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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B66B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B66B
管理番号 1271818
審判番号 不服2012-3320  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-02-21 
確定日 2013-03-21 
事件の表示 特願2001-217052「エレベータの乗りかご」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 2月 7日出願公開、特開2003- 34477〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本件出願は、平成13年7月17日の出願であって、平成23年5月16日付けの拒絶理由通知に対して平成23年7月25日付けで意見書が提出されるとともに同日付けの手続補正書により明細書について補正する手続補正がなされ、平成23年8月23日付けの再度の拒絶理由通知に対して平成23年10月31日付けで意見書が提出されるとともに同日付けの手続補正書により明細書について補正する手続補正がなされたが、平成23年11月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年2月21日に拒絶査定不服の審判が請求されると同時に、同日付けの手続補正書により明細書について補正する手続補正がなされ、その後、当審における平成24年8月7日付けの書面による審尋に対して平成24年10月12日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成24年2月21日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成24年2月21日付けの手続補正を却下する。

[理由]

[1]補正の内容

平成24年2月21日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成23年10月31日付けの手続補正により補正された)下記の(a)に示す請求項1ないし7を下記の(b)に示す請求項1ないし5と補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲

「【請求項1】 周囲壁を構成する各側板の端部に形成された各折り曲げ部同士を連結させて成るエレベータの乗りかごにおいて、
前記折り曲げ部は、乗りかご内壁面を形成する前記側板の一方面とは反対面の側に折り曲げられており、
前記各折り曲げ部にナット径より大きな径を有する大径穴と、この大径穴に連通され、前記ナット径より小さくかつボルト軸径よりも大きな径を有する小径穴とが形成され、
前記大径穴と前記小径穴との連通方向が上下方向に設定されており、
ナット付きのボルトを前記大径穴に挿通させた後、前記小径穴側に移動させて、ナット、ボルトを互いにねじ込ませ、前記各折り曲げ部同士を連結させる、
ことを特徴とするエレベータの乗りかご。
【請求項2】 請求項1に記載のエレベータの乗りかごにおいて、
前記大径穴は各折り曲げ部の上部側に形成され、この大径穴の下側に前記大径穴の一部と重なるように小径穴が形成され、全体として逆だるま穴が形成された、
ことを特徴とするエレベータの乗りかご。
【請求項3】 請求項1に記載のエレベータの乗りかごにおいて、
前記大径穴は各折り曲げ部の上部側に形成され、この大径穴の下側に前記大径穴と重ならないように小径穴が形成され、これら大径穴と小径穴との間に連通穴が形成された、
ことを特徴とするエレベータの乗りかご。
【請求項4】 乗りかごの周囲壁を構成する各側板の端部に形成された各折り曲げ部同士を連結させて成るエレベータの乗りかごにおいて、
前記折り曲げ部は、乗りかご内壁面を形成する前記側板の一方面とは反対面の側に折り曲げられており、
前記各折り曲げ部にナット径より小さな幅を有する逆L字型の切り欠きが形成され、
前記切り欠きの延びる方向が上下方向に設定されており、
ナット付きのボルトを前記切り欠きの解放部分側から差し込ませた後、前記切り欠きの奥側を介し下側に移動させてナット、ボルトを互いにねじ込ませ、前記各折り曲げ部同士を連結させる、
ことを特徴とするエレベータの乗りかご。
【請求項5】 請求項1乃至4のいずれかに記載のエレベータの乗りかごにおいて、
前記折り曲げ部は、前記側板の前記端部をL字状に曲げてなる部位で構成されている、
ことを特徴とするエレベータの乗りかご。
【請求項6】 請求項1乃至5のいずれかに記載のエレベータの乗りかごにおいて、
前記ナット付きのボルトは、ネジ部に座金が挿通される、
ことを特徴とするエレベータの乗りかご。
【請求項7】 請求項1乃至5のいずれかに記載のエレベータの乗りかごにおいて、
前記ナット付きのボルトは、ネジ部根元に角座金が形成される、
ことを特徴とするエレベータの乗りかご。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲

「【請求項1】 周囲壁を構成する複数の各側板の端部に形成された複数の各折り曲げ部同士を連結させて一体化して組み立てて成るエレベータの乗りかごにおいて、
前記折り曲げ部は、乗りかご内壁面を形成する前記側板の一方面とは反対面の側に、前記側板の前記端部をL字状に曲げてなる部位で構成されており、
前記各折り曲げ部に、ナット径より大きな径を有する大径穴と、前記大径穴に連通され、前記ナット径より小さくかつボルト軸径よりも大きな径を有する小径穴とが形成され、
前記大径穴と前記小径穴との連通方向が上下方向に設定されており、
ナット付きの一体的に組み立てられたセットボルトを前記ナット側から前記大径穴に挿通させた後、前記小径穴側に移動させて、ナット、ボルトを互いにねじ込ませ、前記複数の各折り曲げ部同士を連結させて一体化して組み立てて成る、
ことを特徴とするエレベータの乗りかご。
【請求項2】 請求項1に記載のエレベータの乗りかごにおいて、
前記大径穴は各折り曲げ部の上部側に形成され、前記大径穴の下側に前記大径穴の一部と重なるように前記小径穴が形成され、全体として逆だるま穴が形成された、
ことを特徴とするエレベータの乗りかご。
【請求項3】 請求項1に記載のエレベータの乗りかごにおいて、
前記大径穴は各折り曲げ部の上部側に形成され、前記大径穴の下側に前記大径穴と重ならないように前記小径穴が形成され、前記大径穴と前記小径穴との間に前記小径穴の口径よりも幅が小さい連通穴が形成されていて穴のくびれが形成された、
ことを特徴とするエレベータの乗りかご。
【請求項4】 請求項1乃至3のいずれかに記載のエレベータの乗りかごにおいて、
前記セットボルトは、ネジ部に座金が挿通される、
ことを特徴とするエレベータの乗りかご。
【請求項5】 請求項1乃至4のいずれかに記載のエレベータの乗りかごにおいて、
前記セットボルトは、ネジ部根元に角座金が形成される、
ことを特徴とするエレベータの乗りかご。」
(なお、下線は補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

[2]本件補正の目的

本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に関して、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における
「周囲壁を構成する各側板の端部に形成された各折り曲げ部同士を連結させて成るエレベータの乗りかご」の記載を「周囲壁を構成する複数の各側板の端部に形成された複数の各折り曲げ部同士を連結させて一体化して組み立てて成るエレベータの乗りかご」と補正し、同じく「前記折り曲げ部は、乗りかご内壁面を形成する前記側板の一方面とは反対面の側に折り曲げられており」の記載を「前記折り曲げ部は、乗りかご内壁面を形成する前記側板の一方面とは反対面の側に、前記側板の前記端部をL字状に曲げてなる部位で構成されており」と補正し、さらに、同じく「ナット付きのボルトを前記大径穴に挿通させた後、前記小径穴側に移動させて、ナット、ボルトを互いにねじ込ませ、前記各折り曲げ部同士を連結させる」の記載を「ナット付きの一体的に組み立てられたセットボルトを前記ナット側から前記大径穴に挿通させた後、前記小径穴側に移動させて、ナット、ボルトを互いにねじ込ませ、前記複数の各折り曲げ部同士を連結させて一体化して組み立てて成る」と補正するものであるから、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項に関して限定を付加したものといえる。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

[3]独立特許要件の判断

1.刊行物

(1)刊行物1の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である実願昭51-155753号(実開昭53-73671号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

a)「エレベータの乗かごを構成している内壁1,2の裏面に機器等8が取付き、縫合せ部間隙10が縫合ねじ5(当審注:「縫合ねじ5」は、「縫合せねじ5」の誤記と認める。)の長さより小さい場合、上記内壁1,2の折返し部3,4に切欠き9を設け、上記縫合せねじ5にあらかじめ座金6及びナツト7を取付けた状態で、上記切欠9に挿入し、上記ナツト7を締付けることにより、上記内壁1,2を縫合せるようにしたものである。
以上のような構成であるので、縫合せ部間隙10が縫合せねじ5の長さより小さくても内壁1,2の縫合せができる。」(明細書第2ページ第5ないし15行)

b)「又、上記縫合せ部間隙10が、縫合せねじ5の長さよりも少し大きい場合でも本考案を採用することにより、縫合せ作用が容易になるという効果がある。」(同第2ページ第16行ないし第3ページ2行)

(2)上記(1)a)及びb)並びに図面の記載より分かること

イ)上記(1)a)の記載によれば、内壁1,2はエレベータの乗かごを構成していることから、技術常識に照らせば、内壁1,2は乗かごの周囲壁を構成するものであることが分かる。

ロ)上記(1)a)及び第1図の記載によれば、エレベータの乗かごは、内壁1,2の端部に形成された折返し部3,4同士を連結させて一体化して組み立てて成るものであることが分かる。

ハ)上記(1)a)並びに第1及び2図の記載によれば、内壁1,2の裏面に機器等8が取付けられていることから、第1図において、機器等8が取付けられていない面、すなわち、第1図において、符号1及び2にて指示される横方向に延びる面が、乗かご内壁面を形成する内壁1,2の一方面であることが明らかである。そうすると、折返し部3,4は、内壁1,2の一方面とは反対面の側に、内壁1,2の端部をL字状に曲げてなる部位で構成されていることが分かる。

ニ)上記(1)a)及び第1図の記載によれば、あらかじめナツト7を取付けた縫合せねじ5を切欠き9に挿入させた後、ナツト7、縫合せねじ5を互いにねじ込ませ、折返し部3,4同士を連結させていることが分かる。

(3)刊行物1に記載された発明

したがって、上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。

<刊行物1に記載された発明>

「周囲壁を構成する各内壁1,2の端部に形成された各折返し部3,4同士を連結させて一体化して組み立てて成るエレベータの乗かごにおいて、
折返し部3,4は、乗かご内壁面を形成する内壁1,2の一方面とは反対面の側に、内壁1,2の端部をL字状に曲げてなる部位で構成されており、
各折返し部3,4に、切欠き9が形成され、
あらかじめナツト7を取付けた縫合せねじ5を切欠き9に挿入させた後、ナツト7、縫合せねじ5を互いにねじ込ませ、各折返し部3,4同士を連結させて一体化して組み立てて成る、
エレベータの乗かご。」

(4)刊行物2の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開平4-46507号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

a)「(産業上の利用分野)
本発明は盤間連結装置、特に複数個の配電盤、制御盤等の箱体を連結する際、使用する盤間連結装置に関する。」(第1ページ左下欄第15ないし18行)

b)「(課題を解決するための手段)
本発明の構成を実施例に対応する第1図及び第2図によって説明すると、本発明では側面板2-1に設けた連結穴3は、連結ボルト22の装填されたナット13,24、座金15が通過可能な円弧状部と、それに続く係合部とでダルマ穴とし、連結ボルトに設けたボス部23をダルマ穴係合部に回転不能に係止し、連結ボルトの着脱を一方の盤側より自在にできるよう構成した。
(作 用)
従って、配電盤を連結する場合には、配電盤の側面板2-1を密着させ、一体構成された連結ボルト22を連結穴3の円弧状部を介して挿入し、連結ボルトのボス部23の平行部をダルマ穴の係合部に合せて下方に引きおろせば、第4図に示すように連結ボルトは回転不能に係止し、一方のナットを締付ければ連結は終了する。」(第2ページ左下欄第5行ないし右下欄第1行)

c)「第1図において2-1は側面板、10は連結用のセットボルトで第1図に示す配置関係になっている。
これらの各構成部品について以下に説明する。
第3図は連結ボルト22で略中央部には連結ダルマ穴の係合部に掛り合せ、ボルトの回転に係止する目的のボス部23を有している。
第5図はセットボルト10の構成図で、連結ボルト22,ナット13,バネ座金14,座金15,スプリングナット24からなり、ねじ部の両端末をカシメ部25として、これらが脱落しないよう構成されている。このように一体となったボルトをセットボルトと称している。
第6図は側面板2-1を示す平面図で連結穴3を備えている。この連結穴は上方を円弧状(当審注:「円弧状」は「円弧状部」の誤記と認める。)とし、セットボルトのナットと座金が挿入できるような大きさになっており、円弧状部に続く下部の係止穴は小さくしてある。」(第2ページ右下欄第8行ないし第3ページ左上欄第5行)

d)「先ず、連結される配電盤側面板2-1を密着させて双方の連結穴3の位置を合せる。第5図の如く一方のスプリングナット24を回転させボス部23に密着させ、片一方のナット13を端末までゆるめたセットボルト10を、一方の盤側のダルマ穴上方の円弧状部より挿入する。スプリングナット24が相手盤内に入ったことを確認して、連結ボルト22のボス部23の平行部をダルマ穴の係合部に合せて下方に移動する。ダルマ穴係合部に掛り合ったボス部は、一辺が係合部溝幅より大きいため第4図に示す如く、左右いずれの方向へも連結ボルト22は回転不能になる。
以上の如く、連結ボルトの回転が不能となっているため、ナット13を締付ければ締結は完了する。
第7図は連結完了後の状態図であって、第14図に対応しており、切断面は第1図(a)のB-B線を示している。」(第3ページ左上欄第8行ないし右上欄第4行)

e)「以上説明した如く本発明によれば、側面板に設けた連結穴に一体構成された連結ボルトを挿入し、連結ボルトのボス部と連結穴とによって連結ボルトの回転を係止するよう構成したので、配電盤の増設、撤去に際し、既設機器の停止が不要となり、極めて効率的な作業の可能な盤間連結装置を提供できる。」(第3ページ右上欄第17行ないし左下欄第3行)

(5)上記(4)a)ないしe)及び図面の記載より分かること

イ)上記(4)a)及び第8図の記載によれば、配電盤や制御盤等の箱体の側面板は、それらの箱体の前面板に対して、前面板の端部に折り曲げられて形成されていることが明らかであるから、盤間連結装置は、配電盤や制御盤等の箱体の前面板の端部に折り曲げられて形成された側面板2-1同士を連結させるものであることが分かる。

ロ)上記(4)c)ないしe)並びに第1ないし6図の記載によれば、側面板2-1に、(セットボルトの)ナット径より大きな径を有する円弧状部と、円弧状部との連通方向が上下方向に設定され、ナット径より小さくかつ連結ボルト22の軸径よりも大きな径を有する係合部とからなる連結穴3が形成されており、セットボルト10を円弧状部に挿通させた後、下方の係合部側に移動させて、ボス部23を係合部〔小径穴〕に係合させた状態で、ナット13を連結ボルト22に対してねじ込ませ、各側面板2-1同士を連結させて一体化して組み立てられることが分かる。

(6)刊行物2に記載された発明

したがって、上記(4)及び(5)を総合すると、刊行物2には次の発明(以下、「刊行物2に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。

<刊行物2に記載された発明>

「配電盤、制御盤等の箱体の前面板の端部に折り曲げられて形成された側面板2-1同士を連結させる盤間連結装置において、各側面板2-1に、(セットボルトの)ナット径より大きな径を有する円弧状部と、円弧状部との連通方向が上下方向に設定され、ナット径より小さくかつ連結ボルト22の軸径よりも大きな径を有する係合部とからなる連結穴3が形成され、連結ボルト22の回転を不能とするために形成されたボス部23に密着させるようにスプリングナット24をねじ込んだ連結ボルト22にバネ座金14,座金15及びナット13を一体的に組み込んだセットボルト10を円弧状部に挿通させた後、下方の係合部側に移動させて、ボス部23を係合部に係合させた状態で、ナット13を連結ボルト22に対してねじ込ませ、各側面板2-1同士を連結させて一体化して組み立ててなる盤間連結装置。」

2.対比・判断

本件補正発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、その機能及び構造又は技術的意義からみて、刊行物1に記載された発明における「内壁1,2」、「折返し部3,4」、「乗かご」、「あらかじめナツト7を取付けた縫合せねじ5」、「挿入」、「ナツト7」及び「縫合せねじ5」は、それぞれ、本件補正発明における「側板」、「折り曲げ部」、「乗りかご」、「セットボルト」、「挿通」、「ナツト」及び「ボルト」に相当する。
また、刊行物1に記載された発明における「切欠き9」は、あらかじめナツト7を取付けた縫合せねじ5を挿入する部分であり、かつ、ナツト7及び縫合せねじ5によって、各折返し部3,4同士を連結させるために折返し部3,4に設けられた部分であり、本件補正発明における「ナット径より大きな径を有する大径穴と、大径穴に連通され、ナット径より小さくかつボルト軸径よりも大きな径を有する小径穴」は、ナット付きの一体的に組み立てられたセットボルトを挿通する部分であり、かつ、ナット及びボルトによって、各折り曲げ部同士を連結させるために折り曲げ部に設けられた部分であるから、前述の相当関係とあわせてみると、刊行物1に記載された発明における「切欠き9」は、その構造、機能及び技術的意義からみて、「折り曲げ部同士を連結するためにセットボルトを挿通する部分」という限りにおいて、本件補正発明における「ナット径より大きな径を有する大径穴と、大径穴に連通され、ナット径より小さくかつボルト軸径よりも大きな径を有する小径穴」に相当する。

してみると、本件補正発明と刊行物1に記載された発明とは、
「周囲壁を構成する各側板の端部に形成された各折り曲げ部同士を連結させて一体化して組み立てて成るエレベータの乗りかごにおいて、
折り曲げ部は、乗りかご内壁面を形成する側板の一方面とは反対面の側に、側板の端部をL字状に曲げてなる部位で構成されており、
各折り曲げ部に、折り曲げ部同士を連結するためにセットボルトを挿通する部分が形成され、
ナット付きの一体的に組み立てられたセットボルトを折り曲げ部同士を連結するためにセットボルトを挿通する部分に挿通させた後、ナット、ボルトを互いにねじ込ませ、各折り曲げ部同士を連結させて一体化して組み立てて成る、
エレベータの乗りかご。」の点で一致し、次の2点で相違する。

<相違点1>

「折り曲げ部同士を連結するためにセットボルトを挿通する部分」に関し、
本件補正発明においては、「ナット径より大きな径を有する大径穴と、大径穴に連通され、ナット径より小さくかつボルト軸径よりも大きな径を有する小径穴」であって、「大径穴と小径穴との連通方向が上下方向に設定されて」いて、「セットボルトをナット側から大径穴に挿通させた後、小径穴側に移動させて、ナット、ボルトを互いにねじ込ませ」るように構成されているのに対し、刊行物1に記載された発明においては、「切欠き9」であって、あらかじめナツト7を取付けた縫合せねじ5を切欠き9に挿入させた後、、ナツト7、縫合せねじ5を互いにねじ込ませるように構成されている点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>

本件補正発明においては、端部に折り曲げ部が形成された複数の各側板により周囲壁を構成し、複数の各折り曲げ部同士をセットボルトにより連結させて一体化して組み立てているのに対し、刊行物1に記載された発明においては、端部に折返し部3,4が形成された少なくとも2枚の側板により周囲壁を構成しており、折返し部3,4同士をあらかじめナツト7を取付けた縫合せねじ5(本件補正発明における「セットボルト」に相当する。)により連結させて一体化して組み立てているものの、複数の各折返し部3,4同士を連結させて一体化して組み立てているのか否か不明である点(以下、「相違点2」という。)。

まず、上記相違点1について検討する。

刊行物2に記載された発明は、配電盤や制御盤等の箱体を連結するための盤間連結装置に関するものであるところ、少なくとも、セットボルトにより箱体の側面板を互いに連結する連結装置である。
そこで、本件補正発明と刊行物2に記載された発明とを対比すると、その機能及び構造又は技術的意義からみて、刊行物2に記載された発明における「円弧状部」、「連結ボルト22」、「連結ボルト22の軸径」、「係合部」及び「連結ボルト22の回転を不能とするために形成されたボス部23に密着させるようにスプリングナット24をねじ込んだ連結ボルト22にバネ座金14,座金15及びナット13を一体的に組み込んだセットボルト10」は、それぞれ、本件補正発明における「大径穴」、「ボルト」、「ボルト軸径」、「小径穴」及び「ナット付きの一体的に組み立てられたセットボルト」に相当する。
また、刊行物2に記載された発明における「配電盤、制御盤等の箱体の前面板の端部に折り曲げられて形成された側面板2-1」は、上位概念化すると、「板の端部に形成された折り曲げ部」と表現することができるから、刊行物2に記載された発明における「側面板2-1」は、「折り曲げ部」と表現することができる。
また、刊行物2に記載された発明における「盤間連結装置」は、上位概念化すると、「連結装置」と表現することができる。
また、刊行物2に記載された発明における「連結穴3」は、配電盤や制御盤等の箱体の前面板の端部に折り曲げられて形成された側面板2-1〔側板の端部に形成された各折り曲げ部〕同士を連結するために、セットボルト10を挿通させる部分であることは明らかであるから、前述の表現をあわせると、「折り曲げ部同士を連結するためにセットボルトを挿通する部分」ということができる。
さらに、刊行物2に記載された発明におけるセットボルト10には(連結ボルト22の回転を不能とするための)ボス部23が形成されており、セットボルト10を連結穴3に挿通させた後に下方の係合部側に移動させた際にボス部23が連結穴3の係合部に係合し、その状態で、側面板の一方側からナット13を連結ボルト22に締め付けることができるようにしているところであるが、例えば、刊行物2において、従来の技術として記載される第13図に示されるような、連結ボルト12にナット13,バネ座金14,座金15が装填されたセットボルト4を用いることができることは明らかであるから、側面板の両側から連結ボルト22とナット13を互いにねじ込ませて締結することができる場合には、セットボルト10に(ボルトの回転を阻止するための)ボス部23を設ける必要がないことは明らかである。そして、このような場合(側面板の両側からナット13と連結ボルト22をねじ込ませることができる場合)には、刊行物2に記載された発明における「ボス部23を係合部に係合させた状態で、ナット13を連結ボルト22に対してねじ込ませ、」は、「ナット13、連結ボルト22を互いにねじ込ませ、」と表現することができる。
これらを総合すると、刊行物2に記載された発明から、次の技術(以下、「刊行物2に記載された技術」という。)を導くことができる。

「板の端部に形成された折り曲げ部同士を連結させる連結装置において、各折り曲げ部に、(セットボルトの)ナット径より大きな径を有する大径穴と、大径穴との連通方向が上下方向に設定され、ナット径より小さくかつボルト軸径よりも大きな径を有する小径穴とからなる折り曲げ部同士を連結するためにセットボルトを挿通する部分が形成され、ナット付きの一体的に組み立てられたセットボルトを大径穴に挿通させた後、下方の小径穴側に移動させて、ナットをボルトに対してねじ込ませ、各折り曲げ部同士を連結させて一体化して組み立ててなる連結装置。」(以下、「刊行物2に記載された技術」という。)

一方、板状体の固定締結手段として、セットボルトとセットボルトを挿通する部分として機能するところの所謂だるま穴による締結手段を採用することは、本件出願前に各種の技術分野において種々採用されているところである(例えば、平成23年5月16日付けの拒絶理由通知書において引用されている特開平11-270532号公報[特に、段落【0009】ないし【0012】及び図1]、特開平11-306815号公報[特に、段落【0018】ないし【0028】並びに図1、4及び5]、及び、実願昭62-113333号(実開昭64-20002号)のマイクロフィルム[特に、明細書第1ページ第4ないし12行、第1ページ第19行ないし第3ページ第10行及び第5ページ第2行ないし第6ページ第1行並びに第1ないし3図及び第8ないし10図]等参照。以下、「周知技術1」という。)。
また、セットボルトとセットボルトを挿通する部分としての機能するところの所謂だるま穴による締結手段において、セットボルトをだるま穴の円弧状部(大径部)に挿通させる際に、セットボルトのナット側から挿通させるか、ボルト側から挿通させるかは、2者択一の事項であって、何れかを選択することに格別の効果が生じるものともいえないから、当業者が必要に応じて適宜選択的に設定しうる設計事項といえる。
してみると、刊行物1に記載された発明における「折返し部3,4同士を連結」するために、「折返し部3,4」に「形成され」た「切欠き9」と「あらかじめナツト7を取付けた縫合せねじ5」による締結は、セットボルトによる板状体同士の締結という機能及び技術分野において、刊行物2に記載された技術と共通するものであるから、刊行物1に記載された発明において、周知技術1を考慮して、刊行物2に記載された技術を適用し、相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。

次に、相違点2について検討する。

端部に折り曲げ部が形成された複数の側板により周囲壁を構成するエレベータの乗りかごにおいて、複数の各折り曲げ部同士をボルト、ナット等の締結手段で連結させて一体化して乗りかごを組み立てることは、本件出願前に周知の技術である(例えば、実願平1-76380号(実開平3-18074号)のマイクロフィルム[特に、第1ないし3図]、及び、特公昭55-28995号公報[特に、第1及び2図]等参照。以下、「周知技術2」という。)。
してみると、刊行物1に記載された発明において、周知技術2を適用して、相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。

そして、本件補正発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに周知技術1及び2から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

したがって、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに周知技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

なお、平成24年11月22日付け上申書についても、検討したところである。

3.むすび

以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

第3 本件発明について

1.本件発明

平成24年2月21日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の特許請求の範囲の請求項1ないし7に係る発明は、平成23年10月31日付けの手続補正により補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記第2[理由][1](a)に示した請求項1に記載されたとおりのものである。

2.刊行物

原査定の拒絶の理由に引用された、刊行物1(実願昭51-155753号(実開昭53-73671号)のマイクロフィルム)及び刊行物2(特開平4-46507号公報)には、上記第2[理由][3]1.(1)ないし(3)及び(4)ないし(6)のとおりのものが記載されている。

3.対比・判断

上記第2[理由][2]で検討したように、本件補正発明は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明、すなわち本件発明の発明特定事項に関して限定を付加したものであるから、本件発明は、実質的に、本件補正発明における発明特定事項についての上記付加された限定を省いたものに相当する。
そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、上記第2[理由][3]に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに周知技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに周知技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

そして、本件発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに周知技術1及び2から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

4.むすび

以上のとおり、本件発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに周知技術1及び2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-25 
結審通知日 2013-01-08 
審決日 2013-01-31 
出願番号 特願2001-217052(P2001-217052)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B66B)
P 1 8・ 121- Z (B66B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 杏子  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 中野 宏和
金澤 俊郎
発明の名称 エレベータの乗りかご  
代理人 三好 秀和  

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