• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01H
管理番号 1273427
審判番号 不服2012-17810  
総通号数 162 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-09-12 
確定日 2013-05-02 
事件の表示 特願2007-140552「ヒューズエレメント及びこのヒューズエレメントを備えたヒューズ」拒絶査定不服審判事件〔平成20年12月 4日出願公開、特開2008-293908〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,平成19年5月28日の出願であって,平成24年6月18日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年9月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2.原査定
原査定における拒絶の理由は,平成23年12月27日付け拒絶理由通知書に記載した,以下のとおりのものと認める。
「この出願の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
1.実願昭46-68178号(実開昭48-25230号)の
マイクロフィルム
2.特開2007-103274号公報
3.実願昭54-24326号(実開昭55-124153号)の
マイクロフィルム」

第3.当審の判断
1.本願発明
本願の請求項1に係る発明は,平成24年2月28日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。
「【請求項1】
過電流が流れた場合に溶断するヒューズエレメントであって,
銅棒又は銅線に,断面積が他部位より大きい少なくとも2つの大断面積部を,前記ヒューズエレメントの長さ方向の中央位置に関して対称となるように設け,
前記銅棒又は銅線の前記大断面積部の間の部位のうち少なくとも何れかの部位の表面に,前記中央位置に関して対称な配置となるように錫を接合し,
前記大断面積部は,一体の前記銅棒又は銅線を切削することにより構成され,
前記錫が接合されている前記銅棒又は前記銅線の前記大断面積部の間の部位の熱容量と,前記大断面積部の熱容量とは,前記大断面積部の両側における前記銅棒又は前記銅線の熱容量よりも大きい
ことを特徴とするヒューズエレメント。」

2.引用刊行物記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願日前に頒布された刊行物である実願昭54-24326号(実開昭55-124153号)のマイクロフィルム(以下「引用例1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。
・「第1図(イ)は,本考案による2重エレメントヒユーズの縦断面を示し,3.2φのビニル電線1の導線1aとヒユーズエレメント2とは圧縮スリーブ3によつて圧縮接続されており,ヒユーズエレメント2の主要部はパッキング4を両端に配置したヒユーズ筒5の中に水密的に収容されている。」(第3頁第15行?第4頁第1行)
・「ヒユーズエレメント2は,第1図(ロ),(ハ)に示すように,3.2φの電線を圧縮加工した平坦部2aを中央部に有しており,この平坦部2aは,小電流溶断部10を構成する中央部15とその両側に位置する大電流しや断部20とを有し,中央部15は,小電流溶断部10を構成するため,円孔10aを有してその両側に狭隘部10bが形成され,その上下に半田等の低溶融合金11が溶着されている。また,大電流しや断部20はその端部にアーク消滅板21が設けられていて,それぞれ3つの円孔20a(その中で中心の円孔がやや大きい)を有するためその両側に狭隘部20bが形成されている。更に,平坦部2aの両側には半円状に成形された応力吸収部2bが設けられており,非平坦部には窪み2cが形成されている。」(第4頁第8行?第5頁第2行)
・「一例として第1図でヒユーズエレメント2を銅,低溶融合金11を半田とすると,」(第7頁第10?11行)
・「(ロ)大電流しや断部20
第1図(イ),(ロ),(ハ)に示した構成を有し,つぎの優れた特性を有する。
即ち,第1に,小電流領域においては,低溶融合金11で発生する熱が伝導流出するのを防ぎ,小電流特性を確実にし,
第2に,大電流領域においては,複数の狭隘部20bが同時多発弧し,アーク抵抗を急激に増大し,限流する。従つて,容易に大電流しや断することができる。この例を第3図に示す。第3図は,50Aヒユーズのしや断特性を示し,250V,5500A,力率≒0.34の状態において,曲線31は250V×2√2の電源電圧,曲線32はしや断電流,曲線33は短絡電流,曲線34は回復電圧をそれぞれ示す。
第3に,アーク消滅板21が小電流溶断部10との境界に設けられているため,アークの拡大を防ぐとともにアークを冷却し,限流を促進することができる。更に,これは吸熱作用を果すため,小電流溶断部10の時延特性を確実なものにする。」(第9頁第8行?第10頁第9行)
・第1図を参照すると,ヒユーズエレメント2は,アーク消滅板21及び低溶融合金11を含めて,左右対称(長さ方向の中央位置に関して対称)であることが看取できる。

上記記載事項及び図面の記載によれば,引用例1には,次の発明が記載されているといえる(以下「引用発明」という。)。
「平坦部2aとその両側の応力吸収部2bとからなる銅製のヒューズエレメントであって,平坦部2aは,小電流溶断部10とその両側に位置する大電流しゃ断部20を有し,小電流溶断部10は,円孔10aを有してその周りに半田等の低溶融合金11が溶着されており,各大電流しゃ断部20は,複数の円孔20aを有し,小電流溶断部10との境界である端部にはアーク消滅板21が設けられており,長さ方向の中央位置に関して対称的な構成となっているヒューズエレメント。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2007-103274号公報(以下「引用例2」という。)には,ヒューズ素子に関し,図面とともに,次の事項が記載されている。
・「【0015】
ヒューズ素子1は,図1に示すように大電流遮断部Aと小電流遮断部Bを直列に,銅などの導電材からなる同一の素材によりセージングや切削等の加工により一体で成形されている。
【0016】
大電流遮断部Aは,一部を前記加工方法により細くした遮断部1aとその両端を素材の線径のまま,あるいは遮断部1aより太い連結部1cと遮断部1aに設けられた太径の蓄熱部1dと小電流溶断部Bとの接続部1dとからなる。
【0017】
小電流溶断部Bは,一部を除き前記加工方法により細くした溶断部1gと,その両端を素材の線径のまま,あるいは溶断部1gより太い連結部1hと,溶断部1gに設けられた連結部1hより細径で溶断部1gより太径の蓄熱部1fからなる。また,蓄熱部1dに近い溶断部1e側には溶断部1eと同じ幅で長さが5乃至10mm程度の錫合金からなる図示しない板材が巻きつけられている。なお,板材が巻きつけられている溶断部1eは,前記溶断部1gより僅か太い線径となっている。
【0018】
これは,溶断に長時間を要する小電流領域の場合,ヒューズ素子1に巻き付けられた錫合金の板材が溶融し,それにより銅内部へ錫が拡散することで溶断部1eに銅と錫の合金が形成され,銅素材の状態と比較し溶融温度が低下することで溶断し易くするためである。」

(3)原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願日前に頒布された刊行物である実願昭46-68178号(実開昭48-25230号)のマイクロフィルム(以下「引用例3」という。)には,ヒューズ電線に関し,図面とともに,次の事項が記載されている。
・「第1図乃至第4図において,(1)は低圧配電線と引込線とを接続する電線導体であり,この導体としては例えば銅線が用いられる。電線導体(1)はその一部に断面積の小さい部分(2)を有し,この断面積の小さい部分の外周を鉛,錫などの可溶金属(3)で覆つて可溶体部Aを形成してある。」(第2頁第4?9行)
・「上記の如く構成したヒユーズ電線に過大電流が流れると,電流密度が大きい電線導体(1)の断面積の小さい部分(2)が発熱溶断して電流を遮断する。一方電線導体(1)の断面積の小さい部分(2)の外周に配置した可溶金属(3)は発熱部分を覆って蓄熱するように作用し,これにより過大電流が流れてから溶断するまでに一定の時間遅れをもたせることができる。」(第3頁第11?18行)

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「アーク消滅板21」,「小電流溶断部10」,「大電流しゃ断部20」は,それぞれ本願発明の「大断面積部」,「銅棒又は銅線の大断面積部の間の部位」,「大断面積部の両側における銅棒又は銅線」に相当する。
引用発明のアーク消滅板21は,アークを冷却し,吸熱作用を果たすこと等にかんがみると,引用発明において,アーク消滅板21が平坦部2aにおける他の部位よりも大きいこと,また,低溶融合金11が溶着された小電流溶断部10の熱容量とアーク消滅板21の熱容量が大電流しゃ断部20の熱容量よりも大きいことは明らかである。
引用発明の半田等の低溶融合金11と本願発明の錫は,低融点合金である点で共通する。
したがって,本願発明と引用発明は,本願発明の表記にできるだけしたがえば,
「過電流が流れた場合に溶断するヒューズエレメントであって,銅棒又は銅線に,断面積が他部位より大きい少なくとも2つの大断面積部を,前記ヒューズエレメントの長さ方向の中央位置に関して対称となるように設け,前記銅棒又は銅線の前記大断面積部の間の部位のうち少なくとも何れかの部位の表面に,前記中央位置に関して対称な配置となるように低融点合金を接合し,前記低融点合金が接合されている前記銅棒又は前記銅線の前記大断面積部の間の部位の熱容量と,前記大断面積部の熱容量とは,前記大断面積部の両側における前記銅棒又は前記銅線の熱容量よりも大きいヒューズエレメント。」
の点で実質的に一致し,次の点で相違する。

[相違点1]
本願発明は,低融点合金として錫を用いるのに対して,引用発明は,低融点合金として半田等を用いる点。
[相違点2]
本願発明のヒューズエレメントは,銅棒又は銅線を切削することにより,ヒューズエレメントにおける他の部位とともに大断面積部を一体に構成するものであるのに対して,引用発明のヒューズエレメントは,切削加工によって製造されるものではなく,また,アーク消滅板21は,ヒューズエレメントにおける他の部位とは別部材であると解される点。

相違点1について検討する。引用例2には,銅などの導電材からなるヒューズ素子の所定部位に錫合金を巻き付け,溶断に長時間を要するように小電流に対応させる技術が記載されており,引用例3には,銅線からなる電線導体の断面積の小さい部分の外周を錫などの可溶金属で覆い,過大電流が流れてから溶断するまでに一定の時間遅れをもたせる技術が記載されている。引用発明において,低融点合金として錫を用いることは,引用例2または引用例3を参酌することにより,当業者が容易に想到し得たことである。なお,本願の明細書の段落【0014】に「本出願における「錫」とは,純粋な錫のみならず,錫を主成分として,少量の銀や銅等の他の金属を含有した合金も含まれるものとする。」とある記載を参照すると,本願発明の「錫」には,錫合金も含まれると解される。
相違点2について検討する。引用例2には,大電流遮断部と小電流遮断部を有し,銅などの導電材からなるヒューズ素子全体を切削加工により一体に成形することが記載されている。引用例1において,アーク消滅板21はヒューズエレメント2の一部として位置付けられていること,アーク消滅板21の材質がヒューズエレメント2の他の部位と異なるとする記述はされていないことにかんがみれば,引用発明のアーク消滅板21は,他の部位と同様に,銅で構成するのが自然な形態と考えられる。そして,引用発明において,アーク消滅板21を,大電流しゃ断部20及び小電流溶断部10とともに,銅材の切削加工によって製造すること,すなわち,相違点2に係る本願発明の構成は,引用例2を参酌することにより,当業者が容易に想到し得たことである。
以上のことから,本願発明は,引用発明,引用例2に記載された技術事項及び引用例3に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものである。

4.審査段階で通知された拒絶理由
原査定は,平成23年12月27日付けで通知された拒絶理由(以下「12月27日拒絶理由」という。)に基づいてなされたもので,12月27日拒絶理由は,引用例1を主引用例とするものではなく,引用例3を主引用例とするものであるが,審査段階で通知された拒絶理由には,上記の他に,平成23年4月25日付けで通知されたものがあり(以下「4月25日拒絶理由」という。),4月25日拒絶理由は,引用例1を主引用例とするものである。また,4月25日拒絶理由で引用された出願前公知刊行物は,引用例1ないし引用例3であって,12月27日拒絶理由で引用された公知刊行物と同一である。
審査においてした手続は,拒絶査定不服審判においても,その効力を有するところ(特許法第158条),前記「3.対比・判断」は,4月25日拒絶理由の趣旨に沿ったものといえるから,当審において改めて拒絶理由を通知する必要は認めない。

5.むすび
以上のとおり,本願発明は,その出願前に,引用発明,引用例2に記載された技術事項及び引用例3に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,原査定は妥当であり,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-28 
結審通知日 2013-03-05 
審決日 2013-03-18 
出願番号 特願2007-140552(P2007-140552)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森本 哲也  
特許庁審判長 千馬 隆之
特許庁審判官 小関 峰夫
杉浦 貴之
発明の名称 ヒューズエレメント及びこのヒューズエレメントを備えたヒューズ  
代理人 一色国際特許業務法人  
代理人 一色国際特許業務法人  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ