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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G09G
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G09G
管理番号 1269207
審判番号 不服2011-10925  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-05-24 
確定日 2013-01-23 
事件の表示 特願2004-134204「液晶表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月10日出願公開、特開2005-316146〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
この審判事件に関する出願(以下、「本願」という。)は、平成16年4月28日にされた特許出願である。そして、平成22年6月18日付けの手続補正により明細書及び特許請求の範囲についての補正がされ、平成23年1月20日付けで拒絶査定がされ、同年1月25日に査定の謄本が送達された。これに対して、同年5月24日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に明細書及び特許請求の範囲についての補正がされた。その後、当審の平成24年3月21日付け審尋に対し、同年6月26日付け回答書が提出された。

2.本願に係る発明
本願の請求項1から3までのそれぞれに係る発明は、平成22年6月18日付けの手続補正及び審判請求時の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1から3までのそれぞれに記載された事項によって特定されるとおりのものである。特に、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
第1の画像データをビット数の少ない第2の画像データに変換する変換回路と、
前記第2の画像データを記憶するためのフレームメモリと、
前記変換される現フレームの第2の画像データと前記フレームメモリから出力される前フレームの第3の画像データとの第1の差分データを画素単位で出力する差分回路と、
前記第1?第3のいずれかの画像データに応じて、前記第1の差分データを前記変換回路の変換前の画像データレベルに逆変換し、前記逆変換した画像データレベルに応じた第2の差分データを出力する逆変換回路と、
制御信号に応じて前記変換回路の変換方法及び前記逆変換回路の逆変換方法を対で変化させる制御回路と、
前記第1?第3のいずれかの画像データに応じて、前記逆変換回路により変換された第2の差分データを補正する補正回路と、
前記補正された第2の差分データと前記第1の画像データとを加算する加算回路とを有する液晶表示装置。」

3.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略以下のとおりである。

(1)本願の発明の詳細な説明の記載からは、当業者であっても、「逆変換」がどのように行われているのかを理解することができない。したがって、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(2)本願の発明の詳細な説明の記載を参酌しても、特許請求の範囲に記載された「逆変換」の意味が明確でない。したがって、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

4.判断
(1)発明の詳細な説明の記載
「逆変換」については、段落0041、0046、0047及び0049に記載がある。
段落0046の「特性801及び802とで共通の補正テーブル212を使用可能にするために、逆変換ルックアップテーブル1202を設ける。」という記載、及び段落0049の「画像データをルックアップテーブル901で変換した後、逆変換ルックアップテーブル1202で逆変換することにより、共通の補正テーブル212を使用することができる。特性801及び802に応じて、異なる補正テーブル212を設ける必要がなくなる。」という記載から、「逆変換ルックアップテーブル1202」は、「特性801」と「特性802」とで「差分データS24」が異なる値になっても、共通の「補正テーブル212」を使用可能にすることを目的として設けられていることが分かる。
一方、「逆変換ルックアップテーブル1202」の機能については、「画像データS23に応じて、差分データS24を逆変換し、差分データS25を出力する。」、「ルックアップテーブル901の変換に対して逆変換を行う。」、「差分データS24は、特性801及び802のいずれであっても、同じ入力画像データS21のレベルに逆変換される。」(以上段落0047)及び「画像データをルックアップテーブル901で変換した後、逆変換ルックアップテーブル1202で逆変換する」(段落0049)という記載がある。これらの記載から、「逆変換ルックアップテーブル1202」が「逆変換」をするものであることは、理解することができる。しかし、その「逆変換」が具体的にどのような操作であるかについては、明記されていない。
そこで、発明の詳細な説明の記載に基づき、「逆変換ルックアップテーブル1202」の機能、特に「逆変換」という操作を理解することができるか否かについて検討する。

(2)検討1-「逆変換」を通常の意味に解釈した場合
まず、「逆変換」は、液晶表示装置の技術分野において特定の技術事項を意味する用語として定着しているとは認められない。そこで、「逆変換」を通常の意味に解釈することにする。そうすると、「変換」とは、「広辞苑第六版」によれば、「かえること。かわること。」である。また、「逆」とは、同じく「広辞苑第六版」によれば、「物事の順序や方向が反対であること。さかさま。」であるから、「逆変換」とは、「変換と反対の方向にかえること。変換と反対の方向にかわること。」であると認められる。
段落0042には、「ルックアップテーブル901は、mビットの画像データS21をnビット(n<m)の画像データS22に変換する。」という記載があり、これは、「mビットの画像データS21をnビットの画像データS22にかえること」を意味している。したがって、発明の詳細な説明において、「変換」は、「かえること。」という通常の意味に用いられていると認められる。そうすると、「逆変換」も、「反対の方向にかえること。」という通常の意味に用いられていると考えるのが順当である。
既に述べたとおり、段落0042には、「ルックアップテーブル901は、mビットの画像データS21をnビット(n<m)の画像データS22に変換する。」という記載がある。したがって、これに対応する「逆変換」は、「変換」とは方向が反対の「nビットの画像データS22をmビットの画像データS21にかえること」を意味することになる。
ここで、nはmより小さい(n<m)ので、この「逆変換」は、情報量が少ない画像データ(nビットの画像データS22)から情報量が多い画像データ(mビットの画像データS21)を復元する操作である。しかし、情報量が多い画像データから情報量が少ない画像データへの変換によって失われた情報は、情報量が少ない変換後の画像データから知ることができず、したがって、情報量が少ない画像データから情報量が多い画像データを復元することができないことは、技術常識である。
そうすると、発明の詳細な説明の記載は、技術常識に反するものであり、それに基づいて、「逆変換ルックアップテーブル1202」の機能、特に「逆変換」がどのような操作であるかを理解することはできない。

(3)検討2-「逆変換」を目的に合わせて解釈した場合
上記(2)では、「逆変換」を通常の意味に解釈したが、以下では、「逆変換ルックアップテーブル1202」を設ける目的に合わせて「逆変換」の意味を柔軟に解釈し、発明の詳細な説明の記載から「逆変換」という操作を理解することができるか否かについて検討する。

上記(1)で述べたとおり、「逆変換ルックアップテーブル1202」が設けられているのは、「特性801」と「特性802」とで「差分データS24」が異なる値になっても、共通の「補正テーブル212」を使用可能にするためである。そこで、「特性801」と「特性802」とで「差分データS24」がどのように異なるかを、発明の詳細な説明の記載に従って具体的に把握し、そのような場合でも共通の「補正テーブル212」を使用可能にする手段・方法を、発明の詳細な説明の記載から読み取ることができるか否かを検討することにする。
段落0042及び0043に記載されているように、「ルックアップテーブル901」は、そこに書き込まれている「特性801」又は「特性802」に従って、「mビットの画像データS21」を「nビットの画像データS22」に変換する。例えば、m=8、n=4の場合を考えると、「画像データS21」は、図14に示されたグラフの横軸(入力階調)であり、0から255までの256(=2^(8))通りの値をとる。また、「画像データS22」の値は、最大で16(=2^(4))通り(0から15まで)の値をとり、図14に示されたグラフの各曲線上の複数の黒点(図14では各曲線上の11個の黒点)のいずれかに対応する。例えば、「特性801」に対応する実線上の複数の黒点が、左から順に「画像データS22」の値0、1、2、…、11に対応し、「特性802」に対応する破線上の複数の黒点が、やはり左から順に「画像データS22」の値0、1、2、…、11に対応するものとすると、「ルックアップテーブル901」における変換の具体例として、次のようなものが考えられる。この変換は、与えられた入力階調(S21)に対し、その入力階調と等しいかそれより小さい入力階調に対応する1つ以上の黒点のうち、最も大きな入力階調に対応する黒点に対応する値(S22)を対応付ける操作である。

(変換の具体例)
S21 S22 S22
(特性801)(特性802)
0 0 0
50 4 3
100 5 4
150 6 5

ところで、段落0049には、「第2の実施形態によれば、1フレーム分の画像データに応じて、フレーム毎にガンマ特性を切り替えることができる。」という記載がある。「ガンマ特性の切り替え」とは、具体的には「特性801」と「特性802」とを切り替えることである。それが「フレーム毎」に行われるのであるから、段落0046の「差分データS24は、特性801及び802によって異なる値になってしまう。」という記載は、以下の2通りの意味に解釈することできる。

(解釈1)
前フレームと現フレームとでガンマ特性が変化せず、そのガンマ特性が「特性801」の場合と「特性802」の場合とで、「差分データS24」が異なる値になる。

(解釈2)
前フレームと現フレームとでガンマ特性が変化しない(例えば「特性801」のままである)場合と変化する(例えば「特性801」が「特性802」に変わる)場合とで、「差分データS24」が異なる値になる。

以下、それぞれについて、発明の詳細な説明の記載を上記の具体例に当てはめて検討する。

ア.解釈1の場合
上記の具体例において、入力階調が、例えば前フレームの0から現フレームの100に変化したとき、「差分データS24」は、「特性801」では+5(=5-0)であり、「特性802」では+4(=4-0)であるから、段落0046に記載されているとおり、入力階調及びその変化が同じでも、「差分データS24」は異なる値になっている。
このように「差分データS24」の値が異なることによって生じる問題点は、段落0036から0040までに記載されている。それを上記の具体例に当てはめると、以下のとおりである。すなわち、図9に示された高速応答回路では、「ルックアップテーブル901」が「特性801」に従った変換を行うと、「フレームメモリ202」から「画像データS13」として0が出力され、「比較回路211」から「差分データS14」として+5が出力される。そして、「特性801」に対応した補正データを読み込んだ「補正テーブル212」が「差分データS14」を補正し、「差分データS15」を出力する。ところが、「ルックアップテーブル901」が「特性802」に従った変換を行うと、「画像データS13」として0が出力されるが、「差分データS14」としては+4が出力されるため、入力階調及びその変化が同じであるにもかかわらず、「補正テーブル212」から出力される「差分データS15」の値が変化してしまう。

段落0046に記載されているように、図12に示された高速応答回路では、上記の問題に対処するため、「逆変換ルックアップテーブル1202」が設けられている。図12に示されたブロック図を参照すると、「逆変換ルックアップテーブル1202」に入力されるデータは、「基準電源変換演算部1201」の出力データ、「画像データS23」及び「差分データS24」の3種類である。
段落0042及び0043に記載されているように、「基準電源変換演算部1201」は、「ルックアップテーブル901」に「特性801」又は「特性802」を書き込む回路である。その出力データが「逆変換ルックアップテーブル1202」の入力データになっているということは、「ルックアップテーブル901」に書き込まれたデータが、「逆変換ルックアップテーブル1202」にも書き込まれるということである。
一方、「画像データS23」及び「差分データS24」は、いずれも、「特性801」を表す実線又は「特性802」を表す破線の上の複数の黒点のいずれかに対応付けられている。「画像データS23」の値は、前フレームにおける黒点に対応付けられており、「差分データS24」は、現フレームにおける黒点に対応付けられた値と「画像データS23」の値との差分である。上記の具体例で言えば、「特性801」において、「画像データS23」が0、「差分データS24」が5であるということは、実線上の黒点0から黒点5に変化したことを意味する。同様に、「特性802」において、「画像データS23」が0、「差分データS24」が4であるということは、破線上の黒点0から黒点4に変化したことを意味する。すなわち、「画像データS23」と「差分データS24」とで、実線上又は破線上の2つの黒点が指定される。
「逆変換ルックアップテーブル1202」が「基準電源変換演算部1201」の出力データ、「画像データS23」及び「差分データS24」を入力データとし、それらに基づいて「差分データS25」を出力するということから、「画像データS25」は、「特性801」又は「特性802」と、それに対応する実線上又は破線上で指定された2つの黒点とから導き出される差分データであるということが分かる。
そこで、図14に示されたグラフにおいて、「特性801」を表す実線と、その上の2つの黒点として黒点0及び黒点5が与えられたとき、どのような差分データを導き出すことができるかを考えると、直ちに理解されるのは、以下の2つである。

駆動電圧の差分:黒点0の駆動電圧と黒点5の駆動電圧との差分
入力階調の差分:黒点0の入力階調と黒点5の入力階調との差分

ここで、段落0047の「差分データS24は、特性801及び802のいずれであっても、同じ入力画像データS21のレベルに逆変換される。」という記載を考慮すると、「差分データS25」としては、「駆動電圧の差分」より「入力階調の差分」の方が妥当であると判断される。
もともと「差分データS24」は、入力階調である「画像データS21」を変換して得られた2つの「画像データS22」の差分であるから、入力階調を変換して得た差分データを再び入力階調(正確には、その差分)に変換するという点に着目すれば、「差分データS24」から「入力階調の差分」を導き出す操作を「逆変換」と呼ぶことには妥当性が認められる。「逆変換ルックアップテーブル1202」における操作を「逆変換」と呼ぶことも、その意味で理解することができる。
したがって、「逆変換ルックアップテーブル1202」における「逆変換」を、「差分データS24」から「入力階調の差分」への変換という意味に解釈することは、発明の詳細な説明の記載と整合していると認められる。

しかし、「逆変換ルックアップテーブル1202」における「逆変換」を、「差分データS24」から「入力階調の差分」への変換という意味に解釈しても、以下に述べるとおり、なぜ共通の「補正テーブル212」が使用可能になるのかを理解することができない。
上記の具体例で言えば、「特性801」において、「画像データS23」が0、「差分データS24」が5であるとき、実線上の黒点0及び黒点5に対応する入力階調を図14から読み取ると、それぞれ0及び60であるので、「逆変換ルックアップテーブル1202」は、「差分データS24」の値5(実線上の黒点0から黒点5への変化を表す値5)を、「入力階調の差分」の値60(実線上の黒点0に対応する入力階調0から実線上の黒点5に対応する入力階調60への変化)に「逆変換」する。「補正テーブル212」は、この「入力階調の差分」の値60に基づいて、補正を行う。
一方、「特性802」において、「画像データS23」が0、「差分データS24」が4であるとき、破線上の黒点0及び黒点4に対応する入力階調を同様に図14から読み取ると、それぞれ0及び55であるので、「逆変換ルックアップテーブル1202」は、「差分データS24」の値4(破線上の黒点0から黒点4への変化を表す値4)を、「入力階調の差分」の値55(破線上の黒点0に対応する入力階調0から破線上の黒点4に対応する入力階調55への変化)に「逆変換」する。しかし、「補正テーブル212」は、今度は、先の「特性801」の場合と異なり、「入力階調の差分」の値60ではなく、「入力階調の差分」の値55に基づいて補正を行わなければならない。
これは、「特性802」用の「補正テーブル212」が「特性801」用の「補正テーブル212」と同じものではないことを意味する。すなわち、「特性801」と「特性802」とで、共通の「補正テーブル212」を使用することはできないことになる。
一般に、「差分データS24」を「逆変換」して得られる「入力階調の差分」は、「特性801」と「特性802」とで異なるから、それぞれに対応した「補正テーブル212」を用意する必要があると思われる。

イ.解釈2の場合
上記の具体例において、入力階調が、例えば前フレームの50から現フレームの150に変化したとする。前フレームも現フレームも「特性801」のままであれば、「差分データS24」は、+2(=6-4)である。一方、前フレームは「特性801」だったが、現フレームは「特性802」に変わったとすると、「差分データS24」は、+1(=5-4)である。したがって、段落0046に記載されているとおり、入力階調及びその変化が同じでも、「差分データS24」は異なる値になっている。

上記ア.で述べたとおり、「逆変換ルックアップテーブル1202」に入力されるデータは、「基準電源変換演算部1201」の出力データ、「画像データS23」及び「差分データS24」の3種類である。前フレームも現フレームも「特性801」のままであれば、これら3種類の入力データは、全て「特性801」に関連付けられている。したがって、「補正テーブル212」としては、「特性801」用のものを用意しておけばよい。
一方、前フレームの「特性801」が現フレームの「特性802」に変わったとすると、「画像データS23」は、「特性801」に関連付けられている。また、「差分データS24」は、「特性801」で得られた前フレームの「画像データS23」と「特性802」で得られた現フレームの「画像データS23」との差分データであるから、「特性801」と「特性802」との両方に関連付けられている。そして、段落0047に「基準電源変換演算部1201は、制御信号S28に応じて、ルックアップテーブル901及び1202の内容を演算して対で書き換える。」と記載されているように、「逆変換ルックアップテーブル1202」には、現フレームの「特性802」が書き込まれている。
「画像データS23」及び「差分データS24」から、共通の「補正テーブル212」、すなわち「特性801」用の「補正テーブル212」に入力すべき「差分データS25」を導き出すには、「差分データS24」に含まれている「特性802」で得られた情報を、「特性801」で得られた情報に換算する必要がある。そのためには、少なくとも「特性801」と「特性802」との対応関係が、「逆変換ルックアップテーブル1202」に書き込まれている必要があると思われる。しかし、上述のとおり、「逆変換ルックアップテーブル1202」には、現フレームの「特性802」が書き込まれているだけであるから、そのような換算が可能であるとは認められない。

ウ.検討2のまとめ
以上のとおりであるから、「逆変換ルックアップテーブル1202」における「逆変換」を、その目的に合わせて解釈しようとしても、発明の詳細な説明の記載からは、「逆変換ルックアップテーブル1202」の機能、特に「逆変換」がどのような操作であるかを理解することができない。

(4)判断のまとめ
本願の発明の詳細な説明は、「逆変換」がどのような操作であるかを当業者が理解できるように記載されていないから、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。
また、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、本願発明における「逆変換」の意味を理解することができないから、本願発明は明確でない。

5.請求人の主張について
(1)審判請求書における主張について
請求人は、審判請求書の「本願発明が特許されるべき理由」の(3-1)において、「逆変換」について次のように主張している。

「ところが、画像データと液晶駆動電圧との関係曲線が同じでない場合、同じ階調差でも差分データは異なることになります(同段落[0046])。
このため、1フレームメモリに書き込まれた1フレーム前の画像データS23と現フレームの画像データS22の差分データS24と画素データS23とを逆変換回路(逆変換ルックアップテーブル)1202を用いて変換し、元の画像データと液晶駆動電圧との関係曲線を求め、異なる画像データと液晶駆動電圧との関係曲線に対し、曲線の差を補正した差分データを出力します。例えば、図8の特性801及び802でも、同じ階調差であれば、所定の差分データになるようにします。これが本願請求項1でいう逆変換です。
すなわち、逆変換回路の逆変換は、サンプリングデータを例えば逆変換ルックアップテーブル1202に基づき、元の画像データを求め、液晶駆動電圧がどの関係曲線でサンプリングされたかを検知し、画像データと液晶駆動電圧との関係曲線を参照して、所定の差分データを出力する変換を言います。」

請求人が主張するように、画像データと液晶駆動電圧との関係曲線(ガンマ特性)が同じでない場合、同じ階調差でも差分データが異なることは、上記4.(3)でみたとおりである。また、ガンマ特性に関係なく、階調差が同じであれば差分データも同じになるようにするために、「逆変換」が行われることも、発明の詳細な説明に記載されている。
しかし、既に述べたとおり、発明の詳細な説明の記載からは、「逆変換」が具体的にどのような操作であるかを理解することができない。
また、請求人が「逆変換」であると主張する変換は、「サンプリングデータ」から「元の画像データ」を求めることを含んでいる。これは、要するに、情報量が少ない画像データから情報量が多い画像データを復元することを意味しており、上記4.(2)で述べたとおり、技術常識に反することである。
なお、情報量が少ない画像データから情報量が多い画像データを復元できないことは、審判請求書の「本願発明が特許されるべき理由」の(3-2)で請求人も認めており、請求人の主張は、そもそも矛盾している。
請求人の主張は、採用することができない。

(2)回答書における主張について
請求人は、回答書の(ロ-2)において、「逆変換ルックアップテーブル1202」の機能について、次のような主張をしている。下線は、請求人が付したものである。

「また、現在の画像データS21が特性801から特性802に変わる場合、基準電源変換演算部1201は、特性801をLUT901に書き込み、さらに、特性801と特性802を逆変換LUT1202に書き込みます。即ち、逆変換LUT1202には、現在の画像データ21である8ビットの50について、特性801での4ビットの5に変換できるし、特性802での4ビットの4に変換できることを記憶しています。
続いて、特性801のLUTに基づいて、現在の画像データS21である50は、画像データS22である5に変換されます。比較回路211は、S22マイナスS23で、5-6=-1を第一の差分データS24として、逆変換LUTに入力しますが、第1の差分データ24は前記特性が変わることによる駆動電圧の誤差に影響されるので、逆変換LUT1202は、第一の差分データS24を無視します。
代わりに、逆変換LUT1202は、特性801と特性802に基づいて、現在の画像データ21である8ビットの50について、既に特性801で変換した4ビットの5を、さらに特性802で逆変換して、4ビットの4にします。また、画像データS23である4ビットの6と、前記逆変換で得る4ビットの4で、第2の差分データS25(4-6=-2)を補正テーブルに入力します。よって、補正演算回路213は、第2の差分データS25に基づいて、現在の画像データS21の駆動電圧を、二段階である0.8V下げることで正しく補正します。即ち、本願の逆変換は、特性が変わる場合、基準特性を維持しながら、前記駆動電圧の誤差を補正するためのものです。従って、ROM203は、基準特性だけを記憶することで済み、前記第1の実施形態の問題を克服します。」

しかし、請求人の主張は、以下に述べるとおり、発明の詳細な説明の記載と整合していない。

第1に、請求人の主張は、段落0043の記載と整合していない。
段落0043には、以下の記載がある。

「【0043】
図14は、図8に対応し、ルックアップテーブル901に選択的に書き込まれる2種類の特性801及び802のデータの例を示す。実線及び破線は、mビットの画像データS21に対応する。実線及び破線上の黒点は、nビットの画像データS22に対応する。第1の実施形態(図11)と同様に、画像データS22に対応する液晶駆動電圧レベル(図14の縦軸)が等間隔になるように画像データS21を画像データS22にマッピングする。例えば特性801から特性802に変更する場合、変更前の特性801と変更後の特性802において、液晶駆動電圧が等しくなるように、ルックアップテーブル901が設定される。」

「画像データS21」の特性が「特性801」から「特性802」に変わる場合に「LUT901」に書き込む特性は、請求人の主張によれば「特性801」であるが、段落0043の記載によれば「特性802」である。請求人の主張は、発明の詳細な説明の記載と矛盾している。

第2に、請求人の主張は、段落0042及び0047の記載と整合していない。
段落0042及び0047には、以下の記載がある。

「【0042】
…(略)…図12において、それに伴い、基準電源変換演算部1201は、同じ制御信号S28に応じて、ルックアップテーブル901の内容を演算して書き換える。…(略)…」

「【0047】
…(略)…基準電源変換演算部1201は、制御信号S28に応じて、ルックアップテーブル901及び1202の内容を演算して対で書き換える。…(略)…」

段落0042及び0047に記載されているように、「基準電源変換演算部1201」は、「ルックアップテーブル901」及び「ルックアップテーブル1202」の内容を演算して対で書き替える。一方、段落0043に記載されているように、「ルックアップテーブル901」には、「特性801」及び「特性802」が選択的に書き込まれる。これらのことから、「ルックアップテーブル1202」にも、「特性801」及び「特性802」が選択的に書き込まれると認められる。
ところが、請求人の主張は、「基準電源変換演算部1201は、特性801をLUT901に書き込み、さらに、特性801と特性802を逆変換LUT1202に書き込みます。」というものである。これは、「逆変換ルックアップテーブル1202」に「特性801」及び「特性802」が同時に書き込まれるということであり、発明の詳細な説明と矛盾している。

第3に、請求人が「逆変換」であると主張する変換は、どのような意味で「逆」であるのかを理解することができない。
請求人は、「逆変換」について、「代わりに、逆変換LUT1202は、特性801と特性802に基づいて、現在の画像データ21である8ビットの50について、既に特性801で変換した4ビットの5を、さらに特性802で逆変換して、4ビットの4にします。」と主張している。
ここで、「8ビットの50」から「4ビットの5」への変換は、「ルックアップテーブル901」における「変換」、すなわち「mビットの画像データS21をnビットの画像データS22にかえること」を指している。一方、請求人が「逆変換」であると主張する変換は、「4ビットの5」から「4ビットの4」への変換であるから、「nビットの画像データからnビットの画像データへの変換」である。しかし、この「変換」は、「ルックアップテーブル901」における「変換」、すなわち「mビットの画像データS21をnビットの画像データS22にかえること」に対して、どのような意味で「逆」であるのかを理解することができない。また、それ以外のどのような変換に対して「逆」であるのかも理解することができない。
したがって、たとえ当業者であっても、「逆変換」という記載が「nビットの画像データからnビットの画像データへの変換」を意味することを理解することはできない。

請求人の主張は、採用することができない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。また、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-15 
結審通知日 2012-08-21 
審決日 2012-09-11 
出願番号 特願2004-134204(P2004-134204)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (G09G)
P 1 8・ 536- Z (G09G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 奈良田 新一  
特許庁審判長 小林 紀史
特許庁審判官 飯野 茂
▲高▼木 真顕
発明の名称 液晶表示装置  
代理人 國分 孝悦  
代理人 高野 弘晋  
代理人 岸田 正行  
代理人 水野 勝文  

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