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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H
管理番号 1272438
審判番号 不服2012-1655  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-01-27 
確定日 2013-04-03 
事件の表示 特願2007-522969「電動オイルポンプを備えた駆動伝達系」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 2月 9日国際公開、WO2006/012995、平成20年 3月21日国内公表、特表2008-508479〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年7月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年7月28日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成23年9月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年1月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?9に係る発明は、平成23年2月10日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1は次のとおりである。
「【請求項1】
自動車の駆動伝達系を運転する方法であって、シフト用要素に加圧油を供給するために備えられたオイルポンプがポンプ用電動機により駆動され、第一電動機もまた前記オイルポンプに連結可能である方法において、
前記ポンプ用電動機(5)及び前記第一電動機(2)はともに電気エネルギーにより駆動されるものであって、同じ電圧が印加された始動状態下で、前記ポンプ用電動機(5)で発生するトルクよりも大きなトルクを前記第一電動機(2)が発生することが可能であり、必要に応じ、前記ポンプ用電動機(5)の始動を援助するために、前記第一電動機(2)に電圧を加え、前記オイルポンプ(4)に連結することを特徴とする方法。」

3.本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)について
(1)本願発明1は、上記2.に記載したとおりである。
(2)引用例
(2-1)引用例1
特開2004-100725号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、所定の運転状態のときにエンジンを停止して電動モータによる走行を行うハイブリッド車両に関し、特に、その変速機の変速作動に必要な油圧を供給する油圧供給装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
車両の運転状態に応じて、エンジンの自動的な停止および再始動を行うハイブリッド車両においては、変速機で必要となる油圧を常時確保するために、一般に、エンジンにより駆動される機械駆動式油圧ポンプのほかに、電動モータにて駆動される電動式油圧ポンプを備える必要がある。特に、変速機として、ベルト式無段変速機(CVT)を用いる場合には、ベルトを締め付けるピストンを作動させるために、高い油圧が要求されるので、その油圧の確保は、この種のハイブリッド車両の実用化の上で大きな課題となっている。
【0003】
例えば、特開2001-200920号公報に開示されたベルト式無段変速機を用いたハイブリッド車両においては、エンジンと変速機との間で駆動力の伝達、遮断を行うクラッチよりもエンジン側に機械駆動式油圧ポンプが配設されており、エンジンの回転に連動する形で駆動されるようになっている。従って、エンジンを停止して走行用モータにて走行するときには、上記クラッチが断状態となることから、エンジン停止に伴って油圧ポンプも停止する。そのため、第2の油圧ポンプとして電動式油圧ポンプが設けられており、エンジン停止時には、この電動式油圧ポンプによって、変速機の変速作動部へ油圧が供給される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記公報に記載の構成においては、エンジン停止時には、常に、必要な油圧の全体を電動式油圧ポンプによって供給するようになっている。そのため、大型の電動式油圧ポンプが必要となり、一般に、インバータ方式による高電圧交流モータを用いた大型のシステムとなってしまう。
【0005】
また、機械式油圧ポンプと電動式油圧ポンプとの2つのポンプが必要であることから、車両への搭載性や重量ならびにコストの点で好ましくないのは勿論のこと、特に、2つのポンプが存在することに起因して、油圧回路が複雑となる不具合がある。
【0006】
この発明は、1つのポンプでもってモータ走行時さらには車両停止時においても所期の作動油の圧送が可能なハイブリッド車両の油圧供給装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、請求項1のように、クラッチの入力軸にエンジンが接続されるとともに、該クラッチの出力軸に変速機の入力軸および走行用モータが接続され、かつ上記変速機の出力軸から駆動輪に駆動力が伝達されるように構成された車両推進機構と、上記走行用モータの回転によって駆動され、上記変速機の変速作動部に作動油を供給する機械駆動式の油圧ポンプと、を備えたハイブリッド車両の油圧供給装置に関する。従って、エンジンがクラッチを介して駆動輪を駆動している状態では、このエンジンの出力によって走行用モータとともに油圧ポンプが駆動され、また、エンジンが停止し、走行用モータによって前進方向へ走行しているときにも、油圧ポンプは同様に機械的に駆動される。
【0008】
そして、本発明では、車両停止時に上記油圧ポンプを駆動するための補助電動モータと、上記走行用モータによって回転する第1入力回転部材と上記補助電動モータによって回転する第2入力回転部材とのいずれか回転数が高い方の回転部材から上記油圧ポンプのロータへ回転トルクを伝達するポンプ駆動切換機構と、を備えている。すなわち、1つの油圧ポンプが、機械的に駆動されると同時に、電動式油圧ポンプとして機能するように補助電動モータによる駆動が可能となっている。
【0009】
上記のエンジンもしくは走行用モータによる機械的な駆動が不十分となる運転状態、例えば車両停止時や低車速時には、上記補助電動モータが回転するが、上記ポンプ駆動切換機構の作用によって、エンジンもしくは走行用モータによる機械的な駆動と、補助電動モータによる駆動と、が自動的に切り換えられる。すなわち、補助電動モータが起動されても、エンジンもしくは走行用モータによる回転数が十分に高いときには、エンジンもしくは走行用モータによって機械的に駆動される。そして、これらの回転数が低下していくと、補助電動モータによる駆動に切り換えられ、必要な油圧供給が継続される。
【0010】
また、本発明の油圧供給装置は、望ましくは、上記走行用モータの正転時および逆転時の双方で、上記第1入力回転部材に同方向に回転力を伝達する逆転防止機構をさらに備えている。この構成によれば、上記ハイブリッド車両が、上記クラッチの解放状態で上記走行用モータの逆転によって後退走行を行う場合でも、油圧ポンプを正転方向に機械的に駆動することが可能である。
【0011】
【発明の効果】
この発明に係るハイブリッド車両の油圧供給装置によれば、1つの油圧ポンプによって、エンジン走行時、モータ走行時および車両停止中の油圧供給が可能となり、2つの油圧ポンプを併用する構成に比べて、装置の小型軽量化が図れるのは勿論のこと、油圧回路の構成が簡単となる利点がある。また、エンジンを停止したモータ走行時にも、機械的な駆動による油圧供給が可能であることから、補助電動モータによる油圧供給に要求される能力ないし性能を軽減でき、そのため、補助電動モータの小型化が可能である。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の好ましい実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0013】
図1は、この発明に係る油圧供給装置が用いられるハイブリッド車両の車両推進機構の構成を示している。この推進機構は、例えばガソリンエンジンもしくはディーゼルエンジンなどからなるエンジン1と、このエンジン1の回転を変速するベルト式無段変速機(以下、CVTと略記する)2と、上記エンジン1と上記CVT2との間で駆動力の伝達,遮断を行うクラッチ3と、エンジン1停止中をも含め、車両の走行を行うための走行用モータつまり走行用モータジェネレータ4と、から大略構成されている。また、この実施例では、主にエンジン走行中に発電を行うとともにエンジン1の再始動の際のクランキングを行う発電用モータジェネレータ5をさらに備えている。
【0014】
上記クラッチ3は、例えば油圧多板式クラッチからなり、その入力軸3aは、エンジン1のクランクシャフト1aに実質的に直結されている。そして、この入力軸3aに上記発電用モータジェネレータ5のロータ(図示せず)が固定されている。なお、上記発電用モータジェネレータ5および走行用モータジェネレータ4は、いずれも交流モータジェネレータであり、公知のインバータ回路によって、駆動側および発電側の双方で制御される。
【0015】
上記CVT2は、駆動側となるプライマリプーリ11と従動側となるセカンダリプーリ12と両者間に巻き掛けられた金属製ベルト13とを備えるものであって、上記プライマリプーリ11のプーリ幅が図示せぬ油圧機構によって調整可能となっており、かつこれに応じてセカンダリプーリ12のプーリ幅が変化し、無段階に変速がなされるものである。上記プライマリプーリ11を備えた変速機入力軸11aは、上記クラッチ3の出力軸3bに実質的に直結されている。また同時に、上記走行用モータジェネレータ4の回転軸4aが上記変速機入力軸11aに接続されている。なお、この走行用モータジェネレータ4の回転軸4aと変速機入力軸11aとの間には、後述するように減速歯車機構が介在している。上記セカンダリプーリ12を備えた変速機出力軸12aは、ファイナルギア列14と、ディファレンシャルギア17と、を介してアクスルシャフト18に接続され、駆動輪19へ動力を伝達するようになっている。
【0016】
一方、油圧供給装置として、例えば内接歯車型ポンプからなる油圧ポンプ21が設けられており、巻き掛け伝動機構例えばチェーン22を介して上記走行用モータジェネレータ4の回転軸4aによって機械的に駆動されるようになっている。また、この機械的な駆動によるポンプ回転数が不十分となるときに、油圧ポンプ21を補助的に駆動するために、補機用の車載のバッテリで駆動可能な低電圧直流モータからなる補助電動モータ20が油圧ポンプ21と一体に取り付けられている。ここで、上記チェーン22により駆動されるスプロケットと上記油圧ポンプ21との間には、後述するように、走行用モータジェネレータ4の逆転時にも油圧ポンプ21を正転方向へ駆動する逆転防止機構40が介在しており、さらに、油圧ポンプ21の駆動源を走行用モータジェネレータ4と補助電動モータ20との間で自動的に切り換えるポンプ駆動切換機構60が後述するように設けられている。なお、上記油圧ポンプ21は、上記CVT2の作動油溜まりから該CVT2の変速作動部などへ作動油を圧送するものであって、上記変速作動部は、例えば調圧弁や油圧制御弁を含んで構成され、上記の油圧ポンプ21から供給された油圧を利用して任意の制御油圧を生成し、CVT2の変速比を可変制御している。
【0017】
図2は、上記ハイブリッド車両の制御システムの概要を示すブロック図である。図示するように、この制御システムは、オイルポンプ用DCモータつまり上記補助電動モータ20を制御するオイルポンプ用DCモータ制御部32と、エンジン1の種々の制御を行うエンジン制御部33と、インバータ回路を介して走行用モータジェネレータ4および発電用モータジェネレータ5の制御を行うモータジェネレータ制御部34と、油圧制御弁を介してクラッチ3の制御を行うクラッチ制御部35と、CVT2の変速比等の制御を行うCVT制御部36と、を備えており、これらのシステム全体がハイブリッドシステム制御部31によって統合的に制御されている。
【0018】
このハイブリッド車両全体の制御を簡単に説明すると、例えば中車速以上での定常走行においては、エンジン1が燃焼運転しているとともにクラッチ3が接続状態となって、エンジン1の駆動力により車両が走行する。このとき、発電用モータジェネレータ5では発電が行われる。走行状態から車両が減速していくと、走行用モータジェネレータ4により減速エネルギの回生つまり発電が行われ、かつ車両停止前にクラッチ3が切断されてエンジン1が停止状態となる。そして、車両停止状態から発進する際には、クラッチ3が切断状態に保たれ、かつ走行用モータジェネレータ4が駆動されて、車両が発進し始める。その後、車速が所定の低車速以上になると、発電用モータジェネレータ5によるクランキングが行われてエンジン1が再始動される。このエンジン1の再始動に伴って、クラッチ3を徐々に接続し、かつ走行用モータジェネレータ4を制御して、エンジン1による走行へ移行する。
【0019】
一方、この実施例の構成では、車両推進機構は、前後進切換機構を具備しておらず、エンジン1による走行としては、前進走行のみが可能となっている。従って、後退走行は、クラッチ3を切断状態として、走行用モータジェネレータ4を逆転させることによって実現される。つまり、後退走行のまま長時間走行することは一般に考えられないので、エンジン1は停止状態として、走行用モータジェネレータ4によって後進するようにし、変速機構の簡素化を図っている。
【0020】
基本的に機械駆動される油圧ポンプ21は、上記のようにクラッチ3よりも下流つまり変速機入力軸11a側に設けられているので、エンジン1による走行であっても走行用モータジェネレータ4による走行であっても、車両が走行していれば、これに伴って機械的に駆動される。そして、後述する逆転防止機構40の作用により、前進走行つまり走行用モータジェネレータ4の回転軸4aが正転するときも、後退走行つまり走行用モータジェネレータ4の回転軸4aが逆転するときも、油圧ポンプ21のロータが同じ方向つまりポンプとして所期の回転方向に駆動されるようになっている。さらに、走行用モータジェネレータ4の回転軸4aの回転数が低くなる低車速時ならびに車両停止時には、上記補助電動モータ20によるポンプ駆動に切り換えられ、必要な油圧の確保が継続される。」
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。
「ベルト式無段変速機2を備える自動車の駆動伝達系を運転する方法であって、ベルト式無段変速機2の変速作動部に作動油を供給する油圧ポンプ21が、油圧ポンプ21と一体に取り付けられている補助電動モータ20によって駆動可能となっているとともに、走行用モータジェネレータ4の回転によっても駆動可能とされており、
ポンプ駆動切換機構60を備え、走行用モータジェネレータ4によって回転する第1入力回転部材と補助電動モータ20によって回転する第2入力回転部材とのいずれか回転数が高い方の回転部材から油圧ポンプ21のロータへ回転トルクを伝達するようになっており、
走行用モータジェネレータ4の駆動によるポンプ回転数が不十分となるときに、補助電動モータ20により油圧ポンプ21が補助的に駆動される方法。」
(2-2)引用例2
特開昭60-216081号公報(以下、「引用例2」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(か)「(産業上の利用分野)
本発明は、第1の駆動源が回転力を伝達する前に第2の駆動源によって予めポンプを始動させる回転ポンプに関するもので、例えば自動車用の油圧ポンプ、燃料ポンプ等に用いて有効である。
(従来技術)
従来の回転ポンプは、エンジンあるいはモータ等の1つの駆動源から回転力を受けてポンプ部を作動するものである。そのため、エンジンを駆動源として用いる場合はエンジンが始動開始する前には、回転ポンプを作動させることができないという問題がある。また、駆動源としてモータを用いる場合は、常にモータを駆動させる必要があるため、そのモータの消費するエネルギーは大きいものになると同時にモータ自体が大型のものになるという問題がある。
(発明の目的)
本発明は上記の点に鑑みてなされるものであり、その目的は第1の駆動源の駆動力もしくは第2の駆動源の駆動力が選択的に伝達されてポンプ部を作動する回転ポンプを提供することにある。」(第1ページ右下欄第5行?第2ページ左上欄第5行)
(き)「以上の作用により、ポンプ部100は、第2の駆動源たとえばモータ60の回転力、または図示しないエンジン等外部の第1の駆動源によって回転するドライブシャフト1の回転力、いずれかの回転力を受けてポンプ作動をすることができる。
また、…(略)…。尚、上述の実施例においては、第1の駆動源としてエンジンを、第2の駆動源としてモータを用いたが、他のものであってもよい。」(第4ページ右上欄第6?16行)
(3)対比
本願発明1と引用例1発明とを対比すると、後者の「ベルト式無段変速機2の変速作動部に作動油を供給する油圧ポンプ21」は前者の「シフト用要素に加圧油を供給するために備えられたオイルポンプ」に相当し、同様に、「油圧ポンプ21が、油圧ポンプ21と一体に取り付けられている補助電動モータ20によって駆動可能となっているとともに、走行用モータジェネレータ4の回転によっても駆動可能とされており、」は、2つの駆動源の対応関係は別として、2つの駆動源により駆動可能とされている限りにおいて、「オイルポンプがポンプ用電動機により駆動され、第一電動機もまた前記オイルポンプに連結可能である」に相当する。
引用例1発明の「補助電動モータ20」及び「走行用モータジェネレータ4」は、「ともに電気エネルギーにより駆動されるもの」である。
引用例1発明の「補助電動モータ20」及び「走行用モータジェネレータ4」の発生トルクは、同じ電圧が印加された状態下では、「補助電動モータ20」の発生トルクよりも「走行用モータジェネレータ4」の発生トルクが大きいから、引用例1発明の「補助電動モータ20」及び「走行用モータジェネレータ4」と本願発明1の「同じ電圧が印加された始動状態下で、前記ポンプ用電動機(5)で発生するトルクよりも大きなトルクを前記第一電動機(2)が発生することが可能であり、」とは、「同じ電圧が印加された状態下で、一方の電動機で発生するトルクよりも大きなトルクを他方の電動機が発生することが可能であり、」という点で一致する。
したがって、本願発明1の用語に倣って整理すると、両者は、
「自動車の駆動伝達系を運転する方法であって、シフト用要素に加圧油を供給するために備えられたオイルポンプがポンプ用電動機により駆動され、第一電動機もまた前記オイルポンプに連結可能である方法において、
前記ポンプ用電動機(5)及び前記第一電動機(2)はともに電気エネルギーにより駆動されるものであって、同じ電圧が印加された状態下で、一方の電動機で発生するトルクよりも大きなトルクを他方の電動機が発生することが可能である方法。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]
本願発明1は、「同じ電圧が印加された始動状態下で、前記ポンプ用電動機(5)で発生するトルクよりも大きなトルクを前記第一電動機(2)が発生することが可能であり、必要に応じ、前記ポンプ用電動機(5)の始動を援助するために、前記第一電動機(2)に電圧を加え、前記オイルポンプ(4)に連結する」のに対し、引用例1発明は、そのような事項を備えていない点。
(4)判断
引用例1には、例えば、「【0007】…エンジンがクラッチを介して駆動輪を駆動している状態では、このエンジンの出力によって走行用モータとともに油圧ポンプが駆動され、また、エンジンが停止し、走行用モータによって前進方向へ走行しているときにも、油圧ポンプは同様に機械的に駆動される。」、「【0009】上記のエンジンもしくは走行用モータによる機械的な駆動が不十分となる運転状態、例えば車両停止時や低車速時には、上記補助電動モータが回転するが、上記ポンプ駆動切換機構の作用によって、エンジンもしくは走行用モータによる機械的な駆動と、補助電動モータによる駆動と、が自動的に切り換えられる。すなわち、補助電動モータが起動されても、エンジンもしくは走行用モータによる回転数が十分に高いときには、エンジンもしくは走行用モータによって機械的に駆動される。そして、これらの回転数が低下していくと、補助電動モータによる駆動に切り換えられ、必要な油圧供給が継続される。」と記載されており、この記載及び技術常識からすると、油圧ポンプ21が起動される「始動」時には、エンジン1もしくは走行用モータジェネレータ4の回転数は零ないし略零であるから、油圧ポンプ21は補助電動モータ20により起動されることは明らかである。
一般に、このような油圧ポンプの「始動」時において、低温時には作動油の粘度が高く、油圧ポンプを起動するために必要なトルクが大きいことは当業者に自明ないし技術常識である。例えば、特開2001-289315号公報には、「【0016】3.電動ポンプを自動変速機に適用する場合の問題点 先行例3のように、自動変速機の油圧源をモータ駆動ポンプのみとする場合には、モータの起動信頼性が要求される。なぜならば、自動車は-30℃以下の極低温環境でも走行可能なことが要求されるが、このような環境では作動油の粘度が著しく高くなっており、電動モータに充分な発生トルクがないとオイルポンプを起動できなくなる。高トルクの電動モータを用いることは重量の増加を招くとともにコストを高めることになる。」と記載されている。そして、(a)引用例1発明の「補助電動モータ20」と「走行用モータジェネレータ4」は、「走行用モータジェネレータ4によって回転する第1入力回転部材と補助電動モータ20によって回転する第2入力回転部材とのいずれか回転数が高い方の回転部材から油圧ポンプ21のロータへ回転トルクを伝達するようになっており、」、このように「例えば車両停止時や低車速時」には、「油圧ポンプ21」の駆動について協力・補完関係にあること、(b)引用例2には、油圧ポンプの駆動源を2つ備え、ポンプの始動ないし作動時に、2つの駆動源からの駆動力を選択的に伝達するものが示されていること、(c)本願明細書の例えば【0006】の「同様に、始動トルクは潤滑油の高い粘度のために低温において増加する。これらのより困難な条件に合うようにオイルポンプ駆動用の電動機を寸法決定することを避け、」という記載、引用例1の例えば【0004】の「そのため、大型の電動式油圧ポンプが必要となり、」、【0011】の「そのため、補助電動モータの小型化が可能である。」という記載、及び引用例2(上記(か))の「モータ自体が大型のものになるという問題がある」という記載をみると、本願発明1、引用例1発明、及び引用例2の技術はいずれも、電動式油圧ポンプの大型化という問題を認識し、その大型化を回避する、ないし小型化を図るという点で通底していること、以上を合わせ考えると、引用例1発明において、例えば、低温環境の作動油の粘度が高く大きな起動トルクが必要な油圧ポンプ21の「始動」時において、補助電動モータ20の発生トルクが十分でない場合に走行用モータジェネレータ4を駆動して油圧ポンプ21の起動を援助することは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。このようにしたものは、実質的に、相違点に係る本願発明1の上記事項を具備するということができる。
そして、本願発明1の効果は、引用例1、2に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が予測し得る程度のものである。

請求人は、審判請求の理由において、「補助電動モータ20は、車両の低車速時ならびに停止時である走行用モータジェネレータ4の回転数が低いかゼロのときに駆動し、これらの場合を除いた車両の走行時、すなわち走行用モータジェネレータ4の回転数が走行時における通常の状態のときには駆動を停止するように作動するものであり、油圧ポンプを駆動する走行用モータジェネレータ4を援助するものである。このような補助電動モータ20に対応する本願発明の部材は、第一電動機(2)であり、第一電動機(2)は、必要に応じ、オイルポンプを駆動するポンプ用電動機(5)の始動を援助するものである。したがって、本願発明の「ポンプ用電動機(5)」が引用文献1の「走行用モータジェネレータ4」に、また、本願発明の「第一電動機(2)」が引用文献1の「補助電動モータ20」に、それぞれ対応するべきである。」(ここでの「引用文献1」は本審決の「引用例1」である。)と主張する。
しかし、本願の請求項1には「始動を援助するために」と記載されているように、本願発明1の「援助」は「始動」における「援助」である。そして、本願発明1の「始動」に関して、本願明細書には、例えば、「【0006】このために本発明は、必要に応じてポンプ用電動機の始動を助けるために、第一電動機が電圧を加えられオイルポンプに連結される、駆動伝達系を運転するための方法を提供する。特に、オイルポンプの長い停止期間の後では、可動部分の間に形成された油膜は乾燥しており、前記部分は互いに固着する。その結果、オイルポンプの回転に必要なトルクは、可動部分の間に適切な潤滑を伴う正常な状態と比べて著しく増加する。同様に、始動トルクは潤滑油の高い粘度のために低温において増加する。これらのより困難な条件に合うようにオイルポンプ駆動用の電動機を寸法決定することを避け、それでもなお高い運転信頼性を確保するため、ポンプ用電動機が実質的に無負荷でその速度を上げることが可能なように、該オイルポンプは始動トルクを減らすため第一電動機によって最初に回される。」、「【0024】本発明による方法は、低温及び/又は長時間の停止後の始動のような厳しい運転条件の下での、ポンプ用電動機5の確実な回転数上昇を可能にする。…」と説明されている。これからすると、本願発明1の「始動」とは、普通の意味、すなわち、キースイッチがオフでオイルポンプ等が停止している状態から、オイルポンプ等が起動され、自動車が運転可能な状態にされることをいうことは明らかである。したがって、本願発明1の「始動を援助するために」は、請求人が主張するような通常の走行時や低車速時、車両の停止時における「援助」をいうものではない。
なお、請求人の上記の主張を斟酌して、引用例1発明について、「走行用モータジェネレータ4の駆動によるポンプ回転数が不十分となるときに、補助電動モータ20により油圧ポンプ21が補助的に駆動される」という事項を認定したが、これは、「始動」時ではなく、自動車の走行時や低車速時、車両の停止時における油圧ポンプ21の駆動態様に係る事項である。本願発明1(請求項1に係る発明)では、自動車の走行時や低車速時、車両の停止時における「オイルポンプ」の駆動態様は特定されておらず、無限定・任意的である。請求項1を引用する形式の請求項5においてはじめて、「前記第一電動機(2)の通電が、前記ポンプ用電動機(5)が所定の速度に達すると直ちにスイッチオフされる」ことが特定されているにすぎない。本願発明1の特定事項でない自動車の走行時や低車速時、車両の停止時における駆動態様について、本願発明1と引用例1発明を対比・検討することは不適当・不必要であり、正鵠を得たものではない。

(5)むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用例1、2に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.結語
以上のとおり、本願発明1は、引用例1、2に記載された発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願発明1が特許を受けることができないものである以上、請求項2?9に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-24 
結審通知日 2012-10-30 
審決日 2012-11-16 
出願番号 特願2007-522969(P2007-522969)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増岡 亘  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 島田 信一
窪田 治彦
発明の名称 電動オイルポンプを備えた駆動伝達系  
代理人 山口 栄一  
代理人 石戸 久子  

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