ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E01C 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E01C |
---|---|
管理番号 | 1273538 |
審判番号 | 不服2012-852 |
総通号数 | 162 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-06-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-01-17 |
確定日 | 2013-05-01 |
事件の表示 | 特願2006- 52714「透水性防草舗装方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 9月13日出願公開、特開2007-231565〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成18年2月28日の出願であって,平成23年10月18日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成24年1月17日に拒絶査定に対する審判請求がなされると共に,同時に手続補正がなされた。 その後,平成24年7月4日付けで,審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ,指定期間内に回答書が提出されなかったものである。 第2 補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成24年1月17日の手続補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容・目的 平成24年1月17日の手続補正(以下,「本件補正」という。)は,出願当初の特許請求の範囲について,請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を引用する請求項4を引用する請求項5を引用する請求項6を以下のように補正することを含むものである。 「火力発電所のボイラーから発生した多孔質の石炭灰とセメント系固化材と混和液とを所定の重量比で混和する工程と, 前記混合物を路盤上に転圧して舗装層を形成する工程とを備え, 前記舗装層は透水性を有し,かつ,植物の発芽を抑える表面強度を有し, 前記表面強度が2Nf/mm^(2)以上で, 前記透水性が社団法人日本道路協会に定められた透水性アスファルト舗装の現場試験方法に基づいた値が30ml/秒以上で, 前記石炭灰がクリンカアッシュからなり, 前記セメント系固化材1重量部に対し石炭灰が3重量部以上混和されており, 前記舗装層の厚さが30mm?70mmである透水性防草舗装方法。」(以下,「本願補正発明」という。) ここで,平成24年1月17日の手続補正書における【請求項1】の「舗装層の厚さが30mm?70mm以下」との記載は,範囲を示しながらそれ以下と記載しており不明りょうであるところ,本願明細書の【0012】には「前記舗装層の厚さは,30mm?70mm程度に設定するのが好ましく」と記載されており,当該記載が補正の根拠と認められるため,上記のように認定した。 本件補正は,上記請求項6に記載した発明を特定するために必要な事項である「舗装層の厚さ」について「70mm」以下との限定を付加するものであって,特許法第17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで,本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか,すなわち,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしているか,について以下に検討する。 2 独立特許要件違反(特許法第29条第2項違反) 2-1 引用刊行物 原査定の平成23年6月16日付け拒絶理由通知では,以下の刊行物が引用されている。 刊行物1:特開2001-90012号公報 刊行物2:特開平6-107445号公報 刊行物3:特開2005-145771号公報 刊行物4:特開2005-154265号公報 刊行物5:特開2005-248601号公報 (1)刊行物1 本願出願前に頒布された刊行物1には,以下のように記載されている。(記載事項(1e)「【0039】現場施工実験」以外の下線は当審にて付与。) (1a)「【要約】 【課題】 産業廃棄物としての石炭灰をリサイクル利用して,強度と透水性に優れ,雑草の成育を抑制する機能を具備した路面舗装材を提供することを課題とする。 【解決手段】 粒度分布が,粘土質,シルト質,細砂質の範囲にある粒径の細かいフライアッシュと,粒度分布が,細砂質,粗砂質,細礫質の範囲にある粒径の粗いクリンカアッシュとを,1:9ないし5:5の割合で配合する。この石炭灰配合物に,重量比で6ないし10%のポルトランドセメント,及び水を添加して練り合わせ,転圧,養生する。得られる舗装材は,20kgf/cm^(2)の圧縮強度と良好な透水性とを有し,且つ,セメント添加量が少なく,クラックが発生し難いから,雑草の成育を抑制する機能を具備する。石炭灰をさらに粉砕したり,造粒や焼成をすることなく,大量に消費することができる。」 (1b)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 石炭灰を原料として用いた舗装材であって,粒度分布の相異なる複数種類の石炭灰を所定の粒度分布となるように配合して用いたことを特徴とする雑草成育抑制機能を有する石炭灰を用いた舗装材。 ・・・ 【請求項3】 石炭灰として,粒度分布が,粘土質,シルト質,及び細砂質の範囲内にあるフライアッシュと,粒度分布が,細砂質,粗砂質,及び細礫質の範囲内にあるクリンカアッシュとを用い,フライアッシュとクリンカアッシュとの配合比が1:9ないし5:5であることを特徴とする請求項2に記載の雑草成育抑制機能を有する石炭灰を用いた舗装材。 【請求項4】 石炭灰配合物の6ないし10%のセメントが添加されていることを特徴とする請求項3に記載の雑草成育抑制機能を有する石炭灰を用いた舗装材。」 (1c)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,石炭火力発電所等で発生する石炭灰を舗装材の原料として再利用する技術,より詳しくは,石炭灰を再利用して雑草の成育を抑制する機能を備えた舗装材を提供する技術の分野に属する。 【0002】 【従来の技術】石炭火力発電所,製鉄所,あるいは製紙工場等において,石炭の燃焼,ガス化に伴い発生する石炭灰を,産業廃棄物として埋立地の造成に用いたり,灰捨て用地に投棄処分したりすることなく,効率よく再資源化する技術の開発が,地球規模で重要な研究テーマの一つとなっており,従来より,石炭灰を舗装材の原料として有効利用する技術が数多く提案されている。」 (1d)「【0010】 【課題を解決するための手段】すなわち,より詳しくは,本発明者らは,上記各公報で開示も示唆もされていない石炭灰の粒径ないし粒度分布に着目し,粒径の細かい石炭灰を用いれば,強度には優れるが透水性に劣る舗装材が作成され,逆に,粒径の粗い石炭灰を用いれば,透水性には優れるが強度に劣る舗装材が作成されるという知見から,石炭灰の発生現場で分級されるフライアッシュやクリンカアッシュ等の粒度分布の相互に異なる複数種類の石炭灰の配合比率,さらにはセメントの添加量をいろいろと変更することにより,所望の雑草成育抑制機能を備えた舗装材が得られることを見出したものである。 【0011】すなわち,本発明は,石炭灰を原料として用い,雑草成育抑制機能を有する舗装材であって,粒度分布の相異なる複数種類の石炭灰を所定の粒度分布となるように配合して用いたことを特徴とする。 【0012】本発明によれば,石炭火力発電所等の発生現場で粒径に応じて分級されて得られる複数種類の石炭灰をことさら粉砕等することなくそのまま用いることができるから,効率的であり,コスト的にも有利である。また,それらの石炭灰の配合割合を変更することにより,粒度分布によって影響を受ける強度と透水性とがバランスよく均衡した所望の雑草成育抑制機能を舗装材に具備させることができる。さらに,雑草成育抑制のために必要とされる強度は,車両交通道路のように数100kg/cm^(2)という大きな値ではなく,一軸圧縮強度がおよそ20kgf/cm^(2)以上という種子の発芽を阻止する程度の強度でよいから,セメントや,スラグ,あるいは薬剤の添加量が少なくて済む。換言すれば,石炭灰の大量消費につながることになる。また,強度補強のための水ガラス等を添加したり,焼成したり,造粒したりする必要もない。」 (1e)「【0039】現場施工実験 フライアッシュ(A)とクリンカアッシュ(B)との配合比率が2:8である石炭灰配合物(AB28)に対し,セメントの添加量を8%として調製した舗装材(ABC28/8)を用いて,屋外での現場施工実験を行なった。 【0040】すなわち,フライアッシュ(JIS規格品)2,000kg,クリンカアッシュ(粒径3mm以下)8,000kg,普通ポルトランドセメント800kg,及びイオン水溶液50kgを含有する本発明に係る舗装材を調整し,これを,平成11年7月に,兵庫県内の山村地帯で,舗装面圧5cmに転圧した。」 記載事項(1a)の「添加して練り合わせ,転圧,養生し」等の記載から,刊行物1には方法の発明が記載されていると認められるから,刊行物1には,以下の発明が記載されているものと認められる。 「石炭火力発電所等で発生する石炭灰を舗装材の原料として再利用して雑草の成育を抑制する機能を備えた舗装材を提供する技術であって, フライアッシュと,クリンカアッシュとを,1:9ないし5:5の割合で配合し,この石炭灰配合物に,重量比で6ないし10%のポルトランドセメント,及び水を添加して練り合わせ,転圧,養生し, 強度は20kgf/cm^(2)以上という種子の発芽を阻止する程度の強度であり, セメントの添加量は,石炭灰配合物の6ないし10%である, 強度と透水性に優れ,雑草の成育を抑制する機能を具備した路面舗装方法。」(以下,「刊行物1記載の発明」という。) (2)刊行物2 本願出願前に頒布された刊行物2には,以下のように記載されている。(下線は当審にて付与。) (2a)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は,流動床ボイラーから発生した副産物である石炭灰をセメントの代替として使用することにより,安価で長期強度に優れる転圧コンクリート舗装用材料に関するものである。」 (2b)「【0008】 【実施例】前記の試験結果をもとに,流動床ボイラーから発生した石炭灰を使用した転圧コンクリート舗装用材料を実用に供した例について述べる。表2のBの石炭灰を表3のBの配合(セメントの10%置換)のものと,比較のため,表3のAの置換率0%の転圧コンクリート舗装用材料を用い,実際に道路を構築し実路での効果の確認をおこなった。構築した道路は路床CBR10%,路盤厚20cm,転圧コンクリート層厚20cmのものである。・・・」 (3)刊行物3 本願出願前に頒布された刊行物3には,以下のように記載されている。(下線は当審にて付与。) (3a)「【0001】 本発明は,透水性を有するブロックに関するものである。 【背景技術】 【0002】 従来より,セメント製のブロックに透水性を付与するものとしては,セメントペーストをバインダとして多数の粗骨材を結合させたポーラスコンクリートや,セメントと炭の混合物に水を添加して硬化させたブロック等が種々考えられている(例えば,非特許文献1参照)。このような透水性ブロックは,表面から内部に水を浸透させて排出する透水機能や,内部に水を保持する保水機能,水中の汚濁物質の吸着機能を有しているため,法面構造体や透水性舗装などの土木工事資材,花壇や植木鉢等の園芸用資材,水中の汚濁物質や藻類を除去するための水質浄化用資材などとしての用途が開発されつつある。 【非特許文献1】土田 大輔,外4名,「竹炭入りコンクリートによる水質浄化」,福岡県保健環境研究所年報,福岡県保健環境研究所,平成13年12月28日,第28号(平成12年度),p105-109」 (3b)「【0018】 図2は,この水浸透試験の結果を示す一覧表である。同図において各供試体に対する透水量は,一秒間につき供試体100cm^(3)あたりの透水量(ml)として示している。まず,供試体3の透水量は15(ml/cm^(3)・s)であり,通常のセメントと砂とに水を添加して硬化させたセメントブロックでも若干の透水性,保水性,吸水性があることがわかる。また,供試体2の透水量は50(ml/cm^(3)・s)であり,セメントと砂と竹炭とに水を添加して硬化させた従来の透水性ブロックの透水機能は通常のセメントブロックと比して高いものであることがわかる。これらに対して,本実施形態のセメントブロックである供試体1の透水量は80(ml/cm^(3)・s)であったことから,供試体2と比較すると,砂の代わりにフライアッシュを添加することで,透水機能,吸水機能,保水機能を飛躍的に向上させることができることが示されている。これは,フライアッシュが高度な多孔性を有していることに起因するものと考えられる。」 (4)刊行物4 本願出願前に頒布された刊行物4には,以下のように記載されている。(下線は当審にて付与。) (4a)「【0001】 本発明は,歩道,車道,駐車場,広場等の舗装材として使用する保水性コンクリート部材に関する。」 (4b)「【0010】 本実施の形態1において,保水性コンクリート部材1の表層2は,ポーラスコンクリート5によって形成され,10?25%,好ましくは15?20%の空隙率を有する。表層2の空隙率が10%未満であると,保水性コンクリート部材1の低騒音性および排水性が損なわれる。 この保水性コンクリート部材1の排水性は,透水性アスファルト舗装の現場透水試験方法(「舗装試験法便覧」,社団法人 日本道路協会編)により評価することができる。この方法では,舗装表面で水400mlを流下させるのに要する時間を1測定点につき3回測定して平均時間を算出する。そして,算出した平均時間から15秒当たりの流下した水量を算出し,それを透水量(ml/15秒)とする。このように算出した保水性コンクリート部材1の透水量(表層側で測定した透水量)は,全ての表面において1000ml/15秒以上が好ましく,・・・」 (4b)「【0017】 ・・・保水性コンクリート部材11を歩道や建造物の屋上の敷設平板として使用する場合には,表層2の厚さを,5?30mmとすることが好ましい。・・・」 (5)刊行物5 本願出願前に頒布された刊行物5には,以下のように記載されている。(下線は当審にて付与。) (5a)「【0001】 本発明は,長期間に渡って透水機能を有する透水性コンクリート製品に関する。」 (5b)「【0026】 本試験の供試材は,以下のものを作製し使用した。すなわち,本発明の実施例品としては,前記平板の一平面(300mm×300mmの面)を外部露出面とし,その略全面にフィルター部材を積層させて固定した。このフィルター部材にはステンレス鋼製の金網を使用し,網目の開き目が大中小3種類の物(0.328mm,0.132mm,0.034mm)を用意し,それぞれ試験に供した。比較例品としては,実施例品と同様に平板の一平面を外部露出面とし,その面には金網を積層せずにポーラスコンクリートの表面を露出させた状態で試験に供した。 【0027】 これらの供試材は,経時的な透水性の変化を評価するため,屋外に外部露出面を暴露させて所定の時間放置した後,被覆面(未被覆面)における透水性を測定した。また,目詰まりを促進させるために道路路面等から採取してきた土砂や埃等を,適時供試材の外部露出面それぞれに同量散布しつつ屋外に放置した。 本試験で行った透水性の測定方法としては,社団法人日本道路協会「舗装試験法便覧」に示される現場透水試験器を用い,供試材の外部露出面が400ccを透水する時間を測定し,この得られた値から15秒間で透水する透水量に換算した。そしてこの15秒当たりの透水量を供試材の透水性として比較した。 【0028】 図6に上記の試験結果を示す。図6中,縦軸には上述した15秒当たりの透水量,横軸には屋外に放置した経過日数を示している。屋外に放置する前の透水量は,すべての供試材において略同等であった。すなわちこの段階では,実施例品と比較例品とでは透水性に差が無く,フィルター部材による被覆が透水性に影響しないことが判る。 しかし,屋外放置の経過日数が増加すると,比較例品では,それに伴って透水量の値が顕著に減少していくことがわかる。一方,実施例品では,経過日数の増加に伴って透水量の値は減少する傾向があるが,比較例品と比べてその減少の割合が極めて少ないことが確認できた。また,実施例品の中で網目の開き目大のものでは,他の実施例品と比較して透水量の減少の割合がやや大きくなっているが,これは網目の開き目が比較的大きいため,フィルターとしての機能が他の金網と比べてやや低いためであると思われる。 このように,本発明の実施例品では,従来例品よりも長期間に渡って高い透水性を維持することができることが上記試験結果より明らかになった。」 (5c)図6には,以下のように記載されている。 2-2 本願補正発明と刊行物1記載の発明との対比 本願補正発明と刊行物1記載の発明を対比すると, 刊行物1記載の発明の「ポルトランドセメント」は,本願補正発明の「セメント系固化材」に相当し,以下同様に, 「水」は,「混和液」に, 「添加して練り合わせ」る点は,「混和する」点に, 「石炭灰配合物に,重量比で6ないし10%のポルトランドセメント,及び水を添加して練り合わせ,転圧,養生し」との点は,刊行物1記載の発明は路面舗装方法であるから,「混合物を路盤上に転圧して舗装層を形成する工程」に, それぞれ相当する。 また,刊行物1記載の発明の「石炭灰配合物に,重量比で6ないし10%のポルトランドセメント」を添加するとの構成は,計算するとセメント系固化材1重量部に対し石炭灰が「17.7?10重量部」であり,本願補正発明の「セメント系固化材1重量部に対し石炭灰が3重量部以上混和されており」との範囲に含まれるものである。 そして,刊行物1記載の発明の「強度は20kgf/cm^(2)以上」との点は,本願補正発明と同じ単位にすると「1.96Nf/mm^(2)以上」であるから,刊行物1記載の発明の「強度は20kgf/cm^(2)以上」と本願補正発明の「2Nf/mm^(2)以上」は,「2Nf/mm^(2)以上」である点で共通し, 刊行物1記載の発明の「フライアッシュと,クリンカアッシュとを,1:9ないし5:5の割合で配合し」との点と,本願補正発明の「石炭灰がクリンカアッシュからなり」との点は,「石炭灰がクリンカアッシュ含み」との点で共通し, 刊行物1記載の発明の「石炭灰配合物に,重量比で6ないし10%のポルトランドセメント」を添加するとの構成と,本願補正発明の「セメント系固化材1重量部に対し石炭灰が3重量部以上混和されており」との構成は,「セメント系固化材1重量部に対し石炭灰が所定重量部混和されている」で共通する。 そうすると,本願補正発明と刊行物1記載の発明は, 「火力発電所のボイラーから発生した多孔質の石炭灰とセメント系固化材と混和液とを混和する工程と, 前記混合物を路盤上に転圧して舗装層を形成する工程とを備え, 前記舗装層は透水性を有し,かつ,植物の発芽を抑える表面強度を有し, 前記表面強度が2Nf/mm^(2)以上で, 前記石炭灰がクリンカアッシュを含み, 前記セメント系固化材1重量部に対し石炭灰が所定重量部混和されている透水性防草舗装方法。」で一致し,以下の点で相違している。 <相違点1> 石炭灰とセメント系固化材と混和液との混和について,本願補正発明が,「所定の重量比で混和」するのに対し,刊行物1記載の発明では混和液について「所定の重量比」であるか不明である点。 <相違点2> 表面強度が,本願補正発明では,「2Nf/mm^(2)以上」であるのに対し,刊行物1記載の発明では,「20kgf/cm^(2)以上」である点。 <相違点3> 本願補正発明が,「透水性が社団法人日本道路協会に定められた透水性アスファルト舗装の現場試験方法に基づいた値が30ml/秒以上」であるのに対し,刊行物1記載の発明では,「透水性に優れ」ているものの,具体的な透水性の値については不明である点。 <相違点4> 本願補正発明では,「石炭灰がクリンカアッシュ」からなり,「セメント系固化材1重量部に対し石炭灰が3重量部以上混和され」るのに対し,刊行物1記載の発明では,「フライアッシュと,クリンカアッシュとを,1:9ないし5:5の割合で配合し,この石炭灰配合物に,重量比で6ないし10%のポルトランドセメント」を添加する点。 <相違点5> 本願補正発明が,「舗装層の厚さが30mm?70mmである」のに対し,刊行物1記載の発明では舗装層の厚さは不明である点。 2-3 判断 <相違点1について> 刊行物1記載の発明は「石炭灰配合物に,重量比で6ないし10%のポルトランドセメント,及び水を添加」するものであるから,石炭灰とセメント系固化材とは所定の重量比であり,混和液を加える量も適切な比率として加えることは技術常識である。 したがって,刊行物1記載の発明において,石炭灰とセメント系固化材と混和液とを所定の重量比で混和し,本願補正発明の相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易に想到したことである。 <相違点2について> 刊行物1記載の発明の「20kgf/cm^(2)以上」との値は,本願補正発明と同じ単位とすると「1.96Nf/mm^(2)」であり,本願補正発明の「2Nf/mm^(2)」との値の間に臨界的意義は認めらず,刊行物1の記載事項(1d)には「一軸圧縮強度がおよそ20kgf/cm^(2)以上という種子の発芽を阻止する程度の強度でよいから」と記載されているところ,本願補正発明の「表面強度が2Nf/mm^(2)以上」との点についても本願明細書の【0008】に「表面強度を2Nf/mm^(2)以上にすることにより,植物の発芽の抑制をより一層高めることができる。」と記載されているから,両記載は実質的に同じ技術的意義を有していると認められる。 そして,どのような単位系で表現するかは当業者が適宜決めることであるから,種子の発芽を阻止する程度の強度である刊行物1記載の発明の表面強度である「20kgf/cm^(2)以上」を,ニュートン単位系の切りの良い値で表現して「2Nf/mm^(2)以上」とすることは,当業者が容易になし得たことである。 <相違点3について> 刊行物3の記載事項(3a)には,15(ml/cm^(3)・s)では若干の透水性であり,50(ml/cm^(3)・s)では高い透水機能である旨記載されている。また,刊行物4には歩道,車道,駐車場,広場等の舗装材として使用する保水性コンクリート部材に関する発明について,記載事項(4b)で,透水性アスファルト舗装の現場透水試験方法(「舗装試験法便覧」,社団法人 日本道路協会編)による評価で「透水量(表層側で測定した透水量)は,全ての表面において1000ml/15秒以上が好ましく」と記載されているところ,本願補正発明と同じ単位にすると,「66.7ml/秒以上が好ましく」との記載である。さらに,本願補正発明の「30ml/秒」は,15秒で換算すると「450cc/15秒」であるが,刊行物5の記載事項(5c)における図6に関して,記載事項(5b)には,透水性の測定方法として,社団法人日本道路協会「舗装試験法便覧」に示される現場透水試験器が用いられ,「本発明の実施例品」の透水性コンクリート供試材の透水量は「従来例品よりも長期間に渡って高い透水性を維持することができることが上記試験結果より明らかになった。」と記載され,図6では「450cc/15秒」より大きい値である。 そうすると,上記の記載と,透水性として「30ml/秒以上」の値は刊行物3?5に示されているように当業者に周知であり,本願補正発明の「30ml/秒」には本願明細書からみて臨界的意義が認められないことも考慮すると,刊行物1記載の発明の「透水性に優れ」との構成を,「透水性が社団法人日本道路協会に定められた透水性アスファルト舗装の現場試験方法に基づいた値が30ml/秒以上」の値として具現化することは,当業者が適宜決めうる事項であると認められる。 <相違点4について> クリンカアッシュは石炭灰の一種であるから,本願補正発明の「石炭灰がクリンカアッシュからなり」との構成は,「石炭灰がクリンカアッシュである」との意味か,または「石炭灰がクリンカアッシュを含む」という意味であると認められるが,いずれにしても,刊行物1記載の発明は石炭灰の一種である「クリンカアッシュ」を含むものである。 後者の「石炭灰がクリンカアッシュを含む」という意味であるとすると,刊行物1記載の発明の「石炭灰配合物に,重量比で6ないし10%のポルトランドセメント」を添加する旨の構成は,計算すると,石炭灰配合物1重量部に対してポルトランドセメントが「10?16.7重量部」となり,本願補正発明の「セメント系固化材1重量部に対し石炭灰が3重量部以上混和されており」との範囲に含まれるものである。 また,前者の「石炭灰がクリンカアッシュである」との意味であるとすると,本願補正発明の「セメント系固化材1重量部に対し石炭灰が3重量部以上混和され」との構成は「セメント系固化材1重量部に対しクリンカアッシュが3重量部以上混和され」との意味となる。そして,刊行物1記載の発明において,フライアッシュと,クリンカアッシュとを,1:9の割合で配合した場合は,セメント系固化材1重量部に対しクリンカアッシュは「9?15.9重量部」であり,5:5の割合で配合した場合であっても,クリンカアッシュは「5?8.3重量部」であるから,本願補正発明の「セメント系固化材1重量部に対し石炭灰が3重量部以上混和されており」との範囲にやはり含まれるものである。 そして,本願補正発明の当該範囲には本願明細書からみて臨界的意義は認められず,他の混合物も含めてどの程度の混合比とするかは,所定の機能を発揮するように当業者が試行錯誤などにより決めるものと認められるから,「セメント系固化材1重量部に対し石炭灰が3重量部以上」とすることは当業者が適宜決め得た事項であると認められる。 そうすると,本願補正発明の相違点4に係る構成とすることは,当業者が容易に想到したことである。 <相違点5について> 石炭灰を使用した転圧コンクリート舗装用材料に関する刊行物2の記載事項(2b)には「転圧コンクリート層厚20cmのものである。」と記載され,舗装材として使用する保水性コンクリート部材に関する刊行物4の記載事項(4b)には「5?30mmとすることが好ましい」と記載されており,吸保水性による自然環境保全性を加味した環境改善舗装材に関する特開2003-129405号公報の【0047】には「施工現場と同条件の厚さ4.0cmとした。」と記載され,雑草の繁殖を阻止する通水性防草舗装を設けて雑草が繁殖しないようにする地面の表面処理方法に関する特開2004-278019号公報の【0024】には「さらに好ましくは20?50mmの厚さに敷設される」と記載されている。また,刊行物1には記載事項(1j)に「舗装面圧5cmに転圧した。」と記載されているが,cmは圧力の単位ではないから「舗装面厚5cmに転圧した。」の誤記であると認められる。これらのことからみて,本願補正発明の「舗装層の厚さが30mm?70mmである」との構成は,通常用いられている厚さと格別に異なるものではなく,さらに本願明細書の記載からみて臨界的意義も認められないから,「舗装層の厚さが30mm?70mmである」とすることも当業者が適宜決めうる事項であると認められる。 そして,本願補正発明の作用効果は,刊行物1記載の発明及び刊行物1?5に記載された事項及び当業者に周知の事項から,当業者が予測できる範囲内のものである。 したがって,本願補正発明は,刊行物1記載の発明及び刊行物1?5に記載された事項及び当業者に周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 補正の却下の決定のむすび 以上より,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって,補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明 1 本願発明 平成24年1月17日の手続補正は却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,出願当初の特許請求の範囲の請求項1に記載された,以下のとおりのものである。(以下,「本願発明」という。) 「火力発電所のボイラーから発生した多孔質の石炭灰とセメント系固化材と混和液とを所定の重量比で混和する工程と, 前記混合物を路盤上に転圧して舗装層を形成する工程とを備え, 前記舗装層は透水性を有し,かつ,植物の発芽を抑える表面強度を有することを特徴とする透水性防草舗装方法。」 2 引用刊行物 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1,及びその記載事項は,前記「第2 2 2-1」に記載したとおりである。 3 対比・判断 本願発明と刊行物1記載の発明を対比すると, 刊行物1記載の発明の「ポルトランドセメント」は,本願発明の「セメント系固化材」に相当し,以下同様に, 「水」は,「混和液」に, 「添加して練り合わせ」る点は,「混和する」点に, 「石炭灰配合物に,重量比で6ないし10%のポルトランドセメント,及び水を添加して練り合わせ,転圧,養生し」との点は,刊行物1記載の発明は路面舗装方法であるから,「混合物を路盤上に転圧して舗装層を形成する工程」に, それぞれ相当する。 そうすると,本願発明と刊行物1記載の発明は, 「火力発電所のボイラーから発生した多孔質の石炭灰とセメント系固化材と混和液とを混和する工程と, 前記混合物を路盤上に転圧して舗装層を形成する工程とを備え, 前記舗装層は透水性を有し,かつ,植物の発芽を抑える表面強度を有することを特徴とする透水性防草舗装方法。」で一致し,上記「第2 2 2-2」の<相違点1>で相違する。 そして,本願発明の相違点1に係る構成とすることは,上記「第2 2 2-3」の<相違点1について>で示したとおり,当業者が容易に想到したことである。 さらに,本願発明の作用効果は,刊行物1記載の発明から当業者が予測できる範囲内のものである。 したがって,本願発明は刊行物1記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおり,本願発明は特許を受けることができないから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-02-13 |
結審通知日 | 2013-02-19 |
審決日 | 2013-03-07 |
出願番号 | 特願2006-52714(P2006-52714) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(E01C)
P 1 8・ 121- Z (E01C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小山 清二 |
特許庁審判長 |
鈴野 幹夫 |
特許庁審判官 |
中川 真一 高橋 三成 |
発明の名称 | 透水性防草舗装方法 |
代理人 | 山村 喜信 |