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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16D
管理番号 1280687
審判番号 不服2011-25518  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-11-28 
確定日 2013-10-23 
事件の表示 特願2007-537903「高角度等速ジョイント」拒絶査定不服審判事件〔2006年 5月 4日国際公開、WO2006/047040、平成20年 5月29日国内公表、特表2008-518166〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、本願は、2005年9月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年10月21日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成23年7月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年11月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされ、その後、当審において、平成24年9月3日付けで拒絶理由が通知されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?4に係る発明は、平成20年9月16日付け手続補正、及び平成23年2月15日付け手続補正、平成25年3月11日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。なお、平成23年11月28日付け手続補正は、当審において、平成24年9月3日付けで決定をもって却下されている。
「【請求項1】
一般的に球状の複数の外面ボールトラックを有する内面を備えたボアを有するアウタレースと、
前記アウタケースのボア内に配置されたケージと、
一般に球状の複数の内面ボールトラックを外面に有し、1つの軸方向に開いている前記内面ボールトラックと前記外面ボールトラックとから成る第1グループ、および反対軸方向に開いている前記内面ボールトラックと前記外面ボールトラックとから成る第2グループとを備えるインナレースと、
前記ケージの開口、当該開口と対応する前記内面ボールトラックおよび前記外面ボールトラックの間にそれぞれ配置された複数のボールと、
前記インナレースに連結されたシャフトと、
前記ケージ内に配置された部分を有するブーツと
を備え、
前記ケージの開口、前記アウタレース、前記インナレース、およびボールは、前記ケージを心合わせし、かつ支持するような相互関係を有し、
前記ケージは、前記アウタレースの内面および前記インナレースの外面に対し、前記シャフトのゼロ角度位置と高角度位置との間の連接範囲を通して非支持状態を保ち、
前記外面ボールトラックは、軸方向オフセット及び半径方向オフセットが組み込まれ、かつ前記内面ボールトラックは軸方向オフセット及び半径方向オフセットが組み込まれており、前記ボールのボール径をピッチ円直径で除算した比率C1、前記外面ボールトラックの前記軸方向オフセットを前記ピッチ円直径で除算した比率X1、前記外面ボールトラックの前記半径方向オフセットを前記ピッチ円直径で除算した比率Y1により特定され、
前記比率X1は0.06753以上かつ0.135以下であり、前記比率Y1は0.188以上であり、前記比率C1は、0.217以上かつ0.275以下であるようにしたことにより、衝突事故時に前記インナレースと前記ボールが前記アウタレースから押し出され、前記シャフトが前記アウタレースのボアの中に潰れ込むことができるようなバランスを生じさせる
ことを特徴とする等速ジョイント。
【請求項2】
前記第1グループおよび前記第2グループは、前記ケージの開口内にある前記ボールによって前記ケージを心合わせし、支持するように構成されていることを特徴とする請求項1の等速ジョイント。
【請求項3】
一般的に球状の複数の外面ボールトラックを有する内面を備えたボアを有するアウタレースと、
前記アウタケースのボア内に配置されたケージと、
一般に球状の複数の内面ボールトラックを外面に有し、1つの軸方向に開いている前記内面ボールトラックと前記外面ボールトラックとから成る第1グループ、および反対軸方向に開いている前記内面ボールトラックと前記外面ボールトラックとから成る第2グループとを備えるインナレースと、
前記ケージの開口、当該開口と対応する前記内面ボールトラックおよび前記外面ボールトラックの間にそれぞれ配置された複数のボールと、
前記インナレースに連結されたシャフトと、
前記ケージ内に配置された部分を有するブーツと、
を備え、
前記外面は、前記第1グループと、前記第2グループとを備え、
前記ケージは、前記シャフトのゼロ角度位置と高角度位置の間の連接範囲を通して、前記アウタレースの内面または前記インナレースの外面に接触しておらず、
前記外面ボールトラックは、軸方向オフセット及び半径方向オフセットが組み込まれ、かつ前記内面ボールトラックは軸方向オフセット及び半径方向オフセットが組み込まれており、前記ボールのボール径をピッチ円直径で除算した比率C1、前記外面ボールトラックの前記軸方向オフセットを前記ピッチ円直径で除算した比率X1、前記外面ボールトラックの前記半径方向オフセットを前記ピッチ円直径で除算した比率Y1により特定され、
前記比率X1は0.06753以上かつ0.135以下であり、前記比率Y1は0.188以上であり、前記比率C1は、0.217以上かつ0.275以下であるようにしたことにより、衝突事故時に前記インナレースと前記ボールが前記アウタレースから押し出され、前記シャフトが前記アウタレースのボアの中に潰れ込むことができるようなバランスを生じさせる
ことを特徴とする等速ジョイント。
【請求項4】
前記第1グループおよび前記第2グループは、前記ケージの開口内にある前記ボールによって前記ケージを心合わせし、支持するように構成されていることを特徴とする請求項3の等速ジョイント。」

3.本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)について
(1)本願発明1
本願発明1は上記のとおりである。
(2)引用例
(2-1)引用例1
特開2000-291675号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、軸方向の両端が開口された外方部材、内方部材、ケージ、ボールおよび受容部材を有し、外方部材と前記内方部材にはそれぞれ走行溝が形成され、ケージにより案内されたボールを受容している等速継手と受容部材との組立体に関する。受容部材は等速継手の外方部材を受容するのに役立つ。」
(い)
「【0011】
【発明の実施の態様】図1は外方部材を有する等速継手1の長手方向断面図であり、外方部材2は切削加工等によらない非チップ発生成形作業によって板状金属材料(鋼板)から製造されかつ第1の外方走行溝3からなっている。この第1の外方走行溝3はフランジ5を備えた軸方向第1端から出発しかつその軌道ベースはフランジ5から離れている軸方向他端の方向において長手方向軸線8に近づいている。そのうえ、外方部材2は点線でのみ示されかつフランジ5から離れた軸方向第2端から出発している第2の外方走行溝4からなっている。前記第2の外方走行溝4の軌道ベースはフランジ5と連係する軸方向第1端の方向において長手方向軸線8に近づいている。フランジ5は周部に分布された貫通孔6からなっている。
【0012】内方部材7は外方部材2内に受容されている。内方部材7は、その外方面において、長手方向軸線8のまわりに交互に周部に配置された第1の内方走行溝9および第2の内方走行溝10からなっており、第1の内方走行溝9は第1の外方走行溝3と反対にかつ第2の内方走行溝10は第2の外方走行溝4と反対に配置されている。第1の内方走行溝9の軌道ベースはフランジ5に隣接する軸方向第1端から出発しかつ長手方向軸線8に近づきながら、フランジ5から離れている軸方向第2端に向かって延びている。したがって、第2の内方走行溝10によって取られるコースは逆にされる。軸11は回転可能な固定方法において内方部材7の中央孔に挿入され、この孔は長手方向軸線8上に心出しされている(軸心を有している)。外方部材2と内方部材7との間には、ケージ12が配置されている。
【0013】前記ケージ12はボール13を保持する窓からなっている。ボールは対向対の外方走行溝3,4および内方走行溝9,10に係合している。そのうえ、外方部材2は、図2ないし図4に関連してより詳細に説明されるように、複数の個々の面から形成される心出し面14からなっている。この心出し面(中心面)14によって、外方部材2は長手方向軸線8上の受容部材16の筒状心出し孔(中心孔)17に心出しされた方法において受容されている。加えて、外方部材2は、フランジ面15によって、受容部材16の接触面18に対して載置する。外方部材2は、貫通孔6を通って挿入されかつ受容部材16の対応して配置されたネジ付き孔19に螺入される固定ボルト20によって緊張させられる。受容部材16は外方部材2の第2の軸方向開放端を被覆している。
【0014】受容部材16は、例えば駆動装置から突出するジャーナル、例えば自動車の軸差動装置に接続され得る。さらに、板状金属部材にすることができかつ、受容部材16の外面を含んでいる、フランジ5の外側にわたって延びる外方部分からなっているキャップ21が設けられる。密封のために、密封体22がキャップ21の前記領域と受容部材16の外面との間に配置されており、前記密封体22は受容部材16の溝に位置決めされている。キャップ21は、また、固定ボルト20によって固定されている。さらに、フランジ5から離れて延びる、キャップの自由端は、その他端が軸11に固定される蛇腹状ブーツ23を取着するの役立ち、その結果等速継手1の内部が密封される。」
(う)引用例1の特に図1、2の記載からすると、外方部材2にはケージ12が配置されるボアを有するものと認められる。
(え)引用例1の特に図1、2及び上記(い)の記載からすると、ケージ12の開口、外方部材2、内方部材7、及びボール13は、ケージ12を心合わせし、かつ支持するような相互関係を有しているものと認められる。
以上の事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。
「ボールを受容する複数の第1の外方走行溝3及び第2の外方走行溝4を有する内面を備えたボアを有する外方部材2と、
外方部材2のボア内に配置されたケージ12と、
ボールを受容する複数の第1の内方走行溝9及び第2の内方走行溝10を外面に有し、1つの軸方向に開いている第1の内方走行溝9と第1の外方走行溝3とからなるグループ、および反対軸方向に開いている第2の内方走行溝10と第2の外方走行溝4とからなるグループとを備えている内方部材7と、
ケージ12の開口、当該開口と対応する第1の内方走行溝9と第2の内方走行溝10および第1の外方走行溝3と第2の外方走行溝4との間にそれぞれ配置された複数のボール13と、
内方部材7に連結された軸11と、
蛇腹状ブーツ23と、
を備え、
ケージ12の開口、外方部材2、内方部材7、及びボール13は、ケージ12を心合わせし、かつ支持するような相互関係を有する
等速継手。」
(2-2)引用例2
特開平4-307118号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。
(か)「【0001】本発明は、中空のアウタレースを有し、その内面にアウタレースの長手軸線に関しメリジオナル平面に第一、第二の特定系列で周面上で交番した外案内溝が設けてあり、アウタレースの空洞内に配置され球形外面を有するインナレースを有し、その外面にインナレースの長手軸線に関しメリジオナル平面に第一、第二の内案内溝が設けてあり、該内案内溝がそれぞれ第一又は第二外案内溝に対向し且つこれとともにそれぞれ2つの開口側又は正面側から出発してアンダーカットなしに形成してあり且つ一緒に、トルクを伝達するボールを受容し、このボールがインナレースの外面とアウタレースの内面との間に配置したケージの窓内で案内してある回転式等速継手に関する。」
(き)「【0006】本発明の教示によれば、ケージがアウタレース及びインナレースに対しどの角度位置にあっても限定された安定した位置が制御条件によって維持されるので、逆方向にアンダーカットなしに延びた案内溝によりインナレース上及びアウタレース内でのケージの案内が不要となる。第一軌道のボールはケージを常に1方向に、そして第二軌道のボールはこれとは逆方向に付勢する。これによりケージは常に正確に位置決めして保持される。力は均衡している。ケージをインナレース又はアウタレースに対し案内する必要はない。これにより摩擦事情も好影響を受ける。」
(3)対比
本願発明1と引用例1発明とを比較すると、後者の「ボールを受容する複数の第1の外方走行溝3及び第2の外方走行溝4」は前者の「一般的に球状の複数の外面ボールトラック」に相当し、以下同様に、「外方部材2」は「アウタレース」に、「ケージ12」は「ケージ」に、「ボールを受容する複数の第1の内方走行溝9及び第2の内方走行溝10」は「一般に球状の複数の内面ボールトラック」に、「内方部材7」は「インナレース」に、「ボール13」は「ボール」に、「軸11」は「シャフト」に、「蛇腹状ブーツ23」は「ブーツ」に、「1つの軸方向に開いている第1の内方走行溝9と第1の外方走行溝3とからなるグループ」は「1つの軸方向に開いている前記内面ボールトラックと前記外面ボールトラックとから成る第1グループ」に、「反対軸方向に開いている第2の内方走行溝10と第2の外方走行溝4とからなるグループ」は「反対軸方向に開いている前記内面ボールトラックと前記外面ボールトラックとから成る第2グループ」に、「等速継手」は「等速ジョイント」に、それぞれ相当する。
よって、本願発明1の用語に倣って整理すると、両者は、
「一般的に球状の複数の外面ボールトラックを有する内面を備えたボアを有するアウタレースと、
アウタケースのボア内に配置されたケージと、
一般に球状の複数の内面ボールトラックを外面に有し、1つの軸方向に開いている内面ボールトラックと外面ボールトラックとから成る第1グループ、および反対軸方向に開いている内面ボールトラックと外面ボールトラックとから成る第2グループとを備えるインナレースと、
ケージの開口、当該開口と対応する内面ボールトラックおよび外面ボールトラックの間にそれぞれ配置された複数のボールと、
インナレースに連結されたシャフトと、
ブーツと
を備え、
ケージの開口、アウタレース、インナレース、およびボールは、ケージを心合わせし、かつ支持するような相互関係を有する、
等速ジョイント。」である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
本願発明1の「ブーツ」は、「ケージ内に配置された部分を有する」のに対し、引用例1発明の蛇腹状ブーツ23はそのような事項を有しているかどうか明確でない点。
[相違点2]
本願発明1の「ケージ」は、「前記アウタレースの内面および前記インナレースの外面に対し、前記シャフトのゼロ角度位置と高角度位置との間の連接範囲を通して非支持状態を保」つものであるのに対し、引用例1発明の「ケージ12」はそのような事項を有しているかどうか明確でない点。
[相違点3]
本願発明1は、「前記外面ボールトラックは、軸方向オフセット及び半径方向オフセットが組み込まれ、かつ前記内面ボールトラックは軸方向オフセット及び半径方向オフセットが組み込まれており、前記ボールのボール径をピッチ円直径で除算した比率C1、前記外面ボールトラックの前記軸方向オフセットを前記ピッチ円直径で除算した比率X1、前記外面ボールトラックの前記半径方向オフセットを前記ピッチ円直径で除算した比率Y1により特定され、
前記比率X1は0.06753以上かつ0.135以下であり、前記比率Y1は0.188以上であり、前記比率C1は、0.217以上かつ0.275以下であるようにしたことにより、衝突事故時に前記インナレースと前記ボールが前記アウタレースから押し出され、前記シャフトが前記アウタレースのボアの中に潰れ込むことができるようなバランスを生じさせる」ものであるのに対し、
引用例1発明はそのような事項を有していない点。
(4)判断
(4-1)相違点1について
等速継手のブーツをケージ内に配置された部分を有するものとするか否かは、最大屈曲角等の使用条件や耐久性などに応じて当業者が適宜行う設計事項にすぎず、引用例1発明の蛇腹状ブーツ23を、ケージ12内に配置された部分を有するものとすることに格別の困難性はない。
(4-2)相違点2について
引用例2には、「【0006】…ケージがアウタレース及びインナレースに対しどの角度位置にあっても限定された安定した位置が制御条件によって維持される…。第一軌道のボールはケージを常に1方向に、そして第二軌道のボールはこれとは逆方向に付勢する。これによりケージは常に正確に位置決めして保持される。力は均衡している。ケージをインナレース又はアウタレースに対し案内する必要はない。これにより摩擦事情も好影響を受ける。」と記載されている。そして、一般に、部材の接触箇所を少なくすることによって、摩擦の低減、摩擦による損傷防止を図り得ることは当業者に明らかであり、引用例1発明に引用例2の上記事項を適用して、ケージ12がどの角度にあっても 外方部材2の内面、内方部材7の外面に接触しない状態を保つものとすることは、当業者が適宜になし得たものである。
(4-3)相違点3について
引用例1発明のような等速ジョイントにおいて、内方部材7、外方部材2の走行溝に軸方向オフセット、半径方向オフセットを組み込むことは、例えば、特表2002-541395号公報(特に特許請求の範囲、図1)、特開平9-317784号公報(特に特許請求の範囲、図1)、特開2001-130209号公報(特に段落【0049】、図4)にみられるように周知である。
軸方向オフセット、半径方向オフセットの設計にあたって、許容負荷トルク、ボールの脱落、トラック荷重のピーク値、最大作動角等の諸条件を考慮して適切な数値ないし数値範囲を求めることは、例えば、上記の特開平9-317784号公報(特に【0006】?【0009】)に示されているように、技術的にみて合理的であるとともに当業者に広く知られている。(なお、この特開平9-317784号公報の【0010】には、軸方向オフセット量Fの「最適範囲」が示されているが、それは、上記諸条件を考慮した当該発明者の当時の見解であって、その上下限値について普遍的な定量的根拠が示されているわけではない。)
そして、(a)本願発明1の数値範囲の上下限値の意義について定量的客観的に明確な説明は特になされておらず、かつ、該上下限値に格別顕著な技術的意義があるとは認められないこと、(b)上記の特開平9-317784号公報(特に【0010】、【0014】)には、比R1(=F/PCR。Fは軸方向のオフセット量。)が0.14であり、ボールのピッチ円径(PCD_(BALL)=2×PCR)と直径(D_(BALL))との比r1(=PCD_(BALL)/D_(BALL))が3.3≦r1≦5.0である例が、上記の特開2001-130209号公報(特に【0049】)には、比R1が0.14である例が、上記の特表2002-541395号公報(特に【請求項1】、【0016】)には、d2/PCD(d2は径方向のオフセット。)が0.15?0.25である例が、それぞれ示されており、これらは、本願発明1の数値範囲を満たす値ないしそれに近接する値であること、以上を合わせ考えると、引用例1発明において、上記のように諸条件を考慮して、等速継手の各部寸法関係を本願発明1の数値範囲を満たす値とすることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。
また、衝突事故時にシャフトが後方へ押し出されるようにして衝撃を吸収することは、例えば、特開平11-227479号公報(特に【0003】、【0004】、【0026】、【0028】)、特開2003-220846号公報(特に【0001】?【0007】、【0016】)に示されているように周知である。単純なシャフトの押し出しないしその態様がボール等の寸法・形状のいかんによることは自明であり、引用例1発明において、そのような作用を奏し得るようにボール13等の等速継手各部の形状や寸法関係を設計することは適宜の設計であって、格別困難なことではない。
そして、本願発明1の奏する効果は、引用例1、2に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が予測し得た程度のものである。

以上に関して、請求人は、平成25年3月11日付け意見書において、「このように本願発明は、『比率X1、比率Y1および比率C1の3つのパラメータによる数値範囲を定めたことにより、等速ジョイントとしての効率を一段と向上させながら、衝突事故時にシャフトがアウタレースのボアの中に潰れ込むようなバランスを実現している』という格別な作用効果を奏するのである。」と主張する。
本願明細書には、確かに、「【0017】スタブシャフト66は、スプライン50によって等速ジョイント30のインナレース46に固定される。スタブシャフト66は一般的に、中実であり、普通はその一端部においてチューブ68に溶接される。スタブシャフト66とプロペラシャフトチューブは、衝突事故時にアウタレース32の内側ボア34内に進入し、従って衝突における力を減少させかつアウタレース32が潰れる時にエネルギーを吸収する。1つの態様では、ピッチ円直径(PCD)とボール44のサイズは、衝突事故時にインナレース46とボール44がアウタレース32から押し出され、従ってシャフト66とチューブ状部材がその中に潰れ込むことができるようなバランスを生じさせることができるような方法で予め定められる。」と記載されており、「1つの態様」としてではあるが、衝突事故時に関して、「ピッチ円直径(PCD)とボール44のサイズ」が「予め定められる」ことが説明されている。
しかし、(ア)「比率X1、比率Y1および比率C1」の数値範囲について記載している【0018】?【0020】には「衝突事故時」の作用については特に説明がなく、「『比率X1、比率Y1および比率C1の3つのパラメータによる数値範囲を定めたことにより、等速ジョイントとしての効率を一段と向上させながら、衝突事故時にシャフトがアウタレースのボアの中に潰れ込むようなバランスを実現している』という格別な作用効果を奏する」という主張が、本願明細書ないし図面のどの記載に基づくのか、必ずしも明確でない。(イ)衝突事故時にシャフトが押し出されるかどうかは、例えば、衝突の衝撃力や継手各部の材質によるが(本願明細書の【0008】、【0011】、【0012】等には「あらゆるタイプの金属材料」、「硬質セラミック」、「プラスチック」、「複合材料」と記載がある。)、本願の請求項1には、シャフトが押し出される衝撃力をどのような大きさにするのか、どのような材質とするのかについて特に記載されておらず無限定であって、シャフトが押し出される際の衝撃力の設定や材質の選択等に応じた種々様々の場合に、適切な各パラメータをどのようにして求めるのか、特に説明がなく、必ずしも明確でない。(ウ)「衝突事故時に前記インナレースと前記ボールが前記アウタレースから押し出され、前記シャフトが前記アウタレースのボアの中に潰れ込むことができるようなバランスを生じさせる」という作用との関係において、本願発明1の3つの数値範囲の上下限値に定量的にみてどの程度の技術的意義があるのか、特に説明がなく、必ずしも明確でない。(エ)本願明細書の【0017】に「ピッチ円直径(PCD)とボール44のサイズは、…」と記載されているように、所期の作用を奏するために重要な点は「ピッチ円直径(PCD)」や「ボール44」の「サイズ」であり、それは、必ずしも、その比(比率C1)と同等ではない。仮に、適切な「ピッチ円直径(PCD)とボール44のサイズ」が「予め定められ」たとしても、特許請求の範囲において、それを単にその比で表現すると、「予め定められ」た適切な「ピッチ円直径(PCD)とボール44のサイズ」そのものは特定されず、特許請求の範囲には、その比の値を満たす、「予め定められ」た適切な「ピッチ円直径(PCD)とボール44のサイズ」以外の無数の「サイズ」のものが含まれることになる。以上を勘案すると、請求人の上記主張はにわかに措信し難いが、それはひとまず措くとしても、引用例1発明において、衝突事故時にシャフトが後方へ押し出されるようにして衝撃を吸収することは周知であり、引用例1発明において、そのような作用を奏し得るようにボール13等の等速継手各部の形状や寸法関係を設計することは適宜の設計であって、格別困難なことではないことは、上述したとおりである。

(5)むすび
したがって、本願発明1は、引用例1、2に記載された発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5.結語
以上のとおり、本願発明1(本願の請求項1に係る発明)が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2?4に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-07 
結審通知日 2013-05-21 
審決日 2013-06-04 
出願番号 特願2007-537903(P2007-537903)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 克久  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 島田 信一
森川 元嗣
発明の名称 高角度等速ジョイント  
代理人 山川 茂樹  
代理人 山川 政樹  
代理人 黒川 弘朗  

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