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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B24B
管理番号 1277100
審判番号 不服2012-9851  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-28 
確定日 2013-07-25 
事件の表示 特願2009-218427「加工装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 4月 7日出願公開、特開2011- 67876〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯と本件発明
本願は平成21年9月24日に出願され、平成23年7月26日付拒絶理由通知に対して平成23年10月3日に意見書と手続補正書が提出され、さらに、平成23年11月11日付拒絶理由通知に対して平成24年1月16日に意見書と手続補正書が提出されたが、平成24年2月23日付で平成24年1月16日付手続補正が却下されるとともに、拒絶査定がなされたものである。これに対し、請求人は平成24年5月28日に該査定の取消を求めて審判を請求すると同時に、明細書と特許請求の範囲を補正対象とする手続補正書を提出した。その後、当審による平成24年9月28日付審尋に対して平成24年12月3日に回答書が提出され、平成25年3月4日付拒絶理由通知に対して平成25年5月7日に意見書と手続補正書が提出されている。
本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成25年5月7日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明は次のとおりである。
「回転して被加工物を切断もしくは被加工物に対して溝入れするダイシング用の円板状の砥石と、
前記砥石の外周部に設けられた切削部に前記砥石の径方向から対向するとともに前記砥石の幅方向に位置調節可能に設けられ、前記砥石に向けて切削水を吐出するノズルと、
を備え、
前記ノズルの断面形状は、前記砥石の幅方向に沿った方向の寸法が、前記砥石の周方向に沿った方向の寸法より大きい矩形状、もしくは楕円形状に形成されていて、切削水の水圧が最も高くなる範囲が前記ノズルの幅方向に沿って広がっており、
前記砥石の幅方向の中心が、前記ノズルから吐出される切削水の水圧が最も高くなる範囲内に位置して前記砥石の両側の水圧差が調整され得るように、前記砥石の幅方向に対する前記ノズルの位置が調節可能とされていることを特徴とする加工装置。」(以下、「本件発明」という。)

2.当審の拒絶理由の概要
当審が平成25年3月4日に通知した拒絶理由は、概略、本願の請求項1ないし3に係る発明が、本願の出願前に頒布された以下の刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
刊行物1: 実公昭46-868号公報
刊行物2: 特開2007-273527号公報

3.刊行物に記載された発明または事項
3.1 刊行物1
刊行物1には、以下の記載が見いだされる。
a.(第1欄第15,16行)
「本考案はタイル、石材等の材料に切断、或は溝切加工を行う装置に関する。」
b.(第1欄第26行?第2欄第18行)
「図面に於いて、切断用研削車1は、その一部を基板2上面に長孔3を貫通して突出させて回動可能に設けられており、前記長孔の一端と前記研削車との間には、冷却水噴射ノズル4を開口させる
このノズルは研削車回転軸線に対し平行な平面をなす如く圧扁され、噴流は研削車と被加工体5とが接触を開始する部位に指向する如くしてある
このような装置にあつて被加工体5に溝切りを行うに際しては、第1図に示す如く、基板2上面に被加工体5を接触させ研削車1の方向に押進し研削車により溝切りを行うものであるが、研削車と研加工体とが接触し、加工の開始されつつある部位に対し、ノズル4から冷却水が噴射されるので、冷却は良好完全に行われる。
又、この時、冷却水は前記部位に指向されるのみでなく、基板2の裏面の長孔3両側をあたかも1枚の水膜の如き状態で流過するので、(以下省略)。」
c.(第2欄第20?26行)
「基板上面に基板に設けた長孔を貫通して研削車の一部を突出させ、前記基板下面には前記研削車の回転軸と略々平行な平面をなす如く圧扁した形状をなし前記長孔幅より大きな開口幅を有するノズルを、このノズルからの噴流が前記研削車と被加工体が接触を開始する点に略々指向される如く設けて成るタイル等の切断装置。」
d.(第1図?第3図)
研削車1が円板状であること、研削車1の外周部の接触開始部位にノズル4が径方向から対向すること、ノズル4は研削車の軸線に平行な方向の寸法が周方向に沿った寸法より大きい偏平な断面形状を有すること、が理解される。
上記記載事項を本件発明の記載に倣って整理すると、刊行物1には次の発明が記載されているということができる。
「回動してタイル、石材等の被加工体を切断もしくは被加工体に対して溝切りする円板状の研削車と、
前記研削車の外周部の接触開始部位に前記研削車の径方向から対向し、前記研削車に向けて冷却水を吐出するノズルと、
を備え、
前記ノズルの断面形状は、前記研削車の軸線方向に沿った方向の寸法が、前記研削車の周方向に沿った方向の寸法より大きく偏平に形成されている、切断装置。」(以下、「刊行物1記載の発明」という。)の発明が記載されていると認める。

3.2 刊行物2
刊行物2には、以下の記載が見いだされる。
a.(明細書段落2)
「【0002】
従来から、IC,LSI等のデバイスが分割予定ラインによって区画され形成されたウエーハは、切削ブレードを含む切削装置によって分割予定ラインが切削され個々のデバイスに分割されパッケージングされて、携帯電話、パソコン等の電子機器に利用される。」
b.(同段落4,5)
「【0004】
また、切削手段には、切削ブレードの切刃外周部に切削水を供給する切削水噴射ノズル手段が配設されており、切削ブレードの切刃外周部に切削水を噴射させて切削ブレードの切削点を冷却するとともに洗浄することで、切削ブレードによる切削効率の向上を図っている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
ここで、切削水噴射ノズル手段による切削水の噴射は、切削水がブレード表裏両面に対して均等に分散するように切削ブレードの切刃外周部の中央部に対して行わせることが重要である。そこで、従来の切削装置は、切削ブレードの切刃外周部に対する切削水噴射ノズル手段の噴射ノズルの位置を調整するための調整手段を備え、作業者が鏡等を利用して切削ブレードと噴射ノズルとの位置関係を目視で確認しながら噴射ノズルの位置調整を行うようにしている。」
c.(同段落8)
「【0008】
切削ブレードの切刃外周部の中央部に噴射ノズルの噴射口を位置づけられないと、切削水がブレード表裏両面に対して均等に分散するように供給されず、切削加工時の発熱の冷却が不十分となってブレード焼けを生じ切削ブレードが異常磨耗するとか、ブレード曲がりにより切削ブレードが破損するとか、切削不良により切削ブレードが曲がって被加工物にカーフずれが生ずるとか、切削水による洗浄が不十分で切削ブレードのコンタミネーションを除去できないとか、切削不良によるチッピングレベルの悪化を生ずるといった問題を生じ、加工品質が安定しなくなってしまう。」
d.(同段落10)
「【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る切削装置は、被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された前記被加工物を切削する切削手段と、を備える切削装置であって、前記切削手段は、切削ブレードと、該切削ブレードを支持するマウントと、該マウントに連結されるスピンドルと、該スピンドルを回転可能に支持するハウジングと、該ハウジングに固定され前記切削ブレードを覆うブレードカバーと、該ブレードカバーに配設され前記切削ブレードの切刃外周部に切削水を供給する噴射ノズルを有する切削水噴射ノズル手段と、を備え、前記切削水噴射ノズル手段は、前記切削ブレードの前記切刃外周部を撮像する撮像部と、該撮像部が撮像した画像を表示する表示部と、前記切削ブレードの回転軸心方向の所要位置に前記噴射ノズルを位置づける噴射ノズル位置調整部と、を備えることを特徴とする。」
e.(同段落17)
「【0017】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1の切削装置の構成例を示す概略斜視図である。本実施の形態1の切削装置10は、半導体ウエーハ、CSP基板等の板状物を切削するための装置であり、例えば半導体ウエーハWをダイシングする場合は、被加工物11は、半導体ウエーハWが保持テープTを介してフレームFと一体となった状態でカセット部12に複数収容される。本実施の形態1の切削装置10は、搬出入手段13、搬送手段14、洗浄手段15、搬送手段16とともに、フレームFと一体となった半導体ウエーハWからなる被加工物11を保持するチャックテーブル17と、アライメント用のカメラ18と、チャックテーブル17に保持された被加工物11を切削する切削手段20と、を備える。」
f.(同段落21)
「【0021】
ここで、切削手段20の構成について説明する。図2は、本実施の形態1の切削手段20の構成例を示す分解斜視図であり、図3は、その組立て状態の斜視図である。本実施の形態1の切削手段20は、切削ブレード21と、切削ブレード21を支持するマウント22と、水平方向(Y軸方向)に軸心を有して先端がマウント22に連結されるスピンドル23と、スピンドル23を回転可能に支持するハウジング24と、ハウジング24に固定され切削ブレード21を覆うブレードカバー25と、ブレードカバー25に配設され切削ブレード21の切刃外周部21aに切削水を供給する噴射ノズル41を有する切削水噴射ノズル手段40とを備える。」
g.(同段落23?25)
「【0023】
切削水噴射ノズル手段40は、切削水供給部42に対して開閉弁43を介して連結されて、切削ブレード21の切刃外周部21aに切削水を供給する流通経路44(図4-1、図4-2参照)を形成する略L字状の噴射ノズル41を主として構成され、噴射ノズル41が埋め込まれた取り付けブロック45を第一のカバー部25aに取り付けることにより噴射ノズル41の噴射口41aが切刃外周部21aに対向するようにブレードカバー25に配設される。ここで、取り付けブロック45は、矩形状の溝部45aが第一のカバー部25aの一端面に分離形成された矩形状のガイドレール25d,25e間に亘って嵌合することにより回転防止されつつ前後方向(Y軸方向)にスライド可能とされている。
【0024】
また、本実施の形態1の切削水噴射ノズル手段40は、噴射ノズル41に加え、撮像部46と表示部47と噴射ノズル位置調整部48とエアー供給部49とを備える。図4-1、図4-2は、撮像部46の取り付け構成例を示す概略的な縦断正面図であり、図4-1は、ダイシング時の様子を示し、図4-2は、調整時の様子を示す。撮像部46は、切削ブレード21の切刃外周部21aに正対してCCD等の撮像素子を用いて切刃外周部21aを撮像するためのものであり、図4-1、図4-2に示すように、噴射ノズル41の噴射口41aに至るX軸方向に水平な流通経路44の延長線上に位置させて噴射ノズル41と一体に配設されている。ここで、撮像部46は、撮像素子に結像するための対物レンズ50が流通経路44に臨む境界部分に気密状態で配設されている。表示部47は、撮像部46が撮像した画像を表示するためのものであり、例えば切削装置10の上部等の適宜箇所に配設されたモニタが用いられる。
【0025】
図5は、噴射ノズル位置調整部48の構成例を示す概略的な水平断面図である。噴射ノズル位置調整部48は、ボールネジ51を有する調整棒52と、撮像部46を一体に有する取り付けブロック45に形成されてボールネジ51に螺合するナット45bを有する係合部45cとからなる。調整棒52は、ボールネジ51がガイドレール25d,25e間に位置するようにガイドレール25d,25eの貫通孔25f,25gを貫通させるとともに操作つまみ53と抜け止めリング54とにより抜け止めされて回転自在に設けられたものである。係合部45cは、取り付けブロック45の溝部45aの噴射ノズル41に対応する中央位置に一体に設けられたもので、ナット45bがボールネジ51に螺合することにより、調整棒52の回転操作方向に従いY軸方向の前側または後側に変位移動する。これにより、噴射ノズル位置調整部48は、切削ブレード21の回転軸心方向(Y軸方向)の所要位置に噴射ノズル41を位置づけ可能に構成されている。」
h.(同段落31)
「【0031】
そこで、図3中に示すように、切刃外周部21aの画像Aが、ノズル中心C_(N)からずれている場合には、操作つまみ53を回動操作して噴射ノズル位置調整部48の作用により取り付けブロック45の位置、したがって撮像部46および噴射口41aの位置をY軸方向に変位移動させることにより、撮像部46により撮像される切刃外周部21aの画像Aの位置にノズル中心C_(N)の位置を一致させる。」
i.(同段落33)
「【0033】
図6は、切削ブレード21の切刃外周部21aの中央部に噴射ノズル41の噴射口41aが正確に位置づけられた様子を示す底面図である。本実施の形態1によれば、上述のように、切刃外周部21aの中央部に噴射口41aが正確に位置づけられるので、図4-1等に示すようなダイシング時には、切削ブレード21の表裏両面に対して均等に分散するように切削水を噴射させて冷却および洗浄を行わせることができる。よって、切削ブレード21の異常磨耗、ブレード破損等の問題を回避して、加工品質を安定化させることができる。」
j.(図2)
切削ブレード21が円板状であることが理解される。
k.(図6)
ノズルの位置調節の結果、ノズル41の中心位置が、切削ブレード21の切刃外周部の中心位置に一致することが理解される。
上記を整理すると、刊行物2には以下の事項が記載されているということができる。
「回転して半導体ウエーハをダイシングする円板状の切削ブレードの表裏両面には、切削水が均等に分散するように供給されなければブレード曲がりを生じ、これを防止するために、切削水噴射ノズルを砥石の回転軸線方向に位置づけ可能に設け、ブレードの切刃外周部の中心位置にノズル中心の位置を一致させること。」(以下、「刊行物2記載の事項」という。)

4.対比
本件発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、後者の「回動」、「被加工体」「溝切り」、「研削車」、「軸線方向」及び「切断装置」が、前者の「回転」、「被加工物」、「溝入れ」、「砥石」、「幅方向」及び「加工装置」にそれぞれ相当することは明白であり、また、後者の「接触開始部位」は、研削車の外周が被加工物に接触を開始する部位を指すことは明白であって、被加工物材料の除去が生じる部位であるから、前者の「切削部」に相当する。後者の「冷却水」は、切削部を冷却するとともに、切削屑を洗い流す作用もあることは当業者にとって明らかであって、「切削水」と呼ぶことができるものである。
そうしてみると、本件発明と刊行物1記載の発明とは、以下の点で一致及び相違するものということができる。
<一致点>
「回転して被加工物を切断もしくは被加工物に対して溝入れする円板状の砥石と、
前記砥石の外周部に設けられた切削部に前記砥石の径方向から対向するとともに前記砥石に向けて切削水を吐出するノズルと、
を備え、
前記ノズルの断面形状は、前記砥石の幅方向に沿った方向の寸法が、前記砥石の周方向に沿った方向の寸法より大きく形成されている、加工装置。」である点。
<相違点1>
砥石が、前者ではダイシング用であるのに対し、後者ではタイル、石材等の切断、溝切り用である点。
<相違点2>
ノズルの断面形状が、前者では矩形状、もしくは楕円形状に形成されていて、切削水の水圧が最も高くなる範囲が前記ノズルの幅方向に沿って広がっているのに対し、後者ではこのような特定がない点。
<相違点3>
前者では、ノズルが砥石の幅方向に位置調節可能に設けられ、砥石の幅方向の中心が、ノズルから吐出される切削水の水圧が最も高くなる範囲内に位置して前記砥石の両側の水圧差が調整され得るように、砥石の幅方向に対するノズルの位置が調節可能とされているのに対し、後者ではこのようにされていない点。

5.当審の判断
上記各相違点について検討する。

5.1 <相違点1>について
半導体ウェハ等をダイシング用砥石でダイシングすること、及び、そのためのダイシング用砥石は従来周知である。
半導体ウェハは、刊行物1記載の発明が加工対象とするタイルや石材と同様の硬脆質の材料であるから、タイルや石材の切断あるいは溝入れを目的とする刊行物1記載の発明の加工装置を半導体ウェハ等のダイシングに転用することは当業者が容易に想到し得るものであり、そのために砥石をダイシング用のものとすることは加工対象の変更に伴う当然の選択にすぎない。

5.2 <相違点2>について
刊行物1記載の発明のノズルは、砥石の幅方向の寸法が周方向に沿った寸法より大きい偏平な断面形状を有しており、このような断面形状のノズルでは、切削水の流速が最大の範囲がノズルの幅方向に沿って広がりをもつことは、当業者であれば理解し得るところである。
本件発明において、切削水は大気中に放出されて大気圧以外の静圧はもたないから、「水圧が最も高くなる範囲」とは動圧、ひいては総圧が最大となる範囲を指すものと解される。しかるに、動圧は流速の二乗に比例するため、動圧または総圧が最大となる範囲は、流速が最大の範囲と一致する。
したがって、刊行物1記載の発明のノズルにおいて、切削水の流速が最大の範囲は水圧が最大となる範囲であるから、切削水の水圧が最も高くなる範囲は、流速同様、ノズルの幅方向に広がりをもつものであって、本件発明と共通する。
刊行物1記載の発明のノズルの偏平な断面形状を矩形状、もしくは楕円形状としても、ノズルの幅方向両端付近のみにおける形状、ひいては流速と水圧に影響を与えるものにすぎず、流速と水圧が最大となるノズルの幅方向中央付近の流速と水圧に影響を与えるものではないから、断面形状を矩形状または楕円形状とすることは、当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎない。

5.3 <相違点3>について
刊行物2には、半導体ウエーハのダイシング用の切削ブレード、すなわちダイシング砥石に対し、切削水を供給するノズルを、砥石の回転軸線方向、すなわち幅方向に位置調節可能に設けて、ノズル中心の位置を砥石外周の中心の位置、すなわち幅方向の中心に一致させることが記載されている。
刊行物2記載の事項のノズルであっても、ノズルから吐出される切削水は、ノズル中心位置付近の範囲内において流速が最大かつほぼ一様となることは流体力学上の常識であり、5.2で述べたように、流速が最大の範囲は水圧が最大の範囲でもある。
したがって、刊行物2には実質的に、ノズルが砥石の幅方向に位置調節可能に設けられ、砥石の幅方向の中心が、ノズルから吐出される切削水の水圧が最も高くなる範囲内に位置するように、砥石の幅方向に対するノズルの位置が調節可能とすることが記載されているということができる。そして、ノズル中心付近の範囲では流速、ひいては水圧がほぼ一定であるから、砥石の両側の水圧差はほぼ解消、すなわち調整される。
刊行物1記載の発明のように偏平な形状のノズルを用いても、砥石の幅方向全域にわたって切削水の流速、したがって水圧を正確に一様とすることが極めて困難であることは、当業者間で普通に知られた事項である。したがって、刊行物1記載の発明においても、刊行物2に記載されたように、ノズルを砥石幅方向に位置調節可能として、砥石の両側の水圧差が調整され得るようにすることは、当業者が当然試みるものである。

5.4 本件発明の作用効果について
本件発明において、ノズルを砥石の幅方向に長い断面形状としたことにより、ノズル位置の調節に微妙な操作が不要となるという作用効果は、刊行物1の記載事項cにみられるように、砥石の幅方向に長い断面形状をもつノズルを用いて、ノズル位置を調節することなく、長孔の両側、すなわち砥石の両面に十分な切削水を供給することができることから、普通に予測される程度のものである。また、本件発明の上記以外の作用効果にも、刊行物1記載の発明、刊行物2記載の事項及び従来周知の技術事項に基づいて普通に予測される範囲を超える格別のものを見出すことはできない。

5.5 まとめ
以上のとおりであるから、本件発明は刊行物1記載の発明、刊行物2記載の事項及び従来周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。

6.むすび
本願の請求項1に係る発明は、上述のとおり、本願の出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項2及び3に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきである。
よって、結論のとおり審決する。
.
 
審理終結日 2013-05-27 
結審通知日 2013-05-28 
審決日 2013-06-10 
出願番号 特願2009-218427(P2009-218427)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B24B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 成彦村上 哲  
特許庁審判長 豊原 邦雄
特許庁審判官 刈間 宏信
長屋 陽二郎
発明の名称 加工装置  
代理人 三好 秀和  

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