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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
管理番号 1277116
審判番号 不服2012-22208  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-11-09 
確定日 2013-07-25 
事件の表示 特願2007- 18672「鉛蓄電池」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 8月14日出願公開、特開2008-186690〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成19年1月30日の出願であって、平成24年7月31日付けで拒絶理由が通知され、同年9月13日付けで手続補正がなされた後、同年10月3日付けで拒絶査定がなされ、同年11月9日にこの拒絶査定を不服とする審判請求がなされ、同日付けで手続補正がなされたものの、当該手続補正は、平成25年3月11日付けで補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶理由が通知され、同年3月25日付けで手続補正がされたものである。

2.本願発明
本願発明は、平成25年3月25日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。

「複数のセルを収納する電槽と、前記電槽の上端の開口部を覆うとともに表面に凹部が形成された中蓋と、前記中蓋の前記凹部を覆う上蓋とからなり、前記凹部の前記上蓋に囲まれた空間に排気室を形成するとともに隣接する前記排気室同士を連通させ、かつ各セルに対応して注液用の開口、ガス排出口及び電解液還流口を前記中蓋に設け、前記ガス排出口から排出されるガスを前記排気室を介して集中排気室に集中させて電池外へ一括排気する機構とガスとともに排出される水分を前記電解液還流口からセルに戻す機構とを備えた鉛蓄電池において、
前記上蓋には、前記中蓋の前記開口に対応する位置に、止栓が螺着される開口が形成されており、
前記止栓は排気孔を有していないことを特徴とする鉛蓄電池。」(以下、「本願発明1」という。)

3.当審拒絶理由の概要
当審より平成25年3月11日付けで通知された拒絶の理由の一つは、本願発明1は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物1?4に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

<引用刊行物>
刊行物1;国際公開第2006/129340号
刊行物2;特開2005-166318号公報
刊行物3:特開2002-313316号公報
刊行物4:特開2005-50699号公報

4.刊行物の主な記載事項
刊行物1、刊行物3及び刊行物4には、以下の記載が認められる。

4-1.刊行物1の記載事項
(1a)「技術分野
本発明は、電解液の逸出を防止しながら、ガスを排出させる排気構造を備えた鉛蓄電池に関するものである。」(明細書の段落[0001]、第1頁第3行?第5行)

(1b)「[1]「複数のセルを収納する電槽(2)と、該電槽(2)の上面を覆う中蓋(3)と、該中蓋(3)の凹部(31)を覆う上蓋(4)に囲まれた空間に、該空間を排気室間隔壁(43、44、45)で分割して前記セル数と同数の排気室(37、37’、37”)を設け、隣合う排気室(37、37’、37”)同士を前記排気室間隔壁(43、44、45)に設けた切り欠きまたは透孔(67)を介して連通させ、排気室(37、37’、37”)とセルを中蓋(3)の床壁(32)に設けた電解液還流口(33)とガス排出口(34)とで構成された開口を介して連通し、該排気室(37、37’、37”)に連通する集中排気室(41)を備え、前記セルから発生するガスを、前記排気室(37、37’、37”)に導いた後、前記集中排気室(41)を経由して電池外へ一括排気する機構を備えた鉛蓄電池おいて、
前記電解液還流口(33)とガス排出口(34)とで構成された開口をとり囲む隔壁を配置し、該隔壁によって前記排気室(37、37’、37”)と区画したセル連通小室(35)を備え、該セル連通小室(35)を隔壁に設けた切り欠き(36)を介して排気室(37、37’、37”)に連通させ、該切り欠き(36)以外は隔壁によってセル連通小室(35)と排気室(37)を隔離したことを特徴とする鉛蓄電池。
・・・。(審決注;「・・・」は記載の省略を示す。以下、同様)
[7]前記中蓋(3)の床壁(32)に、セル数と同数の各セルに開いた注液用開口(54)を設け、該注液用開口(54)を囲む隔壁(53)と上蓋(4)によって注液室(52)を区画し、該注液室(52)と前記排気室(37)および電池の外とを気密に封鎖したことを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池。」(請求の範囲の請求項[1]、[7]、第20頁第1行?第21頁第20行)

(1c)「排気室37、37’、37”のうち1個の排気室37を例に採って説明すると、35は、セル連通小室で、該セル連通小室35とセルとは、排気室37で結露した電解液をセル内に還流する電解液還流口33、セルで発生したガスをセル連通小室35に排出するガス排出口34を介してセルと連通している。セル連通小室35は、隔壁によって排気室37と区画され、隔壁に設けた切り欠き36を介して排気室37と連通しており、該切り欠き36以外は隔壁によって排気室37と隔離されている。」(明細書の段落[0024]、第11頁第5行?第10行)

4-2.刊行物3の記載事項
(3a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 液口栓、排気栓等の栓部材およびまたは液面センサー等の電池内の状態を検出するための検出部材を含む装着部材と、この装着部材を装着するための装着孔を電池外装に備えた電池において、前記装着部材の外周には外周ねじ部を設け、前記装着孔の内周には内周ねじ部を設けてこれら外周ねじ部と内周ねじ部とを螺合して前記装着部材を前記装着孔に固定する構成であって、前記外周ねじ部の螺旋は1周り以上の螺旋とし、前記内周ねじ部の螺旋は1周り未満の螺旋としたことを特徴とする電池。」

4-3.刊行物4の記載事項
(4a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、補液する必要のない、いわゆるメンテナンスフリーの鉛蓄電池に関する。」

(4b)「【背景技術】
【0002】
メンテナンスフリーの鉛蓄電池としては、電槽内に極板群を収納し該極板群が浸かるほどの大量の電解液が注液されている。この際蓄電池の充放電反応により発生するガスと電解液の飛散による漏れを防止する為に電槽に施された蓋の上面に形成した注液口の直下に液口栓装着筒を延設し、該液口栓装着筒に、防沫板や多孔セラミックから成るフィルターを備えた液口栓をその頭部が電槽蓋の上面と同じレベル位置になるように装着し、電槽のセル室内に発生したガスを含有する液霧を除去して安全に外部へ緩徐に放出すると共に電解液の外部への漏出を防止している。これまでのかゝる鉛蓄電池は、使用中電槽内の電解液が減少した場合は液口栓を外して精製水等を補液しているのが通常であった。
しかし乍ら、近年此種鉛蓄電池の改良により電解液の減少が殆どなく、蓄電池の寿命に至るまで、補液の必要が無い減液特性の優れた、実質上メンテナンスフリーの鉛蓄電池が開発された。
【0003】
この様な補液を必要としない鉛蓄電池であっても、これまでの鉛蓄電池と同様に液口栓を自由に取り外しが可能な状態であるので、ユーザーは、悪戯に液口栓を取り外し補液すると、過剰の電解液が注液口より外部に溢れたり、その飛沫により、ユーザーの衣服などを損傷せしめる問題を起こす。特に、鉛蓄電池の高容量化、高出力化のために、極板群と電槽蓋の裏面との距離を極端に狭くした鉛蓄電池では、更に上記の問題を起こし易い。」

(4c)「【0013】
・・・前記の各注液口3は、該液口栓5の頭部5cを挿通するに足る径に予め形成されている。而して、各注液口3より挿入した液口栓5の該螺条部5a、該注液筒4の螺条部4aをネジ込み装着したとき、その頭部5cの外周部は、該注液筒4の螺条部4aの上端面に予め施されたパッキング10を介し液密に封口結着されるようにすることが好ましい。」

5.当審の判断

5-1.刊行物1に記載された発明
刊行物1の(1b)の「鉛蓄電池」に関して、「該電槽(2)の上面を覆う中蓋(3)と、該中蓋(3)の凹部(31)を覆う上蓋(4)」との記載によれば、中蓋(3)は、「電槽の上端の開口部を覆うとともに表面に凹部が形成された中蓋」であるといえる。
また、(1b)の「該中蓋(3)の凹部(31)を覆う上蓋(4)に囲まれた空間に、該空間を排気室間隔壁(43、44、45)で分割して前記セル数と同数の排気室(37、37’、37”)を設け、隣合う排気室(37、37’、37”)同士を前記排気室間隔壁(43、44、45)に設けた切り欠きまたは透孔(67)を介して連通させ」との記載によれば、前記「鉛蓄電池」において、「前記凹部の前記上蓋に囲まれた空間には排気室が形成され、隣接する前記排気室同士が連通されている」といえる。
また、(1b)の「排気室(37、37’、37”)とセルを中蓋(3)の床壁(32)に設けた電解液還流口(33)とガス排出口(34)とで構成された開口を介して連通し、該排気室(37、37’、37”)に連通する集中排気室(41)を備え、前記セルから発生するガスを、前記排気室(37、37’、37”)に導いた後、前記集中排気室(41)を経由して電池外へ一括排気する機構を備え」との記載、及び、「前記中蓋(3)の床壁(32)に、セル数と同数の各セルに開いた注液用開口(54)を設け、該注液用開口(54)を囲む隔壁(53)と上蓋(4)によって注液室(52)を区画し」との記載によれば、前記「鉛蓄電池」は、「各セルに対応して注液用の開口、ガス排出口及び電解液還流口が前記中蓋に設けられ、前記ガス排出口から排出されるガスを前記排気室を介して集中排気室に集中させて電池外へ一括排気する機構を備えている」ものといえる。
そして、刊行物1の(1c)の「排気室37で結露した電解液をセル内に環流する電解液環流口33」との記載によれば、前記「鉛蓄電池」は、さらに、「ガスとともに排出される水分を前記電解液環流口からセルに戻す機構を備えている」ものといえる。

以上の記載事項及び認定事項を本願発明の記載ぶりに則り整理すると、刊行物1には、次の発明が記載されているといえる。

「複数のセルを収納する電槽と、前記電槽の上端の開口部を覆うとともに表面に凹部が形成された中蓋と、前記中蓋の前記凹部を覆う上蓋とからなり、前記凹部の前記上蓋に囲まれた空間に排気室を形成するとともに隣接する前記排気室同士を連通させ、かつ各セルに対応して注液用の開口、ガス排出口及び電解液還流口を前記中蓋に設け、前記ガス排出口から排出されるガスを前記排気室を介して集中排気室に集中させて電池外へ一括排気する機構とガスとともに排出される水分を前記電解液還流口からセルに戻す機構とを備えた鉛蓄電池。」(以下、「刊行物1発明」という。)

5-2.本願発明1と刊行物1発明との対比・判断
本願発明1と刊行物1発明とを対比すると、本願発明1と刊行物1発明とは、「複数のセルを収納する電槽と、前記電槽の上端の開口部を覆うとともに表面に凹部が形成された中蓋と、前記中蓋の前記凹部を覆う上蓋とからなり、前記凹部の前記上蓋に囲まれた空間に排気室を形成するとともに隣接する前記排気室同士を連通させ、かつ各セルに対応して注液用の開口、ガス排出口及び電解液還流口を前記中蓋に設け、前記ガス排出口から排出されるガスを前記排気室を介して集中排気室に集中させて電池外へ一括排気する機構とガスとともに排出される水分を前記電解液還流口からセルに戻す機構とを備えた鉛蓄電池。」である点において一致し、以下の点において相違する。
相違点;本願発明1は、上蓋には、中蓋の注液用の開口に対応する位置に、止栓が螺着される開口が形成されており、前記止栓は排気孔を有していないのに対し、刊行物1発明は、そのような止栓が螺着される開口を備えていない点において相違する。

5-3.相違点についての検討
刊行物1発明は、補液手段を有しておらず、刊行物1の(1a)の記載によれば、電解液の逸出を防止しながら、ガスを排出させる排気構造を備えた鉛蓄電池であるから、補液する必要のない、いわゆるメンテナンスフリーの鉛蓄電池ということができる。
そして、刊行物4の(4a)、(4b)には、補液する必要のない、いわゆるメンテナンスフリーの鉛蓄電池においても、従来から電槽内の電解液が減少した場合は液口栓を外して精製水等を補液していることや、また、従来の鉛蓄電池と同様に液口栓を自由に取り外し可能な状態としてユーザーによる補液が行われていたことが記載されているから、刊行物1発明において、上蓋において、中蓋の注液用の開口に対応する位置に電解液が減少した際に、補水を行うための開口を設け、液口栓、すなわち、止栓を装着することは当業者が容易になし得ることである。
そして、刊行物1発明は、ガス排出口から排出されるガスを前記排気室を介して集中排気室に集中させて電池外へ一括排気する機構を別途有するから、液口栓を装着するに際し、液口栓に排気孔を要しないことは明らかであり、また、鉛蓄電池において、液口栓を螺着する構成とすることは、周知であるから(要すれば、刊行物3の(3a)、刊行物4の(4c)を参照。)、前記相違点は、当業者が容易に想到し得るものである。

5-4.小括
したがって、本願発明1は、本願出願前に頒布された刊行物1、刊行物4に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易になし得たものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の発明について検討するまでもなく、当審で通知した拒絶の理由により、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-20 
結審通知日 2013-05-21 
審決日 2013-06-03 
出願番号 特願2007-18672(P2007-18672)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大久保 智之  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 佐藤 陽一
小川 進
発明の名称 鉛蓄電池  

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