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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16C |
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管理番号 | 1273780 |
審判番号 | 不服2011-22757 |
総通号数 | 162 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-06-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-10-21 |
確定日 | 2013-05-07 |
事件の表示 | 特願2007-555676「特にボギー式ブレーキリンク機構のためのジョイントアセンブリ」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月24日国際公開,WO2006/087499,平成20年 8月 7日国内公表,特表2008-530474〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯の概略 本願は,平成18年2月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理:2005年2月21日,仏国)を国際出願日とする出願であって,平成19年8月16日付けの翻訳文提出書に係る特許協力条約34条の規定に基づく手続補正がなされ,平成22年12月22日(起案日)付けで拒絶の理由が通知され,平成23年4月15日付けで意見書の提出及び手続補正がなされたが,平成23年6月14日(起案日)付けで拒絶査定がなされた。 これに対し,平成23年10月21日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ,当審において,平成24年6月18日付けで拒絶の理由が通知され,平成24年10月18日付けで意見書の提出及び手続補正がなされた。 第2 本願の請求項1ないし請求項6に係る発明 本願の請求項1ないし請求項6に係る発明は,平成19年8月16日付けの翻訳文提出書に係る特許協力条約34条の規定に基づく手続補正,平成23年4月15日付けの手続補正及び平成24年10月18日付けの手続補正により補正された,明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項6に記載された事項により特定される,以下のとおりのものであると認める。 「【請求項1】 グリースが塗布されてグリースを含んだ状態にあるジョイントアセンブリであって, 特にボギー式ブレーキリンク機構のためのリング内に回転又は回動するように取り付けられたアクスル(2)を備えている前記ジョイントアセンブリにおいて, 前記アクスル(2)及び/又は前記リング(1)は,拡散によって硬化表面処理がされ, その後,擦れの傾向を減少するため及び腐食に対する感度を減少するための適切な仕上げ表面処理が行われ, 前記リング及び/又は前記アクスルのボアは,グリース保存部として働くように構成されており, グリース保存部として働くための構成が,溝(1d)よりなり, グリース保存部として働くための構成が,前記リング(1)の前記ボア(1a)の端部のそれぞれに形成されたチャンネル(1b)とチャンネル(1c)との間に少なくとも配置されており, 前記構成が,前記チャンネル(1b)及び前記チャンネル(1c)に連通している溝(1d)よりなり, 前記チャンネル(1b)及び前記チャンネル(1c)の深さは,前記溝(1d)の深さよりも深く且つ前記溝(1d)の深さの10倍以下であることを特徴とするジョイントアセンブリ。 【請求項2】 前記溝(1d)は,グリッドを形成していることを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ。 【請求項3】 前記溝(1d)は,逆V字型形状を形成していることを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ。 【請求項4】 グリースが塗布されてグリースを含んだ状態にあるジョイントアセンブリであって, 特にボギー式ブレーキリンク機構のためのリング内に回転又は回動するように取り付けられたアクスル(2)を備えている前記ジョイントアセンブリにおいて, 前記アクスル(2)及び/又は前記リング(1)は,拡散によって硬化表面処理がされ, その後,擦れの傾向を減少するため及び腐食に対する感度を減少するための適切な仕上げ表面処理が行われ, 前記リング及び/又は前記アクスルのボアは,グリース保存部として働くように構成されており, グリース保存部として働くための構成が,穴又は空洞(1d)よりなり, グリース保存部として働くための構成が,チャンネル(1b)の間に少なくとも配置されていることを特徴とするジョイントアセンブリ。 【請求項5】 グリースが塗布されてグリースを含んだ状態にあるジョイントアセンブリであって, 特にボギー式ブレーキリンク機構のためのリング内に回転又は回動するように取り付けられたアクスル(2)を備えている前記ジョイントアセンブリにおいて, 前記アクスル(2)及び/又は前記リング(1)は,拡散によって硬化表面処理がされ, その後,擦れの傾向を減少するため及び腐食に対する感度を減少するための適切な仕上げ表面処理が行われ, 前記リング及び/又は前記アクスルのボアは,グリース保存部として働くように構成されており, グリース保存部として働くための構成が,溝(1d)よりなり, グリース保存部として働くための構成が,アクスル(2)に配置されていることを特徴とするジョイントアセンブリ。 【請求項6】 グリースが塗布されてグリースを含んだ状態にあるジョイントアセンブリであって, 特にボギー式ブレーキリンク機構のためのリング内に回転又は回動するように取り付けられたアクスル(2)を備えている前記ジョイントアセンブリにおいて, 前記アクスル(2)及び/又は前記リング(1)は,拡散によって硬化表面処理がされ, その後,擦れの傾向を減少するため及び腐食に対する感度を減少するための適切な仕上げ表面処理が行われ, 前記リング及び/又は前記アクスルのボアは,グリース保存部として働くように構成されており, グリース保存部として働くための構成が,穴又は空洞(1d)よりなり, グリース保存部として働くための構成が,アクスル(2)に配置されていることを特徴とするジョイントアセンブリ。」 第3 引用例とその記載事項 1 引用例 平成24年6月18日付けの拒絶理由通知にて引用した引用例は以下のとおりである。 引用例1:特表2002-530605号公報 引用例2:特開平3-96715号公報 引用例3:特開平6-200946号公報 引用例4:特開平3-51524号公報 2 引用例に記載された事項 (1)引用例1 (i) 引用例1には,「トランスミッションシャフトのためのディスク摩擦装置に関(し)」(段落【0001】),以下の事項が記載されている。 ・「図3および図4は,モータボギーブレーキの摩擦装置の別の実施形態である。」(段落【0032】) ・「アクチュエータ60は,筐体50の端壁52の延長部上に固定された2つの突出部64により保持されたピン63の周囲を,後部端面近くで蝶番式に動くシリンダ部62を有する。アクチュエータの移動部61と,スラスト部131の中央部131aの間の接続部には,2つの揺り軸(ロッカー)部が設けてある。第1の端部において,各揺り軸部は,アクチュエータの移動部61の前面とは全く反対方向の位置に配置された旋回軸67の上にヒンジされている。第2の端部において,揺り軸部は,ロッド68の端部にヒンジされている。このロッド68は,スラスト部の中央部131aに形成された対向する孔を貫通し,軸Aと垂直に延びている。また,ロッド68は,軸方向Aと平行にスリーブ部55内に形成されたガイドスロット56を貫通している。この両端の間において,揺り軸部は,スリーブ部55に固定された突起部57により支持されたピン69上でピボット回転する。スペーサ部66は,2つの揺り軸部からなる装置を強化する。 アクチュエータが動作するよう駆動されると,揺り軸部65,66は,ピン69の周りをピボット回転する。これにより,スラスト部131は,スロット56によりガイドされるように並進運動し,その結果,ディスク21ないし25に対して力が加わえられる。てこの効果により,揺り軸部65,66は,アクチュエータにより生じた力を増幅する。動作において,アクチュエータのシリンダ62は,ピン63の周りを少しだけピボット回転する。シリンダ62は,ヒンジされた揺り架台58により支持することもできる。この揺り架台58は,筐体の壁部52に固定されたプレート59の上に取り付けられている。揺り架台58は,2つのフォーク部58aを有し,この間において,スタッド部(鋲)62aがアクチュエータシリンダ62とは全く反対方向の前面端部に配置されている。」(段落【0035】及び【0036】) (ii) 以上の記載及び図面の記載からみて,引用例1には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。 (引用発明) 「揺り軸部65,66を,第1の端部においてアクチュエータ60の移動部61に旋回軸67によってヒンジする構造,第2の端部においてロッド68の端部によってヒンジする構造,及び両端部の間においてスリーブ部55の突起部57に支持されたピン69によってピボット回転させる構造を有する,モータボギーブレーキの摩擦装置のための機構」 (2)引用例2 引用例2には,「摺動材及びその表面処理方法に係り,特に自動車エンジン,油圧機器,空調機器,圧縮機器及び各種の回転機器などにおいて過酷条件で使用される摺動材として,または屋外のゴミ,ホコリ,土砂などに曝される自動車,建設機械,運搬機械などにおいて劣悪な環境下で使用される摺動材として好適な摺動材及びその表面処理方法に関(し)」(1頁右下欄9行ないし16行),以下の事項が記載されている。 ・「2.特許請求の範囲 1.摺動表面部が,固体潤滑性を有する表面被覆層と,該表面被覆層内側の硬化組織からなる皮下層とから構成され,前記摺動表面部に底面が前記皮下層の最外面より内側にある凹部又は溝部を形成したことを特徴とする摺動材。」(1頁左下欄4行ないし9行) ・「本発明の第1発明に係る摺動材は,摺動面上に多数かつ微細な凹部又は溝部を形成して,該凹部又は溝部に潤滑剤を保持するとともに,該潤滑剤で摺接面を十分かつ確実に潤滑することにより,潤滑性能が良くて耐摩耗性に優れた摺動材を実現する,第2に,凹部又は溝部が摺動動作により簡単に磨滅しないよう,耐摩耗性に優れた硬い組織上に凹部又は溝部を掘込んだ形状とすることにより,優れた潤滑性能と潤滑剤保持機能を長時間維持できる摺動材を実現する,第3に多数かつ微細な凹部又は溝部を形成した摺動面上で軟らかでかつ摺動性の良い固体潤滑材か又は固体潤滑材を含む複合材からなる表面被覆層で覆うことにより,摺動材の変形や加工精度不良などにより摺接面が片当りしても,軟らかでかつ摺動性の良い固体潤滑材で覆った表面被覆層だけが選択的かつ意図的に磨滅することにより,片当り部分でかじりや焼き付きを起さないようにすることができる,などの特徴がある。」(3頁左下欄4行ないし右下欄2行) ・「第3図において,8は回転軸,9は軸受,10は凹部,11は表面被覆層,12は潤滑油である。軸受構造は,油潤滑条件下で使用される一般的な滑り軸受を改良したものであり,そしてこの軸受構造は,耐摩耗性に優れた硬化組織2からなる摺動面上に軸方向と平行に微細かつ多数の凹部10を形成した軸8と,滑らかな表面で,その表面が軟らかな摺動性の良い固体潤滑材又は固体潤滑材を含む複合材からなる表面被覆層11で覆われた軸受9とからなる。・・・また,各凹部10は,摺接面へ潤滑油12をスムーズに補給できるよう,断面形状が凹み状又は皿状の断面でかつ摺接表面から十分に掘込まれた形状である。」(6頁左上欄17行ないし右上欄12行) ・「第5図において,13は摺動材,14は凹部又は溝部,15は表面被覆層,16は硬化部である。先ず最初に,軸の外形を最終形状から仕上げ代だけを残した寸法に機械加工する。次に,摺動材13の表面上に,軸方向または円周方向に微細かつ多数の凹部又は溝部14を加工する。凹部又は溝部14の加工方法は,目標の表面凹凸形状に応じ,機械加工,塑性加工,研削加工,化学処理などの中で適宜の表面加工法を選択できる。そして,この軸を高周波焼き入れし,表面に焼き入れ硬化部16を形成する。それから,凹部又は溝部l4と焼き入れ硬化部16を形成した軸を,摺動面上に凹部又は溝部l4が残るように研削加工し,滑らかな摺動面に仕上げる。次に,この軸を,低温で処理できる浸硫処理用の硫化物の塩浴中に浸漬し,軸表面に表面被覆層15を形成する。なお,低温塩浴法による浸硫処理は,材料表面の焼き入れ硬さをほとんど低下させないで,軟らかで摺動性の良い固体潤滑用の表面被覆層l5を形成することができる。最後に,機械加工または研削加工により,軸の表面を最終寸法に仕上げて,全加工工程が完了する。 上記の方法では,表面の硬化法には高周波焼き入れ,表面被覆層形成法には低温浸硫処理法を用いたが,本発明の摺動材は,この他の方法でも処理できる。すなわち,材料の表面硬化法には,通常の焼き入れ法,高周波焼き入れ,浸炭,窒化,浸炭窒化など各種方法がある。しかし,本発明のように軸の寸法精度と表面形状が必要な表面硬化法には,処理前後の寸法変化が少ない表面硬化法である高周波焼き入れ法が適している。また,軸の表面に表面被覆層15を形成する方法には,銅鉛合金,ホワイトメタル,青銅,アルミ合金などの金属製シート材をロウ付けやハンダ付けする方法,テフロン,ポリウレタン,ナイロンなどの合成樹脂や,黒鉛,二硫化モリブデンなどを含有するシート材を貼付ける方法,さらに金属表面を軟質化することができる浸硫処理,リン酸皮膜処理,モリブデン焼き付けなど,各種の方法がある。いずれも,軸受構造に必要な,軟らかでかつ摺動性の良い固体潤滑性を有する表面被覆層15を,軸の表面に形成することができる。しかし,本発明のように軸の寸法精度と表面形状が必要な場合には,処理前後の寸法変化が少なく,かつ表面被覆層15の厚さが薄い浸硫処理法が適し,さらに,材料表面の焼き入れ硬さをほとんど低下させない低温浸硫処理法は最適な表面被覆層形成法である。」(6頁左下欄8行ないし7頁左上欄14行) ・「第8A図乃至第8F図において,29は摺動面,30は摺接面,31は凹部又は溝部を示す。図は,軸,軸受,シリンダ,ピストン,案内面などの円筒状,板状及び円弧状など各種形状の摺動面29を平面に展開した場合の表面上における摺接面30と凹部31の配置状況を示したものである。摺動材の表面上の形成する凹部31の形状は,第8A図は斜めの平行線状でありラセン状の溝部を形成する。第8B図は格子状の溝部を形成し,摺接面30が四角形または菱形状をなす。第8C図は水玉状の凹部を形成し,各凹部が独立している。第8D図は斜めの格子状の溝部を形成し,摺接面30が平行四辺形をなす,第8E図は蛇行状の溝を形威し,第8F図は台形状の溝を形成するなどである。これらの凹部3lの形状は,それぞれの対象及び摺動条件の応じて適切なものを適宜に選択すればよい。本発明の摺動材及びその表面処理方法は,いずれの凹部形状も可能である。」(9頁右上欄16行ないし左下欄13行) (3)引用例3 引用例3には,「内周面に固体潤滑剤を埋設固定した円筒状軸受に関(し)」(段落【0001】),以下の事項が記載されている。 ・「内周面に形成された複数条の螺旋溝R_(1)及びR_(2)に固体潤滑剤を埋設固定した円筒状軸受であって,当該円筒状軸受を展開した場合において,前記複数条の螺旋溝R_(1)のそれぞれは,円筒状軸受の中心軸に対して直角な方向に伸びる線を基準線Lとして該基準線Lに対し0°以上(0°を含まず)45°以下の角度θ_(1)をもって右上がりに形成されており,前記複数条の螺旋溝R_(2)のそれぞれは,該基準線Lに対し0°以上(0°を含まず)45°以下の角度θ_(2)をもって交叉する左上がりに形成されており,相隣合う螺旋溝R_(1)と該相隣合う螺旋溝R_(1)と交叉する相隣合う螺旋溝R_(2)との交点を結ぶことによって形成される平行四辺形の短い方の対角線を結ぶ線分は,前記基準線Lに対して90°以下(90°含まず)の角度θ_(3)をなしている,内周面に固体潤滑剤を埋設固定した円筒状軸受。」(【請求項1】) ・「内周面の両端には端部1,1を残して更にリング溝R,Rが形成されており,該リング溝R,Rには固体潤滑剤が埋設固定されており,複数条の螺旋溝R_(1)及びR_(2)のそれぞれは,その両端でリング溝R,Rに開口している請求項1に記載の内周面に固体潤滑剤を埋設固定した円筒状軸受。」(【請求項2】) ・「上記固体潤滑剤の各成分について具体的に説明すると,主成分をなす固体潤滑材粉末には,それ自体単独で固体潤滑作用をなす物質で,天然黒鉛,人造黒鉛,天然鱗状黒鉛,キッシュ黒鉛,膨脹黒鉛,二硫化モリブデン,ポリテトラフルオロエチレン樹脂および窒化ホウ素から1種もしくは2種以上が選択されて使用されるとよい。常温で液状もしくはペースト状を呈する潤滑油剤として,機械油,エンジン油などの鉱油,ヒマシ油などの植物油,エステル油,シリコン油などの合成油,グリースなどが挙げられ,これらの1種もしくは2種以上が選択されて使用されるとよい。潤滑油剤を吸収保持する担体としては,炭化水素系ワックス,高級脂肪酸,高級脂肪酸を誘導して得られるワックス,ポリオレフィン樹脂粉末,好油性繊維,スチレン又はメタクリル系を主成分とする架橋多孔質球状粒子,多孔質炭酸カルシウムなどが挙げられ,これらの1種もしくは2種以上が選択されて使用されるとよい。合成樹脂結合剤としては,エポキシ樹脂,フェノール樹脂,ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂を用いることができ,とくに常温硬化型の液状エポキシ樹脂あるいは熱硬化型の液状又は粉末状エポキシ樹脂が好ましい。」(段落【0015】) ・「本発明の内周面に固体潤滑剤が埋設固定された円筒状軸受において,相隣合う螺旋溝R_(1)と該相隣合う螺旋溝R_(1)と交叉する相隣合う螺旋溝R_(2)との交点を結ぶことによって形成される平行四辺形の短い方の対角線を結ぶ線分が前記基準線に対して90°以下(90°を含まず)の角度をなしているので,前記従来技術の該螺旋溝に埋設固定される固体潤滑剤が該円筒状金属基体の軸方向に疎に配列される部分と密に配列される部分がはっきり区分けされるという問題点が解消され,円筒状軸受と相手軸材との荷重点に可及的に固体潤滑剤が密に介在することになり,該固体潤滑剤の性能を十分に発揮させることができる。また円筒状軸受の内周面の両端部にリング溝が形成されている本発明の円筒状軸受においては,螺旋溝に埋設固定された固体潤滑剤中の潤滑油剤が端面から流失することはない。」(段落【0017】) ・「以上のように本発明によれば,螺旋溝に埋設固定される固体潤滑剤が円筒状金属基体の軸方向に疎に配列される部分と密に配列される部分がはっきり区分けされるという従来技術の問題点が解消され,任意の組付けによっても,円筒状軸受と相手軸材との荷重点に可及的に固体潤滑剤が密に介在することになり,該固体潤滑剤の性能を十分に発揮させることができる。また円筒状軸受の内周面の両端部にリング溝が形成されている本発明の円筒状軸受においては,螺旋溝に埋設固定された固体潤滑剤中の潤滑油剤が端面から流失することはなく,長期に亘って潤滑油剤の作用を得ることができ,安定した所望の摺動特性を得ることができる。」(段落【0025】) (4)引用例4 引用例4には,「車両の円板ブレーキ・ユニットのスイベル・ブラケットに支持ブラケットを結合するための枢軸的な接続装置に関し,特に,鉄道車両用の油圧・空気圧作動されるキャリパ・ブレーキ組立体の支持ブラケットの脚にスイベル・ブラケットを枢軸的に接続するために,肩付きボルト,締付け板,及びスレーブ・ナットを含んだ,あらかじめ偏倚されたスイベル・ピン配列体に関(し)」(2頁左上欄8行ないし15行),以下の事項が記載されている。 ・「第2図及び第3図を参照すると,スイベル・ブラケット5は,円筒形のブッシュ23を収容した中央に位置付けられた円形の通し穴22を含んでいるということが分かる。実際には,ブッシュ23の外側表面及びスイベル・ブラケット5の円形穴22間にプレスばめが存在する。・・・肩付きのピボット・ボルトもしくはスイベル・ピン25は,通し穴15と,ブッシュ23と,穴16とに挿入される。」(4頁右下欄4行ないし17行) ・「スイベル・ブラケット5及び二又の支持ブラケット12間の相対回転運動は,ピボット・ピン25及びブッシュ23の中心間に生じるのが分かる。従って,ボルト25の中間の周辺及びブッシュ23の内側表面を潤滑することが必要なだけである。このことは,スイベル・ブラケット5の低部分に形成された中央位置付け通路37の底端部にグリース取付け36を設けることによって達成される。」(5頁左下欄5行ないし13行) 第4 対比及び判断 1 本願発明1(請求項1に係る発明)について (1) 本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)と引用発明とを,その有する機能に照らして対比すると,引用発明は「モータボギーブレーキの摩擦装置」に係る発明で,その「揺り軸部65,66」は,アクチュエータ60により生じた力をディスク21ないし25に伝達する役目を担う部材であるから,揺り軸部65,66に係る機構は本願発明1の「ボギー式ブレーキリンク機構」に相当するといえ,「揺り軸65,66部を,第1の端部においてアクチュエータ60の移動部61に旋回軸67によってヒンジする構造,第2の端部においてロッド68の端部によってヒンジする構造,及び両端部の間においてスリーブ部55の突起部57に支持されたピン69によってピボット回転させる構造」は,その機能に照らし,本願発明1の「ジョイントアセンブリ」に相当し,「旋回軸67」,「ロッド68」及び「ピン69」は本願発明1の「アクスル」に相当するといえる。 そうすると,本願発明1と引用発明とは, (一致点) 「ボギー式ブレーキリンク機構のための回転又は回動するように取り付けられたアクスルを備えているジョイントアセンブリ」である点 で一致し, (相違点1) 本願発明1は,「グリースが塗布されてグリースを含んだ状態にある」ジョイントアセンブリであって,「リング内に」回転又は回動するように取り付けられたアクスルを備え,「前記アクスル(2)及び/又は前記リング(1)は,拡散によって硬化表面処理がされ」,「その後,擦れの傾向を減少するため及び腐食に対する感度を減少するための適切な仕上げ表面処理が行われ」,「前記リング及び/又は前記アクスルのボアは,グリース保存部として働くように構成されており」,「グリース保存部として働くための構成が,溝(1d)よりなり」,「グリース保存部として働くための構成が,前記リング(1)の前記ボア(1a)の端部のそれぞれに形成されたチャンネル(1b)とチャンネル(1c)との間に少なくとも配置されており」,「前記構成が,前記チャンネル(1b)及び前記チャンネル(1c)に連通している溝(1d)よりなり」,「前記チャンネル(1b)及び前記チャンネル(1c)の深さは,前記溝(1d)の深さよりも深く且つ前記溝(1d)の深さの10倍以下である」のに対し,引用発明においては「旋回軸67」,「ロッド68」及び「ピン69」に係る具体的構成が明らかでない点 で相違する。 (2) 上記相違点1について検討する。 (i) 引用発明において,「旋回軸67」,「ロッド68」及び「ピン69」がリング内に設けられているか,設けられた箇所にグリースが塗布されているかは必ずしも明らかではないが,引用例3に記載されているように(上記第3・2(3)),リングよりなる軸受や,摺動部位にグリースを施すことは広く知られており,鉄道車両に用いられるブレーキ装置においても,リング内にアクスル(軸)を配置し回転又は回動する部位を構成することや,潤滑のためにグリースを塗布することは,引用例4に記載されているように(上記第3・2(4)),周知の技術であるから,引用発明においても「旋回軸67」,「ロッド68」及び「ピン69」をリング内に設けていることや当該箇所にグリースが塗布されていることは十分に窺えるとともに,当業者が適宜になし得る範囲内の事項である。 (ii) 引用例2には,摺動表面部が,固体潤滑性を有する表面被覆層と,該表面被覆層内側の硬化組織からなる皮下層とから構成され,前記摺動表面部に底面が前記皮下層の最外面より内側にある凹部又は溝部を形成し,当該凹部又は溝部に潤滑剤を保持する点が記載されている(上記第3・2(2))。 具体的には,摺動材13の表面に硬化部16を形成した上で,凹部又は溝部14を形成し,その後,表面被覆層15を形成する点が開示されているが,硬化部16を形成する方法として,高周波焼き入れのほか,通常の焼き入れ,浸炭,窒化,浸炭窒化が例示され,表面被覆層15を形成する方法としては,低温浸硫処理のほか,銅鉛合金,ホワイトメタル,青銅,アルミ合金などの金属製シート材をロウ付けやハンダ付けする方法,テフロン,ポリウレタン,ナイロンなどの合成樹脂や,黒鉛,二硫化モリブデンなどを含有するシート材を貼付ける方法,金属表面を軟質化することができる浸硫処理,リン酸皮膜処理,モリブデン焼き付けが例示されている。浸炭,窒化,浸炭窒化は拡散による表面硬化処理であるし,リン酸皮膜処理や上記のようなシート材を貼付することによって耐食性や耐摩耗性が得られることは,当業者が容易に理解できる。 ところで,本願明細書には,「拡散によって硬化表面処理がされ,その後,擦れの傾向を減少するため及び腐食に対する感度を減少するための適切な仕上げ表面処理が行われ」る点に関し,以下の記載がある。 ・「本発明によれば,リング(1)及び/又はアスクル(2)は,拡散によって又は構造変化によって,硬化処理を受けており,焼き付きの傾向を減少させるために,及び腐食に対する感度を減少させるために仕上げ処理及び適切な処理があとに付随している。」(段落【0015】) ・「例えば,拡散硬化処理は,窒化(nitriding),炭窒化(nitrocarburizing),浸炭窒化(carbonitriding),焼入れから選択される。同様に,構造変化による焼入れ処理は,焼入れ方法から選択されてもよい。」(段落【0016】) ・「例えば,仕上げ処理は,表面酸化又は表面リン酸塩反応である。焼き付きの傾向を減少させるため及び腐食に対する感度を減少させるための適切な処理に関しては,前記処理は,状況に応じて,固形潤滑油,特にグラファイト,重硫化モリブデン(molybdenum bisulphide)又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含むポリマーの被膜を構成してもよい。仕上げ処理が溶解の又は全体のオイル飽和に付随してもよいことに留意すべきである。」(段落【0017】) このような本願明細書の記載からすると,本願発明1において,「拡散による硬化表面処理」としては,窒化(nitriding),炭窒化(nitrocarburizing),浸炭窒化(carbonitriding),焼入れが想定され,「擦れの傾向を減少するため及び腐食に対する感度を減少するための適切な仕上げ表面処理」としては,表面酸化又は表面リン酸塩反応,固形潤滑油,特にグラファイト,重硫化モリブデン(molybdenum bisulphide)又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含むポリマーの被膜の構成が想定されていることがわかり,本願明細書の記載に照らしても,引用例2には,本願発明1における「拡散によって硬化表面処理がされ」,「その後,擦れの傾向を減少するため及び腐食に対する感度を減少するための適切な仕上げ表面処理が行われ」る点が開示されていることがわかる。 また,引用例2に記載された当該凹部又は溝部に潤滑剤を保持する点は,本願発明1における「グリース保持部」,「溝(1d)」に対応することは技術的に明らかである。 そして,引用発明の「旋回軸67」,「ロッド68」及び「ピン69」が設けられた箇所におけるかじりや焼き付きの防止といったことは当然想定される課題であって,引用例2に「特に自動車エンジン,油圧機器,空調機器,圧縮機器及び各種の回転機器などにおいて過酷条件で使用される摺動材として,または屋外のゴミ,ホコリ,土砂などに曝される自動車,建設機械,運搬機械などにおいて劣悪な環境下で使用される摺動材として好適」であると記載されているように(上記第3・2(2)),引用例2に記載された事項が広範な技術分野に適用可能であることや,劣悪な環境下を想定していることに鑑みれば,引用発明において「旋回軸67」,「ロッド68」及び「ピン69」をリング内に設け,当該箇所にグリースを塗布する場合に,当該箇所に引用例2に記載された事項を適用することは,当業者にとって格別困難なことではない。 なお,引用例2には潤滑油を利用した実施例が開示されているが,引用例2の記載を総合的に勘案すれば,当該実施例は一例にとどまり,潤滑剤としてグリースが利用可能であることは当業者が容易に理解できるものである。 (iii) 引用例3には,リングのボアの両端に形成されたリング溝Rの間に,リング溝Rに連通する螺旋溝R_(1)と螺旋溝R_(2)を配置し,その内部にグリースを埋設する点が記載され,このような構成により,給油装置により潤滑油を供給することが不要になり,グリースが端面から流出することなく,長期にわたって潤滑作用を得ることができる旨記載されている(上記第3・2(3))。引用例3に記載されたこのような構成は,本願発明1における「グリース保存部として働くための構成が,溝(1d)よりなり」,「グリース保存部として働くための構成が,前記リング(1)の前記ボア(1a)の端部のそれぞれに形成されたチャンネル(1b)とチャンネル(1c)との間に少なくとも配置されており」,「前記構成が,前記チャンネル(1b)及び前記チャンネル(1c)に連通している溝(1d)よりな(る)」点に相当することは,技術的に明らかである。 すでに検討したとおり,引用発明においても,グリースが塗布されていることは十分に窺えるとともに,当業者が適宜になし得る範囲内の事項であり,引用例2に記載された事項を適用することによって,凹部又は溝状の「グリース保持部」を設けることは,当業者にとって格別困難なことではない。その場合,整備や保守を簡略にするといった要請は一般的であって,長期にわたって潤滑作用を得るといった要請は,当然想定されるものであるから,その要請に従い,引用例3に記載されたグリース保持構造を採用することは,当業者が格別困難なくなし得ることである。 そして,溝の深さの程度は,潤滑作用に係る持続期間に応じて適宜に決定すべきであって,ボア両端の溝の深さをその間の溝より深くすることは,当業者が適宜になし得る事項である。 (iv) そうすると,引用発明において,上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到できた事項である。 本願発明1の奏する効果をみても,引用例1ないし引用例4に記載された事項から予測し得る範囲内のものであって,格別ではない。 (v)ア この点に関し,請求人は,概ね以下のように主張している。 ・本願の独立請求項はいずれも,グリースが予め塗布されていることを記載している。一方,引用例4の記載からすると,引用例4は,定期的な間隔でグリースを再塗布するように設計されるべきことを示唆していると考えなければならず,すなわち,引用例4は,上記周知技術を裏付けるものではなく,むしろ本願発明に想到することを困難にする示唆をしている。 ・そして,補正された請求項1は,前記チャンネル(1b)及び前記チャンネル(1c)の深さは,前記溝(1d)の深さよりも深く且つ前記溝(1d)の深さの10倍以下であることを記載しており,この構成によればグリースを多く蓄えることが可能になり,長期間にわたって潤滑することができる。一方,引用文献3の図1から図6に記載されているリング溝Rは,実施例1(図1)では,深さ2mmのリング溝Rに対して,深さ2mmの螺旋溝R_(1),深さ4mmの螺旋溝R_(2)であり,実施例2(図3)では,深さ2mmのリング溝Rに対して,深さ2mmの螺旋溝R_(1),深さ2mmの螺旋溝R_(2)であり,実施例3(図5)の記載によれば,深さ2mmのリング溝Rに対して,深さ2mmの螺旋溝R_(1),深さ2mmの螺旋溝R_(2)になっている。 イ しかしながら,引用例4の記載から,少なくとも,鉄道車両に用いられるブレーキ装置においても,リング内にアクスル(軸)を配置し回転又は回動する部位を構成することや,潤滑のためにグリースを塗布することが従前より知られていることがわかる。たとえ,定期的な間隔でグリースを再塗布するように設計されているとしても,このように解することができる。 そして,整備や保守を簡略にするといった要請は一般的であり,鉄道車両に係る技術においても同様であって,長期にわたって潤滑作用を得るといった要請は,引用発明にも当然想定されるものである。引用例4の記載は,開示されたブッシュ23の構造を前提としたものであって,鉄道車両に用いる場合に,必然的に定期的な間隔でグリースを再塗布すべきことまでを示したものではなく,整備や保守を簡略にする,長期にわたって潤滑作用を得るといった要請を否定するものではない。 そして,すでに検討したとおり,引用発明において,このような要請に従い,引用例3に記載されたグリース保持構造を採用することは,当業者が格別困難なくなし得ることであり,潤滑作用に係る持続期間に応じて,ボア両端の溝の深さをその間の溝より深くすることは,当業者が適宜になし得る事項である。 よって,請求人の主張は,採用することができない。 (3) 以上を総合すると,本願発明1は,引用発明並びに引用例2ないし引用例4に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 2 本願発明4(請求項4に係る発明)について (1) 本願の請求項4に係る発明(以下「本願発明4」という。)と引用発明とを,その有する機能に照らして対比すると,両者は,本願発明1及び引用発明と同様の点で一致し, (相違点2) 本願発明4は,「グリースが塗布されてグリースを含んだ状態にある」ジョイントアセンブリであって,「リング内に」回転又は回動するように取り付けられたアクスルを備え,「前記アクスル(2)及び/又は前記リング(1)は,拡散によって硬化表面処理がされ」,「その後,擦れの傾向を減少するため及び腐食に対する感度を減少するための適切な仕上げ表面処理が行われ」,「前記リング及び/又は前記アクスルのボアは,グリース保存部として働くように構成されており」,「グリース保存部として働くための構成が,穴又は空洞(1d)よりなり」,「グリース保存部として働くための構成が,チャンネル(1b)の間に少なくとも配置されている」のに対し,引用発明においては「旋回軸67」,「ロッド68」及び「ピン69」に係る具体的構成が明らかでない点 で相違する。 (2) 上記相違点2について検討する。 引用例2には,本願発明4における「拡散によって硬化表面処理がされ」,「その後,擦れの傾向を減少するため及び腐食に対する感度を減少するための適切な仕上げ表面処理が行われ」る点が開示されているといえる(上記1(2)(ii))。 引用例2には,水玉状の凹部を設ける点が記載されており(上記第3・2(2),第8C図),当該水玉状の凹部は,本願発明4における「穴」に相当する。 引用例3には,リングのボアの両端に形成されたリング溝Rの間に,リング溝Rに連通する螺旋溝R_(1)と螺旋溝R_(2)を配置し,その内部にグリースを埋設する点が記載され(上記第3・2(3)),当該構成は,本願発明4における「グリース保存部として働くための構成が,チャンネル(1b)の間に少なくとも配置されている」点に相当する。 すでに検討したとおり,引用例3や引用例4に記載されているように,リングよりなる軸受や,摺動部位にグリースを施すことは広く知られ,鉄道車両に用いられるブレーキ装置においても,リング内にアクスル(軸)を配置し回転又は回動する部位を構成することや,潤滑のためにグリースを塗布することは周知の技術であるから,引用発明においても「旋回軸67」,「ロッド68」及び「ピン69」をリング内に設けていることや当該箇所にグリースが塗布されていることは十分に窺えるとともに,当業者が適宜になし得る範囲内の事項である。その場合に,当該箇所に引用例2に記載された事項を適用することは,当業者にとって格別困難なことではなく(上記1(2)(i),(ii)),「空洞」とすることも,当業者が適宜になし得る範囲内の事項である。 そして,整備や保守を簡略にするといった要請は一般的で,長期にわたって潤滑作用を得るといった要請は,当然想定されるものであるから,その要請に従い,引用例3に記載されたリングのボアの両端にリング溝Rを形成する構造を採用することは,当業者が格別困難なくなし得ることである(上記1(2)(iii))。 そうすると,引用発明において,上記相違点2に係る本願発明4の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到できた事項である。 本願発明4の奏する効果をみても,引用例1ないし引用例4に記載された事項から予測し得る範囲内のものであって,格別ではない。 (3) 以上を総合すると,本願発明4は,引用発明並びに引用例2ないし引用例4に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 3 本願発明5(請求項5に係る発明)について (1) 本願の請求項5に係る発明(以下「本願発明5」という。)と引用発明とを,その有する機能に照らして対比すると,両者は,本願発明1及び引用発明と同様の点で一致し, (相違点3) 本願発明5は,「グリースが塗布されてグリースを含んだ状態にある」ジョイントアセンブリであって,「リング内に」回転又は回動するように取り付けられたアクスルを備え,「前記アクスル(2)及び/又は前記リング(1)は,拡散によって硬化表面処理がされ」,「その後,擦れの傾向を減少するため及び腐食に対する感度を減少するための適切な仕上げ表面処理が行われ」,「前記リング及び/又は前記アクスルのボアは,グリース保存部として働くように構成されており」,「グリース保存部として働くための構成が,溝(1d)よりなり」,「グリース保存部として働くための構成が,アクスル(2)に配置されている」のに対し,引用発明においては「旋回軸67」,「ロッド68」及び「ピン69」に係る具体的構成が明らかでない点 で相違する。 (2) 上記相違点3について検討する。 引用例2には,本願発明5における「拡散によって硬化表面処理がされ」,「その後,擦れの傾向を減少するため及び腐食に対する感度を減少するための適切な仕上げ表面処理が行われ」る点が開示されているといえる(上記1(2)(ii))。 引用例2には,溝部を設ける点が記載され(上記第3・2(2)),引用例3には,リングのボアの両端に形成されたリング溝Rの間に,リング溝Rに連通する螺旋溝R_(1)と螺旋溝R_(2)を配置し,その内部にグリースを埋設する点が記載されており(上記第3・2(3)),当該構成は,本願発明5の「溝(1d)」に相当する。 そして,引用例2には,溝部を軸の上に設ける点が記載されている。引用例2の第3図及び第4図に係る例は,軸の上に溝を設けるものであり,第8A図ないし第8F図に係る例は,軸の上に配置することが想定されている(上記第3・2(2))。 すでに検討したとおり,引用例3や引用例4に記載されているように,リングよりなる軸受や,摺動部位にグリースを施すことは広く知られ,鉄道車両に用いられるブレーキ装置においても,リング内にアクスル(軸)を配置し回転又は回動する部位を構成することや,潤滑のためにグリースを塗布することは周知の技術であるから,引用発明においても「旋回軸67」,「ロッド68」及び「ピン69」をリング内に設けていることや当該箇所にグリースが塗布されていることは十分に窺えるとともに,当業者が適宜になし得る範囲内の事項である。その場合に,当該箇所に引用例2や引用例3に記載された事項を適用することは,当業者にとって格別困難なことではない(上記1(2)(i),(ii))。 そうすると,引用発明において,上記相違点3に係る本願発明5の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到できた事項である。 本願発明5の奏する効果をみても,引用例1ないし引用例4に記載された事項から予測し得る範囲内のものであって,格別ではない。 (3) 以上を総合すると,本願発明5は,引用発明並びに引用例2ないし引用例4に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 4 本願発明6(請求項6に係る発明)について (1) 本願の請求項6に係る発明(以下「本願発明6」という。)と引用発明とを,その有する機能に照らして対比すると,両者は,本願発明1及び引用発明と同様の点で一致し, (相違点4) 本願発明6は,「グリースが塗布されてグリースを含んだ状態にある」ジョイントアセンブリであって,「リング内に」回転又は回動するように取り付けられたアクスルを備え,「前記アクスル(2)及び/又は前記リング(1)は,拡散によって硬化表面処理がされ」,「その後,擦れの傾向を減少するため及び腐食に対する感度を減少するための適切な仕上げ表面処理が行われ」,「前記リング及び/又は前記アクスルのボアは,グリース保存部として働くように構成されており」,「グリース保存部として働くための構成が,穴又は空洞(1d)よりなり」,「グリース保存部として働くための構成が,アクスル(2)に配置されている」のに対し,引用発明においては「旋回軸67」,「ロッド68」及び「ピン69」に係る具体的構成が明らかでない点 で相違する。 (2) 上記相違点4について検討する。 引用例2には,本願発明6における「拡散によって硬化表面処理がされ」,「その後,擦れの傾向を減少するため及び腐食に対する感度を減少するための適切な仕上げ表面処理が行われ」る点が開示されているといえる(上記1(2)(ii))。 引用例2には,水玉状の凹部を設ける点が記載されており(上記第3・2(2),第8C図),当該水玉状の凹部は,本願発明6における「穴」に相当する。 そして,引用例2には,溝部を軸の上に設ける点が記載されている。引用例2の第3図及び第4図に係る例は,軸の上に溝を設けるものであり,第8A図ないし第8F図に係る例は,軸の上に配置することが想定されている(上記第3・2(2))。 すでに検討したとおり,引用例3や引用例4に記載されているように,リングよりなる軸受や,摺動部位にグリースを施すことは広く知られ,鉄道車両に用いられるブレーキ装置においても,リング内にアクスル(軸)を配置し回転又は回動する部位を構成することや,潤滑のためにグリースを塗布することは周知の技術であるから,引用発明においても「旋回軸67」,「ロッド68」及び「ピン69」をリング内に設けていることや当該箇所にグリースが塗布されていることは十分に窺えるとともに,当業者が適宜になし得る範囲内の事項である。その場合に,当該箇所に引用例2に記載された事項を適用することは,当業者にとって格別困難なことではなく(上記1(2)(i),(ii)),「空洞」とすることも,当業者が適宜になし得る範囲内の事項である。 そうすると,引用発明において,上記相違点4に係る本願発明6の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到できた事項である。 本願発明6の奏する効果をみても,引用例1ないし引用例4に記載された事項から予測し得る範囲内のものであって,格別ではない。 (3) 以上を総合すると,本願発明6は,引用発明並びに引用例2ないし引用例4に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5 むすび 以上のとおり,本願発明1(請求項1に係る発明)並びに本願発明4ないし本願発明6(請求項4ないし請求項6に係る発明)は,引用発明並びに引用例2ないし引用例4に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。 そして,本願発明1(請求項1に係る発明)並びに本願発明4ないし本願発明6(請求項4ないし請求項6に係る発明)が特許を受けることができない以上,本願の請求項2及び請求項3に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-11-29 |
結審通知日 | 2012-12-04 |
審決日 | 2012-12-18 |
出願番号 | 特願2007-555676(P2007-555676) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(F16C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 上谷 公治 |
特許庁審判長 |
川本 真裕 |
特許庁審判官 |
冨岡 和人 窪田 治彦 |
発明の名称 | 特にボギー式ブレーキリンク機構のためのジョイントアセンブリ |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 渡邊 隆 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 志賀 正武 |