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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K |
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管理番号 | 1270497 |
審判番号 | 不服2010-19527 |
総通号数 | 160 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-04-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-08-30 |
確定日 | 2013-02-21 |
事件の表示 | 特願2005- 77273「劣化防止剤」拒絶査定不服審判事件〔平成17年10月27日出願公開、特開2005-298816〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、優先権主張(優先日 平成16年3月19日)を伴って、平成17年3月17日に出願され、平成21年9月8日付けで拒絶理由が通知され、同年11月16日に意見書及び手続補正書が提出され、平成22年1月12日付けで拒絶理由が通知され、同年3月16日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月26日付けで拒絶すべき旨の査定がなされ、これに対して、同年8月30日に拒絶査定不服審判が請求され、当審において平成24年7月20日付けで拒絶理由が通知され、同年9月18日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2.本願発明 本願の請求項1?11に係る発明は、平成24年9月18日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりものであると認められ、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は次のとおりである。 「【請求項1】 非水溶性酸化防止剤および水溶性酸化防止剤を含み、非水溶性酸化防止剤がカルノソール及びカルノジック酸、水溶性酸化防止剤がロスマリン酸であって、当該劣化防止剤中のカルノソール及びカルノジック酸の合計含有量が20重量%以上、ロスマリン酸の含有量が0.5重量%以上であり、カルノソール及びカルノジック酸の合計含有量に対するロスマリン酸の含有量の重量比率が1/2?1/30であることを特徴とする劣化防止剤。」 第3.当審における拒絶理由の概要 当審における拒絶の理由は、「本願に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない」というものであり、併せて以下の文献を引用している。 1.特開平8-253764号公報 第4.当審の判断 4-1.引用刊行物1の記載事項 本願出願前に頒布された特開平8-253764号公報(以下「引用刊行物1」という。)には次の事項が記載されている。 下線は当審にて付与した。 摘示1A. 「【請求項1】全水分含量5?30重量%の植物物質をC_(2)?C_(6)アルキレングリコールと混合し、全体は40バール以上の圧力に加圧処理することを特徴とする、植物物質から抗酸化剤を抽出する方法。 【請求項2】出発植物物質として、抗酸化剤含有スパイス、特にローズマリー、セージ、タイム、マヨラナおよびクローブ、および抗酸化剤含有植物、特に緑茶、コーヒー、馬鈴薯剥皮およびトマト皮を単独または混合物として使用する、請求項1記載の方法。」 摘示1B. 「【0004】 【課題を解決するための手段】本発明により、以前に抽出されたものと比較して、抽出により一層広汎なスペクトル抗酸化剤化合物を得ることができる。実際に、例えば本発明に従ってローズマリー抗酸化剤をプロピレングリコールにより圧搾抽出する場合、カルノソールおよびカルノシン酸の他に、主としてローズマリン酸が抽出される。」 摘示1C. 「【0011】第1回抽出はMCT、すなわちC_(6) ?C_(12)の平均鎖長を有するトリグリセリド混合物により行ない、出発植物物質に含まれる抗酸化剤、すなわち油溶性抗酸化剤のほんの一部分を抽出することができる。次に第2回抽出は残留抗酸化剤を単離するために最初の圧搾ケーキに対し本発明に従って行なうことができる。実際上、例えばローズマリーの場合、主としてカルノソールおよびカルノシン酸は第1回抽出中MCTにより抽出できる。次に出発ローズマリー葉は再循環し、第2回抽出を主としてローズマリン酸を単離するために、1,2-プロピレングリコールにより行なうことができる。 【0012】植物物質の酵素前処理は抽出収量を増加するために行うことができる。実際上、例えばローズマリーの場合、抽出収量は約40℃で約4時間攪拌しながら1重量%のグルカナーゼにより酵素前処理を行なうことにより20?30%増加できる。次に処理植物物質は乾燥前濾別または遠心分離により除去される。」 摘示1D. 「【0015】本発明は、本発明に従って得た植物起源の有効量の抗酸化剤抽出物をエマルジョンに添加することを特徴とする栄養、香粧および医薬エマルジョンの保護方法にも関する。」 摘示1F. 「【0017】 【実施例】 例1?5 100gの1,2-プロピレングリコールを、切截し、未ストリッピングの植物物質100gに添加した。全体は80℃で60分攪拌しながら保持した。混合物はCarver(商標)型のピストンプレスで、500バールで60分間圧搾した。抗酸化剤含有透明液を集めた。110℃で各種油脂のランシマット(商標)試験および30℃で各種油の酸素電極方法により表1に示す誘導指数形の抗酸化力を得た。誘導指数は誘導時間(試料+油)/誘導時間(油)の比として規定される。例1?5では、全く加水しないローズマリー、セージ、タイムおよびマヨラナおよび10%加水の緑茶を出発植物物質としてそれぞれ使用した。 酸化試験:酸化電極、30℃ エマルジョンは5%の油(pH7の緩衝溶液中の油、NO9477、Merck,Darmstadt,Germany)および指示%の抗酸化剤を窒素下で30分烈しく攪拌しながら0.1%の乳化剤と混合し、H5000マイクロ流動化装置で30℃で6回逐次通して乳化することにより調製した。次に酸化に対するエマルジョンの安定性はOX1530(商標)酸素メータに連結したTR1 OX EO200(商標)電極により測定した。飽和酸素%が一定値になるまで5?10分間を要した。この測定は5mlのHaemin触媒(Fluka AG,Buchs,CH)を100mlのエマルジョンに添加後、30℃で密閉容器で行なった。Haemin触媒は100mlの水中の52mgのHaemin溶液から調製し、これに8滴の10%KOHを添加した。誘導時間は溶存酸素の総吸収時間で表わした。 ランシマット(商標)酸化試験、110℃ 試料を密閉反応器に入れた。試料を110℃に加熱し、反応器に導入した空気からの酸素により飽和させた。酸化中、反応器自体は白金電極を浸漬した蒸留水を入れた受け器に柔軟性管により連結した。揮発性化合物は電導度を増加させた。電導度を測定し、誘導期間を計算した。誘導時間はカーブに対する切線と時間軸の交点により時間の関数として電導度の引かれたカーブから図示して測定した。 表 1 ランシマット(商標)試験では、測定はメイズ基準、チキン脂肪基準、または大豆油基準で1%の抽出物の存在で行った。酸素電極試験では、測定はエマルジョンに含有されるメイズ油基準、またはエマルジョンに含有される大豆油基準で1%の抽出物の存在で行った。 【表1】 酸素電極試験で誘導指数として示した抗酸化力の測定は、ランシマット(商標)酸化試験で油により得た結果と関連して、エマルジョンの抗酸化剤化合物の特性および安定性を実証した。油により得たものよりはるかに大きいエマルジョンの誘導指数を得たことは全く驚くべきことであった。 【0018】比較例 比較として、ローズマリーから抗酸化剤の抽出を一方では1,2-プロピレングリコールにより圧搾して、他方ではローズマリーから抗酸化剤の抽出はMCTにより圧搾して行った。次に比較は高速液体のクロマトグラフィ(HPLC)により一方または他方の抽出物により得たスペクトルで行った。 1) 50gの1,2-プロピレングリコールを、切截し、蒸気ストリッピングしたローズマリー葉100gに添加し、全体は室温で60分攪拌を続け、混合物はCarver(商標)型のピストンプレスで60分500バールで圧搾し、次に抗酸化剤含有透明液を集めた。HPLCは液体試料で行った。 2) 50gのMCTを、切截し、蒸気ストリッピングしたローズマリー葉100gに添加し、全体は100℃で60分攪拌した。混合物はCarver(商標)型のピストンプレスで500バールで60分圧搾し、次に抗酸化剤含有透明油を集めた。HPLCはこの油試料で行った。図2に示すスペクトルから、1,2-プロピレングリコールによる圧搾抽出は脂溶性抗酸化剤(b,図2)の他に主として水溶性抗酸化剤(a,図2)を単離できることが分かる。一方図1に示すスペクトルから、MCTによる圧搾抽出は脂溶性抗酸化剤(b,図1)のみを単離できることが分かる。実際に、抗酸化剤が1,2-プロピレングリコールにより圧搾抽出される場合、脂溶性抗酸化剤カルノソール2およびカルノシン酸1の他に水溶性抗酸化剤ローズマリン酸3が主として単離され、また抗酸化剤がMCTにより圧搾抽出される場合、主として脂溶性抗酸化剤カルノソール2およびカルノシン酸1が単離された。一方または他方の抽出中に得た抗酸化剤抽出物に対し各種用途が考えられる。栄養物、香粧または医薬エマルジョンを保護するために、1,2-プロピレングリコールにより圧搾抽出して得た抗酸化剤抽出物の使用が好ましい。他方、栄養物、香粧生成物または医薬生成物の脂質相を保護するために、MCTにより圧搾抽出して得た抗酸化剤抽出物、または1,2-プロピレングリコールにより圧搾抽出して得た抗酸化剤抽出物が使用できる。」 摘示1G. 「【0019】例6?11 50gの1,2-プロピレングリコールを、乾燥、切截および未ストリッピング出発植物物質100gに添加した。全体は室温で60分攪拌した。混合物はCarver(商標)型ピストンプレスで、500バールで60分圧搾した。抗酸化剤含有透明液を集めた。チキン脂肪、またはメイズ油の110℃におけるランシマット(商標)試験およびメイズ油の30℃における酸素電極方法により表2に示す誘導指数で抗酸化剤力を得た。例6?11では、ローズマリー、セージ、タイム、マヨラナ、スパイス混合物(40%ローズマリー、20%セージ、20%タイムおよび20%マヨラナ含有)およびクローブをそれぞれ出発植物物質として使用した。」 摘示1H. 「【0023】例19?23 手順は例6?10のように行った。抗酸化剤含有透明液を集めた。各種抽出物から分画した抗酸化剤化合物を同定および定量するためにHPLC測定を行った。結果は表6に示す。 【表6】 上記出発植物物質に対し本発明に従って1,2-プロピレングリコールにより圧搾抽出後抗酸化剤化合物の強スペクトルを得たことは驚くべきことであった。」 摘示1J. 「 【図面の簡単な説明】 ・・・(中略)・・・ 【図2】ローズマリー葉の1,2-プロピレングリコールによる圧搾抽出抗酸化剤のスペクトルである。 【符号の説明】 a 水溶性抗酸化剤 b 脂溶性抗酸化剤 1 カルノシン酸 2 カルノソール 3 ローズマリン酸 【図2】は次のとおり。 」 4-2.引用刊行物1に記載された発明 引用刊行物1のこれらの記載から、引用刊行物1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる(引用刊行物1【0023】【表6】の例19を中心として認定した。)。 引用発明1: 「1,2-プロピレングリコールを、乾燥、切截および未ストリッピングのローズマリーと混合し、500バールで圧搾して得られた、脂溶性抗酸化剤であるカルノソール及びカルノシン酸をそれぞれ0.6%、及び、2.18%、水溶性抗酸化剤であるローズマリン酸を1.36%含有する抗酸化剤含有透明液」 4-3.対比 本願発明1と引用発明1とを対比する。 引用発明1における (i )「脂溶性抗酸化剤であるカルノソール及びカルノシン酸」、 (ii)「水溶性抗酸化剤であるローズマリン酸」、 (iii)水溶性抗酸化剤であるローズマリン酸を「1.36%」、 (iv)カルノソール及びカルノシン酸を「それぞれ0.6%、及び、2.18%」含有し、かつ、ローズマリン酸を「1.36%含有する」含有比率、 (v)「抗酸化剤含有透明液」は、それぞれ、 本願発明1における (i )「非水溶性酸化防止剤が、カルノソール及びカルノジック酸」、 (ii)「水溶性酸化防止剤がロスマリン酸」、 (iii)「ロスマリン酸の含有量が0.5重量%以上」、 (iv)「カルノソール及びカルノジック酸の合計含有量に対するロスマリン酸の含有量の重量比率が1/2?1/30」、 (v)「劣化防止剤」に相当する。 してみると、請求項1に係る発明と引用発明1とは、 「非水溶性酸化防止剤および水溶性酸化防止剤を含み、非水溶性酸化防止剤がカルノソール及びカルノジック酸、水溶性酸化防止剤がロスマリン酸であって、当該劣化防止剤中のロスマリン酸の含有量が0.5重量%以上であり、カルノソール及びカルノジック酸の合計含有量に対するロスマリン酸の含有量の重量比率が1/2?1/30である劣化防止剤」である点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点] 請求項1に係る発明においては、劣化防止剤中のカルノソ-ル及びカルノジック酸の合計含有量が20重量%以上であるのに対して、引用発明1においてはカルノソール及びカルノジック酸の合計含有量は0.6+2.18で2.78%であって、請求項1に規定される数値範囲を満たしていない点。 4-4.相違点に対する判断 上記[相違点]について検討する。 カルノソール及びカルノジック酸、並びに、ロスマリン酸は酸化防止作用を有する劣化防止剤であることから、劣化防止剤中の酸化防止剤含有量を多くすれば、期待される酸化防止作用も多くなることは当業者であれば容易に想起し得る事項に過ぎず、 引用刊行物1(摘示1D.【0015】)に『本発明に従って得た食物起源の有効量の抗酸化剤抽出物をエマルジョンに添加することを特徴とする、栄養、香粧および医療エマルジョンの保護方法にも関する』と記載されていることから、 添加させる対象製品と対象製品の酸化のされやすさに応じて、含有されるカルノソール及びカルノジック酸の量を増減させて適正値にした劣化防止剤を調製することは、技術の具体的適用に伴う設計的事項であって、当業者であれば適宜なし得ることである。 また、劣化防止剤は、それを添加する被劣化物における濃度が重要となるところ、劣化防止剤における成分の濃度を限定することは格別なことではない。 なお、引用刊行物1(摘示1F.)においては、 『酸化試験:酸化電極、30℃』を『エマルジョンに含有される大豆油基準で1%の抽出物(当審注:抗酸化含有透明液)の存在で行』い、 『ランシマット(商標)酸化試験、110℃』も『メイズ基準、チキン脂肪基準、または大豆油基準で1%の抽出物の存在で』行い、 引用発明1におけるカルノソール及びカルノシン酸の抗酸化剤含有透明液中の合計含有量は2.78%であるから、被劣化物に対するカルノソール及びカルノシン酸の添加濃度を278ppmで使用するものである。 これに対して、本願明細書【0083】【表2】の本願実施例3においては、劣化防止剤中のカルノソ-ル及びカルノジック酸の合計含有量が24%であり、これを『0.1重量%添加し』ていることから、被劣化物に対するカルノソール及びカルノジック酸の添加濃度は240ppmである。 したがって、両者の間には、被劣化物に対するカルノソール及びカルノジック酸の最終的な使用量について差異は認められない。 以上の検討事項を踏まえると、本願発明1は引用刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 4-5.請求人の主張について 請求人は平成24年9月18日付け意見書において、以下の主張をしている。 「【意見の内容】 (1)(当審注:略) (2)(当審注:略) (3)補正後の本願発明(請求項1)の特徴: (i)補正後の本願発明(請求項1)は、次の点を特徴としています。 (a)水溶性酸化防止剤がロスマリン酸であってその含有量が0.5重量%以上である。 (b)カルノソール及びカルノジック酸の合計含有量が20重量%以上である。 (c)カルノソール及びカルノジック酸の合計含有量(x)に対するロスマリン酸の含有量(y)の重量比率(y/x)が1/2?1/30である。 (ii)上記の各構成要件の意義は、本願明細書の段落[0053]、[0056]、[0057]においてそれぞれ説明されています。 (iii)本願発明においては、前記の構成要件(a)?(c)を同時に満足することが重要であり、補正後の明細書の段落[0083]の表2中では、実施例1のみです。その結果、実施例1では、総合評価が「◎」であって、劣化防止剤の実用的機能の点において顕著な効果を発揮することが出来ます(表3参照)。 なお、表2中では、前記の構成要件(c)に関する記載(y/x)が、{(B)+(C)}/(A)で表現されて逆になっていることを申し添えます。 (4)拒絶理由に対する意見: (i)カルノソール、カルノジック酸、ロスマリン酸(ローズマリン酸)に言及した刊行物は刊行物1(特開平8-253764号公報)のようです。拒絶理由通知書の備考においては、「引用刊行物1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。」とのことです。 「1,2-プロピレングリコールを、乾燥、切截および未ストリッピングのローズマリーと混合し、500バールで圧搾して得られた、脂溶性抗酸化剤であるカルノソール及びカルノシン酸をそれぞれ0.6%、及び、2.18%、水溶性抗酸化剤であるローズマリン酸を1.36%含有する抗酸化剤含有透明液」 (ii)しかしながら、本願発明と引用発明1とは、本願発明の前記の構成要件(b)の点で明確に異なります。 すなわち、本願発明では、「カルノソール及びカルノジック酸の合計含有量」が20重量%以上であるのに対し、引用発明1では2.78重量%です。 (iii)前述のとおり、本願発明においては、前記の構成要件(a)?(c)を同時に満足することが重要です。 そして、前記の構成要件(a)?(c)を同時に満足することの重要性は、前記の何れの刊行物にも示唆されていません。 この点に関して特に重要な事実は次の点です。 すなわち、刊行物1の発明は、そもそも、「抗酸化剤の抽出方法」であって、特定の抽剤を使用して特定条件下で「ローズマリー」を含む出発植物物質を抽出処理することにより、「一層広汎なスペクトル抗酸化剤化合物を得ること」を目的としたものであり(段落[0004])、上記の抽出方法において、前記の「カルノソール及びカルノシン酸をそれぞれ0.6%、及び、2.18%、水溶性抗酸化剤であるローズマリン酸を1.36%含有する抗酸化剤含有透明液」が敢えて意図せずに得られているということです。 このことは、上記の「抗酸化剤含有透明液」に関し、「引用刊行物1[0023][表6]の例19を中心として認定した。」との拒絶理由通知書の備考欄の記載からも明らかであり、実際、[0023]には、「手順は例6?10のように行った。抗酸化剤含有透明液を集めた。各種抽出物から分画した抗酸化剤化合物を同定および定量するためにHPLC測定を行った。結果は表6に示す。」と記載されています。 このように、前記の構成要件(a)?(c)を同時に満足することの重要性は、カルノソール、カルノジック酸、ロスマリン酸(ローズマリン酸)に言及した刊行物1についてすら、何らの示唆もなされておらず、たまたま「カルノソール及びカルノシン酸をそれぞれ0.6%、及び、2.18%、水溶性抗酸化剤であるローズマリン酸を1.36%含有する抗酸化剤含有透明液」の一点の組成の抗酸化剤含有透明液が刊行物1に記載されているに過ぎないという事実です。 従って、たとえ当業者といえども前記の刊行物に基づき本願発明を容易になし得る筈はありません。」 上記主張について検討する。 請求人は、本願明細書【0083】【表2】に示された本願実施例及び比較例との対比から、(a)ロスマリン酸の含有量、(b)カルノソール及びカルノジック酸の合計含有量、(c)カルノソール及びカルノジック酸の合計含有量(x)に対するロスマリン酸の含有量(y)の重量比率(y/x)の3条件を満たすことが必要であり、3条件全てを満たす本願実施例3のみが総合評価で「◎」となっていると主張している。 しかしながら、(a)及び(b)の各酸化防止剤成分の劣化防止剤中における含有量に関しては、前記4-5.にて検討したとおり、劣化防止剤中の酸化防止剤含有量を多くすれば、期待される酸化防止作用も多くなることは当業者であれば容易に想起し得る事項に過ぎず、引用刊行物1(摘示1D.)に『本発明に従って得た食物起源の有効量の抗酸化剤抽出物をエマルジョンに添加することを特徴とする、栄養、香粧および医療エマルジョンの保護方法にも関する』と記載されていることから、添加させる対象製品と対象製品の酸化のされやすさに応じて、含有されるカルノソール及びカルノジック酸の量(b)、及び、ロスマリン酸の量(a)を増減させて適正値にした劣化防止剤を調製することは、技術の具体的適用に伴う設計的事項であり、当業者であれば適宜なし得ることである。 更に、劣化防止剤は、それを添加する被劣化物における濃度が重要となるところ、劣化防止剤における成分の濃度を限定することは格別でなく、引用発明1と本願実施例3とで、被劣化物に対する最終使用量の点で特に差異は認められないことも、前記4-5.にて検討したとおりである。 また、(c)のカルノソール及びカルノジック酸とロスマリン酸の含有比率に関し、 本願明細書【0083】【表2】の大豆油、小麦粉、水の混練物に対する劣化試験では、ロスマリン酸:カルノソール及びカルノジック酸が1:15の本願実施例3が良好な結果を得ている一方で、 本願明細書【0089】実施例5の赤ダイコン色素に対する劣化試験では、本願明細書【0090】【表5】表中3段目の『ローズマリー抽出物(1)40重量部とローズマリー抽出物(2)とポリグリセリンモノステアリン酸エステルを40重量部の混合物』が耐候性、耐熱性の双方において最も良好な結果をもたらしている。 当該本願実施例5の『混合物』は、 本願明細書【0078】『ローズマリー抽出物(1)はロスマリン酸含有量が31.6重量%であった』、 本願明細書【0079】『ローズマリー抽出物(2)はカルノソールとカルノジック酸の合計含有量が24.9重量%であった』との記載を基に計算すると、ロスマリン酸が12.64%、カルノソール及びカルノジック酸が4.98%含有されるものであって、ロスマリン酸:カルノソール及びカルノジック酸が1:0.39であるから、(c)の数値範囲をを満たさない。 (c)のカルノソール及びカルノジック酸とロスマリン酸の含有比率に関しては、引用刊行物1(摘示1F.)において、『栄養物、香粧または医薬エマルジョンを保護する』場合と、『栄養物、香粧生成物または医薬生成物の脂質相を保護する』場合とでは、脂溶性抗酸化剤カルノソール2およびカルノシン酸1と、水溶性抗酸化剤ローズマリン酸3の含有比率を異ならせることが示唆されている。 このように、非水溶性酸化防止剤と水溶性酸化防止剤の含有比率は、添加される被劣化物(本願実施例3では大豆油と小麦粉と水の混練物、本願実施例5では赤ダイコン色素)の性質に応じて最適化されるものであるから、(c)のようにカルノソール及びカルノジック酸とロスマリン酸の含有比率を特定の数値範囲にすることにより、劣化防止剤として顕著な効果を有するとは認められない。 また、請求人は、引用発明1は「ローズマリーを含む出発植物物質を抽出処理することにより、」「たまたまカルノソール及びカルノジック酸をそれぞれ0.6%、及び、2.18%、水溶性抗酸化剤であるローズマリン酸を1.36%含有する抗酸化剤含有透明液」が得られているに過ぎず、本願発明1が規定する各酸化防止剤の含有量と含有比率である「(a)?(c)を同時に満足することの重要性は何ら示唆もなされていない」と主張しているが、引用発明1の「抗酸化剤含有透明液」も引用刊行物1(摘示1D.)『植物期限の有効量の抗酸化剤をエマルジョンに添加』して『栄養、香粧または医薬エマルジョンの保護』するものであって、請求人の主張するように、引用発明1は単なるローズマリーの抽出方法を提供するだけの発明ではない。 したがって、本願発明1は引用刊行物1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであり、本願発明1は引用刊行物1に記載された事項から予測を超える効果を有するものではない。 第5.まとめ 上記のとおり、本願の請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-12-21 |
結審通知日 | 2012-12-25 |
審決日 | 2013-01-10 |
出願番号 | 特願2005-77273(P2005-77273) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C09K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 服部 智、大熊 幸治 |
特許庁審判長 |
松浦 新司 |
特許庁審判官 |
磯貝 香苗 橋本 栄和 |
発明の名称 | 劣化防止剤 |
代理人 | 岡田 数彦 |