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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1279511
審判番号 不服2009-25088  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-18 
確定日 2013-09-17 
事件の表示 特願2000-607600「抗菌性義歯洗浄組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成12年10月 5日国際公開、WO00/57849、平成14年11月26日国内公表、特表2002-540134〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年3月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 1999年3月26日,米国)を国際出願日とする出願であって、平成13年10月11日付け手続補正書が提出され、拒絶理由通知に応答し平成21年1月29日付け意見書が提出されたが、平成21年8月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年12月18日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判請求と同時に平成21年12月18日付け手続補正書が提出され、その後、前置報告書を用いた審尋に応答し、平成24年1月5日付け回答書が提出され、当審からの拒絶理由通知に応答し、平成24年12月5日付け手続補正書と意見書が提出されたものである。

2.本願発明
本願請求項1?17に係る発明は、平成24年12月5日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定されたとおりのものと認められ、そのうち請求項1に係る発明(以下、同項に係る発明を「本願発明」ともいう。)は次のとおりである。
「【請求項1】
義歯洗浄組成物であって、
モノペルサルフェート化合物と、
歯石除去用で、約3?約5範囲の組成物pHを溶液にもたらす、有効量の金属イオン封鎖剤と、および
義歯の洗浄中に細菌および他の微生物を殺すための抗菌活性を組成物にもたらす、約2?約4重量%の、安息香酸ナトリウムおよび安息香酸カリウムからなる群より選択される抗菌剤とを含有してなり、
発泡および活性を発揮することが知られた過ホウ酸化合物または他の化合物を欠いている、義歯洗浄組成物。」

3.引用例
当審の拒絶理由に引用された本願優先権主張日前に頒布された刊行物である
特表平9-505297号公報(以下、「引用例1」という。)と、
特開昭55-55110号公報(以下、「引用例2」という。)、
特開昭51-144743号公報(以下、「引用例3」という。)、
特表平8-502970号公報(以下、「引用例4」という。)、
特開平10-330234号公報(以下、「引用例5」という。)、
特開平5-262631号公報(以下、「引用例6」という。)、
特表平10-512898号公報(以下、「引用例7」という。)、
特表平10-512854号公報(以下、「引用例8」という。)、
特開平4-316512号公報 (以下、「引用例9」という。)、
特開昭62-8号公報 (以下、「引用例10」という。)、
特開平7-267840号公報 (以下、「引用例11」という。)には、
次の技術的事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

[引用例1]
(1-i)「1.賦香味剤の賦香味有効量および漂白剤の漂白有効量を含む少なくとも二つの層を有し、該賦香味剤は、第1の層に配置され、該漂白剤は、第2の別個の層に配置されていて、該漂白剤による該賦香味剤の劣化度合いが減じられている多層の義歯クレンザー錠剤組成物。
2.該賦香味剤は、ミントオイル、メントール、冬緑油およびシトラスフレーバーからなるグループから選ばれるものである請求の範囲第1項の組成物。」(特許請求の範囲の請求項1.,2.参照)
(1-ii)「1.発明の分野
本発明は、義歯(入れ歯)洗浄剤組成物、そして、特に、長期にわたりフレーバーと味合いを保つ義歯クレンザー錠剤組成物に関するものである。」(第4頁4?6行参照)
(1-iii)「発明による義歯クレンザー組成物は、一つ、または、それ以上の漂白剤を含み、そして、界面活性剤、ビルダーおよびキレート化剤のような組成物の既知の成分のいずれかの一つ、又は、それ以上のもの、賦形剤、発泡システム、発泡安定剤およびバッファリングシステムを含むことができる。下記しない該成分および述べられているものに付加される他の適当な成分の適切なレベルは、コンベンショナルなものであって、当業者にとっては自明のものである。」(第6頁9行?14行参照)
(1-iv)「例えば、漂白剤が香味付け剤を劣化させる原因になることができることは、分かっている。適切な漂白剤には、以下のものが含まれる:活性または不活性過酸素漂白剤、例えば、ナトリウム過ホウ酸塩一水和物といったアルカリ金属過ホウ酸塩、例えば、ナトリウム過炭酸塩といったアルカリ金属パーオキシカーボネート、例えば、カリウム一過硫酸塩といったアルカリ金属過硫酸塩・・・・・(中略)・・・・・。漂白剤コンポーネントは、トータルの錠剤重量をベースとして、約1%から約80%の範囲の量で錠剤中に存在していることが好ましく、約5%から約55%の範囲内の量で存在していることが最も好ましい。」(第6頁15行?末行参照)
(1-v)「適切なビルダーとキレート化剤には、以下のものが含まれるナトリウム・トリポリ燐酸塩、ナトリウムヘキサメタ燐酸塩のような錯化燐酸塩;アルカリ金属カルボン酸塩;アルカリ金属シリケート類;ゼオライト類;およびナトリウムくえん酸塩のようなカルボン酸類;エチレンジアミン・テトラ酢酸のアルカリ金属塩類;ポリメリック塩類;およびアクリル酸およびマレイン酸およびそれらの共重合体。」(第7頁15行?20行参照)

[引用例2]
(2-i)「(1) 水に溶解して義歯清浄浴を作る0.5%より少い自由表面湿分含量を有する無水義歯清浄用組成物において、式M^(1)HSO_(5)
(但し式中、M^(1)は少くとも1つのアルカリ金属陽イオンである。)
の少くとも1つの一過硫酸塩10ないし40重量%、式M^(2)HSO_(4)
(但し式中、M^(2)はアルカリ金属陽イオンである。)
の少くとも1つの重硫酸塩及び(または)こはく酸、リンゴ酸、酒石酸、くえん酸及びそれ等の混合物から成る群から選ばれた果実酸から成る歯石除去成分、及び式M^(3)_(2)CO_(3)
(但し、式中、M^(3)は少くとも1つのアルカリ金属陽イオンである。)
の、少くとも1つの実質的に塩化物を含有せず義歯清浄浴中に4.5以下の初期pHを呈するのに充分な量存在する無水アルカリ金属炭酸塩より成ることを特徴とする上記組成物。」(特許請求の範囲第1項参照)
(2-ii)「オーストリア特許第264015号は水に溶解して初期pH5以下、好ましくは1.5?4.5のpHを有する清浄液を作ることが出来、特に一カリウム過硫酸塩、ナトリウムの炭酸塩及び重硫酸ナトリウムまたは果実酸を含む酸性物質を含有する混合物の製造を示唆している。更にかゝる混合物の或るものが水に溶解して義歯清浄浴を作る錠剤に成形される事を提示しこの錠剤が7分以内に溶解出来るであろうことを示唆している。」(第3頁左上欄1?9行参照)
(2-iii)「好ましくは、歯石除去組成物は組成物の45重量%まで、好ましくは組成物重量の2ないし40重量%、最も好ましくは組成物の17ないし28重量%含有される。
本発明の好ましい具体例においては、M^(1)はカリウムであり、M^(2)はカリウム及びナトリウムであり、一過硫酸塩はKHSO_(4)・K_(2)SO_(4)・2KHSO_(5)の三重塩(triple salt)として存在する。」(第3頁左下欄10行?17行参照)
(2-iv)「組成物はまた組成物に対して2ないし20重量%の崩壊剤/結合剤を含有するのがよく、これは微結晶性セルローズ、その誘導体またはアルギン酸ナトリウム誘導体から成る。」(第3頁右下欄16?19行参照)
(2-v)「組成物はまた各々が組成物の0.2重量%より少く、最も好ましくは組成物の0.1重量%より少い少くとも1つの着色剤、及び(または)香料及び(または)錠剤化助剤を含むのが好ましい。」(第3頁右下欄末行?第4頁左上欄3行参照)
(2-vi)「作つた清浄浴を、自然に汚れたしみを有し、歯石と歯垢のたまつている義歯を使つて効力を試験した。15分より短い浸漬でこれらの蓄積物が殆ど完全に除去され、しみも同時に除去された。」(第5頁左上欄末行?同頁右上欄3行参照)
(2-vii)実施例3,6として、無水過ホウ酸ソーダを含有させない実施例が示されていて(第5頁左下欄?右下欄の表を参照)、「無水の過ホウ酸ナトリウム“粉砕混合物”が含まれる場合には、それは崩壊剤として存在し、実施例3と6で夫々アビセル(AVICEL)PH100(商標)とケラジット(KELACID、商標)に置き代えてある。」(第6頁左上欄1?5行参照)との説明。

[引用例3]
(3-i)「(1)少なくとも30重量%の尿素を含有することを特徴とする粉末または錠剤剤型の義歯洗浄用組成物。
(2)・・・略・・・
(3)特許請求の範囲(1)または(2)の組成物において、約3ないし15重量%の多塩基カルボン酸、特に酒石酸、クエン酸またはアジピン酸を含有する義歯洗浄用組成物。
(4)特許請求の範囲(1)ないし(3)の組成物において、30ないし80重量%の尿素、3ないし15重量%の多塩基カルボン酸、1ないし25重量%の水の存在下に気体を発生する物質、および5ないし40重量%のコンプレックスビルダーを含有し、これに界面活性剤アルカリ性物質、充填剤、酵素、緩衝剤、結合剤、賦香および矯味剤、および/または抗菌剤を加えて全量100重量%とする義歯洗浄用組成物。」(特許請求の範囲第(1)?(4)項参照)
(3-ii)「本発明の組成物には抗菌作用を持つ物質を加えてもよい。この種の物質の例としては、p-ヒドロキシ安息香酸のエステル、その他のフェノール誘導体がある。」(第3頁右上欄3行?6行参照)
(3-iii)「例1 義歯洗浄用粉末
a)尿素 78.0
リン酸三ナトリウム 20.0
エロジール^((R))(微粉末SiO_(2)) 0.5
ラウリル硫酸ナトリウム 0.3
ハッカ油-メントール 0.5
サッカリンナトリウム 0.1
安息香酸ナトリウム 0.6
100.0」(第3頁左下欄6行?15行参照)
(3-iv)「例2 義歯洗浄用錠剤
・・・・・(中略)・・・・・
c)尿素 55.0
酒石酸 10.0
トリポリリン酸ナトリウム 18.5
ポリエチレングリコール6000 4.5
ポリビニルピロリドン 7.5
ラウリル硫酸ナトリウム 1.5
安息香酸ナトリウム 1.0
香料/エロジール^((R)) 2.0
100.0」(第3頁右下欄7行?第4頁左上欄18行参照)

[引用例4]
(4-i)「安息香酸ナトリウムは、薬品および加工食品中に、防腐剤として広く用いられている。驚くべきことに、安息香酸ナトリウムは上記製剤において口腔微生物の抑制に有効であることが発見された。本発明の組成物における安息香酸ナトリウムの有効濃度範囲は、一般に総量に対する重量比で約0.05%から約0.2%であり、最も有効なレベルは約0.1%である。」(第7頁14行?18行参照)
(4-ii)「口腔微生物の抑制または口臭の制御のいずれの場合でも本発明の組成物の使用を意図する場合には、十分な量の組成物を、口内の微生物数または悪臭を減少させるに十分な時間、口腔組織または歯と接触させておく。普通、接触時間は約15秒以下で十分である。接触時間を長くすることは効果を増大させ、接触時間が約30秒であることが望ましい。」(第10頁1?7行参照)
(4-iii)「実施例2
口腔衛生組成物の様々な口腔微生物に対する効果
本実施例は、様々な口腔洗浄組成物の様々な口腔微生物に対する抑制効果を評価するために行なわれた実験を説明する。調べた微生物は、ストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius),バクテロイデスエスピー(Bacteroides sp.),ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius),およびカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)である。
・・・中略・・・
・・・表1 省略・・・
このデータは、本発明の組成物(Rembrandt)が三種類すべての細菌をアルコール含有口腔洗浄液の最良のもの(Listerine)と同等のレベルで抑制することができることを示す。さらに、本発明の組成物は、テストしたアルコールを含有しない組成物のいずれよりもかなり大きな阻止ゾーンを示した。いずれの組成物も、C. albicansは抑制しなかった。」(第10頁下から3行?第12頁下から2行参照)

[引用例5]
(5-i)「(11)防腐剤
防腐剤としては、安息香酸ナトリウム、パラベン、安息香酸、サリチル酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル及びパラオキシ安息香酸ブチル等が用いられる。」(第3頁4欄末行?第4頁5欄4行参照)
(5-ii)実施例1?3として、歯磨剤に安息香酸ナトリウムをそれぞれ、0.9重量%、0.1重量%、2.0重量%配合した実施例が示されている。(段落【0007】参照)

[引用例6]
(6-i)「【0015】
【発明の効果】本発明の義歯者用口腔用組成物によれば、ソルビン酸又はその塩と安息香酸又はその塩とを特定比率で併用したことにより、義歯装着者特有のカンジダ菌の繁殖を効果的に防止し得て、義歯性口内炎を有効に予防し得、また義歯を装着したまま低刺激もしくは無刺激で使用し得るものである。」(段落【0015】参照)
(6-ii)実験例として、安息香酸ナトリウムなどの殺菌剤・抗菌剤を配合することにより、カンジダ・アルビカンスの最小発育阻止濃度の測定を行い、実験例1では0.03?0.3%程度では効果が小さいが、0.5?1%では抑止効果があることが示されている。(段落【0017】?【0018】参照)

[引用例7]
(7-i)「技術分野
・・・。特に、本発明は、義歯用クレンザー錠剤、・・・などのような固形形態で歯用製剤に・・・・関する。
発明の背景
プラークは、・・・中略・・・。
現代の歯衛生及び義歯用製剤は、典型的には、抗プラーク及び/又は抗歯石剤、並びに抗菌剤及び香味剤を含有している。抗菌作用は口/義歯内のバクテリアの数を減らすか、又は薄膜で捕まえたバクテリアを殺すことによりさらなる成長及び変化を妨害して、プラークの形成に影響を与えることができた。香味剤は、防臭作用により悪臭の問題を軽減することができる。」(第5頁3?27行参照)

[引用例8]
(8-i)「 発明の背景
香味剤、・・・中略・・・。
現代の歯衛生及び義歯用製剤は、例えば、抗プラーク及び/又は抗歯石剤、並びに抗菌剤及び香味剤を含有している。抗菌作用は口/義歯内のバクテリアの数を減らすか、又は薄膜で捕まえたバクテリアを殺すことによりさらなる成長及び変化を妨害して、プラークの形成に影響を与えることができた。香味剤は、防臭作用により悪臭の問題を軽減することができる。」(第5頁12?24行参照)

[引用例9]
(9-i)「【0003】義歯からのカンジダ菌の除去剤、洗浄剤としては、従来、パーオキサイド剤、酸剤、殺菌剤などがある・・・(後略)。」(段落【0003】参照)

[引用例10]
(10-i)「1)(a)義歯からプラークおよびよごれを除去するのに十分な量で存在している式ROSO_(3)M(式中RはC_(10?16)のアルキル基でありそしてMはアルカリ金属またはアルカリ土類金属である)で表わされる硫酸化脂肪アルコール洗剤、
(b)よごれおよびプラークの除去を促進し、かつ洗浄剤が噴霧される際に呼吸刺激を起すのを実質的に防止するのに十分な量で存在するアミノカルボキシレートまたは有機ホスホネート型のキレート化剤および
(c)約50?約98%の水
を含有する義歯用液状洗剤組成物。」(特許請求の範囲の請求項1参照)
(10-ii)「10)さらに香味剤、着色剤、香料、保存剤、ビルター、抗菌剤およびそれらの混合物からなる群より選択される物質が存在する前記特許請求の範囲第1項記載の洗剤。」(特許請求の範囲の請求項10参照)

[引用例11]
(11-i)「【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】従来より、う蝕、歯周疾患、口臭等の予防、改善を目的として、種々のカチオン性の殺菌剤が歯磨、洗口液、マウススプレー等の口腔用組成物に配合されている。・・・(後略)。」(段落【0002】参照)
(11-ii)「【0008】本発明の口腔用組成物は、常法にしたがって、歯磨、液状歯磨、液体歯磨、潤製歯磨、洗口剤、マウススプレー等の口中清涼剤、歯牙コーティング剤、義歯コーティング剤、義歯洗浄剤などの剤型にすることができ、それぞれの剤型に適した成分が配合される。・・・(後略)。」(段落【0008】参照)
(11-iii)「【0011】3)抗菌力評価
(評価方法)口腔内常在菌の1つであるカンジダアルビカンス菌を・・・培養した培養液100μlを、同培地にて調製した各洗口液の希釈系列各10mlにそれぞれ接種した。これを24時間、37℃、好気条件下で培養し、目視観察において明らかな生育の認められなかった最大の希釈倍率を判定し、ベース処方にカチオン性殺菌剤のみを配合した比較例6の製造直後のものと比較し、下記の評価基準により評価した。・・(後略)。」(段落【0011】参照)
(11-iv)「【0022】実施例19
次の処方により、常法に従って義歯洗浄剤を調整した。・・・(後略)。」(段落【0022】参照)

4.対比、判断
そこで、本願発明と引用例1に記載された発明を対比する。
引用例1の特許請求の範囲請求項1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されている(摘示(1-i)参照)
<引用例1発明>
「賦香味剤の賦香味有効量および漂白剤の漂白有効量を含む少なくとも二つの層を有し、該賦香味剤は、第1の層に配置され、該漂白剤は、第2の別個の層に配置されていて、該漂白剤による該賦香味剤の劣化度合いが減じられている多層の義歯クレンザー錠剤組成物。」

(a)引用例1発明の「多層の義歯クレンザー錠剤組成物」は、摘示(1-ii)の説明から明らかなように「義歯洗浄剤組成物」と言えることが明らかであるから、本願発明の「義歯洗浄組成物」に相当する。なお、錠剤については、後記(d)を参照。
(b)引用例1発明の「漂白剤の漂白有効量を含む」は、その「適切な漂白剤には、以下のものが含まれる:・・・・例えば、カリウム一過硫酸塩といったアルカリ金属過硫酸塩・・」(摘示(1-iv))と説明されているのに対し、本願発明の「モノペルサルフェート化合物」としては、「アルカリ金属モノペルサルフェート」が挙げられ、その具体例として「一過硫酸カリウムおよび一過硫酸ナトリウム」が挙げられている(本願発明である請求項1を引用する請求項2,3参照)とともに、「・・モノペルサルフェートは、有機物質の有効な洗浄剤であることが知られた活性過酸化物(酸素)ブリーチであり」(段落【0006】)と説明されていて、漂白剤と認められることに鑑みると、本願発明の「モノペルサルフェート化合物」とは、「漂白剤」で共通すると言える。
(c)引用例1発明において「賦香味剤の賦香味有効量」を含み、その態様としてミントオイルなどが例示されている(摘示(1-i)の請求項2参照)ことは、本願発明でも、「更に、フレーバーも、本発明では、組成物にフレーバーを付与する上で有効な最小量で溶液に加えてもよい。」とされ、フレーバーとして、「ミントフレーバー」が説明されている(段落【0026】参照)し、「ミントフレーバー」含んでいる態様が本願発明である請求項1を引用する請求項7で特定されていることに鑑みると、本願発明との相違点とはなり得ない。
(d)引用例1発明における「少なくとも二つの層を有し、該賦香味剤は、第1の層に配置され、該漂白剤は、第2の別個の層に配置されていて、該漂白剤による該賦香味剤の劣化度合いが減じられている」は、本願発明では、「粉末または顆粒形態をとるが、必ずしもそれに限定されず」(段落【0015】参照)と説明されているが、従来、「錠剤」でも供給されることが説明されている(段落【0003】?【0004】参照)ことを勘案すれば、「錠剤」を除外するものでないことも明らかであることから、錠剤である点で実質的な相違点とはなり得ないし、更に賦香味剤と漂白剤を分ける錠剤の当該特定も、本願発明で除外されるものではないから、その点でも実質的な相違点とはなり得ない。

してみると、両発明は、
「漂白剤を含む義歯洗浄組成物」
で一致し、次の点で相違している。
<相違点>
1.本願発明が、「義歯の洗浄中に細菌および他の微生物を殺すための抗菌活性を組成物にもたらす、約2?約4重量%の、安息香酸ナトリウムおよび安息香酸カリウムからなる群より選択される抗菌剤とを含有してなり」と特定されているのに対し、引用例1発明では、抗菌剤を含有することは言及されていない点
2.漂白剤について、本願発明が、「モノペルサルフェート化合物」を含有すると特定されているのに対し、引用例1発明では、「モノペルサルフェート化合物」は例示されているものの特定はされていない点
3.本願発明が、「歯石除去用で、約3?約5の範囲の組成物pHを溶液でもたらす、有効量の金属イオン封鎖剤」を含有しているのに対し、引用例1発明では、金属イオン封鎖剤を含有することは特定されていない点
4.本願発明が、「発泡および活性を発揮することが知られた過ホウ酸化合物または他の化合物を欠いている」と特定されているのに対し、上記引用例1発明では、そのように特定されていない点

そこで、これらの相違点1?4について検討する。
(1)相違点1について
引用例3、7?11の記載からも明らかなように、義歯用の洗浄剤に殺菌剤を添加することにより、口腔内の常在菌などを殺菌することが知られている(引用例3,7?11の各摘示(3-i)、(7-i)、(8-i)、(9-i)、(10-i)?(10-ii)、(11-i)?(11-iv)を参照)のであるから、引用例1発明の義歯洗浄剤組成物(義歯クレンザー錠剤組成物)に、義歯の洗浄中に細菌及び他の微生物を殺すための抗菌活性剤を含有させることは、当業者が容易に想い到る程度のことと言うべきであり、その際に抗菌剤の種類や配合量を検討するのは当然のことと言える。
ところで、安息香酸ナトリウムが口腔微生物の抑制に有効であることは、引用例4、6において明らかにされている(摘示(4-i)、(4-iii)、(6-i)、(6-ii)参照)し、引用例4、6では、口腔洗浄用として用いられている点で引用例1や引用例7?11の義歯用の洗浄剤とは使用状況が異なっているものの、両者の抗菌対象の微生物は口腔微生物である点で同じ(乃至同じものが含まれている)と認められるのであるから、前記の義歯用の洗浄剤に殺菌剤を配合するに際し、殺菌剤として安息香酸ナトリウムを採用することも容易に想い到る程度のことと認められる。
ちなみに、引用例4には、口腔微生物のストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius),バクテロイデスエスピー(Bacteroides sp.),ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)に有効であったことが明らかにされている。引用例4には、カンジダ・アルビカンスを抑制しなかったと記載されているが、引用例6には、安息香酸ナトリウムを殺菌剤・抗菌剤として配合し、カンジダ・アルビカンスを抑制することが記載され、実施例として0.5%を越えないと抑制効果が小さいことが記載されている(摘示(6-i)、(6-ii)参照)ことに鑑みれば、単に引用例4における使用量が0.05?0.2%と低かったためと解するのが相当であり、矛盾するものではない。
そして、抗菌剤の配合量が多いほど抗菌作用が高くなることは一般的なことであり、義歯の口腔外で用いる洗浄剤に用いる際に口腔用に用いた配合量をより多くすることで抗菌効果を高めることは期待されることであるから、抗菌剤の安息香酸ナトリウムの配合量を「約2?約4重量%」程度とすることに当業者に格別の創意工夫が必要であったとは認められない。なお、引用例5には、歯磨き剤に用いる防腐剤としてではあるが、0.1?2重量%程度の安息香酸ナトリウムの使用例が示されている(摘示(5-i)、(5-ii)参照)ように、約2%を越える量を用いて抗菌作用を高めることに格別の支障があるとは認められない。

そうすると、義歯は口腔内において使用されるため細菌や微生物が付着し、これを洗浄する洗浄液にこれらの細菌や微生物を殺すことのできる抗菌剤を含有させれば有効であることは当業者に明らかであるし、引用例1発明において、追加成分として「義歯の洗浄中に細菌および他の微生物を有効に殺せる抗菌活性を組成物にもたらす、有効量の抗菌剤」、特に「安息香酸ナトリウム」を、約2?約4重量%程度を含有させることは、当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点2について
引用例1には、適切な漂白剤として「カリウム一過硫酸塩といったアルカリ金属過硫酸塩」を選択し得ることが記載されており(摘示(1-iv)参照)、引用例2にも、一過硫酸塩を含む義歯清浄用錠剤が開示されている(摘示(2-i)及び(2-vii)の実施例3、実施例6など参照)ことからみて、引用例1発明において、「漂白剤」として適切なものの中から「モノペルサルフェート化合物」を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

(3)相違点3について
「金属イオン封鎖剤」について、本願明細書には「多官能性有機酸のような金属イオン封鎖剤、例えばクエン酸、・・・ピロホスフェートおよびそれらの対応塩」(段落【0007】)、「好ましい金属イオン封鎖剤には、多官能性有機酸、例えばクエン酸、・・・ピロフホスフェート、・・およびそれらの対応塩がある。更に好ましいものは、・・・。最も好ましいものは、クエン酸ナトリウムまたはクエン酸カリウムである。」(段落【0019】)と説明されているので、この点を念頭において以下の検討を行う。
これに対し、引用例1には漂白剤の他にキレート化剤等を含み得ることが記載され(摘示(1-iii)参照)、適切なキレート化剤として「ナトリウムくえん酸のようなカルボン酸類」や「エチレンジアミン・テトラ酢酸のアルカリ金属塩類」などが例示されている(摘示(1-v)参照)ところ、引用例10には、プラーク除去作用を有するものとしてキレート化剤が明示されている(摘示(10-i)参照)し、また、引用例2には、歯石除去成分として「こはく酸、リンゴ酸、酒石酸、くえん酸及びそれ等の混合物」を含有させることが記載されている(摘示(2-i)参照)ことから、引用例1発明において、歯石除去用成分として、キレート化剤、即ち「金属イオン封鎖剤」を含有させ、これを歯石除去成分として機能させることは当業者が容易になし得たことである。
また、引用例2には、一過硫酸塩含有の義歯洗浄液のpHを4.5以下とすることが記載されており(摘示(2-i)参照)、「pH5以下、好ましくは1.5?4.5のpHを有する清浄液を作る」ことも先行技術として示されている(摘示(2-ii)参照)ことから、義歯洗浄組成物の溶液のpHを「約3?約5範囲」にすることは、当業者が容易に採用し得たことと言うべきである。
ところで、引用例2では、一過硫酸塩含有の義歯洗浄液のpHを4.5以下に調整するために無水アルカリ金属炭酸塩を用いていて、また、一過硫酸カリウム(モノペルサルフェート化合物)がpH1.5程度を示すことが知られている(本願明細書段落【0018】でもそのように説明されている)ことからも、アルカリ剤でより中性側にpH調整したことが明らかである。そうすると、引用例1ではキレート化剤として「ナトリウムくえん酸のようなカルボン酸類」が例示されているのであり、クエン酸ナトリウムの水溶液がややアルカリ性であることは周知である(例えば、化学大辞典編集委員会編、「縮刷版 化学大辞典3」、昭和53年9月10日、縮刷版第22刷発行、第26頁の「くえんさんナトリム」の項目を参照)ことに鑑みると、そのようなキレート化剤、即ち「金属イオン封鎖剤」をもってpH調整を行うことも格別の創意工夫を要するものとは認められない。
なお、請求人は、平成24年12月5日受付けの意見書において、「『金属イオン封鎖剤』がキレート剤でないことが明らかに理解されます。」と主張するが、上記検討のとおりでありキレート剤は金属イオン封鎖剤と同じものと言えるし、一般にキレート剤は金属イオンに配位するものであって金属イオン封鎖剤として知られているものであるし、同じ物質が異なる作用効果を奏する理由もないことから、該請求人の主張は採用できない。

よって、引用例1発明において、「歯石除去用で、約3?約5の範囲の組成物pHを溶液でもたらす、有効量の金属イオン封鎖剤」を含有させることは当業者が容易に想到し得たものと言える。

(4)相違点4について
本願発明の「発泡および活性を発揮することが知られた過ホウ酸化合物または他の化合物を欠いている」との特定は、「活性」とは何か、「他の化合物」とは何か不明瞭であるが、平成24年12月5日受付けの意見書において、「本願では、『過ホウ酸化合物または他の化合物』は、具体的には、ペルボレート、カーボネートおよびホスフェート塩として例示しております(【0004】)。」と主張していること、その段落【0004】には、「このような組成物は、発泡および洗浄活性を発揮させるために、様々な量でペルボレート、カーボネート及びホスフェート塩も含有していた。」との記載があり、段落【0016】には、「他の義歯洗浄剤組成物とは異なり、本発明の組成物は、好ましくは、発泡および活性を発揮することが知られた過ホウ酸化合物または他の化合物を欠いている。」との記載があることに鑑みると、「活性」とは洗浄活性を意味し、「他の化合物」とは過ホウ酸化合物(即ちペルボレート)と併記されたカーボネートおよびホスフェートを意味するものと解するのが相当である。

そこで、引用例1発明について検討するに、引用例1には、「発明による義歯クレンザー組成物は、一つ、または、それ以上の漂白剤を含み、そして、界面活性剤、ビルダーおよびキレート化剤のような組成物の既知の成分のいずれかの一つ、又は、それ以上のもの、賦形剤、発泡システム、発泡安定剤およびバッファリングシステムを含むことができる。」(摘示(1-iii))と説明されている。そして、「発泡システム、発泡安定剤およびバッファリングシステムを含むことができる」との記載によれば、引用例1発明は、発泡システムや発泡安定剤を前提にしたものでないことは明らかであるし、キレート剤を用いる(上記「(3)相違点3について」を参照)場合には、界面活性剤やビルダーを必須の要件とするものでもない。
なお、過ホウ酸ソーダは錠剤の崩壊にも寄与するものであるが、例えば引用例2において示されているように(摘示(2-iv),(2-vii)参照)、崩壊剤としても用いられている過ホウ酸ソーダの代わりに、微結晶セルローズとして知られているアビセルPH100や、アルギン酸類として知られるケラジットなどに置き代えることが既に行われている。
してみると、引用例1発明も、「発泡および活性を発揮することが知られた過ホウ酸化合物または他の化合物」を必須の要件としたものではないことから、相違点4は実質的な相違点とは言えない。

ところで、請求人は、平成24年1月5日付け回答書において、引用例1については、「発泡システム」への適用を積極的に排除することを開示したものではない旨を主張するが、引用例1発明は、上記で検討したように、「発泡システム」を前提にしたものではないことが明らかである。一般に、「を含んでもよい」ことは、「含まないこと」を前提にしていると解するのが相当であるから、「含まないこと」は、当然に示唆されているというべきであって、その実施例が示されていなくともそれなりの所期の作用効果は奏されるものと理解すべきである。引用例1の実施例に「含む」場合の態様があるからといって、前記解釈が否定される理由はないし、他方、本願明細書を検討しても、発泡剤を含まなくても、発泡剤を含む場合に比べて格別に優れていることは、論理的に説明されているわけではなく、データによって明らかにされているわけでもない。

(5)作用効果について
本願発明の作用効果として実験によるデータが示されているのは、本願発明の義歯洗浄組成物を用いたCandida albicansなどの抗菌活性が水と比較して示されているにすぎないところ、上記「(1)相違点1について」において検討したように、安息香酸ナトリウムの抗菌活性として既に明らかにされている抗菌活性にすぎず、当業者が容易に予想し得た程度のことと言うべきである。
ところで、本願発明では「約20分間以内で細菌および微生物を有効に殺せる」ことも記載されているが、安息香酸ナトリウムが口腔微生物の抑制に有効であることが示された引用例4、6では、口腔洗浄用として使用されるのであり、例えば引用例4には15秒や30秒の接触時間が示されているように短時間で有効とされている(摘示(4-ii)参照)のであるから、約20分間以内で細菌および微生物を殺せることは予想されることと言うべきである。なお、引用例2に記載されているように、義歯洗浄剤による義歯の洗浄時間(義歯の浸漬時間)として15分程度を目途にすることも既に行なわれている(摘示(2-vi)参照)ことから、20分程度以下を義歯の洗浄時間として考慮することは格別のことではない。
そして、それ以外のデータは何も示されておらず、安全であるとか、歯石蓄積を解消し得るとか、ブラッシングせずに洗浄し得るとか、モノペルサルフェート化合物と金属イオン封鎖剤の相乗作用的な組合せで義歯上の歯垢および歯石の双方でより完全な除去を行えるとか等等が本願明細書に記載されているが、それらは義歯洗浄剤として要請されている作用効果にすぎず、格別に予想外のものであると解すべき理由も見当たらない。
そうであるから、本願発明が予想外の作用効果を奏しているとは認められない。

(6)まとめ
以上のとおりであり、また、上記相違点1?4に係る本願発明の発明特定事項を併せ採用することも当業者が容易になし得たものと認められ、その併せ採用したことによって格別予想外の作用効果を奏しているとも認められない。
したがって、本願発明は、上記引用例2?11に記載された技術事項を勘案し、引用例1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それ故、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-18 
結審通知日 2013-04-19 
審決日 2013-05-07 
出願番号 特願2000-607600(P2000-607600)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 澤田 浩平  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 菅野 智子
関 美祝
発明の名称 抗菌性義歯洗浄組成物  
代理人 吉武 賢次  
代理人 中村 行孝  
代理人 横田 修孝  

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