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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1280378 |
審判番号 | 不服2012-15722 |
総通号数 | 168 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-12-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-08-10 |
確定日 | 2013-10-09 |
事件の表示 | 特願2006-542809「絶縁体構造を強化した電界効果トランジスタ」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月23日国際公開,WO2005/057623,平成19年12月20日国内公表,特表2007-537580〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,2004年12月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年12月5日,2004年12月3日,アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって,平成21年9月4日付けで拒絶理由が通知され,平成22年2月8日に手続補正がされ,平成23年1月27日付けで最後の拒絶理由が通知され,平成24年4月6日付けで拒絶査定がされ,これに対して,同年8月10日に審判請求がされるとともに手続補正がされ,その後,同年10月18日付けで審尋がされ,平成25年2月21日に回答書が提出されたものである。 第2 補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成24年8月10日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正の内容 本件補正は,特許請求の範囲を補正するものであり,特許請求の範囲は補正の前後で以下のとおりである。 〈補正前〉 「【請求項1】 III族窒化物素子であって, 第1の組成を有する第1のIII族窒化物材料からなる第1の層と, 前記第1の組成とは異なる第2の組成を有する第2のIII族窒化物材料からなり,前記第1の層と接触して配置された第2の層と, 前記第1の層と前記第2の層とによって形成され,電流を伝えるための二次元電子ガスを供給する界面と,を備え, 前記第1の層および前記第2の層は,前記第2の層の界面の面内における格子定数が,前記第1の層の界面の面内における格子定数以上になるように形成される,素子。 【請求項2】?【請求項6】 (略) 【請求項7】 III族窒化物素子であって, 第1の組成と第1のバンドギャップとを有する第1のIII族窒化物材料からなる第1の層と, 前記第1の組成とは異なる第2の組成と,前記第1のバンドギャップよりも大きな第2のバンドギャップとを有する第2のIII族窒化物材料からなり,前記第1の層と接触して配置された第2の層と, 前記第1の層と前記第2の層とによって形成され,電流を伝えるための二次元電子ガスを供給する界面と,を備え, 前記第1の層および前記第2の層は,前記第2の層の界面の面内における格子定数が,前記第1の層の界面の面内における格子定数以上になるように形成される,素子。 【請求項8】 電界効果トランジスタであって, ソース電極と,ゲート電極と,ドレイン電極とを備え, 前記ソース電極と前記ドレイン電極との間のチャネルは,前記ゲート電極によって制御され, 前記チャネルは,異なる組成を有する2つのIII族窒化物材料の界面で得られた二次元電子ガスによって形成され, 前記III族窒化物材料の一方は,格子定数Aを有し,前記III族窒化物材料の他方は,格子定数Bを有し, 前記III族窒化物材料は,定数Bが定数A以上になるような定数Aと定数Bとの関係を実現するように形成される,トランジスタ。 【請求項9】 請求項8に記載のトランジスタであって,格子定数Bを有する前記III族窒化物材料は,前記ソースまたはドレイン電極の下と前記ゲート電極の下とで異なる厚さを有する,トランジスタ。 【請求項10】 請求項9に記載のトランジスタであって,格子定数Bを有する前記III族窒化物材料は,良好なオーム接触を形成する,トランジスタ。 【請求項11】 請求項8に記載のトランジスタであって,前記III族窒化物材料の一方はGaNであり,前記III族窒化物材料の他方はInAlGaNである,トランジスタ。 【請求項12】 請求項8に記載のトランジスタであって,定数Aと定数Bとの前記関係が,前記界面の近くの自発分極電界と圧電分極電界との均衡を保つ傾向を持つことで,前記界面の電荷蓄積がゼロとなる,トランジスタ。 【請求項13】 請求項8に記載のトランジスタであって,定数Aと定数Bとの前記関係は,自発分極電界と圧電分極電界との生成を制御するために提供される,トランジスタ。 【請求項14】 請求項8に記載のトランジスタであって,前記III族窒化物材料は,バンドギャップ値をそれぞれ有しており,前記III族窒化物材料の一方は,前記III族窒化物材料の他方よりも大きいバンドギャップ値を有する,トランジスタ。 【請求項15】 請求項14に記載のトランジスタであって,他方の前記III族窒化物材料よりも大きいバンドギャップ値を有する前記III族窒化物材料は,InAlGaNである,トランジスタ。 【請求項16】 III族窒化物素子を形成するための方法であって, 面内格子定数Aを有する第1のIII族窒化物材料の層を準備する工程と, 面内格子定数Bを有する第2のIII族窒化物材料の層を,前記第1のIII族窒化物材料に重ねる工程と, 定数Bが定数A以上になるような定数Aと定数Bとの関係を実現するように,前記第1のIII族窒化物材料または前記第2のIII族窒化物材料の組成を調節する工程と,を備える,方法。 【請求項17】 請求項16に記載の方法であって,さらに,前記第1のIII族窒化物材料と前記第2のIII族窒化物材料のうちの一方としてGaNを準備する工程を備える,方法。 【請求項18】 請求項17に記載の方法であって,さらに,前記第1のIII族窒化物材料と前記第2のIII族窒化物材料のうちの他方としてInAlGaNを準備する工程を備える,方法。 【請求項19】 請求項16に記載の方法であって,さらに,前記III族窒化物材料の他方よりも大きい前記III族窒化物材料の一方のバンドギャップ値を得る工程を備える,方法。 【請求項20】 III族窒化物ベースの電界効果トランジスタを製造するための方法であって, 2つのIII族窒化物材料の界面における圧電分極電界と自発分極電界との均衡を保つ工程と, 前記III族窒化物材料の一方の面内格子定数を前記III族窒化物材料の他方の面内格子定数以上にする工程と, 電界を提供して,前記界面における二次元電子ガスの形成を許容または防止する工程と,を備える,方法。 【請求項21】 III族窒化物素子であって, 第1の組成を有する第1のIII族窒化物材料からなる第1の層と, 前記第1の組成とは異なる第2の組成を有する第2のIII族窒化物材料からなり,前記第1の層と接触して配置された第2の層と,を備え, それにより,前記第1の層と前記第2の層との間の界面が,自発分極と圧電分極とが,互いにほぼ打ち消すよう構成されることで,前記界面における正味電荷がほぼゼロになる,素子。 【請求項22】 請求項21に記載の素子であって,前記第1のIII族窒化物材料と前記第2のIII族窒化物材料との一方のバンドギャップは,他方のバンドギャップよりも大きい,素子。」 〈補正後〉 「【請求項1】 III族窒化物素子であって, 第1の組成を有する第1のIII族窒化物材料からなる第1の層と, 前記第1の組成とは異なる第2の組成を有する第2のIII族窒化物材料からなり,前記第1の層と接触して配置された第2の層と, 前記第1の層と前記第2の層とによって形成され,電流を伝えるための二次元電子ガスを供給する界面と,を備え, 前記第1の層および前記第2の層は,前記第2の層の界面の面内における格子定数が,前記第1の層の界面の面内における格子定数以上になるように形成され, 前記第2の層は,ゲート電極の下になるべき部分の厚さと,ソース電極の下になるべき部分の厚さとが異なるものである 素子。 【請求項2】?【請求項6】 (略) 【請求項7】 III族窒化物素子であって, 第1の組成と第1のバンドギャップとを有する第1のIII族窒化物材料からなる第1の層と, 前記第1の組成とは異なる第2の組成と,前記第1のバンドギャップよりも大きな第2のバンドギャップとを有する第2のIII族窒化物材料からなり,前記第1の層と接触して配置された第2の層と, 前記第1の層と前記第2の層とによって形成され,電流を伝えるための二次元電子ガスを供給する界面と,を備え, 前記第1の層および前記第2の層は,前記第2の層の界面の面内における格子定数が,前記第1の層の界面の面内における格子定数以上になるように形成され, 前記第2の層は,ゲート電極の下になるべき部分の厚さと,ソース電極の下になるべき部分の厚さとが異なるものである 素子。 【請求項8】 電界効果トランジスタであって, ソース電極と,ゲート電極と,ドレイン電極とを備え, 前記ソース電極と前記ドレイン電極との間のチャネルは,前記ゲート電極によって制御され, 前記チャネルは,異なる組成を有する2つのIII族窒化物材料の界面で得られた二次元電子ガスによって形成され, 前記III族窒化物材料の一方は,格子定数Aを有し,前記III族窒化物材料の他方は,格子定数Bを有し, 前記III族窒化物材料は,定数Bが定数A以上になるような定数Aと定数Bとの関係を実現するように形成され, 格子定数Bを有する前記III族窒化物材料は,前記ソースまたはドレイン電極の下と前記ゲート電極の下とで異なる厚さを有する トランジスタ。 【請求項9】 請求項8に記載のトランジスタであって,格子定数Bを有する前記III族窒化物材料は,良好なオーム接触を形成する,トランジスタ。 【請求項10】 請求項8に記載のトランジスタであって,前記III族窒化物材料の一方はGaNであり,前記III族窒化物材料の他方はInAlGaNである,トランジスタ。 【請求項11】 請求項8に記載のトランジスタであって,定数Aと定数Bとの前記関係が,前記界面の近くの自発分極電界と圧電分極電界との均衡を保つ傾向を持つことで,前記界面の電荷蓄積がゼロとなる,トランジスタ。 【請求項12】 請求項8に記載のトランジスタであって,定数Aと定数Bとの前記関係は,自発分極電界と圧電分極電界との生成を制御するために提供される,トランジスタ。 【請求項13】 請求項8に記載のトランジスタであって,前記III族窒化物材料は,バンドギャップ値をそれぞれ有しており,前記III族窒化物材料の一方は,前記III族窒化物材料の他方よりも大きいバンドギャップ値を有する,トランジスタ。 【請求項14】 請求項13に記載のトランジスタであって,他方の前記III族窒化物材料よりも大きいバンドギャップ値を有する前記III族窒化物材料は,InAlGaNである,トランジスタ。 【請求項15】 III族窒化物素子を形成するための方法であって, 面内格子定数Aを有する第1のIII族窒化物材料の層を準備する工程と, 面内格子定数Bを有する第2のIII族窒化物材料の層であって,ゲート電極の下になるべき部分の厚さと,ソース電極の下になるべき部分の厚さとが異なる第2のIII族窒化物材料の層を前記第1のIII族窒化物材料に重ねる工程と, 定数Bが定数A以上になるような定数Aと定数Bとの関係を実現するように,前記第1のIII族窒化物材料または前記第2のIII族窒化物材料の組成を調節する工程と,を備える,方法。 【請求項16】 請求項15に記載の方法であって,さらに,前記第1のIII族窒化物材料と前記第2のIII族窒化物材料のうちの一方としてGaNを準備する工程を備える,方法。 【請求項17】 請求項16に記載の方法であって,さらに,前記第1のIII族窒化物材料と前記第2のIII族窒化物材料のうちの他方としてInAlGaNを準備する工程を備える,方法。 【請求項18】 請求項15に記載の方法であって,さらに,前記III族窒化物材料の他方よりも大きい前記III族窒化物材料の一方のバンドギャップ値を得る工程を備える,方法。 【請求項19】 III族窒化物ベースの電界効果トランジスタを製造するための方法であって, 2つのIII族窒化物材料の界面における圧電分極電界と自発分極電界との均衡を保つ工程と, 前記III族窒化物材料の一方の面内格子定数を前記III族窒化物材料の他方の面内格子定数以上にする工程と, 電界を提供して,前記界面における二次元電子ガスの形成を許容または防止する工程と,を備え, 前記一方のIII族窒化物材料は,ゲート電極の下になるべき部分の厚さと,ソース電極の下になるべき部分の厚さとが異なるものである 方法。 【請求項20】 III族窒化物素子であって, 第1の組成を有する第1のIII族窒化物材料からなる第1の層と, 前記第1の組成とは異なる第2の組成を有する第2のIII族窒化物材料からなり,前記第1の層と接触して配置された第2の層と,を備え, それにより,前記第1の層と前記第2の層との間の界面が,自発分極と圧電分極とが,互いにほぼ打ち消すよう構成されることで,前記界面における正味電荷がほぼゼロになり, 前記第2の層は,ゲート電極の下になるべき部分の厚さと,ソース電極の下になるべき部分の厚さとが異なるものである 素子。 【請求項21】 請求項20に記載の素子であって,前記第1のIII族窒化物材料と前記第2のIII族窒化物材料との一方のバンドギャップは,他方のバンドギャップよりも大きい,素子。」 2 補正事項の整理 本件補正を整理すると以下のとおりとなる。 〈補正事項1〉 補正前の請求項1の「前記第1の層および前記第2の層は,前記第2の層の界面の面内における格子定数が,前記第1の層の界面の面内における格子定数以上になるように形成される,」を,補正後の請求項1の「前記第1の層および前記第2の層は,前記第2の層の界面の面内における格子定数が,前記第1の層の界面の面内における格子定数以上になるように形成され, 前記第2の層は,ゲート電極の下になるべき部分の厚さと,ソース電極の下になるべき部分の厚さとが異なるものである」と補正すること。 〈補正事項2〉 補正前の請求項7の「前記第1の層および前記第2の層は,前記第2の層の界面の面内における格子定数が,前記第1の層の界面の面内における格子定数以上になるように形成される,」を,補正後の請求項7の「前記第1の層および前記第2の層は,前記第2の層の界面の面内における格子定数が,前記第1の層の界面の面内における格子定数以上になるように形成され, 前記第2の層は,ゲート電極の下になるべき部分の厚さと,ソース電極の下になるべき部分の厚さとが異なるものである」と補正すること。 〈補正事項3〉 補正前の請求項8の「前記III族窒化物材料は,定数Bが定数A以上になるような定数Aと定数Bとの関係を実現するように形成される,」を,補正後の請求項8の「前記III族窒化物材料は,定数Bが定数A以上になるような定数Aと定数Bとの関係を実現するように形成され, 格子定数Bを有する前記III族窒化物材料は,前記ソースまたはドレイン電極の下と前記ゲート電極の下とで異なる厚さを有する」と補正すること。 〈補正事項4〉 補正前の請求項9を削除すること。 〈補正事項5〉 補正前の請求項10?15を補正後の請求項9?14に番号を繰り上げるとともに,補正前の請求項10が補正前の請求項9を引用していたところ,補正後の請求項9では補正後の請求項8を引用するものと補正し,補正前の請求項15が補正前の請求項14を引用していたところ,補正後の請求項14では補正後の請求項13を引用するものと補正すること。 〈補正事項6〉 補正前の請求項16?22を補正後の請求項15?21に番号を繰り上げるとともに,このうち,従属形式で記載された補正前の請求項17,18,19及び22において,引用する請求項番号を1つ繰り上げて,それぞれ補正後の請求項16,17,18及び21とすること。 〈補正事項7〉 補正前の請求項16の「面内格子定数Bを有する第2のIII族窒化物材料の層を,前記第1のIII族窒化物材料に重ねる工程」を,補正後の請求項15の「面内格子定数Bを有する第2のIII族窒化物材料の層であって,ゲート電極の下になるべき部分の厚さと,ソース電極の下になるべき部分の厚さとが異なる第2のIII族窒化物材料の層を前記第1のIII族窒化物材料に重ねる工程」と補正すること。 〈補正事項8〉 補正前の請求項20の「電界を提供して,前記界面における二次元電子ガスの形成を許容または防止する工程と,を備える,」を,補正後の請求項19の「電界を提供して,前記界面における二次元電子ガスの形成を許容または防止する工程と,を備え, 前記一方のIII族窒化物材料は,ゲート電極の下になるべき部分の厚さと,ソース電極の下になるべき部分の厚さとが異なるものである」と補正すること。 〈補正事項9〉 補正前の請求項21の「前記界面における正味電荷がほぼゼロになる,」を,補正後の請求項20の「前記界面における正味電荷がほぼゼロになり, 前記第2の層は,ゲート電極の下になるべき部分の厚さと,ソース電極の下になるべき部分の厚さとが異なるものである」と補正すること。 3 補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無についての検討 〈補正事項1及び2について〉 補正事項1及び2は,補正前の各請求項における発明特定事項である「前記第2の層」について,「ゲート電極の下になるべき部分の厚さと,ソース電極の下になるべき部分の厚さとが異なるものである」として,その厚さについて技術的に限定するものであるから,特許法第17条の2第4項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また,「前記第2の層」が,「ゲート電極の下になるべき部分の厚さと,ソース電極の下になるべき部分の厚さとが異なるものである」ことは,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)の段落【0028】に記載されているから,補正事項1及び2は,特許法第17条の2第3項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項をいう。以下同じ。)に規定する要件を満たすものである。 〈補正事項3について〉 補正事項3は,補正前の請求項8における発明特定事項である「格子定数Bを有する前記III族窒化物材料」について,「前記ソースまたはドレイン電極の下と前記ゲート電極の下とで異なる厚さを有する」として,その厚さについて技術的に限定するものであるから,特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また,「格子定数Bを有する前記III族窒化物材料」が,「前記ソースまたはドレイン電極の下と前記ゲート電極の下とで異なる厚さを有する」ことは,当初明細書等の段落【0028】に記載されているから,補正事項3は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。 〈補正事項4?6について〉 補正事項4?6は,補正前の請求項9を削除するとともに,補正前の請求項10以下の請求項番号を繰上げ,更に,従属形式で記載された各請求項における引用請求項番号を整合させるものであるから,特許法第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものである。 また,補正事項4?6が,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすことは明らかである。 〈補正事項7について〉 補正事項7は,補正前の請求項16における発明特定事項である「第2のIII族窒化物材料の層を前記第1のIII族窒化物材料に重ねる工程」について,「第2のIII族窒化物材料の層であって,ゲート電極の下になるべき部分の厚さと,ソース電極の下になるべき部分の厚さとが異なる第2のIII族窒化物材料の層を前記第1のIII族窒化物材料に重ねる」として,「第2のIII族窒化物材料の層」について技術的に限定するものであるから,特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また,「第2のIII族窒化物材料の層であって,ゲート電極の下になるべき部分の厚さと,ソース電極の下になるべき部分の厚さとが異なる第2のIII族窒化物材料の層を前記第1のIII族窒化物材料に重ねる」ことは,当初明細書等の段落【0028】に記載されているから,補正事項7は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。 〈補正事項8について〉 補正事項8は,補正前の請求項20における発明特定事項である「前記一方のIII族窒化物材料」について,「ゲート電極の下になるべき部分の厚さと,ソース電極の下になるべき部分の厚さとが異なるものである」として,その厚さについて技術的に限定するものであるから,特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また,「前記一方のIII族窒化物材料」について,「ゲート電極の下になるべき部分の厚さと,ソース電極の下になるべき部分の厚さとが異なるものである」ことは,当初明細書等の段落【0028】に記載されているから,補正事項8は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。 〈補正事項9について〉 補正事項9は,補正前の請求項21における発明特定事項である「前記第2の層」について,「ゲート電極の下になるべき部分の厚さと,ソース電極の下になるべき部分の厚さとが異なるものである」として,その厚さについて技術的に限定するものであるから,特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また,前記第2の層」が,「ゲート電極の下になるべき部分の厚さと,ソース電極の下になるべき部分の厚さとが異なるものである」ことは,当初明細書等の段落【0028】に記載されているから,補正事項9は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。 上記のとおり,本件補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むから,以下,本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項に規定する独立特許要件を満たすか)どうかを,補正後の請求項1に係る発明について検討する。 4 独立特許要件についての検討 (1)本願補正発明 本件補正後の請求項1に係る発明は,本件補正により補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載から見て,その請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(再掲。以下「本願補正発明」という。) 「【請求項1】 III族窒化物素子であって, 第1の組成を有する第1のIII族窒化物材料からなる第1の層と, 前記第1の組成とは異なる第2の組成を有する第2のIII族窒化物材料からなり,前記第1の層と接触して配置された第2の層と, 前記第1の層と前記第2の層とによって形成され,電流を伝えるための二次元電子ガスを供給する界面と,を備え, 前記第1の層および前記第2の層は,前記第2の層の界面の面内における格子定数が,前記第1の層の界面の面内における格子定数以上になるように形成され, 前記第2の層は,ゲート電極の下になるべき部分の厚さと,ソース電極の下になるべき部分の厚さとが異なるものである 素子。」 (2)刊行物に記載された発明 引用例: 特開2000-223697号公報 原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2000-223697号公報(以下「引用例」という。)には,図1?6及び9とともに,以下の記載がある。(下線は当審において付加。以下同様。) ア 発明の属する技術分野 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明はヘテロ接合電界効果トランジスタ(Heterojunction Field Effect Transistor; HJFETと略する。)に関し,特に,しきい値電圧の制御性に優れたHJFETに関するものである。」 イ 従来の技術 「【0002】 【従来の技術】図9(a)は,従来技術によるHJFETの素子構造を示す図である。このようなHJFETは,例えば,ミシュラ(U.K.Mishra)らによる文献,アイ・イー・イー・イー・トランザクションズ・オン・マイクロウェーブ・セオリー・アンド・テクニークス(IEEE Trans. Microwave Theory Tech.),第46巻,第756頁,1998年)に報告されている。 【0003】図9(a)においてサファイア(Al_(2)O_(3))基板90に接して,窒化アルミニウム(AlN)と窒化ガリウム(GaN)の積層構造からなるバッファ層91が形成され,さらに,バッファ層91に接して窒化ガリウム(GaN)からなるチャネル層92が形成される。さらに,GaNチャネル層92に接してアンドープAlGaNからなるゲート絶縁層93が形成されている。 そして,チャネル層92中には2次元電子94が形成され,ゲート絶縁層93上に形成されたソース電極97S,ドレイン電極97Dとチャネル層92との間にはオーム性接触が取られている。さらに,ソース電極97Sとドレイン電極97Dの間にはゲート電極99が形成され,ゲート絶縁層93との間にショトキー性接触が取られている。」 ウ 発明が解決しようとする課題 「【0004】 【発明が解決しようとする課題】図9(b)は従来技術によるHJFETのゲート電極99とGaNチャネル層92間における伝導帯エネルギーの概略図である。ゲート絶縁層93を形成するAlGaNの格子定数(a軸)がバッファ層91を形成するGaNより短いため,基板から表面に向かう方向にピエゾ電界が生じ,ゲート電圧が0 Vにおいてもチャネル層92に2次元電子94が生成される。このため,従来技術によるHJFETは,しきい値電圧を制御することが難しく,通常は,ディプレッション型となって,エンハンスメント型FETが作製しにくいという問題があった。 【0005】本発明の目的は,上記問題点を解消し,しきい値電圧の制御性を改善することで,ディプレッション型,エンハンスメント型FETの作り分けが可能なHJFET構造を提供することである。」 エ 発明の実施の形態 「【0007】 【発明の実施の形態】従来技術において,しきい値電圧を制御しにくかったのは,ゲート絶縁層を形成するAlGaNの格子定数(a軸)がバッファ層を形成するGaNより短いために,ピエゾ効果でチャネル層中に2次元電子が生成されてしまうためであった。したがって,しきい値電圧の制御性を改善することで,デプレッション型FET,エンハンスメント型FETの作り分けを可能にするためには,a軸長をGaNの格子定数(a軸)の周囲で変化できる材料によりゲート絶縁層を形成すればよい。これは,4元系半導体であるIn_(x)Al_(y)Ga_(1-x-y)Nにおいて,組成比x,yを適当に設定することによって実現可能である。」 オ 「【0008】本発明では,GaNバッファ層,In_(z)Ga_(1-z)Nチャネル層(0≦z<1)を有するHJFETにおいて,ゲート絶縁層としてIn_(x)Al_(y)Ga_(1-x-y)N(x>0,y>0,x+y≦1)を用いる。 【0009】チャネル層としてIn_(z)Ga_(1-z)N(z≠0)を用いた場合でも,膜厚が薄い場合は歪み層の効果により結晶転移の発生しない良好な結晶が形成される。この時,In_(z)Ga_(1-z)N(z≠0)チャネル層のa軸長はバッファ層GaNのそれと等しくなることが既に知られている。この条件を満たすチャネル層の膜厚は,例えば Z=0.1の場合,300Å以下,好ましくは,30?200Åであり,Z=0.2の場合,100Å以下,好ましくは30?80Åである。 【0010】In_(x)Al_(y)Ga_(1-x-y)Nのa軸長は, a(x,y)=3.548x+3.112y+3.189(1-x-y)Å ・・・(1) と表わされる。In_(x)Al_(y)Ga_(1-x-y)Nのa軸長がバッファ層GaN(a=3.189Å),より小さくなる条件は,a(x,y)<3.189Å,これより, y>4.66x・・・(2) この時は,従来技術の場合と同様に,基板から表面に向かう方向にピエゾ電界が発生するため,ディプレッション型FETを作製し易くなる。 【0011】In_(x)Al_(y)Ga_(1-x-y)Nのa軸長がバッファ層GaNより大きくなる条件は,a(x,y)>3.189Å,これより, y<4.66x・・・(3) この時は,従来技術の場合とは逆に,表面から基板に向かう方向にピエゾ電界が発生する。このため,ゲート電圧が0 Vの時にはチャネル層が空乏化され,エンハンスメント型FETが作製し易くなる。」 カ 「【0012】望ましくは,ゲート絶縁層を形成するIn_(x)Al_(y)Ga_(1-x-y)Nとバッファ層を形成するGaNのa軸長の差は,AlN(a=3.112Å)とGaN(a=3.189Å)とのa軸長差以下にすればよい。こうすれば,結晶転位が発生する臨界膜厚が増加して,しきい値電圧の制御性が向上する。In_(x)Al_(y)Ga_(1-x-y)NとGaNとのa軸長の差がAlNとGaNとのa軸長の差より小さくなる条件は,|a(x,y)-3.189|<3.189-3.112Åとなる。これより,|y-4.66x|<1・・・(4) 【0013】さらに望ましくは,In_(x)Al_(y)Ga_(1-x-y)Nのa軸長がバッファ層GaNと等しくなる場合で,この条件は,a(x,y)=3.189Å,これより,y=4.66xが得られる。この時,結晶転位が発生しないので,ゲート絶縁層の膜厚が自由になり,しきい値電圧の制御性が格段に改善される。より現実的には,混晶比の格子整合条件からのずれとして±5%の誤差を許容するとして,この条件は, |y-4.66x|<0.05・・・(5) 【0014】また,リーク電流が小さい良好なゲート絶縁層として機能するためには,ゲート絶縁層のバンドギャップはチャネル層を形成するIn_(z)Ga_(1-z)Nより大きくする必要がある。In_(x)Al_(y)Ga_(1-x-y)Nのバンドギャップは, Eg(x,y)=1.89x+6.2y+3.39(1-x-y)[eV] ・・・(6) と表わされる。一方,In_(z)Ga_(1-z)Nのバンドギャップは, Eg(z)=1.89z+3.39(1-z)[eV]・・・(7) と表わされるから,In_(x)Al_(y)Ga_(1-x-y)NのバンドギャップがIn_(z)Ga_(1-z)Nより大きくなる条件は,Eg(x,y)>Eg(z),これより,下式を得る。 y>0.533(x?z)・・・(8)」 キ 第二の実施例 「【0021】(第二の実施例)図2(a)は本発明による第二の実施例の構造図である。このHJFET構造では,チャネル層22としてアンドープGaNが,ゲート絶縁層23としてn型In_(0.1)Al_(0.7)Ga_(0.2)Nが用いられている点で,第一の実施例と異なっている。 【0022】このようなHJFETのゲート電極19とチャネル層22間における伝導帯エネルギーの概略図を図2(b)に示す。ゲート絶縁層23(電子供給層)を形成するIn_(0.1)Al_(0.7)Ga_(0.2)Nのa軸長は3.17Åと,バッファ層11を形成するGaN(3.19Å)より小さいため,基板から表面に向かう方向にピエゾ電界が発生する。したがって,ゲート電圧が0 Vの時にはチャネル層22内に二次元電子24が形成されて,ディプレッション型となる。また,In_(0.1)Al_(0.7)Ga_(0.2)Nのバンドギャップは5.21eVと,GaN(3.39eV)より大きいため,良好なゲート絶縁層となる。これらの特徴は,x=0.1,y=0.7,z=0において,式(2),式(4)及び式(8)が成り立つことからも明らかである。 【0023】本実施例では,チャネル層をアンドープGaNで,ゲート絶縁層をn型InAlGaNで形成している。電子が走行するチャネル層内の不純物濃度が低いため,第一の実施例と比べて,電子移動度が向上,高周波特性が改善される。」 ク 第六の実施例 「【0034】(第六の実施例)図6(a)は本発明によるHJFETの第六の構造図である。このHJFETでは,チャネル層62はアンドープGaNにより,ゲート絶縁層63はn型In_(0.05)Al_(0.23)Ga_(0.72)Nを用いている点で第五の実施例と異なっている。 【0035】このようなHJFETのゲート電極59とチャネル層62間における伝導帯エネルギーの概略図を図6(b)に示す。ここで,ゲート絶縁層63を形成するIn_(0.05)Al_(0.23)Ga_(0.72)Nのa軸長は3.19Åと,バッファ層51及びチャネル層62を形成するGaN(3.19Å)と同等であるため,格子歪みの無い良好な結晶が得られる。このため,ゲート絶縁層の膜厚の制限が無くなり,しきい値電圧の制御性が向上する。また,In_(0.05)Al_(0.23)Ga_(0.72)Nのバンドギャップは3.96eVと,チャネル層62を形成するGaN(3.39eV)より大きいため,良好なゲート絶縁層となる。これらの特徴は,x=0.05,y=0.23,z=0において,式(5)及び式(8)が成り立つことからも明らかである。 【0036】本実施例では,チャネル層をアンドープGaNで,ゲート絶縁層をn型InAlGaNで形成している。電子が走行するチャネル層内の不純物濃度が低いため,第五の実施例と比べて,電子移動度が向上,高周波特性が改善される。」 ここで,段落【0003】?【0004】,【0008】及び【0021】の記載とともに図9及び図2を参照すると,図2(a)に記載されたHJFETにおいては,バッファ層,チャネル層及びゲート絶縁層がこの順に積層された構造を有することがわかる。 また,段落【0004】?【0005】,【0009】の記載から,In_(z)Ga_(1-z)Nチャネル層(0≦z<1)の格子定数(a軸)が,バッファ層GaNのそれと等しいことがわかる。 以上を総合し,図2(a)に記載されたものに注目すると,引用例には,以下の発明が記載されているものと認められる。(以下「引用発明」という。) 「バッファ層GaN,In_(z)Ga_(1-z)Nチャネル層(0≦z<1)及びIn_(x)Al_(y)Ga_(1-x-y)Nゲート絶縁層(x>0,y>0,x+y≦1)がこの順に積層された構造を有するHJFETにおいて, In_(z)Ga_(1-z)Nチャネル層(0≦z<1)は,GaNと格子定数(a軸)が等しいものであり, In_(x)Al_(y)Ga_(1-x-y)Nゲート絶縁層(x>0,y>0,x+y≦1)の組成比x,yを適当に設定することによって,その格子定数(a軸)を,In_(z)Ga_(1-z)Nチャネル層(0≦z<1)の格子定数(a軸)の周囲で変化させることで,デプレッション型FET,エンハンスメント型FETの作り分けを可能としたHJFETであって, チャネル層22としてアンドープGaNが,ゲート絶縁層23としてn型In_(0.1)Al_(0.7)Ga_(0.2)Nを用いたものにあっては,ゲート絶縁層23(電子供給層)を形成するIn_(0.1)Al_(0.7)Ga_(0.2)Nのa軸長は3.17Åと,バッファ層11及びチャネル層22を形成するGaN(3.19Å)より小さいため,基板から表面に向かう方向にピエゾ電界が発生し,ゲート電圧が0 Vの時にはチャネル層22内に二次元電子24が形成されて,ディプレッション型となるHJFET。」 (3)対比 本願補正発明と引用発明とを比較する。 ・引用発明においては,「チャネル層22としてアンドープGaNが,ゲート絶縁層23としてn型In_(0.1)Al_(0.7)Ga_(0.2)Nを用いたものにあっては,」「ゲート電圧が0 Vの時にはチャネル層22内に二次元電子24が形成され」るから,当該構成は,本願補正発明の「第1の組成を有する第1のIII族窒化物材料からなる第1の層と, 前記第1の組成とは異なる第2の組成を有する第2のIII族窒化物材料からなり,前記第1の層と接触して配置された第2の層と, 前記第1の層と前記第2の層とによって形成され,電流を伝えるための二次元電子ガスを供給する界面と,を備え」るものに相当する。 ・引用発明の「ゲート絶縁層23(電子供給層)を形成するIn_(0.1)Al_(0.7)Ga_(0.2)Nのa軸長は3.17Åと,バッファ層11及びチャネル層22を形成するGaN(3.19Å)より小さい」ことと,本願補正発明の「前記第1の層および前記第2の層は,前記第2の層の界面の面内における格子定数が,前記第1の層の界面の面内における格子定数以上になるように形成され」ることとは,「前記第1の層および前記第2の層は,前記第2の層の界面の面内における格子定数と,前記第1の層の界面の面内における格子定数とが異なるように形成され」る点で共通する。 ・引用発明に係る「HJFET」は,「バッファ層GaN,In_(z)Ga_(1-z)Nチャネル層(0≦z<1)及びIn_(x)Al_(y)Ga_(1-x-y)Nゲート絶縁層(x>0,y>0,x+y≦1)がこの順に積層された構造を有」し,III族窒化物半導体により構成されているから,本願補正発明の「III族窒化物素子」に相当する。 したがって,引用発明と本願補正発明とは, 「 III族窒化物素子であって, 第1の組成を有する第1のIII族窒化物材料からなる第1の層と, 前記第1の組成とは異なる第2の組成を有する第2のIII族窒化物材料からなり,前記第1の層と接触して配置された第2の層と, 前記第1の層と前記第2の層とによって形成され,電流を伝えるための二次元電子ガスを供給する界面と,を備え, 前記第1の層および前記第2の層は,前記第2の層の界面の面内における格子定数と,前記第1の層の界面の面内における格子定数とが異なるように形成された素子。」 である点で一致する。 一方両者は,以下の各点で相違する。 《相違点1》 本願補正発明においては,「前記第1の層および前記第2の層は,前記第2の層の界面の面内における格子定数が,前記第1の層の界面の面内における格子定数以上になるように形成され」ているのに対して,引用発明においては「ゲート絶縁層23(電子供給層)を形成するIn_(0.1)Al_(0.7)Ga_(0.2)Nのa軸長は3.17Åと,バッファ層11及びチャネル層22を形成するGaN(3.19Å)より小さ」く,「前記第2の層の界面の面内における格子定数が,前記第1の層の界面の面内における格子定数より小さくなるように形成され」ていることに対応する構成となっている点。 《相違点2》 本願補正発明においては,「前記第2の層は,ゲート電極の下になるべき部分の厚さと,ソース電極の下になるべき部分の厚さとが異なるものである」構成を備えるが,引用発明はこのような構成を備えない点。 (4)判断 上記各相違点について検討する。 《相違点1について》 引用発明は,「バッファ層GaN,In_(z)Ga_(1-z)Nチャネル層(0≦z<1)及びIn_(x)Al_(y)Ga_(1-x-y)Nゲート絶縁層(x>0,y>0,x+y≦1)がこの順に積層された構造を有するHJFETにおいて, In_(z)Ga_(1-z)Nチャネル層(0≦z<1)は,GaNと格子定数(a軸)が等しいものであり, In_(x)Al_(y)Ga_(1-x-y)Nゲート絶縁層(x>0,y>0,x+y≦1)の組成比x,yを適当に設定することによって,その格子定数(a軸)を,In_(z)Ga_(1-z)Nチャネル層(0≦z<1)の格子定数(a軸)の周囲で変化させることで,デプレッション型FET,エンハンスメント型FETの作り分けを可能としたHJFETであ」る構成を備えるところ,当該引用発明を認定する上で注目した,引用例の図2(a)に記載されたものは,「ゲート電圧が0 Vの時にはチャネル層22内に二次元電子24が形成されて,ディプレッション型となるHJFET」となるように,「ゲート絶縁層23(電子供給層)を形成するIn_(0.1)Al_(0.7)Ga_(0.2)Nのa軸長は3.17Åと,バッファ層11及びチャネル層22を形成するGaN(3.19Å)より小さ」くされたものである。 それゆえ,引用発明においてエンハンスメント型FETとすべく,しきい値電圧を制御するために,引用例の図2(a)に記載されたものとは異なり,ゲート絶縁層23(電子供給層)を形成するInAlGaNの格子定数(a軸)を,バッファ層11及びチャネル層22を形成するGaNの格子定数(a軸)より大きくすることも,当業者であれば直ちに察知し得たことである。それゆえ,引用発明において,ゲート絶縁層23(電子供給層)を形成するInAlGaNの格子定数(a軸)を,バッファ層11及びチャネル層22を形成するGaNの格子定数(a軸)より大きくして,相違点1に係る「前記第1の層および前記第2の層は,前記第2の層の界面の面内における格子定数が,前記第1の層の界面の面内における格子定数以上になるように形成され」ることに対応する構成を備えることは,当業者が適宜になし得たことである。 よって,相違点1は当業者が適宜になし得た範囲に含まれる程度のものである。 《相違点2について》 窒化ガリウム系の半導体材料によって形成され,ヘテロ構造を備え二次元電子ガスが形成される界面を有するトランジスタにおいて,当該二次元電子ガスが形成される界面上に形成される半導体層について,その厚さを,ゲート電極の下になる部分と,ソース電極の下になる部分とで異なるようにすることにより,FETの動作を安定化させたり,オン抵抗あるいはコンタクト抵抗を小さくすることは,以下の周知例1?3にも記載されているように,従来より周知の技術である。 そして,FETの動作を安定化させたり,オン抵抗あるいはコンタクト抵抗を小さくすることは,FETにおける不断の技術課題というべきものであるから,引用発明において,上記周知の技術を適用することにより,相違点2に係る「前記第2の層は,ゲート電極の下になるべき部分の厚さと,ソース電極の下になるべき部分の厚さとが異なるものである」構成を備えることは,当業者が適宜になし得たことである。 よって,相違点2は当業者が適宜になし得た範囲に含まれる程度のものである。 周知例1: 特開2002-289837号公報 平成21年9月4日付けの拒絶理由通知で引用され,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2002-289837号公報(以下「周知例1」という。)には,図3とともに,以下の記載がある。 ・「【0055】図3は,第2の実施形態に係る半導体装置,具体的には電界効果型トランジスタ(FET)の断面図である。 【0056】図3に示すように,サファイア又はSiCからなる基板201上には,膜厚100nm程度のAlN膜202を介して,膜厚2000nm程度のGaN膜からなるバッファー層203,及び膜厚100nm程度のn型のInGaAlN膜からなる電子供給層204が順次形成されている。また,電子供給層204の所定の領域に設けられた深さ80nm程度の凹部及びその上部に,ゲート電極205が形成されていると共に,電子供給層204の上におけるゲート電極205の両側にソース電極206及びドレイン電極207が形成されている。 【0057】尚,第2の実施形態においては,電子供給層204に対して選択的にドライエッチングを行なってゲート電極形成領域となる凹部を形成した。 【0058】また,第2の実施形態においては,バッファー層203における電子供給層204との界面近傍に高濃度の二次元電子ガス208が形成されるので,ゲート電極205に印加する電圧により二次元電子ガス208の濃度を制御することによってFETとしての動作が実現される。すなわち,バッファー層203の上部はチャンネル層として機能する。 ・・・(中略)・・・ 【0065】以上に説明したように,第2の実施形態によると,バッファー層203となるGaN膜と,電子供給層204となるn型のInGaAlN膜とのヘテロ構造の上にソース電極206及びドレイン電極207が形成されている。このため,InGaAlN膜を厚く形成することによって,ヘテロ構造の表面から,ヘテロ構造における二次元電子ガス208が形成されるチャンネル層までの距離を増大させることができる。従って,ヘテロ構造の表面におけるポテンシャル変動がチャンネル層のポテンシャルに及ぼす影響を軽減できるので,ドレイン電流の減少を確実に防止してFETの動作を安定させることができると共にFETを高出力化することができる。」 周知例2: 特開2003-59946号公報 本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2003-59946号公報(以下「周知例2」という。)には,図1とともに,以下の記載がある。 ・「【0009】 【課題を解決するための手段】本発明者らは,GaN系材料のヘテロ接合界面に形成される2次元電子ガス層の電子ガス濃度は高く,また,例えばアンドープAlGaNとアンドープGaNのヘテロ接合界面の場合,アンドープAlGaNが薄くなればなるほどアンドープGaN内の2次元電子ガス層のしみ出し効果でアンドープ層のキャリアが実効的に増加するため,抵抗が小さくなるという現象に着目した。 【0010】そして,ソース電極とドレイン電極を形成する領域におけるアンドープAlGaN層を選択的に薄層化すれば,その領域は従来のコンタクト層と同等の機能を発揮することができるのではないかとの着想を抱き,種々の実験を重ねてその着想の正しさを確認し,本発明のGaN系半導体装置を開発するに至った。すなわち,本発明のGaN系半導体装置は,全体がGaN系半導体材料で構成され,第1のアンドープ材料から成る下層と前記第1のアンドープ材料よりもバンドギャップエネルギーが大きい第2のアンドープ材料から成る上層との層構造が基板の上に形成され,前記上層の表面には,ゲート電極,ソース電極,およびドレイン電極が形成されているGaN系半導体装置であって,前記ソース電極と前記ドレイン電極の形成領域における前記上層の厚みが,他の領域における厚みよりも薄くなっていることを特徴とする。 【0011】 【発明の実施の形態】本発明のGaN系半導体装置の1例Aを図1に示す。この装置Aは,半絶縁性基板1の上に,例えばGaNから成るバッファ層2,後述する第1のアンドープ材料から成る下層3,第2のアンドープ材料から成る上層4が順次積層された層構造が形成されている。そして全体の表面は例えばSiO_(2)のような保護膜7で被覆されている。 【0012】そして,上層4の一部領域4Aは他の領域4Bに比べて薄くなっていて,その薄い領域4Aにソース電極Sとドレイン電極Dのそれぞれが形成され,上記した厚い他の領域4Bにはゲート電極Gが形成されている。下層3の第1のアンドープ材料および上層4の第2のアンドープ材料はいずれもGaN系半導体材料である。その場合,第2のアンドープ材料と第1のアンドープ材料としては,前者のバンドギャップエネルギー(Eg)の方が後者のそれよりも大きい材料を選択し,両者を組み合わせて用いられる。その結果,下層3と上層4のヘテロ接合界面の直下,すなわち下層3の最上部には2次元電子ガス層6が形成される。」 ・「【0027】 【発明の効果】以上の説明で明らかなように,本発明のGaN系半導体装置は,上層におけるソース電極とドレイン電極の形成領域の厚みを薄くすることにより動作時のオン抵抗は小さくなり,大電流動作が可能になっている。また,この装置は,従来のように選択成長でコンタクト層を形成することが不要になるので,高い生産性の下で製造することができる。」 周知例3: 特開2003-100778号公報 本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2003-100778号公報(以下「周知例3」という。)には,図1?6とともに,以下の記載がある。 ・「(第2の実施例)図6は,本発明の第2の実施例としてのヘテロ接合電界効果トランジスタの要部断面構造を表す模式図である。同図については,図1乃至図5に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。本実施例のトランジスタの場合は,Al_(x)Ga_((1?x))N層12Aは従来のトランジスタと同様に,所望の閾値電圧となるように厚く形成しておく。そして,オーミック電極18,19の下部12Bを1nm?6nmの範囲まで薄層化する構造とする。この構造においても,第1実施例と同様の効果が得られる。本実施例の構造を作成するには,第1実施例の作成方法に際して,Al_(x)Ga_((1?x))N層12は従来構造と同様に厚く形成しておき,ソース・ドレイン電極18,19を形成する前に,これらオーミック電極を形成するAl_(x)Ga_((1?x))N層の一部をエッチングする工程を加える。エッチングに際しては,塩素ガスなどを用いた反応性イオンエッチングの手法で行うことができる。この構造は第1実施例に比べて,所望の閾値電圧を実現するという点ではより柔軟に対応できる。但し,エッチングの工程を付加する必要がある点で,作成の時間とコストが増大する。本実施例の電界構造トランジスタについて,ソース電極18,ドレイン電極19のコンタクト抵抗を測定したところ,従来構造の1/10に低減できた。その結果,ドレイン電流特性のニー電圧は10%低下,トランスコンダクタンスは20%向上した。これにより,周波数20GHz,AB級動作での電力付加効率の最大値は,従来構造に比べて10%大きくすることができた。」(9欄42行?10欄19行) (5)小括 以上のとおり,本願補正発明は,周知技術を勘案して,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。 よって,本願補正発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができない。 5.むすび したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成24年8月10日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成22年2月8日にされた手続補正により補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載から見て,その請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(以下「本願発明」という。) 「【請求項1】 III族窒化物素子であって, 第1の組成を有する第1のIII族窒化物材料からなる第1の層と, 前記第1の組成とは異なる第2の組成を有する第2のIII族窒化物材料からなり,前記第1の層と接触して配置された第2の層と, 前記第1の層と前記第2の層とによって形成され,電流を伝えるための二次元電子ガスを供給する界面と,を備え, 前記第1の層および前記第2の層は,前記第2の層の界面の面内における格子定数が,前記第1の層の界面の面内における格子定数以上になるように形成される,素子。」 2 引用発明 引用発明は,前記第2の4「(2)刊行物に記載された発明」に記載したとおりのものである。 3 対比・判断 前記第2「1 本件補正の内容」?第2「3 補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無についての検討」において記したように,本願補正発明は,本件補正前の請求項1の発明特定事項である「前記第2の層」について,「ゲート電極の下になるべき部分の厚さと,ソース電極の下になるべき部分の厚さとが異なるものである」として,その厚さについて技術的に限定を付したものである。言い換えると,本願発明は,本願補正発明から前記限定を除いたものである。 そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,これをより限定したものである本願補正発明が,前記第2の4「(3)対比」?第2の4「(5)小括」において検討したとおり,周知技術を勘案して,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって,本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおりであるから,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-05-07 |
結審通知日 | 2013-05-14 |
審決日 | 2013-05-29 |
出願番号 | 特願2006-542809(P2006-542809) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 池渕 立、小川 将之 |
特許庁審判長 |
北島 健次 |
特許庁審判官 |
近藤 幸浩 西脇 博志 |
発明の名称 | 絶縁体構造を強化した電界効果トランジスタ |
代理人 | 荒木 淳 |
代理人 | 杉村 憲司 |
代理人 | 大倉 昭人 |