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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1280511
審判番号 不服2010-12458  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-09 
確定日 2013-10-16 
事件の表示 特願2004-512783「粘稠性繊維と粘度低下性タンパク質とを含む組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成15年12月24日国際公開、WO03/105882、平成17年11月17日国内公表、特表2005-534667〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続・経緯

本願は、平成15年6月12日(優先権主張2002年6月13日、英国)を国際出願日とする出願であって、平成22年2月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成22年6月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同日付で手続補正書が提出されたのち、当審において平成24年9月4日付けで拒絶理由が通知されたものである。
本願の請求項1?4に係る発明は、平成25年3月11日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、本願発明という。)は次のとおりである。

「1種類以上の粘稠性可溶性繊維を含む組成物にタンパク質を混合して前記組成物の粘度を調整するための方法であって、前記タンパク質が、コラーゲンおよび/またはコラーゲンの加水分解生成物であり、前記粘稠性可溶性繊維がキサンタンガムおよびコンニャクゴムから選択され、該方法により得られる組成物の粘度が、室温で500mPa・s未満である、前記方法。」

2.引用例の記載事項

当審における拒絶の理由で引用した、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開昭55-19290号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1)「特許請求の範囲
(1)水剤として経口投与する場合に飲料水との混合による再調製に適当な乾燥粉末として提供される治療上有用な多糖類ガムの製剤であって、この多糖類ガムは、ゲル化を阻止する有効量の実質的に直鎖状の天然または修飾された天然の高分子化合物と一緒に提供され、而してこの化合物は、それが実質的に中性もしくは負に荷電するpHで多糖類ガム用液のゲ'ル化を阻止することができ、かつ水に対する溶解度が15℃で少なくとも1%w/wであることを特徴とする製剤。
(2)(3)略
(4)多糖類ガムがガラクトマンナン、好ましくはグアー(guar)ガム又はイナゴマメのさや(locust bean)から得るガムであることを特徴とする前記各項のいずれかひとつの製剤。
(5)阻害剤が蛋白質又は蛋白水解物であることを特徴とする前記各項のいずれかひとつの製剤。
(6)阻害剤が1×10^(4)ないし5×10^(4)、好ましくはおよそ3×10^(4) の平均分子量のゲラチン水解物であることを特徴とする特許請求の範囲第5項の製剤。
(7)?(10)略 」(特許請求の範囲)

(2)「これらのガムの医学面での用途は胃腸疾患〔カミンヌ(Cummins)、ランセット(Lancet)(1975)、5〕および高コレステロール血症〔ジエンキンス(Jenkins)、ランセット(Lancet)、(1976)、1351〕の治療、および糖尿病のインシュリン療法の補助薬〔ジエンキンス(Jenkins)、ランセット、(1977)、779〕としての使用を含む。
多糖類ガムのもつ治療効果は、水性溶液中のそれらの粘性ゲル生成能力と明らかに関連があり、これは隣接粒子表面での多糖類分子間の粒子間の力(interparticulate foroes)によるものである。
かかるゲルは胃の中で生成されるとグルコース、コレステロールおよび、あるいは、薬剤をとらえ、かつそれによつてそれらの吸収を阻害する。
かかる粘性ゲルの生成は人間の患者へ多糖類ガムを投与する場合には問題である。もしも飲料水として摂取する場合には、およそ0.5% w/w以上の多糖類ガムの溶液は飲むのが難かしく、非常に大量のより希釈な溶液が必要とされる。」(2頁右上欄9行?左下欄8行)

(3)「ここに、ある水溶性高分子化合物が多糖類ガムのコロイド様溶液のゲル化を阻害又は遅延させ、そしてこの阻害がそれにもかかわらず多糖類ガムが胃および消化管に入つた後は有利にも逆転しうることが認められた。」(2頁右下欄11?15行)

(4)「飲用し得る再調製製剤では、懸濁液はおよそ1.5×10^(3)mPa s を越えず、好ましくはおよそ1×10^(3)mPa s以下であり、最も好ましくはおよそ0.5×10^(3)mPa s 以下である粘性を有する。」(3頁左下欄10?13行)

(5)「クローダ プロテイン(Croda Protain)「S」は牛のゲラチン水解物の登録商標であり、代表的には平均分子量が3×10^(4) でクローダ ケミカル(Croda Chemical)によつて製造販売されている。」(5頁左下欄4?7行)

(6)「例1
10gのグアーガムと異つた割合の阻害剤からなる製剤をpH8で160cm^(3)の容量に再調製するこのpHを得るには130mg水酸化ナトリウムに等しいアルカリ化剤量が必要である。粘性はプルツクフイールド粘度針(20r.p.m.でスピンドル5)を用いて20分後に測定する。
従つてグアーガムの製剤は製薬上の標準法によつて製造され、かつ各々次の如き成分を含有する香粉とされるのが好ましい。
グアーガム(オムプレム(Omprem)18)10g
クローダプロテイン(Croda Protein)「S」 20g
ナトリウムグリシネート 0.3g
香料 適量
本製剤は1つの香粉の内容物を160cm^(3)の水道水上に25℃にてまき散らし、20ないし30秒間密封容器中にて振りまぜることにより再調製される。この再調製製剤はおよそ7.5のpHを有する。少くとも2時間は飲用可能である。
かかる製剤の摂取は模擬実験として400cm^(3)のpH4の緩衝液中に37℃にて本製剤を注ぐことによつて行われる。粘性は最初の15分間で指数関数的に増加し、45分後には非常に粘性となる。」
例1の表には、阻害剤:グア-ガムの比が2:1のとき、粘性が300mPa s で飲用可能であることが記載されている。(5頁左下欄8行?右下欄下から3行)

引用例1には、多糖類ガムは、グルコースやコレステロールの吸収を阻害する作用を有することから治療への適用が期待されるものの、粘性ゲルを形成しやすく飲料水として摂取するのが困難であるとの課題が認識されていたところ(上記(2))、ある水溶性高分子が多糖類ガムの溶液のゲル化を阻害することを見出した(上記(3))旨が記載されている。引用発明のグアーガムは多糖類ガムの一種であり(上記(1))、特許請求の範囲第4項)、クローダ プロテインSは牛のゲラチン水解物であって、蛋白質または蛋白水解物からなる阻害剤の一種であるから(上記(1)、特許請求の範囲第5、6項、上記(5))、クローダ プロテインSは、グアーガムに混合されてグアーガム溶液のゲル化を阻害する、換言すると粘度を低下させるために混合された成分であると認められる。そして、上記(6)には、グアーガムとクローダプロテインSとを1:2の割合で含む組成物の粘性が300mPa s であることが記載されている。

以上のことから、引用例1には、「グアーガムと牛のゲラチン水解物であるクローダプロテインS(登録商標)とを1:2の割合で混合することにより、グアーガムの溶液の粘性を、300mPa・sとする方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

また、同じく当審における拒絶の理由で引用した、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平11-18725号公報(以下、「引用例2」という。;拒絶理由通知で引用した引用例3に同じ。)には、以下の事項が記載されている。

(7)「食物繊維は可溶性および不溶性に類別される。不溶性繊維は血糖量にほとんど影響を有しないようである。しかし、食品への可溶性繊維の添加は糖尿病患者の食後の血糖量を低減することが知られている(アンダーソン,J.W.アンドアカンジ,A.O.,1993,「高量食物繊維による糖尿病の治療」,CRCハンドブック オブ ダイエタリ ファイバー イン ヒューマン ニュトリション,CRCプレスインコーポレテッド,第2版,443?470頁)。この性質を有するとされる可溶性繊維の例はグアガム、ペクチン、キサンタンガムおよびβ-グルカンである。この性質により可溶性繊維は糖尿病患者用食品に添加する理想的候補になっている。」(段落0005)

(8)「しかし、現在まで可溶性繊維は糖尿病患者用食品に広く使用されていない。通常的問題は多くの可溶性繊維は不味であることである。また、臨床栄養の分野では、経腸投与組成物に可溶性繊維の添加は、可溶性繊維が増粘剤であり、粘度を非常に増加するのできわめて困難である。従って、食後の血糖値を有意に低減するだけの十分量の可溶性繊維を含有する組成物は経腸給与、特に管給与を必要とする患者には濃厚過ぎ、粘稠であり過ぎる。」(段落0006)

3.対比・判断

本願発明と引用発明とを対比する。

本件明細書の段落0019には、「粘稠性可溶性繊維」の例として「ゴム」が挙げられており、また、「ゴム」とは、植物性ゴムを意味し、特に、コンニャクゴム、キサンタンガム、グアランガムなどのグアーアムが包含されることが記載されている。
そして、クローダ プロテイン(Croda Protain)「S」は、前記のとおり、牛のゲラチン水解物であって、蛋白質または蛋白水解物であると認められる。
そうすると、引用発明のグアーガム、クローダ プロテインSは、各々、粘稠性可溶性繊維、タンパク質又はその加水分解物であると認められるから、本願発明と引用発明とは、「1種類以上の粘稠性可溶性繊維を含む組成物にタンパク質を混合して前記組成物の粘度を調整するための方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点1
粘稠性可溶性繊維として、本願発明の組成物がコンニャクガム、キサンタンガムを含有するのに対して、引用発明の組成物はグアーガムを含有する点。

・相違点2
本願発明の組成物の粘性が500mPa・s未満であるのに対して、引用発明の組成物の粘性は300mPa・sである点。

・相違点3
タンパク質又はその加水分解物として、本願発明の組成物がコラーゲンおよび/またはコラーゲンの加水分解生成物を含有するのに対して、引用発明の組成物がクローダ プロテインSを含有する点。

そこで、これらの相違点について、以下、検討する。

・相違点1について
引用例1には、前記(請求項1について)の項で指摘したとおり、実施例1記載のグアーガムのほか、ローカストビーンガムなどの多糖類ガム(同第4項)を糖尿病等の治療目的で使用しうる旨が記載されている(上記(2))。引用例1には、さらに、治療用途が期待されている多糖類ガムが粘性ゲルを形成しやすく飲料水として摂取するのが困難であることも記載されている(上記(2))。
そして、可溶性繊維が糖尿病患者の食後の血糖を下げること、そのような可溶性繊維としてグアガムのほかキサンタンガムを用いうることが本願優先権主張日前である1993年にすでに知られていたが(上記(7))、可溶性繊維が増粘剤であり、粘度を増加するので、経腸投与組成物に可溶性繊維を添加することは困難であるという問題も引用例2に記載されている(上記(8))。
以上のとおり、キサンタンガムにもグアーガムと同様、その糖尿病等の治療効果が期待されながらも、高い粘性や急速な膨潤といった服用上の問題点からその使用が制限されていたことが、本願優先権主張日前に知られていたと理解できるから、引用発明において、グアーガムに代えて、引用例2記載のキサンタンガムを用いてみることは、当業者が容易に想到しうるところと認める。

・相違点2について
引用例1には、さらに、飲用しうる再調製製剤において、懸濁液は最も好ましくはおよそ0.5×10^(3)mPa s 以下である粘性を有することが記載されているから(上記(4))、当該粘度を有する組成物を得ようと当業者が試みることにも困難性は見出せない。

・相違点3について
クローダ プロテインSは、引用例1に記載されるように、牛のゲラチン水解物であり(上記(6))、ここで、ゲラチンは、gelatin、すなわちゼラチンと同義であると認められ、また、ゼラチンがコラーゲンを水と煮沸して得られるタンパク質であることは本願優先権主張日前に当業者に周知の事実であり(たとえば、化学大辞典編集委員会編 化学大辞典 5 縮刷版 p383、384 共立出版株式会社 昭和53年9月10日発行 参照)。本願発明の「コラーゲンおよび/またはコラーゲンの加水分解生成物」に相当することは明らかであるから、相違点3は実質的な相違点ではない。

そして、本件明細書記載の効果についても、上記引用例記載の効果から予測しうるものにすぎない。

したがって、本願発明は、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

4.むすび

以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶されるべきである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-27 
結審通知日 2013-04-02 
審決日 2013-06-06 
出願番号 特願2004-512783(P2004-512783)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北畑 勝彦  
特許庁審判長 今村 玲英子
特許庁審判官 穴吹 智子
平井 裕彰
発明の名称 粘稠性繊維と粘度低下性タンパク質とを含む組成物  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  
代理人 大崎 勝真  
代理人 坪倉 道明  

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