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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1280540
審判番号 不服2012-13606  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-17 
確定日 2013-10-15 
事件の表示 特願2005-518674「基板における電気的な構成素子から成る装置および該装置を製造する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月 7日国際公開、WO2004/086502、平成18年 9月21日国内公表、特表2006-521686〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2004年3月9日(パリ条約に基づく優先権主張 外国庁受理2003年3月28日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする特許出願であって、平成21年9月3日付けの拒絶理由通知に対して同年12月8日に意見書及び手続補正書が提出され、さらに、平成22年10月14日付けの拒絶理由通知に対して平成23年4月22日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成24年3月12日付けで拒絶査定がなされた。
それに対して、同年7月17日に、拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、その後、同年10月18日付けで審尋がなされ、それに対する回答書は提出されなかった。

第2.補正の適否について
1.補正の内容
平成24年7月17日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1?20を、補正後の特許請求の範囲の請求項1?20と補正するものであり、本件補正による補正事項を整理すると、次のとおりである。

(1)補正事項1
補正前の請求項8の「設け、」を、「被着し、」と補正して、補正後の請求項8とすること。

(2)補正事項2
補正前の請求項9の「設けるために、」を、「被着させるために、」と補正して、補正後の請求項9とすること。

(3)補正事項3
補正前の請求項10の「設けられた」を、「被着された」と補正して、補正後の請求項10とすること。

(4)補正事項4
補正前の請求項11の「設ける前」、「設けた後」、「設ける、」を、各々「被着させる前」、「被着させた後」、「被着させる、」と補正して、補正後の請求項11とすること。

(5)補正事項5
補正前の請求項12の「取り付ける、」を、「被着させる、」と補正して、補正後の請求項12とすること。

(6)補正事項6
補正前の請求項18の「フォトリゾグラフィプロセス」を、「フォトリソグラフィプロセス」と補正して、補正後の請求項18とすること。

(7)補正事項7
補正前の請求項20の「取り付ける」を、「被着させる」と補正して、補正後の請求項20とすること。

2.新規事項追加の有無及び補正の目的についての検討
(1)補正事項1?5、7について
補正事項1?5、7は、用語の統一を図り、各請求項の内容をより明瞭にする補正であるから、特許法第17条の2第4項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)第4号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
したがって、補正事項1?5、7は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たす。
また、補正事項1?5、7が、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであることは明らかであるから、補正事項1?5、7は、特許法第17条の2第3項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項をいう。以下同じ。)に規定する要件を満たす。

(2)補正事項6について
補正事項6は、補正前の請求項18に含まれていた明白な誤記を訂正するものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第4項第3号に掲げる誤記の訂正を目的とするものに該当する。
したがって、補正事項6は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たす。
また、補正事項6が特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすことは明らかである。

(3)新規事項追加の有無及び補正の目的についてのまとめ
上記(1)及び(2)において検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものであり、また、特許法第17条の2第4項第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであるから、同法同条同項に規定する要件を満たすものである。

3.補正の適否についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件補正は、適法になされたものである。

第3.本願発明
上記第2.において検討したとおり、本件補正は適法になされたものであるから、本願の請求項1?20に係る発明は、本件補正により補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?20に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、請求項1に記載されている事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
少なくとも1つの基板(1,1′)と、
該基板の表面区分(11)に配置された、電気的なコンタクト面(21,21′)を備えた少なくとも1つの電気的な構成素子(2,2′)と、
該構成素子(2,2′)のコンタクト面(21,21′)の電気的なコンタクトのために電気的な接続面(32)を備えた少なくとも1つの電気的なコンタクトラグ(3)とを備えた装置であって、
コンタクトラグ(3)の接続面(32)と構成素子(2)のコンタクト面(21)とが、少なくとも構成素子(2)のコンタクト面(21)を越えて延びるコンタクトラグ(3)の領域(33)が生じるように互いに結合されており、
コンタクトラグ(3)が少なくとも1つの導電性フィルム(30)を有していて、
該導電性フィルム(30)が、コンタクトラグ(3)の電気的な接続面(32)を有していて、
絶縁層(35)がラミネートされた絶縁フィルム(4)から形成されていて、
コンタクトラグ(3)が、電気的な構成素子のロードコネクションとして働く形式のものにおいて、
導電性フィルムが、少なくとも2つの電気的な導体層(31,31′)と、これらの電気的な導体層(31,31′)の間に配置された少なくとも1つの電気的な絶縁層(35)とを有する層結合体(36)を有していることを特徴とする装置。」

第4.引用刊行物に記載された発明
1.本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である特開平10-93017号公報(以下「引用例」という。)には、図1?2とともに、次の記載がある(ここにおいて、下線は当合議体が付加したものである。以下同様。)。

a.「【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも一つの電気的に絶縁しているサブストレート(1)を有し、その上において電気的に伝導性のある材料からなる面(3)が構造を与えられており、当該面(3)と冷却されるべき半導体素子(5、6)とが電気的に結合されており、他方また当該半導体素子のほうは回路に適合して外部の接続要素(11)と接触させられている、多層構造方式での高実装密度の半導体パワーモジュールにおいて、
多層構造がサンドイッチ技術で実現されており、また半導体素子(5、6)が、一つの面にはろう付けによってあるいは押圧接触によって、サブストレート(1)の、電気的に伝導性のある材料からなる、構造を与えられた面(3)と電気的に且つ熱的に接続されており、別の接触面(7)上には、ろう付けによってあるいは押圧接触によって、回路に適合した全ての接続部が、フレキシブルな導体プレート(10、11、12)によって作り出されており、
また、当該配置の絶縁が、構造を与えられた絶縁中間層(プリプレグ8)によってラミネートすることにより行われており、そのとき、前記半導体素子及び接点のための空所が当該絶縁中間層に設けられている、前記半導体パワーモジュール。
【請求項2】 半導体素子(5、6)が、ダイオード、バイポーラトランジスタ、MOSFET、あるいはIGBTであり、且つ両側に押圧接触あるいはろう付け接触のために、一方側については構造を与えられて、層をかぶせられていることを特徴とする、請求項1に記載の半導体パワーモジュール。
【請求項3】 フレキシブルな導体プレートが、あらゆる側をポリイミド(10、12)でラミネートされた状態の、構造を与えられた銅条導体(11)を有し、そのポリイミドフォイル(10)が、回路に適合した開口部を銅条導体(11)の電気的な接点のために有することを特徴とする、請求項1に記載の半導体パワーモジュール。」

b.「【0014】
【発明の実施の形態】本発明を、以下に図面をもとにして説明する。図1は、二つの接触させられた半導体素子5、6を有する本発明に係るモジュール部分の横断面の概略図である。パワースイッチの組立てのためのベースは、例えば、両面を銅2、3でコーティングされている酸化アルミニウム層1からなるDCBセラミックスである。当該概略図における上側の銅面3上には、従来技術により周知の軟鑞4を用いたろう付けによってオーム性接触(ohmscher Kontakt)が半導体素子の裏面に対して、トランジスター5のコレクターに対してまたは例として図示されたフリーホイーリングダイオード6に対して作り出されている。別の半導体素子5、6のポジショニングの際には、銅フォイル3が相応に回路に適合して構造を与えられている。半導体素子5、6の当該概略図における上側の接触面は、先行科学技術の加工ステップでは、ろう付け能力のある接触層を備えていた。この接触層は、パワースイッチ5の場合には構造を与えられていた。
【0015】ひき続いての組立ては、例えば、Krempel社(Postfach 484 in Stuttgart)及び Isola社(52348 Dueren)のカタログに記載されているような、いわゆるプリプレグ8の取り付けを考慮に入れる。このプリプレグ8は、模範的にはガラスクロス/エポキシ樹脂・ラミネートから、両面をカップリング剤及びエポキシ樹脂9でコーティングされたことによって形成される。その際、エポキシ樹脂9は、硬化状態Bにおいて従来技術に従って前処理された状態にある。半導体素子5、6のために及びサブストレートの銅層2上の接点のために、相応の空所13が打ち抜き技術によってプリプレグ8に設けられており、当該開口部13のエッジ部はシリコンゴムでコーティングされている。厚さにおいてプリプレグ8は構造上、ろう付けされた状態における半導体素子の表面の平面に対応するように寸法を定められている。
【0016】半導体素子5、6とエポキシ樹脂コーティング9を有するプリプレグ8とから形成された、そのように構成された平坦な表面上には、準備されたフレキシブルな導体プレートがラミネート(積層)される。その際、このラミネートは、銅面3及びセラミックス1上にプリプレグ8をラミネートすることとともに同時に、また半導体素子5、6の接合のためのろう付けプロセスとともに行われ得る。その際、フレキシブルな導体プレートは、それ自体は周知のポリイミドフォイル10、12から成る。その際、25μmのフォイル厚で、必要な破壊抵抗に十分である(すなわち、絶縁破壊に対して十分な強さをもつ)。これらは、回路に適合して構造を与えられた銅条導体11を取り囲み、銅条導体11を互いに絶縁する。導体プレートの、半導体素子5、6へ向けられた(すなわち、当該半導体素子側の)下側ポリイミドフォイル10において14として示す位置には開口部がある。それによって、ろう付け能力のある表面を備える銅条導体11がろう付けによって回路構成に相応に電気的に接触させられている。サブストレート1、2、3の銅層3とフレキシブルな導体プレートの回路に適合した銅条導体11との間の電気的な接続は、非常に簡単な方法で同時のろう付けによって実現される。というのは、導体プレートの可撓性(Flexibilitaet)の利点がそれを可能にするからである。
【0017】フレキシブルな導体プレートは、回路要件に相応に、銅条導体(11)において、補償曲げ部(例えば、条導体構造のU字形部)が同一の平面内に統合されているように構造を与えられていることが有利である。
【0018】本発明の思想の実現のために、フレキシブルな導体プレートの銅条導体11が注目されるべきである。回路装置の高いパワー要請の場合には、銅の厚さは0.4mmまでに選択され得る。本発明に係る回路構造によって、電流移送のために大きな横断面が与えられるように銅条導体11の幅を形成することが可能である。それによって、作業負荷状態で銅条導体11が電流によって熱せられず、これらの銅条導体11が、サブストレート1、2、3の銅面3と同じ意味で、半導体素子5、6からの良好な熱搬出を引き起こす。銅条導体11は、外部のパワー接続部(Kraftanschluesse)として中間回路と結合され得る。銅条導体11は、制御接続部(Steueranschluesse)としてエレクトロニクス部品と直接に接触させられ得る。
【0019】図2は、図1に対してすでに説明されたような層構造を立体的に図示したものである。両面を平たい銅でコーティングされたサブストレート1は、上の銅面3上に回路装置のために必要な半導体素子5、6を支持する。すでに説明したように、これらはポジショニングされてろう付けされている、あるいは押圧接触組み立てのためにペーストあるいは接着剤のような電気的に伝導性のある中間層を用いて固定されている。大きさの適合したプリプレグ8が、半導体素子の受容のために及び銅層2とフレキシブルな導体プレートの対応する導体路11との直接の接触のために必要不可欠な空所13をもっている。
【0020】フレキシブルな導体プレートの構成のために顧慮された下側のフォイル10は、トランジスター5及びフリーホイーリングダイオード6の位置における模範的に選択された半導体素子の接触層7との電気的な接触のための相応の開口部14をもっている。電気的な接続のために顧慮された銅条導体11は、素子との接触の位置において、下側のフォイル10における窓部14の箇所において、表面処理されている。カバーフォイル12は、二次的な上部回路構造(Schaltungsaufbauten)(すなわちさらに上に積層される回路構造)に対する良好な機械的な且つすぐれた電気的な保護をもたらす。
【0021】フレキシブルな導体プレートは、同様に、それぞれポリイミドフォイルによって互いに電気的に絶縁された多層の銅ラミネートを有してよい。それらは、互いに回路に適合して、金属被覆されたリードスルー(Durchfuehrungen)(スルーホール)によって接続され得る。従って、本発明により鏡像状に配置された同様のあるいは補足的な上部回路構造によって、非常に高い実装密度(Packungsdichte)が実現可能である。水冷システムの使用の場合には、半導体素子からの熱搬出に問題がなく、それとともに、特に可動性の使用のため、すなわち可動なものでの使用のために大きな衝撃抵抗(Stossfestigkeit)を有する回路構造を作り出すことができる。」

2.ここにおいて、引用例の図1及び2から、フレキシブルな導体プレート(10,11,12)は、平面視で半導体素子(5)及び半導体素子(6)を越えて延びていることが見て取れる。

3.以上を総合すると、引用例には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「表面を銅(3)でコーティングされたサブストレート(1)と、
前記表面を銅(3)でコーティングされたサブストレート(1)の表面に配置された、接触面(7)を備えた半導体素子(5,6)と、
前記半導体素子(5,6)の表面上に積層された、前記接触面(7)と電気的に接触するフレキシブルな導体プレート(10,11,12)、とを備えた半導体パワーモジュールであって、
前記フレキシブルな導体プレート(10,11,12)は、平面視で前記半導体素子(5,6)を越えて延びており、
前記フレキシブルな導体プレート(10,11,12)が、両側をポリイミドフォイル(10,12)でラミネートされた状態の銅条導体(11)で構成されるものであり、
前記フレキシブルな導体プレート(10,11,12)の下側ポリイミドフォイル(10)に設けられた開口部で、前記銅条導体(11)と前記半導体素子(5,6)の前記接触面(7)とが電気的に接触するものであり、
前記フレキシブルな導体プレート(10,11,12)の前記銅条導体(11)は、外部のパワー接続部と結合され得るものである
半導体パワーモジュール。」

第5.本願発明と引用発明との対比
1.引用発明の「表面を銅(3)でコーティングされたサブストレート(1)」、「半導体素子(5,6)」、「接触面(7)」は、各々本願発明の「基板(1,1′)」、「電気的な構成素子(2,2′)」、「電気的なコンタクト面(21,21′)」に相当する。
したがって、引用発明の「表面を銅(3)でコーティングされたサブストレート(1)と、 前記表面を銅(3)でコーティングされたサブストレート(1)の表面に配置された、接触面(7)を備えた半導体素子(5,6)」は、本願発明の「少なくとも1つの基板(1,1′)と、 該基板の表面区分(11)に配置された、電気的なコンタクト面(21,21′)を備えた少なくとも1つの電気的な構成素子(2,2′)」に相当する。

2.引用発明の「フレキシブルな導体プレート(10,11,12)」、「半導体パワーモジュール」は、各々本願発明の「電気的なコンタクトラグ(3)」、「装置」に相当する。
また、引用発明の「フレキシブルな導体プレート(10,11,12)」は、「前記半導体素子(5,6)」の「前記接触面(7)」と「電気的に接触する」ものであるから、電気的な接続面を備えていることは明らかである。
したがって、引用発明の「前記半導体素子(5,6)の表面上に積層された、前記接触面(7)と電気的に接触するフレキシブルな導体プレート(10,11,12)、とを備えた半導体パワーモジュール」は、本願発明の「該構成素子(2,2′)のコンタクト面(21,21′)の電気的なコンタクトのために電気的な接続面(32)を備えた少なくとも1つの電気的なコンタクトラグ(3)とを備えた装置」に相当する。

3.引用発明の「フレキシブルな導体プレート(10,11,12)」の電気的な接続面と、「前記半導体素子(5,6)」の「前記接触面(7)」とは、「電気的に接触」していること、及び「前記フレキシブルな導体プレート(10,11,12)」が「平面視で半導体素子(5,6)を越えて延びて」いることは、本願発明の「コンタクトラグ(3)の接続面(32)と構成素子(2)のコンタクト面(21)とが、少なくとも構成素子(2)のコンタクト面(21)を越えて延びるコンタクトラグ(3)の領域(33)が生じるように互いに結合されて」いることに相当する。

4.本願発明の「導電性フィルム」は、本願明細書の0018段落によれば、「導電材料、例えば銅からのみ成っている」ものだけでなく、「少なくとも1つの電気絶縁層と少なくとも1つの導電層とを備えた層結合体を有する」ものでもあるから、引用発明の「両側をポリイミドフォイル(10,12)でラミネートされた状態の銅条導体(11)で構成される」「フレキシブルな導体プレート(10,11,12)」は、本願発明の「導電性フィルム」に相当する。
また、引用発明の「ポリイミドフォイル(10,12)」は、本願発明の「絶縁層(35)」に相当するとともに、フォイル(箔)状の絶縁物であるから、本願発明の「絶縁フィルム(4)」にも相当する。
したがって、引用発明の「前記フレキシブルな導体プレート(10,11,12)が、両側をポリイミドフォイル(10,12)でラミネートされた状態の銅条導体(11)で構成されるもの」であることは、本願発明の「コンタクトラグ(3)が少なくとも1つの導電性フィルム(30)を有して」いること、及び、「絶縁層(35)がラミネートされた絶縁フィルム(4)から形成されて」いることに相当する。

5.本願発明の「ロードコネクションとして働く」ことは、本願明細書の0013段落によれば、「電気的な構成素子のための電気的な供給ラインとして働くこと」であるから、引用発明の「前記フレキシブルな導体プレート(10,11,12)の前記銅条導体(11)は、外部のパワー接続部と結合され得るものである」ことは、本願発明の「コンタクトラグ(3)が、電気的な構成素子のロードコネクションとして働く形式のもの」であることに相当する。

6.引用発明の「銅条導体(11)」、「両側をポリイミドフォイル(10,12)でラミネートされた状態の銅条導体(11)で構成されるもの」は、各々本願発明の「電気的な導体層(31,31′)」、「層結合体(36)」に相当する。
したがって、引用発明の「前記フレキシブルな導体プレート(10,11,12)が、両側をポリイミドフォイル(10,12)でラミネートされた状態の銅条導体(11)で構成されるもの」であることと、本願発明の「導電性フィルムが、少なくとも2つの電気的な導体層(31,31′)と、これらの電気的な導体層(31,31′)の間に配置された少なくとも1つの電気的な絶縁層(35)とを有する層結合体(36)を有していること」とは、「導電性フィルムが、電気的な導体層と、少なくとも1つの電気的な絶縁層(35)とを有する層結合体(36)を有している」点で一致する。

7.したがって、本願発明と引用発明とは、

「少なくとも1つの基板(1,1′)と、
該基板の表面区分(11)に配置された、電気的なコンタクト面(21,21′)を備えた少なくとも1つの電気的な構成素子(2,2′)と、
該構成素子(2,2′)のコンタクト面(21,21′)の電気的なコンタクトのために電気的な接続面(32)を備えた少なくとも1つの電気的なコンタクトラグ(3)とを備えた装置であって、
コンタクトラグ(3)の接続面(32)と構成素子(2)のコンタクト面(21)とが、少なくとも構成素子(2)のコンタクト面(21)を越えて延びるコンタクトラグ(3)の領域(33)が生じるように互いに結合されており、
コンタクトラグ(3)が少なくとも1つの導電性フィルム(30)を有していて、
該導電性フィルム(30)が、コンタクトラグ(3)の電気的な接続面(32)を有していて、
絶縁層(35)がラミネートされた絶縁フィルム(4)から形成されていて、
コンタクトラグ(3)が、電気的な構成素子のロードコネクションとして働く形式のものにおいて、
導電性フィルムが、電気的な導体層と、少なくとも1つの電気的な絶縁層(35)とを有する層結合体(36)を有していることを特徴とする装置。」

である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点)
「導電性フィルム」を構成する「層結合体(36)」が、本願発明では、「少なくとも2つの電気的な導体層(31,31′)と、これらの電気的な導体層(31,31′)の間に配置された少なくとも1つの電気的な絶縁層(35)とを有する」のに対し、引用発明では、「両側をポリイミドフォイル(10,12)でラミネートされた状態の銅条導体(11)で構成されるもの」であり、本願発明の「電気的な導体層(31,31′)」に対応する引用発明の「銅条導体(11)」が「少なくとも2つ」存在しない点。
また、その結果、本願発明の「電気的な絶縁層(35)」に対応する引用発明の「ポリイミドフォイル(10,12)」が、「これらの電気的な導体層(31,31′)の間に配置され」るものではない点。

第6.相違点についての当審の判断
一般に、スイッチング素子の破損を防止するために、電流の開閉時の電圧の急激な上昇の原因となる回路インダクタンスを低くする必要があるという課題、及び、スイッチング素子に電圧を印加するための2つの導電体を、間に絶縁層を挟んで対向配置させるとともに、導電体に流れる電流の方向を逆向きにすることで、各導電体のインダクタンスを低減するという技術は、例えば、本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である下記周知例1及び2に記載されているように、当業者においてそれぞれ周知の事項である。
また、引用例には、0020?0021段落に「カバーフォイル12は、二次的な上部回路構造(Schaltungsaufbauten)(すなわちさらに上に積層される回路構造)に対する良好な機械的な且つすぐれた電気的な保護をもたらす。」、「フレキシブルな導体プレートは、同様に、それぞれポリイミドフォイルによって互いに電気的に絶縁された多層の銅ラミネートを有してよい。それらは、互いに回路に適合して、金属被覆されたリードスルー(Durchfuehrungen)(スルーホール)によって接続され得る。」と記載されているように、「フレキシブルな導体プレート」内の「銅」、すなわち「銅条導体11」を互いに電気的に絶縁して「多層」にすることが示唆されている。
したがって、引用発明において、「銅条導体」に生じるインダクタンスを低減するために、「フレキシブルな導体プレート」を構成する「銅条導体」を多層にし、間に「ポリイミドフォイル」を挟んで対向配置させるとともに、「銅条導体」に流れる電流の方向を逆向きにすることは、上記周知の事項を勘案することにより、当業者が容易になし得たことである。すなわち、引用発明において、本願発明のように、「導電性フィルムが、少なくとも2つの電気的な導体層(31,31′)と、これらの電気的な導体層(31,31′)の間に配置された少なくとも1つの電気的な絶縁層(35)とを有する層結合体(36)を有していること」とすることは、上記周知の事項を勘案することにより、当業者が容易になし得たことである。
よって、本願発明は、周知の事項を勘案することにより、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

a.周知例1:特開平7-203686号公報
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由で提示された刊行物である上記周知例1には、図1?3とともに次の記載がある。
「【0002】
【従来の技術】従来のスイッチング回路の直流電源の供給端とスイッチング素子とは導体単線でもって結線されている。その為、回路インダクタンスがあり、スイッチング素子の開閉によって急激に電流が変化すると小さいインダクタンスでも電圧が急激に変動し、素子を破損させる恐れがあった。例えば3mm直径の10cmの導線でループさせると、大略0.3μH程の回路インダクタンスがあり、スイッチング素子の開閉時の電流変化が300A/1μs?300A/100nsとすれば、スイッチング素子には数百乃至千ボルトに近い電圧が印加されることになる。特に大電流で高速スイッチング素子の場合は大きな問題となっていた。従来には、スイッチング素子としてパワートランジスターが使用されていたが、現在はより高速なICBTが使用され、特に問題となってきた。これを防止すべくスイッチング素子に並列にコンデンサーと抵抗を接続させる方法があるが、これでは電力消費が増加し、又コストも嵩み、実装空間が広くなるという問題点がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来の問題点を解消し、電流の開閉時の電圧の急激な上昇の原因となる回路インダクタンスを低くするスイッチング回路の回路インダクタンスの低下法を提供することにある。」
「【0006】
【実施例】以下、本発明のモータ駆動用のスイッチング電源回路の実施例を図面に基づいて説明する。図1は実施例の回路図、図2は実施例の要部の実装回路を示す平面図、図3は同実装回路の正面図である。図中、1?6はスイッチングトランジスター、7はモータ、8は電解コンデンサー、9,10は同電解コンデンサー8とスイッチングトランジスター1?6とを接続する厚み2mmで20cm×30cmの広い面積を有する銅製の導電体、11は導電体9,10との間の2mm厚みの絶縁体、12は配線によって生じた配線インダクタンスコイル、13は整流器、14はヒートシンク板である。
【0007】この実施例では交流電源は整流器13によって整流され、電解コンデンサー8とによって平滑にされ、導電体9,10を介してスイッチングトランジスター1?6へ直流電圧を印加する。同スイッチングトランジスターのベースに制御電圧が印加されてスイッチングトランジスター1?6が開閉してモータ7へ電流が流されるものである。このとき、電解コンデンサー8とスイッチングトランジスター1?6とを結ぶ導電体は図2,3に示すように広い面積の導電体9,10で構成している。この導電体9,10の間には絶縁体11が間在するだけで近接しているので互に反対方向の電流が各導電体9,10に流れ、生起する磁界が互に相殺して、弱い磁界しか発生せず、結果として回路インダクタンスが大巾に低減できる。これによって、電流の急激な立上り時に発生する誘導電圧は数百Vのものが50V程度に低下させることができた。
【0008】
【発明の効果】以上の様に、本発明によれば、電流方向を逆にした結線回路部分を広い面積の導電体を互に近接させて構成することによって、電流による磁界を相殺し、回路インダクタンスを低下させ、スイッチングトランジスターの開閉時の電流の急激な変化によって高圧電圧が発生しないようにできる。」

したがって、上記周知例1には、スイッチング素子の破損を防止するために、電流の開閉時の電圧の急激な上昇の原因となる回路インダクタンスを低くする必要があるという課題があること、及び、モータ駆動用のスイッチング電源回路において、スイッチングトランジスター1?6へ直流電圧を印加するための導電体9,10を、間に絶縁体11が間在するだけで近接して配置し、互いに反対方向の電流が各導電体9,10に流れるようにすることで、生起する磁界が相殺して、回路インダクタンスを低減することが記載されているものと認められる。

b.周知例2:特開2002-190571号公報
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由で提示された刊行物である上記周知例2には、図1?2とともに次の記載がある。
「【要約】
【課題】パワーラインのインダクタンスに起因してスイッチング素子にサージ電圧が印加され、スイッチング素子に破壊が発生してしまう。」
「【0014】
【発明の実施の形態】次に、本発明を添付図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。図1および図2は、本発明のインバータ制御モジュールの一実施例を示し、セラミック基板2の両主面に2本のパワーライン3a、3bを対向配置させるとともに一方主面に3本の出力ライン4a、4b、4cを配置したセラミック回路基板1とスイッチング素子5とから構成されており、セラミック基板2の一方主面に形成されているパワーライン3a及び各出力ライン4a、4b、4c上にスイッチング素子5を搭載し、パワーライン3a上のスイッチング素子5を各出力ライン4a、4b、4cに第1の接続手段6を介して接続するとともに各出力ライン4a、4b、4c上に搭載されているスイッチング素子5をセラミック基板2の他方主面に形成されているパワーライン3bに第2の接続手段7を介して接続することによって形成されている。
【0015】?【0026】略
【0027】本発明のインバータ制御モジュールにおいては、前記2本のパワーライン3a、3bを間にセラミック基板2を挟んで対向配置させるとともにパワーライン3a、3bに流れる電流の方向を逆としたことから2本のパワーライン3a、3b間に相互インダクタンスが効率良く発生し、この発生した相互インダクタンスによって2本のパワーライン3a、3bの各々が有するインダクタンスを大きく低減させ、その結果、2本のパワーライン3a、3b間に20A以上の直流電源を供給するとともに各スイッチング素子5のオン・オフを少しずつずらせて出力ライン4a、4b、4cより3相モータ等に3相交流電源を供給する際、スイッチング素子5のオン・オフ時に前記2本のパワーライン3a、3bが有するインダクタンスに起因して定格電圧より高いサージ電圧が発生することはなく、これによってスイッチング素子5に過電圧がかかり、スイッチング素子5が破壊するのを有効に防止してインバータ制御モジュールを安定、かつ信頼性よく作動させることが可能となる。」

したがって、上記周知例2には、インバータ制御モジュールにおいて、パワーラインのインダクタンスに起因してスイッチング素子にサージ電圧が印加され、スイッチング素子に破壊が発生してしまうという課題があること、及び、インバータ制御モジュールにおいて、スイッチング素子5に接続される2本のパワーライン3a、3bを、間にセラミック基板2を挟んで対向配置させるとともに、パワーライン3a、3bに流れる電流の方向を逆とすることで、2本のパワーライン3a、3bの各々が有するインダクタンスを大きく低減させることが記載されているものと認められる。

第7.むすび
以上検討したとおり、本願発明は、周知の事項を勘案することにより、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-17 
結審通知日 2013-05-20 
審決日 2013-06-04 
出願番号 特願2005-518674(P2005-518674)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青鹿 喜芳  
特許庁審判長 北島 健次
特許庁審判官 近藤 幸浩
早川 朋一
発明の名称 基板における電気的な構成素子から成る装置および該装置を製造する方法  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 久野 琢也  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 久野 琢也  

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