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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 F01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F01L
管理番号 1272054
審判番号 不服2011-25065  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-11-21 
確定日 2013-03-27 
事件の表示 特願2009-523190「内燃機関」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 2月14日国際公開、WO2008/017440、平成22年 1月 7日国内公表、特表2010-500497〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、2007年8月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年8月10日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成21年2月9日付けで国内書面が提出され、平成21年3月5日付けで特許法第184条の4第1項の規定による明細書、特許請求の範囲及び図面の翻訳文が提出され、平成22年12月27日付けで拒絶理由が通知され、平成23年7月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年11月21日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に、同日付けで明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、その後、当審において平成24年5月14日付けで書面による審尋がなされ、これに対して平成24年8月15日付けで回答書が提出されたものである。


第2 平成23年11月21日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成23年11月21日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)平成23年11月21日付けの手続補正書による手続補正(以下、単に「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成21年3月5日付けで翻訳文が提出された)特許請求の範囲の以下の(a)に示す請求項1ないし14を、(b)に示す請求項1ないし14に補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
シリンダー(1)の吸気開口部及び出口開口部を開閉するために使用することができる吸気弁及び排気弁(5、7)に作用するカムシャフト(23)を有する内燃機関であって、前記吸気弁及び排気弁(5、7)の上昇曲線(EV、AV)が、カムシャフト(23)のカム(24、25)の形状によって決定され、前記吸気弁の上昇曲線(EV)は、前記排気弁(7)の上昇曲線(AV)とは異なる内燃機関において、
前記排気弁(7)に作用する追加的な補助カムが前記カムシャフト(23)に配置され、前記吸気弁(5)の上昇曲線(EV)とは異なるが少なくとも部分的に交わる補助的な上昇曲線(AVZ)が、前記排気弁(7)に与えられることを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記排気弁(7)の前記補助的な上昇曲線(AVZ)の閉鎖モーメントが、前記吸気弁(5)の前記上昇曲線(EV)の閉鎖モーメントの後にくることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記排気弁(7)の前記補助的な上昇曲線(AVZ)の開放期間(φAV,Z)が、前記吸気弁(5)の前記上昇曲線(EV)の開放期間(φEV)よりも短いことを特徴とする請求項1あるいは2に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記排気弁(7)の前記補助的な上昇曲線(AVZ)の開放期間(φAV,Z)が、前記吸気弁(5)の前記上昇曲線(EV)の開放期間(φEV)の少なくとも30%以上となることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の内燃機関。
【請求項5】
前記吸気弁(5)の前記上昇曲線(EV)が、前記補助的な上昇曲線(AVZ)の開放モーメントの時点でピークに達することを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の内燃機関。
【請求項6】
前記補助的な上昇曲線(AVZ)の上昇(HAV,Z)が、前記吸気弁(5)の上昇(HEV)よりも小さいことを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載の内燃機関。
【請求項7】
前記補助的な上昇曲線(AVZ)の上昇(HAV,Z)が、前記吸気弁(5)の上昇(HEV)の少なくとも10%以上となることを特徴とする請求項1?6のいずれか一項に記載の内燃機関。
【請求項8】
追加的な排気弁として調整可能な絞り弁(28)が設けられることを特徴とする請求項1?7のいずれか一項に記載の内燃機関。
【請求項9】
別々に作動可能なアクチュエータ(29)を介して前記絞り弁(28)の調整が可能であることを特徴とする請求項8に記載の内燃機関。
【請求項10】
エンジンブレーキフェーズにおいて前記絞り弁(28)が一定の開放位置にあることを特徴とする請求項8あるいは9に記載の内燃機関。
【請求項11】
再循環管(31)を有する排気ガス再循環手段(30)が、排気系統と吸気管(20)と調整可能な遮断弁(33)との間に設けられることを特徴とする請求項1?10のいずれか一項に記載の内燃機関。
【請求項12】
前記排気系統に排気タービン(10)を備え、前記吸気管(20)に圧縮器(11)を備える排気ターボ過給器(2)が設けられることを特徴とする請求項1?11のいずれか一項に記載の内燃機関。
【請求項13】
前記排気タービン(10)が、タービン入口有効断面積を可変に調整するために可変タービン形状(13)を備えることを特徴とする請求項12に記載の内燃機関。
【請求項14】
前記排気系統に調整可能な制動フラップ(35)が配置されることを特徴とする請求項1?13のいずれか一項に記載の内燃機関。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
シリンダー(1)の吸気開口部及び出口開口部を開閉するために使用することができる吸気弁及び排気弁(5、7)に作用するカムシャフト(23)を有する内燃機関であって、前記吸気弁及び排気弁(5、7)の上昇曲線(EV、AV)が、カムシャフト(23)のカム(24、25)の形状によって決定され、前記吸気弁の上昇曲線(EV)は、前記排気弁(7)の上昇曲線(AV)とは異なる内燃機関において、
前記排気弁(7)に作用する追加的な補助カムが前記カムシャフト(23)に配置され、これにより前記吸気弁(5)の上昇曲線(EV)とは異なるが少なくとも部分的に交わる補助的な上昇曲線(AVZ)が、前記排気弁(7)に常に与えられることを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記排気弁(7)の前記補助的な上昇曲線(AVZ)の閉鎖モーメントが、前記吸気弁(5)の前記上昇曲線(EV)の閉鎖モーメントの後にくることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記排気弁(7)の前記補助的な上昇曲線(AVZ)の開放期間(φAV,Z)が、前記吸気弁(5)の前記上昇曲線(EV)の開放期間(φEV)よりも短いことを特徴とする請求項1あるいは2に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記排気弁(7)の前記補助的な上昇曲線(AVZ)の開放期間(φAV,Z)が、前記吸気弁(5)の前記上昇曲線(EV)の開放期間(φEV)の少なくとも30%以上となることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の内燃機関。
【請求項5】
前記吸気弁(5)の前記上昇曲線(EV)が、前記補助的な上昇曲線(AVZ)の開放モーメントの時点でピークに達することを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の内燃機関。
【請求項6】
前記補助的な上昇曲線(AVZ)の上昇(HAV,Z)が、前記吸気弁(5)の上昇(HEV)よりも小さいことを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載の内燃機関。
【請求項7】
前記補助的な上昇曲線(AVZ)の上昇(HAV,Z)が、前記吸気弁(5)の上昇(HEV)の少なくとも10%以上となることを特徴とする請求項1?6のいずれか一項に記載の内燃機関。
【請求項8】
追加的な排気弁として調整可能な絞り弁(28)が設けられることを特徴とする請求項1?7のいずれか一項に記載の内燃機関。
【請求項9】
別々に作動可能なアクチュエータ(29)を介して前記絞り弁(28)の調整が可能であることを特徴とする請求項8に記載の内燃機関。
【請求項10】
エンジンブレーキフェーズにおいて前記絞り弁(28)が一定の開放位置にあることを特徴とする請求項8あるいは9に記載の内燃機関。
【請求項11】
再循環管(31)を有する排気ガス再循環手段(30)が、排気系統と吸気管(20)と調整可能な遮断弁(33)との間に設けられることを特徴とする請求項1?10のいずれか一項に記載の内燃機関。
【請求項12】
前記排気系統に排気タービン(10)を備え、前記吸気管(20)に圧縮器(11)を備える排気ターボ過給器(2)が設けられることを特徴とする請求項1?11のいずれか一項に記載の内燃機関。
【請求項13】
前記排気タービン(10)が、タービン入口有効断面積を可変に調整するために可変タービン形状(13)を備えることを特徴とする請求項12に記載の内燃機関。
【請求項14】
前記排気系統に調整可能な制動フラップ(35)が配置されることを特徴とする請求項1?13のいずれか一項に記載の内燃機関。」
(なお、下線は審判請求人が補正箇所を明示するために付したものである。)


2 新規事項の追加について
本件補正により、請求項1において、本件補正前の「補助的な上昇曲線(AVZ)が、前記排気弁(7)に与えられる」という事項が、本件補正後の「補助的な上昇曲線(AVZ)が、前記排気弁(7)に常に与えられる」と補正された。
しかしながら、上記「補助的な上昇曲線(AVZ)が、前記排気弁(7)に常に与えられる」という事項は、平成21年3月5日付けで翻訳文が提出された本件出願の明細書、特許請求の範囲及び図面には記載されていない事項である。
上記平成21年3月5日付け翻訳文の明細書において、段落【0008】には、「通常動作の点火運転モードでは、通常の給気交換における上昇に加えた、排気弁の追加的な上昇及び開放によって、内部排気ガス再循環として知られているものをある程度行うことができる。内部排気ガス再循環では、排気系統からの排気ガスの部分的な質量流が、開放された各給気交換弁を経由してシリンダーを通って吸気管に再循環される。排気ガス再循環は、特に部分負荷動作において行われ、排気ガス中の窒素酸化物NOxを低減させる。内部排気ガス再循環によって、再循環される排気ガス流量が、低減されるか、又は適切な場合、排気系統と吸気管との間の外部の再循環管による外部排気ガス再循環として知られているものにより、完全に調整される。」(下線は当審で付した。)と記載され、補助的な上昇曲線(AVZ)による内部排気ガス再循環が「特に部分負荷動作において行われ」ることが分かる。同じく段落【0009】には、「他方で、エンジンブレーキ動作では、通常の給気交換に加えた排気弁の追加的な上昇を、シリンダーへの再給気を制御しかつエンジンブレーキ力を増大させるために使用する。当該技術分野で公知の標準的なカムシャフトと比較して、本発明に従って供されるカムシャフトは、最も高いエンジンブレーキ力における排気弁の調整機構の制御に関して利点をもたらす。エンジンブレーキ動作において従来技術で発生する排気弁の振動を、本発明による実施形態の場合には著しく低減させる。ガスが高圧及び高い流速にあるフェーズにおいて、排気弁を制御された方法で案内するので、排気弁が制御されずに上昇すること、及び付随して排気弁に高い負荷が作用することを妨げる。排気弁の追加的な制御された上昇は、単に、補助的な上昇曲線を得るために補助カムをカムシャフトに配置する必要があるというように、単純な設計措置を使用することにより行うことができる。」(下線は当審で付した。)と記載され、エンジンブレーキ動作時には、排気弁の補助的な上昇曲線(AVZ)が利用されることが分かる。
上記明細書の段落【0008】及び【0009】の記載から、「補助的な上昇曲線(AVZ)が、前記排気弁(7)に与えられる」のは、「特に部分負荷時」及び「エンジンブレーキ動作時」であって、「常に」ではないことが分かる。(例えば、始動時や、全負荷時には、補助的な上昇曲線(AVZ)が排気弁に与えられないと解される。)
してみれば、本件補正後の「補助的な上昇曲線(AVZ)が、前記排気弁(7)に常に与えられる」という事項は、平成21年3月5日付けで翻訳文が提出された本件出願の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載から自明であるともいえない事項である。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


3 独立特許要件について
仮に、本件補正が、新規事項の追加に該当せず、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとした場合について、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

3-1 特表2005-522622号公報(以下、「引用文献」という。)
(1)引用文献の記載事項
原査定の拒絶理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付した。)

(a)「【請求項22】
エンジンの弁の事象に対して可変弁作動性をエンジンの弁に具備させる装置において、
主ピストン用ボアと従ピストン用ボアとを有するハウジングと、
前記主ピストン用ボアに摺動可能に配置された主ピストンと、
前記主ピストンに作動接続されたカムであって、前記主ピストンの作動専用であるカムと、
前記従ピストン用ボアに摺動可能に配置された従ピストンであって、前記主ピストンに選択的に油圧連結され、1個以上のエンジンの弁を作動するようにされている従ピストンと、
前記従ピストンに組み込まれた弁座組立体と、
前記従ピストン用ボアに作動接続されたトリガー弁とを含むことを特徴とするエンジンの弁可変作動装置。
【請求項23】
前記カムが、主要な事象、再循環および制動のためのローブから構成される群から選択された少なくとも1個のローブを含むことを特徴とする請求項22に記載の弁可変作動装置。
【請求項24】
前記カムが圧縮?解放式制動用ローブを含むことを特徴とする請求項22に記載の弁可変作動装置。
【請求項25】
前記カムが排気ガス再循環用ローブを含むことを特徴とする請求項22に記載の弁可変
作動装置。
【請求項26】
ブリーダ制動を提供するようにエンジンの弁を作動させる手段を更に含むことを特徴とする請求項22に記載の弁可変作動装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項22】ないし【請求項26】)

(b)「【0002】
本発明は全体的に内燃エンジンにおける弁を作動させる装置と方法とに関するものである。特に、本発明は内燃エンジンにおける吸込み弁、排気弁および補助弁の可変作動を提供しうる装置と方法とに関する。
【背景技術】
【0003】
内燃エンジンが正パワーを発生させるためには該エンジンにおける弁の作動が必要とされる。正パワーの間、燃焼のために燃料と空気とをシリンダ中へ導入するには1個以上の吸込み弁を開放させればよい。シリンダから燃焼ガスを逃しうるようにするには1個以上の排気弁を開放させればよい。また、排気を改善させるために排気ガスを再循環するために正パワーの間色々な時に吸込み弁、排気弁および(または)補助弁も開放すればよい。
【0004】
正パワーを発生させるためにエンジンが使用されていないときは、エンジン制動および排気ガス再循環(EGR)を行うためにもエンジンの弁作動も使用することができる。エンジン制動の間、少なくとも一時的にエンジンをエアコンプレッサに変換するために排気弁は選択的に開放することができる。そうすることによって、車両を減速させやすくするためにエンジンは遅速馬力を発生させる。このことによって操作者に対して車両の制御性を増し、車両のサービスブレーキの磨耗を著しく低減させることができる。
【0005】
多くの内燃エンジンにおいて、吸込み弁と排気弁とは固定された外形のカムによって、より詳しくは各カムの一体部分である1個以上の固定されたローブ(lobes)によって開閉させることができる。もしも吸込み弁と排気弁のタイミングおよび揚程(lift)が変更可能であるとすれば、例えば性能の向上、燃料経済性の改善、排出物の低下、およびより優れた車両の運転性のような利点を得ることができる。しかしながら、固定された外形カムの使用は、例えば種々のエンジン速度のような、各種のエンジン作動条件に対してエンジンの弁のタイミングおよび(または)揚程の大きさの調整を難くしうる。
【0006】
カムの外形が固定されたものである場合の、弁のタイミングと揚程とを調整するための提案された一方法は、弁とカムとの間の弁連結装置において「空動き(lost motion)」装置を組み込むことによって可変弁作動を提供することであった。空動きとは可変長さの機械的、油圧あるいはその他の連結組立体によって、カムの外形が描く弁の運動を修正する種類の技術的な方法に対して適用される用語である。空動き装置において、カムのローブは全ての範囲のエンジン作動条件に亘って必要とされる「最大」(滞留が最長で、揚程が最大)の運動を提供しうる。そして長さ可変の装置は、カムによって弁に対して与えられる運動の一部あるいは全てを減じるとか、あるいは喪失させるために、開放すべき弁と最大運動を提供するカムとの中間において、弁連結装置に含めることができる。
【0007】
この可変長さの装置(すなわち、空動き装置)は完全に拡張するとカムの運動の全てを弁に伝達し、完全に収縮すると、カムの運動を弁に全く伝達しないか、あるいは最小量を伝達することができる。そのような装置および方法の一例が、本特許出願と同じ譲受人に対して譲渡され、参考のために本明細書に含めているフー(Hu)への米国特許第5,537,976号明細書および同第5,680,841号明細書において提供されている。
【0008】
米国特許第5,680,841号明細書に記載の空動き装置においては、エンジンのカムシャフトは、流体をその油圧室から従ピストンの油圧室中へ移す主ピストンを作動させることができる。従ピストンの方は、エンジンの弁に対して作用してそれを開放させる。空動き装置は主ピストンおよび従ピストンの油圧室を含む油圧回路と連通しているソレノイドトリガー弁を含みうる。前記ソレノイド弁は、カムのローブのあるものによって主ピストンが作動させられると前記油圧回路内に油圧流体を保持しておくために閉鎖位置に保持することができる。ソレノイド弁が閉鎖された状態に留まる限り、従ピストンとエンジンの弁とは、カムローブが作用するとそれに応答して往復運動する主ピストンの運動によって押し退けられた油圧流体に対して直接応答する。前記ソレノイド弁が開放すると、油圧回路は排出され、主ピストンによって発生した油圧の一部あるいは全ては、従ピストンおよびエンジンの弁を移動させるために供給されるよりもむしろ前記油圧回路によって吸収されうる。
【0009】
前述した米国特許第5,680,841号明細書では高速のトリガー弁の使用を検討しているものの、従来の空動き装置は典型的に、空動き装置の長さを迅速に変更するために高速の機構は使用していなかった。特に高速の空動き装置は可変弁作動(VVA)を提供するために必要とされる。単一のカムローブ運動存続の間、あるいは少なくともエンジンの一サイクルの間に、一つ以上の長さを空動き装置が取りうるようにするに十分高速である真正の可変弁作動が検討されている。空動き装置の長さを変更するために高速の機構を使用することによって、ある範囲のエンジン作動条件に亘ってより最適化された弁作動を可能とするために弁作動に対して十分精密な制御を達成することができる。弁のタイミングおよび揚程における種々程度の融通性を実現するために多様な装置が提案されてきたが、空動き装置の油圧による可変弁作動が融通性、低パワー消費および安定性の最良の組み合わせを達成する上で優れた可能性をもつものと認識されつつある。
【0010】
空動きVVA装置から得られるエンジンの有利性は、従来の主吸込み弁および排気弁の事象に追加して補助的な弁の揚程を提供するために追加のローブすなわち隆起を備えた複合カム外形を創成することによって達成することができる。マルチローブを備えたカムを含むVVA装置によってエンジン弁作動の多くの独特なモードを提供することができる。例えば、吸込み弁カムプロファイルは主吸込み弁のローブに先行してEGRのための別のローブを含み、および(または)排気弁カムプロファイルは主排気弁ローブの後でEGRのための別のローブを含みうる。また、カムにはシリンダチャージングおよび(または)圧縮解放用のためのその他の補助ローブを含めることができる。吸込み弁および排気弁のカムに設けられた各種のローブから可能とされる弁揚程のいずれか、あるいは全ての組み合わせを選択的に消去したり、あるいは使用可能とするために空動きVVA装置を使用しうる。その結果、エンジンの正パワーおよびエンジン制動作動の双方に対して顕著な改良を行うことができる。
【0011】
前述の有利性は必ずしも吸込み弁および排気弁に限定されるものではない。また、空動きVVA装置は、例えばエンジン制動とかEGRのような吸込みあるいは排気以外の何かの目的のための専用とされている補助エンジンに対しても適用可能であるように本発明の発明者によって考慮されている。所望される全ての可能な作動を備えた補助エンジン弁カムおよび空動きVVA装置を提供することによって、補助弁の作動は諸々のエンジン速度および作動条件に対して最適なように変えることができる。」(段落【0002】ないし【0011】)

(c)「【0012】
前述したことに鑑みれば、本発明による空動き装置と方法との実施例は、正パワーのための可変弁作動と、(例えば、圧縮解放式制動のような)エンジン制動の弁事象および排気ガス再循環の弁事象を必要とするエンジンにおいて特に有用でありうる。
【0013】
前述した種類の弁事象(主吸込み、主排気、エンジン制動、および排気ガス再循環)の各々は、ガスがシリンダへ、かつそこから流れることができるようにするためにエンジンのシリンダ中へエンジンの弁が押し込まれる結果発生する。各事象は、本質的に開始(開放)時間と終了(閉鎖)時間とを有し、それらが集約的に前記事象の持続時間を画定する。開始および終了時間はその各々の発生時におけるエンジンの位置(通常はクランクシャフトの位置)に関連して表わすことができる。これらの弁の事象はまた本質的に、通常弁の揚程(lift)と称されるが、エンジンの弁がエンジンのシリンダ中への最大伸張に達した点を含む。このように、各弁の事象は少なくとも基本レベルにおいては、その開始時間および終了時間、並びに弁の揚程によって画定することができる。
【0014】
もしもエンジンのカムをエンジンの弁に接続している空動き装置が、特定のローブが本装置に対して作用する度毎に固定された長さを有しているとすれば、そのローブによって提供される各事象の開始時間および終了時間並びに揚程も固定される。更に、カムの回転
全体の持続時間に対して固定された長さを有する空動き装置は、当該装置が空動き装置とエンジンの弁との間でラッシュ空間を組み込んでいないと想定すれば、カムの各ローブに応答して弁事象を発生させる。しかしながら、エンジンの弁の最適な開始時間、終了時間、および揚程とは「固定」されるものではく、エンジンの種々の作動モード(例えば、異なるエンジン負荷、燃料消費、シリンダのカットアウト(cut-out)など)や、異なるエンジン速度、そして異なる環境条件に対して広範囲に変動しうるものである。従って、長さが固定されているのでなく、むしろ短い作動時間に亘って「可変」である空動き装置を有することが望ましい。短い作動時間とは、カムのローブがある固定点を通過するに要する時間が可及的短い(すなわち、カムシャフトの数度に亘る回転程度の短さ)、あるいは少なくともカムシャフトの一回転よりも短いものである。
【0015】
また、エンジンの正パワー作動中に最適なパワーおよび燃料効率を提供することも望ましい。本発明の各種実施例の一つの利点は、そのように所望されれば、最適なパワーおよび燃料効率を提供するためにそれらが吸込み弁および排気弁のタイミングおよび(または)揚程を変えるように使用しうるということである。空動きVVA装置を使用することによって変動するエンジン状態、負荷および速度に応答して弁のタイミングおよび(または)揚程を変更できるようにする。これらの変更はエンジン状態および(または)予めプログラム化した指令のリアルタイムでの検知に応答して行うことができる。
【0016】
また、内燃エンジン、特にディーゼルエンジンの排気からのNOxおよび(または)その他の汚染排出物を低減することも望ましい。本発明の各種実施例の一つの利点は、吸込み弁、排気弁および(または)補助弁の可変弁タイミングおよび補助的揚程を使用することにより内部排気ガスの再循環あるいは残留排気ガスを捕捉することによってNOxおよびその他の汚染排出物を低減するためにそれらが使用されうるということである。排気ガスが吸込みマニフォールドから送入されてくる新鮮な空気で希釈しうるようにすることによって、燃料消費を大量に増すことなくより低いピーク燃焼温度を達成することができ、その結果汚染物の形成を少なくし、一酸化炭素をより完全に燃焼できるようにしうる。
【0017】
また、ディーゼルエンジンに対する大きな関心事は、エンジンがエンジン制動モードを有しうることである。本発明の各種の実施例の別の利点はエンジンの速度範囲に亘ってエンジン制動性を最適化し、並びに運転者の要求に応答してエンジン制動性を変調することである。」(段落【0012】ないし【0017】)

(d)「【0030】
本発明の第一の実施例は弁騒動装置として図1に示されている。弁作動装置10は空動き装置200に接続されている運動付与手段100(運動手段)を含み、空動き装置200の方は1個以上のエンジンの弁300に接続されている。運動付与手段100は入力運動を空動き装置200に提供する。空動き装置200は、(1)運動手段100によって入力された運動を喪失するモードと、(2)入力運動をエンジンの弁300に転送するモードとの間で選択的に切り替えることができる。エンジンの弁300に転送された運動は、限定的ではないが、例えば主吸込み、主排気、圧縮解放制動、ブリーダ(吹出し)制動、外部および(内部)排気ガス再循環、排気弁早期開放、吸込み弁早期閉鎖、中央揚程(centered lift)などのエンジンの弁の各種事象を発生させるために使用しうる。空動き装置200を含む弁作動装置10は制御装置400からの信号あるいは入力に応答して、運動喪失モードと運動不喪失モードとの間で切り替えが可能である。エンジンの弁300は排気弁、吸込み弁あるいは補助弁でよい。
【0031】
運動付与手段100はカム、押し管、および(または)揺動腕あるいはそれらの相当物のいずれかの組み合わせから構成すればよい。空動き装置200は前記運動付与手段100を前記弁300に接続し、運動付与手段100から弁300まで運動を選択的に伝達することができる何らかの構造体から構成すればよい。ある意味では、空動き装置200は固定した一つの以上の長さを選択的に達成することができる何らかの構造体であればよい。空動き装置200は、例えば、機械的な連結装置、油圧回路、油圧ー機械式連結装置、電気機械式連結装置、および(または)運動付与手段100に接続され、一つ以上の作動長さを達成するようにされたいずれかのその他の連結装置から構成すればよい。空動き装置200は油圧回路を組み込んだ場合、例えばトリガー弁、逆止弁、アキュムレータ、および(または)油圧流体を回路から解放したり、あるいは添加するために使用されるその他の装置のような回路における圧力あるいは流体の量を調整するための手段を含みうる。空動き装置200は前記運動付与手段100と弁300とを接続する弁列におけるいずれかの点に位置させればよい。
【0032】
制御装置400は空動き装置200と通信し、該空動き装置がそれに入力された運動の若干あるいは全てを喪失するか、あるいはこの運動を喪失しないようにさせるいずれかの電子的あるいは機械的装置から構成しうる。制御装置400は空動き装置200の瞬間的な適当な長さを検出し、かつ選択するために、エンジンのその他の構成要素に連結された
マイクロプロセッサを含みうる。弁の作動は、マイクロプロセッサによってエンジンの構成要素から収集された情報に基づいて空動き装置200の瞬間的な長さを制御することによって複数のエンジン速度および条件において最適化することができる。制御装置400は(エンジンサイクルに対して1倍以上の)高速で空動き装置200を作動させるようにされていることが好ましい。」(段落【0030】ないし【0032】)

(e)「【0033】
本発明の別の実施例が図2に示されている。図2を参照すれば、運動付与手段100はカム110と、揺れ腕120と、押し管130とから構成しうる。図4を参照すれば、カム110は任意に、例えば主(排気あるいは吸込み)事象用ローブ(突起)112と、エンジン制動用ローブ114と、EGR用ローブ116とを含みうる。カム110上のローブの描写は単に例示であって、限定的なものではない。ローブの数、サイズ、位置、および形状は本発明の所定の範囲を逸脱することなく明らかに変更しうることが認められる。」(段落【0033】)

(f)「【0057】
図6は、ブリーダ制動油圧プランジャ239を追加した、図2,3,5,7および9に示すもののような従ピストン230の下方部分を囲繞する領域の概略断面図である。提供されうるブリーダ制動弁作動の例が図14に示されている。ブリーダ制動は1個以上の排気弁がエンジンの制動モードの間のエンジンのサイクルの多く、あるいは全てに亘って開放しているように1個以上の排気弁に少しの開き(クラッキング)を行うことによって達成することができる。その結果、排気ガスは、各排気および圧縮ストロークの間、シリンダから排気マニフォールド中へ吹出す。ブリーダ制動に付随するエンジンの騒音は圧縮?解放式制動によって発生するものと比較して低減しうる。排気抑制装置と関連して実行されるとブリーダ制動は高めることができる。」(段落【0057】)

(g)「【0072】
図13を参照すれば、本発明の各種の装置および方法の実施例を使用することによって提供することのできる各種の弁の作動およびそれらの修正が示されている。例えば、任意の吸込み弁のEGR事象710および任意の排気弁のEGR事象620によって実行されるべき吸込み弁の早期閉鎖事象704が示されている。前述した弁の運動は例示である意図のものである。本発明による各種の装置の実施例は各種のタイミングと揚程とを有する広範の諸々の弁事象を実行するために使用しうることが認められる。
【0073】
例えば、本発明の前述した実施例はディーゼルエンジンが停止される際、通常それに関連する「振動」を低減させるために使用しうる。各種の弁作動装置は、一時に1個ずつ個々のエンジンのシリンダにおける弁作動を停止させることによって、全てのシリンダが同時に停止した場合に発生する振動を低減するために使用しうる。」(段落【0072】及び【0073】)

(h)「【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の第一の実施例による弁作動装置のブロック線図である。
【図2】本発明の第二の実施例による弁作動装置の概略図である。
【図3】本発明の第三の実施例による弁作動装置の概略図である。
【図4】本発明の各種実施例と関連して使用する多数ローブを有するカムの概略図である。
【図5】本発明の第四の実施例による弁作動装置の概略図である。
【図6】ブリーダ制動油圧プランジャが本装置のハウジングの下部分に一体化されている、本発明の代替実施例の概略図である。
【図7】作動のリンプ(limp)‐ホーム(home)モードを提供するようにアキュムレータの容積を制限する手段を含む本発明の別の代替実施例の概略図である。
【図8】従ピストンの上側領域、より詳しくは図7に示す弁着座組立体の概略図である。
【図9】従ピストンのためのクリッピング通路を含む本発明の別の代替実施例の概略図である。
【図10】従来の正パワーの主吸込み弁および排気弁の運動を示す、エンジンの弁の揚程対クランク角度のグラフである。
【図11】正パワーの求心した揚程の主吸込み弁および排気弁の運動を示す、エンジンの弁の揚程対クランク角度のグラフである。
【図12】正パワーでの作動の間の吸込み弁の早期閉鎖を示す、エンジンの弁の揚程対クランク角度のグラフである。
【図13】正のパワーでの作動の間の吸込み弁の早期閉鎖と関連して実行される吸込み弁と排気弁とのEGR事象を示す、エンジンの弁の揚程対クランク角度のグラフである。
【図14】ブリーダ制動を示す、エンジンの弁の揚程対クランク角度のグラフである。
【図15】圧縮解放式エンジンの制動弁の運動を示すエンジンの弁の揚程対クランク角度のグラフである。
【図16】正パワーでの作動の間の排気弁の早期閉鎖を示すエンジンの弁の揚程対クランク角度のグラフである。」(【図面の簡単な説明】)

(i)図面の【図2】、【図4】等には、カム110に主事象用ローブ112、エンジン制動用ローブ114及びEGR用ローブ116を設けた技術が記載されている。

(j)図面の【図13】には、「正パワー作動時の弁運動」「吸込み弁早期閉鎖を伴う吸込み弁及び排気弁のEGR運動」として、吸込み弁の早期閉鎖事象704の曲線と部分的に交わる補助排気弁EGR事象620の曲線が記載されている。

(k)図面の【図15】には、「圧縮開放エンジン制動時の弁運動」として、吸込み弁の主吸込み弁事象700の曲線と部分的に交わる「補助排気弁揚程 シリンダーのチャージ」650の曲線が記載されている。

(2)上記(1)(a)ないし(k)及び図面の記載から分かること

(ア)上記(1)(a)ないし(k)及び図面の記載から、引用文献には、シリンダの吸込み弁及び排気弁300,300に作用するカム110を有するエンジンが記載されていることが分かる。また、該吸込み弁及び排気弁300,300が、シリンダの吸気開口部及び出口開口部を開閉するために使用することができること、及び、該カム110が、カムシャフトに設けられていることは技術常識である。

(イ)上記(1)(a)ないし(k)及び図面の記載から、引用文献に記載されたエンジンにおいて、吸込み弁及び排気弁300,300の揚程の曲線(図面の【図10】ないし【図16】に記載されたクランク角度と弁の揚程の関係を表す曲線)が、カム110の吸込み弁カムプロファイル及び排気弁カムプロファイルによって決定されることが分かる。

(ウ)上記(1)(a)ないし(k)及び図面の記載から、引用文献に記載されたエンジンにおいて、吸込み弁の揚程の曲線は排気弁の揚程の曲線とは異なることが分かる。

(エ)上記(1)(a)ないし(k)及び図面の記載から、引用文献に記載されたエンジンにおいて、排気弁カムプロファイルは排気弁に作用する追加的な補助ローブを含みうることが分かる。

(オ)上記(1)(a)ないし(k)及び図面の記載から、引用文献に記載されたエンジンにおいて、カム110に、主(排気)事象用ローブ(突起)112と、補助ローブであるエンジン制動用ローブ114と、EGR用ローブ116とを含みうることが分かる。

(カ)上記(1)(a)ないし(k)及び図面の記載から、引用文献に記載されたエンジンにおいて、図13の内部EGR運転時には、カム110に設けたEGR用ローブ116により、吸込み弁の揚程の曲線704とは異なるが少なくとも部分的に交わる補助的な揚程の曲線620が、排気弁に与えられることが分かる。

(キ)同様に、上記(1)(a)ないし(k)及び図面の記載から、引用文献に記載されたエンジンにおいて、図15の圧縮開放エンジン制動時には、カム110に設けた補助ローブにより、吸込み弁の揚程の曲線700とは異なるが少なくとも部分的に交わる補助的な揚程の曲線650が、排気弁に与えられることが分かる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)並びに図面の記載から、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「シリンダの吸気開口部及び出口開口部を開閉するために使用することができる吸込み弁及び排気弁300,300に作用するカムシャフトのカム110を有するエンジンであって、前記吸込み弁及び排気弁300,300の揚程の曲線が、カムシャフトのカム110のカムプロファイルによって決定され、前記吸込み弁の揚程の曲線は、前記排気弁の揚程の曲線とは異なるエンジンにおいて、
前記排気弁に作用する追加的な補助ローブが前記カムシャフトのカム110に配置され、これにより前記吸込み弁の揚程の曲線とは異なるが少なくとも部分的に交わる補助的な揚程の曲線620,650が、前記排気弁に与えられる、エンジン。」


3-2 本願補正発明と引用発明との対比
本願補正発明と引用発明とを対比するに、引用発明における「シリンダ」は、その機能及び構造又は技術的意義からみて、本願補正発明における「シリンダー」に相当し、以下同様に、「吸込み弁300」は「吸気弁(5)」に、「排気弁300」は「排気弁(7)」に、「カムシャフトのカム110」は「カムシャフト」又は「カムシャフトのカム」に、「吸込み弁及び排気弁300,300の揚程の曲線」は「吸気弁及び排気弁の上昇曲線(EV,AV)」に、「カム110のカムプロファイル」は「カム(24,25)の形状」に、「吸込み弁の揚程の曲線」は「吸気弁の上昇曲線(EV)」に、「排気弁の揚程の曲線」は「排気弁(7)の上昇曲線(AV)」に、「補助的な揚程の曲線620,650」は、「補助的な上昇曲線(AVz)」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「追加的な補助ローブがカムシャフトのカムに配置され」は、その技術的意義からみて、本願補正発明における「追加的な補助カムがカムシャフトに配置され」に相当する。

してみると、本願補正発明と引用発明は、
「シリンダーの吸気開口部及び出口開口部を開閉するために使用することができる吸気弁及び排気弁に作用するカムシャフトを有する内燃機関であって、前記吸気弁及び排気弁の上昇曲線が、カムシャフトのカムの形状によって決定され、前記吸気弁の上昇曲線は、前記排気弁の上昇曲線とは異なる内燃機関において、
前記排気弁に作用する追加的な補助カムが前記カムシャフトに配置され、これにより前記吸気弁の上昇曲線とは異なるが少なくとも部分的に交わる補助的な上昇曲線が、前記排気弁に与えられる、内燃機関。」
である点で一致し、次の<相違点>で相違する。

<相違点>
本願補正発明においては、「吸気弁の上昇曲線とは異なるが少なくとも部分的に交わる補助的な上昇曲線が、排気弁に常に与えられる」のに対し、引用発明においては、「吸込み弁[吸気弁]の揚程の曲線[上昇曲線]とは異なるが少なくとも部分的に交わる補助的な揚程の曲線[上昇曲線]が、排気弁に与えられる」(なお、[ ]内には対応する本願補正発明の発明特定事項を記載した。)ものの、「常に」与えられるわけではない点(以下、「相違点」という。)。

3-3 相違点についての検討及び判断
(1)相違点について
引用発明において、「空動き装置」を設けない場合又は該「空動き装置」を作動させない場合には、「吸込み弁の揚程の曲線とは異なるが少なくとも部分的に交わる補助的な揚程の曲線が、排気弁に「常に」与えられる」ことになる。
したがって、引用発明において、「空動き装置」を設けない又は該「空動き装置」を作動させないことにより、相違点に係る本願補正発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到し得たことである。

また、本願補正発明は、全体としてみても、引用発明から想定される以上の格別の作用効果を奏するものではない。

したがって、本願補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3-4 独立特許要件についてのまとめ
以上のとおり、本件補正は、仮に新規事項の追加に当たらないとしても、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

4 まとめ
上記のように、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また、仮に、本件補正が新規事項の追加に当たらないとしても、本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成23年11月21日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2 の[理由]の1(1)(a)の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2 引用文献
原査定の拒絶理由に引用された引用文献(特表2005-522622号公報)の記載事項及び引用発明は、前記第2の[理由]の3 3-1(1)ないし(3)に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明と引用発明は、
「シリンダーの吸気開口部及び出口開口部を開閉するために使用することができる吸気弁及び排気弁に作用するカムシャフトを有する内燃機関であって、前記吸気弁及び排気弁の上昇曲線が、カムシャフトのカムの形状によって決定され、前記吸気弁の上昇曲線は、前記排気弁の上昇曲線とは異なる内燃機関において、
前記排気弁に作用する追加的な補助カムが前記カムシャフトに配置され、これにより前記吸気弁の上昇曲線とは異なるが少なくとも部分的に交わる補助的な上昇曲線が、前記排気弁に与えられる、内燃機関。」
で一致し、相違点はない。
したがって、本願発明は、引用発明と同一のものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、その優先日前に日本国内において頒布された引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。


第4 付言
請求人は、平成24年8月15日付け回答書において、補正案を提示しているので、該補正案について検討する。
(1)「吸気弁(5)の上昇曲線(EV)とは異なるが吸気弁(5)の上昇曲線(EV)と交わる補助的な上昇曲線(AVZ)」とする補正案について
引用発明においても、「吸込み弁の揚程の曲線とは異なるが吸込み弁の揚程の曲線と少なくとも部分的に交わる補助的な揚程の曲線620,650」が、排気弁に与えられるといえるから、本願補正発明と同様に、当業者が容易に想到できたものである。

(2)「吸気弁(5)の上昇曲線(EV)による開放タイミングとは同一ではないが少なくとも部分的に重なる開放タイミングとなる補助的な上昇曲線(AVz)」とする補正案について
引用発明においても、「吸込み弁の揚程の曲線による開放タイミングとは同一ではないが少なくとも部分的に重なる開放タイミングとなる補助的な揚程の曲線620,650」が、排気弁に与えられるといえるから、本願補正発明と同様に、当業者が容易に想到できたものである。
また、例えば特開平8-170512号公報(特に、請求項2、段落【0030】、【0035】及び【0038】並びに図5及び10を参照。)にも、同様の発明が記載されている。

(3)「内部排気ガス再循環及びエンジンブレーキ動作の双方の間において、前記排気弁(7)に常に与えられる」とする補正案について
引用発明においても、内部排気ガス再循環(図13を参照)及びエンジンブレーキ動作(図15を参照)の双方の間において、排気弁に与えられるといえるから、本願補正発明と同様に、当業者が容易に想到できたものである。
また、例えば国際公開第2006/044007号(2006年4月27日公開。翻訳文として、特表2008-517202号公報(特に段落【0020】ないし【0023】、【0028】ないし【0033】及び図面を参照。))にも、同様の発明が記載されている。
 
審理終結日 2012-10-23 
結審通知日 2012-10-30 
審決日 2012-11-12 
出願番号 特願2009-523190(P2009-523190)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F01L)
P 1 8・ 113- Z (F01L)
P 1 8・ 121- Z (F01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橋本 敏行  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 金澤 俊郎
中川 隆司
発明の名称 内燃機関  
代理人 山口 栄一  
代理人 石戸 久子  

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