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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01H
管理番号 1281789
審判番号 不服2010-7182  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-05 
確定日 2013-11-11 
事件の表示 特願2006-502006「植物の育種」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 8月19日国際公開、WO2004/068934、平成18年 7月 6日国内公表、特表2006-516400〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2004年2月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理、2003年2月5日、欧州特許庁、2003年10月13日、欧州特許庁)を国際出願日とするものであって、平成21年12月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年4月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされ、これに対し、平成25年2月18日付けで当審の拒絶理由が通知され、同年5月7日に意見書及び誤訳訂正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし請求項10に係る発明は、平成25年5月7日付け誤訳訂正書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項10に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項1は、以下のとおりのものである。(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

「【請求項1】温室内で植物の表現型を決定するための方法であって、該方法は、
制御された栄養分の供給および水の供給を伴う制御された気候条件の環境で、均一の特徴の生育用培地で満たしたアレイ様式で配置された容器内で1つの種の植物を生育させる工程であって、該容器は運搬装置ベルトで支持される、工程;
全ての植物の、該環境中の条件に対する少なくとも実質的に均一な曝露を保証するために、生育サイクルの間該植物を自動的に移動させる工程であって、該容器は、該運搬装置ベルトを使用することによって移動される、工程;
該植物を、評価のための装置が配置されるステーションへと適切な間隔で移動させる工程;
該植物を、該生育サイクルの間該装置によって評価する工程;および
所望の表現型を有する植物を選択する工程
を包含する、方法。」

第3 引用刊行物とその記載事項
当審の拒絶理由で引用された、本願優先日前に頒布された刊行物1?刊行物2には、以下の事項がそれぞれ記載されている。以下、下線は当審で付加した。

(1)刊行物1:特開昭63-296634号公報の記載事項

(1a)「2.特許請求の範囲
均一で、日照量が減少した環境下で栽培して、選抜効果を高めるために次の如き方法を用いた。
温度、風雨等の環境を均一化し、日照量を減少させて、散乱光を増加させるために、2?3重のビニールを重複して張ったビニールハウスをつくる。
温度、湿度の調節効果を高め、外囲からのほこり等によるよごれを防ぐために、ガラス室、あるいは、人口気象室の中に日照量を減少させ、散乱光を増加させるためにビニールハウスをつくると一層正確である。
各ビニール間にうすいすき間を持たせて張ると一層効果的になる。
この様な、均一な環境条件で日照量の減少した重複ビニールハウス環境下で植物を栽培すると、植物体は徒長して生育する。
多数の植物固体を、温度、湿度、日照、等について均一な環境条件で栽培し、農業環境についても、散水等水分を充分与え、肥料、除草等行い、高度の集約栽培により、植物のもつ特性を充分に表現させて育成させる。
生育の過程中に、選抜目標により一定の基準に従って選抜し、良い特性をもった個体を残す。
以上の如く、ビニールのもっている日照量を適度に減少させ、強い日射を適度に散乱させる特質を応用し、その効果を産業上有効に利用するために、ビニールを2?3重に重複して張ったビニールハウス内で作物を栽培して、日照量の減少のために徒長し、散乱光のために同化量を増加して、特徴有る形態に植物の組織、器管を生育させて、普通栽培では、選抜できない大切な形質についても選抜効果を高めることを特徴とする植物育種法。」(第1頁左欄4行?右欄下から6行)

(1b)「(産業上の利用分野)
本発明はビニールハウス内の温和で風雨の影響も少く安定した気象条件が保持され、日照量が減少して、散乱光が増加する等の人工気象環境を、強調し利用して、この中で植物を栽培して、特性を充分に表現する。
植物が全般に徒大膨潤化して生育する過程における多種、多様、多形の形質に着目し、形質変化を利用して、指標形式を設定して、選抜淘汰効果を上げようとする植物育種法に関するものである。
(従来の技術)
本来、ビニールハウスは、集約栽培に有利で、均一で温和な人工気象環境が簡便に得られるので促成栽培に利用したり、保温をして冬期栽培に利用したり、育苗に利用したり、広く利用されている。
一方において、ガラス室よりも保温力が弱く、日照力が減少して、植物が徒長ぎみで弱くなり、植物病が発生しやすくなる等の欠点も保有する。
(発明が解決しようとする問題点)
本発明においては、ビニールハウスのもつ、簡便で、温和、均一な人工気象環境で、集約栽培に適する農業環境を最大限に利用すると共に、ビニールを透過する光が散乱光、くっせつ光が多くなって全般として日照が減少して、植物が徒長気味となる性質を応用利用して、植物の個体選抜を行なおうとするものである。
すなわち、均一に栽培すると、個体間の特性の差により、選抜でき、その上、日照量の減少によって、植物体が徒長して生育すると、個体差がより大きく明確に表現されて、選抜効果が高まる現象を植物育種に利用しようとするものである。」(第1頁右欄下から4行?第2頁右上欄8行)

(1c)「(発明の作用)
本発明に係るビニールハウスは張るビニールの枚数が多くなるために、内部の保温効果は大きくなり、冬は暖かで栽培に適するが、夏には高温となりすぎて植物の生育が不可能となる。
この様な場合には、ビニールが土地に接する部分をまるめ上げて風を入れたり、土を掘って風をまわすと一そう良い。
さらに、ガラス室に空調設備を施して、その中に、重複して張ったビニールハウスをつくると、一そう正確な環境条件が設定できる。
(発明の効果)
本案においては、ビニールハウス内の温度、湿度等環境が均一温和となりやすく、散水、施肥、除草等を均一に集約的に栽培する。
ビニールハウスは太陽光線がビニールを透過して入るために、日照量が減少するために、植物体が徒大して、組織がやわらかく生育する。
このことは、ビールス病等が発生しやすくなって欠点となるが、本案においては、植物体が徒大して生育するのに関連して、さまざまな特性や形質が拡大して表現されるために、選抜、淘汰を有効に進める効果を生じ、これを個体選抜に利用して、植物育種をするのである。」(第2頁右上欄下9行から?左下欄最終行)

(2)刊行物2:特開平3-251123号公報の記載事項

(2a)「2.特許請求の範囲
1.必要時に自動搬入路を延出せしめうるコンベヤベルトによる循環育苗ラインと同じく必要時に自動搬出路を延出せしめうるコンベヤベルトによる循環栽培ラインを並設し、前記両ライン間は必要に応じてスペーシングコンベヤベルトにて連繋されてなる作物の温室自動栽培装置。
2.育苗ラインを形成するコンベヤベルトは栽培ラインを形成するコンベヤベルトよりやや小幅に設定され、かつ両ラインを連繋するスペーシングコンベヤベルトは育苗ライン側の入口部より栽培ライン側の出口側が幅広に形成されている請求項1記載の作物の温室自動栽培装置。
3.循環する育苗ラインおよび栽培ラインは共に平面視偏平の長円形を呈している請求項1または2記載の作物の温室自動栽培装置。
4.育苗ラインと栽培ラインをもって構成される栽培ルートが平行して多段に亘って設置される機構にあっては、両ライン間に配されるスペーシングコンベヤベルトは各栽培ルート間を移動して共用される請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載の作物の温室自動栽培装置。」(第1頁左欄4行?右欄8行)

(2b)「(産業上の利用分野)
この発明は作物の温室栽培装置に関し、葉菜、根菜、果菜、花弁類の苗搬入、苗の育成、栽培、製品の搬出を自動化する温室栽培装置に関する。」(第1頁右欄10行?13行)

(2c)「(発明が解決しようとする課題)
・・・略・・・以上の各方式に共通していえることは苗、作物に作用する養分、空気、日光、温度および湿度など作物類の生育に必要な諸条件が位置的にみて均一的でなく、このため作物類に、その生育場所の違いにより生育差、すなわち品質差が顕著に現われ、量産される作物類の不揃い発生の原因となる。
この発明は、従来の各種栽培方式に内在する以上のような問題点を解消させ、均質的な作物の量産および作業の簡易化、作業の迅速、効率化を達成しうる作物の温室栽培装置を提供することを目的とする。
(課題を解決するための手段)
この目的を達成させるために、この発明はつぎのような構成としている。すなわち、コンベヤベルトによる循環育苗ラインと循環栽培ラインは並設されており、この育苗ラインの一部には苗類を循環ライン内に導入するための自動搬入路が、一方栽培ラインの一部には生育の完成した野菜類を循環ラインより外部に搬出するための自動搬出路が必要時のみ、それぞれ延出し、さらに両循環ライン間は、育苗ラインより栽培ラインへの生育が完了した苗を送り渡すための、その必要時のみ、スペーシングコンベヤベルトにて連繋される構成を採用している。
そして、この両育苗ラインおよび栽培ラインは共に平面視偏平の長円形を呈している。
そして両ラインをもって形成される栽培ルートは平行状態をもって多段に配される場合、各栽培ルートの両ライン間にはスペーシングコンベヤベルトが順次移動することにより機構の簡素化を図ることができる。
(作用)
まずコンベヤベルトにて作られた循環育苗ラインの一部より搬入路を延出せしめ、育苗ラインを回転せしめた状態にて、幼苗を植え込んだ栽培パレット群を該搬入路を介して育苗ライン内に導入する。育苗ライン上に載置された栽培パレット群は循環育苗ラインの回転走行に伴い同ライン上にて、灌水、施肥を所定の場所にて供給されながら所定の空気、採光、温度、湿度の環境下にて生育をつづける。
育苗ライン上にて十分苗の成長をみた時点にて、栽培ラインを回転走行せしめた状態にて両ライン間に両ラインより延出した搬出路および搬入路をスペーシングコンベヤベルトを介して育苗ラインより栽培ラインへの栽培パレット群の移動が実施され、栽培ライン上の所定個所にて、同じく灌水、施肥が供給され、作物の成長に適した環境下にて生育作業がつづけられる。栽培ライン上にて作物の十分の成長をみた時点にて、循環栽培ラインの一部より延出せしめた搬出路を介して温室より自動的に搬出される。」(第2頁右上欄2行?第3頁左上欄10行)

(2d)「つぎに第2図(イ)?(ニ)に示す育苗ラインより栽培ラインにおける自動的な幼苗の搬入、育苗および栽培作業、成育作物の搬出に関する各操作工程を説明する。
(1)苗の搬入(第2図(イ))
まず搬入側に位置するラウンドコンベヤベルト(5)をストレートコンベヤベルト(2)側に移動せしめて、解放された伸縮コンベヤベルト(3)の搬入側より延伸ベルト(7)部分を所定の苗搬入口まで延長する。その後延伸ベルト(7)部分を含めて伸縮コンベヤベルト(3)、搬出側に位置するラウンドコンベヤベルト(6)およびストレートコンベヤベルト(2)を矢印方向に運行せしめて、パレットに植え込まれた幼苗の搬入を行う。
(2)苗栽培(第2図(ロ))
幼苗の搬入後、伸縮コンベヤベルト(3)の延伸ベルト(7)部分を縮小せしめて、予め移動せしめたラウンドコンベヤベルト(5)を元位置に復帰せしめて、育苗ライン(1)の環状経路は完成し、育苗ラインは一方方向に連続的にあるいは一定時間を置いて間欠回転運動し、その過程にて暖房、冷房、電照などの制御と共に育苗ライン(1)のストレートコンベヤベルト(2)上部にて灌水、施肥、点検などを定期的に行い、幼苗は成長していく。
(3)苗のスペーシング(第2図(ハ))
育苗作業の完了後、育苗ライン(1)のスペーシング側に位置するラウンドコンベヤベルト(6)をストレートコンベヤベルト(2)側に移動せしめて、解放された伸縮コンベヤベルト(3)のスペーシング側より延伸ベルト(8)部分を延出する。一方栽培ライン(11)全構成する伸縮コンベヤベルト(13)のスペーシング側に位置するラウンドコンベヤベルト(15)をストレートコンベヤベルト(12)側に移動せしめ、伸縮ベルト(13)の解放側より延伸ベルト(17)部分を延出する。かくして延長状態にある両延伸ベルト(8)(17)間にスペーシングコンベヤベルト(22)をレール(21)上を移動せしめる。つぎに育苗ライン(1)の速度より栽培ライン(11)の速度を心持ち速めることにより、また栽培ライン(11)のベルト幅を育苗ライン(1)のベルト幅より幅広に形成せしめていることで流れ方向のスペーシングを、またスペーシングコンベヤベルト(22)による出口側への開拡動によりベルト幅方向のスペーシングが実施され、成長して作物間の不要な接触に伴う、成育不良の発生を阻止している。
(4)苗の搬入(第2図(イ)参照)
スペーシングを伴う育苗ライン(1)から栽培ライン(11)にパレットに植え込まれた植物の移動後、育苗ライン(1)は空状態となるので、前記(1)にて説明したと同様の手段による新しい幼苗の搬入を行う。
(5)育成(第2図ニ))
全てのライン(1)(11)にあって、各構成部材を所定の位置に戻し、循環ラインを形成し所定期間各ライン(1)(11)を回転走行せしめて、幼苗の育苗、作物の栽培を行う。
(6)搬出(第2図(ホ))
栽培ライン(11)上にて作物の成育が完了した時点にて、栽培ライン(11)のうち搬出側に位置するラウンドコンベヤベルト(16)をストレートコンベヤベルト(12)側に移動せしめる。その後解放された伸縮ベルト(13)の搬出側より延伸ベルト(18)部分を延長し、ベルトの走行により成育作物の自動搬出を行う。」(第4頁左上欄1行?右下欄4行)

(2e)「(効果)
この発明にあっては温室内にて灌水、施肥、その他の作物生育上必要な同一環境、状況下に作物を循環移動せしめることにより、各所の幼苗を含む作物は略均一、均質な成長が期待でき、均質な作物を量産することができる。
また育苗ラインおよび栽培ラインへの苗、作物の搬入および搬出、さらに育苗ラインより栽培ラインへの移動は全行程自動化されているので過剰な労働は回避でき、作業能率は向上し、作業の自動省力化にみるべきものがある。
また循環育苗、栽培ラインの採用により、灌水、施肥、点検などの主要作業が各ラインの所定個所のみにて実施できるので栽培必要スペースの縮小化、作業の簡易上、省力化が期待できる。
さらに、各循環ラインは偏平形の長円形ラインを形成することで、スペース面での効率化を図ることができる。」(第4頁右下欄5行?第5頁左上欄2行)

第4 対比・判断
刊行物1の上記記載事項(特に上記(1a))から、刊行物1には、
「ビニールのもっている日照量を適度に減少させ、強い日射を適度に散乱させる特質を応用し、その効果を産業上有効に利用するために、ビニールを2?3重に重複して張ったビニールハウス内で作物を栽培して、日照量の減少のために徒長し、散乱光のために同化量を増加して、特徴有る形態に植物の組織、器管を生育させて、普通栽培では、選抜できない大切な形質についても選抜効果を高めることを特徴とする植物育種法。」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されている。

そこで、本願発明と刊行物1発明とを比較する。

(ア)刊行物1発明の「ビニールのもっている日照量を適度に減少させ、強い日射を適度に散乱させる特質を応用し、その効果を産業上有効に利用するために、ビニールを2?3重に重複して張ったビニールハウス内で作物を栽培して、日照量の減少のために徒長し、散乱光のために同化量を増加して、特徴有る形態に植物の組織、器管を生育させ」ることについて、刊行物1の記載を参照すると、ビニールハウスのもつ温和で均一な人工気象環境で集約栽培に適する農業環境を最大限に利用すること(1b)、多数の植物固体を、温度、湿度、日照等について均一な環境条件で栽培し、農業環境についても散水等水分を充分与え、肥料、除草等行い、高度の集約栽培により、植物のもつ特性を充分に表現させて育成させること(1a)、均一に栽培すると個体間の特性の差により選抜できること(1b)、が記載されていることから、ビニールハウス内の温和で均一な人工気象環境で、農業環境についても水分や肥料も充分に与えて、均一に栽培し、植物のもつ特性を充分に表現させて生育させるものといえる。
そうすると、刊行物1発明の「ビニールのもっている日照量を適度に減少させ、強い日射を適度に散乱させる特質を応用し、その効果を産業上有効に利用するために、ビニールを2?3重に重複して張ったビニールハウス内で作物を栽培して、日照量の減少のために徒長し、散乱光のために同化量を増加して、特徴有る形態に植物の組織、器管を生育させ」ることと、
本願発明の「制御された栄養分の供給および水の供給を伴う制御された気候条件の環境で、均一の特徴の生育用培地で満たしたアレイ様式で配置された容器内で1つの種の植物を生育させる工程であって、該容器は運搬装置ベルトで支持される、工程;
全ての植物の、該環境中の条件に対する少なくとも実質的に均一な曝露を保証するために、生育サイクルの間該植物を自動的に移動させる工程であって、該容器は、該運搬装置ベルトを使用することによって移動される、工程;
該植物を、評価のための装置が配置されるステーションへと適切な間隔で移動させる工程;
該植物を、該生育サイクルの間該装置によって評価する工程」とは、
「制御された栄養分の供給および水の供給を伴う制御された気候条件の環境で、1つの種の植物を生育させる工程:」
である点で共通する。

(イ)刊行物1発明の「普通栽培では、選抜できない大切な形質についても選抜効果を高めること」について、刊行物1を参照すると、さまざまな特性や形質が拡大して表現させるために、選抜、淘汰を有効に進める効果を生じ、これを個体選抜に利用して、植物育種をする(1c)と記載されていることから、さまざまな特性や性質を拡大して表現させることによって、所望の表現型のものを選抜するものといえ、そうすると、本願発明の「所望の表現型を有する植物を選択する工程」に相当する。

(ウ)刊行物1発明の「ビニールを2?3重に重複して張ったビニールハウス」は、本願発明の「温室」に相当する。
刊行物1発明の「ビニールを2?3重に重複して張ったビニールハウス」で「特徴有る形態に植物の組織、器官を生育させて、普通栽培では、選抜できない大切な形質についても選抜効果を高める」「植物育種法」は、育種する際に所望の形質、すなわち、所望の表現型で選抜を伴うことは自明なことであるから、本願発明の「温室内で植物の表現型を決定するための方法であって」「所望の表現型を有する植物を選抜する工程を包含する、方法」に相当する。

したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。

(一致点)
温室内で植物の表現型を決定するための方法であって、該方法は、
制御された栄養分の供給および水の供給を伴う制御された気候条件の環境で、1つの種の植物を生育させる工程:
所望の表現型を有する植物を選択する工程
を包含する、方法。

(相違点1)
制御された栄養分の供給および水の供給を伴う制御された気候条件の環境で、1つの種の植物を生育させる工程について、本願発明では、「均一の特徴の生育用培地で満たしたアレイ様式で配置された容器内で1つの種の植物を生育させる工程であって、該容器は運搬装置ベルトで支持される、工程」であるのに対し、刊行物1発明ではこのような規定はしていない点。

(相違点2)
本願発明では、さらに「全ての植物の、該環境中の条件に対する少なくとも実質的に均一な曝露を保証するために、生育サイクルの間該植物を自動的に移動させる工程であって、該容器は、該運搬装置ベルトを使用することによって移動される、工程」を有するのに対し、刊行物1発明では、このような工程は規定していない点。

(相違点3)
所望の表現型を有する植物を選択する工程に際して、本願発明では「該植物を、評価のための装置が配置されるステーションへと適切な間隔で移動させる工程;該植物を、該生育サイクルの間該装置によって評価する工程」を有するのに対し、刊行物1発明では、このような規定はしていない点。

そこで、上記各相違点は互いに関連しているので、以下、合わせて検討する。

(相違点1?3について)
(ア)刊行物2には、作物の温室栽培装置に関し、葉菜、根菜、果菜、花弁類の苗搬入、苗の育成、栽培、製品の搬出を自動化する温室栽培装置であって(2b)、温室内にて灌水、施肥、その他の作物生育上必要な同一環境、状況下に作物を循環移動せしめることが記載されている(2e)。
そして、具体的には、必要時に自動搬入路を延出せしめうるコンベヤベルトによる循環育苗ラインと、同じく必要時に自動搬出路を延出せしめうるコンベヤベルトによる循環栽培ラインを並設し、前記両ライン間は必要に応じてスペーシングコンベヤベルトにて連繋されてなる作物の温室自動栽培装置(2a)を用いて、育苗ラインを回転せしめた状態で、幼苗を植え込んだ栽培パレット群を育苗ライン内に導入し、灌水、施肥を所定の場所にて供給し、所定の空気、採光、温度、湿度の環境下にて生育をつづけて苗を成長させ、また、栽培ラインを回転走行せしめた状態で、栽培パレット群を栽培ラインに移動し、同じく灌水、施肥を供給し、作物の成長に適した環境下にて栽培ライン上で生育作業をつづけることが記載されている(2c)。
(イ)刊行物1発明は、刊行物1の記載によると、ビニールハウスという温室で栽培するものであって、「均一に栽培すると、個体間の特性の差により選抜できる」(1b)ことが記載されているので、より均一環境、状況下で植物を栽培し、個体間の特性の差による選抜を容易にすることを考えて、「温室内にて灌水、施肥、その他の作物生育上必要な同一環境、状況下に作物を循環移動せしめることにより、各所の幼苗を含む作物は略均一、均質な成長が期待でき、均質な作物を量産することができる」(2e)との効果を有する刊行物2記載の上記技術的事項を適用し、コンベヤベルトで植物を支持し、コンベヤベルトを動かすことによって、生育の間、植物を自動的に移動させ、温度、湿度、日照等について均一な環境条件にして栽培させることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(ウ)そして、均一の環境条件で栽培するとの刊行物1の記載から、栽培パレット群の生育用培地についても均一の特徴のものにすることは、当業者が容易になし得たことである。
(エ)また、栽培パレット群がコンベヤベルトで循環している状態は、パレットが整列して循環しているという点で”整列された状態”と定義付けられるアレイ様式と相違のないものであるし、コンベヤベルトによるラインを複数設けた状態とすることも、ビニールハウスの規模に応じて、当業者が適宜に設計し得たことである。
(オ)さらに、選抜のための評価において、例えば、表現型である収穫高を評価する際には重量計が必要なように、評価する表現型によって評価するための装置が必要になることも明らかであり、この評価のための装置を配置した場所まで、栽培パレットを順次移動させることは、自動化するとの観点から、当業者が適宜に設計し得たことである。

(本願発明の効果について)
温室内で植物を成育させる場所を変えることにより、表現型結果に対する環境に関連する表現型の影響を顕著に減少し得ること、また、表現型結果に対する環境に関連する表現型の影響は、植物を、制御された栄養分の供給および水の供給を伴なう制御された気候条件の環境で均一の特徴の生育用培地上で生育させることによって、さらに減少され得るとの本願発明の効果は、刊行物1,2に記載された事項及び周知技術から当業者が予測し得たものであり、格別顕著なものとはいえない。
したがって、本願発明は、刊行物1ないし2に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、その余の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本件出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-06-17 
結審通知日 2013-06-18 
審決日 2013-07-02 
出願番号 特願2006-502006(P2006-502006)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 水落 登希子  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 齊藤 真由美
菅野 智子
発明の名称 植物の育種  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  
代理人 安村 高明  

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