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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G11B
管理番号 1275483
審判番号 不服2010-12689  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-10 
確定日 2013-06-12 
事件の表示 特願2007-309400「追記形記録用の光データ記憶媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 4月24日出願公開、特開2008- 97820〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年1月16日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理2002年1月18日,欧州特許庁)を国際出願日とする特許出願である特願2003-560910号の一部を平成19年11月29日に新たな特許出願としたものであって、平成20年11月12日付で通知した拒絶の理由に対し、平成21年5月18日付で手続補正されたが、同年6月4日付でさらに拒絶の理由が通知され、これに対し、同年12月9日付で手続補正されたが、平成22年2月10日付で拒絶査定がされた。
これに対し、平成22年6月10日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、同年7月14日付で前置報告がなされ、当審において平成23年5月11日付けで審査官の作成した前置報告書を利用した審尋を行ったところそれに対し、同年11月17日付で回答書が提出され、同年12月14日付で通知した拒絶の理由に対し、平成24年7月4日に意見書、および、手続補正書が提出されたものである。

2.当審の拒絶理由
当審において平成23年12月14日付で通知した拒絶の理由は、本件出願に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないという理由を含むものである。

3.当審の判断
(1)本願発明
本願の請求項1乃至10に係る発明は、平成24年7月4日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲、明細書、および、図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至10に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は,以下のとおりのものである。

「波長λを有すると共に記録する間に媒体の入射面を通じて入射する集束させられた放射ビームを使用する追記型の記録をするための二重積層体の光学的なデータの記憶媒体であって、
- 少なくとも一つの基体、それの一つの側に存在するものであるところの:
- 複素屈折率
【数1】


を有すると共に厚さd_(L0)を有する追記型タイプのL_(0)の記録する層を含む、L_(0)と名付けられた第一の記録する積層体、
前記第一の記録する積層体L_(0)が、光学的な反射の値R_(L0)及び光学的な透過の値T_(L0)を有すること、及び、
d_(L0)が、λ/8n_(L0)≦d_(L0)≦5λ/8n_(L0)の範囲にあるものであること、
- 複素屈折率
【数2】


を有すると共に厚さd_(L1)を有する追記型タイプのL_(1)の記録する層を含む、L_(1)と名付けられた第二の記録する積層体、
前記第二の記録する積層体L_(1)が、光学的な反射の値R_(L1)を有すること、
全てのパラメータが、波長λで定義されたものであること、
前記第一の記録する積層体が、前記第二の記録する積層体と比べて前記入射面により近い位置に存在するものであること、並びに、
k_(L0)<0.3及びk_(L1)<0.3であること、
- 前記記録する積層体の間に挟まれた透明なスペーサ層、
前記透明なスペーサ層が、前記集束させられた放射ビームの焦点の深度と比べて実質的により大きい厚さを有すること
:を含む、二重積層体の光学的なデータの記憶媒体において、
0.45≦T_(L0)≦0.75及び0.40≦R_(L1)≦0.80であると共に、
厚さd_(M1)≦25nmを有する、第一の金属の反射性の層は、前記追記型のL_(0)の記録する層及び前記透明なスペーサ層の間に存在するものであると共に、
厚さd_(M1)≧25nmを有する、第二の金属の反射性の層は、前記入射面から最も離れた前記追記型タイプのL_(1)の記録する層の一つの側に存在するものであると共に、
屈折率n_(I1)≧1.8を有すると共に厚さd_(I1)≦λ/2n_(I1)を有する、第一の透明な補助の層I1は、前記第一の金属の反射性の層及び前記透明なスペーサ層の間に存在するものであると共に、
屈折率n_(I3)を有すると共に0<d_(I3)≦λ/n_(I3)の範囲における厚さd_(I3)を有する、第三の透明な補助の層I3は、前記入射面に最も近い前記追記型タイプのL_(1)の記録する層の一つの側に前記追記型タイプのL_(1)の記録する層に隣接して存在するものであることを特徴とする、二重積層体の光学的なデータの記憶媒体。」

ただし、ここにおいて、「厚さd_(M1)≦25nm(を有する、第一の金属の反射性の層)」および「厚さd_(M1)≧25nm(を有する、第二の金属の反射性の層)」という記載は、明らかに別のものである二つの金属層について「d_(M1)」という共通の記号が使用されているために意味が不明瞭であるが、後者は、例えば「厚さd_(M2)≧25nm」の誤記であると解することが妥当である。

(2)引用例
当審において平成23年12月14日付で通知した拒絶の理由で引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である、特開2000-311384号公報(以下、「第1引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(a)
「【請求項1】 基板と、該基板と対向する対向基板との間に、
有機色素を含有しレーザ光の照射により情報の記録が可能な第1光吸収層と、光透過性の中間層と、該中間層により第1光吸収層から離間された第2光吸収層と、がこの順に積層され、
該中間層から該第1光吸収層への物質透過を阻止すると同時に該第1光吸収層を透過したレーザ光の一部を反射する光透過性の第1バリア層が、該中間層と該第1光吸収層との間に挿入され、
該中間層から該第2光吸収層への物質透過を阻止すると同時に該第1光吸収層を透過したレーザ光を反射する光透過性の第2バリア層が該中間層と該第2光吸収層との間に挿入され、
前記第1光吸収層に近接する基板側からのレーザ光の照射により情報を記録及び再生する光情報記録媒体。」
「【請求項4】 基板と、該基板と対向する対向基板との間に、有機色素を含有しレーザ光の照射により情報の記録が可能な第1光吸収層と、光透過性の中間層と、該中間層により第1光吸収層から離間された第2光吸収層と、がこの順に積層され、該中間層から該第1光吸収層への物質透過を阻止すると同時に該第1光吸収層を透過したレーザ光の一部を反射する光透過性の第1バリア層が、該中間層と該第1光吸収層との間に挿入され、該中間層から該第2光吸収層への物質透過を阻止する光透過性の第2バリア層が該中間層と該第2光吸収層との間に挿入され、前記第2光吸収層の基板側とは反対側の面に隣接して反射層が設けられ、前記第1光吸収層に近接する基板側からのレーザ光の照射により情報を記録及び再生する光情報記録媒体。
【請求項5】 前記第2バリア層は、記録光に対する透過率が30?95%の範囲にあることを特徴とする請求項4に記載の光情報記録媒体。」
(b)
「【0011】記録光としては、可視域のレーザ光、通常600nm?700nm(好ましくは620?680nm、更に好ましくは、630?660nm)の範囲の発振波長を有する半導体レーザービームが用いられる。また記録光は、NAが0.55?0.7の光学系を通して集光されることが好ましい。」
「【0014】すなわち、第1バリア層3は、以下の3つの役割を担う。
(1)第1光吸収層2に対する反射膜としての役割
(2)第1光吸収層2を通過してきた記録光を、吸収・散乱することなく、ある程度透過させ、第2光吸収層6に到達させる光透過膜としての役割
(3)第1光吸収層2に含まれる色素の溶出を防止する不透過膜としての役割
【0015】従って、第1バリア層3の記録光に対する反射率は3?50%の範囲にあることが好ましく、より好ましくは7?40%、さらに好ましくは10?35%である。また、第1バリア層3の記録光に対する透過率は30?95%の範囲にあることが好ましく、より好ましくは40?90%、さらに好ましくは50?85%である。さらに、第1バリア層3の記録光に対する吸収率は1?30%の範囲にあることが好ましく、より好ましくは2?20%、さらに好ましくは3?10%である。これらの光学特性の調整は、後述するように、第1バリア層を形成する材料種と層厚を変えることにより行う。また、第1バリア層3を設けずに第1光吸収層2上に保護層や中間層を形成すると、第1光吸収層2から保護層や中間層に色素が溶出して第1光吸収層2に固有の着色が消失してしまい透明になってしまう。従って、第1バリア層3には、第1バリア層3を設けることで第1光吸収層2の着色が保持できる程度の光吸収層成分溶出阻止能が必要である。目安としては、光吸収層上に設けたバリア層の上に、紫外線硬化樹脂のように塗布時には液状であり塗布後は固体化する樹脂を塗布し、塗布から固体化するまでの間(通常は約1分)に、光吸収層の着色が消失しない場合には、バリア層の光吸収層成分溶出阻止能が良好であるということができる。」
「【0034】第1光吸収層2の上には、第1バリア層3が形成され、積層体(1)が作製される。第1バリア層3の材料としては、透明でかつ熱的に安定な物質がよく、例えば、Mg、Se、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Te、Pb、Po、Sn、Biなどの金属や半金属、あるいは、SiO_(2),SiO,Al_(2)O_(3),GeO_(2),In_(2)O_(3),Ta_(2)O_(5),TeO_(2),MoO_(3),WO_(3),ZrO_(2),Si_(3)N_(4),AlN,BN,TiN,ZnS,CdS,CdSe,ZnSe,ZnTe,AgF,PbF_(2),MnF_(2),NiF_(2),SiC等の金属や半金属の酸化物、窒化物、カルコゲン化物、フッ化物、炭化物等の単体あるいはこれらの混合物を挙げることができる。この中でも、光学定数が下記関係式(1)を満たす材料が好ましく、下記関係式(2)を満たす材料がより好ましい。ここで、kは消衰係数、nは屈折率を表す。
k<-4n+10 関係式(1)
k<-4n+7 関係式(2)
さらには、kは、0.0001以上が好ましく、0.1以上がより好ましい。nは、0.001以上が好ましく、0.01以上がより好ましい。具体的な材料でいえば、Al、Au、Ag、Cuなどの単体金属もしくはそれらを主体とする合金が特に好ましい。
【0035】第1バリア層3の層厚は、材料に応じ、第1バリア層3の透過率、反射率、吸収率等の光学特性が前記範囲となるように調整する。たとえは、650nmの波長では、Cuは30nm以下の層厚にするのが好ましく、Agは30nm以下の層厚にするのが好ましく、Auは40nm以下の層厚にするのが好ましく、Alは20nm以下の層厚にするのが好ましい。なお、第1バリア層3の層厚の下限は、バリア性能の点でほぼ6nmである。」
(c)
「【実施例】以下に、本発明の実施例及び比較例を記載する。
【0061】[実施例1]射出成形により表面にスパイラルプレグルーブを形成したポリカーボネート基板(厚さ:0.6mm、外径:120mm、内径:15mm、帝人(株)製、商品名「パンライトAD5503」)を作製した。プレグルーブの溝深さ、溝幅、溝ピッチ、溝傾斜部の幅は、以下の通りである。溝深さ、溝幅、溝ピッチ、溝傾斜部の幅の測定は原子間力顕微鏡(AFM)で行った。
溝深さ:150nm
溝幅:330nm
溝ピッチ:800nm
溝傾斜部の幅:120nm(片側60nm)
【0062】下記シアニン色素1gを、2,2,3,3-テトラフルオロ-1-プロパノール100mlに溶解し、この光吸収層形成用塗布液を、得られた基板のプレグルーブ面に、回転数を300?3000rpmまで変化させながらスピンコート法により塗布し、乾燥して第1光吸収層を形成した。第1光吸収層の厚さは、光吸収層の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察して計測したところプレグルーブ内では80nm、ランド部では50nmであった。第1光吸収層の透過率は75%、吸収率は12%であった。【0063】
【化1】


【0064】次いで、DCスパッタリングにより、第1光吸収層上に厚さ約15nmのAuからなる第1バリア層を形成した。このとき、チャンバー内の圧力は0.5Paであった。第1バリア層の透過率は57%、吸収率は8%、反射率は35%であった。なお、バリア層の光学特性は、別途基板上に光吸収層を介さずに、バリア層を同1条件下で直接形成し、基板側から光を入射させて測定したものである。
【0065】更に、第1バリア層上に、UV硬化性樹脂(商品名「SD-318」、大日本インキ化学工業(株)製)を回転数を300rpm?4000rpmまで変化させながらスピンコートにより塗布した。塗布後、その上から高圧水銀灯により紫外線を照射して、硬化させ、層厚8μmの保護層を形成した。表面硬度は鉛筆の引っかき硬度で2Hであった。
【0066】このようにして基板上に、光吸収層、バリア層、及び保護層が順に設けられた積層体(1)を得た。」
「【0070】このようにして基板上に、光吸収層、バリア層、及び保護層が順に設けられた積層体(2-1)を得た。
【0071】上記で得た積層体(1)と積層体(2-1)とを、保護層側が内側となるように重ね合わせ、中間層の厚さが40μmとなるように、チバ・ガイギー社製の紫外線硬化型アクリレート接着剤「XNR5522」を用いて貼り合わせ、本発明に従うDVD-R型の光ディスクを製造した。
【0072】[実施例2]積層体(2-1)に代えて、下記の条件で、基板上に、反射層、第2光吸収層、第2バリア層、及び保護層が順に設けられた積層体(2-2)を作製した。
【0073】ポリカーボネート製の対向基板(厚さ:0.6mm、外径:120mm、内径:15mm、帝人(株)製、商品名「パンライトAD5503」)上に、DCスパッタリングにより、厚さ約100nmのAuからなる反射層を形成した。このとき、チャンバー内の圧力は0.5Paであった。
【0074】次に、前記シアニン色素1gを、2,2,3,3-テトラフルオロ-1-プロパノール100mlに溶解し、この光吸収層形成用塗布液を、得られた基板のプレグルーブ面に、回転数を300?3000rpmまで変化させながらスピンコート法により塗布し、乾燥して第2光吸収層を形成した。第2光吸収層の厚さは、光吸収層の断面をSEMにより観察して計測したところプレグルーブ内では90nm、ランド部では60nmであった。第2光吸収層の透過率は78%、吸収率は13%であった。
【0075】次いで、DCスパッタリングにより、反射層上に厚さ約25nmのAuからなる第2バリア層を形成した。このとき、チャンバー内の圧力は0.5Paであった。第2バリア層の透過率は32%、吸収率は10%、反射率は58%であった。
【0076】更に、第2バリア層上に、UV硬化性樹脂(商品名「SD-318」、大日本インキ化学工業(株)製)を回転数を300rpm?4000rpmまで変化させながらスピンコートにより塗布した。塗布後、その上から高圧水銀灯により紫外線を照射して、硬化させ、層厚8μmの保護層を形成した。表面硬度は鉛筆の引っかき硬度で2Hであった。
【0077】実施例1で作製した積層体(1)と上記積層体(2-2)とを、保護層側が内側となるように重ね合わせ、中間層の厚さが40μmとなるように、チバ・ガイギー社製の紫外線硬化型アクリレート接着剤「XNR5522」を用いて貼り合わせ、本発明に従うDVD-R型の光ディスクを製造した。
【0078】[光ディスクとしての評価]波長635nm、NA0.6のピックアップが搭載された光記録再生評価機(DDU1000、パルステック(株)社製)にて、記録再生特性を評価した。結果を表1に示す。3.9m/secの定線速度でそれぞれの層にフォーカスを合わせ、レーザーパワーを4?10mWおきに0.5mW刻みで変化させて記録を行った。記録信号は1MHzの矩形波を入力した。記録済みの媒体から記録信号を再生したその振幅から変調度を計算した。変調度は再生信号の振幅をハイレベル(未記録部分の反射率)で除した値である。」

上記記載事項(特に、上記(a)および(c))および図面を総合勘案すると、上記第1引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「基板と、該基板と対向する対向基板との間に、
有機色素を含有しレーザ光の照射により情報の記録が可能な第1光吸収層と、光透過性の中間層と、該中間層により第1光吸収層から離間された有機色素を含有しレーザ光の照射により情報の記録が可能な第2光吸収層と、がこの順に積層され、
該中間層から該第1光吸収層への物質透過を阻止すると同時に該第1光吸収層を透過したレーザ光の一部を反射する光透過性の第1バリア層が、該中間層と該第1光吸収層との間に挿入され、
該中間層から該第2光吸収層への物質透過を阻止する光透過性の第2バリア層が該中間層と該第2光吸収層との間に挿入され、
前記第2光吸収層の基板側とは反対側の面に隣接して反射層が設けられ、
前記第1光吸収層に近接する基板側からのレーザ光の照射により情報を記録及び再生する光情報記録媒体であって、
前記レーザ光の波長が635nmであり、
該第1光吸収層が、【化1】


で表されるシアニン色素であり、厚さがプレグルーブ内では80nm、ランド部では50nmであり、透過率は75%、吸収率は12%であり、
該第1バリア層が、厚さ約15nmのAuからなり、透過率は57%、吸収率は8%、反射率は35%であり、
該第1バリア層と該中間層の間に、UV硬化性樹脂からなる保護層が形成されており、
該中間層の厚さが40μmであり、
該第2バリア層と該中間層の間に、UV硬化性樹脂からなる保護層が形成されており、
該第2バリア層が、厚さ約25nmのAuからなり、透過率は32%、吸収率は10%、反射率は58%であり、
該第2光吸収層が、上記【化1】で表されるシアニン色素であり、厚さがプレグルーブ内では90nm、ランド部では60nmであり、透過率は78%、吸収率は13%であり、
該反射層が、厚さ約100nmのAuからなる
ものとされた、光情報記録媒体」

(3)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
(あ)
引用発明は、各層の積層順序に関し、「基板と、該基板と対向する対向基板との間に」「第1光吸収層と、光透過性の中間層と、該中間層により第1光吸収層から離間された」「第2光吸収層と、がこの順に積層」されており、「第1バリア層が、該中間層と該第1光吸収層との間に挿入」されており、「第2バリア層が該中間層と該第2光吸収層との間に挿入」されており、「前記第2光吸収層の基板側とは反対側の面に隣接して反射層が設けられ」ており、「前記第1光吸収層に近接する基板側からのレーザ光の照射」がされるものであり、「該第1バリア層と該中間層の間に、UV硬化性樹脂からなる保護層が形成されており」、「該第2バリア層と該中間層の間に、UV硬化性樹脂からなる保護層が形成されて」いるものであることを勘案すると、「レーザ光の照射」が行われる側から順に、「基板」、「第1光吸収層」、「第1バリア層」、「保護層」、「中間層」、「保護層」、「第2バリア層」、「第2光吸収層」、「反射層」、「対向基板」を有する「光情報記録媒体」である。
(い)
引用発明の「基板と、該基板と対向する対向基板」は、本願発明1の「少なくとも一つの基体」を満足する。
(う)
引用発明の「有機色素を含有しレーザ光の照射により情報の記録が可能な第1光吸収層」「該第1光吸収層が、【化1】で表されるシアニン色素であり」は、【化1】



で表されるシアニン色素の複素屈折率の値が2.43-i・0.03であること(特開平11-353710号公報、段落【0043】に記載の【化13】で表されるシアニン色素(1-B-1)について、段落【0079】の【表1】の実施例6の記載を参照すると、【化1】で表されるシアニン色素の複素屈折率の値が2.43-i・0.03であることが記載されている。)から、本願発明1における「複素屈折率 【数1】



を有すると共に厚さd_(L0)を有する追記型タイプのL_(0)の記録する層」「k_(L0)<0.3」を満足する。
同様に、引用発明の「有機色素を含有しレーザ光の照射により情報の記録が可能な第2光吸収層」「該第2光吸収層が、上記【化1】で表されるシアニン色素であり」は、本願発明1の「複素屈折率 【数2】



を有すると共に厚さd_(L1)を有する追記型タイプのL_(1)の記録する層」「k_(L1)<0.3」を満足するといえる。
(え)
引用発明の「該第1光吸収層を透過したレーザ光の一部を反射する光透過性の第1バリア層」「該第1バリア層が、厚さ約15nmのAuからなり」は、明らかに、本願発明1の「厚さd_(M1)≦25nmを有する、第一の金属の反射性の層は、前記追記型のL_(0)の記録する層及び前記透明なスペーサ層の間に存在する」を満足する。
なお、Auの複素屈折率が0.181-i・3.068(波長632.8nm)であって「屈折率n_(I1)≧1.8」を満足しないことから、引用発明の「第1バリア層」は、本願発明1の「第一の透明な補助の層I1」には相当しない。
(お)
引用発明の「反射層」「該反射層が、厚さ約100nmのAuからなる」は、本願発明1の「厚さd_(M1)≧25nmを有する、第二の金属の反射性の層は、前記入射面から最も離れた前記追記型タイプのL_(1)の記録する層の一つの側に存在する」を満足する。
(か)
引用発明の「前記第1光吸収層に近接する基板側からのレーザ光の照射により情報を記録及び再生する光情報記録媒体であって、前記レーザ光の波長が635nmであり」は、本願発明1の「波長λを有すると共に記録の間に入射面を通じて入射する集束した放射ビームを使用する追記形記録用の二重積層体の光データ記憶媒体」を満足する。
(き)
本願発明1の「L_(0)と名付けられた第一の記録する積層体」は、「基体」と「透明なスペーサ層」との間にある層の単なる総称であるとすることが妥当であり、引用発明において「基板」と「中間層」との間にある層が本願発明1の「L_(0)と名付けられた第一の記録する積層体」に対応する。
引用発明において「基板」と「中間層」との間にある層が全体としてある反射率および透過率を有することは自明であり、また、引用発明に関し「基板」と「中間層」との間に「第1光吸収層」が存在している。
したがって、引用発明は、本願発明1の「少なくとも一つの基体、それの一つの側に存在するものであるところの: 複素屈折率 【数1】


を有すると共に厚さd_(L0)を有する追記型タイプのL_(0)の記録する層を含む、L_(0)と名付けられた第一の記録する積層体、 前記第一の記録する積層体L_(0)が、光学的な反射の値R_(L0)及び光学的な透過の値T_(L0)を有する」を満足する。
(く)
本願発明1の「L_(1)と名付けられた第二の記録する積層体」は、本願発明1が「基体」を一つだけ含む場合は、「透明なスペーサ層」の「基体」とは反対側にある全ての層の単なる総称であるとすることが妥当である。
なお、本願明細書の段落【0094】、【0095】および図面の【FIG.16a】、【FIG.16b】には「対の基板1」あるいは「第二の透明な予め溝が設けられた(G)基板1」を有する場合が記載されているが、この場合は、「透明なスペーサ層」と「対の基板1」(「第二の透明な予め溝が設けられた(G)基板1」)との間にある全ての層の単なる総称であるとすることが妥当である。
よって、引用発明において「中間層」と「対向基板」との間にある層が本願発明1の「L_(1)と名付けられた第二の記録する積層体」に対応する。
引用発明において「中間層」と「対向基板」との間にある層が全体としてある反射率を有することは自明であり、また、引用発明に関し「中間層」と「対向基板」との間に「第2光吸収層」が存在している。
したがって、引用発明は、本願発明1の「複素屈折率 【数2】



を有すると共に厚さd_(L1)を有する追記型タイプのL_(1)の記録する層を含む、L_(1)と名付けられた第二の記録する積層体、 前記第二の記録する積層体L_(1)が、光学的な反射の値R_(L1)を有する」を満足する。
(け)
引用発明は、本願発明1の「前記第一の記録する積層体が、前記第二の記録する積層体と比べて前記入射面により近い位置に存在するものであること」を明らかに満足する。
(こ)
本願発明1の「集束した放射ビームの焦点の深さ」とはいわゆる焦点深度のことであるとすることが妥当であるところ、「焦点深度」は概ね1μm程度であることを勘案すると、引用発明の「光透過性の中間層」「該中間層により第1光吸収層から離間された」「該中間層の厚さが40μmであり」は、本願発明1の「前記記録する積層体の間に挟まれた透明なスペーサ層、前記透明なスペーサ層が、前記集束させられた放射ビームの焦点の深度と比べて実質的により大きい厚さを有する」を満足する。
(さ)
引用発明の「第2バリア層」は、「該第2バリア層が、厚さ約25nmのAuからな」り、「波長λ」を635nm、Auの屈折率を概ね0.181(上記(え)を参照。)とすると635/0.181=3508(nm)であるから、「0<d_(I3)≦λ/n_(I3)」を満足する。
また、「第2バリア層」の透過率について第1引用例には記載がないが、厚さ約25nmのAuからなる層が光を透過することは明らかである。(なお、参考までに、第1バリア層について第1引用例(上記、(2)(b)の段落【0015】、【0035】を参照。)には透過率は30?95%の範囲にあることが好ましいこと、層厚は、材料に応じ、第1バリア層3の透過率等の光学特性が前記範囲となるように調整すること、Auの場合は40nm以下の層厚にするのが好ましいこと、すなわち、厚さ40nm以下のAuからなる層に該当する層(第2バリア層)の光透過率が、30?95%の範囲にあることが記載されている。)
したがって、引用発明の「第2バリア層」は、本願発明1の「屈折率n_(I3)を有すると共に0<d_(I3)≦λ/n_(I3)の範囲における厚さd_(I3)を有する、第三の透明な補助の層I3は、前記入射面に最も近い前記追記型タイプのL_(1)の記録する層の一つの側に前記追記型タイプのL_(1)の記録する層に隣接して存在する」を満足する。
(し)
引用発明は、「該第1バリア層と該中間層の間に、UV硬化性樹脂からなる保護層が形成されて」いるものであるが、該保護層の厚さは8μmであり、UV硬化性樹脂の屈折率が仮に1.8(このとき「λ/2n_(I1)」の値が635/(2*1.8)=176nmとなる。)であるとしても、「d_(I1)≦λ/2n_(I1)」を満足しないことから、該保護層は、本願発明1の「第一の透明な補助の層I1」には該当しない。
(す)
引用発明は、「該第2バリア層と該中間層の間に、UV硬化性樹脂からなる保護層が形成されて」いるものであるが、該保護層の厚さは8μmであり、UV硬化性樹脂の屈折率が仮に1.8(このとき「λ/n_(I3)」の値が635/1.8=353nmとなる。)であるとすると、「d_(I3)≦λ/n_(I3)」を満足しないことから、該保護層は、本願発明1の「第三の透明な補助の層I3」には該当しない。

そうすると、本願発明1と引用発明とは次の点で一致する。
<一致点>
「波長λを有すると共に記録する間に媒体の入射面を通じて入射する集束させられた放射ビームを使用する追記型の記録をするための二重積層体の光学的なデータの記憶媒体であって、
- 少なくとも一つの基体、それの一つの側に存在するものであるところの:
- 複素屈折率
【数1】


を有すると共に厚さd_(L0)を有する追記型タイプのL_(0)の記録する層を含む、L_(0)と名付けられた第一の記録する積層体、
前記第一の記録する積層体L_(0)が、光学的な反射の値R_(L0)及び光学的な透過の値T_(L0)を有すること、及び、
- 複素屈折率
【数2】


を有すると共に厚さd_(L1)を有する追記型タイプのL_(1)の記録する層を含む、L_(1)と名付けられた第二の記録する積層体、
前記第二の記録する積層体L_(1)が、光学的な反射の値R_(L1)を有すること、
前記第一の記録する積層体が、前記第二の記録する積層体と比べて前記入射面により近い位置に存在するものであること、並びに、
k_(L0)<0.3及びk_(L1)<0.3であること、
- 前記記録する積層体の間に挟まれた透明なスペーサ層、
前記透明なスペーサ層が、前記集束させられた放射ビームの焦点の深度と比べて実質的により大きい厚さを有すること
:を含む、二重積層体の光学的なデータの記憶媒体において、
厚さd_(M1)≦25nmを有する、第一の金属の反射性の層は、前記追記型のL_(0)の記録する層及び前記透明なスペーサ層の間に存在するものであると共に、
厚さd_(M1)≧25nmを有する、第二の金属の反射性の層は、前記入射面から最も離れた前記追記型タイプのL_(1)の記録する層の一つの側に存在するものであると共に、
屈折率n_(I3)を有すると共に0<d_(I3)≦λ/n_(I3)の範囲における厚さd_(I3)を有する、第三の透明な補助の層I3は、前記入射面に最も近い前記追記型タイプのL_(1)の記録する層の一つの側に前記追記型タイプのL_(1)の記録する層に隣接して存在するものであることを特徴とする、二重積層体の光学的なデータの記憶媒体。」

一方、次の点で相違する。
<相違点>
[相違点1]
本願発明1は、「全てのパラメータは、波長λで定義され」「d_(L0)は、λ/8n_(L0)≦d_(L0)≦5λ/8n_(L0)の範囲」にあると特定されているのに対し、引用発明では「厚さがプレグルーブ内では80nm、ランド部では50nm」と特定されている点。

[相違点2]
本願発明1は、「0.40≦R_(L1)≦0.80」と特定されているのに対し、引用発明ではそのような特定を有していない点。

[相違点3]
本願発明1は、「屈折率n_(I1)≧1.8を有すると共に厚さd_(I1)≦λ/2n_(I1)を有する、第一の透明な補助の層I1は、前記第一の金属の反射性の層及び前記透明なスペーサ層の間に存在する」ものであると特定されているのに対し、引用発明ではそのような特定を有していない点。

[相違点4]
本願発明1は、「0.45≦T_(L0)≦0.75」と特定されているのに対し、引用発明ではそのような特定を有していない点。

(4)判断
[相違点1]について
本願発明1の「λ/8n_(L0)≦d_(L0)≦5λ/8n_(L0)」に関し、「λ」および「n_(L0)」の値として引用発明の値(λ=635nm、「n_(L0)」として2.2(上記(3)(う)を参照。))を代入すると「36nm≦d_(L0)≦180nm」となるので、引用発明の「該第1光吸収層が」「厚さがプレグルーブ内では80nm、ランド部では50nmであり」はこれを満足している。
「d_(L0)」の上限値および下限値(「5λ/8n_(L0)」、「λ/8n_(L0)」)に格別の臨界的意義があると認められるような具体的な記載を本願の発明の詳細な説明等に見いだせないこと、記録層の厚さを波長「λ」および屈折率「n_(L0)」を用いて表すことや厚さの好ましい範囲を決定することは「光データ記憶媒体」の技術分野において通常行われていることであることを勘案すると、引用発明において「第1光吸収層」の厚さに関し「λ/8n_(L0)≦d_(L0)≦5λ/8n_(L0)」とする程度のことは適宜なしうることである。

[相違点2]について
引用発明において「中間層」と「対向基板」との間には「保護層」と「第2バリア層」と「第2光吸収層」と「反射層」が存在するので、これら4つの層の全体(以下、「積層体(2-2)」という。)としての光反射率は、概ね「これら4つの層」のそれぞれからの反射率の合計である。
なお、以下、反射率等の計算にあたり少数第3位以下を四捨五入し、%で表記する。
「保護層」の透過率はほぼ100%とすることが妥当であるので、反射率は0%であり、「第2バリア層」自体の「反射率は58%」であるので「第2バリア層」からの反射率は、(100%*58%*100%=)58%であり、「第2バリア層」自体の「透過率は32%」であり、「第2光吸収層」自体の「透過率は78%、吸収率は13%」(したがって、反射率は、9%)であるので、「第2光吸収層」からの反射率は、(100%*32%*9%*32%*100%=)1%であり、「反射層」自体の反射率は、「反射層」が「厚さ約100nmのAuからなる」ことから100%とすることが妥当であるので、「反射層」からの反射率は、(100%*32%*78%*100%*78%*32%*100%=)6%であるから、結局、積層体(2-2)の光反射率は、(0%+58%+1%+6%=)65%である。
よって、引用発明も「光反射の値R_(L1)」が「0.40≦R_(L1)≦0.80」を満足する。

[相違点3]について
引用発明の第1バリア層に関し、第1引用例には、以下の事項が記載されている(上記、(2)(b)段落【0014】、【0015】、【0035】を参照。)。
(a)
第1バリア層は、3つの役割、すなわち、第1光吸収層2に対する反射膜としての役割、第1光吸収層2を通過してきた記録光を、吸収・散乱することなく、ある程度透過させ、第2光吸収層6に到達させる光透過膜としての役割、第1光吸収層2に含まれる色素の溶出を防止する不透過膜としての役割を担うこと。
(b)
第1バリア層3の記録光に対する反射率は、3?50%の範囲にあることが好ましく、より好ましくは7?40%、さらに好ましくは10?35%であり、第1バリア層3の記録光に対する透過率は、30?95%の範囲にあることが好ましく、より好ましくは40?90%、さらに好ましくは50?85%であり、これらの光学特性の調整は、第1バリア層を形成する材料種と層厚を変えることにより行うこと。

上記(b)を踏まえると、引用発明の第1バリア層の反射率の値(35%)は、第1引用例においてさらに好ましいとされた10?35%の範囲内ではあるもののその上限ぎりぎりの値であり、また、透過率の値(57%)は、第1引用例においてさらに好ましいとされた50?85%の範囲内ではあるもののその下限値に近い値である。したがって、反射率の値を低くすることにより10?35%の範囲の上限ぎりぎりの値から中央付近のより好ましい値に変更するとともに、透過率についてもより好ましい値に変更(高く)する程度のことは当業者であれば容易に着想することである。

しかしながら、第1引用例には光学特性の調整を、第1バリア層を形成する材料種と層厚を変えることにより行うことが記載されているものの、どのような材料種に変更すれば良いのかに関しなんら指針となる事項が記載されていない。
また、第1バリア層の層厚を薄くすれば反射率がより低く、かつ、透過率がより高くなるが、引用発明の第1バリア層の厚さは約15nmであるから、これをさらに薄く製膜することは困難であり、製膜できたとしても第1光吸収層2に含まれる色素の溶出を防止する不透過膜としての役割を損なう恐れがあることは明らかである。

これに対し、当審において平成23年12月14日付で通知した拒絶の理由で引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である、国際公開第99/59143号(以下、「第2引用例」という。日本語訳に関し、第2引用例のパテントファミリーである特表2002-515623号公報の特に段落1、4、8-10を参照。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(エ)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 レーザ光ビームにより再書込み可能な二重層記録用の光学情報媒体であって、
前記媒体は、
‐ 2つの誘電体層間にサンドイッチされた相変化タイプの記録層と、透明金属層と、レーザ光ビームが入射する側とは反対側に更なる誘電体層とからなる第一の記録積層と、
‐ レーザ光ビームの焦点深度より大きい厚さを有する透明スペーサー層と、
‐ 2つの誘電体層間にサンドイッチされた相変化タイプの記録層と、レーザ光ビームが入射する側とは反対側の金属ミラー層とからなる第二の記録積層とがこの順番に基板の同じ側に配された基板からなる光学情報媒体。」
(オ)
「【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、レーザ光ビームにより再書込み可能な二重層記録用の光学情報媒体に関し、前記媒体は基板の同じ側に、相変化タイプの記録層の2つの記録積層を配した基板を有する。」
(カ)
「 【0004】
単一記録層を有する相変化タイプの光学情報媒体は、本出願人により出願された国際特許出願第WO97/50084(PHN 15881)号に開示されている。相変化タイプの周知の媒体は、例えば(Zn)80(SiO2)20のような第一の誘電体層と、GeSbTe化合物の相変化記録層と、第二の誘電体層と、反射金属ミラー層とからなる層の積層を有する基板からなる。かかる積層はIPIM構造といわれ、ここでMは反射、つまりミラー層を表わし、Iは誘電体層を表わし、Pは相変化記録層を表わす。金属層は反射層としてだけでなく、吸熱器としても働き、書込み中のアモルファス相のクエンチングの急速冷却を確実にする。周知の記録媒体は良好な繰り返し特性を有し、つまり書込み及び消去の回数がかなりの数、可能であり、高速度記録に適し、何回繰り返した後でさえもジッタが少ない。前記特許出願では、二重記録層は開示していない。」
(キ)
「 【0008】
本発明による光学情報媒体は以下の構造を有する:
基板/IPIMI+/S/IPIM
であり、ここでIPIMI+積層は更なる誘電体層I+のある第一の記録積層であり、Sは透明なスペーサー層であり、IPIMは第二の記録積層であり、I、P及びMは前述した定義の通りである。レーザ光ビームは基板を経由して入射する。
【0009】
本発明は、金属層Mが薄層金属フィルムにより置換される場合に、IPIM積層の透過率が増大することに基づいており、薄層金属フィルムは更なる誘電体層と組合わせてレーザ光ビームに対して透明である。たとえば、10nmの薄いAg層のある記録積層の透過率は、アモルファス相と結晶性相との間の光学的コントラストに悪影響を与えることなく、更なる誘電体層の付加により約50%だけ増大した。上記理由のため、第二の記録積層での書込み用のレーザパワーは約50%だけ減少させることが可能である。
【0010】
第一の記録積層の金属層は薄く、つまり10から30nmの間の厚さである。この厚さは書込み中にアモルファス相をクエンチングさせるのに十分な厚さであり、第二の記録積層の的確な読取り/書込み特性を保証するのに十分な透過率を可能にする。金属はアルミニウム、銅又は金から選ばれるが、高い透過率と良好な熱導電性の理由から、銀から作られることが好ましい。」

上記事項を総合すると、第2引用例にはIPIM構造(ここでMはミラー層を表わし、Iは誘電体層を表わし、Pは相変化記録層を表わす。)について、金属層Mが薄層金属フィルムにより置換(金属層Mの厚さを薄く)するとIPIM積層の透過率が増大すること、薄層金属フィルムに更なる誘電体層を組合わせることによっても(更なる誘電体層I+のある第一の記録積層(IPIMI+積層)にすることによっても)、たとえば、10nmの薄いAg層のある記録積層の場合には透過率が約50%増大することが記載されている。

そうすると、上記第2引用例に記載された発明を参照して、第1バリア層の層厚を薄くすることに代えて更なる誘電体層を組合わせることにより第1バリア層の反射率をより低く、かつ、透過率をより高い設計に変更するという程度のことは容易に着想しうることであり、その際に、所望とする反射率および透過率が得られるように誘電体層の厚さおよび屈折率を最適化する程度のことは当業者の通常の創作能力の発揮に該当するといえる。
n_(I1)の下限値を1.8としたこと、および、d_(I1)の上限値をλ/2n_(I1)としたことにより当業者に予測できない格別顕著な効果が奏されているわけでもないことも勘案するとn_(I1)の下限値を1.8とすること、および、d_(I1)の上限値をλ/2n_(I1)とすることは当業者であれば容易になし得ることである。

なお、審判請求人は、平成24年7月4日提出の意見書において「本願発明及び引用発明は追記型の光記憶媒体に関するものであるのに対し、引用文献2に記載された発明は書換型の光記憶媒体に関するものであります。一般に、これら相異なる種類の記憶媒体は互いに比較されるものではありません。より具体的には、記録のために使用される物理効果、レイヤ群の材料及び厚さが相異なっており、当業者は一般に、審判官殿が指摘するように相変化記憶媒体(すなわち、書換型記憶媒体)からの教示を色素ベースの記憶媒体(すなわち、追記型記憶媒体)に転用しようとすることはありません。」と主張しているので以下に検討する。
第2引用例には、「更なる誘電体層と組み合わせ」ると透過率が向上する理由について何も記載されていない。しかしながら、複数の層からなる積層体(IPIM積層およびIPIMI+積層も含まれる。)の全体としての透過率がいわゆる多重反射の条件(積層体を構成する各層の厚さおよび屈折率)に応じて決まることを勘案すると、更なる誘電体層と組み合わせたことによって多重反射の条件が変わったため透過率が向上したことは明らかである。そして、多重反射の条件は、媒体の種類による記録の原理とは直接関係がないから、第2引用例が書き換え型媒体に関するものであっても当業者であれば追記型の媒体に試みることは当然であり、主張は採用できない。

[相違点4]について
引用発明において「基板」と「中間層」との間に存在する「第1光吸収層」と「第1バリア層」と「保護層」の全体(以下、「積層体(1)」という。)としての光透過率は、「第1光吸収層」の「透過率」の「75%」と「第1バリア層」の「透過率」の「57%」と「保護層」の透過率(ほぼ100%であるとすることが妥当である。)の積で表されて、43%(=75%*57%*100%)である。

次に、上記[相違点3]についてを踏まえ、積層体(1)において「第1バリア層」と「保護層」の間に更なる誘電体層を設けた場合(以下、「積層体(1A)」という。)の積層体(1A)の光透過率について検討する。

第2引用例の記載を勘案すると、積層体(1A)の光透過率は、積層体(1)の光透過率よりも約50%増大して64%(=43*150%)程度になると推定することが妥当である。

そうすると、引用発明において「第1バリア層」と「保護層」の間に更なる誘電体層を設けた場合には引用発明は、「光透過の値T_(L0)」が「0.45≦T_(L0)≦0.75」を満足するものであるといえる。

なお、本願発明1の「0.45≦T_(L0)≦0.75」との構成に格別の技術的な意義は認められないことは、以下のとおりである。

平成24年7月4日提出の手続補正書で補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)には以下の記載がある。
(ク)
「 【0006】
二重層(=二重積層体)DVD-ROM規格と互換性のある二重積層体の記録可能形DVD媒体を得るために、上側のL_(0)層及び下側のL_(1)層の両方の実効反射率は、少なくとも18%であるべきである、すなわち、仕様を満たすために最小の有効な光反射レベルは、R_(min)=0.18である。有効な光反射は、例えば積層体L_(0)及びL_(1)の両方が存在するとき、媒体から戻ってくると共にそれぞれL_(0)及びL_(1)に集束する、有効な光の部分として反射が測定されることを意味する。最小の反射R_(min)=0.18は、DVD規格の要件である。しかしながら、実際には、幾分より低い有効な反射、例えばR>0.12は、既存のDVD再生装置において読み出しの互換性を達成するために、許容可能である。R>0.12のこのような反射率は、現在、例えば相変化技術に基づく書換形二重積層体DVDにおいて達成可能ではないことに留意すること。」
(ケ)
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、少なくとも、既存のDVD-ROM再生装置との読み出しの互換性を提供する有効な反射の値を有する冒頭の段落で述べたタイプの二重積層体の光データ記憶媒体を提供することである。最適化された形態において、既存のDVD-ROM規格と互換性を達成してもよい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、0.45≦T_(L0)≦0.75及び0.40≦R_(L1)≦0.80並びにk_(L0)<0.3及びk_(L1)<0.3であることを特徴とする本発明による光データ記憶媒体で達成される。出願人は、これらの要件を、記録積層体L0及びL1の両方からの有効な反射レベルが12%よりも大きいという要件から導出してもよいことを見出してきた。より好ましくは、0.55≦T_(L0)≦0.65及び0.50≦R_(L1)≦0.70並びにk_(L0)<0.2及びk_(L1)<0.2であり、その場合には、より高い有効な反射の値でさえも、例えば15%又は18%が、達成されることもある。相対的に低い光吸収を有する追記形(write-once)技術と共に記録層に基づいた二重積層体の記録可能形DVD媒体(例えばDVD+R)は、原則として、位相変化書換形DVDの二重積層体媒体の反射の問題を克服することができる。層阿智的に低い吸収を備えた追記形記録層は、例えば、色素の層である。DVD+R及びDVD-R形式の両方に本発明を適用することができる。以下において、我々発明者等は、一般に記録可能形DVDを示すためにDVD+Rを使用することにする。」
(コ)
「 【0058】
DVD-ROMの二重層の仕様を満たすために、R_(L0)に等しい上側の記録積層体L_(0)からの有効な反射レベル及びR_(L1)*(T_(L0))^(2)に等しい下側の記録積層体L_(1)からの有効な反射レベルは、両方とも、18%から30%までの範囲に入る、0.18≦R_(L0)≦0.30及び0.18≦R_(L1)*(T_(L0))^(2)≦0.30であるべきである。実際には、有効な反射レベル>12%は、既存のDVD再生装置における読み出しの互換性に関しては十分である。T_(L0)及びR_(L1)の実際の範囲は、それらの範囲について後者の条件を達成することができるが、0.45≦T_(L0)≦0.75及び0.40≦R_(L1)≦0.80、並びにk_(L0)<0.3及びk_(L1)<0.3である。このように、R_(L0)、T_(L0)、及びR_(L1)の適切な組み合わせで、反射レベルに関心がある限り、DVD-ROMの二重層の仕様との互換性のあるDVD+R二重層(DL)媒体を達成する。DVD+RのDLディスクは、L_(0)積層体及びL_(1)積層体の任意の組み合わせからなり得るであろう。」

上記本願発明1の構成および本願明細書の記載によれば、(1)本発明の目的は、少なくとも、既存のDVD-ROM再生装置との読み出しの互換性を提供する有効な反射の値を有する二重積層体の光データ記憶媒体を提供することであること、(2)二重層(=二重積層体)DVD-ROM規格と互換性のある二重積層体の記録可能形DVD媒体を得るために、上側のL_(0)層及び下側のL_(1)層の両方の実効反射率は、少なくとも18%であるべきであるが、実際には、幾分より低い有効な反射、例えばR>0.12は、既存のDVD再生装置において読み出しの互換性を達成するために、許容可能であること、(3)そこで、本願発明1は、「0.45≦T_(L0)≦0.75」、及び、「0.40≦R_(L1)≦0.80」、並びに、「k_(L0)<0.3及びk_(L1)<0.3」との構成によりR>0.12としたものであること、が認められる。
しかし、本願明細書には、本願発明1において上側のL_(0)層及び下側のL_(1)層の両方の実効反射率を12%以上とする技術的意義について段落【0006】、【0058】(上記、(ク)、(コ)を参照。)の記載があるのみであり、第一の記録する積層体および第二の記録する積層体の実効反射率を12%以上とすることにより既存のDVD再生装置において読み出しの互換性を達成することを示す具体的な記載がなく、このような関係が技術常識に照らして自明であるとも認めがたい。そうすると、本願発明1において第一の記録する積層体および第二の記録する積層体の実効反射率を12%以上とすることに格別の技術的な意義は認められず、これを前提とする「0.45≦T_(L0)≦0.75」、及び、「0.40≦R_(L1)≦0.80」、並びに、「k_(L0)<0.3及びk_(L1)<0.3」との構成にも格別の技術的な意義は認められない。

4.むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,第1引用例および第2引用例に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-08 
結審通知日 2013-01-15 
審決日 2013-01-29 
出願番号 特願2007-309400(P2007-309400)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ゆずりは 広行  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 馬場 慎
山田 洋一
発明の名称 追記形記録用の光データ記憶媒体  
代理人 伊東 忠彦  

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