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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1281022
審判番号 不服2012-18246  
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-09-19 
確定日 2013-10-30 
事件の表示 特願2008-303094号「先進の血管内移植片」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 2月26日出願公開、特開2009- 39581号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成14年12月20日を国際出願日とする特願2003-554049号(パリ条約による優先権主張 2001年12月20日 米国、2002年3月5日 米国)の一部を平成20年11月27日に新たな特許出願としたものであって、平成23年5月18日付けの拒絶理由通知に対し、同年11月24日付けで手続補正がされたが、平成24年5月15日付けで拒絶査定がされ、その後、同年9月19日付けで拒絶査定不服審判の請求がされると同時に特許請求の範囲についての手続補正がされたものである。


II.平成24年9月19日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成24年9月19日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「【請求項1】
筒状の移植片本体区画と、
該筒状の移植片本体区画から延びる半径方向に拡開可能なステントとを含み、該ステントは、近位端部と、遠位端部と、複数の支柱を備え且つ対向する近位及び遠位の頂点を有するように形成された蛇行リングとを有しており、該ステントの前記遠位端部は前記移植片本体区画に固定され、
さらに、
前記支柱の位置から前記ステントの遠位側の端部に向けて延びる前記各支柱の延長部として一体的に形成された少なくとも一つの逆棘を含み、
前記少なくとも一つの逆棘は、該逆棘が延びる支柱の長手軸線に対して約10°から約45°の仰角を有し、
前記少なくとも一つの逆棘の前記支柱上の位置は、近位側の頂部に遠い位置、又は遠位側の頂部に近い位置であることを特徴とする血管内移植片。」
(なお、下線は、補正箇所を明示するために付したものである。)

2 補正の目的及び新規事項の追加の有無
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された、発明を特定するために必要な事項である「逆棘」について、「前記少なくとも一つの逆棘は、該逆棘が延びる支柱の長手軸線に対して約10°から約45°の仰角を有し、前記少なくとも一つの逆棘の前記支柱上の位置は、近位側の頂部に遠い位置、又は遠位側の頂部に近い位置である」と技術的に限定するものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。

3 独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反しないか)について以下に検討する。

3-1 刊行物の記載事項
(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平6-23031号公報(以下「刊行物1」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

1a:「【請求項21】大動脈分岐に隣接する大動脈瘤を回復するため患者の血管内に取付けるための血管内移植片において、
a.近位端を有する本体部分と、
b.それぞれ近位端を有しまた前記本体部分に接合され流体接続した第1および第2管状部材と、
c.前記本体部分をその近位端において動脈系に碇着するための手段と、
d.前記第1管状部材と第2管状部材の遠位端をそれぞれ血管系に碇着する手段であって、前記碇着手段は、血管系と前記本体部分および前記第1、第2管状部材との間に流体連通が存在するように血管系と移植片との実質的液密シールを成す碇着手段とを含むことを特徴とする血管内移植片。
【請求項22】前記碇着手段はそれぞれ自動拡張性バネ手段を含み、これらのバネ手段は、自動拡張した時に患者の血管系と強く係合する複数のフックを備えることを特徴とする請求項21に記載の血管内移植片。
【請求項23】前記バネ手段は血管中の自由運動を可能とする低プロフィルの圧潰直径を有し、自動拡張後は、患者の血管系の内径と実質的に同等またはこれより大きな拡大直径を有することを特徴とする請求項22に記載の血管内移植片。」(【特許請求の範囲】)

1b:「【課題を解決するための手段】一般的に本発明の目的は移植片の迅速な展開と配置を容易する装置および方法をもって移植片を大動脈分岐を横断して定位置に固着する事のできる改良型の分岐型血管内移植片およびその展開装置および展開方法を提供するにある。
本発明の他の目的はこの動脈の中に確実に固定する事のできる本体部分と、腸骨動脈の中に確実に固定する事のできる脚とを有する前記のような移植片を提供するにある。」(段落【0004】?【0005】)

1c:「分岐を有する血管内移植片20を図4に示す。この移植片20はEP-A-0,466,518に開示の拡張性内腔間血管移植片と類似の多くの特性を有する。しかしこの移植片20は下記に説明するように分岐を有する点において前記特許の移植片と非常に相違する。移植片20は拡張性内腔間血管移植片であって、開放端部113を有する主円筒体112を有するこの円筒体112はその他端に分岐または二股114を有し、この下端は第1脚および第2脚116、117の中に開き、これらの脚は前記の開放端113と反対側にそれぞれ開放端118と119を有する。連続壁体が円筒体112と脚116および117を形成し、この壁体はダクロン型繊維などの外科移植可能の素材から織成される。特に適当な材料はUSCI DeBakeyの柔らかな織成ダクロン血管補形物である。円筒体112は5乃至30cmの長さを有し、各脚は2乃至15cmの長さを有する。本体112は12-30mmの最大膨張直径を有するが、脚116と117は6-12mmの範囲の最大直径を有する事ができる。
本体112および脚116、117の上に放射線不透過性マーカ121が備えられ、これらのマーカはダクロン縫合糸などの適当手段によって移植片の織布に対して固着された白金ワイヤなどの適当材料から成る。
拡張性本体の開口113に隣接して、拡張性バネ取り付け手段126が固着されている。また第1脚116の開口118に隣接して拡張性バネ取り付け手段127が固着されている。これらの拡張性バネ取り付け手段126と127は、移植片20を内部に配置する血管壁体に対して移植片20を固着するための固定手段として役立つ。拡張性バネ取り付け手段126はEP-A-0,466,518に記載の構造と同様の構造を有し、本体112の開口113を初期の圧縮または圧潰された状態から拡張された状態まで弾発する。同様に拡張性ばね取り付け手段127は開口118を初期の圧縮または圧潰された状態から拡張された状態まで弾発する。EP-A-0,466,518に説明されいるように、拡張性バネ取り付け手段126と127は複数のV形部材131から成り、各V形部材の頂点132はコイルバネ133によって形成されて、各V形部材の脚134と136をこのV形部材の面において外側に弾発する。EP-A-0,466,518に記載のように、これらの頂点133は拡張性バネ取り付け手段の軸線に対して横方向に延在する長手方に相互に離間された3平行面に配置され、この場合第1面は開口の内側に配置され、第2面は開口の外部に、しかし開口に近接した位置に配置され、第3面は開口から相当距離に配置される。
取り付け手段126開口113から突出した頂点132および取り付け手段127の開口118から突出した頂点132にフック状要素141が備えられる。これらのフック状要素141はV形部材131の脚136に対して溶接などの適当な手段によって接合される。これらのフック状要素141のフック142は、移植片の配置される血管壁体の中に進入してこの血管壁体から少し突出するのに十分な長さである。取り付け手段126と127は図4に図示のようにダクロンポリエステル縫合糸144によって移植片に対して固着される。」(段落【0019】?【0022】)

1d:「図8に図示の拡張性バネ取付け手段163は前述の拡張性バネ取付け手段126、127と非常に類似した構造を有する。拡張性バネ取付け手段163は複数のV形部材201を有し、このV形部材の頂点202はコイルバネ203から成り、これらのコイルバネの脚204、206はV形の面において拡張収縮自在である。拡張性バネ取付け手段126、127の場合と相違し、これらのV形部材201はその頂点202がこの拡張性バネ取付け手段の軸線に対して垂直な相互に離間された2平行面にのみ配置されるように構成されている。フック状要素207が脚204または206に接着されている。フック状要素207はそれぞれフック208を備え、これらのフック208は拡張性バネ取付け手段の外向きにまた拡張性バネ取付け手段の他端に向かう方向に向けられている。拡張性バネ取付け手段163の他端に他のフック状要素209が脚204に対して溶接などの適当手段によって接合され、これらのフック要素209はそれぞれフック211を備え、これらのフック211は外向きに、前記のフック208と逆方向に、拡張性バネ取付け手段の他端に向けられている。従って、フック208、211は反対方向に向けられ、フック208は少し遠位端方向に傾斜され、フック211は少し近位端方向に傾斜され、下記に記載のようにこの拡張性バネ取付け手段163が取付けられた移植片脚117の遠位端方向および近位端方向の移動を防止する事は明かである。」(段落【0029】)

1e:「これによりバルーン74は図13に図示のように移植片20の本体部分112の近位側末端の中に引き込まれるのでバルーン74の中間部分は全体として拡張性バネ取付け手段126と整合する。つぎに注射器またはその他適当な膨張手段をリューエル取り付け部材88に連結する事により、バルーン膨張内腔の中にガスを供給してバルーン74を膨張させる。バルーン74の膨張に際して、近位端拡張性バネ取付け手段126によって担持されたフック142が動脈瘤の近位側の正常な大動脈壁体の内側面に確実に着座される。」(段落【0035】)

1f:図4には「拡張性バネ取り付け手段126」の全体構造が図示されてはいないが、記載事項1dに「図8に図示の拡張性バネ取付け手段163は前述の拡張性バネ取付け手段126、127と非常に類似した構造を有する。」とあるので、図4及び図8の図示内容並びに記載事項1c及び1dの記載を総合すれば、以下のことがいえる。
i)「拡張性バネ取り付け手段126」は、近位端及び遠位端を有し、それぞれの近位端及び遠位端に頂点132を有するものといえる。
ii)記載事項1dの「取り付け手段126開口113から突出した頂点132」の記載から、拡張性バネ取り付け手段126の近位端の頂点は円筒体112の開口113から突出しているものといえる。
iii)記載事項1d「取り付け手段126と127は図4に図示のようにダクロンポリエステル縫合糸144によって移植片に対して固着される。」の記載及び図4の図示内容からして、拡張性バネ取り付け手段126の遠位端は円筒体112に固着されているものといえる。
iv)さらに、記載事項1aの「これらのバネ手段は、自動拡張した時に患者の血管系と強く係合する複数のフックを備える」、事項1dの「フック208、211は反対方向に向けられ、フック208は少し遠位端方向に傾斜され、フック211は少し近位端方向に傾斜され、下記に記載のようにこの拡張性バネ取付け手段163が取付けられた移植片脚117の遠位端方向および近位端方向の移動を防止する事は明かである。」の各記載も併せみれば、拡張性バネ取り付け手段126のフック142も遠位端方向に傾斜され、患者の血管系と係合して移植片20の遠位端方向の移動を防止するものといえる。

1g:記載事項1aの「血管内移植片」、「近位端を有する本体部分」、「本体部分をその近位端において動脈系に碇着するための手段」は、それぞれ記載事項1dの「血管内移植片20」、「円筒体112」、「拡張性バネ取り付け手段126」に対応するものといえる。

よって、これらの記載事項及び図面の図示内容を総合すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「円筒体112と、
拡張性バネ取り付け手段126とを含む血管内移植片20であって、
拡張性バネ取り付け手段126は血管中の自由運動を可能とする低プロフィルの圧潰直径を有し、自動拡張後は、患者の血管系の内径と実質的に同等またはこれより大きな拡大直径を有し、
該拡張性バネ取り付け手段126は、近位端及び遠位端を有し、それぞれの近位端及び遠位端に頂点132を有し、該近位端の頂点は円筒体112の開口113から突出し、該遠位端は円筒体112に固着され、
該拡張性バネ取り付け手段126は複数のV形部材131から成り、フック状要素141はV形部材131の脚134,136に対して溶接などの適当な手段によって接合され、フック状要素141のフック142は遠位端方向に傾斜され、患者の血管系と係合して移植片20の遠位端方向の移動を防止する、血管内移植片20。」

(2)刊行物2
原査定において周知例として提示され、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特表平11-501526号公報(以下「刊行物2」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

2a:「血管または体の他の管内にステントを機械的に定着する改良ステント。好ましい実施例においてこのステントは、ステントの非膨張状態の時はステントの表面内に留まり、ステントが膨張するとステントの表面から突出するひげ線を有している。これらのひげ線は、例えば、移植及び/もしくは血管の内層と咬合してステントを機械的に血管に取付けるようになしてある。ステントを適所に保持するために摩擦のみに依存していないので、ステントは血管に対してより少ない力を与え、これは、ひるがえって、膨張のために少ない力を要する薄いステントが使用できることを意味する。加えて、ステントの展開後に動脈にはより少ない半径方向の力が永久にかけられるので、これは血管に対するより少ない損傷となる。」(【要約】)

2b:「図面を参照して、ステントは管状メッシュ状部材10からなる。このステントはステンレススチールチューブまたは他の金属から製造され、その中に細長い開口12が従来のレーザー技術または放電加工で切削されている。細長い開口12を形成すべく管状材を除去すると、チューブ軸と共直線である外周リブ14及びバー16として特徴づけられる交さ部材の多重を生じる。図1に図示のごとく、外周リブ14は、隣接する矩形開口12の半分の点で共直線バー16の1つと交さする。」(第5頁第4?10行)

2c:「本発明では、開口の一端で外周リブ14から細長い開口12内へひげ線18が突出している。各ひげ線は非膨張状態では管状部材の表面に扁平に横たわっている。ひげ線18との接合点で外周リブ14に一対の斜めスロット20と22(図3参照)を設けると、ステントの内面に力がかけられた時、ステントの膨張がひげ線18を膨張の時にステントの表面から外側半径方向へ移動させること(図4参照)を発見した。換言すると、ステントが展開するとひげ線18も展開するので、ステントが血管の表面と接触すると、ひげ線が血管の内側内層まで透通してステントを適所に定着させる。」(第5頁第20?27行)

(3)刊行物3
原査定において周知例として提示され、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平8-332229号公報(以下「刊行物3」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

3a:「【課題を解決するための手段】簡単に言うと、本発明は、疾患した血管を治療するための、より詳細には動脈瘤(特に、腹部大動脈の動脈瘤)を治療するためのカテーテル・移植片送出システムに使用される多アンカーステントを提供する。多アンカーステントには、ステントの円周全体にわたって、ステントが膨張状態にあるとき部分的に外方に向く複数の刺が設けられているので、アンカーの正確な配置はさほど重要ではなく、ステントを健康な組織に固定してステントを腹部大動脈の動脈瘤に適当に固定しやすくする。・・・本発明の多アンカーステントは、ステントを従来のものよりも大きな直径まで半径方向に膨張させる形体を有しており、移植片を健康な組織に確実に固定することを助けるように、ステントの円周全体に沿って、動脈瘤の少なくとも上方で大動脈壁に刺さるフック又は刺を備えている。…」(段落【0007】)

3b:「ステンレス鋼の膨張性状が、ステント10にとって好ましい材料となる。より詳細には後述するように、刺20を有するステントは、化学的エッチング、レーザー切断、又は放電機械加工(EDM)等によって、平らなシート材料から形成される。ステントとは別個に刺を形成し、溶接、ろう付け等によってステントに取付けてもよい。…」(段落【0012】)

3c:「…ステンレス鋼材料の平らなシートから本発明のステントを化学的にエッチングする重要な利点は、“ステップ・エッチング”として知られている方法を使用することができることである。例えば、図3の取付け要素又は刺20の領域にステップ・エッチングを使用することによって、ステントが膨張したとき刺が外方へ曲がるように、材料の部分を除去することが可能である。換言すれば、ステップ・エッチングは、所望の選択領域における材料の除去を可能にするので、ステントの半径方向膨張時に、刺が外方へ曲がって大動脈壁に係合するように、材料の少ない領域が曲がり或いは変形する傾向を有している。」(段落【0016】)

3d:「…ステント10を製造する或る好ましい方法では、ステント10及びアンカー20をステンレス鋼の平らなシート又はチューブから切断するのに、レーザーが使用される。レーザーの設定は、切断すべきステントの材料、形状及び最終的な使用法に応じて、大きく変動する。米国特許出願第08/233,046号(小さな物体をレーザー切断するための方法および装置)に記載されているレーザー切断法が、レーザーを使用するステント製造法に関して特に有益である。」(段落【0017】)

(4)刊行物4
当審において新たに引用する、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特許第2771001号公報(以下「刊行物4」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

4a:「発明の概要
流体を導く体の管腔内に設置するための、管腔内人工器官は、断面および長さを予め選定した中空のグラフトを有する。このグラフトの近位末端を管腔内の上流に設置する。このグラフトは変形して、本質的に管腔に内表面に一致することができる。グラフトを管腔の壁に留めるために、ステープルがグラフトの近位末端および好ましくは遠位末端にも付いている。
各ステープルは、壁に食い込む部材を有する。近位ステープルの壁に食い込む部材は、一般に下流方向に角度を付けてあり、脈管壁に食い込むための先端を有する。」(第11欄第12?22行)

4b:「近位ステープル16の各支持部材60には、一般的に脚60A,60Bの一つの長さ66に沿って、好ましくは少なくとも三つの接合点63に、またはその近くに壁に食い込む部材70が付いている。壁に食い込む部材70は、鋭い尖端71を持つ、返しまたは細長い針状の部材であるのが好ましい。この壁に食い込む部材70は、支持部材に角度75で取り付けてあるが、この角度は、縦軸、つまり近位ステープル16の中心軸67から約15°?約135°の間で変えることができる。好ましくは、この壁に食い込む部材70は、軸67から下流方向100(第6図)に伸び、したがって角度75は好ましくは90°未満、より好ましくは約30°?約60°の範囲である。」(第15欄第3?14行)

4c:「また、注意すべきは、壁に食い込む部材70は、管腔の内表面に突き刺さって引っ掛かり、グラフト12をそこに固定するために使用することである。壁に食い込む部材70は二つで十分な場合もあるが、少なくとも三つ有るのが好ましい。管腔が動脈または静脈である場合、ある程度変形するのが一般的であるので、二つだけでは実際に突き刺さり、引っ掛かるのが困難なことがあり、三つ以上を使用することによって十分に突き刺さり、引っ掛かることができる。無論、各支持部材が壁に食い込む部材を備え、十分に壁に食い込み、また、グラフト12の上流、つまり近位末端を管腔壁に対してより確実に保持し、治療後の回復過程における流体(例えば血液)の漏れを最小に抑えるのが最も望ましい。
近位ステープル16は一体成形してもよいし、あるいは個別の、血管壁に食い込む部材70を有するV-字形支持部材を接続して構築してもよい。」(第15欄第23?38行)

(5)刊行物5
当審において新たに引用する、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である国際公開第96/18361号(以下「刊行物5」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。なお、付記した邦訳は、対応する日本語公報である特表平2002-503114号公報における対応箇所の記載に基づく。

5a:「The present invention provides a prosthesis or graft for intraluminal placement in a fluid conducting corporeal lumen. The graft is hollow and has a pre-selected cross-section, length and wall thickness. The graft is deformable to conform substantially to the interior surface of the corporeal lumen or other body part to be repaired. The midsection of the graft may be crimped to resist kinking and facilitate placement accuracy and may comprise radiopaque markers attached along its length to help orient the graft using fluoroscopy or X-ray techniques. Tufts of yarn are sewn into the graft at its ends to facilitate healing and placement of the graft within the corporeal lumen. Preferably, the graft comprises woven polyester or another material suitable for permanent placement in the body such as PTFE. The superior and inferior ends of the graft are positioned within the corporeal lumen and the graft is configured such that it traverses the diseased or damaged portion of the vessel. To anchor the graft to the wall of the corporeal lumen, attachment systems are secured to the superior and inferior ends of the graft.
The preferred attachment system includes wall engaging members. The wall engaging members of the superior attachment systems are angled toward the inferior end of the graft. Similarly, the wall engaging members of the inferior attachment systems are angled toward the superior end of the graft. Specifically, the angles of both the superior and inferior wall engaging members are in the range of 60- 80° from radial. The wall engaging members of both attachment systems have sharp tips for engaging the corporeal lumen wall.」(第5頁14行?第6頁第9行)
「本発明は、液体を導く体の管腔内に管腔内配備されるための人口器官あるいは移植片を提供する。この移植片は、中空で、予め選択された断面、長さおよび壁厚を持つ。この移植片は、変形が可能で、修復されるべき体の管腔あるいは他の体の部分の内側面に実質的に順応する。この移植片の中央セクションには、しわが作られるが、これは、よじれに耐える働きを持ち、また、正確な据付けを助ける。この中央セクションには、その長さに沿ってX線不透過性マーカを付けることも考えられるが、これは、X線透視法すなわちX-線技術を使用して、移植片の方位を定めるときの助けとなる。移植片の両端の所に編み糸のふさが縫い付けられるが、これは、治療を助け、また、移植片を体の管腔内に据付けるのを容易にする。好ましくは、この移植片は、編んだポリエステル、あるいは、体の中に永久に配備するのに適当な他の材料、例えば、PTFEから構成される。移植片の上端および下端は、人の管腔内に配備され、この移植片は、これが、導管の病気あるいは損傷部分を横断するように構成される。この移植片の上端および下端には、この移植片を人の管腔の壁に固定するために、取付けシステムが、固定される。
好ましい取付けシステムは、壁係合部材を含む。上取付けシステムの壁係合部材は、移植片の下端に向けて傾斜される。同様に、下取付けシステムの壁係合部材は、移植片の上端に向けて傾斜される。より具体的には、上および下壁係合部材は、両方とも、半径方向から60から80度の範囲に傾斜される。両方の取付けシステムとも、壁係合部材は、人の管腔壁に係合するための鋭い先端を持つ。」

5b:「To facilitate securing the graft 55 in the corporeal lumen, the wall engaging members 195 of the superior attachment system 175 and inferior attachment system 176 may be angled with respect to the longitudinal axis of the tubular member 170. The wall engaging members face outwardly from the tubular member to facilitate holding the graft in place (See FIGS. 21 - 24) . Preferably, the wall engaging members on the superior attachment means are inclined from the longitudinal axis and toward the inferior end of the graft 172 by 60° to 80° from radial. Likewise, the wall engaging members of the inferior attachment system may be inclined towards the superior end of the graft 175 by 60° to 80° from radial. By angling the wall engaging members so that they resist the force of the blood flow, the implanted wall engaging members oppose migration of the graft.」(第28頁第22行?第29頁第2行)
「体腔内での移植片55の固定を容易にするために、上取付けシステム175および下取付けシステム176の壁係合部材195は、管状部材170の長手軸線に対して角度を付けてもよい。壁係合部材は、移植片を適正な場所に保持するのを容易にするために、管状部材170から外側に向いている(図21?図24参照)。好ましくは、上取付け手段の壁係合部材は、長手軸線から移植片172の下端に向かって、半径位方向から60°?80°だけ傾斜している。同様に、下取付けシステムの壁係合部材は、半径方向から移植片の上端に向かって60°?80°だけ傾斜している。血流の力に抗するように壁係合部材に角度を付けることによって、移植された壁係合部材は移植片の移動に抵抗する。」

3-2 対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
(ア)引用発明の「円筒体112」は、文言の意味、形状又は機能等からみて、本願補正発明の「筒状の移植片本体区画」又は「移植片本体区画」に相当し、以下同様に、「血管内移植片20」は「血管内移植片」に、「近位端」は「近位端部」に、「遠位端」は「遠位端部」に、「頂点132」は「近位及び遠位の頂点」に、「固着され」は「固定され」に、「脚134,136」は「支柱」に、それぞれ相当する。

(イ)引用発明の「拡張性バネ取り付け手段126」は、「複数のV形部材131から成り」、「近位端及び遠位端に頂点132を有し」、近位端及び遠位端の間に脚134、136を有することから、全体として蛇行リングを形成しているものといえる。そして、一般に、ステントとは、人体の血管等を管腔内部から広げる管状の医療機器であるから、「血管中の自由運動を可能とする低プロフィルの圧潰直径を有し、自動拡張後は、患者の血管系の内径と実質的に同等またはこれより大きな拡大直径を有し」、蛇行リングを形成する引用発明の「拡張性バネ取り付け手段126」は、本願補正発明の「ステント」に相当する。
また、引用発明の「拡張性バネ取り付け手段126」は、「自動拡張後は、患者の血管系の内径と実質的に同等またはこれより大きな拡大直径を有」するのであるから、半径方向に拡開可能であるとともに、その「近位端の頂点は円筒体112の開口113から突出し」ているのであるから、円筒体112から外へ延びるように配置されていることは明らかである。
よって、引用発明は、「筒状の移植片本体区画から延びる半径方向に拡開可能なステントとを含み、該ステントは、近位端部と、遠位端部と、複数の支柱を備え且つ対向する近位及び遠位の頂点を有するように形成された蛇行リングとを有しており、該ステントの前記遠位端部は前記移植片本体区画に固定され」なる事項を具備するものといえ、この点で、本願補正発明と一致する。

(ウ)引用発明の「フック142」は、「遠位端方向に傾斜され、患者の血管系と係合して移植片20の遠位端方向の移動を防止する」のであるから、本願補正発明の「逆棘」に相当する。
また、引用発明においては、「フック状要素141はV形部材131の脚136に対して溶接などの適当な手段によって接合され、フック状要素141のフック142は遠位端方向に傾斜され」ているのであるから、引用発明は、「支柱の位置から前記ステントの遠位側の端部に向けて延びる」「少なくとも一つの逆棘を含」む点で、本願補正発明と一致する。

以上の(ア)?(ウ)によれば、本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
(一致点)
「筒状の移植片本体区画と、
該筒状の移植片本体区画から延びる半径方向に拡開可能なステントとを含み、該ステントは、近位端部と、遠位端部と、複数の支柱を備え且つ対向する近位及び遠位の頂点を有するように形成された蛇行リングとを有しており、該ステントの前記遠位端部は前記移植片本体区画に固定され、
さらに、
前記支柱の位置から前記ステントの遠位側の端部に向けて延びる少なくとも一つの逆棘を含む、血管内移植片。」

(相違点1)
本願補正発明では、「少なくとも一つの逆棘」が、「各支柱の延長部として一体的に形成され」ているのに対し、引用発明では、「少なくとも一つの逆棘」が、別部材であるフック状要素141を、支柱に対して溶接などの適当な手段によって接合することにより、支柱と一体化されて形成されている点。

(相違点2)
本願補正発明では、「少なくとも一つの逆棘は、該逆棘が延びる支柱の長手軸線に対して約10°から約45°の仰角を有し」ているのに対し、引用発明では、逆棘が遠位端方向に傾斜されてはいるものの、逆棘の支柱長手軸線に対する仰角の具体的な数値までは、明らかでない点。

(相違点3)
本願補正発明では、「少なくとも一つの逆棘の前記支柱上の位置は、近位側の頂部に遠い位置、又は遠位側の頂部に近い位置である」のに対し、引用発明では、逆棘の支柱上の位置が、「近位側の頂部に遠い位置、又は遠位側の頂部に近い位置である」のか否か不明な点。

3-3 相違点の判断
上記各相違点について検討する。
(相違点1について)
上記記載事項2cの「ステントが展開するとひげ線18も展開するので、ステントが血管の表面と接触すると、ひげ線が血管の内側内層まで透通してステントを適所に定着させる。」、記載事項3aの「移植片を健康な組織に確実に固定することを助けるように、ステントの円周全体に沿って、動脈瘤の少なくとも上方で大動脈壁に刺さるフック又は刺を備えている。」の記載からみて、上記刊行物2の記載の「ひげ線18」、刊行物3の「刺20」は、いずれも患者の血管系と係合する「棘」といえるものである。
してみると、刊行物2(記載事項2a?2c参照)、刊行物3(記載事項3a?3d参照)等に示されるように、ステントに患者の血管系と係合する棘を形成するに当たり、ステントと棘とを同一の部材から一体的に形成することは、本技術分野における周知の技術事項といえる。
そして、棘を有するステントをどのような工程で製造するかは、製造の容易性やコスト等を踏まえて適宜に選択し得る事項であるから、引用発明において、患者の血管系と係合する棘を支柱に形成する際に上記周知技術を採用し、棘を支柱に対して溶接により接合することに代えて、「各支柱の延長部として一体的に形成」することは、当業者であれば容易になし得たことである。

(相違点2について)
上記刊行物4における「この壁に食い込む部材70は、支持部材に角度75で取り付けてあるが、この角度は、縦軸、つまり近位ステープル16の中心軸67から約15°?約135°の間で変えることができる。好ましくは、この壁に食い込む部材70は、軸67から下流方向100(第6図)に伸び、したがって角度75は好ましくは90°未満、より好ましくは約30°?約60°の範囲である。」(記載事項4b)の記載を特に参照すれば、刊行物4には、「食い込む部材70」のステント中心軸に対する仰角を好ましくは15°?90°未満、より好ましくは30°?60°とする事項が開示され、また、上記刊行物5における「Specifically, the angles of both the superior and inferior wall engaging members are in the range of 60- 80° from radial.」(記載事項5a)の記載を特に参照すれば、刊行物5には、壁係合部材のステント中心軸に対する仰角を10°から30°とする事項が開示されている。
そうすると、刊行物4の上記記載事項4a?4c、刊行物5の上記記載事項5a?5b等の記載からみて、逆棘のステント中心軸に対する仰角として、10°?90°未満の数値を用いることは、従来より周知の事項であったものといえる。
引用発明において、逆棘を支柱の長手軸線に対し傾斜させる角度、即ち、逆棘の支柱長手軸線に対する仰角の数値範囲を、逆棘の血管壁に対する進入し易さや進入後における移植片の移動防止効果等を勘案しつつ好適化することは、当業者による通常の創作能力の発揮にすぎないところ、その具体的な数値範囲を、上記刊行物4ないし刊行物5に示されるような、ステント中心軸に対する仰角として普通に知られる範囲内の数値に近似させて、「約10°から約45°」とする程度のことは、当業者であれば適宜なし得たことである。
また、本願明細書の記載をみても、この「約10°」、「約45°」の各数値に、臨界的意義も見い出せない。

(相違点3について)
本願補正発明における「近位側の頂部に遠い位置」とは、具体的にどのような位置を意味しているのか必ずしも明確ではないが、逆棘を支柱上のどの位置に設けるかは、逆棘の血管壁に対する進入し易さや進入後における移植片の移動防止効果等を踏まえつつ適宜に設定可能な設計事項であるから、引用発明における逆棘の支柱上の位置として、近位端の頂点132と開口113との間の範囲内の位置であって、しかも、近位端の頂点132から所定長さ離れた位置として、「近位側の頂部の頂部に遠い位置」を選択する程度のことは、当業者であれば適宜なし得たことである。

そして、本願補正発明の効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得た程度のものであって格別のものとはいえない。

よって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3-4 むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


III.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし38に係る発明は、平成23年11月24日付け手続補正書によって補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし38に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
筒状の移植片本体区画と、
該筒状の移植片本体区画から延びる半径方向に拡開可能なステントとを含み、該ステントは、近位端部と、遠位端部と、複数の支柱を備え且つ対向する近位及び遠位の頂点を有するように形成された蛇行リングとを有しており、該ステントの前記遠位端部は前記移植片本体区画に固定され、
さらに、
前記支柱の位置から前記ステントの遠位側の端部に向けて延びる前記各支柱の延長部として一体的に形成された少なくとも一つの逆棘を含む、血管内移植片。」


IV.刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は、前記II.3-1に記載したとおりである。


V.対比・判断
本願発明は、前記II.1の本願補正発明から、発明を特定するために必要な事項である「逆棘」について、前記II.2で指摘した限定を省いたものに相当する発明である。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記II.3-2、3-3に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様に、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


VI.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-29 
結審通知日 2013-06-04 
審決日 2013-06-18 
出願番号 特願2008-303094(P2008-303094)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61M)
P 1 8・ 121- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久郷 明義  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 蓮井 雅之
関谷 一夫
発明の名称 先進の血管内移植片  
代理人 青木 篤  
代理人 樋口 外治  
代理人 三橋 真二  
代理人 大橋 康史  
代理人 伊藤 公一  
代理人 島田 哲郎  

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