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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1276076
審判番号 不服2011-21049  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-29 
確定日 2013-06-26 
事件の表示 特願2005-183579「チャート上の自動ラベル配置のためのシステムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 4月27日出願公開、特開2006-114013〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,2004年10月18日(以下「優先日」という。)の米国特許庁への出願を基礎とするパリ条約による優先権主張をともない,
2005年6月23日を出願日とする出願であって,
平成17年8月23日付けで特許法第36条の2第2項の規定による外国語明細書,外国語特許請求の範囲,外国語図面(図面中の説明に限る),及び外国語要約書の日本語による翻訳文が提出され,
平成20年6月23日付けで出願審査請求がなされ,
平成23年1月11日付けで審査官により拒絶理由が通知(同年1月18日発送)され,
これに対して同年4月8日付けで意見書が提出されると共に手続補正がなされたが,
同年6月2日付けで拒絶査定(同年6月7日謄本送達)がなされ,
これに対して同年9月29日付けで審判請求がなされると共に手続補正がなされ,
同年11月4日付けで審査官により特許法第164条第3項の規定に基づく報告がなされ,
平成24年5月23日付けで当審により特許法第134条第4項の規定に基づく審尋(同年5月29日発送)がなされ,
同年8月28日付けで回答書の提出があったものである。

第2 平成23年9月29日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成23年9月29日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1.本件補正

平成23年9月29日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許請求の範囲の請求項1について,本件補正前に,

「【請求項1】 視覚データオブジェクトに関連するラベルを自動的に配置するためのコンピュータにより実行される方法であって,
前記ラベルの初期配置を定義する第1の関数に基づいて,前記ラベルの第1のレイアウト上の位置決めされたラベル位置を判断することと,
前記ラベルの所与のレイアウトに対する前記第1のレイアウトを評価する第2の関数に基づいて,前記第1レイアウト上の前記ラベルの指定された位置決めを採点して,第1のスコアを判断することと,
前記ラベルの初期配置を定義する第1の関数に基づいて,前記ラベルの第2のレイアウト上の位置決めされたラベル位置を判断することと,
前記ラベルの所与のレイアウトに対する前記第2のレイアウトを評価する第3の関数に基づいて,前記第2のレイアウト上の前記ラベルの指定された位置決めを採点して,第2のスコアを判断することと,
前記第1のレイアウトと前記第2のレイアウトとの間のレイアウト変更を調整する第4の関数に基づいて,前記第1のスコアを前記第2のスコアと比較することと,
前記第1のスコアの前記第2のスコアとの前記比較結果に応じて,前記視覚データオブジェクトをレンダリングするためのレイアウトとして,前記第1のレイアウトおよび前記第2のレイアウトのうちの1つを選択することとを具えたことを特徴とする方法。」(以下,この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正前の請求項1」という。)

とあったものを,

「【請求項1】 視覚データオブジェクトに関連するラベルを自動的に配置するためのコンピュータにより実行される方法であって,
前記ラベルの初期配置を定義する第1の関数に基づいて,前記ラベルの第1のレイアウト上の位置決めされたラベル位置を判断することと,
前記ラベルの所与のレイアウトに対する前記第1のレイアウトを評価する第2の関数に基づいて,前記第1レイアウト上の前記ラベルの指定された位置決めを採点して,第1のスコアを判断することと,
ここで,前記第2の関数は,該第2の関数としての目標関数を実行することをさらに含み,前記目標関数は,前記第1のレイアウトが採点される目標を提供し,
前記目標は,前記ラベルの重なりを最小化,又は,前記ラベルからチャート内のその関連した表示要素としてのアンカーへの距離を最小化することに対応し,
前記ラベルの初期配置を定義する第1の関数に基づいて,前記ラベルの第2のレイアウト上の位置決めされたラベル位置を判断することと,
前記ラベルの所与のレイアウトに対する前記第2のレイアウトを評価する第3の関数に基づいて,前記第2のレイアウト上の前記ラベルの指定された位置決めを採点して,第2のスコアを判断することと,
ここで,前記第3の関数は,該第3の関数としての摂動関数を実行することをさらに含み,前記摂動関数は,前記ラベルの最適レイアウトをもたらすために定義される1組の制約に従って前記第1レイアウトを変更し,
前記摂動関数は,チャート内に含まれる単一のラベルの位置を調整することに対応し,
前記第1のレイアウトと前記第2のレイアウトとの間のレイアウト変更を調整する第4の関数に基づいて,前記第1のスコアを前記第2のスコアと比較することと,
前記第1のスコアの前記第2のスコアとの前記比較結果に応じて,前記視覚データオブジェクトをレンダリングするためのレイアウトとして,前記第1のレイアウトおよび前記第2のレイアウトのうちの1つを選択することとを具えたことを特徴とする方法。」(以下,この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正後の請求項1」という。)
と補正しようとするものである。

すると本件補正は,補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「第2の関数」,「第3の関数」を実質的に,「ここで,前記第2の関数は,該第2の関数としての目標関数を実行することをさらに含み,前記目標関数は,前記第1のレイアウトが採点される目標を提供し,前記目標は,前記ラベルの重なりを最小化,又は,前記ラベルからチャート内のその関連した表示要素としてのアンカーへの距離を最小化することに対応し,」,「ここで,前記第3の関数は,該第3の関数としての摂動関数を実行することをさらに含み,前記摂動関数は,前記ラベルの最適レイアウトをもたらすために定義される1組の制約に従って前記第1レイアウトを変更し,前記摂動関数は,チャート内に含まれる単一のラベルの位置を調整することに対応し,」に,それぞれ限定するものであって,特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かを,以下に検討する。


2.独立特許要件についての検討

(1)引用文献等

1)引用文献1に記載されている技術的事項及び引用発明の認定

本願の出願前であって,上記優先日よりも前の日に頒布され,原審の拒絶の査定の理由である上記平成23年1月11日付けの拒絶理由通知で引用された,S.Edmondson et al,A General Cartographic Labeling Algorithm,[online],1996年12月31日,[2010年11月16日検索],インターネットURL: http://www.merl.com/papers/docs/TR96-04.pdf(以下,「引用文献1」という。)には,関連する図とともに,以下の技術的事項が記載されている。(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

A「Abstract
Some apparently powerful algorithms for automatic label placement on maps use heuristics that capture considerable cartographic expertise but are hampered by provably inefficient methods of search and optimization. On the other hand, no approach to label placement that is based on an efficient optimization technique has been applied to the production of general cartographic maps - those with labeled point, line, and area features - and shown to generate labelings of acceptable quality. We present an algorithm for label placement that achieves the twin goals of practical efficiency and high labeling quality by combining simple cartographic heuristics with effective stochastic optimization techniques.」(表紙頁におけるAbstract)
(当審訳「要約
マップ上の自動的なラベル配置のためのいくつかの明らかに強力なアルゴリズムは,重要な地図製作上のノウハウを保持する経験則(ヒューリステック)を用いているが,それらは,検索や最適化のための明らかに非効率な方法によって支障を来している。一方,一般的な地図制作における地図-これらは,ラベル付けされた点(ポイント),線,領域の特徴を有する-を生成するために適用され,許容できる品質のラベリング生成のために示されるような,効率的な最適化技法に基づいたラベル配置へのアプローチは存在しなかった。我々は,効果的な推測的最適化技法に,シンプルな地図制作上の経験則(ヒューリステック)を組み合わせることにより,実用的な効率性とラベリングの高い品質という,2つの目標を達成する,ラベル配置のためのアルゴリズムを提案する。」)

B「2 Technical Approach
Our approach is predicated on a division of the label-placement task into three essentially independent subtasks. They are:
1. Candidate-position generation: Given a point, line, or area feature, identify a set of candidate locations for its label. A labeling is then a set of label positions, one drawn from each feature's set of candidate positions.
2. Position evaluation: Given a labeling, effciently compute a score that indicates its quality with respect both to the position of labels relative to the labeled symbology, and to spatial contention between the label and other features and feature labels.
3. Position selection: Given a set of candidate label positions for each map feature, choose one label position from each set so that the overall quality of the labeling, as determined by the evaluation method, is as high as possible.
We discuss these subtasks in reverse order in the next three sections. Because of the simplicity of the position-selection method, we discuss it briey; full details have been presented elsewhere (Christensen, Marks, and Shieber, 1995). We then consider the problems of label-position evaluation and generation, which form the core of our contribution in thispaper.」(2頁4行目?20行目)
(当審訳「2 技術的なアプローチ
我々のアプローチは,ラベル配置作業(タスク)を,基本的に独立した3つのサブタスクに分割することを前提としている。それらは以下の通り,
1.位置候補の生成:点,線,領域の特徴が与えられると,そのラベルのための位置候補の組を特定する。その際,ラベリングとはラベル位置の1つの組のことであり,位置候補の各々の特徴の組から抽出される一つである。
2.位置の評価:ラベリングが与えられると,ラベル付けされたシンボルに関係するラベル位置と,ラベル,その他の特徴及び特徴としてのラベルとの間での空間的競合の,両方に関して,品質を示すスコアを効率的に計算する。
3.位置の選択:各マップの特徴のためのラベル位置の候補の組が与えられると,評価手法によって決定されるラベリングの全体的な品質が,できる限り高くなるよう,一つのラベル位置を選択する。
これらのサブタスクについて,次の3つのセクションにおいて逆の順序で論じる。位置選択のための手法は簡単であるため,ここでは簡単に論じる:詳細は他(Christensen, Marks, and Shieber, 1995)においてすでに提案されている。その次に,このペーパーにおいて重要な核を構成する,ラベル位置の評価と生成の問題について検討する。」)

C「3 Position Selection
Given a set of generated candidate positions for each label and an overall evaluation function,selecting positions for all the labels so that the evaluation function is globally minimized is an optimization task. Although many different methods have been proposed for this task, we favor a method based on simulated annealing (Kirkpatrick, Gelatt Jr., and Vecchi, 1983):
1. For each feature, place its label randomly in any one of the candidate positions for that feature.
2. Initialize a temperature T to an initial high value.
3. Repeat until the rate of improvement falls below a given threshold:
(a) Decrease T according to an annealing schedule.
(b) Pick a feature randomly and move its label to a new position randomly chosen from that feature's set of candidate positions.
(c) Compute ΔE, the change in the overall labeling's evaluation caused by repositioning the label.
(d) If the new labeling is worse, undo the label repositioning with probability P =1.0 -exp(-ΔE/T).
The algorithm is almost completely specified in the outline above. The remaining details concern the initial temperature (chosen so that P = 2/3 when ΔE = 1), the annealing schedule (a standard geometric schedule), and the termination condition (evaluation of 5n consecutive repositionings with no changes made, where n is the number of labeled features).Full details concerning these issues are provided elsewhere (Christensen, Marks, and Shieber,1993; Christensen, Marks, and Shieber, 1995). It suffices here to note that the parameters are such that 100,000 computations of ΔE are typically required for convergence on problems involving up to 1,500 labeled features. Thus the overall eciffency of the label-placement algorithm depends crucially on effcient computation of ΔE.」(2頁21行目?3頁15行目)
(当審訳:「3 位置の選択
それぞれのラベルのために生成された位置候補と総合的評価関数が与えられると,全てのラベルについて位置を選択し,評価関数が全体的に最小化されるようにすることが,最適化のタスクである。多くの異なった手法がこのタスクのために提案されてきたが,我々はシミュレートされたアニーリング方法 (Kirkpatrick, Gelatt Jr., and Vecchi, 1983)に基づく手法が望ましいと考える:
1.各々の特徴において,その特徴のための位置候補のいずれか1つに,ラベルをランダムに配置する。
2.“温度”Tを,初期値である高い値に初期設定する。
3.改善の度合いが,与えられた閾値を下回るまで,以下を繰り返す。
(a)アニーリング方法のスケジュールに併せて,Tの値を減じていく。
(b)一つの特徴をランダムに取得して,そのラベルを,その特徴の位置候補の組からランダムに選んだ,新しい位置まで移動させる。
(c)ラベルの再配置に伴うラベリングの総合評価における変化を表す,ΔEを計算する。
(d)もし新しいラベリングが思わしくない場合には,P =1.0 -exp(-ΔE/T)という確率値に伴う,ラベルの再配置を取りやめる。
そのアルゴリズムは,概ね上述の概要の中で,完全に特定される。残りでは,温度としての初期値( ΔE = 1の時にP = 2/3を選択),アリーリング法のスケジュール(標準的な幾何学的スケジュール),終了状態(何の変更もなく連続して行われる5n回の再配置の評価,ここでnはラベル付けされた特徴の数を指す)の詳細について述べる。これらの事項の全ての詳細は他で提案されている(Christensen, Marks, and Shieber,1993; Christensen, Marks, and Shieber, 1995)。ここでは,パラメータが,ΔE に対する10万回の計算によって,1500以上のラベル付きの特徴を含む問題が典型的に収束するように求められる,ということだけ示せば十分である。そのように,ラベル配置アルゴリズムの全体的効率性は,決定的にΔEの効率的な計算次第ということである。」)


D「4 Position Evaluation
We now turrn to the task of evaluating label positions. In order to compare various labeling solutions, we require the ability to compute a single numeric score, E, that indicates the quality of a labeling. Furthermore, the change in score, ΔE, that results from repositioning a single label must be computable efficiently. In our algorithm, each label's contribution to E is computed as a weighted sum of simple metrics, which are described below.
For each metric, we define an ideal case and a borderline case. In the ideal case, the candidate position is ideally located as far as the given metric is concerned; in the borderline case, the position is poor, but barely acceptable. Metrics will be designed to yield a value of 0.0 for ideal cases, 1.0 for borderline cases, and higher values for objectionable cases.
First, we consider metrics that quantify spatial crowding and overlap. Next, we examine positioning metrics that depend on the spatial relationship between a label and the feature it tags. We conclude with a description of how the various metrics are combined into a single evaluation function.
4.1 Overlap metrics
・・・(中略)・・・
Label overlap. Mutually overlapping labels are clearly undesirable. As with the Point-Over metric, we simply count the number of overlaps: we define LabelOver to be the number of overlaps between one selected label position and all others.
It is possible to precompute values for almost all of our metrics prior to position selection. For example, LineOver can be precomputed for each candidate position without any knowledge of actual selected label positions. The exception to this rule is LabelOver, which must be recomputed continually during position selection. Fortunately, we are able to accomplish this reevaluation quickly by precomputing and storing all pairs of intersections between candidate label positions.
PointOver, LineOver, AreaOver, and LabelOver together comprise all the metrics concerned with spatial contention among labels and symbology. For simplicity, we have not included metrics for other types of label-symbology overlap, e.g., mountain ranges, vegetation, etc. However, the introduction of additional overlap metrics is straightforward. We now turn to metrics that govern the positioning of a label with respect to the feature that it labels.」(3頁26行目?5頁10行目)
(当審訳「4 位置評価
ここでは,ラベル位置の評価する作業に入る。様々なラベリングのためのソリューションの比較のために,ラベリングの品質を示す単一の数値スコアEを計算する能力が必要になる。さらに,単一のラベルの位置変更の結果である,スコアの変化ΔEは,効率的に計算可能なものであることが必要である。我々のアルゴリズムにおいて,各ラベルのEへの寄与が,以下に示す単純な尺度(metrics)の加重合計として計算される。
各尺度のために,我々は理想的なケースとボーダーライン的なケースを定義する。理想的なケースでは,候補位置は,与えられた尺度に関する範囲で理想的に配置され,ボーダーライン的なケースでは,位置は十分ではないが,かろうじて許容されるものとなる。尺度は,理想的なケースの場合には0.0の値,ボーダーライン的なケースの場合には1.0の値,及び好ましくないケースの場合には高い値を生ずるよう設計される。
最初に,空間的な混雑度や重なりを定量化する尺度について検討する。次に,ラベルとそれをタグ付けする特徴との空間的な関係に依存する,位置的な尺度について調べる。結論として,如何に様々な尺度が一つの評価関数に関係付けられるか,と言うことができる。
4.1 重なり尺度
・・・(中略)・・・
ラベルの重なり. ラベルが相互に重なることは,明かに望ましいことではない。Point-Over尺度と同様に,我々は単に重なり部分の数をカウントする。我々は,LabelOverを,一つの選ばれたラベル位置と他の全てとの間の重なり部分の数として,定義する。
位置の選択の前に,我々の尺度のほとんど全てについて,事前に計算しておくことが可能である。例えば,LineOverは,実際に選択されたラベルの位置について何ら知識を有しないでも,それぞれの候補位置を事前に計算することができる。例外はLabelOverであり,これは,位置選択の間に,継続的に再計算される必要がある。幸いにも,我々は,ラベルの候補位置の間での全ての交差の組合せについて,事前に計算し蓄積しておくことで,直ちにこの再評価を完了することができる。
PointOver, LineOver, AreaOver, そしてLabelOverは,ラベルとシンボルの間の空間的競合に関する全ての尺度を構成する。より簡単のために,例えば,山岳地帯や植生地帯のような,他のタイプのラベル-シンボルに係る重なりのための尺度は含まないこととする。しかしながら,追加的な重なり尺度の導入は簡単である。ここでは,ラベル付けされる特徴に関するラベルの配置を左右する尺度について述べる。」)

E「4.5 The overall evaluation function
The overall evaluation function is a weighted sum of the metrics described above for each label on the map. Suitable values for the weights were created intuitively and refined empirically; they are summarized in Table 1. Notice that the weight given to the MinDist metric is irrelevant, since the position-generation procedure for line-feature labels (Section 5) is guaranteed to generate only positions for which the MinDist value is perfect (0.0).」(9頁5行目?10行目)
(当審訳「4.5 総合的な評価関数
全体の評価関数は,マップ上の各ラベルに対し上述されている,尺度の加重合計である。重みのための適切な値が直感的に作成され,そして経験的に改良される:その値は表1にまとめられている。MinDist尺度に与えられる重みが重要でないことに注意されたい,というのも,線の特徴のラベル(セクション5)の位置を定める手順が,MinDist値がパーフェクト値(0.0)である唯一のポジションを生成することが保証されているからである。」)

以下に,引用文献1の記載事項について検討する。
ア.上記Aに「Some apparently powerful algorithms for automatic label placement on maps」(「マップ上の自動的なラベル配置のためのいくつかの明らかに強力なアルゴリズム」),「no approach to label placement that is based on an efficient optimization technique has been applied to the production of general cartographic maps - those with labeled point, line, and area features - and shown to generate labelings of acceptable quality. We present an algorithm for label placement ・・・」(「一般的な地図制作における地図-これらは,ラベル付けされた点(ポイント),線,領域の特徴を有する-を製造するために適用され,許容できる品質のラベリング生成のために示されるような,効率的な最適化技法に基づいたラベル配置へのアプローチは存在しなかった。我々は,・・・ラベル配置のためのアルゴリズムを提案する。」)との記載があり,これより,引用文献1には,
“地図制作において,ラベル付けされた特徴を有する地図の生成に適用される,自動的なラベル配置のためのアルゴリズムにより提供される,ラベル配置方法”が記載されているといえる。

イ.上記Cに「1. For each feature, place its label randomly in any one of the candidate positions for that feature.
2. Initialize a temperature T to an initial high value.
3. Repeat until the rate of improvement falls below a given threshold:
(a) Decrease T according to an annealing schedule.
(b) Pick a feature randomly and move its label to a new position randomly chosen from that feature's set of candidate positions.
(c) Compute ΔE, the change in the overall labeling's evaluation caused by repositioning the label.
(d) If the new labeling is worse, undo the label repositioning with probability P =1.0 -exp(-ΔE/T).」
(「1.各々の特徴において,その特徴のための位置候補のいずれか1つに,ラベルをランダムに配置する。
2.“温度”Tを,初期値である高い値に初期設定する。
3.改善の度合いが,与えられた閾値を下回るまで,以下を繰り返す。
(a)アニーリング方法のスケジュールに併せて,Tの値を減じていく。
(b)一つの特徴をランダムに取得して,そのラベルを,その特徴の位置候補の組からランダムに選んだ,新しい位置まで移動させる。
(c)ラベルの再配置に伴うラベリングの総合評価における変化を表す,ΔEを計算する。
(d)もし新しいラベリングが思わしくない場合には,P =1.0 -exp(-ΔE/T)という確率値に伴う,ラベルの再配置を取りやめる。」)との記載があり,
これより,引用文献1には,
前記“ラベル配置方法”が,“各々の特徴に対し,その特徴のための位置候補のいずれか1つに,ラベルを配置することと,
Tを,初期値である高い値に初期設定すことと,
Pの値が所定の閾値以下になるまで,以下の作業を繰り返すことと,
(a)スケジュールに併せて,Tの値を減じていくことと,
(b)一つの特徴をランダムに取得して,そのラベルを,その特徴の位置候補の組から選んだ新しい位置まで移動させることと,
(c)ラベルの再配置に伴うラベリングの総合評価における変化を表すΔEを計算することと,
(d)もし新しいラベリングが思わしくない場合には,Pという確率値に伴うラベルの再配置を取りやめること”を含むこと,が記載されていると言える。

ウ.上記イの検討結果における“(c)ラベルの再配置に伴うラベリングの総合評価における変化を表すΔEを計算すること”に関し,
上記Dに「we require the ability to compute a single numeric score, E, that indicates the quality of a labeling. Furthermore, the change in score, ΔE, that results from repositioning a single label must be computable efficiently.」(「ラベリングの品質を示す単一の数値スコアEを計算する能力が必要になる。さらに,単一のラベルの位置変更の結果である,スコアの変化ΔEは,効率的に計算可能なものであることが必要である。」)との記載があり,
これより,“ラベリングの総合評価における変化を表すΔE”は,“ラベリングの品質を示す数値スコアEの変化を表すΔE”であることがよみとれ,
また,上記Dに「In our algorithm, each label's contribution to E is computed as a weighted sum of simple metrics, which are described below.」(「我々のアルゴリズムにおいて,各ラベルのEへの寄与が,以下に示す単純な尺度(metrics)の加重合計として計算される。」)との記載,上記Eに「The overall evaluation function is a weighted sum of the metrics described above for each label on the map.」(「全体の評価関数は,マップ上の各ラベルに対し上述されている,尺度の加重合計である。」)との記載があり,
これより,前記“ラベリングの品質を示す数値スコアE”は,“尺度の加重合計である総合評価関数により計算される”ことがよみとれ,
さらに,上記Cに「Given a set of generated candidate positions for each label and an overall evaluation function,selecting positions for all the labels so that the evaluation function is globally minimized is an optimization task.」(「それぞれのラベルのために生成された位置候補と総合的評価関数が与えられると,全てのラベルについて位置を選択し,評価関数が全体的に最小化されるようにすることが,最適化のタスクである。」)との記載があり,これは,前記“ラベル配置方法”により,“評価関数が全体的に最小化される”ことが記載されているといえる。
これらを合わせると,引用文献1には,
“ラベル配置方法”が,“(c)ラベルの再配置に伴うラベリングの品質を示す数値スコアEの変化を表すΔEを計算することであり,前記ラベリングの品質を示す数値スコアEは,尺度の加重合計である総合評価関数により計算されるものであ”ることを含むこと,及び
“ラベル配置方法”により“評価関数が全体的に最小化される”ことが記載されているといえる。

エ.上記ウの検討結果における“尺度の加重合計”に関し,
上記Dに「Label overlap. Mutually overlapping labels are clearly undesirable. As with the Point-Over metric, we simply count the number of overlaps: we define LabelOver to be the number of overlaps between one selected label position and all others.」(「ラベルの重なり.ラベルが相互に重なることは,明かに望ましいことではない。Point-Over尺度と同様に,我々は単に重なり部分の数をカウントする。我々は,LabelOverを,一つの選ばれたラベル位置と他の全てとの間の重なり部分の数として,定義する。」)との記載,上記Eに「The overall evaluation function is a weighted sum of the metrics described above for each label on the map. 」(「全体の評価関数は,マップ上の各ラベルに対し上述されている,尺度の加重合計である。」)との記載があり,
これより,引用文献1には,
前記“尺度の加重合計は,ラベルの重なりを重なり部分の数として定義したLabelOverを含むものである”ことが記載されているといえる。

以上,ア?エで指摘した事項から,引用文献には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

地図制作において,ラベル付けされた特徴を有する地図の生成に適用される,自動的なラベル配置のためのアルゴリズムにより提供される,ラベル配置方法であって,
前記ラベル配置方法は,
各々の特徴に対し,その特徴のための位置候補のいずれか1つに,ラベルを配置することと,
Tを,初期値である高い値に初期設定すことと,
Pの値が所定の閾値以下になるまで,以下の作業を繰り返すこと,
(a)スケジュールに併せて,Tの値を減じていくこと,
(b)一つの特徴をランダムに取得して,そのラベルを,その特徴の位置候補の組から選んだ新しい位置まで移動させることと,
(c)ラベリングの品質を示す数値スコアEの,ラベルの再配置に伴う変化を表すΔEを計算することであり,前記ラベリングの品質を示す数値スコアEは,尺度の加重合計である総合評価関数により計算されるものであり,前記尺度の加重合計は,ラベルの重なりを重なり部分の数として定義したLabelOverを含むものであることと,
(d)もし新しいラベリングが思わしくない場合には,Pという確率値に伴うラベルの再配置を取りやめること,
を含み,当該方法により評価関数が全体的に最小化される方法。


2)引用文献2に記載されている技術的事項

本願の出願前であって,上記優先日よりも前の日に頒布され,原審の拒絶の査定の理由である上記平成23年1月11日付けの拒絶理由通知で引用された,P. Asman,Creating SVG Pie Charts through XSLT via a Web Service,[online],2004年3月1日,[2010年11月16日検索],インターネットURL:http://web.archive.org/web/20040301203658/http://www.svgopen.org/2003/papers/CreatingSVGPieChartsThroughWebService/index.html(以下,「引用文献2」という。)には,図とともに,以下の技術的事項が記載されている。(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

F「Pie charts can be drawn in a number of different ways. The slices can appear in ascending or descending order based on size, or can be placed at random. If the slices are ordered by size, the largest slice can appear in several different locations, and the other slices can follow clockwise or counterclockwise. Labels can be placed in slices, or near them. Legends can accompany the charts, or not. There can be a lower limit to the percentage that a slice may represent.
・・・(中略)・・・
Nevertheless, pie charts are common, in my organization and elsewhere, and we must make layout decisions. Here are the layout recommendations from the [SAP Design Guild] , which based its findings on a review of the literature:
・Start at 12 o'clock (top), then follow the direction of the clock
・The values must add up to 100% (or have to be scaled accordingly)
・Do not use too small circle segments ( 18° or 5%); combine small segments into larger ones, if applicable
・Label each segment
・Labels can be placed within segments (if these are large enough and the labels short) or outside (small segments, long labels)
・Write the values beside the segments, because angles are hard to estimate」(項目「The XSLT」欄の直後の「Best Practices」との記載の直後から1行目?18行目)
(当審訳「円グラフは,いくつかの異なる方法で描画することができる。スライスは,サイズに基づいて昇順または降順に表示したり,ランダムに配置することができる。スライスがサイズごとに並べられている場合は,最大のスライスは,複数の異なる配置に表示されることができ,それに従って他のスライスは,時計回りまたは反時計回りに配置される。ラベルはスライスの中,またはその近くに配置される。凡例は,チャートに付加されたり,またはされないこともある。スライスとして表すパーセンテージにおいて,一定の下限が存在する場合がある。
・・・(中略)・・・
それにもかかわらず,円グラフは,組織や他の場所において共通しており,我々は,レイアウトの決定を行う必要がある。ここで,[SAP Design Guild]からのレイアウトの推奨事項があり,これはその文献のレビューにおける調査結果を元にしたものである。
・時計の12時地点(上)から開始し,その後時計の向きに従う
・値が100%になるまで増加させる(または,それに応じてスケーリングする必要がある)
・小さすぎるサークルセグメント(18度または5%)は使用しない。該当する場合には,これより大きなセグメントに小さなものを結合する
・各セグメントにラベルを付ける
・ラベルはセグメントの内部(セグメントが十分大きいか,ラベルが短ければ)または外部(小さなセグメント,長いラベルの場合)に配置することができる
・角度から値を評価することが困難であるため,セグメントの横に値を書き込む」)


(2)本願補正発明と引用発明との対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

(2-1)引用発明の「ラベル付けされた特徴」とは,「点,線,領域」の「特徴」であり,これらは地図上に表示される表示物である。一方,本願補正発明の「視覚データオブジェクト」も,上位概念において,表示物であるといえる。また,引用発明の「自動的なラベル配置のためのアルゴリズム」がコンピュータにより実施されることは,当業者にとって自明である。
してみると,引用発明の「地図制作において,ラベル付けされた特徴を有する地図の生成に適用される,自動的なラベル配置のためのアルゴリズムにより提供される,ラベル配置方法」と,本願補正発明の「視覚データオブジェクトに関連するラベルを自動的に配置するためのコンピュータにより実行される方法」とは,ともに,“表示物に関連するラベルを自動的に配置するためのコンピュータにより実行される方法”である点で共通するといえる。

(2-2)引用発明の「数値スコアE」を計算する「尺度の加重合計である総合評価関数」は,本願補正発明の「第2の関数」に対応するものであるところ,前記「数値スコアE」は,「ラベリングの品質を示す数値」であることから,「ラベル」の配置すなわちレイアウト上でのラベルの位置決めの「品質」を示す「数値」であり,「数値」として当該「品質」を把握することは採点することに他ならない。その結果,「数値」により「品質」を決めることは,数値を判断することと同義であり,したがって,引用発明の「ラベリングの品質を示す数値スコアE」を計算することは,本願補正発明の「ラベルの指定された位置決めを採点して」,「スコアを判断する」に相当する。
ここで,引用発明では,「ラベルの再配置に伴う変化を表すΔEを計算する」ために,「(b)一つの特徴をランダムに取得して,そのラベルを,その特徴の位置候補の組から選んだ新しい位置まで移動させる」前と後の両方において,前記「数値スコアE」の計算を行い,その上で差分に相当するΔEを計算しているものと解され,一方,本願補正発明の「第2の関数」は,「前記第1のレイアウトと前記第2のレイアウトとの間のレイアウト変更」がなされるところの,「レイアウト変更」前の「第1のレイアウト」を評価するものである。
これより,引用発明の「尺度の加重合計である総合評価関数」,「新しい位置まで移動させる」前の「ラベル」の配置,当該「新しい位置まで移動させる」前の「ラベル」の配置について計算された「数値スコアE」は,本願補正発明の「第2の関数」,「第1のレイアウト」,「第1のスコア」に,それぞれ相当するといえる。
してみると,引用発明の「新しい位置まで移動させる」前の「ラベル」の配置について,「尺度の加重合計である総合評価関数」に基づいて「ラベリングの品質を示す数値」である「数値スコアE」を計算して把握することは,本願補正発明の「前記ラベルの所与のレイアウトに対する前記第1のレイアウトを評価する第2の関数に基づいて,前記第1レイアウト上の前記ラベルの指定された位置決めを採点して,第1のスコアを判断すること」に相当するといえる。

(2-3)引用発明の「尺度の加重合計である総合評価関数」は,「評価関数が全体的に最小化される」という目標に対応するものであり,また当該「総合評価関数」は「ラベルの重なりを重なり部分の数として定義したLabelOverを含む」ことから,ラベルの重なりを最小化するという目標を提供するものであり,さらに,「ラベルの重なりを重なり部分の数として定義したLabelOver」は,ラベルの配置を含むラベルのレイアウトの質を数値として把握する,すなわち採点するものといえる。
してみると,引用発明の「尺度の加重合計である総合評価関数」が,「評価関数が全体的に最小化される」という目標に対応して,「ラベルの重なりを重なり部分の数として定義したLabelOverを含」めて計算されることと,本願補正発明の「前記第2の関数は,該第2の関数としての目標関数を実行することをさらに含み,前記目標関数は,前記第1のレイアウトが採点される目標を提供し,前記目標は,前記ラベルの重なりを最小化,又は,前記ラベルからチャート内のその関連した表示要素としてのアンカーへの距離を最小化することに対応し」とは,ともに“前記第2の関数は,前記第1のレイアウトが採点される目標を提供し,前記目標は,前記ラベルの重なりを最小化,又は,前記ラベルからチャート内のその関連した表示要素としてのアンカーへの距離を最小化することに対応し”である点で共通するといえる。

(2-4)上記(2-2)の対比における,「新しい位置まで移動させ」た後の「ラベル」の配置について「尺度の加重合計である総合評価関数」により「数値スコアE」を計算する場合について,当該「新しい位置まで移動させ」た後の「ラベル」の配置の位置とは,「特徴の位置候補の組から選んだ,新しい位置」であり,これは,ラベルの再配置に関し「特徴の位置候補の組から」のみ選ぶという所定の制約条件に基づいて,計算しているものといえ,また,当該所定の制約条件は,ラベルの再配置に関し最適なレイアウトをもたらすよう定義されているといえる。一方,本願補正発明の「第3の関数としての摂動関数」が対応する「ラベルの位置を調整すること」は,詳細な説明を参酌するに「チャート上のラベルの調整についての制限を定義する関数」であり,より具体的には「ラベルの再配置についての範囲制限,ラベルに関して行われ得る変更のタイプの制限されたサブセット,および他の制限を定義し得る」ものであることから,上位概念において,ラベルの再配置に関する所定の制約条件であるといえる。
また,引用発明の「新しい位置まで移動させ」た後の「ラベル」の配置,「新しい位置まで移動させ」た後に「尺度の加重合計である総合評価関数」により計算された「数値スコアE」は,本願補正発明の「第2のレイアウト」,「第2のスコア」にそれぞれ相当するといえる。
してみると,「新しい位置まで移動させた」後の「ラベル」の配置について,「尺度の加重合計である総合評価関数」と所定の制約条件に基づいて「数値スコアE」を計算することであり,当該所定の制約条件がラベルの再配置に関し「特徴の位置候補の組から」のみ選ぶということと,本願補正発明の「ラベルの所与のレイアウトに対する前記第2のレイアウトを評価する第3の関数に基づいて,前記第2のレイアウト上の前記ラベルの指定された位置決めを採点して,第2のスコアを判断することと,ここで,前記第3の関数は,該第3の関数としての摂動関数を実行することをさらに含み,前記摂動関数は,前記ラベルの最適レイアウトをもたらすために定義される1組の制約に従って前記第1レイアウトを変更し,前記摂動関数は,チャート内に含まれる単一のラベルの位置を調整することに対応し」とは,ともに,“ラベルの所与のレイアウトに対する前記第2のレイアウトを評価する所定の制約条件に基づいて,前記第2のレイアウト上の前記ラベルの指定された位置決めを採点して,第2のスコアを判断することと,ここで,前記所定の制約条件は,前記ラベルの最適レイアウトをもたらすために定義される1組の制約に従って前記第1レイアウトを変更し,前記所定の制約条件は,単一のラベルの位置を調整することに対応し”である点で共通するといえる。

(2-5)引用発明の「ラベルの再配置に伴う変化を表すΔEを計算すること」とは,「(b)一つの特徴をランダムに取得して,そのラベルを,その特徴の位置候補の組から選んだ新しい位置まで移動させる」前と後の両方において,上記「数値スコアE」の計算を行い,その結果の差分を式によりとっているものと解される。また,当該「ΔE」をもとに「新しいラベリングが思わしくない場合」であるか否かの判断を行っていることから,「ΔE」と所定の基準との比較を行っているものと解され,これは「ラベル」を「新しい位置まで移動させる」前と後の両方の場合に計算される2つの「数値スコアE」の関係について,変更に係る式に基づいて判断することであると言える。一方,本願補正発明の「前記第1のスコアを前記第2のスコアと比較すること」も,上位概念において,「第1のスコア」と「第2のスコア」の関係について判断することであるといえ,また「第4の関数」も,上位概念において式であるといえる。
してみると,引用発明の「ラベルの再配置に伴うラベリングの総合評価における変化を表すΔEを計算すること」と,本願補正発明の「前記第1のレイアウトと前記第2のレイアウトとの間のレイアウト変更を調整する第4の関数に基づいて,前記第1のスコアを前記第2のスコアと比較すること」とは,ともに“前記第1のレイアウトと前記第2のレイアウトとの間のレイアウト変更に係る式に基づいて,前記第1のスコアと前記第2のスコアとの関係を判断すること”である点で共通するといえる。

(2-6)本願補正発明の「視覚データオブジェクトをレンダリングする」とは,上位概念において,表示物を生成することであるといえる。
してみると,引用発明の「ラベルの再配置に伴うラベリングの総合評価における変化を表すΔEを計算」し,その結果により「新しいラベリングが思わしくない場合には,P という確率値に伴うラベルの再配置を取りやめる」との判断をすることと,本願補正発明の「第1のスコアの前記第2のスコアとの前記比較結果に応じて,前記視覚データオブジェクトをレンダリングするためのレイアウトとして,前記第1のレイアウトおよび前記第2のレイアウトのうちの1つを選択すること」とは,ともに,“第1のスコアの前記第2のスコアとの前記判断結果に応じて,前記表示物を生成するためのレイアウトとして,前記第1のレイアウトおよび前記第2のレイアウトのうちの1つを選択すること”である点で共通するといえる。

以上から,本願補正発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,以下の点で相違する。

(一致点)

表示物に関連するラベルを自動的に配置するためのコンピュータにより実行される方法であって,
前記ラベルの所与のレイアウトに対する前記第1のレイアウトを評価する第2の関数に基づいて,前記第1レイアウト上の前記ラベルの指定された位置決めを採点して,第1のスコアを判断することと,
ここで,前記第2の関数は,前記第1のレイアウトが採点される目標を提供し,
前記目標は,前記ラベルの重なりを最小化,又は,前記ラベルからチャート内のその関連した表示要素としてのアンカーへの距離を最小化することに対応し,
ラベルの所与のレイアウトに対する前記第2のレイアウトを評価する所定の制約条件に基づいて,前記第2のレイアウト上の前記ラベルの指定された位置決めを採点して,第2のスコアを判断することと,
ここで,前記所定の制約条件は,前記ラベルの最適レイアウトをもたらすために定義される1組の制約に従って前記第1レイアウトを変更し,
前記所定の制約条件は,単一のラベルの位置を調整することに対応し,
前記第1のレイアウトと前記第2のレイアウトとの間のレイアウト変更に係る式に基づいて,前記第1のスコアと前記第2のスコアとの関係を判断することと,
前記第1のスコアの前記第2のスコアとの前記判断結果に応じて,前記表示物を生成するためのレイアウトとして,前記第1のレイアウトおよび前記第2のレイアウトのうちの1つを選択することとを具えたことを特徴とする方法。

(相違点1)
ラベル位置の判断に関して,本願補正発明が「ラベルの初期配置を定義する第1の関数に基づいて」行っているのに対し,
引用発明は,そのような構成を有するのか明りょうでない点。

(相違点2)
第1のレイアウトを評価する第2の関数に関し,本願補正発明が,「第2の関数」としての「目標関数」を実行することを含み,当該「目標関数」が「レイアウトが採点される目標」を提供しているのに対し,
引用発明は,「尺度の加重合計である総合評価関数」について,そのような構成になっていない点。

(相違点3)
第2のレイアウトの評価を行う制約条件に関し,本願補正発明が,「第3の関数」を採用し,また当該「第3の関数」としての「摂動関数」を実行することを含んでいるのに対し,
引用発明は,ラベルの再配置の位置選択に関する制約条件について,関数を用いておらず,本願補正発明と同様の構成になっていない点。

(相違点4)
第1のスコアと第2のスコアとの関係についての式に基づく判断に関し,本願補正発明が,「前記第1のレイアウトと前記第2のレイアウトとの間のレイアウト変更を調整する第4の関数」に基づいて「前記第1のスコアを前記第2のスコアと比較」しているのに対し,
引用発明は,そのような構成になっていない点。

(相違点5)
ラベルを配置する表示物に関し,本願補正発明が,「視覚データオブジェクト」であるのに対し,
引用発明は,「点,線,領域の特徴」は表示されるものであるが,「オブジェクト」と呼べるものであるかは明りょうでない点。

(相違点6)
所定の制約条件の具体的内容に関し,本願補正発明が,「チャート内に含まれる単一のラベルの位置を調整すること」であるのに対し,
引用発明は,ラベル位置の調整の対象が「チャート内に含まれる」ものとなっていない点。

(相違点7)
表示物の生成に関し,本願補正発明が,「視覚データオブジェクト」を「レンダリング」することとしているのに対し,
引用発明は,「点,線,領域の特徴」の生成について,どのように行っているか明りょうでない点。


(3)判断

上記相違点1ないし相違点7について検討する。

(3-1)相違点1ないし相違点4について
一般に,コンピュータ装置において,関数を用いてデータ処理を行い機能を実現することは,周知技術(例えば,引用文献1における,上記B記載の確率値Pや,「尺度の加重合計である総合評価関数」を参照されたい。)であり,また,当該関数を,さらに複数の関数の組合せにより構成することは,当業者にとって技術常識である。
また,引用発明において,ラベルを配置しその位置に基づいてスコア値を計算する際に,何らかの基準位置を採用しそれをもとに位置を特定していると解され,さらに,「ラベルの再配置に伴う変化を表すΔEを計算」し,当該「ΔE」と所定の基準との比較を行って「新しいラベリングが思わしくない場合」であるか否かの判断を行うこととは,「ラベル」を「新しい位置まで移動させる」前と後との両方の「E」値を比較していることと,実質的に同様の計算がなされているものといえる。
してみると,引用発明において,上記周知技術等を採用し,ラベル配置の基準に基づく位置特定,レイアウト評価を行う上での制約条件の指定,及びスコアの比較を,関数を用いて実現し,また,「第2の関数は,該第2の関数としての目標関数を実行することをさらに含」み,「第3の関数は,該第3の関数としての摂動関数を実行することをさらに含」む構成とすること,すなわち,相違点1ないし4に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
よって,相違点1ないし4は格別なものではない。

(3-2)相違点5ないし相違点7について
チャート等のオブジェクトをレンダリングにより数値データから計算し画像表示すること,及び当該チャートに対してラベルを付与し位置を調整することは,いずれも周知技術(例えば,上記Fの記載を参照されたい。)であり,引用発明において,当該周知技術を採用し,「視覚データオブジェクト」をレンダリング対象とし,ラベルを当該「視覚データオブジェクト」に対して配置し位置を調整すること,すなわち,相違点5ないし相違点7に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
よって,相違点5ないし7は格別なものではない。

(3-3)小括

上記で検討したごとく,相違点1ないし相違点7は格別のものではなく,そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本願補正発明の奏する作用効果は,上記引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

したがって,本願補正発明は,上記引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3.本件補正についての結び

以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項の規定により準用する特許法第126条第5項の規定に違反するので,特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について

1.本願発明

平成23年9月29日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願に係る発明は,平成23年4月8日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものである。

2.引用文献等

原査定の拒絶の理由に引用された,引用文献およびその記載事項は,前記「第2 平成23年9月29日付けの手続補正についての補正却下の決定」「2.独立特許要件についての検討」の「(1)引用文献等」に記載したとおりである。

3.対比・判断

請求項1記載の発明は,前記「第2 平成23年9月29日付けの手続補正についての補正却下の決定」「1.本件補正」の「本願補正発明」から,実質的に「ここで,前記第2の関数は,該第2の関数としての目標関数を実行することをさらに含み,前記目標関数は,前記第1のレイアウトが採点される目標を提供し,前記目標は,前記ラベルの重なりを最小化,又は,前記ラベルからチャート内のその関連した表示要素としてのアンカーへの距離を最小化することに対応し,」,「ここで,前記第3の関数は,該第3の関数としての摂動関数を実行することをさらに含み,前記摂動関数は,前記ラベルの最適レイアウトをもたらすために定義される1組の制約に従って前記第1レイアウトを変更し,前記摂動関数は,チャート内に含まれる単一のラベルの位置を調整することに対応し,」を削除したものである。

そうすると,請求項1記載の発明の構成要件を全て含み,さらに特定の構成要件に限定要件を付加したものに相当する補正後の発明が,前記「第2 平成23年9月29日付けの手続補正についての補正却下の決定」「2.独立特許要件についての検討」の「(3)判断 」に記載したとおり,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,請求項1記載の発明も,同様の理由により,当該引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.回答書の補正案について,
なお,請求人は,上記平成24年8月28日付けの回答書において,請求項1を,

「視覚データオブジェクトに関連するラベルを自動的に配置するためのコンピュータにより実行される方法であって,
前記ラベルの初期配置を定義する第1の関数に基づいて,前記ラベルの第1のレイアウト上の位置決めされたラベル位置を判断することと,
前記ラベルの所与のレイアウトに対する前記第1のレイアウトを評価する第2の関数に基づいて,前記第1レイアウト上の前記ラベルの指定された位置決めを採点して,第1のスコアを判断することと,
ここで,前記第2の関数は,該第2の関数としての目標関数を実行することをさらに含み,前記目標関数は,前記第1のレイアウトが採点される目標を提供し,
前記目標は,前記ラベルの重なりを最小化,又は,前記ラベルからチャート内のその関連した表示要素としてのアンカーへの距離を最小化することに対応し,
前記ラベルの初期配置を定義する第1の関数に基づいて,前記ラベルの第2のレイアウト上の位置決めされたラベル位置を判断することと,
前記ラベルの所与のレイアウトに対する前記第2のレイアウトを評価する第3の関数に基づいて,前記第2のレイアウト上の前記ラベルの指定された位置決めを採点して,第2のスコアを判断することと,
ここで,前記第3の関数は,該第3の関数としての摂動関数を実行することをさらに含み,前記摂動関数は,前記ラベルの最適レイアウトをもたらすために定義される1組の制約に従って前記第1レイアウトを変更し,
前記摂動関数は,チャート内に含まれる単一のラベルの位置を調整することに対応し,
前記第1のレイアウトと前記第2のレイアウトとの間のレイアウト変更を調整する第4の関数に基づいて,前記第1のスコアを前記第2のスコアと比較することと,
前記第1のスコアの前記第2のスコアとの前記比較結果に応じて,前記視覚データオブジェクトをレンダリングするためのレイアウトとして,前記第1のレイアウトおよび前記第2のレイアウトのうちの1つを選択することと
を具え,
前記第1のレイアウトを採点して,前記第1のスコアを判断することは,前記第1のレイアウトに関連するスコアを最小化して,該最小化されたスコアを最適レイアウトに関連するスコアに近づけることをさらに含み,
前記第1のレイアウトおよび前記第2のレイアウトのうちの1つを選択することは,最適レイアウトに最も密接に対応するレイアウトを選択することをさらに含むことを特徴とする方法。」
とする補正案を提示している。

これについて検討すると,
上記請求項の記載のうち,「前記第1のレイアウトを採点して,前記第1のスコアを判断することは,前記第1のレイアウトに関連するスコアを最小化して,該最小化されたスコアを最適レイアウトに関連するスコアに近づけることをさらに含み」とは,「第1のレイアウト」に関連する「第1のスコア」を最小化して「最適レイアウト」に近づけることであるが,これは,「目標関数は,前記第1のレイアウトが採点される目標を提供し,前記目標は,前記ラベルの重なりを最小化,又は,前記ラベルからチャート内のその関連した表示要素としてのアンカーへの距離を最小化することに対応」させることで,「第1のレイアウト」を最適なレイアウトに近づけることを意味しており,請求項1にすでに記載の事項を重ねて表現したものに過ぎない。
また,同「第1のレイアウトおよび前記第2のレイアウトのうちの1つを選択することは,最適レイアウトに最も密接に対応するレイアウトを選択することをさらに含む」についても,「前記第1のレイアウトおよび前記第2のレイアウトのうちの1つを選択する」ことが,最適なレイアウトに最も密接に対応するレイアウトを選択するようにすることは当然であることから,同様に,請求項1にすでに記載の事項を重ねて表現したものである。
したがって,仮に当該補正案通りの補正がなされたとしても,本審決の結論には影響しない。

5.むすび

以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その余の請求項について言及するまでもなく,本願は,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-25 
結審通知日 2013-01-29 
審決日 2013-02-14 
出願番号 特願2005-183579(P2005-183579)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
P 1 8・ 575- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 萩島 豪辻本 泰隆  
特許庁審判長 仲間 晃
特許庁審判官 長島 孝志
田中 秀人
発明の名称 チャート上の自動ラベル配置のためのシステムおよび方法  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  
復代理人 久下 範子  
復代理人 濱中 淳宏  

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