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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A46B
管理番号 1280961
審判番号 不服2013-6692  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-04-11 
確定日 2013-10-31 
事件の表示 特願2008- 20904号 「歯間ブラシ」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 8月13日出願公開、特開2009-178390号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.出願の経緯
本願は平成20年1月31日の出願であって、平成24年10月10日付けで拒絶理由が通知され、平成24年12月11日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年1月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し同年4月11日に審判請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明は、平成24年12月11日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「ワイヤブラシ部と、前記ワイヤブラシ部に接続されて使用時に把持される把持部とを有する歯間ブラシにおいて、
前記ワイヤブラシ部は、ワイヤ部と、前記ワイヤ部に植毛された複数のフィラメントからなるブラシ部とを有し、
前記把持部は、前記ワイヤブラシ部に接続される後方把持部と、前記後方把持部の前方に接続される前方把持部とを備えており、前記ワイヤブラシ部の座屈強度が150?800gfであり、前記前方把持部の中心線と前記後方把持部の中心線とのなす角度が、120?175度であることを特徴とする歯間ブラシ。」

3.引用文献に記載された事項
(1)これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前である平成10年5月29日に頒布された登録実用新案第3049028号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。

1a.「互いに交わる直線状の軸線を有する前方把持部(1a)と後方把持部(1b)との二つの部分から成る把持部(1)と、該前方把持部(1a)に根本部が埋入固定され且つ該前方把持部(1a)の軸線の延長線上にワイヤ(2b)で撚り合わされて截頭円錐形状又は略円筒形状にブラシ(2a)が形成させているブラシ部(2)とから成る歯間ブラシであって、該把持部(1)の前方把持部(1a)の軸線が後方把持部(1b)の軸線に対して150?170度の範囲の角度(θ)をなしていることを特徴とする歯間ブラシ。」(【実用新案登録請求の範囲】【請求項1】)

1b.「歯間ブラシの主な仕様は、ワイヤの太さ(径)が0.2?0.4mm、ブラシの太さ(径)が1.5?8mm、ブラシ(ナイロン繊維が挟み込まれている部分)の長さが10?20mm程度にされている。」(段落【0003】)

1c.「2は把持部1の前方把持部1aに根本部が埋入固定され且つ前方把持部1aの軸線の延長線上に二本のステンレス製のワイヤ2bでナイロン等の繊維が撚り合わされて截頭円錐形状又は略円筒形状にブラシ2aが形成させているブラシ部である。このブラシ部2のステンレス製のワイヤ2bの太さやブラシ2aの大きさは従来品と同様にしておくことが好ましい。」(段落【0017】)

したがって、上記記載事項1a、1c及び図1?5の記載を考慮すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「互いに交わる直線状の軸線を有する前方把持部と後方把持部との二つの部分から成る把持部と、該前方把持部に根本部が埋入固定され且つ該前方把持部の軸線の延長線上に二本のステンレス製のワイヤでナイロン等の繊維が撚り合わされて截頭円錐形状又は略円筒形状にブラシが形成されているブラシ部とから成る歯間ブラシであって、該把持部の前方把持部の軸線が後方把持部の軸線に対して150?170度の範囲の角度をなしている歯間ブラシ。」

(2)同じく、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前である平成10年6月9日に頒布された特開平10-152758号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。

2a.「【従来の技術】「歯間ブラシは?ワイヤーとしては一般に0.25mm?0.35mmの直径を有するステンレス鋼線、なかでもJIS規格のSUS304のステンレス鋼線が多用されている。」(段落【0002】)

2b.「【発明が解決しようとする課題】歯間ブラシは歯間に挿通したブラシを押し引きすることにより歯間に堆積した歯垢や歯石を除去するものであるから、ブラシの軸芯を構成するワイヤーは歯間に挿通可能な太さであって、且つワイヤーには押し引き動作によっても座屈しない剛性が要求される。また歯間ブラシはブラシ基部を折り曲げてブラシを歯間に位置づけることから、折り曲げ動作に対しても破断しない耐久性も要求される。」(段落【0003】)

2c.「ここで本発明の歯間ブラシ用ワイヤーの組成上の特徴を明確化するために、従来技術として説明した特開平7-227315号公報において使用されたコバルト基合金であるNAS604PH並びに、歯間ブラシ用ワイヤーとして従来公知のSUS304、更にはこれの機械的強度を高めたSUS304N1、SUS304N2との組成の比較を表1として示す。」(段落【0019】)

2d.【表4】には、歯間ブラシの座屈荷重を測定した性能評価結果が開示され、SUS304の座屈強度286.8gをはじめ、NAS604PHの座屈強度435.7g、SUS304N1の座屈強度330.0g、SUS304N2の座屈強度385.6g、本発明実施例の合金の座屈強度402.4gが記載されている。

2e.「次に本発明者は本発明のワイヤーと従来公知のSUS304のワイヤーについて、それぞれの使用感についての実使用評価を14人の被験者を対象にして行った。評価項目はワイヤーの弾力のあるなし、ワイヤーの弾力の好き嫌い、ワイヤーの曲がりにくさ、使用何日目に曲がったか、ワイヤーの折れ、ワイヤーの耐久性、歯間部への挿入性、歯や歯肉への感触、清掃効果、毛抜け、総合評価の合計11項目とし、1週間朝晩交互に使用して、表5に示す結果を得た。」(段落【0027】)

4.対比

本願発明と、引用発明とを対比すると、後者の「前方把持部」、「後方把持部」は、その機能・構成からみて、それぞれ前者の「後方把持部」、「前方把持部」に相当する。
そして、後者の「ブラシ部」は、二本のステンレス製のワイヤでナイロン等の繊維が撚り合わされて截頭円錐形状又は略円筒形状に形成されたものであるから、前者のワイヤ部と、前記ワイヤ部に植毛された複数のフィラメントからなるブラシ部とを有する「ワイヤブラシ部」に相当しているといえる。
また、後者において、ブラシ部が「前方把持部に根本部が埋設固定されて」おり、把持部が「前方把持部と後方把持部の二つの部分から成る」ことは、前者の「把持部は、ワイヤブラシ部に接続される後方把持部を備え、前記後方把持部の前方に接続される前方把持部とを備え」ることに相当する。
そして、後者において、「把持部の前方把持部の軸線が後方把持部の軸線に対して150?170度の範囲の角度をなしている」は、前者における「前方把持部の中心線と前記後方把持部の中心線とのなす角度が、120?175度である」の範囲に含まれている。
また、後者において、歯間ブラシの使用時に把持部を把持することは明らかであるから、

結局、両者は
「ワイヤブラシ部と、前記ワイヤブラシ部に接続されて使用時に把持される把持部とを有する歯間ブラシにおいて、
前記ワイヤブラシ部は、ワイヤ部と、前記ワイヤ部に植毛された複数のフィラメントからなるブラシ部とを有し、
前記把持部は、前記ワイヤブラシ部に接続される後方把持部と、前記後方把持部の前方に接続される前方把持部とを備えており、前記前方把持部の中心線と前記後方把持部の中心線とのなす角度が、150?170度である歯間ブラシ。」である点で一致しており、次の点で相違する。

相違点
本願発明においては、ワイヤブラシ部の座屈強度が、「150?800gf」であるのに対し、引用発明においては、ワイヤブラシ部の座屈強度については不明である点。

5.当審の判断
上記相違点について検討する。

引用文献1には、「ブラシ部2のステンレス製のワイヤ2bの太さやブラシ2aの大きさは従来品と同様にしておくことが好ましい。」(記載事項1c)と記載され、また、従来の技術として、「歯間ブラシの主な仕様は、ワイヤの太さ(径)が0.2?0.4mm、ブラシの太さ(径)が1.5?8mm、ブラシ(ナイロン繊維が挟み込まれている部分)の長さが10?20mm程度にされている。」(記載事項1b)と記載されている。

引用文献2には、従来の技術として、「ワイヤーとしては一般に0.25mm?0.35mmの直径を有するステンレス鋼線、なかでもJIS規格のSUS304のステンレス鋼線が多用されている」(記載事項2a)と記載されている。そして、歯間ブラシのワイヤーとして従来公知のSUS304を含む各ワイヤーについての記載(記載事項2c)があり、表4において、歯間ブラシのワイヤブラシ部の座屈強度がSUS304において286.8gであり、最大の座屈強度が435.7gに至るまでの性能評価結果(記載事項2d)が記載されている。

そして、引用文献1における従来品のワイヤと引用文献2における従来品のワイヤはいずれもステンレス製であり、直径もほぼ同等であること、及び引用発明のブラシ部においても歯間に挿通したワイヤーの摺動操作を行うにあたり、座屈しない一定の強度が必要なことは明らかであるから、引用発明において、ワイヤーにおいて引用文献2に記載されている従来技術のワイヤを使い、ワイヤブラシ部の座屈強度を引用文献2に記載されているワイヤブラシ部の座屈強度、すなわち「286.8?435.7gf」程度とすることは当業者が容易になし得ることである。
また、歯間ブラシである以上、スムーズな歯間への挿入、摺動等については当然考慮することであり、したがって、前記相違点に係るワイヤブラシ部の座屈強度「150?800gf」とすることは当業者が適宜設定し得ることである。
なお、以下において、請求人の主張についても検討する。

(1)ワイヤブラシ部の座屈強度が、「150?800gf」であることの臨界的意義についての検討
請求人は審判請求書(第8頁)において、「しかしながら、本願明細書の表1や段落0031等を参照すれば明らかなように、ブラシ座屈強度が下限境界値150gfより小さい50gf及び100gfのときに、金属不快感のそれぞれの平均評価値が3.9及び4.7であり、ブラシ座屈強度が上限境界値800gfより大きい850gf及び900gfのときに金属不快感のそれぞれの平均評価値が4.8及び4.2であるのに対し、『ワイヤブラシ部の座屈強度が150?800gf』である本願発明の平均評価値は7.0以上であり、本願発明は、数値限定の内が外に対して、金属不快感を149%乃至213%改善するという際だって優れた効果を奏します。」と主張している。
しかしながら、上記主張は戻り角度θ2が27度(表1参照)の際の主張であり、本願明細書の段落【0035】には、「本発明者は、さらに、実施例1の歯間ブラシ10において、ワイヤブラシ部2の戻り角度θ2を2?25度の範囲とすることで、金属不快感をさらに改善できることを見出した。すなわち、実施例2における歯間ブラシ10は、さらに、実施例1における歯間ブラシ10のワイヤブラシ部2の戻り角度θ2が2?25度の範囲内となるように構成したものである。」と記載されている。そして、段落【0035】?【0042】、【表2】において、戻り角度θ2を2?25度の範囲とすることにより、平均評価値は向上し、金属不快感が軽減されることが記載されている。
したがって、「金属不快感の軽減」はワイヤブラシ部の座屈強度だけに起因するものではなく、戻り角度θ2も十分影響するし、平均評価値も、被験者の感覚、官能によるものであり、ブラス座屈強度において50(gf)刻みという粗い間隔で求められたものであるから、ワイヤブラシ部の座屈強度が「150?800gf」であることに、「金属不快感の軽減」において格別臨界的意義があるとは認められない。

(2)本願発明の作用効果についての検討
請求人は審判請求書(第7頁)において、「引用文献1,2はいずれも、「金属不快感の低減」に係る課題の示唆すら記載していません。」と主張している。ここで、「金属不快感の低減」は本願明細書の段落【0031】によれば、「ワイヤブラシ部2を歯間に斜めに挿入する時およびその後の清掃時においても、ワイヤブラシ部が中央付近で屈曲することなく、かつ歯面に沿ってしなやかに曲がるために、スムーズに歯間に挿入することができ、かつ清掃時にもワイヤブラシ部2と歯面との間に余計な力がかからないため、ワイヤブラシ部2と歯との不必要な接触を抑えることができる。」ことである。一方、引用文献2の段落【0027】、【表5】には、実使用評価について記載されており、ワイヤーの弾力のあるなし、ワイヤーの曲がりにくさ、歯間部への挿入性、歯や歯肉への感触、清掃効果等についても評価され、総合的にみて「金属不快感の低減」についても評価されている。なお、引用文献1,2はいずれも歯間ブラシである以上、一定の清掃効果が求められ、そためには、スムーズな歯間への挿入、摺動等は不可欠であり、「金属不快感の低減」は自明な課題でもある。

以上を踏まえると、本願発明の効果も引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が予測し得た程度のものであって、格別なものとはいえない。

したがって、本願発明は引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび

以上のとおり、本願発明は引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-05 
結審通知日 2013-09-06 
審決日 2013-09-19 
出願番号 特願2008-20904(P2008-20904)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A46B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近藤 裕之  
特許庁審判長 本郷 徹
特許庁審判官 関谷 一夫
松下 聡
発明の名称 歯間ブラシ  
代理人 富田 博行  
代理人 北来 亘  
代理人 小野 新次郎  
代理人 小林 泰  
代理人 星野 修  

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