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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1278807
審判番号 不服2011-21814  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-07 
確定日 2013-09-04 
事件の表示 特願2001-576584「デジタルドキュメント処理」拒絶査定不服審判事件〔平成13年10月25日国際公開、WO01/79984、平成15年10月21日国内公表、特表2003-531429〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,2000年4月14日(以下「優先日」という。)の英国への出願を基礎とするパリ条約による優先権主張をともない,
2001年4月17日を国際出願日とする出願(国際出願番号:PCT/GB01/01678)であって,
平成14年10月15日付けで特許法第184条の5第1項の規定による書面が提出されるともに,特許法第184条の4第1項の規定による明細書,要約書の日本語による翻訳文が提出され,
平成20年3月26日付けで審査請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされ,
平成22年11月16日付けで拒絶理由通知(同年同月24日発送)がなされ,
平成23年3月24日付けで意見書が提出されるとともに,同日付けで手続補正がなされたが,
同年5月30日付けで拒絶査定(同年6月7日謄本送達)がなされ,
同年10月7日付けで審判請求がされるとともに,同日付けで手続補正がなされ,
同年同月27日付けで審査官により特許法第164条第3項の規定に基づく報告がなされ,
平成24年5月23日付けで当審により特許法第134条第4項の規定に基づく審尋(同年同月29日発送)がなされ,
同年8月28日付けで回答書の提出があったものである。


第2 平成23年10月7日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成23年10月7日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1.本件補正

本件補正は,平成23年3月24日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項の記載

「【請求項1】
視覚映像を表す情報を含み,外部アプリケーションで生成され,複数の所定のデータ形式の一つでソースデータを表す入力ストリームを受け取る適応可能な前部と,
ジェネリックオブジェクトのライブラリと,
前記入力ストリームを解釈して前記視覚映像の内部表現を生成する演出モジュールと,
前記内部表現を処理するため及び,統合デジタルドキュメント処理システムの外部のいかなるアプリケーションからも独立して前記視覚映像を提供する出力装置を動作するのに適した出力データストリームを生成するための前記ドキュメント処理システムに統合されたレンダリングエンジンとを備える
ことを特徴とする統合デジタルドキュメント処理システム。
【請求項2】
前記適応可能な前部が,データストリームをモニターするため及び,HTML,XML,PDF,DOC,RM,VRML,及びSGMLで構成されるセットからのいずれかの形式のファイルを同定するための処理を含む
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
オブジェクトと前記視覚映像のパラメーターベース表現とを受け取ること,及び前記オブジェクト及びパラメータベース表現を特定の出力装置を動作するのに適した出力データ形式に変換することに適合した形状処理モジュールをさらに含む
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記形状処理モジュールが,オブジェクトの境界を決めるバウンディングボックス,及び前記バウンディングボックスにより境界をつけられた前記オブジェクトの実際の形状と,前記オブジェクトのデータコンテンツと,前記オブジェクトの透明性とで規定する形状に基づいて前記オブジェクトを処理する
ことを特徴とする請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記形状プロセッサが,前記オブジェクトのエッジにグレースケールのエイリアス除去を適用するのに適合される
ことを特徴とする請求項3に記載のシステム。
【請求項6】
前記形状処理モジュールが,パイプラインアーキテクチャを備える
ことを特徴とする請求項3に記載のシステム。
【請求項7】
前記内部表現は,次元的,物理的,及び時間的パラメーターを有するオブジェクトのパラメーターを含む
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
色データを記述するためのクロミナンス/ルミナンスベースの色モデルを含む
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記出力装置は,ディスプレイである
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記出力装置は,モニターである
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記出力装置は,スクリーンである
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記出力装置は,プリンターである
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記出力装置は,プロッターである
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
前記出力データストリームは,ビットマップである
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
前記出力データストリームは,プリンターのためのドットマップである
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
前記出力データストリームは,ベクトル命令のセットである
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項17】
前記デジタルドキュメントは少なくとも一つの相互に作用する特徴を含み,
前記内部表現は相互作用する複数の視覚ディスプレイを生成するためのグラフィカルユーザインターフェイスオブジェクトを含み,
前記レンダリングエンジンにより生成された前記出力データストリームは,前記デジタルドキュメントの相互作用する前記特徴を有する相互作用する視覚映像を提供するための出力装置を動作させるのに適合する
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項18】
前記相互作用する特徴は,メニューである
ことを特徴とする請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記相互作用する特徴は,ボタンである
ことを特徴とする請求項17に記載のシステム。
【請求項20】
前記相互作用する特徴は,アイコンである
ことを特徴とする請求項17に記載のシステム。
【請求項21】
前記レンダリングエンジンが,デジタルドキュメントの前記ソースデータ形式から独立して前記視覚映像の提示を操作するためのビュー制御入力を受け取るように構成される
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項22】
前記ビュー制御入力は,ズーム指示である
ことを特徴とする請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記ビュー制御入力は,パン(pan)指示である
ことを特徴とする請求項21に記載のシステム。
【請求項24】
前記ビュー制御入力は,スクロール指示である
ことを特徴とする請求項21に記載のシステム。
【請求項25】
前記ビュー制御入力は,表示コンテキストと関連する時間的パラメーターとを規定する ことを特徴とする請求項21に記載のシステム。
【請求項26】
前記表示コンテキストは,拡大レベルである
ことを特徴とする請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
前記時間的パラメーターは,パン(pan)スピードを含む
ことを特徴とする請求項25に記載のシステム。
【請求項28】
前記時間的パラメーターは,スクロールスピードを含む
ことを特徴とする請求項25に記載のシステム。
【請求項29】
前記時間的パラメーターは,表示期間を含む
ことを特徴とする請求項25に記載のシステム。
【請求項30】
前記演出モジュールが,
1)前記デジタルドキュメント内における前記テキストオブジェクトの少なくとも配置とコンテントに適用するフォントとを含むパラメーターと特徴のストリングを含む前記コンテントを有するテキストオブジェクトを同定し,
2)同定された前記テキストオブジェクトのパラメーターに沿ってジェネリックテキストオブジェクトの実現値(instance)を保存し,
3)保存された前記ジェネリックテキストオブジェクトの実現値と異なるデータオブジェクトの特徴のストリングを保存することにより,内部表現を生成する
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項31】
前記演出モジュールが,
1)前記映像の表示サイズと前記デジタルドキュメント中の前記グラフィックオブジェクトの少なくとも配置を含むパラメーターとビットマップイメージを含むコンテントを有するグラフィックオブジェクトを同定し,
2)前記同定されたグラフィックオブジェクトの前記パラメーターに沿ってジェネリックグラフィックオブジェクトの実現値(instance)を保存し,
3)保存された前記ジェネリックテキストオブジェクトの実現値と異なるデータオブジェクト中のビットマップイメージを保存することにより,内部表現を生成する
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項32】
前記演出モジュールが,
1)前記映像の表示サイズと前記デジタルドキュメント中の前記グラフィックオブジェクトの少なくとも配置とを含むパラメーターとビットマップイメージを含むコンテントを有するグラフィックオブジェクトを同定し,
2)前記同定されたグラフィックオブジェクトの前記パラメーターに沿ってジェネリックグラフィックオブジェクトの実現値(instance)を保存し,
3)保存された前記ジェネリックテキストオブジェクトの実現値と異なるデータオブジェクト中のビットマップイメージを保存し,
4)前記コンテントに適用される前記フォントと前記デジタルドキュメント中における前記テキストオブジェクトの少なくとも配置を含むパラメーターと特徴のストリングを含むコンテントを有するテキストオブジェクトを同定し,
5)前記同定されたテキストオブジェクトのパラメーターに沿ったジェネリックテキストオブジェクトの実現値を保存し,
6)前記ジェネリックテキストオブジェクトの前記保存された実現値とは異なるデータオブジェクトの特徴のストリングを保存することにより,内部表現を生成する
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項33】
前記演出モジュールが,
1)前記デジタルドキュメント中の前記ジェネリックオブジェクトの特徴的実現値を表す複数のストラクチャ実現値を同定し,
2)前記同定されたストラクチャ実現値を特徴付けるパラメーターを有し,前記ライブラリから選択されたジェネリックオブジェクトの実現値として前記同定されたストラクチャ実現値を保存し,
3)前記同定されたストラクチャ実現値と連携されたコンテントを同定し,
4)前記ストラクチャ実現値に対応する前記保存されたジェネリックオブジェクト実現値から分離して前記同定されたコンテントを保存する
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。」(以下,この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正前の請求項」という。)

を,

「【請求項1】
視覚映像を表す情報を含み,外部アプリケーションで生成され,複数の所定のデータ形式の一つでソースデータを表す入力ストリームを受け取り,前記受け取られた入力ストリームを解釈して前記ソースデータの内部表現を生成する適応可能な前部と,
ジェネリックオブジェクトのライブラリと,
前記内部表現を処理するため及び,統合デジタルドキュメント処理システムの外部のいかなるアプリケーションからも独立して,前記視覚映像を提供する出力装置を動作するのに適した出力データストリーム,を生成するための前記ドキュメント処理システムに統合されたレンダリングエンジンとを備える
ことを特徴とする統合デジタルドキュメント処理システム。
【請求項2】
前記適応可能な前部が,データストリームをモニターするため及び,HTML,XML,PDF,DOC,RM,VRML,及びSGMLで構成されるセットからのいずれかの形式のファイルを同定するための処理を含む
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
オブジェクトと前記視覚映像のパラメーターベース表現とを受け取ること,及び前記オブジェクト及びパラメーターベース表現を特定の出力装置を動作するのに適した出力データ形式に変換することに適合した形状処理モジュールをさらに含む
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記形状処理モジュールが,オブジェクトの境界を決めるバウンディングボックス,及び前記バウンディングボックスにより境界をつけられた前記オブジェクトの実際の形状と,前記オブジェクトのデータコンテンツと,前記オブジェクトの透明性とで規定する形状に基づいて前記オブジェクトを処理する
ことを特徴とする請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記形状プロセッサが,前記オブジェクトのエッジにグレースケールのエイリアス除去を適用するのに適合される
ことを特徴とする請求項3に記載のシステム。
【請求項6】
前記形状処理モジュールが,パイプラインアーキテクチャを備え, 前記パイプラインアーキテクチャは,形状プロセッサパイプラインの複数のインスタンスを用いることによる,複数のオブジェクト,複数のドキュメント,あるいは一つ以上のドキュメントの複数サブセットの並行処理に適する多段パイプラインアーキテクチャである
ことを特徴とする請求項3に記載のシステム。
【請求項7】
前記内部表現は,次元的,物理的,及び時間的パラメーターを有するオブジェクトのパラメーターを含む
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
色データを記述するためのクロミナンス/ルミナンスベースの色モデルを含む
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記出力装置は,ディスプレイである
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記出力装置は,モニターである
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記出力装置は,スクリーンである
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記出力装置は,プリンターである
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記出力装置は,プロッターである
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
前記出力データストリームは,ビットマップである
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
前記出力データストリームは,プリンターのためのドットマップである
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
前記出力データストリームは,ベクトル命令のセットである
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項17】
前記デジタルドキュメントは少なくとも一つのユーザーとの間で相互に作用する特徴を含み,
前記内部表現は相互作用する複数の視覚ディスプレイを生成するためのグラフィカルユーザインターフェイスオブジェクトを含み,
前記レンダリングエンジンにより生成された前記出力データストリームは,前記デジタルドキュメントのユーザーとの間で相互作用する前記特徴を有するユーザーとの間で相互作用する視覚映像を提供するための出力装置を動作させるのに適合する
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項18】
前記相互作用する特徴は,メニューである
ことを特徴とする請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記相互作用する特徴は,ボタンである
ことを特徴とする請求項17に記載のシステム。
【請求項20】
前記相互作用する特徴は,アイコンである
ことを特徴とする請求項17に記載のシステム。
【請求項21】
前記レンダリングエンジンが,デジタルドキュメントの前記ソースデータ形式から独立して前記視覚映像の提示を操作するためのビュー制御入力を受け取るように構成される ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項22】
前記ビュー制御入力は,ズーム指示である
ことを特徴とする請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記ビュー制御入力は,パン(pan)指示である
ことを特徴とする請求項21に記載のシステム。
【請求項24】
前記ビュー制御入力は,スクロール指示である
ことを特徴とする請求項21に記載のシステム。
【請求項25】
前記ビュー制御入力は,表示コンテキストと関連する時間的パラメーターとを規定する ことを特徴とする請求項21に記載のシステム。
【請求項26】
前記表示コンテキストは,拡大レベルである
ことを特徴とする請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
前記時間的パラメーターは,パン(pan)スピードを含む
ことを特徴とする請求項25に記載のシステム。
【請求項28】
前記時間的パラメーターは,スクロールスピードを含む
ことを特徴とする請求項25に記載のシステム。
【請求項29】
前記時間的パラメーターは,表示期間を含む
ことを特徴とする請求項25に記載のシステム。」以下,この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正後の請求項」という。)
と補正するものである。


2.本件補正の適否

本件補正後の請求項1は,これに対応する補正前の請求項1に記載された発明の特定事項である「適応可能な前部」に対し「前記受け取られた入力ストリームを解釈して前記ソースデータの内部表現を生成する」との特定事項を追加するとともに,同じく発明の特定事項である「前記入力ストリームを解釈して前記視覚映像の内部表現を生成する演出モジュールと,」を削除する補正事項を含むものである。

本件補正のうち,上記補正事項に係る補正は,補正前の請求項1に記載された発明に対し発明特定事項を削除する補正事項を含むものであるから,補正前の請求項1に記載された発明の特定事項をさらに限定するものということができず,よって,本件補正は,「請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。」とされている特許請求の範囲の減縮に該当しない。
そして,本件補正は,請求項の削除,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明のいずれの目的にも該当しない。

したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前の特許法」という。)第17条の2第4項第1号ないし第4号に掲げる事項を目的とするものに該当しない。


3.独立特許要件についての検討

次に,仮に,本件補正が,出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであって,平成18年改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとした場合に,本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される請求項1に係る発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか)否かを以下に検討する。

本願補正発明は,再掲すれば,次に記載するとおりのものである。

「視覚映像を表す情報を含み,外部アプリケーションで生成され,複数の所定のデータ形式の一つでソースデータを表す入力ストリームを受け取り,前記受け取られた入力ストリームを解釈して前記ソースデータの内部表現を生成する適応可能な前部と,
ジェネリックオブジェクトのライブラリと,
前記内部表現を処理するため及び,統合デジタルドキュメント処理システムの外部のいかなるアプリケーションからも独立して,前記視覚映像を提供する出力装置を動作するのに適した出力データストリーム,を生成するための前記ドキュメント処理システムに統合されたレンダリングエンジンとを備える
ことを特徴とする統合デジタルドキュメント処理システム。」

(1)引用文献等

1)引用文献に記載されている技術的事項及び引用発明の認定

本願の出願前であって,上記優先日よりも前の日に頒布され,原審の拒絶の査定の理由である上記平成22年11月16日付けの拒絶理由通知で引用された,特開2000-76226号公報(平成12年3月14日公開,以下,「引用文献」という。)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

A.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,文字,記号等からなる文章テキストデータに,レイアウト指定や組み版指定等の修飾情報を付加してなる文書データを編集するシステム及びこれに使用される装置等に関し,特にハイエンド印刷用の自動編集に適した文書データの編集装置,編集プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び文書データを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】一般的に,印刷物や電子出版物の出版においては,各工程で仕上げられた文書データや表データを面付け等によって1つの出版物にまとめる編集作業を行う。この各工程で仕上げられる文書データ等は,近年のコンピュータの発達に伴い,ワープロソフト,表計算ソフトやデータベースソフト等,各種のアプリケーションソフトウェアで作成される場合が多い。
【0003】この各種のアプリケーションソフトによる各文書データ等は,文字,記号などで記載された文章テキストデータに,文字のサイズ,文字間隔,フォント等の設定や罫線等の修飾情報を付加して作成される。そして,これらの各文書における修飾情報は,各アプリケーション毎に定められたファイル形式に従って,文字等の文章テキストデータと併せてバイナリデータとして保持される。
【0004】従って,各種のアプリケーションソフトで作成された各文書データを一つの文書にまとめる編集を行うには,各種の文書データを共通のファイル形式に変換する必要があるため,従来は,各アプリケーションに対応したコンバーターソフト等を用いてファイルの変換を行い,出版の各工程間でデータの互換性を確保する必要がある。」

B.「【0008】そこで,本発明は,上記事情に鑑みて成されたものであり,その目的は,文章テキストデータに組版指定等の修飾情報を付加して作成される文書データの編集において,かかる修飾情報を外部から容易に識別できるファイル形式を利用することによって,メディアの特性に応じた編集を可能とするとともに,編集工程の省略,統合を図ることのできる編集システムを提供することにある。
【0009】また,本発明は,かかるファイル形式の文書データを容易に作成することのできる編集装置及び編集プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供することをも目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために,請求項1に係る発明は,文字又は記号からなる文章テキストデータに修飾情報を付加して形成される複数の文書データを編集する編集システムであって,修飾情報を特定の文字又は記号で表現したテキストデータとして表記して(以下,この表記を「タグ表記」と称する。)前記複数の文書データを形成し(以下,このタグ表記を含む文書データを「タグ付テキストデータ」と称する。),これらタグ付テキストデータに含まれるタグ表記に基づいて,各文書データに含まれる文章テキストデータを修飾しつつ,複数の文書データを編集することを特徴とするものである。
【0011】ここで,「テキストデータ」とは,特定の文字,記号等に対応した所定のコードをコンピュータが読み取り可能な信号列によって形成したデータで,これによって表現される文字列等が,人間によって解読可能であるものをいい,例えば,JISコード,シフトJISコード等がある。
【0012】また,「文章テキストデータ」とは,文書データのうち,操作者が作成した文章をテキストデータで表現した部分をいい,タグ表記の部分を除くデータをいう。
【0013】「修飾情報」とは,テキストデータによって表示される文字・記号のサイズ,色,字体,文字間隔等の情報の他,これらの文字列によって構成される文章や頁に対して,全体的に定められるレイアウト指示や局所的に定められる組版指示等に関する情報をいう。」

C.「【0027】
【発明の実施の形態】(文書編集システムの構成)以下,本発明の実施形態に係る文書編集システムについて,図面を参照しながら説明する。図1は,本発明の実施に使用する文書編集システム100の構成を示す図である。
【0028】同図において,文書編集システム100は,各工程によって作成された複数の文書データ1?4を,面付け等の編集作業を経て,一つの出版物にまとめるために用いられる。
【0029】各工程で作成される文書データ1?4は,文字,記号等からなる文章テキストデータに,個々のファイル形式に従って,修飾情報を付加して形成されるものであり,本実施形態では,SGML形式データ1,データベース形式データ2,RTF(Rich Text Format)形式データや表計算ソフト形式データ4がある。
【0030】ここでSGML形式とは,文書データのうち文章テキスト部分に,各文章の属性(例えば,1行目の文章は「表題」である等)を関連づけして形成したファイル形式である。また,データベース形式とは,文字,記号からなるデータ部分をカンマで区切り,これらの各データの相互関係に関する記述を含むデータ形式をいう。RTF形式とは,テキストデータの修飾情報を含ませたデータ形式をいい,表計算ソフト形式とは,データベース形式のうち簡易的なものをいい,各データを表に貼りつけられるように相互に関連付けが成されたデータ形式をいう。」

D.「【0031】そして,特に,この文書編集システム100では,これらの各種ファイル形式で表現された各文書データ1?4を,タグ付テキスト形式9に変換し,このタグ付テキストファイル9に含まれるテキストデータや修飾情報に基づいて編集作業を行う。
【0032】このタグ付テキストファイルとは,レイアウト指示や組版指示等の修飾情報を,特定の文字又は記号等のタグで表記してテキストデータ化することによって作成されるものである。式1は,かかるタグ付テキストファイル形式で表記された文書データの内容を示すものである。」

E.「【0039】前述した各文書データ1?4のタグ付テキストファイル9への変換は,本実施形態では,各種変換ツール5?8を用いる。
【0040】詳述すると,SGML形式についてはSGML解析変換ツール5を用いて,文書データのうち文章テキスト部分に関連づけられた各文章の属性に応じた,組版指定等の修飾情報を付加すべくタグ表記を記述する。例えば,「表題」部分には倍角表示する等が考えられる。
【0041】また,データベース形式や表計算ソフト形式については,組版編集向け変換ツール6や密連係ツール8を用いて,データ部分の種類に応じたタグ表記を付加する。RTF形式については,RTF取込ツール7を用いて,ファイル内に含まれる修飾情報を,タグ表記に変換する。
【0042】そして,このようなタグ付テキストデータ9に変換された各文書データ1?4は,文書データ編集装置200により編集され,例えば印刷出版用のページ記述用ファイル(PSファイル)14や電子出版出版用の画面表示用ファイル(PDFファイル)18にまとめられる。
【0043】詳しくは,紙面等に印刷する場合は,文書データ編集装置200により,各文書データに含まれるテキスト部分を,これらに含まれるタグ表記に基づいて修飾して,印刷用の頁のレイアウト等を設定する。そして,このようにして設定されたレイアウトに基づいて,PSファイル14を作成し,面付手段13により面付作業を経た後,出版物として印刷を行う。
【0044】なお,このPSファイル14は,PSファイル出力手段12からデータとして出力し,所定の変換ソフトウェア15を介して画面表示用のPDFファイル18に変換することができる。
【0045】一方,各文書データ1?4の内容を,PDFファイル製作として製作する場合も,文書データ編集装置200により,画面表示用に編集を行う。この場合には,編集結果を画面表示用ファイル18としてまとめ,PDF出力手段17により出力する。なお,このとき,リンク等ファンクション処理手段16を併用することによって,URL等のリンク情報を文書データに付加することができる。」

F.「【0076】図5は,上記連動表示を実現するために装置内で行われる具体的な処理を示すブロック図である。
【0077】同図において,キーボード27若しくはマウス28からの入力は,外部入力I/F30を介して,JOB管理モジュール34に受け渡される。このJOB管理モジュール34は,外部入力I/F30への入力を各モジュールに振り分ける役割を果たすものである。具体的には,外部入力I/F30から入力された入力情報は,イベントI/F341で,WYSIWYG(W/W)用I/F343とコマンドエディタ(C/E)用I/F342に選択的に出力される。
・・・(中略)・・・
【0082】このW/Wモジュール311での処理と併せて,W/W用I/F343へ入力された情報は,表示I/F346を介して表示モジュール39に出力される。この表示モジュール39では,入力情報が表示命令に返還された後,画面やプリンタの外部出力手段40に渡される。すなわち,W/Wモジュール311の編集結果はディスプレイ22等の表示手段等に即座に表示される。」

G.図面第1図には,本発明の実施形態に係る文書編集システム(100)の全体構成が示されており,SGMLファイル1等の各文書データ1?4を,それぞれに対応する変換ツール5?8が受け取ると,それらをタグ付きファイル9に変換し,編集装置200に受け渡す態様が示されている。

以下に,上記引用文献の記載事項について検討する。

(ア)上記B.の「請求項1に係る発明は,文字又は記号からなる文章テキストデータに修飾情報を付加して形成される複数の文書データを編集する編集システムであって」との記載から,引用文献は,“文章テキストデータに修飾情報を付加して形成される複数の文書データを編集する編集システム”について説明するものであるところ,

上記B.の「請求項1に係る発明は,・・・修飾情報を特定の文字又は記号で表現したテキストデータとして表記して(以下,この表記を「タグ表記」と称する。)前記複数の文書データを形成し(以下,このタグ表記を含む文書データを「タグ付テキストデータ」と称する。),・・・複数の文書データを編集することを特徴とするものである。」との記載から,上記“編集システム”は,“修飾情報を特定の文字又は記号で表現したタグ表記を含むタグ付テキストデータを形成し,前記文書データを編集”するものであることがよみとれ,

また,上記E.の「このようなタグ付テキストデータ9に変換された各文書データ1?4は,文書データ編集装置200により編集され,例えば印刷出版用のページ記述用ファイル(PSファイル)14や電子出版出版用の画面表示用ファイル(PDFファイル)18にまとめられる。」,「詳しくは,紙面等に印刷する場合は,文書データ編集装置200により,・・・PSファイル14を作成し,・・・出版物として印刷を行う。」,「文書データ編集装置200により,画面表示用に編集を行う。この場合には,編集結果を画面表示用ファイル18としてまとめ,PDF出力手段17により出力する。」との記載,及び上記F.の「W/W用I/F343へ入力された情報は,・・・画面やプリンタの外部出力手段40に渡される。」との記載から,上記“編集システム”は,“編集された文書データから,印刷用のページ記述用ファイル(PSファイル)や画面表示用ファイル(PDFファイル)を作成し,プリンタによる印刷や画面への表示を行う”ものであることがよみとれる。

してみると,引用文献には,
“文章テキストデータに修飾情報を付加して形成される複数の文書データを編集する編集システムであって,
修飾情報を特定の文字又は記号で表現したタグ表記を含むタグ付テキストデータを形成し,
前記文書データを編集し,
編集された文書データから,印刷用のページ記述用ファイル(PSファイル)や画面表示用ファイル(PDFファイル)を作成し,
プリンタによる印刷や画面への表示を行うものである,編集システム”が記載されているといえる。

(イ)上記“タグ付テキストデータ”の“形成”に関し,
上記D.の「この文書編集システム100では,これらの各種ファイル形式で表現された各文書データ1?4を,タグ付テキスト形式9に変換し」との記載から,引用文献には,
“前記文書データを,前記修飾情報を特定の文字又は記号で表現したタグ表記を含むタグ付テキストデータに変換し”て形成していることが記載されているといえる。

(ウ)上記“文書データ”の“編集”に関し,
上記D.に「この文書編集システム100では,これらの各種ファイル形式で表現された各文書データ1?4を,タグ付テキスト形式9に変換し,このタグ付テキストファイル9に含まれる・・・修飾情報に基づいて編集作業を行う」との記載があり,ここにおける「タグ付テキストファイル9」は「タグ付テキストデータ」であることから,引用文献には,
“前記タグ付テキストデータに含まれる修飾情報に基づいて,前記文書データを編集し”ていることが記載されているといえる。

(エ)上記“編集システム”の編集対象である“複数の文書データ”に関し,
上記C.の「各工程で作成される文書データ1?4は,文字,記号等からなる文章テキストデータに,個々のファイル形式に従って,修飾情報を付加して形成されるものであり,本実施形態では,SGML形式データ1,データベース形式データ2,RTF(Rich Text Format)形式データや表計算ソフト形式データ4がある。」との記載,及び上記A.の「一般的に,印刷物や電子出版物の出版においては,各工程で仕上げられた文書データや表データを面付け等によって1つの出版物にまとめる編集作業を行う。この各工程で仕上げられる文書データ等は,近年のコンピュータの発達に伴い,ワープロソフト,表計算ソフトやデータベースソフト等,各種のアプリケーションソフトウェアで作成される場合が多い。」との記載から,
“複数の文書データ”は,“アプリケーションソフトウェアにより,SGML形式を含む複数のデータ形式で形成されたものであ”ることがよみとれ,

また,上記E.の「前述した各文書データ1?4のタグ付テキストファイル9への変換は,本実施形態では,各種変換ツール5?8を用いる。」,「詳述すると,SGML形式についてはSGML解析変換ツール5を用いて,文書データのうち文章テキスト部分に関連づけられた各文章の属性に応じた,組版指定等の修飾情報を付加すべくタグ表記を記述する。」との記載,及び,上記G.に示された“SGMLファイル1等の各文書データ1?4を,それぞれに対応する変換ツール5?8が受け取ると,それらをタグ付きファイル9に変換”するとの態様から,
“複数の文書データ”は,“各文書データに対応する各種変換ツールにより,受け取った文書データから,タグ付テキストデータへの変換が行われ”ることがよみとれる。

してみると,引用文献には,
“前記複数の文書データは,アプリケーションソフトウェアによって,SGML形式を含む複数のデータ形式で形成されたものであり,各文書データに対応する各種変換ツールにより,受け取った文書データからタグ付テキストデータへの変換が行われ”ることが記載されているといえる。

以上,(ア)?(エ)で指摘した事項から,引用文献には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

文章テキストデータに修飾情報を付加して形成される複数の文書データを編集する編集システムであって,
前記文書データを,前記修飾情報を特定の文字又は記号で表現したタグ表記を含むタグ付テキストデータに変換し,
前記タグ付テキストデータに含まれる修飾情報に基づいて,前記文書データを編集し,
編集された文書データから,印刷用のページ記述用ファイル(PSファイル)や画面表示用ファイル(PDFファイル)を作成し,
プリンタによる印刷や画面への表示を行うものであり,
前記複数の文書データは,アプリケーションソフトウェアによって,SGML形式を含む複数のデータ形式で形成されたものであり,各文書データに対応する各種変換ツールにより,受け取った文書データからタグ付テキストデータへの変換が行われる,編集システム。

2)参考文献

2-1)参考文献1
本願の出願前であって,上記優先日よりも前の日に頒布された,特開平11-179983号公報(平成11年7月6日出願公開,以下,「参考文献1」という。)には,図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

H.「【要約】
【課題】印刷データのデータ要素の圧縮/伸張,カラー空間変換,中間調処理などの処理を最適化する。
【解決手段】ソースストリームをテキスト,線画,グラフィックス,イメージ等のデータ要素の特性に基づいて複数のデータストリームに分割する。分割は,無損失性(可逆)と損失性(非可逆)のピクセルデータに分割することができる。各データストリームは,データ処理パイプラインにおいて,それぞれ別個に圧縮,カラー空間変換,展開等の処理を受ける。処理を受けたデータストリームは併合ユニットで併合され,オリジナルの画像を再構成される。併合ユニットは,データ要素に対応する併合データ要素から形成される併合データストリームを用いて併合を行う。その後,印刷データは必要に応じて中間調処理を受け,プリントエンジンに渡される。」

J.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,データの処理に関し,より具体的にはプリンタの印刷データ処理パイプラインにおいて印刷データを併合するのに使用される併合ユニットに関する。」

K.「【0064】ビデオDMA122のようなダイレクトメモリアクセス・コントローラは,印刷データ処理パイプライン15の多様な機能を実行するASIC120の一部への印刷データの流れおよびASIC120の一部からの印刷データの流れを制御する。ビデオDMAバッファ123は,ビデオDMA122を通過するときに印刷データを一時的に保管し,印刷データがASIC120へおよびASIC120から移動する時,PCIバスとASIC120の多様な機能ブロックの間の印刷データレートを適合させる。ビデオDMAバッファの使用は,PCIバスインターフェース121およびASIC120の残りの部分における機能ブロックの間のデータの流れのレートにおける不整合を補償する。」

2-2)参考文献2
本願の出願前であって,上記優先日よりも前の日に頒布された,特開平10-243380号公報(平成10年9月11日出願公開,以下,「参考文献2」という。)には,図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

L.「【請求項1】外部制御可能なカメラと,カメラ制御情報に基づき前記カメラを制御するカメラ制御手段と,前記カメラからの映像を入力する映像入力手段と,前記映像入力手段から入力される映像情報に該映像情報が入力された時刻を示す時刻情報を付加してストリームデータとして記録装置に蓄積し,さらに,前記映像情報が入力される周期とは必ずしも一致しない周期でまたは非周期的に前記映像情報の入力と同期して前記カメラ制御手段から入力されるカメラ制御情報があるならば該カメラ制御情報に前記時刻情報を付加してストリームデータとして前記記録装置に蓄積するストリームデータ蓄積手段と,所望の一連の映像情報とこれに対応する一連のカメラ制御情報とを読み出して所定の処理を施す際に,前記一連の映像情報およびこれに対応する一連のカメラ制御情報を前記記録装置から順次読み出して前記所定の処理のために同期して出力するストリームデータ読み出し手段とを備えた映像監視システム。」

M.「【0037】同時に,カメラ制御情報ストリーム生成部55は,カメラ制御部5を介して入力されたカメラ制御情報に,時刻発生部51が入手した上記現在時刻を時刻情報を付加してカメラ制御情報ストリームデータ形式のデータに変換し,これをカメラ制御情報ストリーム蓄積部56へ送出する。カメラ制御情報ストリーム蓄積部56は受け取ったカメラ制御情報ストリームデータ形式のデータを既に蓄積されたカメラ制御情報ストリームの最後尾に付加するように記録装置3に記録する。この際,初めて記録装置3に記録する場合には,カメラ制御情報ストリームを格納する領域の先頭に映像情報ストリームデータ形式に変換されたデータが記録される。・・・(後略)」

2-3)参考文献3
本願の出願前であって,上記優先日よりも前の日に頒布された,特開2000-99750号公報(平成12年4月7日出願公開,以下,「参考文献3」という。)には,図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

N.「【0019】本発明の更なる目的は,所定の描画命令で記述された描画データを一旦中間コードに変換して,中間コードをビットマップ展開するタイプの,優れた画像処理装置及び画像処理方法を提供することにある。
・・・(中略)・・・
【0022】
【課題を解決するための手段及び作用】本発明は,上記課題を参酌してなされたものであり,その第1の側面は,所定の描画命令で記述された描画データに従って生成された画像データを走査ライン毎に出力するタイプの画像処理装置であって,(a)描画データに含まれる描画オブジェクトの輪郭を描画するためのアウトライン・ベクタを,描画オブジェクトを構成するベクタや線幅などのパラメータを用いて生成するアウトライン・ベクタ生成手段と,(b)前記アウトライン・ベクタ生成手段によって生成された各アウトライン・ベクタについての始点及び終点を含んだディスプレイ・リストを生成するディスプレイ・リスト生成手段と,(c)生成されたディスプレイ・リストを基に,塗り潰し処理を実行する塗り潰し手段と,を含むことを特徴とする画像処理装置である。」

P.「【0045】描画データ・スプール部10は,接続されたパーソナル・コンピュータやワークステーションとの間でスプール機能を実現するためのユニットであり,描画データを入力するための通話機能や,描画データ解釈部11に出力するまで描画データを一時的に記憶する機能を備えている。
【0046】描画データ解釈部11は,描画データ・スプール部10から受け取った描画データを解釈するためのユニットである。より具体的には,所定の記述言語の構文規則に従って描画データをトークンとして切り出し,トークンを解釈して,内部命令やその引数に変換する。内部命令には,文字や図形の描画を実行する「描画命令」や,色や線属性など描画に必要な情報を設定するために「描画状態命令」がある。描画命令や描画状態命令は,ベクタ・データ生成部12に転送される。」

2-4)参考文献4
本願の出願前であって,上記優先日よりも前の日に頒布された,特開2000-92315号公報(平成12年3月31日出願公開,以下,「参考文献4」という。)には,図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

Q.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は画像処理装置に関し,特に文字/図形/画像に対し所定の描画命令で記述されているデータをビットマップに展開してプリンタ装置などの2値記録装置へ出力する場合にディザ法を使っての画像処理を高速に行う画像処理装置に関する。」

R.「【0016】次に,本発明の画像処理装置の概要について説明する。図2は画像処理装置の構成例を示すブロック図である。図2において,画像処理装置は,中間データ生成部11と,中間データ記憶部12と,中間データ展開部13と,バンドバッファ部14と,出力部15とから構成され,さらに中間データ展開部13は,エッジ計算部131,2値化処理部132,2値化結果レジスタ兼シフタ1321,および閾値マトリックス記憶部133から構成されている。
【0017】中間データ生成部11は,PostScript(Adobe Systems社商標)やInterpress(Xerox社商標)などのページ記述言語(PDL)を入力し,それから図形,文字,画像の描画命令を解釈し,それぞれの描画オブジェクトに対して,描画領域を表すディスプレイリスト(DL)と階調情報とからなる中間データを生成する。ディスプレイリストは,描画オブジェクトを表す近似多角形の各辺を,主走査方向の座標値,傾き,および交わるスキャンライン数で表したディスプレイリストセルデータであって,これを,開始スキャンライン値でソートしたデータである。・・・(後略)」

S.「【0022】図3は中間データ生成部の構成例を示すブロック図である。中間データ生成部11は,コマンド解釈部111,図形ベクタ生成部112,文字ベクタ生成部113,画像処理部114,色変換部115,ディスプレイリスト生成部116,および中間データ出力部117から成っている。
【0023】まず,コマンド解釈部111では,入力されたページ記述言語(PDL)からページを記述したコマンド列を解釈して,文字/図形/画像と色に関するパラメータとコマンドとを抽出し,それぞれ図形ベクタ生成部112,文字ベクタ生成部113,画像処理部114,および色変換部115へコマンドを転送する。図形ベクタ生成部112は,パラメータとして図形の輪郭を表した座標値列を受け取り,ベクタデータを生成する。文字ベクタ生成部113は,フォント識別子(ID),文字コード,およびサイズを受け取り,文字の輪郭を表すベクタデータを生成する。画像処理部114は,画像のラスタデータ,高さ,幅,アフィン変換マトリクス,ラスタデータの色空間を受け取り,アフィン変換後のラスタデータとアフィン変換後のラスタ画像の輪郭を表すベクタとを生成する。色変換部115は,文字/図形の場合には,コマンド解釈部111から直接,空間と色値を受け取り,出力部15(モノクロ対応で説明する)のために8ビットの階調データに変換する。画像の場合には,画像処理部114からアフィン変換後のラスタデータおよびその色空間を受け取り,出力部15(モノクロ対応で説明する)のために8ビットの階調データの配列データに変換する。ディスプレイリスト生成部116は,図形ベクタ生成部112,文字ベクタ生成部113,画像処理部114から受け取ったベクタデータからディスプレイリストを生成する。ここで,ディスプレイリスト生成部116におけるディスプレイリストの生成例を図4に示す。」

2-5)参考文献5
本願の出願前であって,上記優先日よりも前の日に頒布された,国際公開99/60523号(平成11年11月25日国際公開,以下,「参考文献5」という。)には,図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

T.「画像処理チップ33のレンダリングエンジン41は,メインCPU31から供給される描画コマンドに対応して,メモリインターフェース42を介して,画像メモリ43に所定の画像データを描画する動作を実行する。メモリインターフェース42としンダリングエンジン41の間には,バス45が接続されており,メモリインターフェース42と画像メモリ43の間には,バス46が接続されている。バス46は,例えば128ビットのビット幅を有し,レンダリングエンジン41は,画像メモリ43に対して,高速に描画処理を実行することができるようになされている。レンダリングエンジン41は,例えば,NTSC方式,あるいはPAL方式などの320×240画素の画像データ,あるいは,640×480画素の画像データを,リアルタイムに(1/30秒乃至1/60秒)の間に,十数回乃至数十回以上描画する能力を有している。」(17頁4行?14行)

2-6)参考文献6
本願の出願前であって,上記優先日よりも前の日に頒布された,特表平8-501166号公報(平成8年2月6日出願公開,以下,「参考文献6」という。)には,図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

U.「これまで,完全な″本″を表現する電子文書(図形を含まないテキストのみ)は,著者によって(テキストエディタ140を使って)作成せれてきた。これは,全ての作業が一人の著者によって行われ,作成した情報の再利用が容易でないことを意味する。一方,本発明は,より小さな部分又は情報要素の集まりから,本(マニュアル,文書)を編集(又は作成)するようになっているため,複数の著者によって作業を行うことができる。これは,再利用性の向上につながる。1つの情報要素は,特定ドメインに関するサービス情報の最小単位として定義される。なお,ここでは,情報要素の利用が,本発明の好ましい具体化となってはいるが,本発明によれば,情報要素を利用しなくても,正確で明瞭な翻訳文書を作成することができる。
図4は,情報要素410の例を示すもので,″ユニーク″なヘッダ415,″ユニーク″なテキストブロック420,″共用″図形430,″共用″表435,及び″共用”テキストブロック425から構成されている。
″ユニーク″な情報とは,それを含む情報要素にのみ適用できる情報のことである。従って,″ユニーク″な情報は,情報要素450の一部としてファイルされることになる。
″共用″オブジェクト(図形,表,又はテキストブロック)とは,情報要素内で″参照される″情報のことである。″共用″オブジェクトの内容はオーサリングツールで表示されるが,ファイルされた情報要素450内のみで″ポイント″される。
″共用″オブジェクトと情報要素の違いは,″共用″オブジェクトが,それだけでは意味をもたない(つまり,それだけでは,独立的な情報を伝えることができない)という点である。それぞれの″共用″オブジェクトは,ブロック450に示すような個別のファイルを形成する。
情報要素は,″ユニーク″な情報ブロック(テキスト及び(又は)表)と1つ以上の″共用″オブジェクトから構成される。なお,″ユニーク″なヘッダ415及び″ユニーク″なテキスト420は,″共用″図形430,″共用″表435,及び″共用″テキスト425と組み合わさっている。1つの完全な文書(本)は,1つ以上の情報要素から構成される。
″共用″オブジェクトは,″共用″ライブラリに保存される。ライブラリの種類としては,″共用″図形ライブラリ460a,″共用″表ライブラリ460b,″共用″テキストライブラリ460c,″共用″音声ライブラリ460d,及び″共用″ビデオライブラリ460eがある。共用オブジェクトは,1回保限り存されるだけである。個別の情報要素内で使用する時は,元の共用オブジェクトへの″ポインタ″が,情報共用ファイル450に配置される。これによって,必要となるディスク容量を最小限に抑えることができる。元のオブジェクトを変更すると,そのオブジェクトを″ポイント″している情報要素全部が,自動的に変更される。共用オブジェクトは,任意の種類の出版物に使用することができる。
″共用情報要素″とは,1つ以上の文書で利用される情報要素のことである。たとえば,リリースライブラリ470の中の4つの情報要素は,文書480及び485を作成するために利用されている。」(29頁10行?30頁23行)


(2)本願補正発明と引用発明との対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

(2-1)引用発明の「文書」は「ドキュメント」に相当するところ,当該「文書」データをコンピュータ装置において“デジタルデータ”として処理することは,当業者にとって自明な事項であり,
また当該「文書」データの「編集」は,「文書」データの「処理」といえるものであることから,
引用発明の「文書データを編集する編集システム」と,本願補正発明の「統合デジタルドキュメント処理システム」とは,ともに,“デジタルドキュメント処理システム”である点で共通する。

(2-2)
ア.引用発明の「各文書データに対応する各種変換ツール」は,「編集システム」による「編集」処理よりも前の処理を行い,前部と言えるものであることから,引用発明の当該「各文書データに対応する各種変換ツール」は,本願補正発明の「適応可能な前部」に対応し,ともに,“前部”である点で共通するといえるものであるところ,
引用発明の「各文書データに対応する各種変換ツール」は,「文書データ」を受け取り,「タグ付テキストデータ」に変換して出力するものであるのに対し,
本願補正発明の「適応可能な前部」は,「視覚映像を表す情報を含み,外部アプリケーションで生成され,複数の所定のデータ形式の一つでソースデータを表す入力ストリーム」を受け取り,「前記受け取られた入力ストリーム」を解釈して「ソースデータの内部表現」を生成するものであることから,
以下に,両者の,データを受け取る入力処理,及び出力処理について対比する。

イ.引用発明の「各文書データに対応する各種変換ツール」が受け取る上記「文書データ」は,「印刷」や「画面」への「表示」処理により表示される情報を含むものであり,そのために「アプリケーションソフトウェアによって」形成されるものであって,「SGML形式を含む複数のデータ形式」のうちの一つのデータ形式で形成された入力データである。また,コンピュータで処理される文書データを,アプリケーションで生成される元データであるソースデータを「SGML形式」等の「データ形式」として形成することは自明な事項であることから,「文書データ」は,「SGML形式を含む複数のデータ形式」のうちの一つのデータ形式でソースデータを表す入力データであるといえる。
一方,本願補正発明の「適応可能な前部」が受け取る上記「視覚映像を表す情報を含み,外部アプリケーションで生成され,複数の所定のデータ形式の一つでソースデータを表す入力ストリーム」は,上位概念において,“表示情報”を含み,“アプリケーションで生成され”,複数の所定のデータ形式の一つでソースデータを表す“入力データ”であるといえる。
してみると,引用発明の「文書データ」と,本願補正発明の「視覚映像を表す情報を含み,外部アプリケーションで生成され,複数の所定のデータ形式の一つでソースデータを表す入力ストリーム」とは,ともに,“表示情報を含み,アプリケーションで生成され,複数の所定のデータ形式の一つでソースデータを表す入力データ”である点で共通するといえる。

ウ.引用発明の「各文書データに対応する各種変換ツール」が変換して出力する「タグ付テキストデータ」は,「修飾情報を特定の文字又は記号で表現したタグ表記」を有するものであり,当該「修飾情報を特定の文字又は記号で表現したタグ表記」は「文書データ」に係る情報であるから,「文書データ」をなすソースデータに係る情報であるといえる。
一方,本願補正発明の「適応可能な前部」が生成する「ソースデータ」の「内部表現」は,本願発明の詳細な説明の記載,例えば「前記ソースデータが,デジタルドキュメントのコンテンツ及び構造を決め,前記内部表現データが,前記コンテンツとは別に,複数のデータタイプを定義するジェネリックオブジェクトと,ジェネリックオブジェクトの特定のインスタンスの特性を定義するパラメーターとで前記構造を記述することを特徴とする・・・」(【請求項4】),「ドキュメント内の様々なジェネリックオブジェクトの特定のインスタンスの特性を定義するパラメーターと,タイプがライブラリ16で定義されるようなものであるジェネリックオブジェクトの集合とでソースドキュメントのコンテンツを記述する内部表現14を生成する。」(【0026】)(注:下線は当審が付与)等によれば,「データタイプを定義するジェネリックオブジェクト」と「ジェネリックオブジェクトの特定のインスタンスの特性を定義するパラメーター」とで「デジタルドキュメント」の「コンテンツ及び構造を記述する」情報に対応することから,上記概念において,ソースデータに係る情報であり,また,当該「ソースデータの内部表現」の「生成」も,上位概念において「ソースデータの内部表現」の「出力」であるといえる。
してみると,引用発明の「タグ付テキストデータ」を「変換」して出力することと,本願補正発明の「受け取られた入力ストリームを解釈して前記ソースデータの内部表現」を「生成」することとは,ともに,“受け取られた入力データから,前記ソースデータに係る情報”を“出力”することである点で共通するといえる。

エ.以上をまとめると,
引用発明の「文書データ」を受け取り,「タグ付テキストデータ」を「変換」して出力する「各文書データに対応する各種変換ツール」と,本願補正発明の「視覚映像を表す情報を含み,外部アプリケーションで生成され,複数の所定のデータ形式の一つでソースデータを表す入力ストリームを受け取り,前記受け取られた入力ストリームを解釈して前記ソースデータの内部表現を生成する適応可能な前部」とは,ともに,“表示情報を含み,アプリケーションで生成され,複数の所定のデータ形式の一つでソースデータを表す入力データを受け取り,前記受け取られた入力データから,前記ソースデータに係る情報を出力する前部”である点で共通するといえる。

(2-3)引用発明の「編集システム」は「編集された文書データから,印刷用のページ記述用ファイル(PSファイル)や画面表示用ファイル(PDFファイル)を作成」することから,「プリンタ」や「画面」等の出力装置のための「出力データ」を生成するための手段を有しているといえ,この場合,当該「プリンタ」や「画面」等の出力装置は,「文書データ」内の表示情報を提供するものと言え,また,当該「出力データ」は,出力装置を動作するのに適した出力データと言えるものである。
一方,本願補正発明は,「レンダリングエンジン」は,「出力データストリーム,を生成するため」のものであることから,上位概念において,“生成手段”といえるものである。
してみると,引用発明の「編集システム」における「プリンタ」や「画面」等の出力装置のための「出力データ」を生成するための手段と,本願補正発明の「前記内部表現を処理するため及び,統合デジタルドキュメント処理システムの外部のいかなるアプリケーションからも独立して,前記視覚映像を提供する出力装置を動作するのに適した出力データストリーム,を生成するための前記ドキュメント処理システムに統合されたレンダリングエンジン」とは,ともに,“前記表示情報を提供する出力装置を動作するのに適した出力データを生成するための生成手段”である点で共通するといえる。

以上(2-1)?(2-3)から,本願補正発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,以下の点で相違する。

(一致点)
表示情報を含み,アプリケーションで生成され,複数の所定のデータ形式の一つでソースデータを表す入力データを受け取り,前記受け取られた入力データから,前記ソースデータに係る情報を出力する前部と,
前記表示情報を提供する出力装置を動作するのに適した出力データを生成するための生成手段とを備える,デジタルドキュメント処理システム。

(相違点1)
本願補正発明が,「統合デジタルドキュメント処理システム」であり,「統合」「システム」であるのに対し,
引用発明は,「文書データを編集する編集システム」である点。

(相違点2)
前部に関し,
本願補正発明は,「適応可能」な構成であるのに対し,
引用発明は,そのような構成となっているかは明りょうでない点。

(相違点3)
前部で受け取る,入力データに関し,
本願補正発明は,「視覚映像を表す情報を含」む,「入力ストリーム」であるのに対し,
引用発明は,入力データである「文書データ」が,「視覚映像を表す情報を含み」「入力ストリーム」であるかは明りょうでない点。

(相違点4)
前部からのソースデータに係る情報の出力に関し,
本願補正発明は,入力ストリームを「解釈して」,ソースデータの「内部表現」を「生成」しているのに対し,
引用発明は,そのような構成となっているかは明りょうでない点。

(相違点5)
出力データを生成するための生成手段として,
本願補正発明は,「前記内部表現を処理するため及び,統合デジタルドキュメント処理システムの外部のいかなるアプリケーションからも独立して,前記視覚映像を提供する出力装置を動作するのに適した出力データストリーム,を生成するための前記ドキュメント処理システムに統合されたレンダリングエンジン」を備えているのに対し,
引用発明は,「編集システム」における「プリンタ」や「画面」等の出力装置のための「出力データ」を生成するための手段を有しているが,上記「レンダリングエンジン」に相当する構成とはなっていない点。

(相違点6)
前部で受け取る,入力データを生成するアプリケーションに関し,
本願補正発明は,「外部」アプリケーションであるのに対し,
引用発明は,アプリケーションソフトウェアであるが,「外部」であるかは明りょうでない点。

(相違点7)
本願補正発明は,「ジェネリックオブジェクトのライブラリ」を備えているのに対し,
引用発明は,そのような構成は備えていない点。

(3)判断

上記相違点1ないし相違点7について検討する。

(3-1)相違点1について
本願補正発明における「統合デジタルドキュメント処理システム」の「統合」とは,本願発明の詳細な説明の記載,例えば(注:下線は当審が便宜上付与。以下,同じ),「特に,従来のシステムは,統合された手段で,複数のファイル形式の処理を提供しない。反対に,本発明は,全てのファイル形式のために共通の処理及びパイプラインを利用し,これにより,・・・ドキュメント処理システムを提供する。」(【0055】)によれば,複数の「ファイル形式のために共通の処理及びパイプラインを利用」可能とする態様に対応するものである。
これに対し,引用発明の「編集システム」においても,上記A.に「出版の各工程間でデータの互換性を確保する必要がある。」との記載,上記B.に「メディアの特性に応じた編集を可能とするとともに,編集工程の省略,統合を図ることのできる編集システムを提供する」との記載,上記C.に「文書編集システム100は,各工程によって作成された複数の文書データ1?4を,面付け等の編集作業を経て,一つの出版物にまとめるために用いられる。」,「各工程で作成される文書データ1?4は,文字,記号等からなる文章テキストデータに,個々のファイル形式に従って,修飾情報を付加して形成されるものであり,本実施形態では,SGML形式データ1,データベース形式データ2,RTF(Rich Text Format)形式データや表計算ソフト形式データ4がある。」との記載があるように,複数のファイル形式の文書データに対して,共通の処理等を利用可能とするものであり,これより「統合」したシステムとすることに格別困難性は認められない。
してみると,引用発明の「編集システム」を,「統合」システムとすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
よって,相違点1は格別なものではない。

(3-2)相違点2について
本願補正発明における「適応可能な前部」の「適応可能」について,本願発明の詳細な説明の記載を参照すると,「適応可能な前部は,処理されるソースのファイル構造を決定し,それにより,複数の異なるファイルタイプ及びソースアプリケーションで動作することのできる装置を提供する。」(【0007】)とあることを考慮すると,「複数の異なるファイルタイプ及びソースアプリケーションで動作することのできる」ことに対応するものであるところ,
引用発明の「編集システム」においても,上記A.に「各工程で仕上げられる文書データ等は,近年のコンピュータの発達に伴い,ワープロソフト,表計算ソフトやデータベースソフト等,各種のアプリケーションソフトウェアで作成される場合が多い。」との記載,上記C.に「文書編集システム100は,各工程によって作成された複数の文書データ1?4を,面付け等の編集作業を経て,一つの出版物にまとめるために用いられる。」,「各工程で作成される文書データ1?4は,文字,記号等からなる文章テキストデータに,個々のファイル形式に従って,修飾情報を付加して形成されるものであり,本実施形態では,SGML形式データ1,データベース形式データ2,RTF(Rich Text Format)形式データや表計算ソフト形式データ4がある。」との記載があるように,複数のファイル形式の文書データ及びアプリケーションに対して動作可能とするものであり,これより「前部」に相当する構成を「適用可能」とすることに格別困難性は認められない。
してみると,引用発明の「編集システム」における「各文書データに対応する各種変換ツール」を,「適応可能」な「前部」とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
よって,相違点2は格別なものではない。

(3-3)相違点3ないし相違点6について
上記「(2)本願補正発明と引用発明との対比」「(2-2)」の「ウ.」で述べたとおり,本願補正発明における「内部表現」とは,「データタイプを定義するジェネリックオブジェクト」と「ジェネリックオブジェクトの特定のインスタンスの特性を定義するパラメーター」とで「デジタルドキュメント」の「コンテンツ及び構造を記述する」情報に対応するものであって,
本願補正発明は,「視覚映像を表す情報を含」んだ「入力ストリーム」に対して「前部」において「受け取り」「解釈して前記ソースデータ」の上記の如き「内部表現を生成」するとともに,
「レンダリングエンジン」において上記の如き「内部表現を処理」し「出力装置」において「視覚映像」として「提供」される「出力ストリーム」を生成する,一連の処理を有するものである。

これに対し,イメージ等のデジタルデータ処理において,映像を含むデータストリームの入力データから中間データを生成し,その中間データを処理して出力装置のための出力データストリームを生成することは,例えば,

参考文献1の上記H.の「ソースストリームをテキスト,線画,グラフィックス,イメージ等のデータ要素の特性に基づいて複数のデータストリームに分割する。分割は,無損失性(可逆)と損失性(非可逆)のピクセルデータに分割することができる。各データストリームは,データ処理パイプラインにおいて,それぞれ別個に圧縮,カラー空間変換,展開等の処理を受ける。処理を受けたデータストリームは併合ユニットで併合され,オリジナルの画像を再構成される。・・・その後,印刷データは必要に応じて中間調処理を受け,プリントエンジンに渡される。」との記載,及び上記K.の「ビデオDMA122のようなダイレクトメモリアクセス・コントローラは,印刷データ処理パイプライン15の多様な機能を実行するASIC120の一部への印刷データの流れおよびASIC120の一部からの印刷データの流れを制御する。」との記載(当審注:上記の「データストリーム」に「分割」データが中間データに相当。)が,

また,参考文献2の上記L.の「前記カメラからの映像を入力する映像入力手段と,前記映像入力手段から入力される映像情報に該映像情報が入力された時刻を示す時刻情報を付加してストリームデータとして記録装置に蓄積し,・・・ストリームデータ蓄積手段と,所望の一連の映像情報・・・を読み出して所定の処理を施す際に,前記一連の映像情報・・・を前記記録装置から順次読み出して前記所定の処理のために同期して出力するストリームデータ読み出し手段」との記載,及び上記M.の「カメラ制御情報ストリーム蓄積部56は受け取ったカメラ制御情報ストリームデータ形式のデータを既に蓄積されたカメラ制御情報ストリームの最後尾に付加するように記録装置3に記録する。」との記載(当審注:上記の「映像入力」情報はストリームデータと言えるものであり,「映像情報」に「時刻情報を付加」した「ストリームデータ」が中間データに相当。)が,

それぞれあるとおり,本願優先日前において周知技術である。

また,イメージデータからの中間データとして,イメージのオブジェクトとパラメータによりコンテンツ及び構造を記述するデータを,イメージデータを解釈して生成すること(例えば,参考文献3の上記N.及びP.の記載,参考文献4の上記R.及びS.の記載を参照。)や,
レンダリングエンジンにより,イメージ出力命令を処理して出力イメージデータを生成すること(例えば,参考文献5の上記T.の記載を参照。)は,
いずれも,当業者にとって普通に用いられる常套手段であり,

そして,上記周知技術である,映像を含むデータストリームの入力データから中間データを生成し,その中間データを処理して出力装置のための出力データストリームを生成する技術を用いる際に,当該中間データを,イメージのオブジェクトとパラメータによりコンテンツ及び構造を記述する構成に相当する,内部表現形式のデータとするとともに,当該中間データ処理から出力データ生成の手段として,レンダリングエンジンとしての構成を採用することに,格別困難性は認められない。

なお,文書処理システムの処理対象データを,システム内又は外のいずれのアプリケーションで作成するかに技術上格別なる意義は認められず,適宜選択して行う設計的事項であり,また当該処理対象データを,システム外のアプリケーションで作成して入力する際に,システム内でのデータ処理を当該外部アプリケーションを利用することなく独立して行うようにすることも,必要に応じて適宜行う程度の事項である。

してみると,引用発明の「編集システム」での文書データ処理において,上記周知技術を適用し,「視覚映像を表す情報を含み,外部アプリケーションで生成され,複数の所定のデータ形式の一つでソースデータを表す入力ストリーム」として受け取り,「前記受け取られた入力ストリームを解釈して前記ソースデータの内部表現を生成する」こととし,
また,出力データ生成を「前記内部表現を処理するため及び,統合デジタルドキュメント処理システムの外部のいかなるアプリケーションからも独立して,前記視覚映像を提供する出力装置を動作するのに適した出力データストリーム,を生成するための前記ドキュメント処理システムに統合されたレンダリングエンジン」によって行うように構成すること,すなわち,本願補正発明の相違点3ないし相違点6に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
よって,相違点3ないし相違点6は格別なものではない。

(3-4)相違点7について
処理対象であるイメージデータを,共通のライブラリに格納されたオブジェクトを用いて構成することは,周知の構成技術であり(例えば,参考文献6の上記U.の記載参照。),また,当該共通のライブラリとはジェネリックなライブラリを意味するものであり,そこに格納されるオブジェクトも,ジェネリックなオブジェクトに他ならない。
してみると,引用発明において,「ジェネリックオブジェクトのライブラリ」を備えること,すなわち,本願補正発明の相違点7に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
よって,相違点7は格別なものではない。

(3-5)小括

上記で検討したごとく,相違点1?相違点7は格別のものではなく,そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本願補正発明の奏する作用効果は,上記引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。
したがって,本願補正発明は,上記引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4.本件補正についての結び

上記2.及び3.で検討した通り,本件補正は,特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしておらず,また,仮に当該要件を満たすものであったとしても,本願補正発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができず,特許法第17条の2第5項の規定により準用する特許法第126条第5項の規定に違反するので,本件補正は,特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について

1.本願発明

平成23年10月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願に係る発明は,平成23年3月24日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項に記載された事項により特定されるものであるところ,請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,前記「第2 平成23年10月7日付けの手続補正についての補正却下の決定」「1.本件補正」の本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2.引用文献等

原査定の拒絶の理由に引用された,引用文献およびその記載事項は,前記「第2 平成23年10月7日付けの手続補正についての補正却下の決定」「3.独立特許要件についての検討」の「(1)引用文献等」に記載したとおりである。

3.対比・判断

本願発明は,前記「第2 平成23年10月7日付けの手続補正についての補正却下の決定」「1.本件補正」の「本願補正発明」から,「前記受け取られた入力ストリームを解釈して前記ソースデータの内部表現を生成する」を削除するとともに,「前記入力ストリームを解釈して前記視覚映像の内部表現を生成する演出モジュールと」を付加したものであることから,
本願発明と引用発明とは,前記「第2 平成23年10月7日付けの手続補正についての補正却下の決定」「3.独立特許要件についての検討」の「(2)本願補正発明と引用発明との対比」に記載した相違点に加えて,以下の点で相違する。

(相違点8)
本願補正発明が,「前記入力ストリームを解釈して前記視覚映像の内部表現を生成する演出モジュール」を有するのに対し,
引用発明は,そのような構成を有していない点。

上記相違点8について検討すると,
前記「第2 平成23年10月7日付けの手続補正についての補正却下の決定」「3.独立特許要件についての検討」「(3)判断」の「(3-3)相違点3ないし相違点6について」で述べたように,周知技術である,映像を含むデータストリームの入力データから中間データを生成し,その中間データを処理して出力装置のための出力データストリームを生成する技術を用いる際に,当該中間データを,イメージのオブジェクトとパラメータによりコンテンツ及び構造を記述する構成に相当する,内部表現形式のデータとすることに,格別困難性は認められず,
また,当該周知技術の採用に伴う処理を,所定のモジュールとして実現することも,当業者にとって常套手段である。

したがって,前記「第2 平成23年10月7日付けの手続補正についての補正却下の決定」「3.独立特許要件についての検討」の「(3)判断」での検討と併せると,相違点1?相違点8は格別のものではなく,そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本願発明の奏する作用効果は,引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。
してみると,本願発明は,当該引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その余の請求項について言及するまでもなく,本願は,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-29 
結審通知日 2013-04-02 
審決日 2013-04-17 
出願番号 特願2001-576584(P2001-576584)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G06F)
P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 萩島 豪辻本 泰隆  
特許庁審判長 仲間 晃
特許庁審判官 酒井 伸芳
田中 秀人
発明の名称 デジタルドキュメント処理  
代理人 渡邊 隆  
代理人 実広 信哉  

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