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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04Q
管理番号 1279732
審判番号 不服2012-2631  
総通号数 167 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-02-10 
確定日 2013-09-27 
事件の表示 特願2009- 5158「隣接基地局情報と通信する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 7月 2日出願公開、特開2009-147954〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成17年(2005年)5月10日(優先権主張 2004年(平成16年)5月10日 韓国)を国際出願日とする出願の一部を平成21年1月13日に新たな特許出願としたものであって,平成23年6月7日付けで拒絶理由が通知され,同年9月12日付けで意見書とともに手続補正書の提出がなされ,同年10月5日付けで拒絶査定され,平成24年2月10日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。


第2 補正却下の決定

[結論]
平成24年2月10日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願補正発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は,平成24年2月10日付け手続補正(以下「本件補正」という。)によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項(下線は請求人が付与。)により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
移動通信システムにおいて隣接基地局情報を通信する方法であって、
前記方法は、
管理エンティティから隣接基地局に、前記隣接基地局情報を要請するための要請メッセージを伝送することと、
前記隣接基地局から前記管理エンティティによって、前記隣接基地局情報を含む応答メッセージを受信することであって、前記隣接基地局情報は、前記隣接基地局を接続するための物理チャンネル情報と、アップリンクチャンネル記述子(UCD)のためのパラメーターと、ダウンリンクチャンネル記述子(DCD)のためのパラメーターとを含む、ことと、
管理エンティティからサービング基地局に、前記隣接基地局情報を含む第1のメッセージを伝送することと、
サービング基地局から、前記サービング基地局の対応するセル内に存在するすべての移動局加入者局に、前記隣接基地局情報を含む第1の隣接公示メッセージを第1の周期的間隔で放送することと、
前記隣接基地局から前記管理エンティティによって、前記隣接基地局情報を要請せずに、前記隣接基地局情報が変更した場合に、前記隣接基地局情報の各変化に対して増加する構成変化カウントおよび更新された隣接基地局情報を含む応答メッセージを受信することであって、前記更新された隣接基地局情報は、前記隣接基地局を接続するための物理チャンネル情報と、アップリンクチャンネル記述子(UCD)のためのパラメーターと、ダウンリンクチャンネル記述子(DCD)のためのパラメーターとを含む、ことと、
管理エンティティから前記サービング基地局に、更新された隣接基地局情報を含む第2のメッセージを伝送することと、
前記サービング基地局から、前記サービング基地局の対応するセル内に存在するすべての移動局加入者局に、前記第1の周期的間隔に続いて第2の隣接公示メッセージを放送することであって、前記第2の隣接公示メッセージは、前記更新された隣接基地局情報を含む、ことと
を含む、方法。

そして,上記補正は,特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
よって,本件補正が,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するかについて検討する。

2.引用例
(1)引用例
原査定の理由に引用された特開2003-348007号公報(平成15年12月5日公開。以下「引用例」という。)には,図面とともに次の事項が記載(下線は当審が付与。)されている。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は無線移動通信方法及び無線基地局並びに無線リソース管理装置及び移動端末装置並びにプログラムに関し、特に通信を行う無線基地局を変更する移動端末装置に対して高速なハンドオーバを行うことができる移動通信方式に関するものである。」
(公報第15ページ第27欄)

イ 「【0009】また、FMIPの技術では、移動先となり得る基地局が複数ある場合について想定されていないという問題がある。一般的に、無線通信システムの場合には、移動先となりうる基地局が複数存在することが多い。また、各無線基地局が提供可能な無線リソース量はそれぞれ異なる。無線通信システム全体での収容効率を最大化するためには、移動端末装置が要求する無線リソース量に応じて適切な無線基地局を選択することが望ましい。
【0010】本発明はこのような事情に基づき提案されたものであり、その第1の目的は、無線通信路を介して無線基地局と通信を行う移動端末装置がハンドオーバ行なう際に、移動先となる無線基地局との間に、移動前に接続していた無線基地局との間で保証されていたものと同一の信頼性のある通信を保証することが可能な無線移動通信方法及び無線基地局並びに無線リソース管理装置及び移動端末装置並びにプログラムを提供することである。
【0011】また、本発明の第2の目的は、移動先となり得る無線基地局が複数存在する場合に、移動端末装置が必要とする無線リソース量に応じて適切な無線基地局を選択することが可能な無線移動通信方法及び無線基地局並びに無線リソース管理装置及び移動端末装置並びにプログラムを提供することである。
【0012】また、本発明の第3の目的は、無線基地局との通信に利用する無線システムが複数存在する場合に、移動端末装置の通信可能な範囲にある無線基地局が使用している無線システムのみを対象とした探索を行うことで、移動先無線基地局の探索に要する時間を短縮化し、また移動端末装置の消費電力を抑制することが可能な無線移動通信方法及び無線基地局並びに無線リソース管理装置及び移動端末装置並びにプログラムを提供することである。
【0013】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するために、本発明の無線通信システムの第1の構成では、それぞれ通信プロトコルとしてIP(Internet Protocol )、ネットワーク層における移動プロトコルとしてMIP(Mobile IP )とFMIP(Fast MIP )を備え、無線伝送路を介した通信を行う移動端末装置と複数の無線基地局から構成される。前記第1の構成における移動端末装置は、前記複数の無線基地局から送信される電波の受信電力やビット誤り率などの受信状態を監視する機能を有する受信状態監視部を内部に持つ送受信部と、前記受信状態監視部の受信状態情報または無線基地局より通知される無線基地局の無線リソース情報から移動先となる無線基地局を判断する移動先無線基地局判定部と通信のために使用する無線チャネルを切り替える機能を有する無線チャネル管理部と、MIPおよびFMIPによる無線基地局の切り替え(ハンドオーバ)処理を実行する機能を有するハンドオーバ処理部とを備えている。
【0014】また、前記第1の構成における無線基地局は、前記移動端末装置からの受信電力やビット誤り率などの受信状態を監視する機能を有する受信状態監視部を内部に持つ第1の送受信部と、他の無線基地局と通信を行う機能を有する第2の送受信部と、各無線基地局間のリソース情報を交換するための機能を有する無線基地局管理ソース情報交換処理部と、前記無線基地局管理ソース情報交換処理部により受け取った他の無線基地局のリソース情報を記憶する無線基地局管理ソース情報記憶部と、移動端末装置との通信に使用する無線チャネルを管理する無線チャネル管理部と、前記無線基地局リソース情報記憶部の情報と前記無線チャネル管理部の持つ無線チャネル使用状態と前記移動端末装置から受け取る無線リソース量要求から移動先となる無線基地局を選択する機能を有する移動先無線基地局判定部と、MIPおよびFMIPによる無線基地局の切り替え(ハンドオーバ)処理を実行する機能を有するハンドオーバ処理部とを備えている。
【0015】また、本発明の無線通信システムの第2の構成では、それぞれ通信プロトコルとしてIP、ネットワーク層における移動プロトコルとしてMIPとFMIPを備え、無線伝送路を介した通信を行う移動端末装置と複数の無線基地局から構成される。前記第2の構成における移動端末装置は、前記第1の構成における移動端末装置と同様の機能を備えている。また、前記第2の構成における無線基地局は、前記第1の構成における無線基地局の無線基地局管理ソース情報記憶部以外の機能を備えている。
【0016】また、本発明の無線通信システムの第3の構成では、それぞれ通信プロトコルとしてIP、ネットワーク層における移動プロトコルとしてMIPとFMIPを備え、無線伝送路を介した通信を行う移動端末装置と複数の無線基地局、および前記複数の無線基地局の持つ無線リソース情報を保持し、移動端末装置の適切なハンドオーバ先を選択するための無線リソース管理装置から構成される。前記第2の構成における移動端末装置は、前記第1の構成における移動端末装置と同様の機能を備えている。」
(公報第15ページ第28欄?第16ページ第30欄)

ウ 「【0021】 (略) 次に、本発明の第2の無線移動通信方式では、前記第1の構成の無線通信システムを採用して実現する。各無線基地局は、定期的にビーコン信号を送信している。
【0022】また、移動端末装置と接続している移動元無線基地局は、前記移動端末に向けてあらかじめ収集していた周辺に位置する複数の無線基地局(近隣無線基地局)の無線リソース情報を定期的に送信する。
【0023】前記移動端末装置は、前記ビーコン信号の受信状態の状態と前記近隣無線基地局のリソース情報から、要求無線リソース量を提供可能な無線基地局を移動先無線基地局として決定し、前記移動元無線基地局に向けて、前記移動先無線基地局との通信を行うためのIPアドレスを生成するために必要な情報の問合せと共に、前記要求無線リソース量を前記移動元無線基地局に向けて通知する。前記移動元無線基地局は、通知された移動先無線基地局に向けて、前記移動端末装置の要求無線リソース量を通知する。前記移動先無線基地局は、前記通知された移動端末装置の要求無線リソース量を満足する数の無線チャネルを確保し、前記確保した無線チャネルの移動先無線チャネル情報を、前記移動元無線基地局に向けて通知する。
【0024】前記移動元無線基地局は、前記通知された移動先無線チャネル情報と、前記移動先無線基地局との通信で使用する新IPアドレス生成のために必要な情報を、前記移動端末装置に向けて通知する。前記移動端末装置は、前記通知された新IPアドレス生成のための情報と移動先無線チャネル情報を元に、IPアドレスの変更と無線チャネルの変更を行う。以上の手順により、本発明の第1及び第2の目的を達成することができる。」
(公報第17ページ第31?32欄)

エ 「【0031】次に、本発明の第5の無線移動通信方式では、前記第3の構成の無線通信システムを採用して実現する。本発明の第5の無線移動通信方式は、前記第1?第4の無線移動通信方式において、移動元無線基地局が行っている、各無線基地局の無線リソース状態情報の収集と、移動先候補無線基地局の選択と、移動先無線基地局への前記移動端末装置の要求無線リソース量の通知及び移動先無線チャネルの確保との処理を、前記無線リソース管理装置が行う。」
(公報第18ページ第33欄)

オ 「【0065】図8に、図5と図6で用いる無線リソース情報報告メッセージのパケット形式を示す。無線基地局はリソース要求メッセージを受信すると、基地局の無線リソースに関する情報を含むメッセージ801を生成し、無線リソース情報報告を意味する種別番号を含む情報を付与する。さらに、無線リソース情報報告メッセージの送信元無線基地局を宛先とする、例えばUDP/IPのパケットヘッダを付与し、有線通信網140へ送信する。
【0066】図9は図8の無線リソース情報801に含まれる詳細な情報の例を示したものである。無線品質情報として報告するものとしては、例えば、「無線通信システムが提供するサービス種別とそのために使用可能な空チャネル数」がある。また、別の情報としては、「ビット誤り率、SIR、データ伝送率、移動端末装置と無線基地局間の伝送遅延」のような無線基地局によって計測された無線伝送路の品質情報がある。また、さらに別の情報としては「無線システム種別識別子、無線周波数、スクランブルコード」のような無線基地局が移動端末装置との通信に使用する無線システムの種類に関するものがある。
(公報第21ページ第39?40欄)

カ 「【0130】これまでに説明した、本発明の第1?9の各実施例では、無線リソース管理機能を各無線基地局に分散させる方式を用いている。一方、無線リソースの管理を集中して行う独立ノードを用いる方式も考えられる。以降では、無線リソースの集中管理方式に基づくハンドオーバ手順について説明する。
【0131】図22は無線リソースの集中管理方式を用いた場合における、無線通信システム全体の構成例を示したものである。図22に示す無線通信システムは、移動端末装置MN、無線基地局AR-11、AR-12、AR-13、無線リソース管理装置RRMSから構成される。移動端末装置MNの構成は図3に示したものと同様である。
【0132】図23は、図22の無線リソース管理装置RRMSの構成例を示したものである。無線リソース管理措置は、送受信部2310、ハンドオーバ処理部2320、基地局リソース情報記憶部2330、移動先基地局判定部2340、無線リソース管理処理部2350を備えている。送受信部2310は、図22の有線網に対するデータ送受信を行うための装置である。ハンドオーバ処理部2320は、移動端末装置MNや無線基地局AR-11、AR-12、AR-13から受け付けるMIPやFMIPに基づいたハンドオーバ処理を行うために使用する。
【0133】基地局リソース情報記憶部2330は、図22の有線網に接続された無線基地局AR-11、AR-12、AR-13の無線リソースに関する情報を記憶するために使用する。移動先基地局判定部2340は、移動端末装置から通知された移動端末装置の要求無線リソース量と、無線基地局リソース情報記憶部2330に記憶されている無線基地局の無線リソース情報とを用いて、移動端末装置のハンドオーバ先となる無線基地局の候補を選定するための装置である。無線リソース管理処理部2350は、移動端末装置や無線基地局から受け付ける無線リソース確保や開放や情報交換に関するメッセージに応じた処理を行う。
【0134】図24は、図22を構成する無線基地局AR-11の構成例を示したものである。無線基地局AR-12およびAR-13も同様の構成を有する。無線基地局AR-11は、第1の送受信部2410、第2の送受信部2420、ハンドオーバ処理部2430、無線チャネル管理部2450を備えている。また、第1の送受信部2410は、無線伝送路の状態を監視するための受信状態監視部2411を備えている。各部位の機能は、図2として説明した無線基地局の同名の部位と同様である。
【0135】次に、図25は、無線リソース管理装置により無線リソースの集中管理を行った場合における、移動端末装置MNと無線基地局AR-11、AR-12、AR-13と無線リソース管理装置RRMSに係るハンドオーバ手続きの概要を示したものである。ハンドオーバの処理は大きく分けて以下の5段階の手続きにより実現される。
【0136】(1)各無線基地局の無線リソース情報を無線リソース管理装置に報告する無線リソース情報報告手続き(手続きP701)。
【0137】(2)ハンドオーバの実行を決定し、ハンドオーバ実行の前処理を行うハンドオーバ実行開始手続き(手続きP-702)。
【0138】(3)移動先となる無線基地局でコネクションオリエンテッド通信が要求する無線リソースを確保するための無線リソース確保手続き(手続きP703)。
【0139】(4)移動先となる無線基地局および移動先無線基地局との通信で用いる無線チャネルを通知するハンドオーバ移動先通知手続き(手続きP704)。
【0140】(5)FMIPに基づくパケット転送処理を実行するFMIPパケット転送手続き(手続きP705)。
【0141】図26は、図25のP701として示す無線リソース情報報告手続きの処理手順の詳細な手順について、第1の例を示したものである。以降では、図7、図8、図23、図24、図26を用いて、本手順について詳細に説明する。
【0142】(ステップ1) 無線リソース管理装置RRMSの無線リソース管理処理部2350は、例えば起動直後で基地局リソース情報記憶部2330に何も情報を持たない場合に、無線基地局AR-12のリソース情報が必要であると判断すると、図7に示す形式の無線リソース情報要求メッセージを生成し、無線基地局AR-11に向けて送信する(図26のメッセージ2601)。
【0143】(ステップ2) 無線基地局AR-11の無線チャネル管理部2450は、無線リソース情報要求メッセージ2601を受信すると、受信状態監視部2411と無線チャネル管理部2450が管理している無線リソースに関する情報を含んだ、図8に示す形式の無線リソース情報報告メッセージを生成し、無線リソース管理装置RRMSに向けて送信する(図26のメッセージ2602)。
【0144】(ステップ3) 無線リソース管理装置RRMSの無線リソース管理処理部2350は、無線リソース情報報告メッセージ2602を受け取ると、報告された無線リソース情報を無線基地局リソース情報記憶部2330に記憶する(図26の手続き2611)。
【0145】また、無線リソース管理装置RRMSは、無線基地局AR-12、AR-13に対しても同様の手続きにより無線リソース情報を収集する。
【0146】次に、図27は、図25の手続きP701として示した無線リソース情報報告手続きの処理手順の詳細な手順に関する第2の例を示したものである。以降では、図8、図23、図24、図27を用いて、本手順について詳細に説明する。
【0147】(ステップ1) 無線基地局AR-11の無線チャネル管理部2450は、周期TAR1-RRMSで受信状態監視部2411と無線チャネル管理部2450が管理している無線チャネルに関する情報を含む無線リソース情報報告メッセージ(図27のメッセージ2701、2703)を生成し、無線リソース管理装置RRMSに対して送信することを繰り返す。
【0148】(ステップ2) 無線リソース管理装置RRMSの無線リソース管理処理部2350は、無線リソース情報告メッセージ2701、2703を受け取ると、報告された無線リソース情報を無線基地局リソース情報記憶部2330に記憶する(図27の手続き2711、2714)。
【0149】無線リソース情報要求メッセージを送信する契機としては、周期的な送信に限るものではない。例えば図27の無線基地局AR-12の動作に示すように、内部の無線リソース割当状態変化2712を契機として、無線リソース管理装置RRMSに対して無線リソース情報要求メッセージを送信する方法もある(図27のメッセージ2702)。
【0150】
【第10の実施例】図3と図8と図9と図23と図24と図28と図32と図33と図34を用いて、本発明の第10の実施例の手順を説明する。
【0151】(ステップ1) 移動端末装置MNの受信状態監視部311は、無線基地局AR-11、AR-12、AR-13が定期的に送信するビーコン信号を受信し、その受信状態を比較する(図28の手続き2811)。また、無線リソース管理装置RRMSは、移動端末装置MNの周辺に存在する無線基地局の識別子と、各無線基地局の無線基地局情報を含んだ図42に示す形式の周辺無線基地局情報広告メッセージを、無線端末MNに対して定期的に通知する(図28のメッセージ2805)。
【0152】無線基地局情報4201として通知される情報の具体的な内容は、図8及び図9に示す無線リソース情報報告メッセージの無線リソース情報と同様である。
【0153】(ステップ2) 移動端末装置MNのハンドオーバ処理部は、受信状態監視部311が無線基地局AR-11より受信状態が十分に良い無線基地局があることを発見するか、もしくはハンドオーバ処理部320に対して無線端末MNのユーザよりハンドオーバ実行の命令が通知されると、ハンドオーバ実行準備を開始する(図28の手続き2812)。
【0154】(ステップ3) 移動端末装置MNの移動先無線基地局判定部330は、送受信部310により検知された無線基地局AR-11、AR-12、AR-13の識別子と、各無線基地局との通信品質情報と、移動端末装置MN上で実行されている通信セッション1?4が必要とするリソース量に関する情報を含んだ、図32に示す形式の検出無線基地局通知メッセージを無線リソース管理装置RRMSに向けて送信する(図28のメッセージ2801)。
【0155】(ステップ4) 無線リソース管理装置RRMSの移動先無線基地局判定部2340は検出無線基地局通知メッセージ2801を受信すると、移動先無線基地局判定部2340を用いて移動先候補となる無線基地局としてAR-11、AR-12、AR-13を選択する(図28の手続き2813)。
【0156】移動先無線基地局判定部2340が移動先候補無線基地局を選択するための判断基準としては、検出無線基地局通知メッセージ2801により取得する情報と、無線基地局リソース情報記憶部2330に記憶された無線基地局の無線リソース情報と、それぞれの無線基地局を使った場合の課金情報、移動端末装置MNの各無線基地局に対するアクセス権限に関する情報が考えられる。
【0157】(ステップ5) 無線リソース管理装置RRMSの移動先無線基地局判定部2340は、移動先候補として選択した無線基地局とその通信品質に関する情報とを含んだ、図33に示す形式の移動先候補無線基地局通知メッセージを移動端末装置MNに向けて送信する(図28のメッセージ2802)。
【0158】(ステップ6) 移動端末装置MNのハンドオーバ処理部320は、移動先無線基地局判定部330を用いて、移動先無線基地局として無線基地局AR-12を決定する(図28の手続き2814)。移動先無線基地局判定部330が移動先無線基地局を決定するための判断基準は、移動先候補無線基地局通知メッセージ1302に含まれる情報と受信状態監視部311により検出される各無線基地局からの受信状態がある。
【0159】(ステップ7) 移動端末装置MNのハンドオーバ処理部320は、移動先無線基地局AR-12の識別子と実行中の通信セッション1?4が必要とするリソース量に関する情報を含んだ、図34に示す形式の移動先無線基地局要請メッセージを無線基地局AR-11に向けて送信する(図28のメッセージ2803)。
【0160】(ステップ8) 無線基地局AR-11は、図5として示した手順を用いて、無線基地局AR-12に対して無線リソースの確保を要求する(図28の手続きP703)。さらに、無線基地局AR-12は、無線リソース状態が変化したことを、無線リソース管理装置RRMSに報告し(図28のメッセージ2804)、無線リソース管理装置RRMSは内部情報の更新を行う(図28の2815)。
【0161】(ステップ9) 無線基地局AR-11は、図6として示した手順を用いて、移動端末装置MNに対して、移動先無線基地局との通信で用いる無線チャネルとIPアドレスに関する情報を通知する(図12の手続きP704)。
【0162】また、移動端末装置MNと無線リソース管理装置RRMSが直接通信できない場合も考えられる。このような場合、図31に示すように、本手順における移動端末装置MNと無線リソース管理装置RRMS間の通信を、移動持つ無線基地局AR-11が中継する方式もありうる。また、ステップ1で無線基地局RRMSが必ずしも周辺無線基地局情報広告メッセージを送信する必要は無い。」
(公報第25ページ第48欄?第27ページ第52欄)

キ 引用例における誤記について

(ア)誤記1
上記摘記カのうちの【0162】における「(前略)このような場合、図31に示すように、本手順における移動端末装置MNと無線リソース管理装置RRMS間の通信を、移動持つ無線基地局AR-11が中継する方式もありうる。また、ステップ1で無線基地局RRMSが必ずしも周辺無線基地局情報広告メッセージを送信する必要は無い。」との記載は,引用例の【0150】乃至【0162】における記載事項を,技術常識に照らせば,正しくは「(前略) このような場合、図31に示すように、本手順における移動端末装置MNと無線リソース管理装置RRMS間の通信を、移動元無線基地局AR-11が中継する方式もありうる。 (後略)」の誤記であることは明らかである。

(イ)誤記2
上記摘記カのうちの【0142】における「(ステップ1) 無線リソース管理装置RRMSの無線リソース管理処理部2350は、例えば起動直後で基地局リソース情報記憶部2330に何も情報を持たない場合に、無線基地局AR-12のリソース情報が必要であると判断すると、図7に示す形式の無線リソース情報要求メッセージを生成し、無線基地局AR-11に向けて送信する(図26のメッセージ2601)。」との記載のうち「無線基地局AR-12」は,正しくは「無線基地局AR-11」である。根拠は次の(あ),(い)のとおりである。

(あ) 【0142】の記載によれば,無線リソース管理装置の基地局リソース情報記憶部に何も情報を持たない場合に,無線基地局AR-12(以下「AR-12」という。)のリソース情報が必要であるのに,無線基地局AR-11(以下「AR-11」という。)に対して無線リソース情報要求を行ってる。
つまり,AR-12の情報が必要ならば,該AR-12に対して情報要求を行うのが自然であり,他方,AR-11の情報が必要ならば,該AR-11に情報要求を行うのが自然である。
よって,上記【0142】における「AR-12」との記載が正しくは「AR-11」(以下「仮定1」という。)であるか,若しくは「AR-11」との記載が正しくは「AR-12」(以下「仮定2」という。)であるかのいずれかの誤記があることは明白である。

(い) 上記仮定1,2について検討する。
(i)【0145】には,「また、無線リソース管理装置RRMSは、無線基地局AR-12、AR-13に対しても同様の手続きにより無線リソース情報を収集する。」との記載,
(ii)【0146】には,「次に、図27は、図25の手続きP701として示した無線リソース情報報告手続きの処理手順の詳細な手順に関する第2の例を示したものである。以降では、図8、図23、図24、図27を用いて、本手順について詳細に説明する。」との記載,
(iii)【0147】には,「(ステップ1) 無線基地局AR-11の無線チャネル管理部2450は、周期TAR1-RRMSで受信状態監視部2411と無線チャネル管理部2450が管理している無線チャネルに関する情報を含む無線リソース情報報告メッセージ(図27のメッセージ2701、2703)を生成し、無線リソース管理装置RRMSに対して送信することを繰り返す。」との記載がある。

これらの記載からは,【0142】において,無線リソース情報を無線リソース管理装置に送信しているのは,「AR-12」であり,「AR-11」ではないと解するべきである。
つまり,上記仮定1のとおり「AR-12」との記載が,正しくは「AR-11」である。

(ウ)誤記3
上記摘記カのうちの【0148】における記載「(ステップ2) 無線リソース管理装置RRMSの無線リソース管理処理部2350は、無線リソース情報告メッセージ2701、2703を受け取ると(後略)」の下線部は,正しくは「無線リソース情報報告メッセージ2701,2703」である明らかな誤記である。

(エ)誤記4
上記摘記カのうちの【0149】における記載「無線リソース情報要求メッセージを送信する契機としては、周期的な送信に限るものではない。例えば図27の無線基地局AR-12の動作に示すように、内部の無線リソース割当状態変化2712を契機として、無線リソース管理装置RRMSに対して無線リソース情報要求メッセージを送信する方法もある」については,【0148】の記載によれば,周期的な送信をされるものは,「無線リソース情報報告メッセージ」であって,「無線リソース情報要求メッセージ」ではない。
これについて検討するに,引用例【0065】,【0145】乃至【0147】,【図8】,及び【図27】の記載を総合してみると,【0149】における「無線リソース情報要求メッセージ」は,正しくは「無線リソース情報報告メッセージ」であると解するべきである。
つまり,引用例【0149】の記載は,正しくは「無線リソース情報報告メッセージを送信する契機としては、周期的な送信に限るものではない。例えば図27の無線基地局AR-12の動作に示すように、内部の無線リソース割当状態変化2712を契機として、無線リソース管理装置RRMSに対して無線リソース情報報告メッセージを送信する方法もある(図27のメッセージ2702)。」の誤記であると解するべきである。

(オ)まとめ
上記誤記1?4は,いずれも当業者が,誤記であることを認識しうるものであり,技術常識に照らせば,引用例の記載内容に基づいて,上記のような正しい読み替えができる程度のものである。

以上をもとに,引用例の記載事項を技術常識に照らせば,次のことがいえる。

(I) 移動体通信の分野において,移動端末装置と接続している「移動元無線基地局」が,「サービング基地局」と呼ばれ,該移動元無線基地局の周辺に位置する複数の無線基地局(近隣無線基地局)が,「隣接基地局」と呼ばれることは,周知である。
これをもとに,引用例記載の複数の無線基地局AR-11,AR-12,AR-13についてみるに,複数の無線基地局AR-11,AR-12,AR-13のうちのいずれか一の無線基地局が,ハンドオーバにおける移動元基地局となることは明らかであるから,その無線基地局を「サービング基地局」ということができる。この時,他の無線基地局が「隣接基地局」といえることは,当然である。
つまり,無線基地局AR-11が,前記移動元無線基地局となるとき,該AR-11は「サービング基地局」と呼ばれ,他の無線基地局AR-12,AR-13は「隣接基地局」と呼ばれることになる。

(II) 引用例記載の無線移動通信方式は,移動元無線基地局と無線リソース管理装置との間で,周辺に位置する複数の無線基地局の無線リソース情報を含む周辺無線基地局情報広告メッセージとして通信していることは明らかである。
そして,前記「周辺に位置する複数の無線基地局の無線リソース情報」は,「隣接地局の無線リソース情報」と呼ぶこともできるものであるから,該「無線リソース情報」は,「隣接基地局情報」といえる。
つまり,引用例には,「移動通信システムにおいて隣接基地局情報を通信する方法」が開示されている。

(III) 引用例【0141】?【0145】には,「無線リソース管理装置が,無線基地局(AR-11?AR-13)の無線リソース情報が必要であると判断すると,無線リソース情報要求メッセージを生成し,複数の無線基地局(AR-11?AR-13)にむけて送信する。そして,前記複数の無線基地局(AR-11?AR-13)の各々は,無線リソース情報要求メッセージを受信すると,各無線基地局(AR-11?AR-13)の無線リソースに関する情報を含む無線リソース情報報告メッセージを生成し,無線リソース管理装置に送信し,該無線リソース情報報告メッセージは,該無線リソース管理装置によって,受信される」ことが開示されている。
そして,前記複数の無線基地局は,「サービング基地局」と「隣接基地局」を含むものであるから,無線リソース管理装置が伝送する「無線リソース情報要求メッセージ」は,「「サービング基地局の無線リソース情報」とともに「隣接基地局の無線リソース情報」を含む無線リソース情報を要求するためのメッセージ」であることは明らかである。
さらに,無線リソース管理装置が受信する「無線リソース情報報告メッセージ」は,「サービング基地局からの無線リソース情報」とともに「隣接基地局からの無線リソース情報」を含むものである。
このことは,引用例【0141】?【0145】における開示内容が,「無線リソース管理装置から隣接基地局に,前記隣接基地局情報を要請するための無線リソース情報要求メッセージを伝送する」こと,及び「前記隣接基地局から前記無線リソース管理装置によって,前記隣接基地局情報を含む無線リソース情報報告メッセージを受信する」ことを開示していることを意味する。

(IV) 引用例【0149】の記載によれば,「無線リソース情報報告メッセージを送信する契機としては、周期的な送信に限るものではない。例えば図27の無線基地局AR-12の動作に示すように、内部の無線リソース割当状態変化2712を契機として、無線リソース管理装置RRMSに対して無線リソース情報報告メッセージを送信する方法もある」のだから,引用例【0145】?【0149】の記載は,「無線基地局(AR-11?AR-13)が,内部の無線リソース割当状態変化が生じた場合に,無線リソース情報報告メッセージを,無線基地局から無線リソース管理装置が受信する」ことも開示している。
このことは,無線リソース管理装置から無線基地局に,無線リソース情報要求メッセージを伝送することを必要とすることなく,「内部の無線リソース割当状態変化が生じた無線基地局から,無線リソース管理装置が,無線リソース情報を受信する」ことのできることを意味する。
つまり,「サービング基地局と隣接基地局を含む無線基地局から無線リソース管理装置によって,サービング基地局及び隣接基地局にその無線リソース情報を要求せずに,サービング基地局と隣接基地局の少なくとも一方において無線リソース情報が変化した場合に,その無線リソース情報を含む無線リソース情報報告メッセージを受信する」ことを意味する。

(V) 引用例【0151】,【0152】及び【図42】の記載によれば,無線リソース管理装置が移動端末装置に対して定期的に通知する「周辺無線基地局情報広告メッセージ」は,「移動端末装置の周辺に存在する無線基地局の識別子と,各無線基地局の無線基地局情報であって,無線リソース情報報告メッセージの無線リソース情報と同様である無線基地局情報」を含むものである。
さらに,前記「無線リソース情報報告メッセージ」は,引用例【0066】及び【図9】の記載によれば,「無線リソース情報」を含むものである。
つまり,前記「周辺無線基地局情報広告メッセージ」は,各無線基地局の「無線基地局識別子」及び「当該無線基地局の無線リソース情報」を含むものである。
そして,引用例【0162】及び【図31】の記載によれば,無線リソース管理装置が,移動端末装置に対する「周辺無線基地局情報広告メッセージ」の伝送を,移動元無線基地局が中継することもできるのである。
このことは,「隣接基地局情報を含む周辺無線基地局情報広告メッセージを,定期的な間隔で無線リソース管理装置からサービング基地局に伝送し,該サービング基地局から移動端末装置に通知する」ことと,さらに,「無線リソース割当状態変化が生じた際には,変化した隣接基地局情報を含む周辺無線基地局情報広告メッセージを,無線リソース管理装置からサービング基地局に伝送し,サービング基地局から移動端末装置に通知する」こととを意味する。
そして,前記移動端末装置が,移動元無線基地局の対応するセル内に存在することは,当然である。
つまり,「無線リソース管理装置からサービング基地局に,隣接基地局情報を含む周辺基地局情報広告メッセージを伝送し,前記サービング基地局から,前記セービング基地局の対応するセル内に存在する移動端末装置に通知する」ことと,さらに,「無線リソース管理装置からサービング基地局に,変化した隣接基地局情報をを含む周辺基地局情報広告メッセージを伝送し,前記サービング基地局から,前記サービング基地局の対応するセル内に存在する移動端末装置に通知する」こととを意味する。

これらのことから,引用例には,次の発明(以下「引用発明」という。)が開示されているといえる。

無線リソース管理装置から隣接基地局に,隣接基地局情報を要請するための無線リソース情報要求メッセージを伝送することと,
前記隣接基地局から前記無線リソース管理装置によって,前記隣接基地局情報を含む無線リソース情報報告メッセージを受信することと,
無線リソース管理装置からサービング基地局に,前記隣接基地局情報を含む周辺無線基地局情報広告メッセージを伝送することと,
サービング基地局から,前記サービング基地局の対応するセル内に存在する移動端末装置に,前記隣接基地局情報を含む周辺無線基地局情報広告メッセージを定期的な間隔で伝送することと,
前記隣接基地局から前記無線リソース管理装置によって,前記隣接基地局情報を要請せずに,前記隣接基地局情報が変化した場合に,変化した隣接基地局情報を含む無線リソース情報報告メッセージを受信することと,
無線リソース管理装置から前記サービング基地局に,変化した隣接基地局情報を含む周辺無線基地局情報広告メッセージを伝送することと,
前記サービング基地局から,前記サービング基地局の対応するセル内に存在する移動端末装置に,定期的な間隔に続いて周辺無線基地局情報広告メッセージを通知することであって,当該周辺無線基地局情報広告メッセージは,前記変化した隣接基地局情報を含む,ことと
を含む,移動通信ステムにおいて隣接基地局情報を通信する方法。

(2)周知例
本件出願の優先日前に頒布されたIEEE802.16-2001[IEEE Standard for Local and metropolitan area networks Part 16: Air Interface for Fixed Broadband Wireless Access Systems, IEEE Computer Society and the IEEE Microwave Theory and Techniques Society, Sponsored by the LAN/MAN Standards Committee (Approved 6 December 2001, IEEE-SA Standards Board) 2002年4月8日(8 April 2002) (Print: ISBN 0-7381-3070-2 SH94964,PDF: ISBN 0-7381-3071-0 SS94964), 44ページ?51ページ](以下「周知例」という。)には,次の記載がある。

ア 「6.2.2.3.1 Downlink Channel Descriptor (DCD) message

A DCD shall be transmitted by the BS at a periodic interval (Table 118) to define the characteristics of a downlink physical channel.」
(45ページ)
(当審訳: 6.2.2.3.1 ダウンリンクチャネル記述子(DCD)メッセージ
DCDは,ダウンリンク物理チャネルの特性を定義するために定期的な間隔(表118)で,無線基地局(BS)により送信されなければならない。)

イ 「Configuration Change Count
Incremented by one (modulo 256) by the BS whenever any of the values of this channel descriptor change. If the value of this count in a subsequent DCD remains the same, the SS can quickly decide that the remaining fields have not changed and may be able to disregard the remainder of the message.

Downlink Channel ID
The identifier of the downlink channel to which this Message refers. This identifier is arbitrarily chosen by the BS and is unique only within the MAC-Sublayer domain.
(45ページ?46ページ)
(当審訳: 構成変化カウント
このチャネル記述子の値のいずれかが変化するときは,いつでも,無線基地局(BS)により,(256を法として)1ずつ増加される。後続のDCDで,このカウントの値が同じままであれば,加入者局(当審注:SSが,subscriber stationであることは自明である。)は,残りのフィールドが変更されていないことと,メッセージの残りの部分を無視することができることとを,すぐに決定することができる。

ダウンリンクチャネル識別子(ID)
このメッセージが参照させるダウンリンクチャネルの識別子である。この識別子は,任意に無線基地局(BS)によって選択され,MACサブレイヤドメイン内で,一意のものである。)

ウ 「6.2.2.3.3 Uplink Channel Descriptor message

An Uplink Channel Descriptor (UCD) shall be transmitted by the BS at a periodic interval (Table 118) to define the characteristics of an uplink physical channel. A separate UCD Message shall be transmitted for each active uplink channel associated with the downlink channel.」
(47ページ)
(当審訳: 6.2.2.3.3 アップリンクチャネル記述子メッセージ
アップリンクチャネル記述子(DCD)は,アップリンク物理チャネルの特性を定義するために定期的な間隔(表118)で,無線基地局(BS)により送信されなければならない。個別UCDメッセージは,ダウンリンクチャネルに関連付けられたアクティブなアップリンクチャネルごとに送信されなければならない。)

エ 「Configuration Change Count
Incremented by one (modulo 256) by the BS whenever any of the values of this channel descriptor change. If the value of this count in a subsequent UCD remains the same, the SS can quickly decide that the remaining fields have not changed and may be able to disregard the remainder of the message. This value is also referenced from the UL-MAP messages.

Uplink Channel ID
The identifier of the uplink channel to which this Message refers. This identifier is arbitrarily chosen by the BS and is only unique within the MAC-Sublayer domain.」
(47ページ)
(当審訳: 構成変化カウント
このチャネル記述子の値のいずれかが変化するときは,いつでも,無線基地局(BS)により,(256を法として)1ずつ増加される。後続のUCDで,このカウントの値が同じままであれば,加入者局(SS)は,残りのフィールドが変更されていないことと,メッセージの残りの部分を無視することができることとを,すぐに決定することができる。この値は,UL-MAPメッセージから参照される。

アップリンクチャネル識別子(ID)
このメッセージが参照させるアップリンクチャネルの識別子である。この識別子は,任意に無線基地局(BS)によって選択され,MACサブレイヤドメイン内で,一意のものである。)

以上の記載によれば,周知例には,次の技術が開示されているといえる。

・無線基地局によって,「ダウンリンク物理チャネルの特性を定義するダウンリンクチャネル識別子(ID)と,構成変化カウント」を含むダウンリンクチャネル記述子(DCD)を伝送する技術(以下「周知技術1」という。)。

・無線基地局よって,「アップリンク物理チャネルの特性を定義するアップリンクチャネル識別子(ID)と,構成変化カウント」を含むアップリンクチャネル記述子(UCD)を伝送する技術(以下「周知技術2」という。)。

3.補正却下の決定に関する当審の判断
(1)対比
本願補正発明と引用発明を比較すると,次のことがいえる。

ア 引用発明における「無線リソース管理装置」,「移動端末装置」,「無線リソース情報要求メッセージ」,「無線リソース情報報告メッセージ」,「定期的な間隔」は,それぞれ,本願補正発明における「管理エンティティ」,「移動局加入者局」,「要請メッセージ」,「応答メッセージ」,「第1の周期的間隔」に相当する。
そして,引用発明における「周辺無線基地局情報広告メッセージ」は,隣接基地局情報を含み,管理エンティティからサービング基地局に伝送されるから,本願補正発明における「第1のメッセージ」と一致する。
また,該「周辺無線基地局情報広告メッセージ」は,隣接基地局情報を含み,サービング基地局から,前記サービング基地局の対応するセル内に存在する移動局加入者局に,定期的な間隔で伝送される点において,本願補正発明における「第1の隣接公示メッセージ」と共通する

イ 引用発明における「周辺無線基地局情報広告メッセージを定期的な間隔でする「伝送」」と,本願補正発明における「第1の隣接公示メッセージを第1の周期的間隔でする「放送」」とはともに,情報を「通信」する点において共通する。
また,引用発明における「定期的な間隔に続いて周辺無線基地局情報広告メッセージを通知すること」と,本願補正発明における「第1の周期的間隔に続いて第2の隣接公示メッセージを放送すること」とはともに,メッセージを「通信」する点において共通する。
そして,引用発明において,無線リソース割当状態変化に基づく,無線リソース情報報告メッセージは,無線リソース管理装置の無線リソース情報を更新する情報であるから,この時,無線リソース情報報告メッセージは,更新された無線リソース情報,つまり,「更新された隣接基地局情報」を含むものであるといえる。

以上から,本願補正発明と引用発明は,次の点で一致し,相違するといえる。

[一致点]
移動通信システムにおいて隣接基地局情報を通信する方法であって、
前記方法は、
管理エンティティから隣接基地局に、前記隣接基地局情報を要請するための要請メッセージを伝送することと、
前記隣接基地局から前記管理エンティティによって、前記隣接基地局情報を含む応答メッセージを受信すること、ことと、
管理エンティティからサービング基地局に、前記隣接基地局情報を含む第1のメッセージを伝送することと、
サービング基地局から、前記サービング基地局の対応するセル内に存在するすべての移動局加入者局に、前記隣接基地局情報を含む第1の隣接公示メッセージを第1の周期的間隔で通信することと、
前記隣接基地局から前記管理エンティティによって、前記隣接基地局情報を要請せずに、前記隣接基地局情報が変更した場合に、更新された隣接基地局情報を含む応答メッセージを受信すること、ことと、
管理エンティティから前記サービング基地局に、更新された隣接基地局情報を含む第2のメッセージを伝送することと、
前記サービング基地局から、前記サービング基地局の対応するセル内に存在する移動局加入者局に、前記第1の周期的間隔に続いて第2の隣接公示メッセージを通信することであって、前記第2の隣接公示メッセージは、前記更新された隣接基地局情報を含む、ことと
を含む、方法。

[相違点1]
本願補正発明における「第1の隣接公示メッセージ」及び「第2の隣接公示メッセージ」はともに,サービング基地局の対応するセル内の移動局加入者局のすべてに放送されるのに対して,引用発明においては,そのような特定がない点。

[相違点2]
本願補正発明における「隣接基地局情報」及び「更新された隣接基地局」は,ともに,「隣接基地局を接続するための物理チャンネル情報と,アップリンクチャンネル記述子(UCD)のためのパラメーターと,ダウンリンクチャンネル記述子(DCD)のためのパラメーターとを含む」ものであるのに対して,引用発明においては,そのような特定がない点。

[相違点3]
本願補正発明における「更新された隣接基地局情報を含む応答メッセージ」は,「隣接基地局情報の各変化に対して増加する構成変化カウントを含む」ものであるのに対して,引用発明においては,そのような特定がない点。

(2)検討
・相違点1について
引用発明は,高速なハンドオーバを行うために,移動端末装置に移動先無線基地局の情報を提供しようとするものである。
そして,移動元無線基地局の対応するセル内に存在する移動端末装置が,いずれは,他の無線基地局,つまり,移動先無線基地局の対応するセルに移動することとなり,このようなセル間の移動の際に,ハンドオーバを行うこととなる。
このことは,移動元無線基地局の対応するセルに存在する移動端末装置のすべてが,いずれはハンドオーバを行うことを意味する。そして,高速にハンドオーバを行うためにには,常に,移動先無線基地局の最新の情報を,すべての移動端末装置が,保持することが,有効であることは明らかである。
つまり,移動元無線基地局の対応するセル内の移動端末装置のすべてに,周辺無線基地局情報広告メッセージを通知しようとすることは,当業者が容易に想到し得たことを意味する。
ここで,無線基地局が複数の移動端末装置に情報を伝送するには,移動端末装置を特定して伝送する「マルチキャスト」と呼ばれる方式と,移動端末装置を特定することなく伝送する「ブロードキャスト(放送)」と呼ばれる方式があることは,引用例を提示するまでもなく周知である。
このことは,引用発明において,周辺無線基地局情報広告メッセージを移動元無線基地局内に存在する移動端末装置のすべてに提供する際に,その移動端末装置のすべてを明示的に特定する必要があるときは,サービング基地局から,すべての移動端末装置に,マルチキャストするようにすることを,他方,その移動端末装置のすべてを明示的に特定する必要がないときは,サービング基地局から,すべての移動端末装置に,ブロードキャスト,つまり,放送するようにすることを意味する。
そして,すべての移動端末装置に,マルチキャストするか,又は,放送するかは,サービング基地局の対応するセル内の通信事情等を考慮して,当業者が適宜決めうる設計的事項であるというべきである。
つまり,引用発明において,相違点1のように「第1の隣接公示メッセージ」及び「第2の隣接公示メッセージ」をともに,サービング基地局の対応するセル内の移動局加入者局のすべてに放送するようにすることは,当業者が容易になしえたものである。

・相違点2,3について
引用発明は,Mobile IP(MIP)において,ハンドオーバを行う発明であり,Mobile IPが,IEEE802.16の規格に準拠したものであることは,技術常識である。
このことは,周知技術1及び2を引用発明に適用することは,当業者が容易に想起しうることを意味する。
そして,ダウンリンクチャネル及びアップリンクチャネルが,移動端末装置を無線基地局に接続するためのチャネルであることは,技術常識である。
以上から,引用発明に対して,IEEE802.16に係る周知技術1及び2を適用し,本願補正発明のように,「隣接基地局情報」及び「更新された隣接基地局情報」が,「隣接基地局を接続するための物理チャンネル情報と、アップリンクチャンネル記述子(UCD)のためのパラメーターと、ダウンリンクチャンネル記述子(DCD)のためのパラメーターとを含む」ようにすることは,当業者が容易に想到しえたといものであるといえる。
また,構成変化カウントを,情報に変更があるか否かを決定するために利用するようにすることは,周知例等の記載から,当業者が容易に想到しえたものである。
よって,「更新された隣接基地局情報」が,さらに「隣接基地局情報の各変化に対して増加する構成変化カウント」を含むようにすることは,引用発明に周知技術1及び2と適用することにより,当業者が容易になしえたものである。
つまり,引用発明及び周知技術1及び2に基づいて,相違点2,3のように構成することは,当業者が容易になしえたものである。

以上のとおりであるから,本願補正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に考えることができたものである。
そして,本願補正発明のように構成したことによる効果も,引用発明及び周知技術から,予測できる程度のものである。
したがって,本願補正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.まとめ
以上から,本願補正発明は,特許法第29条第2項に規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明

1.本願発明
上記のとおり,本件補正(平成24年2月10日付け手続補正)は却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成23年9月12日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される。次のとおりのものである。

【請求項1】
移動通信システムにおいて隣接基地局情報を通信する方法であって、
前記方法は、
管理エンティティから隣接基地局に、前記隣接基地局情報を要請するための要請メッセージを伝送することと、
前記隣接基地局から前記管理エンティティによって、前記隣接基地局情報を含む応答メッセージを受信することであって、前記隣接基地局情報は、前記隣接基地局を接続するための物理チャンネル情報と、アップリンクチャンネル記述子(UCD)のためのパラメーターと、ダウンリンクチャンネル記述子(DCD)のためのパラメーターとを含む、ことと、
管理エンティティからサービング基地局に、前記隣接基地局情報を含む第1のメッセージを伝送することと、
サービング基地局から、前記サービング基地局の対応するセル内に存在するすべての移動局加入者局に、前記隣接基地局情報を含む第1の隣接公示メッセージを第1の周期的間隔で放送することと、
前記隣接基地局から前記管理エンティティによって、前記隣接基地局情報を要請せずに、前記隣接基地局情報が変更した場合に、更新された隣接基地局情報を含む応答メッセージを受信することであって、前記更新された隣接基地局情報は、前記隣接基地局を接続するための物理チャンネル情報と、アップリンクチャンネル記述子(UCD)のためのパラメーターと、ダウンリンクチャンネル記述子(DCD)のためのパラメーターとを含む、
ことと、
管理エンティティから前記サービング基地局に、更新された隣接基地局情報を含む第2のメッセージを伝送することと、
前記サービング基地局から、前記サービング基地局の対応するセル内に存在するすべての移動局加入者局に、前記第1の周期的間隔に続いて第2の隣接公示メッセージを放送することであって、前記第2の隣接公示メッセージは、前記更新された隣接基地局情報を含む、ことと
を含む、方法。


第4 当審の判断

1.引用例等
引用例及び周知例の記載事項,引用発明は,上記「第2 2.「(1)引用例」及び「(2)周知例」」に記載のとおりである。

2.対比及び判断
本願発明は,本願補正発明に付された限定を省いたものである。
してみると,本願発明の特定事項をすべて含むものに相当する本願補正発明が,上記「第2 3.補正却下の決定に関する判断」において述べたとおり,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたのであるから,本願発明も,同様に,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
また,本願発明のように構成したことによる効果も,引用発明及び周知技術から,当業者が予測できる程度のものである。

したがって,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第5 むすび

以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって,他の請求項について論及するまでもなく,本願は,拒絶すべきものである。

したがって,結論のとおり,審決する。
 
審理終結日 2013-05-02 
結審通知日 2013-05-07 
審決日 2013-05-20 
出願番号 特願2009-5158(P2009-5158)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04W)
P 1 8・ 121- Z (H04Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 深津 始  
特許庁審判長 近藤 聡
特許庁審判官 吉村 博之
佐藤 聡史
発明の名称 隣接基地局情報と通信する方法  
代理人 山本 秀策  
代理人 安村 高明  
代理人 森下 夏樹  

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