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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60T
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60T
管理番号 1278844
審判番号 不服2012-12129  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-06-27 
確定日 2013-09-04 
事件の表示 特願2007-527359「単一3/2ソレノイド制御式リレー弁のための制御モジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成17年12月 8日国際公開、WO2005/115815、平成20年 1月10日国内公表、特表2008-500237〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2005年5月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年5月21日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成24年2月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年6月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、手続補正がなされたものである。

2.平成24年6月27日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年6月27日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由1]
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】
所望の圧力応答を達成するように加圧空気を圧力アクチュエータに送給するための圧力制御システムであって、
加圧空気を前記圧力アクチュエータに送給するための空気圧力制御リレー弁と、
可変制御入力圧力を受け、それ自体の状態に応じて該制御入力圧力を前記空気圧力制御リレー弁に送給する単一のソレノイドと、
前記所望の圧力応答を達成するように加圧空気を前記圧力アクチュエータに送給する制御モデルに従って前記単一のソレノイドを制御するためのECUと、を含み、前記圧力アクチュエータに送給される空気圧力が、所定の期間の間交番に位置変化する前記単一のソレノイドによって前記空気圧力制御リレー弁に供給される制御入力圧力の平均値に応じてほぼ線形に変化することを特徴とする圧力制御システム。
【請求項2】
前記リレー弁がピストンを含み、加圧空気が、前記ピストンの位置の関数として前記圧力アクチュエータに送給され、
前記制御入力圧力が、前記ソレノイドの状態に応じて前記ピストンの制御側に確立される、
ことを特徴とする、請求項1に記載の圧力制御システム。
【請求項3】
前記制御入力圧力が、前記ソレノイドが第1の状態にある時に前記ピストンの制御側に確立され、
前記制御入力圧力が、前記ソレノイドが第2の状態にある時に排出される、
ことを特徴とする、請求項2に記載の圧力制御システム。
【請求項4】
前記ソレノイドの状態が、前記ECUによって交番に切換えられ、
前記ピストンが、前記ソレノイドの交番切換えによって生成された制御入力圧力の平均値と該ピストンのヒステリシスとに応じて、前記リレー弁内で位置決めされる、
ことを特徴とする、請求項2に記載の圧力制御システム。
【請求項5】
前記ソレノイドの交番切換え及び前記ピストンのヒステリシスによって生成された制御入力圧力が、前記ピストンの位置をほぼ一定に保持し、
前記ピストンのほぼ一定の位置が、前記圧力アクチュエータに対する加圧空気のほぼ一定の送給を発生させる、
ことを特徴とする、請求項4に記載の圧力制御システム。
【請求項6】
前記ピストンの位置が、前記交番切換えするソレノイドのデューティサイクルに応じて設定されることを特徴とする、請求項4に記載の圧力制御システム。
【請求項7】
前記ECUが、前記圧力アクチュエータに送給される空気圧力を、以前の前記圧力アクチュエータに送給される空気圧力に応じて推定することを特徴とする、請求項4に記載の圧力制御システム。
【請求項8】
加圧空気をブレーキアクチュエータに送給するためのリレー弁と、
可変制御入力圧力を受け、それ自体の位置に応じて該制御入力圧力を前記リレー弁に送給する単一の切換え手段と、
アンチロック制動応答を達成するように加圧空気を前記ブレーキアクチュエータに送給する制御モデルに従って前記単一の切換え手段を制御するためのECUと、を含み、前記ブレーキアクチュエータに送給される空気圧力が、所定の期間の間交番に位置変化する前記単一の切換え手段によって前記空気圧力制御リレー弁に供給される制御入力圧力の平均値に応じてほぼ線形に変化することを特徴とするアンチロックブレーキシステム。
【請求項9】
前記単一の切換え手段が、単一ソレノイドであることを特徴とする、請求項8に記載のアンチロックブレーキシステム。
【請求項10】
前記ソレノイドが、第1の位置と第2の位置との間で切換え可能なコアを含み、
前記制御圧力が、前記コアが第1の位置にある時に前記リレー弁のピストン上に確立され、前記コアが第2の位置にある時に排出される、
ことを特徴とする、請求項9に記載のアンチロックブレーキシステム。
【請求項11】
前記制御モデルが、前記ECUにより所定の周波数で前記コアを前記2つの位置間で運動させ、
前記ブレーキアクチュエータに送給される加圧空気が、前記コアが前記2つの位置間で運動している間に前記ピストンに加えられた圧力の平均値に応じてほぼ一定に保持される、
ことを特徴とする、請求項10に記載のアンチロックブレーキシステム。
【請求項12】
前記ブレーキアクチュエータに送給される加圧空気が、前記ピストンのヒステリシスに応じてほぼ一定に保持されることを特徴とする、請求項11に記載のアンチロックブレーキシステム。
【請求項13】
前記ECUが、前記圧力アクチュエータに送給される空気圧力を、以前の前記圧力アクチュエータに送給される空気圧力に応じて推定することを特徴とする、請求項11に記載のアンチロックブレーキシステム。
【請求項14】
所望の制動応答を達成するように加圧空気をブレーキチャンバに送給する方法であって、
可変制御入力圧力を単一のソレノイド内に受けるステップと、
制御モデルに従って2つの状態間で作動するように前記単一のソレノイドを制御するステップと、
前記単一のソレノイドの状態に応じて前記制御入力圧力をリレー弁に送給するステップと、
前記リレー弁内の制御入力圧力に応じて該リレー弁を介して加圧空気を前記ブレーキチャンバに送給するステップと、を含み、前記圧力アクチュエータに送給される空気圧力が、前記単一のソレノイドが所定の期間交番に位置変化する間前記リレー弁に供給される制御入力圧力の平均値に応じてほぼ線形に変化することを特徴とする、加圧空気をブレーキチャンバに送給する方法。
【請求項15】
前記リレー弁内の制御入力圧力の平均値に従った前記リレー弁内の位置にピストンを移動させるステップをさらに含むことを特徴とする、請求項14に記載の加圧空気をブレーキチャンバに送給する方法。
【請求項16】
前記加圧空気をブレーキチャンバに送給するステップが、前記リレー弁内での前記ピストンの位置に応じて加圧空気を前記ブレーキチャンバに送給するステップを含むことを特徴とする、請求項15に記載の加圧空気をブレーキチャンバに送給する方法。
【請求項17】
前記ソレノイドのデューティサイクルを設定するステップをさらに含み、前記ピストンのほぼ一定の位置が、前記デューティサイクルと前記ピストンのヒステリシスとに応じて設定されることを特徴とする、請求項16に記載の加圧空気をブレーキチャンバに送給する方法。
【請求項18】
前記ブレーキチャンバに送給される空気圧力が、以前の前記ブレーキチャンバに送給される空気圧力に応じて推定されることを特徴とする、請求項17に記載の加圧空気をブレーキチャンバに送給する方法。
【請求項19】
前記制御モデルに従って前記ソレノイドをその状態の1つに設定するようにECUを起動させるステップをさらに含むことを特徴とする、請求項14に記載の加圧空気をブレーキチャンバに送給する方法。
【請求項20】
前記ソレノイドのデューティサイクルを設定するステップをさらに含み、前記ブレーキチャンバに対する加圧空気のほぼ一定の送給が、前記デューティサイクルに応じて設定されることを特徴とする、請求項14に記載の加圧空気をブレーキチャンバに送給する方法。
【請求項21】
所望の圧力応答を達成するように加圧空気を圧力アクチュエータに送給するための圧力制御システムであって、
加圧空気を前記圧力アクチュエータに送給するための空気圧力制御リレー弁と、
可変制御入力圧力を受け、それ自体の状態に応じて該制御入力圧力を前記リレー弁に送給する単一のソレノイドと、
前記所望の圧力応答を達成するように加圧空気を前記圧力アクチュエータに送給する制御モデルに従って前記単一のソレノイドを制御するための手段と、を含み、前記圧力アクチュエータに送給される空気圧力が、所定の期間の間交番に位置変化する前記単一のソレノイドによって前記空気圧力制御リレー弁に供給される制御入力圧力の平均値に応じてほぼ線形に変化することを特徴とする圧力制御システム。
【請求項22】
前記制御手段が、電子制御装置であることを特徴とする、請求項21に記載の圧力制御システム。
【請求項23】
前記制御するための手段が、前記所望の圧力応答がほぼ一定の圧力である時に前記ソレノイドを交番に励起させることを特徴とする、請求項21に記載の圧力制御システム。
【請求項24】
前記圧力アクチュエータに対する加圧空気のほぼ一定の送給が、前記交番励起するソレノイドのデューティサイクルに応じて線形に変化することを特徴とする、請求項23に記載の圧力制御システム。
【請求項25】
単一の切換え手段と電気的に導通したコネクタを含み、前記単一の切換え手段が、前記コネクタを介して伝送された制御信号に応じてリレー弁を介して圧力アクチュエータに送給される加圧流体を制御するように通電され、
前記リレー弁のヒステリシスに応じて決定された制御モデルを含み、前記単一の切換え手段が、前記制御モデルに従って所定の期間の間交番に通電され、前記圧力アクチュエータに送給される加圧流体の圧力が、前記交番に通電される単一の切換え手段によって前記空気圧力制御リレー弁に送給される圧力の平均値に応じてほぼ線形に変化することを特徴とする電子制御装置。
【請求項26】
前記切換え手段のデューティサイクルが、前記リレー弁のヒステリシスと相互作用して前記リレー弁をほぼ一定の位置に保持するようにし、
前記アクチュエータ内の加圧流体が、前記リレー弁の移動に応じて制御される、
ことを特徴とする、請求項25に記載の電子制御装置。
【請求項27】
前記制御モデルが、前記アクチュエータ内に加圧流体を保持する所定のデューティサイクルに従って前記切換え手段を交番に作動させることを特徴とする、請求項26に記載の電子制御装置。
【請求項28】
前記リレー弁の位置がまた、車両におけるブレーキペダルに応じて設定された制御圧力に応じて決定されることを特徴とする、請求項26に記載の電子制御装置。
【請求項29】
前記制御モデルが、前記リレー弁に作用する制御圧力に応じて決定されることを特徴とする、請求項25に記載の電子制御装置。
【請求項30】
前記制御モデルが、ABS事象の間に前記切換え手段の作動を制御することを特徴とする、請求項25に記載の電子制御装置。
【請求項31】
前記ECUは、現在のホイール速度サイクルの間の前記圧力アクチュエータに送給される実際の空気圧力が以前に推定された空気圧力より高いとき、次のホイール速度サイクルの間の前記圧力アクチュエータに送給される空気圧力を高い空気圧力に推定することを特徴とする、請求項7に記載の圧力制御システム。
【請求項32】
前記ECUは、現在のホイール速度サイクルの間の前記ブレーキアクチュエータに送給される実際の空気圧力が以前に推定された空気圧力より高いとき、次のホイール速度サイクルの間の前記ブレーキアクチュエータに送給される空気圧力を高い空気圧力に推定することを特徴とする、請求項13に記載のアンチロックブレーキシステム。
【請求項33】
現在のホイール速度サイクルの間の前記ブレーキアクチュエータに送給される実際の空気圧力が以前に推定された空気圧力より高いとき、次のホイール速度サイクルの間の前記ブレーキアクチュエータに送給される空気圧力が高い空気圧力に推定されることを特徴とする、請求項18に記載の加圧空気をブレーキチャンバに送給する方法。」に補正された。
上記補正は、請求項1についてみると、実質的に、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「ソレノイド」を「単一のソレノイド」に減縮するものであって、これは、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(1)本願補正発明
本願補正発明は上記のとおりである。
(2)引用例
(2-1)引用例1
米国特許第6,371,573号明細書(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。なお、[]内は、当審における仮訳である。
(あ)「The present invention relates, in general, to control valve equipment and, more particularly, this invention relates to a control mode to operate a valve device for use in an, Antilock Brake (ABS) and/or Traction Control Systems (TCS), for example, of a pneumatically operated vehicle brake system.」(第1欄第5?10行。なお、行数はページ中央の数字によった。以下同様。)
[本願発明は、一般に、制御弁装置に関し、より具体的には、空気圧ブレーキシステム等のABS、TCS用の弁装置を動作させる制御モードに関する。]
(い)「The braking systems of FIGS. 6 and 7 illustrate two preferred embodiments of the present invention, however, the techniques may be applied to other pressure escape or control valve applications. In FIG.6 , only one brake circuit (one wheel) is shown. It includes a driver operated brake valve 49 in connection with the ECU 19 controlled one-solenoid valve 37 which is coupled to the brake chamber or cylinder 51 . During normal braking, solenoid 37 remains de-energized and in the position shown to supply normal braking pressure as commanded by the driver operated brake valve 49 . Upon sensing a braking situation calling for ABS, the ECU 19 selectively energizes and de-energizes solenoid 37 to bleed fluid through outlet 53 and resupply pressure by way of line 54 . The arrow to the brake valve 49 represents a connection to a compressed air tank. The build pressure is provided from the supply pressure of the air tank and delivered to the brake chamber 51 from the brake valve 49 . The one-solenoid PMV 37 is in a de-energized position and there is an unhindered passage from the brake valve to the brake chamber. During normal braking, the brake valve 49 also provides the release of the brake chamber pressure by releasing the brake chamber pressure to the atmosphere. In an ABS event the brake chamber pressure is regulated by the one-solenoid PMV 37 by electrical commands provided by the ECU 19 .
In FIG. 7 , a relay valve 57 is used to pressurize and depressurize the brake chamber 59 at a faster rate, so that the brake response is accelerated. Such a solenoid controlled relay valve would mainly be used in an Antilock Brake System (ABS) for air braked trailers. FIG. 7 shows an arrangement of the one-solenoid valve 55 in conjunction with a relay valve 57 . On application of the brake valve 61 , the relay valve 57 speeds delivery of air from the reservoir 63 to the brake chamber 59 by bypassing the brake valve 61 . On release, air pressure in the brake chamber 59 is vented at the relay valve 57 . Since the relay valve is located closer to the brake chamber (or chambers) than the brake valve, it applies and releases the brakes more quickly. The operating principle of the relay valve is to actuate a great quantity of compressed air in a larger diameter air line from a compressed air reservoir (supply line) to the brake chambers (delivery line) with a small and therefore highly mobile quantity of compressed air with a low diameter air line (control line).
In a normal brake event the relay valve 57 delivers or releases brake chamber pressure in direct proportional to the signal air. According to the driver's demand by actuating the brake pedal, the brake valve 61 delivers only the control air in a smaller volume to the relay valve 57 . Proportional to this control air the relay valve 57 takes the larger volume of brake chamber pressure directly from the reservoir 63 to the brake chamber 59 . The release of the brake chamber pressure is also proportional to the control air, but vented directly from the relay valve 57 to the atmosphere. The one-solenoid PMV 55 is connected only in the control line. In the normal braking mode the solenoid is in a de-energized position and the control air goes unhindered to the control port of the relay valve. In an ABS event the control air from the brake valve 61 to the relay valve 57 is regulated by the one-solenoid PMV 55 and by the operating principle of the relay valve also the brake chamber pressure is regulated.
Due to the hysteresis of the control input to the delivery output of a relay valve, the rapidly pulsed pressure decrease and build up steps are only visible to the control pressure making such systems excellent candidates for the control mode of the one-solenoid valve. The behavior of the delivery pressure is, in principle, exact the same as a two-solenoid controlled relay valve. As shown in FIG. 8 , the control air (dotted line) of a relay valve is always a bit quicker in response time than the delivery air (solid line). This phenomenon is named pressure hysteresis and caused mainly by the friction of the internal relay piston and relay inlet valve. Due to the delay of the delivery pressure, the accuracy to control a certain pressure level is limited. The pressure hysteresis also increases the reaction time of the delivery pressures when starting the hold, built up or release phases. With the pulsated quasi pressure hold with the one-solenoid operated relay valve, the disadvantages of the pressure hysteresis are nearly eliminated. With the first contra pulse of the control pressure when delivery should start holding, the hysteresis stops the pressure decrease immediately. The same is true with the interrupted pressure built up. Due to the contra pulses after the build up steps, the quasi hold mode is reached faster. As a positive effect of the pressure hysteresis, the level of the pressure hold phase is filtered and more even than with an interrupter valve as described in conjunction with FIG. 6 .」(第7欄第22行?第8欄第41行)
[図6、7のブレーキシステムは、本願発明の2つの実施例を説明するものであるが、これ以外の圧力の逃がし弁や制御弁にも適用できる。図6には、唯1つのブレーキ回路が示されている。図6において、ドライバが操作するブレーキ弁49は、ECU19により制御される単一ソレノイド弁37と連関しており、単一ソレノイド弁37はブレーキチャンバ(シリンダ)51に接続されている。通常のブレーキ時には、ソレノイド弁37は消磁されて図示の状態となり、ドライバが操作するブレーキ弁49の指令に従って通常のブレーキ圧が供給される。ABSが必要となる状況になると、ECU19はソレノイド弁37を消磁または励磁し、排気系53から流体を排出するとともに系統54を通して流体圧を再供給する。ブレーキ弁49へ向かう矢印は圧縮空気タンクへの接続を表わす。空気タンクの供給圧による増圧は、ブレーキ弁49を通してブレーキチャンバ51に送られる。単一ソレノイド弁(PMV)37が消磁されると、ブレーキ弁49からブレーキチャンバ51までの系統が連通する。通常のブレーキ時には、ブレーキ弁49の動作に応じて、ブレーキチャンバ51の圧力が大気に解放される。ABS作動時には、ブレーキチャンバ51の圧力は、ECU19の指令に基づいて単一ソレノイド弁(PMV)37により調整される。
図7において、ブレーキチャンバ59の圧力を更に迅速に増圧及び減圧して応答性を良くするために、リレー弁57が設けられる。このようなソレノイド制御リレー弁は、主として、空気ブレーキを備えたトレーラのABSで使用される。単一ソレノイド弁55はリレー弁57と連関している。ブレーキ弁61に応じて、リレー弁57は、リザーバ63からブレーキチャンバ59へ、ブレーキ弁61を迂回して、空気を急送する。解放時には、ブレーキチャンバ59の空気圧はリレー弁57によって排気される。リレー弁57はブレーキ弁61よりブレーキチャンバ59に近いので、ブレーキの作動及び解放を更に迅速に行なうことができる。リレー弁57の動作方式によれば、小径の空気系統(制御系統)における小量かつ高速可動な量の圧縮空気によって、圧縮空気リザーバ(供給系統)からブレーキチャンバ(送給系統)への大径の空気系統における大量の圧縮空気供給が惹起される。
通常のブレーキ時には、リレー弁57は信号空気に正比例して、ブレーキチャンバ59の圧力を給排する。ブレーキペダルの操作によるドライバの要求に応じて、ブレーキ弁61はリレー弁57に小量の制御空気を送り、リレー弁57は、リザーバ63からブレーキチャンバ59へ制御空気に比例した大量の圧縮空気を送る。ブレーキチャンバ59の圧力の解放も制御空気に比例して、リレー弁57から大気に排気される。単一ソレノイド弁(PMV)55は制御系統だけに接続される。通常のブレーキ時には、ソレノイドは消磁され、制御空気はリレー弁57の制御ポートに連通する。ABS作動時には、ブレーキ弁61からリレー弁57への制御空気は単一ソレノイド弁(PMV)55により調整され、また、リレー弁57の作動方式に基づいてブレーキチャンバ59の圧力が調節される。
リレー弁57における制御入力と送給出力とのヒステリシスにより、急激なパルス状の圧力増減は制御圧力についてだけみられることになり、これによって、このシステムは単一ソレノイド弁を用いた制御モードの好適例ということができる。送給圧力の動向は、基本的には、2個のソレノイドによるリレー弁と同じである。図8にみられるように、リレー弁の制御空気(破線)は送給空気(実線)より応答時間が少し速い。これは圧力ヒステリシスという現象であり、主として、リレーピストンとリレーインレット弁との摩擦に起因する。送給圧力の遅れにより、圧力レベルの制御の精確さには限界がある。保持・増減段階が開始したとき、圧力ヒステリシスにより、送給圧力の応答時間も増大する。単一ソレノイド弁駆動式のリレー弁によって、脈動する準圧力保持がなされ、これにより、圧力ヒステリシスの不都合はほとんど解消される。送給圧力の保持が開始し制御圧力の最初の反対方向パルスがあったとき、圧力の低下は、ヒステリシスによりすぐに阻止される。断続的な増圧の場合も同様である。増圧ステップ後の反対方向のパルスにより、準保持モードがいっそう速やかに実現される。圧力ヒステリシスの好適な効果によって、圧力保持段階におけるレベルはフィルタがかけられ、図6で説明した断続的弁の場合よりもっと平らになる。]
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「圧縮空気をブレーキチャンバ59に送給するための空気圧ブレーキシステムのABS用制御モードを備えた制御弁装置であって、
圧縮空気をブレーキチャンバ59に送給するためのリレー弁57と、
制御空気を受け、ソレノイドの状態に応じて該制御空気をリレー弁57に送給する該単一ソレノイド弁55のソレノイドと、
圧縮空気をブレーキチャンバ59に送給する制御モードに従って単一のソレノイドを制御するためのECU19と、を含み、ブレーキチャンバ59に送給される圧縮空気の圧力が、期間T2の間パルス状に作動する単一ソレノイド弁55によってリレー弁57に供給される制御空気の圧力よりもっと平らになる制御弁装置。」
(3)対比
本願補正発明と引用例1発明とを比較すると、
後者の「圧縮空気」は前者の「加圧空気」に相当し、以下同様に、「ブレーキチャンバ59」は「圧力アクチュエータ」に、「空気圧ブレーキシステムのABS用制御モードを備えた制御弁装置」は「圧力制御システム」に、「リレー弁57」は「空気圧力制御リレー弁」に、「制御空気」は「可変制御入力圧力」に、「単一ソレノイド弁55のソレノイド」は「単一のソレノイド」に、「ソレノイドの状態に応じて」は「それ自体の状態に応じて」に、「制御モード」は「制御モデル」に、「期間T2の間」は「所定の期間の間」に、「パルス状に作動する」は「交番に位置変化する」に、それぞれ相当する。
後者において、例えばABS作動時には、ECU19の指令によりブレーキチャンバ59の圧力が所定の値になるように圧縮空気がブレーキチャンバ59に送給されるから、後者の「圧縮空気をブレーキチャンバ59に送給する」は、前者における「所望の圧力応答を達成するように加圧空気を圧力アクチュエータに送給する」に相当する。
後者の「ブレーキチャンバ59に送給される圧縮空気の圧力が、所定の期間の間パルス状に作動する単一ソレノイド弁55によってリレー弁57に供給される制御空気の圧力よりもっと平らになる」と、前者の「前記圧力アクチュエータに送給される空気圧力が、所定の期間の間交番に位置変化する前記単一のソレノイドによって前記空気圧力制御リレー弁に供給される制御入力圧力の平均値に応じてほぼ線形に変化する」は、「前記圧力アクチュエータに送給される空気圧力が、所定の期間の間交番に位置変化する前記単一のソレノイドによって前記空気圧力制御リレー弁に供給される制御入力圧力よりなだらかに変化する」という点で一致する。
したがって、本願補正発明の用語に倣って整理すると、両者は、
「所望の圧力応答を達成するように加圧空気を圧力アクチュエータに送給するための圧力制御システムであって、
加圧空気を前記圧力アクチュエータに送給するための空気圧力制御リレー弁と、
可変制御入力圧力を受け、それ自体の状態に応じて該制御入力圧力を前記空気圧力制御リレー弁に送給する単一のソレノイドと、
前記所望の圧力応答を達成するように加圧空気を前記圧力アクチュエータに送給する制御モデルに従って前記単一のソレノイドを制御するためのECUと、を含み、前記圧力アクチュエータに送給される空気圧力が、所定の期間の間交番に位置変化する前記単一のソレノイドによって前記空気圧力制御リレー弁に供給される制御入力圧力よりなだらかに変化する圧力制御システム。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]
本願補正発明は、「前記圧力アクチュエータに送給される空気圧力が、所定の期間の間交番に位置変化する前記単一のソレノイドによって前記空気圧力制御リレー弁に供給される制御入力圧力の平均値に応じてほぼ線形に変化する」のに対し、
引用例1発明は、「ブレーキチャンバ59に送給される圧縮空気の圧力が、所定の期間の間パルス状に作動する単一ソレノイド弁55によってリレー弁57に供給される制御空気の圧力よりもっと平らになる」点。
(4)判断
引用例1には、上記(い)に摘記したように、リレー弁の圧力ヒステリシスにより、保持・増減段階が開始したとき、送給圧力の応答時間は増大する旨、単一ソレノイド弁駆動式のリレー弁によって、脈動する準圧力保持がなされる旨、圧力ヒステリシスの好適な効果によって、圧力保持段階におけるレベルはフィルタがかけられ、図6で説明した断続的弁の場合よりもっと平らになる旨、圧力ヒステリシスは、主として、リレーピストンとリレーインレット弁との摩擦に起因する旨が記載されている。そして、ABSの圧力保持段階において、ブレーキチャンバ59の圧力の脈動が小さい方が望ましいことは明らかであり、また技術常識であるから、引用例1発明において、圧力ヒステリシスの要因であるリレー弁におけるリレーピストンとリレーインレット弁との摩擦の程度等や、それ以外に例えば単一ソレノイド弁55の消磁励磁の周波数を適宜設計して、相違点に係る本願補正発明の上記事項に想到することは当業者が容易になし得たものと認められる。
そして、本願補正発明の効果は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が予測し得たものにすぎない。
したがって、本願補正発明は、引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(5)むすび
本願補正発明について以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定違反するものであり、本件補正における他の補正事項を検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

なお、平成25年1月8日付け回答書の「(3)本発明1と引用文献1の発明との対比」」の主張について以下、付言する。
本願の請求項1の「ほぼ線形に変化する」が引用例1の「quasi pressure」と定量的にどの点で異なるのか、「ほぼ線形に変化する」という作用が請求項1の「空気圧力制御リレー弁」「単一のソレノイド」等のどのような形状・構造・機能によりどのようにして実現されるのか、必ずしも明確でないことはひとまず措くとして、引用例1の第5欄の第37行?第42行等の記載は、単一ソレノイドPMV37(第6図)に関する説明である。また、引用例1の同じ段落には、「The valve is alternately enabled and disabled to hold pressure substantially constant as during T2」(第5欄第60、61行)と記載されている。また、引用例1に「圧力ヒステリシスの好適な効果によって、圧力保持段階におけるレベルはフィルタがかけられ、図6で説明した断続的弁の場合よりもっと平らになる。」旨が記載されていることは上述したとおりである。
同回答書に補正案が提示されているが、例えば、引用例1のリレー弁57がピストンを備えていることは、上記に摘記したように引用例1に記載ないし示唆されており、また、適宜の設計にすぎず、本審決の結論を左右するものではない。

3.本願発明
平成24年6月27日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?33に係る発明は、平成23年11月15日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?33に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1は次のとおりである。
「【請求項1】
所望の圧力応答を達成するように加圧空気を圧力アクチュエータに送給するための圧力制御システムであって、
加圧空気を前記圧力アクチュエータに送給するための空気圧力制御リレー弁と、
可変制御入力圧力を受け、それ自体の状態に応じて該制御入力圧力を前記空気圧力制御リレー弁に送給するソレノイドと、
前記所望の圧力応答を達成するように加圧空気を前記圧力アクチュエータに送給する制御モデルに従って前記ソレノイドを制御するためのECUと、を含み、前記圧力アクチュエータに送給される空気圧力が、所定の期間の間交番に位置変化する前記ソレノイドによって前記空気圧力制御リレー弁に供給される制御入力圧力の平均値に応じてほぼ線形に変化することを特徴とする圧力制御システム。」

3-1.請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)について
(1)本願発明1
本願発明1は上記のとおりである。
(2)引用例
引用例1、及び、その記載事項は上記2.に記載したとおりである。
(3)対比・判断
本願発明1は実質的に、上記2.で検討した本願補正発明の「単一のソレノイド」」を「ソレノイド」に拡張したものに相当する。
そうすると、本願発明1の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記2.に記載したとおり、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1は、実質的に同様の理由により、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)むすび
したがって、本願発明1は引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.結語
以上のとおり、本願発明1(本願の請求項1に係る発明)が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2?33に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-22 
結審通知日 2013-03-25 
審決日 2013-04-18 
出願番号 特願2007-527359(P2007-527359)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B60T)
P 1 8・ 121- Z (B60T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 立花 啓  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 森川 元嗣
窪田 治彦
発明の名称 単一3/2ソレノイド制御式リレー弁のための制御モジュール  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 大塚 文昭  
代理人 井野 砂里  
代理人 弟子丸 健  
代理人 田巻 文孝  

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