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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01G 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01G |
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管理番号 | 1274252 |
審判番号 | 不服2011-25782 |
総通号数 | 163 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-07-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-11-29 |
確定日 | 2013-05-15 |
事件の表示 | 特願2005-106955「花卉苗の栽培方法及び栽培装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月19日出願公開、特開2006-280313〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成17年4月1日の出願であって,平成23年9月14日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年11月29日に拒絶査定に対する審判請求がなされると共に,同時に手続補正がなされた。 その後,平成24年6月4日付けで,審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ,同年8月27日付けで回答書が提出されたものである。 第2 補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成23年11月29日の手続補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容・目的 平成23年11月29日の手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許請求の範囲について,請求項1を以下のように補正することを含むものである。 (補正前:平成22年6月21日付け手続補正書) 「【請求項1】 太陽光と補助光源とを併用した花卉苗の栽培方法であって, 前記補助光源として,高圧ナトリウムランプ,水銀灯及びメタルハライドランプの少なくともいずれかを用い, 前記補助光源を用いて花卉苗に光合成有効光量子束密度が300μmol/m^(2)/s以上500μmol/m^(2)/s以下の光を照射し, 前記補助光源を,50cm以上120cm以下離れて花卉苗に対し光を照射する 花卉苗の栽培方法。」(以下,「本願発明」という。) ここで,「光を照射するとともに,花卉苗の栽培方法。」は誤記であると認め,「光を照射する花卉苗の栽培方法。」であると認定した。 (補正後) 「【請求項1】 太陽光と補助光源とを併用した花卉苗の栽培方法であって, 前記補助光源として,360W以上940W以下の出力の高圧ナトリウムランプ,水銀灯及びメタルハライドランプの少なくともいずれかを用い, 前記補助光源を用いて花卉苗に光合成有効光量子束密度が300μmol/m^(2)/s以上500μmol/m^(2)/s以下の光を照射し, 前記補助光源を,50cm以上120cm以下離れて花卉苗に対し光を照射する花卉苗の栽培方法。」(以下,「本願補正発明」という。) 本件補正は,請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「高圧ナトリウムランプ,水銀灯及びメタルハライドランプ」について「360W以上940W以下の出力の」との限定を付加するものであって,特許法第17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで,本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか,すなわち,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしているか,について以下に検討する。 2 独立特許要件違反(特許法第29条第2項違反) 2-1 引用刊行物 原査定の平成22年12月21日付け拒絶理由通知では,拒絶の理由に以下の刊行物が引用されている。 刊行物1:特開昭63-222627号公報 刊行物2:特開2004-55号公報 刊行物3:特開2003-102272号公報 刊行物4:特開平9-266725号公報 (1)刊行物1 刊行物1には以下のように記載されている(下線は当審にて付与。)。 (1a)「産業上の利用分野 本発明は植物栽培用ハウスに関するものである。」(1ページ左下欄16,17行) (1b)「従来の技術 野菜や花卉をその生育環境条件をコントロールしながら計画的に生産するため,従来,ビニール,ポリエチレンフィルム,ガラス等を被覆材として使用した建造物に,換気設備,湯温や他熱,電熱等を利用した加温設備,炭酸ガス供給設備等を設け,植物の生育に必須の光放射は建造物の被覆材を透過して得られる自然光に依存するハウスやガラス温室を用いた栽培方法が最も一般的である。 また近年,コンピュータ制御による人工環境条件下で野菜を工場生産的に栽培する野菜栽培工場も実現しており,こうした野菜栽培工場では,植物の生育に必須の光放射を得る方式として,自然光と人工照明との併用方式や完全人工照明方式が採られているが,人工照明方式としては植物の生育上不可欠の光合成に必要な高い光放射を得るため,高光出力の高輝度放電ランプと反射セードの組合わせやランプバルブ内面に反射膜を設けた一般照明用反射形高輝度放電ランプ単独で植物に対し1.0?2.5mの比較的近い距離のところから照明する方式が採られている。」(1ページ左下欄18行?右下欄18行) (1c)「今,前記植物栽培用ハウス1において,前記高光出力ランプ5として400W高輝度放電ランプを使用した場合の前記栽培植物バラ4の上端部の水平面照度分布を示すと第5図のようになり,前記栽培植物バラ4の生育に必要な補光の目安とされる約10000ルクスの照度がほぼ均一で良好な分布状態で得られている。」(3ページ左上欄17行?右上欄3行) そうすると,刊行物1には,以下の発明が記載されているものと認められる。 「植物栽培用ハウスに関するものであり,植物の生育に必須の光放射を得る方法であって,自然光と人工照明とを併用する方法」(以下,「刊行物1記載の発明」という。) (2)刊行物2 刊行物2には以下のように記載されている(下線は当審にて付与。)。 (2a)「【0001】 【発明の属する技術分野】 本件の発明は人工光源を用いて野菜や花卉などの植物の苗を育成し,育成した苗を貯蔵する植物育成貯蔵装置および植物育成貯蔵方法に関する。」 (2b)「【0003】 苗の成長にあわせて必要な光強度は変わるが,苗を人工光源で育成しようとすると,一般的に苗に対して100?300μmol/m^(2)/s程度の光出力(光合成有効光量子束)が必要とされる。ここに,光はエネルギーを持つ1個の粒子の集まりであるとみなされるが,光量子束とは単位時間当たりに放射される粒子の数をいう。また,光合成有効光量子束(PPF:Photosynthetic Photon Flux)とは光合成に有効な400?700nmの波長域に含まれる光量子束をいう。本明細書において,光合成有効光量子束は,植物が植えられているトレイ面から高さ10cmの仮想平面における平均値によって求められる。」 (3)刊行物3 刊行物3には以下のように記載されている(下線は当審にて付与。)。 (3a)「【0001】 【発明が属する技術分野】本発明は,日照条件の悪い屋内の観賞植物や施設園芸等農業分野の作物の補光照明を目的とした効率的な植物育成用メタルハライドランプ及び植物育成用照明機器に関する。」 (4)刊行物4 刊行物4には以下のように記載されている(下線は当審にて付与。)。 (4a)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,花卉類の栽培方法に関する。・・・」 (4b)「【0015】ここで,栽培光の波長分布の制御態様としては,白色,赤色,黄色,緑色あるいは青色といった区分の波長域の光を使用することを意味する。しかし,これらの各色の栽培光の波長分布は,厳密に他の色の波長域の光を含むことを排除するものではない。栽培光のエネルギー分布の中心が,各色の区域内にあれば,本発明の効果を得ることができる。例えば,光源として各色のメタルハライドランプを使用することにより表1に示す5種の光質を得ることができるが,本発明における栽培光の光質の制御は,このように区分される光を使用することにより行うことができる。」 (4c)「【0021】本発明において,上記のような特定の光質の光で栽培する時期及び期間は,当該花卉類の種類,当該花卉類に付与する所望の形態,光強度,日長等に応じて適宜設定することができるが,育苗期以降とすればよく,種子あるいは萌芽期においては特定の光質の光を照射しなくてもよい。また,十分に成育し開花した後,あるいは十分に苞葉が成長した後にまで引き続き特定の光質の光を照射する必要もない。例えば,植物体を矮化させる場合には,通常,好ましくは,本葉展開から開花又は苞葉形成までの栽培期間の栽培光を特定の光質のものとする。」 (4d)「【0026】即ち,育苗したペチュニアをプラスチックボトルに移植し,グロースチャンバーの底部に設置した。このグロースチャンバー内の上部には光源としてメタルハライドランプを設置し,紫外線をアクリル板でカットし,前述の表1に示した5種の光質の光を栽培光とした。この場合,光源の高さを調節することにより,栽培光の光強度が植物上部において400μmol・m^(-2)・s^(-1)となるようにした。また,日長は明暗各12時間とした。」 (4e)「【0032】実施例2:ゼラニウム 育苗したゼラニウム(品種名=オービックホワイト)を,4月6日?6月末に,実施例1と同様のグロースチャンバーを用いて各種光質の栽培光あたり5株栽培した。ただし,栽培光の光強度は,植物上部において360μmol・m^(-2)・s^(-1)となるように調整した。また,日長は明暗各12時間とした。」 2-2 本願補正発明と刊行物1記載の発明との対比 本願補正発明と刊行物1記載の発明を対比すると,刊行物1記載の発明の「自然光」,「人工照明」は,本願補正発明の「太陽光」,「補助光源」に相当する。 また,刊行物1記載の発明の「植物」と,本願補正発明の「花卉苗」は「植物」である点で共通する。 そうすると,本願補正発明と刊行物1記載の発明は, 「太陽光と補助光源とを併用した植物の栽培方法。」で一致し,以下の点で相違している。 <相違点1> 栽培する「植物」が,本願補正発明では「花卉苗」であるのに対し,刊行物1記載の発明では,「花卉苗」が含まれるか不明である点。 <相違点2> 補助光源が,本願補正発明では「360W以上940W以下の出力の高圧ナトリウムランプ,水銀灯及びメタルハライドランプの少なくともいずれか」であるのに対し,刊行物1記載の発明ではどのような光源か明らかでなく, 補助光源を用いて照射する光が,本願補正発明では「光合成有効光量子束密度が300μmol/m^(2)/s以上500μmol/m^(2)/s以下」であるのに対し,刊行物1記載の発明ではどの程度か明らかでなく, 植物に対して光を照射する補助光源の距離が,本願補正発明では「50cm以上120cm以下」であるのに対して,刊行物1記載の発明ではどの程度か明らかでない点。 2-3 判断 <相違点1について> 植物には種々の種類と成長状況があり,それらの成長のために光が必要であることは当業者の技術常識であるから,刊行物1記載の発明における植物として,刊行物2の記載事項(2b)に記載された「花卉の苗」とすることは,当業者が容易に想到したことである。 <相違点2について> 刊行物1の記載事項(1b)には,「人工照明方式としては植物の生育上不可欠の光合成に必要な高い光放射を得るため,高光出力の高輝度放電ランプと反射セードの組合わせやランプバルブ内面に反射膜を設けた一般照明用反射形高輝度放電ランプ単独で」と記載されており,刊行物1記載の発明において,人工照明として放電ランプを使用することが示唆されているといえる。そして,メタルハライドランプ等は放電ランプであって,刊行物3の記載事項(3a),刊行物4の記載事項(4b)に記載されているように,植物栽培の人工光源として当業者に周知であるから,刊行物1記載の発明の人工照明にメタルハライドランプ等を採用することは当業者が植物栽培に用いる補助光源を設計する際に適宜決めうる事項である。 また,植物栽培に用いる補助光源の各種パラメータについては,好適な植物の成長度合いとなるように当業者が実験的に最適化すべきものであり,かつ,本願発明で用いているパラメータやその設定値は,以下に示すように従来から用いられたもの,あるいは,従来から用いられたものと格別の相違のないものであるから,当業者が適宜なしえた範囲のものである。 すなわち,相違点2に係るランプのワット数は,刊行物1の記載事項(1c)に「400W高輝度放電ランプ」と記載されているように,栽培用ランプとして普通に用いられている程度のものである。 相違点2に係る光合成有効光量子束密度も,刊行物2の記載事項(2b)には「苗を人工光源で育成しようとすると,一般的に苗に対して100?300μmol/m^(2)/s程度の光出力(光合成有効光量子束)が必要とされる。」と記載され,「一般的に」と記載されていることからみて,当該範囲には限られず,どの程度の光出力とするかは当業者が適宜決めるものであると認められ,さらに「必要とされる」と記載されていることから,光出力は上記のもの以上であることを示していると認められる。また,上記刊行物2の光出力よりやや大きいにすぎない相違点2に係る本願補正発明の強度とすることは格別のこととは認められない。当該光強度が格別のものでないことは,刊行物4の記載事項(4c),(4e)に「栽培光の光強度が植物上部において400μmol・m^(-2)・s^(-1)となるようにした。」,「栽培光の光強度は,植物上部において360μmol・m^(-2)・s^(-1)となるように調整した。」との記載があることからみても明らかである。 相違点2に係る植物に対して光を照射する補助光源の距離をどの程度にするかも当業者が植物の生長度合い等を実験しつつ適宜決めることと認められるところ,刊行物1の記載事項(1b)には「1.0?2.5mの比較的近い距離のところから照明する方式が採られている」と記載されており,当該距離と格別に相違するものではない。さらに,本願明細書の実施例において,当該距離は実施例1では【0026】に「補助光源の高さは補助光源の中央からベンチまで98cmとなるようにした」と記載され,実施例2?5では「その他用いた器具,栽培方法,計測方法などはほぼ実施例1と同様である。」と記載されており,距離を変えた実験は行われていないから,「50cm以上120cm以下」との距離に臨界的意義は認められない。 そして,植物の栽培に温度が重要であることは当業者に周知であるところ,高圧ナトリウムランプ,水銀灯及びメタルハライドランプ等の発熱するランプを使用する場合に,その発熱が植物の生長に寄与することは当業者にとって明らかな事項である。 そうすると,相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到したことである。 そして,本願補正発明の作用効果は,刊行物1記載の発明及び刊行物1?4に記載された事項から,当業者が予測できる範囲内のものである。 したがって,本願補正発明は,刊行物1記載の発明及び刊行物1?4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 補正の却下の決定のむすび 以上より,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって,補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明 1 本願発明 平成23年11月29日の手続補正は却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,上記の「本願発明」である。 2 引用刊行物 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物,及びその記載事項は,前記「第2 2 2-1」に記載したとおりである。 3 対比・判断 本願発明は,前記「第2 2」で検討した本願補正発明から,「高圧ナトリウムランプ,水銀灯及びメタルハライドランプ」について「360W以上940W以下の出力の」と限定した構成を省いたものである。 そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が,前記「第2 2」に記載したとおり,刊行物1記載の発明及び刊行物1?4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,刊行物1記載の発明及び刊行物1?4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり,本願発明は特許を受けることができないから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-01-24 |
結審通知日 | 2013-02-19 |
審決日 | 2013-03-06 |
出願番号 | 特願2005-106955(P2005-106955) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(A01G)
P 1 8・ 121- Z (A01G) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 井上 博之、草野 顕子 |
特許庁審判長 |
鈴野 幹夫 |
特許庁審判官 |
筑波 茂樹 高橋 三成 |
発明の名称 | 花卉苗の栽培方法及び栽培装置 |