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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1276017
審判番号 不服2010-22462  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-06 
確定日 2013-06-27 
事件の表示 特願2003-107386「触媒再循環が改良された、非水イオン液体中でコバルトをベースとする触媒を用いるヒドロホルミル化方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年11月19日出願公開、特開2003-327556〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年4月11日〔パリ条約による優先権主張2002年4月11日(FR)フランス〕の出願であって、
平成18年4月7日付けで手続補正書の提出がなされ、
平成21年4月8日付けの拒絶理由通知に対して、平成21年7月17日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされ、
平成21年11月16日付けの拒絶理由通知に対して、平成22年2月23日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされ、
平成22年5月26日付けの拒絶査定に対して、平成22年10月6日に審判請求がなされるとともに手続補正書の提出がなされ、
平成23年11月4日付けの審尋に対して、平成24年2月29日に回答書の提出がなされ、
平成24年9月21日付けの拒絶理由通知に対して、平成24年12月18日付けで意見書の提出がなされたものである。

第2 平成22年10月6日付け手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成22年10月6日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1.補正の内容
平成22年10月6日付け手続補正(以下、「第4回目の手続補正」という。)は、補正前の請求項1の
「【請求項1】・水素及び一酸化炭素との少なくとも1つのオレフィン不飽和化合物の反応段階であって、前記反応は、一般式Q^(+)A^(-)(式中、Q^(+)は、第4級アンモニウム及び/又は第4級ホスホニウム及び/又はスルホニウムを表し、かつA^(-)は、陰イオンを表す)の少なくとも1つの塩を含む少なくとも1つの非水イオン液体の存在下で、かつルイス塩基からなる群から選択される少なくとも1つの配位子とのコバルト錯体の少なくとも1つを含む触媒の存在下で、加圧して行われる段階;
・及び最終生成物のデカンテーション段階を含むオレフィン不飽和化合物の液相でのヒドロホルミル化方法であって、
該反応段階及び該デカンテーション段階の間に、加圧ヒドロホルミル化反応の流出液を、該流出液が減圧される少なくとも1つの容器中に移動する中間段階を実施し、
該中間段階において2つの液相間の接触が、非水イオン液相中への触媒の移動を確保するに十分な時間保たれ、かつ、該デカンテーション段階において、反応生成物を含む有機相が、移動して来た触媒を含む非水イオン液相から分離される、ことを特徴とする方法。」
との記載を、
「【請求項1】・水素及び一酸化炭素との少なくとも1つのオレフィン不飽和化合物の反応段階であって、前記反応は、一般式Q^(+)A^(-)(式中、Q^(+)は、第4級アンモニウム及び/又は第4級ホスホニウム及び/又はスルホニウムを表し、かつA^(-)は、陰イオンを表す)の少なくとも1つの塩を含む少なくとも1つの非水イオン液体の存在下で、かつ、酸素含有配位子、硫黄含有配位子、窒素含有配位子及びリン含有配位子からなる群から選択されるルイス塩基であってイオン性官能基によって置換されていないルイス塩基からなる群から選択される少なくとも1つの配位子とのコバルト錯体の少なくとも1つを含む触媒の存在下で、加圧して行われる段階;
・及び最終生成物のデカンテーション段階を含むオレフィン不飽和化合物の液相でのヒドロホルミル化方法であって、
該反応段階及び該デカンテーション段階の間に、加圧ヒドロホルミル化反応の流出液を、該流出液が減圧される少なくとも1つの容器中に移動する中間段階を実施し、
該中間段階において2つの液相間の接触が、非水イオン液相中への触媒の移動を確保するに十分な時間保たれ、かつ、該デカンテーション段階において、反応生成物を含む有機相が、移動してきた触媒を含む非水イオン液相から分離され、該触媒含有非水イオン液相は、少なくとも部分的にヒドロホルミル化反応段階に戻される、ことを特徴とする連続的な方法。」
との記載に改める補正を含むものである。

2.補正の適否
(1)はじめに
上記請求項1についての補正は、
補正前の「ルイス塩基からなる群から選択される少なくとも1つの配位子とのコバルト錯体の少なくとも1つを含む触媒」との記載部分を、
補正後の「酸素含有配位子、硫黄含有配位子、窒素含有配位子及びリン含有配位子からなる群から選択されるルイス塩基であってイオン性官能基によって置換されていないルイス塩基からなる群から選択される少なくとも1つの配位子とのコバルト錯体の少なくとも1つを含む触媒」との記載に改める補正を含むものであって、
当該補正は、補正前の請求項12の「ルイス塩基配位子は、例えばスルホン酸塩、カルボン酸塩、リン酸塩、アンモニウム及びホスホニウムのようなイオン性官能基によって置換されるか、又は置換されない酸素含有配位子、硫黄含有配位子、窒素含有配位子及びリン含有配位子からなる群から選択されることを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載の方法。」との記載における「イオン性官能基によって置換されるか、又は置換されない」という2つの選択肢からなる「ルイス塩基配位子」を『イオン性官能基によって置換されない』というもののみに限定的に減縮するものと解せるから、
当該補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の請求項1に記載されている発明(以下、「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

(2)引用刊行物及びその記載事項
ア.刊行物1(特開2001-199926号公報)
原査定において「引用文献1」として引用された本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開2001-199926号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の記載がある。

摘記1a:請求項1及び14
「【請求項1】オレフィン系不飽和化合物の液相でのヒドロホルミル化方法であって、この方法において、反応が、少なくとも1つの窒素含有配位子によって配位結合されるコバルトおよび/またはロジウムの少なくとも1つの錯体と、一般式:Q^(+)A^(-)を有する少なくとも1つの無機・有機塩を含む少なくとも1つの非水性イオン溶媒との存在下において行なわれ、上記式中、Q^(+)が第4アンモニウムおよび/または第4ホスホニウムであり、A^(-)がアニオンである、ヒドロホルミル化方法。…
【請求項14】非水性イオン溶媒が、…3-ブチル-1-メチルイミダゾリウム-テトラフルオロボレート、…よりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの化合物であることを特徴とする、請求項8?13のうちのいずれか1項記載の方法。」

摘記1b:段落0002?0003及び0005
「一般に、コバルト…をベースとする触媒は、…温度90℃未満で非水性液体イオン溶媒中に溶解され、この溶媒中において、生成されたアルデヒドは、ほとんど可溶性でないか、あるいは非可溶性である。…
オレフィン系化合物のヒドロホルミル化は、…反応体、物質および場合によっては配位子の過剰物からなる有機相中に溶解される均一触媒に頼るものである。その結果、特に触媒が、コバルトをベースとする触媒を用いる場合のように比較的大量に使用される場合には、…該触媒を分離しかつ回収するための障害に遭遇する。…
アルデヒドを含む有機相は、触媒を含む水性相から容易に分離される。」

摘記1c:段落0015、0018及び0022
「窒素含有配位子は、好ましくは…ピリジンおよび置換ピリジン、…よりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの化合物である。…
好ましいアニオンA^(-)は、…テトラフルオロホウ酸塩、…のイオンである。…
アンモニウムおよび/またはホスホニウムのカチオンは、好ましくは、…3-ブチル-1-メチルイミダゾリウム、…よりなる群の中から選ばれた少なくとも1つのイオンである。本発明による使用可能な塩の例として、…3-ブチル-1-メチルイミダゾリウム-テトラフルオロボレート、…が挙げられる。」

摘記1d:段落0031
「不飽和化合物の接触ヒドロホルミル化反応は、1つまたは複数の反応段階を伴って閉鎖系で、半開系で、あるいは連続的に行なわれてよい。反応器の出口において、反応の生成物を含む有機相は、有利には「溶融塩」と、触媒の大部分とを含むイオン溶媒相の1回のデカンテーションによって分離される。このイオン溶媒相は、触媒の少なくとも一部を含んでおり、少なくとも一部反応器に戻される。場合によっては別の一部が、触媒の残留物を除去するために処理される。」

摘記1e:段落0033
「[実施例1] ヒドロホルミル化反応を、冷却液の流通による温度規制を可能にする二重ジャケットを具備し、かつスクリュー羽根および対向羽根を用いる有効な機械撹拌を備えた容量300mlのステンレス鋼製オートクレーブ内で行なった。予め空気および湿気をパージされかつ水素・一酸化炭素混合物(1/1モル)の常圧下に配置されるこのオートクレーブに、ジコバルト-オクタカルボニル0.4g(すなわちコバルト2.3ミリモル)、ピリジン0.16g(2ミリモル)、ブチルメチル-イミダゾリウム-テトラフルオロボレート10ml、ヘプタン30mlおよびヘキセン-1の30mlを導入した。水素・一酸化炭素混合物(1/1モル)の圧力を、10MPaに維持しかつ温度を125℃に維持した。撹拌を進行させた。6時間後、撹拌を停止した。反応混合物を冷却させて、これをデカンテーションさせておいた。ついで圧力を緩めた。オートクレーブ外での抜き出し後、上部有機相は、僅かに着色されていた。ヘキセン-1の転換率は、98.9重量%であった。C7アルデヒドにおける選択率は、88.9%であり、n/イソ (n-ヘプタナル/イソヘプタナル)比は、1.9であった。」

イ.刊行物2(特開2001-163820号公報)
原査定において「引用文献3」として引用された本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開2001-163820号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の記載がある。

摘記2a:段落0076、0085及び0089
「●触媒を損なわず、失活は極めてわずかであり、連続的な排出は省略される。…
反応器から出ていく混合物は気体状のオレフィンを使用する場合、または不完全な反応率の場合、気-液分離容器中で脱気することができる。気-液分離は反応器出口で支配的である同一の圧力で行うことができる。これは特に少なくとも放圧ガスの一部を反応器に返送する場合に有利である。さもなければより低い圧力(1バールまで)で放圧することもできる。…
脱気した液体混合物を液-液分離容器中で触媒相と生成物相とに機械的に分離する。これは種々の構造方式のデカンター中で、または遠心分離により行うことができる。コストの理由によりデカンターが有利である。」

摘記2b:段落0098?0100
「全ての連続的なヒドロホルミル化試験(プロペンとしてその他のエダクトを有するものも)を、図1に記載されている試験装置中で行った。実施例の記載でその他の反応器が言及されていない場合には、長さ3mおよび直径17.3mm(体積705ml)を有する反応器を使用し、これは2mmの水力直径を有するズルツァー社の静止混合部材を有していた。水性触媒をポンプ1を用いてポンプで循環させた。触媒溶液にオレフィン(プロペン)3および合成ガス4を添加混合した。こうして得られた多相混合物5を混合ノズル11によりポンプで静止混合部材を有する管型反応器6を通過させた。この場所では与えられた混合部材においてレイノルズ数の関数である相の完全な混合が特に重要である。生じる混合物7は、生成物、未反応のエダクトおよび触媒からなり、容器8中で脱気した。オレフィン(プロペン)、合成ガスおよび富化された不活性物質からなるガス9を大部分、気体返送導管10を介して混合ノズル11を用いて改めて反応器6に供給した。気体流9の少量を導管12を介して排出した。適切な冷却器13および超臨界プロペンの返送流により搬出物14を富化された不活性物質および少量の未反応の合成ガスへと還元した。…
この配置によりオレフィン(プロペン)の反応率は実質的に不活性物質の搬出物により制限されない。…
容器8中での脱気後に生じる液体流15を相分離容器16に導通した。ここで水性触媒相2を分離し、かつ改めて循環流に供給した。反応熱を外部に存在する熱交換器17を用いて適切に連行した。」

摘記2c:図1




ウ.周知例A(特表平8-505137号公報)
本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特表平8-505137号公報(以下、「周知例A」という。)には、次の記載がある。

摘記A1:第6頁第3?16行
「本発明は、
(a)エチレン系不飽和化合物を反応帯域内で一酸化炭素及び水素で5MPaよりも高い圧力及び80℃よりも高い温度でコバルトカルボニル化合物の存在下に有機相内でヒドロホルミル化し、
(b)有機相を、該有機相と実質的に非混和性の極性混合物と、コバルトの実際に全てが極性混合物中に混和されるような条件下で接触させることにより有機相からコバルトを除去し、
(c)極性混合物を有機相から分離し、…
(f)有機混合物を工程(a)に再循環させる
ことによりコバルトを再循環させる方法でアルデヒドを製造する方法に関する。」

摘記A2:第14頁第5行?第15頁第7行
「反応帯域を出た有機相は、少なくともアルデヒド及び未転化エチレン系不飽和化合物及びコバルトカルボニルを含有する。…
圧力、ひいては水素及び一酸化炭素の分圧は最初の抽出(b)で初めて低下せしめられ、一方温度は同時に又はその後にのみ低下せしめられるので、実質的に全てのコバルトは極性混合物になるとみなされる。最初の抽出(b)で圧力を低下させる間に、コバルトに極性混合物に移行する機会を与えるために極性混合物と有機相との既に十分な接触が行われることが重要である。工程(c)における、例えば相分離による、極性混合物と有機相の分離は、コバルトを含有し、有機相中に後に残る極性混合物の量が最小であるように慎重に実施するのが有利である。このための理由は、工程(d)でのアルデヒドの後処理中にコバルトが若干の副反応を触媒し、副生成物の形成を惹起することにある。もう1つの理由は、有機相内の後に残留するコバルトは回収するのが極めて困難であり、従ってヒドロホルミル化反応の活性度を一定のレベルに維持するためにサイクルに加えるためには新たなコバルトが必要となることである。…
最初の抽出(b)中に、圧力をヒドロホルミル化反応中に使用される圧力よりも低い圧力に低下させる。この圧力は一般に0.01?2.0MPa、有利には0.05?0.5MPaである。…
揮発性コバルト化合物の蒸発を阻止するために、ある程度の圧力の低下後に温度を低下させ、引き続き更に圧力を低下させることができる。」

摘記A3:第15頁第11行?第17頁第14行
「最初の抽出(b)は、例えば連続的に直列のミキサー、引き続いての沈降器で実施することができる。…
フロー1を介して新鮮なエチレン系不飽和化合物を反応帯域Aに導入する。…装置B内で、圧力を低下させかつ同時に又は後で温度を低下させかつ極性混合物と有機相を分離する。コバルト不含の有機相をフロー3を介して分離区分Cに移行させる。フロー5を介して、コバルト含有極性混合物を反応帯域Aに再循環させる。分離帯域Cでアルデヒドを回収しかつフロー4によって排出する。…フロー6を介して、アルデヒド不含の有機相を反応帯域Aに再循環させる。」

(3)刊行物1に記載された発明
摘記1aの「オレフィン系不飽和化合物の液相でのヒドロホルミル化方法…において、反応が、…窒素含有配位子によって配位結合されるコバルト…の錯体と、一般式:Q^(+)A^(-)を有する…非水性イオン溶媒との存在下において行なわれ…る、ヒドロホルミル化方法。…非水性イオン溶媒が、…3-ブチル-1-メチルイミダゾリウム-テトラフルオロボレート、…よりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの化合物である」との記載、
摘記1dの「ヒドロホルミル化反応は…連続的に行なわれてよい。反応器の出口において、反応の生成物を含む有機相は、有利には「溶融塩」と、触媒の大部分とを含むイオン溶媒相の1回のデカンテーションによって分離される。このイオン溶媒相は、触媒の少なくとも一部を含んでおり、少なくとも一部反応器に戻される。」との記載、及び
摘記1eの「ヒドロホルミル化反応を…オートクレーブ内で行なった。…このオートクレーブに、ジコバルト-オクタカルボニル0.4g(すなわちコバルト2.3ミリモル)、ピリジン0.16g(2ミリモル)、ブチルメチル-イミダゾリウム-テトラフルオロボレート10ml、ヘプタン30mlおよびヘキセン-1の30mlを導入した。水素・一酸化炭素混合物(1/1モル)の圧力を、10MPaに維持しかつ温度を125℃に維持した。撹拌を進行させた。6時間後、撹拌を停止した。反応混合物を冷却させて、これをデカンテーションさせておいた。ついで圧力を緩めた。オートクレーブ外での抜き出し後、上部有機相は、僅かに着色されていた。」との記載からみて、刊行物1には、
『オレフィン系不飽和化合物(ヘキセン-1)と水素・一酸化炭素混合物の反応が、窒素含有配位子(ピリジン)によって配位結合されるコバルト錯体(ジコバルト-オクタカルボニル)と、非水性イオン溶媒(ブチルメチル-イミダゾリウム-テトラフルオロボレート)との存在下において行なわれ、反応の圧力が10MPaに維持され、反応混合物をデカンテーションさせる、オレフィン系不飽和化合物の液相でのヒドロホルミル化方法であって、反応の生成物を含む有機相と、触媒の大部分を含むイオン溶媒相が、デカンテーションによって分離され、触媒を含むイオン溶媒相の一部が反応器に戻される、連続的に行われる方法。』の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(4)対比
補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「オレフィン系不飽和化合物(ヘキセン-1)と水素・一酸化炭素混合物の反応」は、補正発明の「水素及び一酸化炭素との少なくとも1つのオレフィン不飽和化合物の反応段階」に相当し、
引用発明の「窒素含有配位子(ピリジン)によって配位結合されるコバルト錯体(ジコバルト-オクタカルボニル)」は、その「窒素含有配位子(ピリジン)」が本願明細書の段落0048に記載された「ピリジン1モル等量(ルイス塩基配位子)」と合致するものであって『窒素含有配位子から選択されるイオン性官能基によって置換されていないルイス塩基』に該当することから、補正発明の「酸素含有配位子、硫黄含有配位子、窒素含有配位子及びリン含有配位子からなる群から選択されるルイス塩基であってイオン性官能基によって置換されていないルイス塩基からなる群から選択される少なくとも1つの配位子とのコバルト錯体の少なくとも1つを含む触媒」に相当する。
また、引用発明の「非水性イオン溶媒(ブチルメチル-イミダゾリウム-テトラフルオロボレート)」は、
摘記1aの「一般式:Q^(+)A^(-)を有する…塩を含む…非水性イオン溶媒…上記式中、Q^(+)が第4アンモニウム…であり、A^(-)がアニオンである…非水性イオン溶媒が…3-ブチル-1-メチルイミダゾリウム-テトラフルオロボレート…から選ばれた…化合物である」との記載における「3-ブチル-1-メチルイミダゾリウム-テトラフルオロボレート」という化合物に相当し、本願明細書の段落0059の「実施例6:テトラフルオロホウ酸3-ブチル-1-メチルイミダゾリウム」との記載にある化合物に実質的に合致するものであって、
そのうちの「テトラフルオロボレート」が摘記1cの「好ましいアニオンA^(-)は…テトラフルオロホウ酸塩…のイオンである」に該当するものであって補正発明の「A^(-)」の「陰イオン」に相当し、
そのうちの「ブチルメチル-イミダゾリウム」が摘記1cのアンモニウム…のカチオンは、好ましくは…3-ブチル-1-メチルイミダゾリウム」に実質的に該当するものであって補正発明の「Q^(+)」が「第4級アンモニウム」を表す場合のものに相当するから、
補正発明の「一般式Q^(+)A^(-)(式中、Q^(+)は、第4級アンモニウム及び/又は第4級ホスホニウム及び/又はスルホニウムを表し、かつA^(-)は、陰イオンを表す)の少なくとも1つの塩を含む少なくとも1つの非水イオン液体」に相当する。
そして、引用発明の「反応の圧力が10MPaに維持され」は、補正発明の「加圧して行われる」に相当し、
引用発明の「反応混合物をデカンテーションさせる」は、補正発明の「最終生成物のデカンテーション段階」に相当し、
引用発明の「オレフィン系不飽和化合物の液相でのヒドロホルミル化方法」は、補正発明の「オレフィン不飽和化合物の液相でのヒドロホルミル化方法」に相当し、
引用発明の「反応の生成物を含む有機相と、触媒の大部分を含むイオン溶媒相が、デカンテーションによって分離され」は、補正発明の「該デカンテーション段階において、反応生成物を含む有機相が、移動してきた触媒を含む非水イオン液相から分離され」に相当し、
引用発明の「触媒を含むイオン溶媒相の一部が反応器に戻される」は、補正発明の「該触媒含有非水イオン液相は、少なくとも部分的にヒドロホルミル化反応段階に戻される」に相当し、
引用発明の「連続的に行われる方法」は、補正発明の「連続的な方法」に相当する。

してみると、補正発明と引用発明は、『・水素及び一酸化炭素との少なくとも1つのオレフィン不飽和化合物の反応段階であって、前記反応は、一般式Q^(+)A^(-)(式中、Q^(+)は、第4級アンモニウム及び/又は第4級ホスホニウム及び/又はスルホニウムを表し、かつA^(-)は、陰イオンを表す)の少なくとも1つの塩を含む少なくとも1つの非水イオン液体の存在下で、かつ、酸素含有配位子、硫黄含有配位子、窒素含有配位子及びリン含有配位子からなる群から選択されるルイス塩基であってイオン性官能基によって置換されていないルイス塩基からなる群から選択される少なくとも1つの配位子とのコバルト錯体の少なくとも1つを含む触媒の存在下で、加圧して行われる段階;・及び最終生成物のデカンテーション段階を含むオレフィン不飽和化合物の液相でのヒドロホルミル化方法であって、該デカンテーション段階において、反応生成物を含む有機相が、移動してきた触媒を含む非水イオン液相から分離され、該触媒含有非水イオン液相は、少なくとも部分的にヒドロホルミル化反応段階に戻される、連続的な方法。』に関するものである点において一致し、
補正発明においては、「該反応段階及び該デカンテーション段階の間に、加圧ヒドロホルミル化反応の流出液を、該流出液が減圧される少なくとも1つの容器中に移動する中間段階を実施し、該中間段階において2つの液相間の接触が、非水イオン液相中への触媒の移動を確保するに十分な時間保たれ」るのに対して、
引用発明においては、「該反応段階及び該デカンテーション段階の間に、加圧ヒドロホルミル化反応の流出液を、該流出液が減圧される少なくとも1つの容器中に移動する中間段階を実施し、該中間段階において2つの液相間の接触が、非水イオン液相中への触媒の移動を確保するに十分な時間保たれ」るとされていない点においてのみ相違する。

(5)判断
上記相違点について検討する。

摘記2aの「反応器から出ていく混合物は…気-液分離容器中で脱気することができる。気-液分離は…より低い圧力(1バールまで)で放圧することもできる。…脱気した液体混合物を液-液分離容器中で触媒相と生成物相とに機械的に分離する。これは…デカンター中で…行うことができる。」との記載、及び
摘記2bの「全ての連続的なヒドロホルミル化試験…を、図1に記載されている試験装置中で行った。…多相混合物5を…管型反応器6を通過させた。…生じる混合物7は…容器8中で脱気した。…容器8中での脱気後に生じる液体流15を相分離容器16に導通した。ここで水性触媒相2を分離し、かつ改めて循環流に供給した。」との記載からみて、
刊行物2には、『反応器(管型反応器6)で生じる混合物を、低い圧力まで放圧する気-液分離容器(容器8)で脱気し、脱気後に生じる液体混合物(液体流15)を、デカンターの液-液分離容器(相分離容器16)中で触媒相と生成物相とに分離する、連続的なヒドロホルミル化試験装置。』についての発明が記載されているものと認められる。

また、摘記A1の「本発明は、(a)エチレン系不飽和化合物を反応帯域内で一酸化炭素及び水素で…コバルトカルボニル化合物の存在下に有機相内でヒドロホルミル化し、(b)有機相を、該有機相と実質的に非混和性の極性混合物と、コバルトの実際に全てが極性混合物中に混和されるような条件下で接触させることにより有機相からコバルトを除去し、(c)極性混合物を有機相から分離し、…(f)有機混合物を工程(a)に再循環させることによりコバルトを再循環させる方法でアルデヒドを製造する方法に関する。」との記載、
摘記A2の「最初の抽出(b)で圧力を低下させる間に、コバルトに極性混合物に移行する機会を与えるために極性混合物と有機相との既に十分な接触が行われることが重要である。…最初の抽出(b)中に、圧力をヒドロホルミル化反応中に使用される圧力よりも低い圧力に低下させる。」との記載、及び
摘記A3の「最初の抽出(b)は、例えば連続的に直列のミキサー、引き続いての沈降器で実施することができる。…フロー1を介して新鮮なエチレン系不飽和化合物を反応帯域Aに導入する。…装置B内で、圧力を低下させかつ同時に又は後で温度を低下させかつ極性混合物と有機相を分離する。…フロー5を介して、コバルト含有極性混合物を反応帯域Aに再循環させる。」との記載からみて、
周知例Aには、『(a)反応帯域A内でヒドロホルミル化し、(b)装置B内で圧力をヒドロホルミル化反応中に使用される圧力よりも低い圧力に低下させる間に、コバルトに極性混合物に移行する機会を与えるために極性混合物と有機相との既に十分な接触を行い、(c)引き続いての沈降器で極性混合物を有機相から分離する、アルデヒドを製造する方法。』についての発明が記載されているものと認められる。

すなわち、刊行物2及び周知例Aの記載からみて『反応段階(刊行物2の管型反応器6)及びデカンテーション段階(刊行物2の相分離容器16)の間に、加圧ヒドロホルミル化反応の流出液(刊行物2の液体流15)を、該流出液が減圧される少なくとも1つの容器(刊行物2の容器8)中に移動する中間段階を実施すること』は、本願優先権主張日前の技術水準において刊行物公知にして当業者の「通常の知識の範囲」内の技術常識になっていたものと認められる。

そして、摘記1eの「6時間後、撹拌を停止した。反応混合物を冷却させて、これをデカンテーションさせておいた。…オートクレーブ外での抜き出し後、上部有機相は、僅かに着色されていた。」との記載、及び摘記1bの「一般に、コバルト…をベースとする触媒は、…温度90℃未満で非水性液体イオン溶媒中に溶解され…触媒を分離しかつ回収する…有機相は、触媒を含む水性相から容易に分離される。」との記載からみて、
刊行物1に記載された発明においては、有機相の着色が僅かになる、すなわち、冷却させる間に2つの液相間の接触が十分に行われ、非水性液体イオン溶媒中への触媒の移動を確保してから、有機相を抜き出しているものと認められ、
摘記A2の「最初の抽出(b)で圧力を低下させる間に、コバルトに極性混合物に移行する機会を与えるために極性混合物と有機相との既に十分な接触が行われることが重要である。」との記載、及び摘記A3の「コバルト含有極性混合物を反応帯域Aに再循環させる。」との記載にあるように、本願優先権主張日前の技術水準において『触媒(コバルト)の極性混合物への移行を確実にするために、水性相(非水イオン液相)と有機相との接触を十分に行うことが好ましいこと』は、普通に知られていたものと認められる。

すなわち、刊行物1及び周知例Aの記載からみて、触媒を分離・回収して反応帯域に再循環させる場合に、分離段階の前の段階で『2つの液相間の接触が、非水イオン液相中への触媒の移動を確保するに十分な時間保たれること』が好ましいことは、本願優先権主張日前の技術水準において刊行物公知にして当業者の「通常の知識の範囲」内の技術常識になっていたものと認められる。

してみると、引用発明において「該反応段階及び該デカンテーション段階の間に、加圧ヒドロホルミル化反応の流出液を、該流出液が減圧される少なくとも1つの容器中に移動する中間段階を実施し、該中間段階において2つの液相間の接触が、非水イオン液相中への触媒の移動を確保するに十分な時間保たれ」るようにしてみることは、刊行物1?2及び周知例Aに記載された発明ないし技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得るものと認められる。

そして、補正発明の効果について検討するに、本願明細書の段落0048?0060に記載された実施例1?10の具体例は、何れも「オートクレーブ」の中で反応、減圧、及びデカンテーションの3つの段階を行っているので、流出液を「容器中に移動する中間段階」を経ていないという点において補正発明の具体例に相当するものではなく、
摘記1bの「一般に、コバルト…をベースとする触媒は、…温度90℃未満で非水性液体イオン溶媒中に溶解され、…アルデヒドを含む有機相は、触媒を含む水性相から容易に分離される。」との記載、及び摘記1dの「触媒の大部分とを含むイオン溶媒相の1回のデカンテーションによって分離され…イオン溶媒相は…反応器に戻される。」との記載をも参酌するに、
刊行物1に記載された「実施例1」の具体例においては、窒素含有配位子として「ピリジン」を使用し、デカンテーション後の「有機相」が「僅かに着色」する程度になっているので(摘記1e)、コバルトをベースとする触媒の大部分が非水性液体イオン溶媒(イオン溶媒相)中に移動していることは明らかであり、
一般に『反応段階及びデカンテーション段階の間に、中間減圧段階を実施すること』及び『2つの液相間の接触が、非水イオン液相中への触媒の移動を確保するに十分な時間保たれること』が好ましいことは当業者にとって技術常識にすぎないところ、
本願明細書の段落0013に記載された「イオン液体中の金属再循環は、ルイス塩基からなる群から選択される配位子を使用することにより、かつ加圧反応段階及びデカンテーションによる相分離段階の間の中間減圧段階を実施することにより大いに改良される」という作用効果は、当業者にとって格別予想外の顕著なものであるとは認められない。

したがって、補正発明は、刊行物1?2及び周知例Aに記載された発明(並びに本願優先権主張日前の技術水準における技術常識)に基づいて、当業者(補正発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(6)審判請求人の主張について
平成24年12月8日付けの意見書において、審判請求人は『刊行物1(特開2001-199926号公報)…には、酸素含有配位子、硫黄含有配位子、窒素含有配位子及びリン含有配位子からなる群から選択されるルイス塩基であってイオン性官能基によって置換されていないルイス塩基からなる群から選択される少なくとも1つの配位子とのコバルト錯体の少なくとも1つを含む触媒は開示されていない。』と主張しているが、
刊行物1に記載された「実施例1」の具体例は、窒素含有配位子として「ピリジン」を使用しているものであって(摘記1e)、当該「ピリジン」は本願明細書の段落0029の「好ましい配位子は、例えばスルホン酸塩、カルボン酸塩、リン酸塩、アンモニウム、ホスホニウムのようなイオン性官能基によって置換されるピリジン…から選択される」との記載にある「イオン性官能基」によって置換されていない非置換の「ピリジン」であることが明らかであるから、当該主張は採用できない。
また、平成22年10月6日付けの審判請求書の請求の理由において、審判請求人は『本願発明は、引用文献2の発明と異なり、配位子はイオン性官能基によって置換されていない。本発明の改良点は、また中性の配位子によって実証されている。…出願人は、該有機相が、反応中には非常に着色し減圧段階の後はかすかに着色することを示す追加実施例を提供する。これを後で示す。…追加実施例…上記表から明らかなように、非常に着色していた有機相は減圧段階の後わずかに着色した。すなわち反応中は有機相中にあった触媒は、減圧段階の後イオン性液相へ移動した。』と主張しているが、
刊行物1に記載された「実施例1」の具体例は、窒素含有配位子として「ピリジン」を使用し、デカンテーション後の「有機相」が「僅かに着色」する程度になっているので(摘記1e)、補正発明の改良点が、当業者にとって格別予想外の顕著なものであるとは認められない。

3.まとめ
以上総括するに、上記請求項1についての補正は、独立特許要件違反があるという点において平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、その余のことを検討するまでもなく、第4回目の手続補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、〔補正却下の決定の結論〕のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
第4回目の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願請求項1?24に係る発明は、平成18年4月7日付けの手続補正、平成21年7月17日付けの手続補正、及び平成22年2月23日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?24に記載された事項により特定されるとおりのものであり、本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】・水素及び一酸化炭素との少なくとも1つのオレフィン不飽和化合物の反応段階であって、前記反応は、一般式Q^(+)A^(-)(式中、Q^(+)は、第4級アンモニウム及び/又は第4級ホスホニウム及び/又はスルホニウムを表し、かつA^(-)は、陰イオンを表す)の少なくとも1つの塩を含む少なくとも1つの非水イオン液体の存在下で、かつルイス塩基からなる群から選択される少なくとも1つの配位子とのコバルト錯体の少なくとも1つを含む触媒の存在下で、加圧して行われる段階;
・及び最終生成物のデカンテーション段階を含むオレフィン不飽和化合物の液相でのヒドロホルミル化方法であって、
該反応段階及び該デカンテーション段階の間に、加圧ヒドロホルミル化反応の流出液を、該流出液が減圧される少なくとも1つの容器中に移動する中間段階を実施し、
該中間段階において2つの液相間の接触が、非水イオン液相中への触媒の移動を確保するに十分な時間保たれ、かつ、該デカンテーション段階において、反応生成物を含む有機相が、移動して来た触媒を含む非水イオン液相から分離される、ことを特徴とする方法。」

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、『この出願については、平成21年4月8日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって、拒絶をすべきものです。』というものであって、
当該「平成21年4月8日付け拒絶理由通知書」には、
『 理 由
1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
理由:1 請求項:1-24 引用文献:1-3
引用文献1-2には、一般式Q^(+)A^(-)で表される塩、コバルト触媒、窒素又は燐含有配位子の存在下でオレフィンをヒドロホルミル化し、その後、デカンテーションにより液相を分離する方法が記載されている。
ここで、本願請求項1-24に係る発明と引用文献1-2に記載された発明とを対比すると、後者は、反応段階とデカンテーション段階の間に、減圧器を設ける構成が規定されていない点で前者と相違する。
しかし、引用文献3に記載されたとおり、オレフィンのヒドロホルミル化反応の後処理において、デカンテーションをする前段階で、冷却、脱気等の工程を行い(当該操作により、引用文献2の方法では減圧がされているといえる)、その際に得られる気体を反応器に戻すことは本願の出願当時知られている(引用文献3:段落【0085】-【0089】等)。
したがって、上記冷却、脱気の工程で得られる気体の反応器への再循環による有効利用等を考慮して、引用文献1-2の方法を実施する際に、引用文献3に記載された冷却、脱気等の工程を行うことは、当業者が容易に想到し得ることといえる。
効果について検討しても、反応段階とデカンテーション段階の間に、冷却、脱気等の工程を設けたことにより、当業者が予測し得ない程の効果が奏されたともいえない。
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2001-199926号公報
2.米国特許出願公開第2002/0035297号明細書
3.特開2001-163820号公報』
との理由が示され、原査定の「備考」の欄には、
『先の拒絶理由で示した引用文献1-2には、一般式Q^(+)A^(-)で表される塩、コバルト触媒、窒素、燐等含有配位子の存在下でオレフィンをヒドロホルミル化し、その後、デカンテーションにより液相を分離する方法が記載されている(引用文献1:特許請求の範囲、実施例、段落【0031】等/引用文献2:特許請求の範囲、実施例、段落【0035】等)。
ここで、本願請求項1-24に係る発明と引用文献1-2に記載された発明とを対比すると、後者は、反応段階とデカンテーション段階の間に、反応からの流出液が減圧される中間段階を有し、該中間段階において2つの液相間の接触が、非水イオン液相中への触媒の移動を確保するに十分な時間保たれることが規定さえていない点で前者と相違する。
しかし、引用文献3に記載されたとおり、オレフィンのヒドロホルミル化反応の後処理において、液体のデカンテーションをする前段階で、1バール程度まで放圧する工程を行い、そうすることで分離した気体の利用もできることが、本願の出願当時知られている(引用文献3:段落【0085】-【0094】等)。さらに、引用文献3には、分離装置での滞留時間は短くする旨の示唆もされている(段落【0090】)。ここで、引用文献3における上記放圧工程は、本願における減圧と同程度の減圧をするものである(本願明細書段落【0037】、実施例)。
また、引用文献1-2に記載された反応方法は、高圧の条件下で反応を行う方法であるから、操作性等の観点から、反応後の処理において液体を高圧のままデカンテーションをするというよりは、何らかの減圧がされ得るということは、当業者が通常理解できることである。
そうしてみと、引用文献1-2に記載された方法において、引用文献3に記載された、排出気体を再利用できるという利点を有しており、また、操作性等にも優れると考えられる放圧工程を採用すること、その際に、引用文献3に記載されたとおり、分離器での滞留時間を短くできるよう、放圧工程において、特定の相へ触媒が移動する程度の滞留時間を確保することは、当業者が適宜行い得ることである。
効果について検討しても、本願明細書の記載からは、デカンテーションの前に放圧の工程を設けたことにより、当業者が予測し得ない程の効果が奏されたとはいえない。
以上のとおりであるから、依然として、本願請求項1-24に係る発明は、引用文献1-3に記載された発明に基いて当業者が容易にすることができた発明である。』
との理由が示されている。

3.引用刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された「引用文献1」及び「引用文献3」並びにその記載事項は、上記『第2 2.(2)』の「ア.刊行物1(特開2001-199926号公報)」及び「イ.刊行物2(特開2001-163820号公報)」の項に示したとおりである。

4.引用文献1に記載された発明
引用文献1(刊行物1)には、上記『第2 2.(3)』の項に示したとおりの「引用発明」、すなわち、
『オレフィン系不飽和化合物(ヘキセン-1)と水素・一酸化炭素混合物の反応が、窒素含有配位子(ピリジン)によって配位結合されるコバルト錯体(ジコバルト-オクタカルボニル)と、非水性イオン溶媒(ブチルメチル-イミダゾリウム-テトラフルオロボレート)との存在下において行なわれ、反応の圧力が10MPaに維持され、反応混合物をデカンテーションさせる、オレフィン系不飽和化合物の液相でのヒドロホルミル化方法であって、反応の生成物を含む有機相と、触媒の大部分を含むイオン溶媒相が、デカンテーションによって分離され、触媒を含むイオン溶媒相の一部が反応器に戻される、連続的に行われる方法。』の発明が記載されている。

5.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「オレフィン系不飽和化合物(ヘキセン-1)と水素・一酸化炭素混合物の反応」は、本願発明の「水素及び一酸化炭素との少なくとも1つのオレフィン不飽和化合物の反応段階」に相当し、
引用発明の「窒素含有配位子(ピリジン)によって配位結合されるコバルト錯体(ジコバルト-オクタカルボニル)」は、本願発明の「ルイス塩基からなる群から選択される少なくとも1つの配位子とのコバルト錯体の少なくとも1つを含む触媒」に相当し、
引用発明の「非水性イオン溶媒(ブチルメチル-イミダゾリウム-テトラフルオロボレート)」は、本願発明の「一般式Q^(+)A^(-)(式中、Q^(+)は、第4級アンモニウム及び/又は第4級ホスホニウム及び/又はスルホニウムを表し、かつA^(-)は、陰イオンを表す)の少なくとも1つの塩を含む少なくとも1つの非水イオン液体」に相当し、
引用発明の「反応の圧力が10MPaに維持され」は、本願発明の「加圧して行われる」に相当し、
引用発明の「反応混合物をデカンテーションさせる」は、本願発明の「最終生成物のデカンテーション段階」に相当し、
引用発明の「オレフィン系不飽和化合物の液相でのヒドロホルミル化方法」は、本願発明の「オレフィン不飽和化合物の液相でのヒドロホルミル化方法」に相当し、
引用発明の「反応の生成物を含む有機相と、触媒の大部分を含むイオン溶媒相が、デカンテーションによって分離され」は、本願発明の「該デカンテーション段階において、反応生成物を含む有機相が、移動して来た触媒を含む非水イオン液相から分離され」に相当し、
引用発明の「触媒を含むイオン溶媒相の一部が反応器に戻される、連続的に行われる方法」は、本願発明の「方法」が「触媒を含むイオン溶媒相の一部が反応器に戻される、連続的に行われる」場合のものを除外するものではないことから、本願発明の「方法」に相当する。

してみると、本願発明と引用発明は、『・水素及び一酸化炭素との少なくとも1つのオレフィン不飽和化合物の反応段階であって、前記反応は、一般式Q^(+)A^(-)(式中、Q^(+)は、第4級アンモニウム及び/又は第4級ホスホニウム及び/又はスルホニウムを表し、かつA^(-)は、陰イオンを表す)の少なくとも1つの塩を含む少なくとも1つの非水イオン液体の存在下で、かつルイス塩基からなる群から選択される少なくとも1つの配位子とのコバルト錯体の少なくとも1つを含む触媒の存在下で、加圧して行われる段階;・及び最終生成物のデカンテーション段階を含むオレフィン不飽和化合物の液相でのヒドロホルミル化方法であって、該デカンテーション段階において、反応生成物を含む有機相が、移動して来た触媒を含む非水イオン液相から分離される方法。』に関するものである点において一致し、
本願発明においては、「該反応段階及び該デカンテーション段階の間に、加圧ヒドロホルミル化反応の流出液を、該流出液が減圧される少なくとも1つの容器中に移動する中間段階を実施し、該中間段階において2つの液相間の接触が、非水イオン液相中への触媒の移動を確保するに十分な時間保たれ」るのに対して、
引用発明においては、「該反応段階及び該デカンテーション段階の間に、加圧ヒドロホルミル化反応の流出液を、該流出液が減圧される少なくとも1つの容器中に移動する中間段階を実施し、該中間段階において2つの液相間の接触が、非水イオン液相中への触媒の移動を確保するに十分な時間保たれ」るとされていない点においてのみ相違する。

6.判断
上記相違点について検討する。
上記『第2 2.(5)』の項において検討したように、
引用文献3(刊行物2)には、『反応器(管型反応器6)で生じる混合物を、低い圧力まで放圧する気-液分離容器(容器8)で脱気し、脱気後に生じる液体混合物(液体流15)を、デカンターの液-液分離容器(相分離容器16)中で触媒相と生成物相とに分離する、連続的なヒドロホルミル化試験装置。』についての発明が記載されているから、
本願優先権主張日前の技術水準において『反応段階及びデカンテーション段階の間に、加圧ヒドロホルミル化反応の流出液を、該流出液が減圧される少なくとも1つの容器中に移動する中間段階を実施すること』は、刊行物公知にして当業者の「通常の知識の範囲」内の技術常識になっていたものと認められ、
引用文献1(刊行物1)には、有機相の着色が僅かになるように、2つの液相間の接触を十分に行って、非水イオン液相中への触媒の移動を確保してから、有機相を抜き出すことが実質的に記載されているところ、
本願優先権主張日前の技術水準において、分離段階の前の段階で『2つの液相間の接触が、非水イオン液相中への触媒の移動を確保するに十分な時間保たれること』が好ましいことは、刊行物公知にして当業者の「通常の知識の範囲」内の技術常識になっていたものと認められる。

してみると、引用発明において「該反応段階及び該デカンテーション段階の間に、加圧ヒドロホルミル化反応の流出液を、該流出液が減圧される少なくとも1つの容器中に移動する中間段階を実施し、該中間段階において2つの液相間の接触が、非水イオン液相中への触媒の移動を確保するに十分な時間保たれ」るようにしてみることは、引用文献1(刊行物1)及び引用文献3(刊行物2)に記載された発明(並びに本願優先権主張日前の技術水準における技術常識)に基づいて、当業者が容易に想到し得るものと認められ、
本願発明の作用効果が、当業者にとって格別予想外の顕著なものであるとも認められない。

したがって、本願発明は、引用文献1及び3に記載された発明(並びに本願優先権主張日前の技術水準における技術常識)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

7.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-11 
結審通知日 2013-01-22 
審決日 2013-02-04 
出願番号 特願2003-107386(P2003-107386)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C07C)
P 1 8・ 121- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神野 将志  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 木村 敏康
大畑 通隆
発明の名称 触媒再循環が改良された、非水イオン液体中でコバルトをベースとする触媒を用いるヒドロホルミル化方法  
代理人 渡邉 彰  
代理人 岸本 瑛之助  

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