• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11D
管理番号 1276839
審判番号 不服2010-13811  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-23 
確定日 2013-07-08 
事件の表示 特願2006-551560「粘土及びポリジメチルシロキサンを含む固形粒子状の洗濯用洗剤組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成17年8月18日国際公開、WO2005/075620、平成19年8月9日国内公表、特表2007-522291〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下「本願」という。)は、2005年2月1日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2004年2月3日 欧州特許庁(EP)(3件)及び同年9月17日 欧州特許庁(EP))を国際出願日とする出願であって、平成21年7月6日付けで拒絶理由が通知され、同年11月16日付けで意見書が提出されたが、平成22年2月18日付けで拒絶査定され、同年6月23日付けで拒絶査定不服審判が請求され、平成24年7月6日付けで拒絶理由が通知され、平成25年1月10日付けで意見書が提出されたものである。

第2 当審が通知した拒絶の理由
平成24年7月6日付けで当審が通知した拒絶の理由は、「この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。」というものであり、その具体的な理由として、以下の事項が示されている。
「(1)
請求項1に記載された発明は、
「以下の成分:
(a)2重量%?20重量%の粘土;
(b)0.5重量%?10重量%のポリジメチルシロキサン;
(c)0.1重量%?5重量%の凝集成分;
(d)5重量%?25重量%の陰イオン性洗浄界面活性剤;
(e)1重量%?22重量%のゼオライト;
(f)12重量%?30重量%のカーボネート
を含む固形粒子状の洗濯用洗剤組成物であって;
前記粘土及びポリジメチルシロキサンが共に前記組成物中に共同微粒子混合体の形で存在する、固形粒子状の洗濯用洗剤組成物。」
である。
そして、発明の詳細な説明の段落【0009】には、「・・・しかしながら、ポリジメチルシロキサンの非常に高い疎水性のために、ポリジメチルシロキサンを粘土と混合する場合は、その結果得られる粒子状混合物が疎水性となり、そのことが低い柔軟仕上げ特性を導く。理論に束縛されるものではないが、疎水性の粘土-ポリジメチルシロキサン粒子状混合物は洗浄溶液中で膨潤及び分散するのが容易ではなく、そのため、良好な柔軟仕上げ効果は提供されないと考えられる。本発明者らは、驚いたことに、固形粒子状の洗濯用洗剤組成物中に存在する必要のある他の特定の成分の量を選択的に変更することによって、ポリジメチルシロキサンと粘土の両方を互いに混合して固形粒子状の洗濯用洗剤組成物へ混入して良好な柔軟仕上げ性能を与えることができることを見出した。」と記載されている。
すなわち、請求項1に記載された発明は、ポリジメチルシロキサンと粘土を混合すると、得られる粒子状混合物が疎水性になって柔軟仕上げ効果が劣ることが想定されるのに、他の特定の成分の量を選択的に変更することによって、良好な柔軟仕上げ性能を与えることを見出してなされた発明であると認められる。
しかし、発明の詳細な説明には、具体的な洗濯用洗剤組成物として、【表4】に示される特定の組成からなるものが1例記載されているにすぎず、しかもそれが良好な柔軟仕上げ性能を有するものであることについて、実験的な確認がなされていない。
そして、上記のとおり、段落【0009】の記載によれば、ポリジメチルシロキサンと粘土を混合した場合には、通常は前者の高い疎水性のために柔軟仕上げ効果が劣ると考えられるのであるから、何の実験的な確認もなく、【表4】に示された特定の組成からなるものが良好な柔軟仕上げ性能を有することが当業者に自明なことであるとはいえないし、ましてや、請求項1に記載された特定の組成範囲で定義される特定の洗濯用洗剤組成物が、その範囲全体にわたって良好な柔軟仕上げ効果を有することは、当業者に自明であるとは到底いえることではない。
また、【表4】に示された組成物において、カーボネート(炭酸塩)の含有量を求めると、「実施例1の噴霧乾燥粉末」には「炭酸ナトリウム」が21.44%含まれているから(【表2】より)、49.43×0.2144=10.6%となり、請求項1で定義される「12重量%?30重量%」の条件を満足しないし、【表4】の「緑/青の炭酸塩スペックル」とはどのようなものか明らかではないが、これがカーボネートの一種であるとしても、合計で12重量%に満たないから、やはり請求項1の条件を満足しない(請求項7についてはなおさらである。)。
したがって、唯一具体的に開示されている【表4】の組成物は、本願明細書に記載されている本願発明の課題を解決できるものであるか否かが明らかでないばかりでなく、請求項1の条件すら満足しないものであるから、請求項1に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。
よって、請求項1及びそれを引用する請求項2?23に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。 」

第3 当審の判断
当審は、本願は上記拒絶理由によって拒絶をすべきものと判断する。
その理由は、次のとおりである。

1 はじめに
特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号(いわゆる「サポート要件」)に適合するものであるか否かは、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものとされている(平成17年(行ケ)第10042号)。
そこで、本願の特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たすか否かについて、上記観点から検討する。

2 特許請求の範囲の記載
本願の請求項1?23の記載は、特許請求の範囲の請求項1?23に記載されたとおりのものであり、そのうち請求項1の記載は次のとおりである。
「以下の成分:
(a)2重量%?20重量%の粘土;
(b)0.5重量%?10重量%のポリジメチルシロキサン;
(c)0.1重量%?5重量%の凝集成分;
(d)5重量%?25重量%の陰イオン性洗浄界面活性剤;
(e)1重量%?22重量%のゼオライト;
(f)12重量%?30重量%のカーボネート
を含む固形粒子状の洗濯用洗剤組成物であって;
前記粘土及びポリジメチルシロキサンが共に前記組成物中に共同微粒子混合体の形で存在する、固形粒子状の洗濯用洗剤組成物。」(以下、請求項1に記載された発明を「本願発明」という。)

3 本願発明が解決しようとする課題
本願の願書に添付した明細書(以下「本願明細書」という。)の段落【0009】には「・・・しかしながら、ポリジメチルシロキサンの非常に高い疎水性のために、ポリジメチルシロキサンを粘土と混合する場合は、その結果得られる粒子状混合物が疎水性となり、そのことが低い柔軟仕上げ特性を導く。理論に束縛されるものではないが、疎水性の粘土-ポリジメチルシロキサン粒子状混合物は洗浄溶液中で膨潤及び分散するのが容易ではなく、そのため、良好な柔軟仕上げ効果は提供されないと考えられる。本発明者らは、驚いたことに、固形粒子状の洗濯用洗剤組成物中に存在する必要のある他の特定の成分の量を選択的に変更することによって、ポリジメチルシロキサンと粘土の両方を互いに混合して固形粒子状の洗濯用洗剤組成物へ混入して良好な柔軟仕上げ性能を与えることができることを見出した。」と記載されている。
すなわち、本願発明は、ポリジメチルシロキサンと粘土を混合すると、得られる粒子状混合物が疎水性になって柔軟仕上げ効果が劣ることが想定されるのに、他の特定の成分の量を選択的に変更することによって、良好な柔軟仕上げ性能を与えることを見出してなされた発明であるいえ、これが本願発明の解決しようとする課題であると認められる。

4 発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明に関して、以下の実施例が記載されている。
「【実施例】
【0039】
水性スラリーの組成
【表1】

【0040】
噴霧乾燥粉末の調製
上記組成物を有する水性スラリーを湿分含量26.3%に調製する。水性スラリーを80℃まで加熱して、空気入口温度が270℃?300℃の向流噴霧乾燥塔へポンプで(8?8.5MPa(80?85Bar))高圧下注入する。水性スラリーを霧化して、霧状のスラリーを乾燥させて固体混合物を製造し、これをその後冷却し、篩い分けて必要以上に大きな物質(>1.8mm)を除去して、自由流動性の噴霧乾燥粉末を形成する。微細な物質(<0.15mm)は、噴霧乾燥塔内で排気によって水簸して、ポストタワー格納システム内に回収する。噴霧乾燥粉末は、湿分含量3.0重量%、容積密度360?410g/L、及び噴霧乾燥粉末の92.5重量%が粒径150?710マイクロメートルを有するような粒径分布を有する。噴霧乾燥粉末の組成を以下に示す。
【0041】
噴霧乾燥粉末の組成
【表2】

【0042】
粘土シリコーン粒塊の調製
エマルション作製:粘度100Pa・s(100,000cp)のポリジメチルシロキサン(PDMS)1.17kgを混合容器中の活性物質30%の直鎖アルキルベンゼンスルホネート水溶液0.12kgに加えて、均質PDMSエマルションが形成されるまでパドル式攪拌器を用いて1?2分の間、十分に混合する。
【0043】
粒塊作製:1回分の粒塊は、1バッチ仕込量8kgのFM50ローディッジ(Lodige)バッチミキサー内で作製される。粉末化した粘土をミキサーに加える。続いて、(すき刃を保持する)主軸、及び高速チョッパーを始動し、粉末を攪拌して流動化する。ミキサーの運転中に、水0.45kg及び均質PDMSエマルション1.29kgを同時にミキサー内のチョッパー刃付近に投入して、流体を粉末に分散させる。十分なアグロメレーションが生じて湿潤粒塊が形成するまで、混合を続ける。湿潤粒塊はその後、粒塊の水分が(赤外線で測定して)4重量%?8重量%となるまで流動床式乾燥機において140℃で3?4分間乾燥させる。必要以上に大きな粒子(例えば、直径が1.4mmを超えるもの)を篩い分けによって除去し、また微細なもの(例えば、直径が0.25mm未満のもの)は、流動床式排気を通じて、及び所望により更に篩い分けすることによって除去する。結果として得られるPDMS/粘土粒塊は典型的には以下の組成を有し、洗濯用洗剤組成物へ混入するのに好適である。
【0044】
PDMS/粘土粒塊の組成
【表3】

【0045】
本発明にかかる粒状の洗濯用洗剤組成物の調製
噴霧乾燥粉末9.89kg、PDMS/粘土粒塊2.12kg、及び他の個別に投与される乾燥付加物質7.99kg(合計量)を、2.5rad/s(24rpm)で作動している直径1mのコンクリートバッチミキサーに投与する。前記材料全てがミキサーに投与された時点で、混合物を5分間混合し、それと同時に香料を噴霧により適用して粒状の洗濯用洗剤組成物を形成する。粒状の洗濯用洗剤組成物の形成を以下に説明する。
【0046】
本発明にかかる粒状の洗濯用洗剤組成物
【表4】



5 サポート要件についての検討
本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明に関する具体的な洗濯用洗剤組成物として、【表4】に示される特定の組成からなるものが1例記載されているが、それが本願発明の課題(良好な柔軟仕上げ性能を与える)を解決できることについては何ら実験的な確認がなされていないし、加えて、その例は以下で示すようにカーボネート(炭酸塩)の含有量が本願発明の条件を満足するものではない。
すなわち、【表4】に示された組成物において、カーボネート(炭酸塩)の含有量を求めると、「実施例1の噴霧乾燥粉末」には「炭酸ナトリウム」が21.44%含まれているから(【表2】より)、49.43×0.2144=10.6%となり、本願発明で定義される「12重量%?30重量%」の条件を満足しないし、【表4】の「緑/青の炭酸塩スペックル」とはどのようなものか明らかではないが、これがカーボネートの一種であるとしても、合計で11.7重量%にしかならず、12重量%に満たないから、やはり本願発明の条件を満足しない。
そして、上記のとおり、本願明細書の段落【0009】の記載によれば、ポリジメチルシロキサンと粘土を混合した場合には、通常は前者の高い疎水性のために柔軟仕上げ効果が劣ると考えられるのであるから、何の実験的な確認もなしに、本願発明で定義される特定の洗濯用洗剤組成物が、その範囲全体にわたって良好な柔軟仕上げ効果を有することは、当業者に自明であるとはいえないところ、上記のとおり、発明の詳細な説明に唯一具体的に開示されている【表4】の組成物は、本願発明の課題を解決できるものであるか否かが明らかでないばかりでなく、本願発明の条件すら満足しないものであるから、このような発明の詳細な説明の記載では、本願発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。

6 審判請求人の主張について
審判請求人は、平成25年1月10日付けの意見書において追加実験を提示し、本願発明の構成とすることによって布地柔軟化性能を向上させることができる旨を主張する。
しかし、そこで提示された追加実験の洗剤組成物Bも、カーボネートである「炭酸ナトリウム」の含有量が30.4892重量%であって、本願発明の条件を満足するものではないから、その結果を考慮したとしても、本願発明の構成とすることによって、本願発明の課題を解決できることが明らかにされたとはいえない。
なお、審判請求人は、上記意見書において、「今回の追加実験結果からも明らかなように、ゼオライトとアルキルベンゼンスルホネートとの配合量比に関係なく、粘土及びポリジメチルシロキサンが共同微粒子混合体の形態で存在すること、ならびに所定量のアルキルベンゼンスルホネート、ゼオライト及びカーボネートの添加によって、布地柔軟化性能が向上することがわかります。よって、本願明細書の記載、特願2006-551556号の明細書の記載、及び追加実験結果を参酌すれば、本願請求項1で特定する(a)?(f)の各成分を特定量で配合することにより良好な布地柔軟化効果が得られることは、当業者が理解し得るものと思料いたします。」とも主張しているが、この追加実験結果から理解できるのは、「ゼオライトとアルキルベンゼンスルホネートとの配合量比に関係なく、粘土及びポリジメチルシロキサンが共同微粒子混合体の形態で存在すること、ならびに所定量のアルキルベンゼンスルホネート、ゼオライト及びカーボネートの添加によって、布地柔軟化性能が向上すること」ではなく、むしろ、「カーボネートの量に関係なく、ゼオライトとアルキルベンゼンスルホネートとの配合量比を特願2006-551556号の請求項1で規定される範囲とすれば、布地柔軟化性能が向上すること」であるとすらいえる。
したがって、審判請求人の主張は採用することができない。

7 小括
よって、本願発明が、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

第4 むすび
以上のとおり、本願は特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-08 
結審通知日 2013-02-12 
審決日 2013-02-26 
出願番号 特願2006-551560(P2006-551560)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C11D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 服部 智  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 松浦 新司
小出 直也
発明の名称 粘土及びポリジメチルシロキサンを含む固形粒子状の洗濯用洗剤組成物  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 中村 行孝  
代理人 伊藤 武泰  
代理人 横田 修孝  
代理人 浅野 真理  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ