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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H
管理番号 1271549
審判番号 不服2012-1179  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-01-20 
確定日 2013-03-13 
事件の表示 特願2007-517377「制動時に第1ギヤ比へシフトダウンするための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年12月15日国際公開、WO2005/119099、平成19年12月27日国内公表、特表2007-538215〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年5月19日(パリ条約による優先権主張2004年5月21日、フランス共和国)の出願であって、平成23年9月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年1月20日に、拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?9に係る発明は、平成23年3月24日付け手続補正、及び平成24年1月20日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
制動時に、現在のギヤ比RXから第1ギヤ比への制動時のシフトダウンを制御することを可能にする、自動車の、段付きギヤ比を有する自動変速機のための、ギヤ比変更制御方法であって、上記ギヤ比変更制御方法によって、上記自動車の少なくとも1つの特殊な運転状況の発生時に、ギヤ比変更制御の特別モードが、ギヤ比変更制御の通常モードに代えて用いられるギヤ比変更制御方法において:
a)上記自動車の平均速度(Vm)の現在値と減速度(D)の現在値を決定する過程と、
b)上記平均速度(Vm)の上記現在値と上記減速度(D)の上記現在値に応じて、あらかじめ定められた量(R_(P))の参照値(R_(R))を決定する過程と、
c)上記参照値(R_(R))に応じて、上記自動車の制動時に、上記ギヤ比変更制御の上記通常モードよりも早期に、上記ギヤ比RXから上記第1ギヤ比へ変更させることからなる、上記ギヤ比変更制御の上記特別モードを起動するか否かを決定する過程と、を含み、
上記あらかじめ定められた量(R_(P))は、上記自動変速機の1次回転数であり、上記参照値(R_(R))は、上記自動変速機の上記1次回転数に対する閾値であり、上記1次回転数が上記閾値以下である場合に、上記ギヤ比変更制御の上記特別モードが起動され、
上記自動車の上記平均速度(Vm)は、上記自動車の瞬間速度(Vi)の測定値へのロー パス フィルタリングの適用によって決定され、上記ロー パス フィルタリングの時定数は、上記自動車の上記瞬間速度(Vi)が増加するときに、上記自動車の上記瞬間速度(Vi)が減少するときよりも大きいことを特徴とする、ギヤ比変更制御方法。
【請求項2】
上記自動車の上記減速度(D)の上記現在値を、上記自動車の瞬間速度(Vi)の測定値の時間微分の近似から決定することを特徴とする、請求項1に記載のギヤ比変更制御方法。
【請求項3】
上記自動車の上記平均速度(Vm)と上記減速度(D)の値の複数の対の各対について、上記参照値(R_(R))の事前決定過程を含み、上記参照値(R_(R))は、上記ギヤ比変更制御の上記特別モードの起動を必要とする運転状況に対応する、上記平均速度(Vm)と上記減速度(D)の上記値の複数の上記対について実験で決定され、上記参照値(R_(R))は、上記ギヤ比変更制御の上記特別モードの起動を必要としない運転状況に対応する、上記平均速度と上記減速度の上記値の複数の上記対については、任意の低い値に固定されることを特徴とする、請求項1または2に記載のギヤ比変更制御方法。
【請求項4】
上記事前決定過程の際に上記平均速度と上記減速度の上記値の上記対に対して得られた上記参照値(R_(R))を、上記平均速度と上記減速度の上記値の上記対に関して指標化された2次元の表の中へ記録することを更に含み、上記過程b)における上記自動車の上記平均速度(Vm)の上記現在値と上記減速度(D)の上記現在値に応じた上記参照値(R_(R))の決定は、上記過程a)において決定された上記平均速度の上記現在値と上記減速度の上記現在値の対(Vm、D)に応じて、上記2次元の表の中から読み取ることによって実行されることを特徴とする、請求項3に記載のギヤ比変更制御方法。
【請求項5】
上記参照値(R_(R))は、上記平均速度と上記減速度の上記値の複数の上記対の各々に対して、及び上記自動車に対する上記ギヤ比変更制御の上記通常モードを決定する、道路の勾配と、路面状態と、運転スタイルとを含むパラメータのセットである制御則のセットに対して、あらかじめ定められることを特徴とする、請求項3または4に記載のギヤ比変更制御方法。
【請求項6】
上記ギヤ比変更制御の上記特別モードを維持する持続時間は、あらかじめ定められたタイムアウトまでの時間と、上記ギヤ比変更制御の上記通常モードによって要求されるギヤ比が第1ギヤ比に等しくなることと、運転者が加速しているか否かとに依存することを特徴とする、請求項1?5のいずれか1つに記載のギヤ比変更制御方法。
【請求項7】
さらに、
- 上記自動車の運転者が加速したら、直ちにタイムアウトまでの時間を経過させることを開始し、
- 上記運転者が加速しない限りはタイムアウトまでの時間を経過させることを凍結し、
- タイムアウトまでの時間の消滅後に、上記特別モードから出て、上記通常モードへ戻り、
- 上記通常モードによって要求されるギヤ比が第1ギヤ比に等しくなった場合には、タイムアウトまでの時間の消滅前に、上記特別モードから出て、上記通常モードへ戻る、
ことを含むことを特徴とする、請求項1?5のいずれか1つに記載のギヤ比変更制御方法。
【請求項8】
上記ギヤ比RXは、第2ギヤ比または第3ギヤ比であることを特徴とする、請求項1?7のいずれか1つに記載のギヤ比変更制御方法。
【請求項9】
ロータリーまたは交差点へ接近した場合の「進路譲歩」型の状況における、上記自動変速機の上記第1ギヤ比への早期のシフトダウンへの、請求項1?8のいずれか1つに記載のギヤ比変更制御方法の適用。」

3.本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)について
(1)本願発明1
本願発明1は上記のとおりである。
(2)引用例
(2-1)引用例A
特開平11-13876号公報(以下、「引用例A」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、無段変速機の変速制御装置、特に車両の急減速時において無段変速機を適切に変速制御するための装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】Vベルト式無段変速機や、トロイダル型無段変速機に代表される無段変速機は、例えばエンジン要求負荷および車速から目標変速比を求め、これと実変速比との偏差に応じ実変速比が目標変速比になるよう変速制御する。従って、運転者がアクセルペダルを踏み込んでエンジン要求負荷を増すような加速時は、目標変速比が大きくなる(低速側の変速比になる)よう変更され、無段変速機は当該大きくされた目標変速比へダウンシフト変速され、逆に運転者がアクセルペダルを戻してエンジン要求負荷を低下させるような低負荷運転時は、目標変速比が小さくなる(高速側の変速比になる)よう変更され、無段変速機は当該小さくされた目標変速比へアップシフト変速される。
【0003】ところでこのような変速は、目標変速比を指令したから実際に変速比が当該目標変速比に一致するまでに、即ち、変速の進行に応答遅れが発生するのを免れず、車両を制動により急減速させる場合において以下の問題を生ずる。図5は、車速VSPが図示のような経時変化をもって低下する急減速時の目標変速比i^(*) と実変速比iの変化傾向を示し、通常は上記の減速により目標変速比i^(*) が2点鎖線で示すように決定され、これに対して上記の変速応答遅れにより実変速比iが2点鎖線で示すごとくに追従するよう変速が進行する。
【0004】しかして上記の変速応答遅れは、車速VSPが0になる停車時に未だ実変速比iを最低速変速比(最大変速比)にし得なくし、急減速後の車両の再発進に際し、最低速変速比よりも高速側の変速比で当該再発進を行うことを余儀なくされる。このことは、当該高速側の変速比での再発進後、無段変速機が直ちに当該高速側の変速比から一旦、通常の変速により最低速変速比にされることとなり、変速比の急増で再発進時にショックが発生するのを免れない。
【0005】この問題解決のために従来、例えば特開昭62-31726号公報に記載されているように、車両減速度が大きい時は目標変速比を最低速変速比にして、これと実変速比との偏差を大きくすることにより変速速度を高めることが提案された。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところで、同じ急減速のもとでも、高車速からの急減速では車速0の停車状態になるまでに十分な時間があり、変速応答遅れがあっても停車する時に無段変速機は確実に最低速変速比への変速を完了することができる。それにもかかわらず上記した従来装置のように急減速時は兎に角、目標変速比を最低速変速比にして変速速度を高めるというのでは、高車速時において変速速度が速すぎることとなり、停車のかなり前に走行条件にマッチしない最低速変速比が選択される結果、エンジン回転数が急上昇され、所謂エンジンの空吹けを生じさせる。
【0007】請求項1に記載の第1発明は、前記の変速応答遅れが問題となる急減速領域が高車速になるほど小さいとの事実認識に基づき、目標変速比を操作して変速速度を速める制御域を車速に応じて可変にし、これにより、従来装置で生じていたような高車速での上記問題を生ずることなく、停車時に無段変速機の最低速変速比への変速を確実に完了させ得るようにすることを目的とする。」
(い)「【0015】
【課題を解決するための手段】これらの目的のため、先ず第1発明による無段変速機の変速制御装置は、走行条件により決定される目標変速比と実変速比との偏差に応じて、この偏差がなくなるよう変速を進行される無段変速機において、車両減速度が、高車速ほど大きくした設定減速度を越える急減速時、前記目標変速比を、前記走行条件に関係なく、通常時の最低速変速比よりも大きな変速比にするよう構成したことを特徴とするものである。」
(う)「【0036】コントローラ13はこれら入力情報を基に、図2に示す変速制御を以下のごとくに行う。先ずステップ21において、車速VSP、スロットル開度TVO、プライマリ回転数N_(pri) 、セカンダリ回転数N_(sec) 、および車両加減速度Gをそれぞれ読み込む。次いでステップ22において、プライマリ回転数N_(pri) とセカンダリ回転数N_(sec) との比である実変速比iをi=N_(pri) /N_(sec) の演算により求める。
【0037】ステップ23においては、車速VSPおよび車両加減速度Gから、図3(a),(b)に対応したマップをもとに変速領域の判定、つまり、急減速時のための本発明が狙いとする変速速度上昇制御を行うべき急減速時変速域Aか、通常の変速制御を行うべき通常変速域B,Eか、変速比を固定すべき変速比固定域C,Dかを判定する。詳しくは、アンチスキッド制御装置が非作動中であれば図3(a)にもとづき、車両減速度Gが、高車速ほど大きくなるよう定められた可変の設定減速度aを越える急減速域Aを急減速時変速域と判定し、車両減速度Gが設定減速度a以下(車両加速度域を含む)の領域Bを通常変速域と判定する。ここで設定減速度aは、車速VSPごとに変速応答遅れで停車までに最低速変速比に戻ることができる減速度限界値を狙って定め、従って、車両減速度Gが設定減速度aを越える領域Aは、車速VSPごとに変速応答遅れで停車までに最低速変速比に戻ることができない領域である。
【0038】なお、車両加減速度Gが負値となる減速域にはその他に、車速VSPが第1の微小設定値VSP_(1 )(3km/h)未満の低車速域にある時の変速比固定域Cと、車両減速度Gが、可変の設定減速度aよりも大きな固定の設定減速度-1gを越える大減速度域にある時の変速比固定域Dとを設定する。前者の低車速故の変速比固定域Cは、如何なる対策によっても停車時に無段変速機が最低速変速比に戻り得ないと共に、変速比の演算が困難であって制御がでたらめになる領域であり、ここにおける変速比固定制御は後で詳述するが、当該低車速域Cに入った時の変速比を維持する制御を意味するものとする。また後者の大減速度故の変速比固定域Dは、車輪が最早ロックすることから、如何なる対策によっても停車時に無段変速機が最低速変速比に戻り得ないし、変速比の演算が困難であって制御がでたらめになる領域であり、ここにおける変速比固定制御は後で詳述するが、当該大減速度域Dに入った時の変速比を維持する制御を意味するものとする。
【0039】アンチスキッド制御装置が作動中であれば図3(b)にもとづき、上記の変速比固定域C以外の車両減速度域をEで示すように全域に亘って通常変速域とする。その理由は、アンチスキッド制御装置の作動中は車輪がロックすることがなくて、車両減速度に応じた変速比固定制御A,Dが不要であるし、また、急減速時に変速比を速く最低速変速比にする変速速度上昇制御を行うと、車輪の回転イナーシャが速く増大してアンチスキッド制御性能が低下する弊害を生ずるからである。
【0040】図2のステップ23における上記の領域判定結果が、通常変速域B,Eであるとの判定結果であれば、制御をステップ24?27に進めて以下のように通常の変速を行う。ステップ24においては、車速VSPおよびスロットル開度TVOから、予め設定しておく図4の変速マップをもとに目標プライマリ回転数N_(pri) ^(*) を検索する。そしてステップ25で、上記の目標プライマリ回転数N_(pri) ^(*) をセカンダリ回転数N_(sec) により除算する演算により、走行状態に応じた目標変速比i^(*) =N_(pri) ^(*) /N_(sec) を算出する。次いでステップ26において、目標変速比i^(*) と実変速比iとの間の変速比偏差Δiを演算し、ステップ27において、この変速比偏差Δiを所定ゲインでなくすようなステップモータ駆動信号S_(step)を図1のステップモータ14に指令する。以上によりコントロールバルブ12は、実変速比iを所定ゲインで目標変速比i^(*) に接近させるようなプライマリプーリ圧P_(pri) およびセカンダリプーリ圧P_(sec) を出力し、通常の変速制御が実行される。
【0041】図2のステップ23における領域判定結果が、図3(a)に示す急減速時変速域Aであるとの判定結果であれば、制御をステップ28,26,27に進めて以下のように通常とは異なる変速を行う。ステップ28においては目標変速比i^(*) を、走行状態とは関係なく図5に実線で示すごとく通常時の最低速変速比よりも大きな(機構上は存在しない更に低速側の)変速比にし、次いでステップ26において、かかる大きな目標変速比i^(*) と実変速比iとの間の変速比偏差Δiを演算し、ステップ27において、この変速比偏差Δiを所定ゲインでなくすようなステップモータ駆動信号S_(step)を図1のステップモータ14に指令して、最低速変速比へのダウンシフト変速を進行させる。
【0042】よって、当該急減速時においてはステップ26で演算する変速比偏差Δiが大きくなり、これに応じた最低速変速比へのダウンシフト変速速度が上昇されることとなる。これがため、変速応答遅れで通常の変速制御だと、停車時に最低速変速比に到達することができないような急減速時においても、図5に実線で示す実変速比iの経時変化から明らかなように、最低速変速比へのダウンシフト変速を停車時に確実に完了させることができる。
【0043】ところで、図3(a)に示すように上記可変の設定減速度aを高車速ほど大きくしたために、以下の作用効果が得られる。つまり、減速により車速0の停車状態になるまでの時間は高車速ほど長くなり、従って高車速であるほど、急減速によっても変速応答遅れが原因で停車時に未だ最低速変速比への変速が完了していないといった問題の発生は少なくなる。このことは、当該問題を生ずる減速度域が高車速ほど小さくなることを意味し、上記の変速速度上昇操作を開始すべき車両減速度、つまり当該変速速度上昇操作を開始する設定減速度は高車速ほど大きくすべきである。本実施の形態における可変の設定減速度aは高車速ほど大きくしたため、かかる要求にマッチして前記の変速速度上昇操作を必要な時にのみ行わせることができる。これがため、高車速時において不要に変速速度上昇操作が実行されることがなくなり、前記の従来装置で生じていた問題、つまり、停車のかなり前に走行条件にマッチしない最低速変速比が選択される結果、エンジン回転数が急上昇され、所謂エンジンの空吹けが生ずるといった問題を回避しつつ、前記の作用効果、つまり急減速時といえども停車時に確実に最低速変速比への変速を完了させるという作用効果を達成することができる。」
以上の記載事項及び図面からみて、引用例Aには、次の発明(以下、「引用例A発明」という。)が記載されていると認められる。
「車両を制動により減速させる場合に、停車時に最低速変速比への変速を確実に完了させ得るようにした車両の無段変速機の変速制御方法であって、車両減速度が、高車速ほど大きくした設定減速度を越えない減速時には予め設定された変速マップに基づく通常の変速制御を行い、車両減速度が、高車速ほど大きくした設定減速度を越える急減速時には、前記目標変速比を、前記走行条件に関係なく、通常時の最低速変速比よりも大きな変速比にする変速制御方法において、
車速VSP、および車両加減速度Gをそれぞれ読み込むステップと、
高車速ほど大きくした減速度を設定し、車両減速度が該設定減速度を越えない減速時には上記の通常の変速制御を行い、車両減速度が該設定減速度を越える急減速時には、前記目標変速比を、前記走行条件に関係なく、通常時の最低速変速比よりも大きな変速比にするステップと、
を含む、変速制御方法。」
(2-2)引用例B
特開昭61-112849号公報(以下、「引用例B」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(か)「従来の技術
近年、従来からある歯車式の変速機にアクチュエータを設け、電気信号に応じて所望の変速位置に切換えられるように構成された変速装置を用いた自動変速装置が実用化されつつある。ところで、この種の自動変速装置は機関の回転速度に従って変速操作を行なうものであるから、機関の回転速度に変動が生じるとこれに応答してしまい、変速制御に悪影響を与える結果となる。この不具合を除去するため、この種の自動変速装置を搭載した車輌では、機関速度を示す出力データにフィルタをかけ、機関の回転速度のこまかい変動に対して自動変速装置が応答して作動しないように構成されている。」(第1ページ右下欄第1?14行)
(き)「問題点を解決するための手段
本発明の構成は、少なくとも内燃機関の速度に関連した信号に応答して作動する自動変速装置を備えた車輌用制御装置において、上記内燃機関の速度に少なくとも関連した状態信号を出力する手段と、ブレーキペダルの踏込み速度を検出する検出手段と、該検出手段からの検出結果に応答して定められる定数に従って上記状態信号の平均化を行なうフィルタ手段とを備え、該フィルタ手段からの出力に従って上記自動変速装置の変速位置の制御が行なわれる点に特徴を有する。
作用
上述の構成によれば、ブレーキの踏込み速度に応じて、状態信号の平均化を行なうフィルタ手段の定数を変化させ、これにより、状態信号の応答性を調節することができる。従って、ブレーキペダルの操作状態に応じてフィルタ手段における入出力の応答特性を変化せしめ、その時の内燃機関の実際の運転状態に即して自動変速装置の変速制御を行なうことが可能となる。内燃機関の速度が比較的ゆるやかに変化している通常の運転状態にあっては、フィルタ手段における入出力の応答特性を遅くし、自動変速装置が内燃機関速度の変動に応答して作動し内燃機関の運転状態が不安定になるのを有効に防止すると共に、急ブレーキ等により内燃機関の速度が急激に変化する場合にはフィルタ手段の応答特性を速くし、自動変速装置が内燃機関の運転状態の変化に追従して作動するのを可能とする。」(第2ページ左上欄第10行?右上欄第18行)
(3)対比
本願発明1と引用例A発明とを比較すると、後者の「車両」は前者の「自動車」に相当し、以下同様に、「制動により減速させる場合に」は「制動時」に、「急減速時」は「上記自動車の少なくとも1つの特殊な運転状況の発生時」に、「上記自動車の平均速度(Vm)の現在値と減速度(D)の現在値を決定する過程」は「車速VSP、および車両加減速度Gをそれぞれ読み込むステップ」に、それぞれ相当する。
本願発明1の「自動変速機」が「段付きギヤ比を有する自動変速機」であるのに対し、引用例A発明の「自動変速機」が「無段変速機」である点は、相違点として別途検討するが、「段付きギヤ比を有する自動変速機」の「ギヤ比」は実質的に「無段変速機」の「変速比」に相当することから、後者(引用例A発明)の「変速制御方法」は前者(本願発明1)の「ギヤ比変更制御方法」に、以下同様に、「停車時に最低速変速比への変速を確実に完了させ得る」は「現在のギヤ比RXから第1ギヤ比への制動時のシフトダウンを制御することを可能にする」に、「前記目標変速比を、前記走行条件に関係なく、通常時の最低速変速比よりも大きな変速比にする」は「ギヤ比変更制御の特別モード」に、「通常の変速制御」は「ギヤ比変更制御の通常モード」に、それぞれ相当するということができる。
後者の「高車速ほど大きくした減速度を設定し、車両減速度が該設定減速度を越えない減速時には上記の通常の変速制御を行い、車両減速度が該設定減速度を越える急減速時には、前記目標変速比を、前記走行条件に関係なく、通常時の最低速変速比よりも大きな変速比にするステップ」は、その前提として、「通常の変速制御」による変速よりすみやかに「最低速変速比」への変速を完了させ得る急減速時の制御を行なうかどうかの判断をしているから、後者の上記「ステップ」と、前者の「b)上記平均速度(Vm)の上記現在値と上記減速度(D)の上記現在値に応じて、あらかじめ定められた量(R_(P))の参照値(R_(R))を決定する過程」及び「c)上記参照値(R_(R))に応じて、上記自動車の制動時に、上記ギヤ比変更制御の上記通常モードよりも早期に、上記ギヤ比RXから上記第1ギヤ比へ変更させることからなる、上記ギヤ比変更制御の上記特別モードを起動するか否かを決定する過程」とは、「上記自動車の制動時に、上記ギヤ比変更制御の上記通常モードよりも早期に、上記ギヤ比RXから上記第1ギヤ比へ変更させることからなる、上記ギヤ比変更制御の上記特別モードを起動するか否かを決定する過程」という点において一致する。
したがって、両者は、本願発明1の用語に倣って整理すると、
「制動時に、現在のギヤ比RXから第1ギヤ比への制動時のシフトダウンを制御することを可能にする、自動車の自動変速機のための、ギヤ比変更制御方法であって、上記ギヤ比変更制御方法によって、上記自動車の少なくとも1つの特殊な運転状況の発生時に、ギヤ比変更制御の特別モードが、ギヤ比変更制御の通常モードに代えて用いられるギヤ比変更制御方法において:
上記自動車の平均速度(Vm)の現在値と減速度(D)の現在値を決定する過程と、
上記自動車の制動時に、上記ギヤ比変更制御の上記通常モードよりも早期に、上記ギヤ比RXから上記第1ギヤ比へ変更させることからなる、上記ギヤ比変更制御の上記特別モードを起動するか否かを決定する過程と、を含む、ギヤ比変更制御方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]
本願発明1は、「自動車の、段付きギヤ比を有する自動変速機のための、ギヤ比変更制御方法」であるのに対し、引用例A発明は、「車両の無段変速機の変速制御方法」である点。
[相違点2]
本願発明1は、「b)上記平均速度(Vm)の上記現在値と上記減速度(D)の上記現在値に応じて、あらかじめ定められた量(R_(P))の参照値(R_(R))を決定する過程と、c)上記参照値(R_(R))に応じて、上記自動車の制動時に、上記ギヤ比変更制御の上記通常モードよりも早期に、上記ギヤ比RXから上記第1ギヤ比へ変更させることからなる、上記ギヤ比変更制御の上記特別モードを起動するか否かを決定する過程」を含み、「上記あらかじめ定められた量(R_(P))は、上記自動変速機の1次回転数であり、上記参照値(R_(R))は、上記自動変速機の上記1次回転数に対する閾値であり、上記1次回転数が上記閾値以下である場合に、上記ギヤ比変更制御の上記特別モードが起動され」るのに対し、引用例A発明は、「車速VSP、および車両加減速度Gをそれぞれ読み込むステップと、高車速ほど大きくした減速度を設定し、車両減速度が該設定減速度を越えない減速時には上記の通常の変速制御を行い、車両減速度が該設定減速度を越える急減速時には、前記目標変速比を、前記走行条件に関係なく、通常時の最低速変速比よりも大きな変速比にするステップ」を含む点。
[相違点3]
本願発明1は、「上記自動車の上記平均速度(Vm)は、上記自動車の瞬間速度(Vi)の測定値へのロー パス フィルタリングの適用によって決定され、上記ロー パス フィルタリングの時定数は、上記自動車の上記瞬間速度(Vi)が増加するときに、上記自動車の上記瞬間速度(Vi)が減少するときよりも大きい」のに対し、引用例A発明は、そのような事項を具備していない点。
(4)判断
(4-1)相違点1について
引用例Aの【0003】、【0007】等に記載されているように、引用例A発明は、変速応答遅れが問題となる急減速時においても、停車時に無段変速機の最低速変速比への変速を確実に完了させ得るようにすることを目的とするものであるが、このように、減速後の停車時に変速機が最低速変速比になるようにすべきこと、ないし、そのようにすることが好適であることは、無段変速機に限られるものではなく、段付きギヤ比を有する自動変速機においても同様であることは当業者に明らかである。例えば、特開平11-82729号公報には、「【0004】…例えば、ブレーキを踏んで車両停止まで減速する場合の変速においては、車両が停止する前に最低速度段まで変速する必要がある。例えば、第3速度段で走行している状態からブレーキを踏んで減速して停止する場合は、停止する前に第3速度段→第2速度段→第1速度段と切り換える必要がある。この様な場合において、変速に時間がかかり、停止までに変速が完了しないと車両に異常振動を発生し、運転フィーリングを損ねてしまう。【0005】従来の遊星歯車を使用した自動変速機においては、この様な場合に第2速度段を飛ばして第3速度段→第1速度段としたり、第3速度段→第2速度段の変速中に第1速度段への変速を実施する例がある。…」と記載されている。
引用例A発明に、上記の周知事項ないし技術常識を適用して、相違点1に係る本願発明1の上記事項とすることに何ら困難性はない。
(4-2)相違点2について
「本発明による制御方法の、幾つかのパラメータの計算方法を示す図である」とされる本願の図3をみると、「平均速度の値と減速度の値によって指標化された2次元の表」に記録される参照値(閾値)RRは0rpm、及び900から2200rpmの値からなっており、この2次元の表のうち、参照値(閾値)RRが0rpmである領域では、特別モードが全く起動されないのに対し、参照値(閾値)RRが900から2200rpmの値である領域では、特別モードが起動され得る。一方、引用例Aの図3(a)をみると、車速と加減速度によって指標化される表には、急減速時変速域Aと通常変速域Bが設定されている。このように、車速と減速度で指標化される2次元の表に、特別モードが全く起動されない領域と起動され得る領域(ないし起動される領域)とを設定するという点で、引用例A発明と本願発明1とは共通ないし関連しており、略同様の技術思想・技術事項を具現するものである。
引用例A発明の急減速変速域Aでは、本願発明1とは異なり、特に閾値は設けられていないが、引用例Aの特に【0006】にも記載されているように、高車速時等において最低速変速比ないし第1変速段が選択されると、エンジン回転数の急上昇が起こるおそれがあることは当業者に明らかである。このような技術的知見に留意すれば、急減速変速域Aにエンジン回転数(ないし変速機入力回転数)の閾値を設定して、エンジン回転数の急上昇が起こるのを回避するように構成することは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。引用例Aの【0036】に記載されているように、引用例Aの図3(a)の設定減速度aは車速ごとに変速応答遅れで停車までに最低速変速比に戻ることができる減速度限界値を狙って定められるものであるから、上記のように、エンジン回転数の急上昇を回避するためにエンジン回転数(ないし変速機入力回転数)の閾値を設定することを阻害する事由は特にない。そして、このようにしたものは、実質的にみて、相違点2に係る本願発明1の上記事項を具備するということができる。
(4-3)相違点3について
引用例Bには、上記に摘記したように、機関の回転速度に従って変速操作を行なう歯車式の自動変速装置に関してではあるが、機関の回転速度のこまかい変動が変速制御に悪影響を与えるという不具合を除去するため、検出手段から出力される機関の回転速度に関連した状態信号の平均化を行なうフィルタ手段を設けること、及び、ブレーキの踏込み速度に応じて、フィルタ手段の定数を変化させ、これにより、状態信号の応答性を調節し、その時の内燃機関の実際の運転状態に即して自動変速装置の変速制御を行なうことが可能となることが示されている。引用例A発明の車速についても、このようなフィルタ手段を設けることが好適であることに変わりはない。それとともに、引用例A発明は急減速を含む減速時における変速制御に係るものであるから、減速時における車速を応答性よく検知すべきことはいうまでもなく、そのために、減速時におけるフィルタ手段の時定数を加速時より小さくすることは、時定数の設定にあたって適宜設計する事項にすぎない。
そして、本願発明1の効果は、引用例A、Bに記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が予測し得たものであって、格別のものではない。
(5)むすび
したがって、本願発明1は、引用例A、Bに記載された発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.結語
以上のとおり、本願発明1(本願の請求項1に係る発明)が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2?9に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-28 
結審通知日 2012-10-09 
審決日 2012-10-30 
出願番号 特願2007-517377(P2007-517377)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 竹下 和志  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 川本 真裕
所村 陽一
発明の名称 制動時に第1ギヤ比へシフトダウンするための方法  
代理人 小林 義教  
代理人 園田 吉隆  

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