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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07K |
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管理番号 | 1281314 |
審判番号 | 不服2010-15487 |
総通号数 | 168 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-12-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-07-09 |
確定日 | 2013-11-06 |
事件の表示 | 特願2006-288346「治療薬としての修飾ペプチド」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 4月 5日出願公開、特開2007- 84556〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、1999年10月25日(パリ条約による優先権主張 1998年10月23日、1999年10月22日、いずれも米国)を国際出願日とする出願(特願2000-578351号)の一部を、平成18年10月24日に新たな特許出願としたもので、平成22年3月1日付けで拒絶査定がされたところ、同年7月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正書が提出されたものである。 2.本願発明 本願の請求項に係る発明は、平成22年7月9日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された発明特定事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、以下のとおりのものと認められる。 「式: (X^(1))_(a)-F^(1)-(X^(2))_(b) [式中、F^(1)はFcドメインであり、 X^(1)及びX^(2)は、各々独立に-(L^(1))_(c)-P^(1)、-(L^(1))_(c)-P^(1)-(L^(2))_(d)-P^(2)、-(L^(1))_(c)-P^(1)-(L^(2))_(d)-P^(2)-(L^(3))_(e)-P^(3)、及び-(L^(1))_(c)-P^(1)-(L^(2))_(d)-P^(2)-(L^(3))_(e)-P^(3)-(L^(4))_(f)-P^(4)から選択され、 P^(1)、P^(2)、P^(3)及びP^(4)は各々独立に表6から選択されるランダム化されたTPO擬似ペプチドの配列であり、 L^(1)、L^(2)、L^(3)及びL^(4)は各々独立にリンカーであり、そして a、b、c、d、e及びfは、aとbの少なくとも一方が1であることを条件として、各々独立に0又は1であり、X^(1)もX^(2)も天然タンパク質ではない] の物質の組成物またはその多量体。」 (以下、「本願発明」という。) 3.引用例の記載 (1)原査定の理由において「引用例2」として引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である米国特許第5349053号明細書(以下、「引用例2」という)には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。下線は当審が付与した。)。 ア.「本発明は、イムノグロブリンの定常領域成分に結合したリガンド成分を有するイムノリガンドであって、リガンド成分は細胞表面受容体に結合可能であり、イムノグロブリン成分は正常なエフェクター機能を仲介可能であるイムノリガンドを提供する。・・・ 定常領域成分は好ましくはそのエフェクター機能を維持する。・・・イムノリガンドのリガンド成分は、任意のリガンド分子(たとえはインターロイキン-2)又は所望の受容体に結合可能なその部分に由来する。」(2欄40?45行、50?51行、53?56行) イ.「適当な担体及び一つ又はそれ以上のイムノリガンドからなる薬学的組成物も提供される。」(3欄10?12行) ウ.「イムノリガンドは、リガンド成分によってイムノグロブリンの可変領域の全て又は実質的に全てが置き換えられた修飾イムノグロブリンである。それ故、リガンド成分が分子の結合特異性を決定する。ここで、リガンドは、細胞表面で受容体分子に認識される一つ又はそれ以上の決定部位を有する、合成又は天然由来のペプチド又はタンパク質分子と定義されるが、イムノグロブリンスーパーファミリー(・・・)ではない。」(4欄15?25行) エ.「本発明の定常領域成分は、典型的には、CH1、CH2、CH3ドメイン及びヒンジ領域の一つ又はそれ以上からなる。」(4欄39?41行) オ.「イムノリガンドは、もとのリガンド分子及びイムノグロブリンにまさる多数の利点を有する。イムノグロブリンではなくリガンド成分が特異性を決定するので、幅広く新たな範囲の細胞が容易に標的化できる。加えて、小さな、治療上有用なリガンドの多くに見られる比較的短い血中半減期は、これらをイムノグロブリンの定常領域に結合させることで増大できる」。(5欄17?24行) カ.「特許請求の範囲・・・ 2.定常領域成分が重鎖の定常領域である請求項1に記載のイムノリガンド。 ・・・ 4.定常領域成分がヒンジ領域、CH2ドメイン、及びCH3ドメインからなる請求項2に記載のイムノリガンド。」(16欄14?15行、18?20行) キ.「重鎖の多くは、CH1とCH2の間に少数のアミノ酸からなるヒンジ領域を有する。・・・ CH2及びCH3ドメインで構成されるFcフラグメントは、エフェクター機能を仲介するイムノグロブリン分子の部分である。イムノグロブリンの重鎖に応じて、エフェクター機能の多様性が存在する。これらは、補体結合、抗体依存性細胞毒性の仲介、B細胞の刺激、胎盤透過及び長い血中半減期を含む。・・・」(1欄40?42行、56?63行) 上記ア.及びウ.の記載によれば、引用例2に記載されたイムノリガンドは、イムノグロブリンの定常領域成分にリガンド成分を結合したものであってイムノグロブリンの可変領域をリガンド成分で置き換えたものであることから、リガンド成分はイムノグロブリンの定常領域成分のN末端側に結合していると認められ、また、リガンド成分は、細胞表面で受容体分子に認識される一つ又はそれ以上の決定部位を有する合成又は天然由来の任意のペプチドであると認められる。一方、定常領域成分は、典型的には、CH1、CH2、CH3ドメイン及びヒンジ領域の一つ又はそれ以上からなるものであって(上記エ.)、CH2及びCH3ドメインで構成されるFcフラグメントが仲介する(上記キ.)エフェクター機能を維持するものである(上記ア.)ことが認められ、具体的な態様として、定常領域成分がヒンジ領域、CH2ドメイン、及びCH3ドメインからなるものが記載されている(上記カ.)。さらに、上記イ.には、イムノリガンドを組成物とすることについても記載されている。 以上のことから、引用例2には、以下の発明が記載されていると認められる。 「式 P^(a)-H-CH2-CH3 [P^(a)は細胞表面で受容体分子に認識される一つ又はそれ以上の決定部位を有する合成又は天然由来の任意のペプチド、Hはヒンジ領域、CH2はCH2ドメイン、CH3はCH3ドメインである。] の物質の組成物。」(以下、「引用発明」という。) (2)原査定の理由において「引用例3」として引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物であるScience, Vol.276 (1997) p.1696-1699(以下、「引用例3」という)には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。下線は当審で付与した。)。 ク.「天然のサイトカインと同様に強力なトロンボポエチン受容体のペプチドアゴニスト ヒトトロンボポエチン受容体に結合して、天然のリガンドであるトロンボポエチン(TPO)の結合と拮抗する、小さなペプチドの二つのファミリーが、組換えペプチドライブラリーから同定された。これらのペプチドの配列は、TPOの一次配列には見いだされなかった。アフィニティー選択条件下で、これらのファミリーの一つの変異体のライブラリーをスクリーニングしたところ、400ナノモルの半有効濃度(EC50)でTPO応答性Ba/F3セルラインの増殖を刺激する、高い親和性(解離定数?2ナノモル)を有する14-アミノ酸ペプチド(Ile-Glu-Gly-Pro-Thr-Leu-Arg-Gln-Trp-Leu-Ala-Ala-Arg-Ala)が得られた。カルボキシ末端のリジン分岐への結合によるこのペプチドの二量体化により、細胞に基づいたアッセイで332アミノ酸の天然サイトカインに匹敵する、100ピコモルのEC50を有する化合物が得られた。このペプチド二量体は、また、ヒト骨髄細胞からの巨核球のインビトロでの増殖及び成熟を刺激し、正常マウスに投与されると血小板数の増加を促進した。」(標題、要約) ケ.「本研究では、線状ファージの主要被覆タンパク質(pVIII)又は大腸菌のlacリプレッサータンパク質(プラスミド上のペプチド)との融合物として提示されるランダムペプチドのライブラリーが、TPORに結合してトロンボポエチンの極めて強力な機能的疑似物となるペプチドを同定するのに用いられた。」(1696頁中欄8?15行) コ.「表2・・・ ライブラリー ペプチド 配列 IC50(nM) ・・・ AF12434 AF12505 IEGPTLRQWLAARA 2 突然変異生成 ライブラリー AF13948 IEGPTLRQWLAARA | IEGPTLRQWLAARA(β-Ala)K 0.5 」 (1697頁) サ.「AF13948は巨核球の刺激により血小板数を増加するようであり、したがって、治療的に有効なトロンボポエチン様薬剤の開発の有用なリード化合物としての役割を果たすだろう。」(1698頁右欄32?37行) 4.対比 本願発明のうち、式中、aが1でbが0で、X^(1)が-(L^(1))_(c)-P^(1)-(L^(2))_(d)-P^(2)である場合、すなわち、式が、その選択肢の一つ、P^(2)-(L^(2))_(d)-P^(1)-(L^(1))_(c)-F^(1)である場合の発明(以下、「前者」という)と、引用発明(以下、「後者」という)とを対比する。 後者におけるH(ヒンジ領域)は少数のアミノ酸からなるものである(上記3.キ.)ところ、本願明細書には「リンカー」が好ましくはペプチド結合によって互いに連結されたアミノ酸で作製されることが記載されている(段落[0104])から、後者におけるH(ヒンジ領域)は前者におけるリンカーL^(1)(cは1である)に相当し、また、後者におけるCH2-CH3(CH2ドメインとCH3ドメインの結合物)の部分は、前者におけるFcドメインに相当する。 そうすると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。 一致点:式 P-L^(1)-F^(1)[Pはペプチド、F^(1)はFcドメインである。] の物質の組成物。 相違点:Pが、前者においては、-P^(1)-(L^(2))_(d)-P^(2)[P^(1),P^(2)は表6から選択されるランダム化されたTPO疑似ペプチドであり、L^(2)はリンカーであり、dは0又は1である]であって、天然タンパク質でないと特定されているのに対し、後者においては、細胞表面で受容体分子に認識される一つ又はそれ以上の決定部位を有する合成又は天然由来の任意のペプチドである点。 5.相違点についての検討 引用例3には、トロンボポエチン受容体のペプチドアゴニストについて記載されており(上記3.ク.)、そのようなアゴニストとして上記3.コ.に記載された「AF13948ペプチド」の構造のうち、「IEGPTLRQWLAARA」の部分、「β-Ala-K」の部分は、それぞれ、本願発明における、表6中の配列番号13のアミノ酸配列、リンカーに相当し、さらに、「IEGPTLRQWLAARA」は、上記3.ク.及びケ.の記載からみて、ランダムペプチドのライブラリーから得られたトロンボポエチン(TPO)の疑似物であると認められる。そうすると、引用例3に記載されたAF13948ペプチドは、本願発明における、-P^(1)-(L^(2))_(d)-P^(2)[式中、P^(1)及びP^(2)は表6から選択されるランダム化されたTPO疑似ペプチドであり、L^(2)はリンカーであり、dは1である]であって、天然タンパク質ではない物質に相当する。 また、引用例3には、AF13948ペプチドはトロンボポエチン様薬剤の開発の有用なリード化合物となることが記載されている(上記3.サ.)ところ、「リード化合物」とは、その構造を修飾することにより、効力や安全性(生体内動態や毒性)などの面で最適な治療薬を設計するために用いられるものであることが、本願の優先日前、周知の事項であった(必要なら、守口郁生外編「現代化学 増刊13 新薬のリードジェネレーション?最新ドラッグデザイン?」1987年11月20日、東京化学同人、1頁右欄12?15行、2頁図1.1を参照)。 ここで、生理活性ペプチドは、生体内に投与されると、生体内のプロテアーゼにより分解を受ける等のため、血中半減期が短く、作用が短時間しか発揮されないことが、本願の優先日前に技術常識となっていた(必要なら、特開昭59-59629号公報の1頁左下欄10?15行、特開平8-217691号公報2欄21?29行を参照)から、生理活性ペプチドである上記AF13948ペプチドも血中半減期が短いものであることが当然に予想されることである。 一方、上記3.ア.、オ.及びキ.の記載によれば、引用例2に記載された、任意のリガンドを、イムノグロブリンのFcフラグメントを含む定常領域成分に結合させたイムノリガンドは、エフェクター機能を維持しており、小さな、治療上有用なリガンドの多くにみられる比較的短い血中半減期を、増大することができるものであることが認められる。 以上のことから、引用例3の上記3.サ.の記載を契機に、AF13948ペプチドをリード化合物として、トロンボポエチン様薬剤を開発する際、当業者は、血中半減期が増大し作用が持続するように、構造修飾した誘導体を設計することについて当然検討するといえるから、引用発明におけるP^(a)(細胞表面で受容体分子に認識される一つ又はそれ以上の決定部位を有する合成又は天然由来の任意のペプチド)としてトロンボポエチン受容体のアゴニストであるAF13948ペプチドを用いて、イムノグロブリンの定常領域成分(H-CH2-CH3、すなわち、L1-Fc)に結合した誘導体とすることで、AF13948ペプチドの血中半減期を増大させることは、当業者が容易に想到することである。 そして、本願明細書をみても、本願発明が、引用例2、引用例3及び出願時の技術常識から当業者が予想できる程度を超える顕著な効果を奏すると認めることはできない。 6.審判請求人の主張について 審判請求人は、平成22年8月25日付けで補正された審判請求書において、(ア)Fcドメインとの融合分子を構成していたのは全て天然のヒトタンパク質であったことや、ランダム化ペプチドは治療薬そのものではなく治療薬の開発における「先導役(lead)」とみなされていたこと等の本願の優先日以前の技術常識をかんがみれば、当業者であっても、さらにはFc融合技術に熟練した技術者であっても、本願の優先日以前には、ランダム化ペプチドとFcドメインとの融合分子が治療薬として用い得ることを何ら企図していなかったのであるから、表6から選択されるランダム化されたTPO疑似ペプチドとFcドメインとの融合分子を作ることは、当業者が容易に想到しうることではない、(イ)本発明の物質の組成物は、天然リガンドと同等またはそれ以上の活性を有しうる一方、内因性リガンドと交差反応をするおそれのある抗体の産生を惹起し得ず、治療薬としてきわめて有用なものであって、このような有利な効果は予測しうるものではない、と主張するが、以下のとおり、いずれも理由がない。 (ア)について 上記5.で述べたとおり、生理活性ペプチドは、生体内に投与されると、生体内のプロテアーゼにより分解を受ける等のため、血中半減期が短く、作用が短時間しか発揮されないことが、本願の優先日前に技術常識となっており、また、引用例2には、任意のリガンドを、イムノグロブリンのFcフラグメントを含む定常領域成分に結合させたイムノリガンドは、エフェクター機能を維持しており、小さな、治療上有用なリガンドの多くにみられる比較的短い血中半減期を、増大することができるものであることが示されている。そして、「リード化合物」とは、その構造を修飾することにより、効力や安全性(生体内動態や毒性)などの面で最適な治療薬を設計するために用いられるものであることが、本願の優先日前、周知の事項であった。 以上のことを考慮すれば、当業者は、引用例3に記載された、トロンボポエチン受容体のアゴニストであってランダム化ペプチドの二量体であるAF13948ペプチドと、Fcドメインとの融合分子を作ることを十分に動機付けられるのであって、審判請求人が主張する特定の技術常識のみに基づいて、当業者が、本願の優先日以前には、ランダム化ペプチドとFcドメインとの融合分子が治療薬として用い得ることを何ら企図していなかったということはできない。 したがって、表6から選択されるランダム化されたTPO疑似ペプチドとFcドメインとの融合分子を作ることは、当業者が容易に想到しうることではないという主張は、前提を欠き、採用できない。 (イ)について 上記3.ク.の記載によれば、引用例3に記載されたペプチドも、天然サイトカインに匹敵する活性を有していると認められる。そして、上記3.ク.に記載されているように、引用例3に記載されたペプチドのアミノ酸配列は天然のTPOの一次配列には見いだされないものであるであることから、天然のTPO、すなわち内因性リガンドと交差反応するおそれのある抗体産生を惹起しないことは、当業者にとって予測可能なことにすぎない。 7.まとめ 以上検討したところによれば、本願の請求項1に係る発明は引用例2及び引用例3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-06-05 |
結審通知日 | 2013-06-11 |
審決日 | 2013-06-24 |
出願番号 | 特願2006-288346(P2006-288346) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C07K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 三原 健治、長井 啓子 |
特許庁審判長 |
今村 玲英子 |
特許庁審判官 |
冨永 みどり 植原 克典 |
発明の名称 | 治療薬としての修飾ペプチド |
復代理人 | 大崎 勝真 |
復代理人 | 横井 大一郎 |