波数を確認した。この結果を表1…に示す。…
【0032】
【表1】

【0033】このように、基板の光導波路と垂直な断面の対角線の長さdが0.8、1.0mmの場合には、実質的ロスディップ周波数は20-30GHzであるが、dを1.8mmとすると、実質的ロスディップ周波数は41GHzまで上昇した。…」

キ 上記オに照らして図2をみると、「信号電極2」の「変調部2b」は、「光導波路3」の「分岐部分3c」と重なっていることがみてとれる。

ク なお、図2は以下のとおりのものである。



上記摘記事項の記載を総合すると、引用刊行物には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている、と認められる。

「40GHz以上の周波数領域に、ロスディップが発生する最小周波数をシフトさせることによって、40GHz以上の広帯域で実質的に使用可能な導波路型光デバイスであって、
電気光学効果を有する材質を含む基板と、この基板に形成されている光導波路と、光導波路を伝搬する光波を制御するために基板上に設けられている進行波型の信号電極と、信号電極の両側に設けられている一対の接地電極とを備えており、基板の厚さが0.4mm以上であり、基板の光導波路と垂直な断面の最も長くなる長さが1.8mm以上であり、
一例において、光デバイス11Aは、いわゆるマッハツェンダー型の変調器であり、基板1の主面には、例えばチタン拡散光導波路3が形成されており、光導波路3は、入力部3a、分岐部分3b、3cおよび出力部3dからなり、また、基板1の主面に、一対の接地電極4、5と、一対の接地電極に挟まれた信号電極2とが設けられており、各接地電極4、5と信号電極2との間は、絶縁領域であり、動作速度を一層向上させる目的で、いわゆるコプレナーウエーブガイド型(CPW)の形態を有する接地電極および信号電極を使用しており、信号電極2は,入力部2a、変調部2b、出力部2c、入力側のR部2dおよび出力側のR部2eからなり、信号電極2の変調部2bは、光導波路3の分岐部分3cと重なっており、
実施例において、Zカットのニオブ酸リチウムのウエハー上に、フォトリソグラフィー法によって、チタンをパターニングし、熱拡散法によってチタンを拡散させ、光導波路3を形成し、基板1の主面に、SiO2の絶縁バッファー層を形成し、次いで、これらの上に厚さ15-30μmの金属メッキからなる電極2、4、5を形成し、次いでウエハーを切断して、基板1の長さは60mm、厚さは0.4mm、光導波路と垂直な断面の対角線の長さdは、0.8、1.0、1.8、2.0、2.6mmにそれぞれ変更した各寸法の光デバイス11Aを作製し、各光デバイスと測定器との間を高周波ケーブルで接続してロスディップ周波数を確認したところ、その結果が以下の表1に示すとおりであって、基板の光導波路と垂直な断面の対角線の長さdが0.8、1.0mmの場合には、実質的ロスディップ周波数は20-30GHzであるが、dを1.8mmとすると、実質的ロスディップ周波数は41GHzまで上昇した、導波路型光デバイス。
【表1】



(2)対比、判断
本願補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明は、「40GHz以上の広帯域で実質的に使用可能な導波路型光デバイスであって、電気光学効果を有する材質を含む基板と、この基板に形成されている光導波路と、光導波路を伝搬する光波を制御するために基板上に設けられている進行波型の信号電極と、信号電極の両側に設けられている一対の接地電極とを備え」るものであり、「一例において、…基板1の主面に、一対の接地電極4、5と、一対の接地電極に挟まれた信号電極2とが設けられており、各接地電極4、5と信号電極2との間は、絶縁領域であり、信号電極2は,入力部2a、変調部2b、出力部2c、入力側のR部2dおよび出力側のR部2eからな」るものであるから、
(ア)引用発明の「電気光学効果を有する材質を含む基板」、「(この基板に形成されている)光導波路」、「『光導波路を伝搬する光波を制御するために基板上に設けられている進行波型の信号電極』及び『信号電極の両側に設けられている一対の接地電極』」及び「導波路型光デバイス」は、それぞれ、本願補正発明の「電気光学効果を有する基板」、「該基板に形成された光を導波するための光導波路」、「(前記基板の一方の面側に形成され、前記光の位相を変調する高周波電気信号を印加するための中心導体及び接地導体からなる)進行波電極」及び「光変調器」に相当し、
(イ)引用発明は、本願補正発明の「電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光を導波するための光導波路と、前記基板の一方の面側に形成され、前記光の位相を変調する高周波電気信号を印加するための中心導体及び接地導体からなる進行波電極とを有し」との事項を備える。

イ 引用発明は、「一例において、…信号電極2は,入力部2a、変調部2b、…からなり、信号電極2の変調部2bは、光導波路3の分岐部分3cと重なって」いるから、
(ア)引用発明の「(信号電極2の)変調部2b」及び「(信号電極2の)入力部2a」は、それぞれ、本願補正発明の「前記高周波電気信号を印加することにより前記光の位相を変調するための相互作用部」及び「少なくとも外部回路から前記相互作用部に前記高周波電気信号を印加するための入力用フィードスルー部」に相当し、
(イ)引用発明は、本願補正発明の「前記進行波電極が、前記高周波電気信号を印加することにより前記光の位相を変調するための相互作用部と、少なくとも外部回路から前記相互作用部に前記高周波電気信号を印加するための入力用フィードスルー部を具備する」との事項を備える。

ウ 表1に照らせば、引用発明は、「(Zカットのニオブ酸リチウムからなる)基板1」の厚さを0.4mmとし、
(ア)光導波路と垂直な断面の対角線の長さdを1.8mm、すなわち、「基板1」の光導波路と垂直な断面の幅を1.755(=√(1.8^(2)-0.4^(2)))mmとした場合には、「実質的ロスディップ周波数」が41GHzであり、
(イ)光導波路と垂直な断面の対角線の長さdを2.0mm、すなわち、「基板1」の光導波路と垂直な断面の幅を1.960(=√(2.0^(2)-0.4^(2)))mmとした場合には、「実質的ロスディップ周波数」が42GHzであり、
(ウ)光導波路と垂直な断面の対角線の長さdを2.6mm、すなわち、「基板1」の光導波路と垂直な断面の幅を2.569(=√(2.6^(2)-0.4^(2)))mmとした場合には、「実質的ロスディップ周波数」が53GHzであり、
いずれの場合も、「基板1」の光導波路と垂直な断面の幅(1.755mm、1.960mm、2.569mm)は、当該断面の厚さ(0.4mm)の2倍以上であるから、引用発明は、本願補正発明の「前記光導波路の長手方向にほぼ垂直となる前記基板の断面の横幅L_(X)を前記基板の断面の厚みL_(Z)のほぼ2倍以上に大きく」との事項を備える。

エ したがって、両者は、
「電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光を導波するための光導波路と、前記基板の一方の面側に形成され、前記光の位相を変調する高周波電気信号を印加するための中心導体及び接地導体からなる進行波電極とを有し、
前記進行波電極が、前記高周波電気信号を印加することにより前記光の位相を変調するための相互作用部と、少なくとも外部回路から前記相互作用部に前記高周波電気信号を印加するための入力用フィードスルー部を具備する光変調器において、
前記光導波路の長手方向にほぼ垂直となる前記基板の断面の横幅L_(X)を前記基板の断面の厚みL_(Z)のほぼ2倍以上に大きい、光変調器。」
である点で一致し、以下の点において一応相違する。

(ア)本願補正発明は、進行波電極にはその進行波電極の基本モードが伝搬するのに対し、引用発明は、進行波電極にその進行波電極の基本モードが伝搬するのか否か必ずしも明らかでない点(以下「相違点1」という。)。
(イ)本願補正発明は、基板の断面の厚みL_(Z)とこの方向における高周波電気信号の等価屈折率n_(Z)の積を0.4mmより大きく且つ15mmよりも小さく構成するのに対し、引用発明は、基板の断面の方向における高周波電気信号の等価屈折率n_(Z)の値が明らかではなく、基板の断面の厚みL_(Z)とこの方向における高周波電気信号の等価屈折率n_(Z)の積が0.4mmより大きく且つ15mmよりも小さく構成されているか否か明らかではない点(以下「相違点2」という。)
(ウ)本願補正発明は、基板の断面の厚みL_(Z)方向の共振の次数をm_(Z)、真空中の光速をc_(O)とするとき、f_(C)=(c_(O)/2)・m_(Z)/(n_(Z)・L_(Z))として与えられる共振周波数f_(C)が、高周波電気信号の周波数よりも高くなるのに対し、引用発明は、上記式で与えられる共振周波数f_(C)が高周波電気信号の周波数よりも高いか否か明らかではない点(以下「相違点3」という。)

オ 上記相違点につき検討する。
(ア)相違点1について
引用発明は、「コプレナーウエーブガイド型(CPW)の形態を有する接地電極および信号電極を使用」するものであり、その「信号電極」にはその基本モードの進行波が伝搬するものと推認されるから、上記相違点1は実質的な相違点ではない。

(イ)相違点2について
LN(LiNbO_(3))光変調器の、基板断面方向(z方向)における高周波電気信号の等価屈折率n_(Z)につき、本願明細書には以下の記載がある。

「【0039】
…多くの場合、n_(x)=n_(y)=6.56、n_(z)=5.29と考えてよい。」

本願明細書の上記記載によれば、Zカットのニオブ酸リチウム基板の光変調器の基板断面の厚み方向における高周波電気信号の等価屈折率n_(Z)の値は、「5.29」であるといえる。
しかるところ、引用発明は、「実施例において、…基板1の…厚さ」が「0.4mm」であって、基板1の厚さ(0.4mm)とこの方向における高周波電気信号の等価屈折率n_(Z)(5.29)の積の値は2.116mmとなるものであり、その積の値は0.4mmより大きく且つ15mmよりも小さいといえるから、上記相違点2は実質的な相違点ではない。

(ウ)相違点3について
本願補正発明の「f_(C)=(c_(O)/2)・m_(Z)/(n_(Z)・L_(Z))」なる式に関し、本願明細書には以下の記載がある。

「【0038】
…図11に示すz-カットLN基板1からなる誘電体共振器の共振周波数が周波数ディップf_(C)に対応すると考える。この周波数ディップf_(C)は、図11におけるz-カットLN基板1の上面(進行波電極が形成されている基板面)と下面(進行波電極が形成されている基板面と反対の基板面)に金属がある場合には
f_(C)=(c_(0)/2)・{(m_(x)/(n_(x)・L_(x)))^(2)+(m_(y)/(n_(y)・L_(y)))^(2)+(m_(z)/(n_(z)・L_(z)))^(2)}^(1/2) (2)
…となる。
【0039】
ここで、m_(x)、m_(y)、及びm_(z)は共振の次数を表す自然数であり、問題となるのは最も低い次数(つまり、1)の共振周波数である。

【0043】
…(2)式…において、
L_(z)<<L_(y)、L_(x) (4)
と仮定すると、(2)式…は…
f_(c)=(c_(0)/2)・m_(z)/(n_(z)・L_(z)) (5)
…と表現でき、z-カットLN基板1の最も短くなる辺の長さ(ここでは、LN基板の厚みL_(z))により周波数ディップf_(c)が決定できる。
【0044】
ここで、(4)式が成り立つと仮定できる条件について考察する。z-カットLN基板1の長さL_(y)は充分長いので、L_(z)<<L_(y)は当然成り立っている。従って、次に、残るL_(z)とL_(x)の関係について考える。L_(x)は周波数ディップf_(c)の式の中にL_(x)の自乗に反比例する形式で入っているので、L_(x)はL_(z)の2倍以上の大きさであるとすると周波数ディップf_(c)に対するL_(x)の影響はL_(z)の影響の1/4と充分小さくなり、L_(z)<<L_(x)が成り立つと考えることができる。…」

本願明細書の上記記載によれば、本願補正発明の上記「f_(C)=(c_(O)/2)・m_(Z)/(n_(Z)・L_(Z))」なる式は、本願の図11に示される平板上のz-カットLN基板1の上面、下面に金属がある場合であって、L_(z)<<L_(y)、L_(x)(ただし、L_(x)はL_(z)の2倍以上の大きさ)が成り立つ場合に、周波数ディップf_(C)を表現する式として成立するものであると認められる。
一方、引用発明の「導波路型光デバイス」は、「(平板上の、Zカットのニオブ酸リチウムの)基板1」の上に「厚さ15-30μmの金属メッキからなる電極2、4、5を形成し」たものであって、「基板1」の長さ(60mm)や、「基板1」の光導波路と垂直な断面の幅(1.755mm、1.960mm、2.569mm)(上記ウ(ア)?(ウ)参照。)は、当該「基板1」の厚さ(0.4mm)よりも4倍以上大きなものであるから、引用発明の「導波路型光デバイス」も、周波数ディップf_(C)を表現する式に関し、本願補正発明と同様に、上記式が成立するものといえる。
そして、引用発明は、「実質的ロスディップ周波数」が「41GHzまで上昇した」ものであるから、上記式で与えられる共振周波数f_(C)が高周波電気信号の周波数よりも高いものであるといえる。
よって、上記相違点3は実質的な相違点ではない。

以上のとおり、上記相違点1?3は、いずれも実質的な相違点とはいえないから、両発明の間には差異はない。

したがって、本願補正発明は、引用刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成23年4月22日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の1において補正前の請求項1として示したとおりのものである。

2 刊行物記載の発明
原審における拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された引用刊行物及び引用発明は、上記第2の2(1)のとおりである。

3 対比、判断
本願発明は、上記第2の2(2)で検討した本願補正発明において、「基板の断面の最も長くなる辺の長さL_(longest)」を「基板の断面の横幅L_(X)」とする限定、「基板の断面の最も短くなる辺の長さL_(shortest)」を「基板の断面の厚みL_(Z)」とする限定、「高周波電気信号の等価屈折率n_(shortest)」を「高周波電気信号の等価屈折率n_(Z)」とする限定、及び、「(基板の断面の最も短くなる辺の長さL_(shortest)方向の共振の次数)m_(shortest)」を「(基板の断面の厚みL_(Z)方向の共振の次数)m_(Z)」とする限定を省いて、それぞれもとに戻したものである。そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記第2の2(2)で検討したとおり、引用刊行物に記載された発明であるから、本願発明も同様の理由により、引用刊行物に記載された発明である。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-11-01 
結審通知日 2012-11-06 
審決日 2012-11-19 
出願番号 特願2006-167420(P2006-167420)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02F)
P 1 8・ 113- Z (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 宙子  
特許庁審判長 吉野 公夫
特許庁審判官 松川 直樹
小松 徹三
発明の名称 光変調器  
代理人 有我 軍一郎  

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