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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1276770
審判番号 不服2012-12239  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-06-28 
確定日 2013-07-10 
事件の表示 特願2008-111565「1以上の血漿誘導体を含む、品質保証された薬物」拒絶査定不服審判事件〔平成20年10月16日出願公開、特開2008-247913〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1996年(平成8年)5月6日(パリ条約による優先権主張1995年5月8日オーストリア)を国際出願日とする特願平8-533598号の一部を平成20年4月22日に新たな特許出願としたものである。
そして、平成24年2月23日付けで拒絶査定がされ、これに対して、平成24年6月28日に拒絶査定不服審判が請求され、その後、同年9月28日付けで当審より拒絶理由が通知され、これに応答して、同年12月27日付けで手続補正書及び意見書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成24年12月27日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「C型肝炎ウイルス(HCV)による汚染に関し品質保証された血漿プール(品質保証血漿プール)を製造する方法であって、以下のことを特徴とする方法:
(a)HCVによる個別の献血漿の汚染の不存在を、C型肝炎を示すマーカーの不存在により、または出発材料中における過剰のHCV中和抗体により、または献血漿の時の血漿ドナーの保護免疫により測定し;
(b)HCVのゲノム当量の測定を以下のように行う;
-n個の個々の献物(donation)から試料をとり、
-その個々の献物試料をm個の試料プールに集め、
-それぞれ核酸検出または測定方法によりこれらの試料プール中に存在するHCVゲノムまたはHCVゲノム配列の量を、1つまたは数個の内部標準を添加することによる内部標準を用いて検出し、その標準は、多分存在するHCVゲノムまたはHCVゲノム配列を1つの同じ試験管中で同時にそれぞれ測定または検出し、
それによって試料プール中のHCVゲノムまたはHCVゲノム配列の検出された量が規定された限界値以下であるこれらの個々の献物(ng)を品質保証血漿プールに混合し、
試料プール中のHCVゲノムまたはHCVゲノム配列の検出された量が該規定された限界値より大きい、または等しいこれらの個々の献物(na)を少なくとも1つの実質的なウイルス消失またはウイルス不活性化工程にかけるか、または除去する(nおよびmは正の整数である)。」

3.当審より通知した拒絶の理由
当審より通知した特許法第29条第2項の規定に基づく拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
請求項1に係る発明と引用文献1の発明とは、工程「(b)」に先立つ工程「(a)」の有無の点で相違する。
しかし、引用文献2並びに引用文献3に記載されるように、血液製剤を製造するにあたり、個別に血液ウイルス抗体検査を行い、汚染されている献血漿を除去することは、これまでに実施されている手段である。
よって、引用文献1の発明において、工程「(b)」に先立って、工程「(a)」を組み入れることは、当業者が容易になし得ることである。
また、 引用文献1には、HBV等の他の血液ウイルスのスクリーニングに役立てることも記載されており、加えて、引用文献2、3にも、HBV/HCV/HIV等の各血液ウイルスを除去することについて記載されているから、引用文献1の発明において、工程「(b)」を実施するにあたり、パーボウィルスに限らず、他の血液ウイルスについても検査することは、当業者が容易になし得ることである。

4.引用例1?3とその主な記載事項
当審からの拒絶の理由に引用文献1として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物であるJOURNAL OF CLINICAL MICROBIOLOGY、1993、Vol.31、No.2、p.323-328(以下、「引用例1」という。)には、次の事項((ア)?(キ))が記載されている(英文のため翻訳文で記載する。)。
(ア)「多数の献血単位から、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によりパーボウイルスB19を日常的にスクリーニングするための、高感度で迅速な方法が開発された。エジンバラでの3ヵ月の試験期間を通じて、20,000の連続的な血液単位のうちの6つ(0.03%)でB19 DNAが検出され、その濃度範囲は、2.4×10^(4)?5×10^(10)ウイルスDNAコピー/mlであった。…PCRスクリーニングのために本研究で開発された方法は、血液及び血液製剤中のB19の輸血を防ぐために日常的に適用でき、そして、感染症の医原性感染を防ぐための重要な役割を果たす。PCRスクリーニングはまた、現在の血清学的検出方法では部分的でしか有効ではない他のさまざまな感染関連ウイルスの検出及び排除のためにも使用し得る。」(第323頁要約)

(イ)「この研究において、我々は、3ヵ月の期間を通じて集められたウイルス血症献血者の頻度を測定し、そして、血液製剤からウイルスを排除するため、この方法を日常的に使用する実行可能性を調査するためにPCRを用いた。DNA抽出及びPCRの前に献血をプールしてスクリーニングを実施し、陽性プールは、その後、回収と臨床評価のためのウイルス血症提供者を特定するために再分割された。パーボウイルスB19の検出のためにこの研究で開発された方法は、PCRにより輸血及び血液製剤製造工程から他の病原性ウイルスを排除するモデルとしてみなすことができる。」(第323頁本文左欄下から第12行?最下行)

(ウ)「PCR DNA(10μl)は、前述(32)のとおり、プライマーPV1とPV2とを用いたnested PCRで増幅し、続いて、PV3とPV4とで増幅した。二回の反応による産物は、アガロースゲル電気泳動及びエチジウムブロマイド染色により検査した。全PCRは適切なポジティブ及びネガティブコントロールを用いて実施した。」(第324頁本文左欄第28?33行)

(エ)「献血者スクリーニング スコットランド南東部で約3ヵ月の期間を通じてボランティア供血者から集めた合計20,000の血液単位は、500単位で40に分けたプールでPCRによりスクリーンされた。このスクリーニング法の感度の限界は、1プール中で5ビリオン/mlであり、それ故、各構成要素単位では2,500ビリオン/mlであった。プライマーPV1?PV4を用いた最初のスクリーニングでは、40プールのうちの6つが、B19 DNAを検出可能量で含むことが判明した。全6サンプルは、プライマーPV5?PV8を用いたテストでも陽性であった。ウイルス血清患者を特定するために、各原陽性プールを、100単位で5プールに分け、そして、再スクリーンされた。この方法で分けた5プールの各セットから、1つのPCR陽性100単位プールが生じた。6つの陽性100単位プールは、それぞれ、順に10献血の10プールとして再構成され、そして、10プールの各セットから1つのPCR陽性サンプルが生じた。最後に、6つの陽性10プールをつくるために用いた各単位を、6人の陽性献血者(p1からp6)を特定するためにテストした。ウイルス血液単位を特定するために用いたステップの例を図1に示す。陽性サンプルに対応する血漿6単位はProtein Fractionation Centreから回収し、そして、全てPCR陽性であることが判明した。」(第324頁右欄第3?25行)

(オ)「

図1 連続的なPCRスクリーニングによるB19感染献血者の特定の例。500血液単位の陽性プール(no.17と20;下線)は、100単位の5プールで再テストされた。プール600の特定のため、10のプール(600/3が陽性を示した。)での再スクリーニングをして、そして、感染献血者(600/3/6)を最終的に特定した。」(第324頁図1)

(カ)「PCRによるドナースクリーニングの実行可能性 PCR陽性血液単位の特定は、4つの連続する個別のDNA抽出とnested増幅反応を要した。しかし、陰性であることが判明した最初の500単位プールを構成する血漿(テストされた40のうちの34)は、たった1回の増幅反応で安全に輸血されたであろう。僅かの一部単位(この研究では、20,000のうちの54)が、汚染除去のために、PCRによる4回のスクリーンが求められる。この研究では、DNA抽出とPCRのための所要時間の最適化は試みていない。にもかかわらず、我々は製造の前に感染した血漿全6単位をProtein Fractionation Centreから取り戻すことができた。」(第326頁本文右欄最下行?第327頁左欄第11行)

(キ)「このスクリーニング法は、感受性者への、付随する合併症を伴うパーボウイルスB19感染リスクを大いに減らすだけでなく、他の輸血感染ウイルス、特に、B型肝炎表面抗原陰性血液から起こる感染が続いているB型肝炎ウイルス、の血清学的スクリーニングの補完のためにも利用できる。」(第327頁左欄第21?27行)


当審からの拒絶の理由に引用文献2として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である特開平4-99799号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項((ク)、(ケ))が記載されている。
(ク)「Kuo,G.等の作製した抗HCV抗体検出ELISA系(オルソ社製HCV Ab ELISAキット)は、ウイルス遺伝子の非構造領域と考えられている部分のNS3からNS4領域のC100と呼ばれている部分を、スーパーオキシドジスムターゼ(Superoxide dismutase:SOD)との融合蛋白として酵母菌に発現させたものを抗原として使用している。この方法は世界中のHCV感染者の有するウイルス抗体を特異的かつ鋭敏に検出できること、また、輸血後のC型肝炎を伝播する輸血用血液のスクリーニングの判定法として価値の高いものである。
しかしながら、前記抗体検出系におけるC100抗体は、C型肝炎発症後陽性となり、感染から通常3?6ケ月間は検出不可能で、この間C型肝炎の診断法としては利用できないことが最大の問題点として挙げられる。また、抗C100抗体陰性の血液だけを輸血した症例においても、C型肝炎ウイルスの発生がある程度観られることから、この抗体検査だけでは輸血後肝炎の50%程度しか検出排除することができないと予想されており、新たな抗体検査法が切望されている。」(第2頁右上欄下から第6行?左下欄下から第6行)

(ケ)「発明の構成および効果
本件発明者等は非A非B型肝炎に感染していると考えられる日本人の肝機能値(GOT,GPT)異常血漿よりHCVのcDNAをクローニングした。その詳細については本件発明者等による先の特許出願(米国出願408,405号)において記されている。…
先ず、本発明の第一の目的を達成するために、当該cDNAのシークエンス情報よりペプチドシンセサイザーを用いて、以下に示すペプチドを合成した(以下、Peptide-0と称する)。
(ペプチドのアミノ酸配列は省略。)
本発明の第二の目的は、…
すなわち、本発明はHCV遺伝子でコードされたポリプロティンの構造領域の核蛋白に対応するペプチド抗原を見いだしたことによりなされたもので、このペプチドはHCV感染によるHC患者の診断や、血液及び血液製剤中のHCV被爆のスクリーニングについて高い信頼性、高い特異性でかつ誤った結果が極めて少なくなる方法に用いられるものとして有用である。」(第3頁左上欄下から第4行?左下欄第12行)


当審からの拒絶の理由に引用文献3として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物であるVox Sang、1993、Vol.64、p.73-81(以下、「引用例3」という。)には、次の事項((コ)?(セ))が記載されている(英文のため翻訳文で記載する。)。
(コ)「輸血の状況においては、レトロウイルス(HIV-1、HIV-2、HTLV-I、HTLV-II)、HCV及びHBVは、最も重点的にPCR分析を受けるウイルスである。この状況におけるPCRの長所は、"ウインドウ期間"、すなわち、感染の血清陰性段階の間のウイルスを検出する能力、及び、ウイルス血症や血漿の大きなプールから造られる製品中のウイルスを検出するためのマーカーとしての価値を含んでいる。」(第73頁要約第10?14行)

(サ)「HBVのための献血スクリーニングを除き、全ての微生物輸血前テストは、輸血安全性に課題を提示する持続性感染に対する抗体の検出に頼っている。そのため、献血が感染性であるもののスクリーニングでは陰性の血清陰性段階が常に存在する。HBsAgのスクリーニングであっても、現在の分析感度は、ウイルス血症の直接的な指標を提供するPCRのようなゲノム増幅方法によって潜在的に達成可能な一部に過ぎない。」(第73頁右欄下から第4行?第74頁左欄第6行)

(シ)「輸血微生物学でのPCRの有用性
輸血微生物学でのPCRの潜在的有用性は、(1) 感度(わずか10^(-18)gの核酸を検出。);これは大きな血漿プールから作られた製品のテスト時に価値があり、また、血清転換前の"ウインドウ期間"における感染の検出にも価値があり、急性診断を可能とする;(2) 抗体の存在での真正免疫と持続性感染症との区別;(3) 例えば輸血後(HIV及びHCV感染での母親由来抗体も同様)の受動抗体の診断での問題の解決;(4)系統識別(HIV-1/2、HTLV-I/II、HCV、HBV変異体)。
PCRの驚異的な感受性は、最高25,000の血漿献血プールから製造された血漿製品の分析によりよく実証されている。高い希釈要因を含むにもかかわらず、PCRはそのような血漿プールからのサンプル[3]や最終凝固因子製品[4,5]からウイルス核酸(HCV及びHIV)を検出できる。さらに、第VIII因子の所定バッチ中のC型肝炎ウィルスRNAのPCRによる検出と、被輸血者に非A型非B型肝炎(NANBH)を伝達する製品の可能性との間に、強い関連性が観察されている。したがって、PCRは血液製剤の安全性テストのための実験動物の利用を増大するかもしれない。」(第74頁左欄下から第7行?第75頁左欄第7行)

(ス)「C型肝炎ウイルス
HCVの初のクローニングに続いて[42]、UKの我々自身のグループは単独で、NANBH感染が臨床的に確認された[43]ヒト血清から直接ウイルスをクローニングし配列を決定した[29]。他のグループもまた我々と同様に、HCVをクローニングしており、それゆえ、次の適用範囲においてHCVウイルス血症の検出のためのPCRが早期に利用可能になった。」(第78頁左欄下から6行?右上欄第2行)

(セ)「極めて高感度のため、以前に議論されたように、調製において多数の血漿献物をプールする[4]にもかかわらず、PCRはまた、第VIII因子濃縮物のバッチ中のHCVのようなウイルスの検出に大きな価値があり;PCRはこれらの製品によるNANBHの感染可能性と優れた正の相関がある。
PCRの鋭敏な感度に照らしてみれば、HCV感染の高リスク患者がテストされた時、抗HCV血清学的分析(まだ発展中の比較的初期段階)は、全てのPCR反応性サンプルは検出しないことは驚くべきことではない。」(第78頁右欄第30行?下から第9行)

5.引用発明
引用例1には、多数の献血単位からポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によりパーボウイルスB19を日常的にスクリーニングするための、高感度で迅速な方法を開発したことが記載されている(上記(ア))。
さらに、その具体的方法について、PCRの実施にあたっては、適切なポジティブ及びネガティブコントロールを用いたこと(上記(ウ))、及び、供血者から集めた合計20,000の血液単位を500単位の40プールに分けてPCRスクリーンし、パーボウイルスB19 DNAを検出可能量で含む6サンプルの各原陽性プールをさらに100単位の5プールに分けて再スクリーンし、陽性の6プールをさらに10単位の10プールに分けて再スクリーンし、陽性サンプルをさらに各単位に分けて再スクリーンして、6人の陽性献血者を特定したこと(上記(エ)、(オ))が記載されている。
加えて、陽性サンプルに対応する血漿6単位については、Protein Fractionation Centreより血液製剤製造前に回収したこと(上記(エ)、(カ))が記載されている。
そして、パーボウイルスB19陽性の血漿6単位を血液製剤製造前に回収したことは、パーボウイルスB19による汚染に関し品質保証された血漿プールが製造されたことを意味すると解することができるし、また、適切なポジティブ及びネガティブコントロールを用いたPCRによって、パーボウイルスB19 DNAを検出可能量で含むサンプルを検出したことから、パーボウイルスB19 DNA量の検出にあたり、これらコントロールが利用されたことは明らかである。
よって、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「パーボウイルスB19による汚染に関し品質保証された血漿プールを製造する方法であって、以下のことを特徴とする方法:
パーボウイルスB19のDNA当量の測定を以下のように行う;
-20,000個の個々の献物から試料をとり、
-その個々の献物試料を40個の試料プールに集め、
-それぞれPCRによりこれらの試料プール中に存在するパーボウイルスB19 DNAの量を、適切なポジティブ及びネガティブコントロールを添加することによるこれらコントロールを用いて検出し、これらコントロールは、多分存在するパーボウイルスB19 DNAを1つの同じ試験管中で同時にそれぞれ検出し、
それによって試料プール中のパーボウイルスB19 DNAの検出された量が規定された限界値以下であるこれらの個々の献物(19,994)を品質保証血漿プールに混合し、
試料プール中のパーボウイルスB19 DNAの検出された量が該規定された限界値より大きいこれらの個々の献物(6)を回収する。」

6.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「DNA」、「PCR」、「適切なポジティブ及びネガティブコントロール」及び「回収」は、それぞれ、本願発明における「ゲノム」、「核酸検出」、「内部標準」及び「除去」に実質的に相当するといえる。
よって、両発明の間の一致点及び相違点(相違点1、2)は、次のとおりといえる。
[一致点]
「ウイルスによる汚染に関し品質保証された血漿プール(品質保証血漿プール)を製造する方法であって、以下のことを特徴とする方法:
(b)ウイルスのゲノム当量の測定を以下のように行う;
-n個の個々の献物(donation)から試料をとり、
-その個々の献物試料をm個の試料プールに集め、
-それぞれ核酸検出によりこれらの試料プール中に存在するウイルスゲノムの量を、数個の内部標準を添加することによる内部標準を用いて検出し、その標準は、多分存在するウイルスゲノムを1つの同じ試験管中で同時にそれぞれ検出し、
それによって試料プール中のウイルスゲノムの検出された量が規定された限界値以下であるこれらの個々の献物(ng)を品質保証血漿プールに混合し、
試料プール中のウイルスゲノムの検出された量が該規定された限界値より大きいこれらの個々の献物(na)を除去する(nおよびmは正の整数である)。」

[相違点]
・相違点1
ウイルスの汚染に関し品質保証された血漿プールを製造するにあたり、本願発明では、「C型肝炎ウイルス(HCV)」を検出及び除去の対象とするのに対し、引用発明では、「パーボウイルスB19」を対象としており、「HCV」を対象とすることは特定していない点。

・相違点2
本願発明では、工程「(b)」に先立ち、「(a)HCVによる個別の献血漿の汚染の不存在を、C型肝炎を示すマーカーの不存在により、または出発材料中における過剰のHCV中和抗体により、または献血漿の時の血漿ドナーの保護免疫により測定」する工程を設けているのに対し、引用発明では、この工程を設けることは特定していない点。

7.判断
上記相違点1、2について順に検討する。
・相違点1について
引用例1には、さらに、
(a)「PCRスクリーニングはまた、現在の血清学的検出方法では部分的でしか有効ではない他のさまざまな感染関連ウイルスの検出及び排除のためにも使用し得る。」(上記(ア))
(b)「パーボウイルスB19の検出のためにこの研究で開発された方法は、PCRにより輸血及び血液製剤製造工程から他の病原性ウイルスを排除するモデルとしてみなすことができる。」(上記(イ))
(c)「このスクリーニング法は…他の輸血感染ウイルス、特に、B型肝炎表面抗原陰性血液から起こる感染が続いているB型肝炎ウイルス、の血清学的スクリーニングの補完のためにも利用できる。」(上記(キ))
ことも記載されており、そして、これら記載(a)?(c)より、引用例1には、開示されるPCRスクリーニング法は、パーボウイルスB19に限らず、肝炎ウイルスを含む他の輸血感染ウイルスのスクリーニングに使用できることも記載されているといえる。
しかも、引用例2には、
(d)「Kuo,G.等の作製した抗HCV抗体検出ELISA系(オルソ社製HCV Ab ELISAキット)は…世界中のHCV感染者の有するウイルス抗体を特異的かつ鋭敏に検出できること、また、輸血後のC型肝炎を伝播する輸血用血液のスクリーニングの判定法として価値の高いものである。」(上記(ク))
と記載されており、また、引用例3には、
(e)「輸血の状況においては、レトロウイルス(HIV-1、HIV-2、HTLV-I、HTLV-II)、HCV及びHBVは、最も重点的にPCR分析を受けるウイルスである。」(上記(コ))
(f)「PCRの驚異的な感受性は、最高25,000の血漿献血プールから製造された血漿製品の分析によりよく実証されている。高い希釈要因を含むにもかかわらず、PCRはそのような血漿プールからのサンプル[3]や最終凝固因子製品[4,5]からウイルス核酸(HCV及びHIV)を検出できる。」(上記(シ))
(g)「HCVウイルス血症の検出のためのPCRが早期に利用可能となった。」(上記(ス))
(h)「PCRはまた、第VIII因子濃縮物のバッチ中のHCVのようなウイルスの検出に大きな価値があり…」(上記(セ))
と記載されているように、HCVは、代表的な輸血感染ウイルスの1つであり(上記(d)?(h))、そして、PCRにより検出可能なものでもあること(上記(e)?(h))は、本願優先日当時、当業者に周知の事項であったし、加えて、PCRにより血漿プールのサンプルからもHCVを検出できることも、当業者に知られていた事項である(上記(f))。

上述のとおり、引用例1には、開示されるPCRスクリーニング法は、肝炎ウイルスを含む他の輸血感染ウイルスのスクリーニングにも使用できることが記載されているところ、HCVは代表的な輸血感染ウイルスの1つであり、そして、PCRによりHCVを検出できることは、本願優先日当時、当業者に周知の事項であり、しかも、PCRは血漿プールのサンプルからもHCVを検出することも当業者に知られていたという状況に鑑みれば、引用発明において、ウイルスの汚染に関し品質保証された血漿プールを製造するにあたり、検出及び除去の対象に「C型肝炎ウイルス(HCV)」を加えることは、当業者が容易になし得ることである。


・相違点2について
引用例1には、
(i)「PCRスクリーニングはまた、現在の血清学的検出方法では部分的でしか有効ではない他のさまざまな感染関連ウイルスの検出及び排除のためにも使用し得る。」(上記(ア))
(j)「このスクリーニング法は…他の輸血感染ウイルス、特に、B型肝炎表面抗原陰性血液から起こる感染が続いているB型肝炎ウイルス、の血清学的スクリーニングの補完のためにも利用できる。」(上記(キ))
と記載されており、そして、これら記載(i)、(j)より、引用例1には、輸血感染ウイルスの検出のために、血清学的スクリーニングが実施されてはいるものの、十分に有効であるとはいえず、そして、PCRスクリーニングは、血清学的スクリーニングの補完となり得ることも記載されているといえる。
さらに、引用例2には、
(k) 「抗HCV抗体検出ELISA系(オルソ社製HCV Ab ELISAキット)は…世界中のHCV感染者の有するウイルス抗体を特異的かつ鋭敏に検出できること、また、輸血後のC型肝炎を伝播する輸血用血液のスクリーニングの判定法として価値の高いものである。
しかしながら、前記抗体検出系におけるC100抗体は、C型肝炎発症後陽性となり、感染から通常3?6ケ月間は検出不可能で、この間C型肝炎の診断法としては利用できないことが最大の問題点として挙げられる。また、抗C100抗体陰性の血液だけを輸血した症例においても、C型肝炎ウイルスの発生がある程度観られることから、この抗体検査だけでは輸血後肝炎の50%程度しか検出排除することができない…」(上記(ク))
(l)「本発明はHCV遺伝子でコードされたポリプロティンの構造領域の核蛋白に対応するペプチド抗原を見いだしたことによりなされたもので、このペプチドはHCV感染によるHC患者の診断や、血液及び血液製剤中のHCV被爆のスクリーニングについて高い信頼性、高い特異性でかつ誤った結果が極めて少なくなる方法に用いられるものとして有用である。」(上記(ケ))
と記載されており、また、引用例3には、
(m)「PCRの長所は、ウインドウ期間、すなわち、感染の血清陰性段階の間のウイルスを検出する能力、及び、ウイルス血症や血漿の大きなプールから造られる製品中のウイルスを検出するためのマーカーとしての価値を含んでいる。」(上記 (コ))
(n)「HBVのための献血スクリーニングを除き、全ての微生物輸血前テストは、輸血安全性に課題を提示する持続性感染に対する抗体の検出に頼っている。そのため、献血が感染性であるもののスクリーニングでは陰性の血清陰性段階が常に存在する。」(上記(サ))
(o)「輸血微生物学でのPCRの潜在的有用性は、(1) 感度(わずか10^(-18)gの核酸を検出。);これは大きな血漿プールから作られた製品のテスト時に価値があり、また、血清転換前のウインドウ期間における感染の検出にも価値があり…」(上記(シ))
(p)「PCRの鋭敏な感度に照らしてみれば、HCV感染の高リスク患者がテストされた時、抗HCV血清学的分析(まだ発展中の比較的初期段階)は、全てのPCR反応性サンプルは検出しないことは驚くべきことではない。」(上記(セ))
と記載されているように、HCVに対する検出能の改良が図られつつ抗体によるHCVスクリーニングが個別に実施されてはいるものの(上記(k)、(l)、(n))、抗体によるスクリーニングでは、ウイルス感染後から一定期間は血清陰性であること、いわゆる、"ウインドウ期間"の存在が課題となっており(上記(k)、(m)?(p))、そして、PCRにより、"ウインドウ期間"における検出が可能になること(上記(m)、(o)、(p))についても、本願優先日当時、当業者に周知の事項であった。
(第2世代試薬による抗体スクリーングでHCV陰性であっても、依然として、輸血後C型肝炎の発症が認められていることは、次の文献からも確認できる。
文献:肝臓、1994、Vol.35、No.2、p.189
・「献血血液について,1992年2月より第2世代試薬(PHA)によるスクリーニングが導入され,輸血後肝炎(PTH)発症への影響について関心が高まっている.我々は本学での輸血症例についてPTH発症の有無について追跡調査を実施しているが,追跡例中に発症をみた輸血後C型肝炎(PTHC)の症例と共にPTH発症率が著減したことが明らかになったので報告する.」(左欄第1?7行)
・「成績:対象症例は287例であり,輸血後3カ月以上追跡した症例は266例で,平均輸血本数は5.2本であった.これらの症例中PTH発症例は19例(発症率7.1%)でC型PTHは1例(同0.38%)のみで他は非B非C型PTH(6.8%)であった(表).」(左欄第12?16行)
・「またPHAによる抗体スクリーニング陰性でもPTHCの発症は当然予測されるが,これらの検討ではHCV抗体陰性でHCV-RNA陽性の頻度は明らかにされていない.今回の我々の検討ではPHAによるHCVキャリアの見逃し率は少なくとも0.072%となる.」(右欄本文第13?18行))

上述のとおり、HCVの抗体検査法は、従前より個別に実施されている検査法であり、一定の成果をあげてはいるものの、この検査法では、"ウインドウ期間"の存在により十分に安全とまではいえないことは、本願優先日当時、当業者に周知の事項であった。
そして、引用例1、3には、PCRにより、"ウインドウ期間"における検出が可能になることが記載されており、さらに、引用例1には、PCRは抗体検査法の補完になることも記載されているから、引用発明において、PCRによるスクリーニングと抗体検査法とを組み合わせる動機付けがある。
しかも、汚染試料プールが低減できれば、PCRによる再スクリーニングの負担軽減になることは明らかであるから、PCRによるスクリーニングと抗体検査法とを組み合わせるにあたり、抗体検査法を先に実施すること、すなわち、引用発明において、工程「(b)」に先立ち、工程「(a)」を設けることは、当業者が容易になし得ることである。


・本願発明の効果について
本願発明の効果に関して、本願発明の詳細な説明には、個別血漿試料、血漿プール試料及び濃縮血漿プール試料での各PCR検出結果が記載されている(実施例2.2、4、6が本願発明に対応する。)。
しかしながら、上記「・相違点1について」で述べたとおり、引用例1、3には、PCRは血漿プール試料でも有効であることが記載されているから、本願発明の効果は、当業者の予測を超えるものではない。
また、本願発明の効果に関して、審判請求人は意見書(平成24年12月27日付け)において、
「まず、HCVについては、いわゆる「ウインドウ期間」の問題が深刻であり、本願出願時には解決されておりませんでした。すなわち、HCVで汚染されていない安全な血漿プールを得るため、ウイルス非活性化処理、ついで抗HCV抗体の測定が行われ、抗HCV抗体の検出された血漿は排除されたのでありますが、それでもHCV感染の初期にあるものは抗HCV抗体が産生されていないため(「ウインドウ期間」)、活性で感染性のHCVを含む血漿を排除することはできませんでした。」(【意見の内容】(III))
と主張している。
しかしながら、上記「・相違点2について」で述べたとおり、従前から実施の抗体検査法には"ウインドウ期間"の問題があることは、本願優先日当時、当業者に周知の課題であり、そして、引用例1、3には、PCRにより、"ウインドウ期間"における検出が可能になることが記載されているから、審判請求人の上記主張を踏まえても、本願発明の効果が、当業者の予測を超えるものではないことに変わりはない。

8.むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、その優先日前に頒布された刊行物である引用例1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-06 
結審通知日 2013-02-12 
審決日 2013-02-25 
出願番号 特願2008-111565(P2008-111565)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 遠藤 広介  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 大久保 元浩
平井 裕彰
発明の名称 1以上の血漿誘導体を含む、品質保証された薬物  
代理人 山中 伸一郎  
代理人 冨田 憲史  
代理人 山崎 宏  
代理人 田中 光雄  

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