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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F24F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F24F
管理番号 1271410
審判番号 不服2012-9477  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-23 
確定日 2013-03-14 
事件の表示 特願2007-209862号「加湿装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 2月26日出願公開、特開2009- 41882号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成19年8月10日の出願であって 、平成24年3月22日付けで拒絶査定がなされ(発送:3月27日)、これに対し、平成24年5月23日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、その審判請求と同時に手続補正がなされたものであり、さらに当審において平成24年7月27日付けで審尋がなされ、同年8月27日に回答書が提出されたものである。

第2.平成24年5月23日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年5月23日付け手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の請求項1に記載された発明
平成24年5月23日付け手続補正(以下「本件補正」という。)により特許請求の範囲の請求項1は、次のとおりに補正された。

「【請求項1】
陽極電極と陰極電極とからなる電気分解部と、隔膜と、貯水部と、加湿部を備え、
前記貯水部は、水を保持し、
前記加湿部は、前記貯水部の水を気化し、
前記隔膜は、前記貯水部に装着され、前記貯水部における水を第1区分および第2区分からなる2つの区分に隔て、
前記加湿部と前記陽極電極は、前記第1区分における水に接触し、
前記陰極電極は、前記第2区分における水に接触するとともに、
前記陽極電極と前記陰極電極との極性を、60から120分間隔で60から360秒間反転させ、その後、元の極性に戻す、反転機構を有し、
前記第2区分における水を撹拌する撹拌部をさらに備えた加湿装置。」(下線部は補正箇所。)

上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「陽極電極と陰極電極」に関して、「陽極電極と陰極電極との極性を、60から120分間隔で60から360秒間反転させ、その後、元の極性に戻す、反転機構を有し」との限定を付すものでり、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

2.刊行物とその記載事項
(1)原査定の拒絶理由にて引用された刊行物である特開2006-112723号公報(以下「刊行物1」という。)には、図1と共に、以下の記載がある。

ア.「【0005】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、白粉の発生を防止し、かつ、白粉防止効果を維持する加湿装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記従来の課題を解決するために、本発明の加湿装置は、内部に水を蓄え、陽極と、陰極と、イオンを透過させ陽極と陰極とを隔てる隔膜とを備えた電解手段と、水を蒸発または飛散させて加湿する加湿手段とを備え、前記電解手段の陽極側の水を前記加湿手段に供給するよう構成したものである。
【0007】
これによって、水中のカルシウムイオンは陰極側に集まり、カルシウムイオンを含まない陽極側の水を加湿に用いるので、白粉の発生を防止することができる。また、この効果は、陽極、陰極に電力が供給されるかぎり継続するため、白粉防止効果を維持する。」(段落【0005】?【0007】)

イ.図1には以下の事項が図示されている。
・電解手段14が水を蓄える貯水部を構成していること
・隔膜13は、前記貯水部に備えられ、前記貯水部における水を、陽極が水に接触する第1区分、および陰極が水に接触する第2区分に隔てるものであること

以上の事項を総合すると、刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「陽極と陰極と、隔膜と、貯水部と、加湿手段を備え、
前記貯水部は、水を蓄え、
前記加湿手段は、貯水部の水を蒸発させ、
前記隔膜は、前記貯水部に備えられ、前記貯水部における水を第1区分および第2区分からなる2つの区分に隔て、
前記加湿部と前記陽極電極は、前記第1区分における水に接触し、
前記陰極電極は、前記第2区分における水に接触する加湿装置。」

(2)本願の出願前に頒布された刊行物である特開平7-301441号公報(以下「刊行物2」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。

ウ.「【0007】
【発明が解決しようとする課題】このような従来の加湿水中のカルシウムイオンやマグネシウムイオン等の陽イオンの除去手段を有した超音波加湿機では、加湿水中に含まれるカルシウムイオンやマグネシウムイオン等の陽イオンは加湿機内の陰極周辺に蓄積され、電極表面の付着物が電気的抵抗となってしまうので、長期間にわたってカルシウムイオンやマグネシウムイオン等の陽イオンの除去性能を持続するのが困難である。また、隔膜を透過する加湿水の流量が非常に少量なので加湿量を増やすことができないという課題があった。」(段落【0007】、下線は当審にて付加、以下同様。)

エ.「【0062】また、イオン交換膜電気透析槽3の内部に不純物が付着すると、イオン交換膜電気透析槽3のカルシウムイオンやマグネシウムイオン等の陽イオンおよび塩素イオンなどの陰イオンの除去性能が低下してしまうが、制御回路11により超音波加湿機の運転時間が設定時間入力手段で入力した時間(例えば1時間)を越えた場合にイオン交換膜電気透析槽3の電極の極性を5分間反転させると、陰極8の表面の付着物を除去することができるので、加湿水中からのカルシウムイオンやマグネシウムイオン等の陽イオンおよび塩素イオンなどの陰イオンの除去性能を長期間にわたって持続させることができるものである。」(段落【0062】)

(3)原査定において周知例として引用された刊行物である特開平7-185597号公報(以下「刊行物3」という。)には、図1と共に、以下の記載がある。

オ.「【0020】なお、本実施例では、撹拌装置7を汚泥電解処理槽4a内のみに設置したが、電解処理槽4bにも同時に設置することも可能である。この場合、撹拌装置7を汚泥電解処理槽4a内に設けることによって、汚泥の沈降を防ぐことができるとともに電極に汚泥が付着するのを防止でき、また、電解処理槽4bに撹拌装置を設けることによって、電極近傍で気泡が発生し電流効率が低下するのを防止することが可能となる。」(段落【0020】)

(4)本願の出願前に頒布された刊行物である特開平7-39875号公報(以下「刊行物4」という。)には、図1と共に、以下の記載がある。

カ.「【0004】この種の電解水生成装置では、電解槽内に例えば水道水などを供給して両電極間に直流電流を供給すると、電解槽内で水の電気分解が行われ、水道水中に含まれる(若しくは故意に添加した)カルシウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、およびカリウムイオンなどの陽イオンは陰極側、すなわち陰極室に集約する一方で、水道水に含まれる塩素イオンなどの陰イオンは陽極側、すなわち陽極室に集約することになる。このとき、陽極室と陰極室とは隔膜によって仕切られているため、陽極室に設けられた酸化水の取出口からは酸化水のみが吐出し、陰極室に設けられた還元水の取出口からは還元水のみが吐出することになる。」(段落【0004】)

キ.「【0019】「11a」は陽極室5内および陰極室6内の電解水を攪拌するための攪拌子であって、例えば永久磁石により構成されている。そして、電解槽4の底面に設けられた回転装置11bにより磁界を発生させ、電解槽内の攪拌子11aを所望の速度で回転させることにより電解水を攪拌し、電解槽内にある電解水の電気伝導度の均一化を図っている。これら攪拌子11aと回転装置11bが本発明の攪拌手段を構成している。なお、電解槽4内への原水の供給は電解槽4の上部開口から行われる。」(段落【0019】)

3.発明の対比
本願補正発明と刊行物1記載の発明を対比すると、刊行物1記載の発明における「陽極」は本願補正発明における「陽極電極」に相当し、以下同様に、「陰極」は「陰極電極」に、「陽極と陰極」は「陽極電極と陰極電極とからなる電気分解部」に、「加湿手段」は「加湿部」に、「蓄え」は「保持し」に、「蒸発させ」は「気化し」に、「備えられ」は「装着され」に、各々相当する。

よって、両者の一致点、相違点は、次のとおりである。

(一致点)
陽極電極と陰極電極とからなる電気分解部と、隔膜と、貯水部と、加湿部を備え、
前記貯水部は、水を保持し、
前記加湿部は、前記貯水部の水を気化し、
前記隔膜は、前記貯水部に装着され、前記貯水部における水を第1区分および第2区分からなる2つの区分に隔て、
前記加湿部と前記陽極電極は、前記第1区分における水に接触し、
前記陰極電極は、前記第2区分における水に接触する加湿装置。

(相違点1)
本願補正発明が「陽極電極と陰極電極との極性を、60から120分間隔で60から360秒間反転させ、その後、元の極性に戻す、反転機構を有し」ているのに対し、刊行物1記載の発明は、かかる反転機構を有していない点。

(相違点2)
本願発明が「第2区分における水を撹拌する撹拌部をさらに備え」ているのに対し、刊行物1記載の発明においては、かかる攪拌部を有していない点。

4.判断
そこで、各相違点につき検討する。

(相違点1について)
水の電気分解部を備える加湿装置において、電気分解を長時間継続すると電極表面に不純物が付着・蓄積し、陽イオン除去性能が低下するため、これを回避すべく「陽極電極と陰極電極との極性を、60分間隔で300秒間反転させ、その後、元の極性に戻す、制御回路を」設けるという技術手段が、刊行物2に記載されている(摘記事項ウ、エ参照)。

したがって、刊行物1記載の発明において、陽イオン除去性能の低下を回避するために「陽極電極と陰極電極との極性を、60から120分間隔で60から360秒間反転させ、その後、元の極性に戻す、反転機構」を有するものとすることは、刊行物2記載の技術手段に倣って、当業者が、容易になしえた事項である。

(相違点2について)
電気分解槽における電気分解効率を向上させるために、「電極が存在する貯水部に攪拌装置を設ける」ことは、例えば、刊行物3、4記載のように周知の技術手段であり、刊行物1記載の発明において、電気分解効率を向上させるため「第2区分における水を撹拌する撹拌部をさらに備え」ることは、上記周知の技術手段に倣って、当業者が、容易になしえた事項である。

なお、請求人は、平成24年8月27日付け回答書において、以下のように主張している。

「例示文献1?2に開示された装置は、トランス中のPCB含有絶縁油(たとえば、例示文献1の段落[0036]など)や汚泥(たとえば、例示文献2の段落[0001]など)を処理対象としております。このような処理対象が高粘性であることは自明であり、流動性が悪いため、攪拌を行なわなければ効率的な電気分解を行なうことができません。すなわち、例示文献1?2に開示された装置の攪拌部は、「必要」に応じて設けられたものであります。
一方、加湿装置について考えてみれば、その処理対象となる液体は、せいぜいppmオーダーでカルシウムイオンやマグネシウムイオンなどの硬度成分(以下、スケールとも記します)が含まれた水であり、絶縁油や汚泥などのように粘性が高く攪拌しなければ、効率的に電気分解ができないものは決して処理対象にはなり得ません。さらに、引用文献1?4に開示された加湿装置においては、攪拌を行なうまでもなく、スケールは電極またはイオン交換膜により捕捉されるため、当業者が加湿装置にあえて攪拌部を備えようとする動機がございません。
すなわち、出願時の当該分野における技術常識にしたがえば、審査官殿がご指摘する「必要」自体がそもそも存在しておりません。この点は、これまでの審査において、水処理において攪拌部を備えることが周知・慣用技術であるとされながらも、攪拌部を備えた加湿装置自体を示す引用文献が発見されていないことからも明らかであると思料致します。」

しかしながら、水道水を対象とする刊行物4においても攪拌部が必要とされていること(必要があれば、さらに、特開2002-320970号公報(段落【0039】)等も参照のこと)からも明らかなように、槽内を均一化し、また電極部分に積極的対流を起こして、電気分解効率を向上させるため「槽内に攪拌部を設ける」必要性は、電気分解装置に共通のものであり、請求人の上記主張は採用できない。

そして、本願補正発明により得られる効果も、刊行物1記載の発明及び刊行物2?4記載の技術手段から、当業者であれば、予測できる程度のものであって、格別なものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1記載の発明及び刊行物2?4記載の技術手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.結び
以上のとおり、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上述のとおり却下されたので、本願の請求項1?6に係る発明は、平成24年1月11日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうち本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
陽極電極と陰極電極とからなる電気分解部と、隔膜と、貯水部と、加湿部を備え、
前記貯水部は、水を保持し、
前記加湿部は、前記貯水部の水を気化し、
前記隔膜は、前記貯水部に装着され、前記貯水部における水を第1区分および第2区分からなる2つの区分に隔て、
前記加湿部と前記陽極電極は、前記第1区分における水に接触し、
前記陰極電極は、前記第2区分における水に接触するとともに、
前記第2区分における水を撹拌する撹拌部をさらに備えた加湿装置。」

2.刊行物とその記載事項
原査定で引用された刊行物(刊行物1、3)並びに刊行物4と、その記載事項は、上記の「第2.2」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記「第2」で検討した本願補正発明における発明特定事項である「陽極電極と陰極電極」に関して、「陽極電極と陰極電極との極性を、60から120分間隔で60から360秒間反転させ、その後、元の極性に戻す、反転機構を有し」(上記相違点1に相当)との限定を削除したものである。

そうすると、本願発明と刊行物1記載の発明の相違点は、上記相違点2のみとなるので、上記「第2.4」における上記相違点2についての検討と同様の理由により、本願発明も、刊行物1記載の発明及び上記刊行物3、4記載の周知の技術手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.結び
以上のとおり、本願発明は、刊行物1記載の発明及び上記刊行物3、4記載の周知の技術手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-08 
結審通知日 2013-01-15 
審決日 2013-01-29 
出願番号 特願2007-209862(P2007-209862)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F24F)
P 1 8・ 121- Z (F24F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河野 俊二藤原 直欣  
特許庁審判長 竹之内 秀明
特許庁審判官 前田 仁
森川 元嗣
発明の名称 加湿装置  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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