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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02C |
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管理番号 | 1279658 |
審判番号 | 不服2010-21044 |
総通号数 | 167 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-11-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-09-17 |
確定日 | 2013-09-25 |
事件の表示 | 特願2009- 30047「球面形の前面と多焦点裏面を有する眼鏡レンズ並びにその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 5月14日出願公開、特開2009-104201〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、 平成10年 1月16日に出願した特願10-6452号(優先権主張 1997年 1月16日 ドイツ)の一部を新たな特許出願としたものであって、 平成21年 4月13日付けで拒絶理由が通知され、 同年10月23日に意見書及び手続補正書が提出されたが、 平成22年 5月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、 同年 9月17日に拒絶査定不服審判が請求され、 同年11月18日付けで審判合議体により拒絶理由が通知され、 平成23年 5月24日に意見書及び手続補正書が提出され、 同年12月14日付けで審判合議体(当審)により拒絶理由(最初)が通知され、 平成24年 6月20日に意見書及び手続補正書が提出され、 同年 7月20日付けで審判合議体(当審)により拒絶理由(最後)が通知され、 平成25年 1月24日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2.本願発明 本願の請求項1?4に係る発明は、平成25年 1月24日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は、平成25年 1月24日付けで補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。 「【請求項1】 多焦点作用を伴う眼鏡レンズを製造する方法であって、 少数の異なる半径を有する球面形又は回転対称非球面の凸形の前面(2)を持つ在庫された複数の半製品から、1つの半製品を採用し、 個別に必要なジオプトリック値の全てを前記半製品の裏面で適合させ、該裏面を点対称も軸対称も伴わない累進多焦点表面の裏面にした眼鏡レンズを製造する方法において、 前記眼鏡レンズの全面に配分された複数の異なる点又は全面にわたる、球面、乱視およびプリズムの目標のジオプトリック値からなる前記眼鏡レンズに関する要求プロファイルが定式化され、該要求プロファイルは、近視基準点および遠視基準点における目標のジオプトリック値を含むことを特徴とする方法。」(以下「本願発明」という。) 第3.審判合議体(当審)による拒絶の理由 平成24年 7月20日付けの拒絶理由(最後)通知(以下「先の拒絶理由通知」という。)に示した拒絶の理由1は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないというものである。 第4.当審の判断 (1)本願発明は、「球面形又は回転対称非球面の凸型の前面」と「点対称も軸対称も伴わない累進多焦点表面の裏面」を有する「累進多焦点作用を伴う眼鏡レンズを製造する方法」の発明である。 そして、本願発明は、次の4つの工程を有するものである(番号は審決で付与したものである。)。 即ち、 1.小数の異なる半径を有する球面形又は回転対称非球面の凸型の前面(2)を持つ在庫された複数の半製品から、1つの半製品を採用する工程、 2.個別に必要なジオプトリック値の全てを前記半製品の裏面に適合させ、該裏面を点対称も軸対称も伴わない累進多焦点表面の裏面する工程、 3.前記眼鏡レンズの全面に配分された複数の異なる点又は全面にわたる、球面、乱視およびプリズムの目標のジオプトリック値からなる前記眼鏡レンズに関する要求プロファイルが定式化させる工程、 4.該要求プロファイルを、近視基準点および遠視基準点における目標のジオプトリック値を含むものとする工程 (2)ここで、工程1について検討する。 工程1においては、少数の異なる半径を有する球面形又は回転対称非球面の凸型の前面(2)を持つ半製品(以下「球面又は回転対称非球面前面の半製品」という。)が複数在庫された中から、1つの半製品を採用している。 このとき、本願発明においては、半製品の段階で、(半製品)レンズは球面形又は回転対称非球面の前面を有しており、本願発明の全工程から理解されるように、並びに、本願明細書の発明の詳細な説明においても理解されるように、工程1の後で、半製品レンズの前記前面は研削・研磨されるものではないから、半製品の前面にある曲面形状は最終製品である眼鏡レンズに引き継がれるものである。そして、半製品の前面にある球面形又は回転対称非球面の面形状は、最終製品の眼鏡レンズの品質と性能に影響を及ぼすものであることから、工程1の1つの半製品の「採用」とは、後続する工程2?工程4に適合した前面形状を有する半製品を「選択」することを意味すると解される。 しかるところ、本願明細書の発明の詳細な説明においては、工程(1)の1つの半製品の「採用」に関し、 「発明に従って多焦点作用を有する眼鏡レンズを製造する方法は、事前に行われた設計項目の熟慮から発生した第1の眼鏡レンズ又はいくつかの眼鏡レンズの変形構造が球面形又は回転対称非球面の凸形前面を有し、約10の異なる半径を有する半製品から、個別に必要であるジオプトリック作用適合が眼鏡レンズの目に向いた側の面にあり、最適化出発点としての設計結果に基づく最適化計算から得られる形状の自由形状面によって全て行われるように製造されることを特徴とする。」(本願明細書【0016】。下線は審決で付与した。以下同じ。) と記載されるにとどまっており、本願明細書の発明の詳細な説明は、眼鏡レンズを製造する方法の発明の工程1?工程4の中で、工程1で、具体的にどのような基準に基づいて、少数の異なる半径を有する複数の在庫された半製品から1つの半製品を採用、即ち選択したらよいのかに関して、当業者に何らかの示唆を与えることができる記載はない。また、工程1において、具体的にどのような基準を以て1つの半製品を採用すれば、後続する工程2?工程4とあわせて、工程全体により、眼鏡レンズとしての使用に十分な品質及び性能を有するレンズを製造することができるのか、即ち、眼鏡レンズを製造する方法の発明が実施できるものであるのかは、当業者にとって自明の事項であるとも認められない。 (3)次に工程3について検討する。 工程3に記載されているように、本願発明においては「眼鏡レンズの全面に配分された複数の異なる点又は全面にわたる、球面、乱視およびプリズムの目標のジオプトリック値からなる前記眼鏡レンズに関する要求プロファイルが定式化」するものである。 ここで、「要求プロファイルを定式化」するという構成について、本願明細書の発明の詳細な説明には、 「【0018】・・・(略)・・・ 【発明を実施するための形態】 【0019】・・・(略)・・・ 【0020】 第2の実施形態では、レンズ全面に配分された複数の異なる点又は全面にわたるジオプトリック目標作用(球面,非点収差,プリズム)から成る眼鏡レンズの要求プロファイルを公式化する。 プリズム作用は、通常1つの点又は若干の点でのみ現れる。x及びyに関する関数により又は有限の多数の点における作用のリストとして要求プロファイルを与えることができる。」 との記載がされているにとどまる。そして、この記載から理解されるのは、要求プロファイルとは、xおよびyに関する関数の形式か、あるいは、有限の多数の点における作用のリストとして与えられるものであること、つまり、要求プロファイルの表現形式として、連続的に設定される関数でも、離散的に設定されるリストでもよい、ということのみである。 したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から、具体的にはどのようにして、「要求プロファイル」を「定式化」すればよいのかについて、当業者は何の示唆も得ることができない。また、当該事項が、当業者にとって自明の事項であるとも認められない。 さらに、本願の請求項1に係る発明は、工程1?工程4を通じて眼鏡レンズを製造するに際し、前記したとおり、工程1で採用された半製品レンズの前面形状が最終製品である眼鏡レンズに引き継がれるものであるから、工程1の半製品レンズの採用と、工程3及び工程4の要求プロファイルの定式化とを相互に合わせて設計され、工程2で記載されるように個別に必要なジオプトリック値の全てを前記半製品の裏面に適合させ、該裏面を点対称も軸対称も伴わない累進多焦点表面の裏面にした眼鏡レンズを製造するものであって、その結果得られるレンズは、眼鏡レンズとして使用し得る程度のレンズでなければならないものである。そうすると、請求項1に係る発明は、工程1?工程4を通じ、厳密な面形状の近似計算を実施するものであるのにもかかわらず、本願明細書の発明の詳細な説明には、工程1の半製品レンズの採用についての具体的指標や設計思想について何等記載はなく、工程3、工程4の要求プロファイルの定式化に関しては、前記のとおり、要求プロファイルの表現形式に関する事項が記載されているに過ぎず、近似計算に関して、計算処理上考慮される要素(個人処方や用途、環境など)が散文的に記載されるのみであって、工程1?工程4で行われるレンズ設計上の面の近似計算について、具体的な例が1つも記載されていない。したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものであるとは認められない。 (4)上記(1)乃至(3)のとおりであるから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認められず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 第5.請求人の主張について 先の拒絶理由通知(平成24年 7月20日付け)に対し、平成25年 1月24日付けで請求人が提出した意見書には、「4.具体的な最適化曲面を求める計算について」と題して「(1)最適化計算の方法」として面形状の近似計算のやり方、「(2)目標ジオプトリック値の決定」の仕方、また、「本願優先日前において、個別に必要なジオプトリック値を適合させるために、要求プロファイルの定式化が行われていた」こと、を説明している。 しかしながら、これら請求人によってなされた説明は、いずれも、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された事項に基づいたものではなく、意見書において新たに追加された事項であるから、本願明細書の発明の詳細な説明に、これらの請求人の説明事項を補充して本願請求項1に係る発明の実施可能性を検討することは適当ではない。 なお、請求人よりなされたこれらの説明を補って本願の請求項1に係る発明の実施可能性を検討したとしても、 「(1)最適化計算の方法」を参酌しても、最適化計算のために使用されるメリット関数を本願発明の場合では、具体的にどのように設定するのかについては、当業者は依然と理解することが困難であり、また、メリット関数の具体的適用が当業者にとって自明の事項でもなく、 「(2)目標ジオプトリック値の決定」に関しても、使用者の個別に必要なジオプトリック値と使用環境(用途)から、特定の使用者向けの全ての点の目標ジオプトリック値を得るための具体的手段については依然として明らかにされていないため、本願発明の場合は具体的にどのように目標ジオプトリック値を創出したらよいのか、当業者は依然として十分な知見を得ることはできず、また、当業者にとっても、目標ジオプトリック値の決定が自明の事項でもなく、 「本願優先日前において、個別に必要なジオプトリック値を適合させるために、要求ジオプトリックの定式化が行われていた」との説明について、請求人がその根拠として提示している文献3は、代表的なジオプトリック値を用いて予め面設計を行った後に、個人処方値を反映するように面設計を最適化したという、レンズの「設計の結果」を例示しているに過ぎないものであって、文献3を参酌しても、本願発明において、工程1?工程4を相互に関連させて眼鏡レンズを製造するにあたり、工程3と工程4の「要求プロファイルの定式化」をどのように行ったらよいのか、当業者は依然として理解することはできない。 したがって、本願明細書の発明の詳細を、意見書における請求人の説明を十分に参酌して解釈したとしても、当業者は、請求項1に係る発明である眼鏡の製造方法の発明を実施することはできない。 よって、請求人の主張は採用できない。 第6.むすび 以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-03-28 |
結審通知日 | 2013-04-02 |
審決日 | 2013-05-15 |
出願番号 | 特願2009-30047(P2009-30047) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
WZ
(G02C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鈴野 幹夫 |
特許庁審判長 |
西村 仁志 |
特許庁審判官 |
磯貝 香苗 吉野 公夫 |
発明の名称 | 球面形の前面と多焦点裏面を有する眼鏡レンズ並びにその製造方法 |
代理人 | 杉村 憲司 |
代理人 | 下地 健一 |
代理人 | 澤田 達也 |