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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1278781
審判番号 不服2010-24848  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-04 
確定日 2013-09-05 
事件の表示 特願2000- 77222「抗炎症剤および皮膚化粧料」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 8月21日出願公開、特開2001-226273〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
[第1]手続の経緯
本願は,平成12年2月15日の出願であって,拒絶理由通知に応答して平成22年5月10日付けで手続補正がなされたが,同年7月29日付けで拒絶査定がなされたところ,同年11月4日に拒絶査定不服審判が請求され,同日付で手続補正がなされた。その後,当審において,前記平成22年11月4日付け手続補正について平成25年4月12日付けで補正却下の決定がなされ、同日付けで拒絶理由が通知されたところ、同年6月13日付けで手続補正がなされるとともに意見書が提出されたものである。

[第2]本願発明
本願の請求項1に係る発明は,平成25年6月13日付けで提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,次のとおりのものである(以下,「本願発明」ということがある。)。
『 ロドデンドロン アルボレウム(Rhododendron arboreum)の花より抽出され、ホスホリパーゼA2阻害剤、およびヒアルロニダーゼ阻害剤を有効成分として含有することを特徴とする抗炎症剤(ただし、カラギーナン、プロスタグランジン(PGE2)、ヒスタミン及び5-HTのいずれかにより誘導される炎症に対する抗炎症作用を除く)。 』

[第3]当審の判断

1.刊行物の記載
上の平成25年4月12日付け拒絶理由通知書で引用された刊行物であって,本願の出願前に頒布されたことが明らかな以下の刊行物A:
AGRAWAL,S.S. ET AL.‘ANTI-INFLAMMATORY ACTIVITY OF FLOWERS OF RHODODENDRON ARBOREUM (SMITH) IN RAT'S HIND PAW OEDEMA INDUCED BY VARIOUS PHLOGISTIC AGENTS’INDIAN JOURNAL OF PHARMACOLOGY, (1988) 20 P.86-89
には,次の事項が記載されている(原文が英語のため訳文にて記す。)。

(ア)第86頁 要約
『 1.ロドデンドロン アルボレウム花の様々な抽出物,即ち水,50%エタノールならびにメタノール抽出物,の効力がカラギーナン,PG(E_(2)),ヒスタミンならびに5-HTにより誘導されたラット後肢の浮腫に対し調査された。
2.抽出物群は4種の起炎性薬剤全てに対し顕著な抗炎症活性を示した。肢体積の平均的変化は,4種の起炎性薬剤に対し次の順序 カラギーナン>5-HT>PG(E_(2))>ヒスタミン での抽出物群の効力を明らかにした。
3.試験された3種の抽出物のうち,水抽出物が最大の抗炎症活性を示し,次いで50%エタノール及びメタノール抽出物であった。 』

(イ)第86頁右欄第3?14行
『 「Homeopathic Materia Medica」では,これまでロドデンドロン乾燥葉のチンキ剤が痛風ならびにリウマチにおいて用いられることが言及されてきた(Skidel,1980)。さらに,Middlekoop及びLabadie(1983)は,R.アルボレウムを含むアーユルベーダの調製物である「Asoka Aristha」が分娩誘発性,エストロゲン性及びプロスタグランジン合成酵素抑制活性を有していることをも報告した。それ故,R.アルボレウム花の抗炎症活性を様々な起炎性薬剤を用いて調査することが考えられた。』

(ウ)第87頁左欄第2?7行
『 R.アルボレウム(Smith)花は,ウッタル・プラデーシュ州のChampawat(Tanakpur)で採集された。これらは乾燥され,粉砕して粗い粉末とされそして50%エタノール,水ならびにメタノール抽出物がインド薬局方(1985)に記載されたように調製された。・・・』

(エ)第87頁左欄第13行?右欄第11行
『 4種の起炎性薬剤:カラギーナン,PG(E_(2)),ヒスタミンならびに5-HT による後肢浮腫の作製はWinterら(1962)ならびにGhoshとSingh(1974)の方法にしたがってなされた。
抽出物は通常の生理食塩水中に,そしてフルルビプロフェンは1%メチルセルロース懸濁液中に懸濁された。抽出物ならびにフルルビプロフェンの単回の経口用量は,各起炎性薬剤注入の30分及び1時間前にそれぞれ投与された。滅菌生理食塩水中の各起炎性薬剤の0.1mlが右後肢の下位足底組織中に注入され,肢の体積が・・・直ちに,そしてその後あらかじめ決められた時間間隔で・・・記録された。浮腫はカラギーナン(1%滅菌生理食塩水懸濁液),PG(E_(2))(50ng/ml),ヒスタミン(1mg/ml)ならびに5-HT(1mg/ml)の各投与後3時間,0.5時間,1時間ならびに0.5時間に記録された。』

(オ)第87頁右欄第13行?第88頁左欄第8行
『 カラギーナン誘導性浮腫がヒスタミン,キニン,5-HT及びプロスタグランジンの放出により仲介されることは十分に確立されており,メディエーター放出には3つの異なる段階があるようである(Vinegarら,1969)。カラギーナンについて,浮腫は「3」時間後に誘導され「8」時間持続する故に,記録は「8」時間まで採取され,抽出物群ならびにフルルビプロフェンで処置されたラットの平均の肢体積が3時間目,5時間目及び8時間目に評価された。
3種全ての抽出物はカラギーナン誘導性平均肢体積の顕著な減少を生ぜしめ(p<0.001)(表1),このことが示唆するのは,抽出物群がまずヒスタミン,5-HT及びキニンに拮抗し,次いで最大の抗炎症活性を発揮する時である3?5時間の間にプロスタグランジンを阻害したのかもしれないということである。』

(カ)第88頁右欄第7?19行
『 抽出物はまたPG(E_(2))により誘導された肢体積の著しい減少をも生ぜしめ(p<0.001)そして1.5時間で最大の抗炎症活性を示したが,その後効力は減少し,このことはおそらく,PG(E_(2))投与の1.5時間まで抽出物が有効なようであることを示す。
水ならびに50%エタノールの抽出物はヒスタミンにより誘導された肢体積の顕著な(p<0.001)減少を3時間で生ぜしめ,他方メタノール抽出物は4時間で(p<0.001)生ぜしめた。』

(キ)第88頁右欄第20行?第89頁左欄第4行
『 抽出物群の抗炎症活性は,カラギーナン(p<0.02),PG(E_(2))(p<0.01)及びヒスタミン(p<0.001)を用いた場合にそれぞれ5時間,1.5時間及び2時間において証拠づけられているように(図1),特定の時間間隔でフルルビプロフェンに匹敵した。・・・』

(ク)図1
『 図1:カラギーナン(A),PG(E_(2))(B),ヒスタミン(C)ならびに5-HT(D)により誘導されたラット後肢浮腫への,様々な抽出物とフルルビプロフェンとの抗炎症活性の比較



(ケ)表1
『 表1:カラギーナン,PG(E_(2)),ヒスタミン及び5-HTにより誘導されたラット後肢浮腫における,水,50%エタノール及びメタノール抽出物ならびにフルルビプロフェンによる肢体積の平均的減少を示す。



2.対比・判断
(1) 刊行物Aには,ロドデンドロン アルボレウム(SMITH)の花を水,50%エタノール又はメタノールにより抽出してなる抽出物群(摘記(ア),(ウ))がいずれも,カラギーナン,プロスタグランジン(PGE_(2)),ヒスタミン及び5-HTのいずれかの起炎性薬剤のラット後肢への投与により生じる炎症性症状の全ての後肢浮腫(摘記(エ))に対し,顕著な抗炎症作用を示したことが記載されている(摘記(ア),(オ)?(ケ))。
そうすると,刊行物Aには,
「ロドデンドロン アルボレウム(SMITH)の花を水,50%エタノール又はメタノールにより抽出してなる抽出物であって,起炎性薬剤であるカラギーナン,プロスタグランジン(PGE_(2)),ヒスタミン又は5-HTの投与により誘導される炎症に対し抗炎症作用を示す抽出物,を有効成分として含む抗炎症剤」
の発明(以下,引用発明という。)が記載されているものと認められる。

本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「ロドデンドロン アルボレウム(SMITH)は本願発明の「ロドデンドロン アルボレウム(Rhododendron arboreum)」に相当することが明らかであることを踏まえると,両者は
ロドデンドロン アルボレウム(Rhdodendron arboreum)の花より抽出された成分を有効成分として含有することを特徴とする抗炎症剤
の点で一致する一方,
(i) 本願発明では有効成分が「ホスホリパーゼA2阻害剤,およびヒアルロニダーゼ阻害剤」であるのに対し,引用発明の有効成分にはそのような規定がない点 ,
(ii) 抗炎症剤の作用について,本願発明では「(ただし、カラギーナン、プロスタグランジン(PGE2)、ヒスタミン及び5-HTのいずれかにより誘導される炎症に対する抗炎症作用を除く)」とされているのに対し,引用発明の抗炎症剤においてはそのような限定がない点,
で,一応相違する(以下,(i),(ii)を順に相違点1,相違点2という。)。

(2) 以下,上記相違点について検討する。
(i)相違点1について
引用発明では,本願発明と同一の植物原料であるロドデンドロン アルボレウム(以下「R.アルボレウム」と略記することがある。)の花が抽出源とされている。しかも,引用発明における抽出で用いられている50%エタノールやメタノールは,本願発明の抽出に際し採用できる溶媒として本願明細書の段落【0018】で挙げられている「メタノール,エタノール等の低級脂肪族アルコール(含水アルコールでもよい)」に相当する。そうすると,それら抽出源及び抽出溶媒を用いて抽出することにより得られる引用発明の抽出物は,本願発明の「抽出され」た有効成分の実体である抽出物と区別し得ないものである。そして,引用発明の抽出物が本願発明の抽出物と物として区別し得ない以上,その中に含まれる抗炎症作用を発揮する成分においても異なるものではない。
よって,引用発明の抽出物は,刊行物A中に明記されていなくとも,本願発明に係る抗炎症剤の有効成分と共通する「ホスホリパーゼA2阻害剤,およびヒアルロニダーゼ阻害剤」に相当する成分を含むものといえるから,相違点1は実質的な相違点ではない。

(ii)相違点2について
本願発明の相違点2に係る「ただし,カラギーナン・・・及び5-HTのいずれかにより誘導される炎症に対する抗炎症作用を除く」なる発明特定事項は,刊行物Aにおいて実際に採用され抗炎症作用が及ぼされたことが確認されている,カラギーナン,プロスタグランジン(PGE2),ヒスタミン及び5-HTのいずれかの起炎性薬剤の投与により誘導された炎症を,適用対象としての炎症から除くことを意図するものと解される。
しかしながら,それら「カラギーナン,プロスタグランジン(PGE2),ヒスタミン及び5-HTのいずれか」の起炎性薬剤は,文字通り「起炎」性,即ち炎症を誘導する性質,を有する成分であることは周知であり,これら起炎性薬剤は上述のとおり,結果として炎症症状を呈する動物モデルの例を作製するために使用されたものと解されることを踏まえると,刊行物Aで採用されたそれら炎症モデル例が,当該4種のいずれかの起炎性薬剤の投与により誘導される炎症それ自体のみならず,より広範囲の炎症性症状を模したものと意図されていることもまた,当業者であれば理解し得たことである。勿論,刊行物A中で,R.アルボレウム花抽出物の適用対象である炎症が,上記4種のいずれかの起炎性薬剤の投与により誘導される炎症それ自体に限定されるものである旨記載されているわけでもない。
また,刊行物AにおけるR.アルボレウム花抽出物の適用対象である炎症が,上記4種のいずれかの起炎性薬剤の投与により誘導される炎症に限定されないことは,次のことからも明らかである。即ち,刊行物Aでは,ロドデンドロン植物葉のチンキ剤が痛風,リウマチといった炎症を伴うことが周知の疾患の処置に用いられ,R.アルボレウムがプロスタグランジン合成酵素阻害活性等を有する,といった従来の知見を踏まえ,R.アルボレウム花が抗炎症活性作用を有すると考えられたこと(摘記(イ))に基づいて,上記4種の起炎性薬剤の投与により誘導される炎症をモデル対象として採用し,上記花の抽出物の抗活性作用の有無・程度を指標として調べることにより,抗炎症成分の存在を実証したことを報告しているのであるから,刊行物Aにいう炎症としては,例えば上記痛風,リウマチや,上記プロスタグランジン合成酵素阻害がその改善に有効な炎症性疾患(いいかえれば,プロスタグランジン合成酵素の活性亢進により誘導される炎症性疾患)のような,上記4種のいずれかの起炎性薬剤の投与により誘導されるもの以外のより広範囲の炎症も含まれることが前提とされているものと解される。
そして,本願発明に規定される炎症もまた,ただし書き以外に発症原因等において限定のない,種々の炎症を適用対象として包含するものと解される。
してみると,本願発明におけるただし書きの規定を踏まえたとしても,本願発明の適用対象である上記種々の炎症は刊行物Aにいう炎症の範囲と重複するものであるから,結局,本願発明と引用発明とは,その抗炎症剤としての用途においても区別し得ない。
よって,相違点2もまた,実質的な相違点とはいえない。

(iii)小括
以上,(i),(ii)で検討したとおり,相違点1,2はいずれも実質的な相違点とはいえず,本願発明に係る抗炎症剤の有効成分が「ホスホリパーゼA2阻害剤,およびヒアルロニダーゼ阻害剤」であって,その抗炎症作用が「カラギーナン、プロスタグランジン(PGE2)、ヒスタミン及び5-HTのいずれかにより誘導される炎症に対する抗炎症作用を除く」ものであっても,本願発明は有効成分である抽出物及びその抗炎症剤としての用途において引用発明と区別し得ない。
よって,本願発明は刊行物Aに記載された発明である。

3.請求人の主張について
請求人は,平成25年6月13日付け意見書において,新規性否定の拒絶理由に関し,
『 補正後の本願発明は,「ホスホリパーゼA2阻害剤」,および「ヒアルロニダーゼ阻害剤」を有効成分とする抗炎症剤であり,ホスホリパーゼA2阻害作用,およびヒアルロニダーゼ阻害作用に基づく抗炎症作用は,刊行物Aに記載されているカラギーナン,プロスタグランジン(PGE2),ヒスタミンおよび5-HTのいずれかにより誘導される炎症に対する抗炎症作用とは異なるものです。このことを更に明確にするため,請求項1からカラギーナン,プロスタグランジン(PGE2),ヒスタミンおよび5-HTのいずれかにより誘導される炎症に対する抗炎症作用を除く補正を行いました。』
と述べ,本願発明が刊行物Aに記載されたものではない旨主張している。
しかしながら,2.(2)で述べたとおり,引用発明の有効成分である抽出物が本願発明の有効成分であるそれと区別し得ず,刊行物Aから把握し得る炎症が本願発明のただし書きの規定により除かれる範囲のみであるということもできないから,請求人の上記主張を認容することはできない。

4.むすび
以上のとおりであるから,本願の請求項1に係る発明は特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものであり,他の請求項について論及するまでもなく,この特許出願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-07-02 
結審通知日 2013-07-09 
審決日 2013-07-22 
出願番号 特願2000-77222(P2000-77222)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原口 美和  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 天野 貴子
大久保 元浩
発明の名称 抗炎症剤および皮膚化粧料  
代理人 流 良広  
代理人 廣田 浩一  

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