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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C03B
管理番号 1282066
審判番号 不服2012-13064  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-09 
確定日 2013-11-28 
事件の表示 特願2007-106854「光学ガラスの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年11月 6日出願公開、特開2008-266031〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成19年4月16日の出願であって、平成23年9月22日付けで拒絶理由が通知され、同年10月28日に意見書及び手続補正書が提出され、同年12月1日付けで拒絶理由が通知がされ、平成24年1月30日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年4月19日に拒絶査定されたので、同年7月9日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、同年9月21日付けで審尋がされ、同年11月20日に回答書が提出され、
平成25年6月27日付けで当審における拒絶の理由が通知されるとともに、同日付けで平成24年7月9日付け手続補正の却下の決定がされ、同年8月28日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2 本願発明について
本願の請求項1?4に係る発明は、平成25年8月28日付け手続補正書により補正された請求項1?4に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「粉体原料を溶融して溶融ガラスのカレットを作製し、
少なくとも前記溶融ガラスとの接触部分に金を90%質量以上含有し、かつTi、Zr、Hf、Y、Nb、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選択される1種以上の金属の酸化物からなる強化材を、金の全質量に対し0.05質量%以上分散させた金属材料からなる部材を使用して前記カレットを溶融して、酸化物基準でBi_(2)O_(3)及び/又はTeO_(2)を30質量%以上含有する光学ガラスを成形することを含む光学ガラスの製造方法。」

3 刊行物に記載された発明について
(1)引用例1の記載事項
本願の出願日前に頒布され、当審における拒絶の理由で引用された特開2007-70156号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ビスマスを10質量%以上含有する原料混合物を熔解する原料熔解工程を含む光学ガラスの製造方法において、
前記原料熔解工程を、非金属製坩堝又は非金属製器具を用いて行う光学ガラスの製造方法。
・・・・
【請求項3】
前記原料熔解工程の後に、熔解した前記原料混合物を冷却してカレットを作製するカレット化工程と、このカレットを熔解する本熔解工程と、当該本熔解工程で溶解したカレットを再度冷却する冷却工程と、を更に有する請求項1記載の光学ガラスの製造方法。
・・・
【請求項5】
前記本熔解工程及び前記冷却工程を、金属製坩堝又は金属製器具を用いて行う請求項3又は4記載の光学ガラスの製造方法。
【請求項6】
前記金属製坩堝又は金属製器具は、白金製、白金合金製、金製、又は金合金製のいずれかである請求項5記載の光学ガラスの製造方法。」
(イ)「【0005】
また、ビスマスは白金材料と反応しやすいため、酸化ビスマスを多量に含むガラスの製造においては、原料の熔解に白金るつぼを使用した場合、ビスマスと白金で合金を作り、金属不純物の混入により、透過率が低下する等の問題点もあった。」
(ウ)「【0006】
本発明は以上のような課題に鑑みてなされたものであり、酸化ビスマスを含有する高屈折率高分散領域の精密プレス用の光学ガラスであって、かつ、透過率にも優れた光学ガラスの製造方法を提供することにある。」
(エ)「【0017】
・・・本熔融工程及び冷却工程を、金属製坩堝又は金属製器具を用いて行うため、泡の混入を防止することが容易となり、すじ又は脈理等も防止することが容易となる。Bi系ガラスは金製又は金合金製の坩堝を使用することで、合金化反応を抑えることが可能である。熔解温度が高い場合には、金坩堝の融点(1063℃)を考慮し、白金、白金合金を用いることが好ましく、熔解温度が低い場合には、白金坩堝よりも金坩堝の方が合金になりにくいため、金又は金合金を用いることが好ましい。」
(オ)「【0031】
[ガラス組成]
本発明において好ましく製造することができる組成範囲について説明する。各成分は質量%にて表現する。なお、本願明細書中において質量%で表されるガラス組成は全て酸化物基準での質量%で表されたものである。・・・
【0032】
酸化ビスマスを含有する光学ガラスとは、Bi_(2)O_(3)を10%以上含有するガラスであり、本発明における製造方法において最も効果的なBi_(2)O_(3)量は、30%以上である。・・・」

(2)引用例1に記載された発明
記載事項(ア)によれば、引用例1には光学ガラスの製造方法に関する発明が記載されており、この製造方法は、原料混合物を熔解する原料熔解工程、熔解した原料混合物を冷却してカレットを作製するカレット化工程、カレットを熔解する本熔解工程、及び本熔解工程で熔解したカレットを再度冷却する冷却工程とを有するものである。
そして、同(ア)では、原料混合物は「酸化ビスマスを10質量%以上含有するもの」としているが、同(オ)によれば、酸化ビスマス(Bi_(2)O_(3))を酸化物基準で30質量%以上含有することが好ましいことがわかる。
また、同(ア)には、本熔解工程及び冷却工程で使用する坩堝又は器具として、白金製、白金合金製、金製及び金合金製のものが選択的に列挙されている。これらの坩堝又は器具は、本熔融工程と冷却工程で熔融したカレットと接触する部分に使われるものであることは明らかである。
したがって、引用例1に記載された事項を、本願発明の記載ぶりにそって整理すると、引用例1には次の発明(以下「引用例1発明」という。)が記載されている。
「原料混合物を熔融・冷却してカレットを作製し、熔融ガラスと接触する部分に金からなる器具を用いてカレットを熔融することからなる、酸化物基準でBi_(2)O_(3)を30質量%以上含有する光学ガラスの製造方法。」

4 対比と判断
(1)対比
本願発明と引用例1発明とを対比する。
引用例1発明の「原料混合物」、「熔融」及び「器具」と、本願発明の「粉体原料」、「溶融」及び「部材」は同義であり、また、引用例1発明の光学ガラスの製造方法は冷却工程を含むので、「光学ガラスを成形することを含む」製造方法であることは明らかであるので、本願発明と引用例1発明とは
「粉体原料を溶融して溶融ガラスのカレットを作製し、
少なくとも前記溶融ガラスとの接触部分に金からなる部材を使用して前記カレットを溶融して、酸化物基準でBi_(2)O_(3)を30質量%以上含有する光学ガラスを成形することを含む光学ガラスの製造方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。
本願発明では、溶融ガラスとの接触部分に使用する部材が「金を90%質量以上含有し、かつTi、Zr、Hf、Y、Nb、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選択される1種以上の金属の酸化物からなる強化材を、金の全質量に対し0.05質量%以上分散させた金属材料」からなるのに対し、引用例1発明では、金からなる点(以下「相違点」という。)。

(2)相違点についての判断
引用例1には、記載事項(イ)によれば、「ビスマスは白金材料と反応しやすいため、酸化ビスマスを多量に含むガラスの製造においては、原料の熔解に白金るつぼを使用した場合、ビスマスと白金で合金を作り、金属不純物の混入により、透過率が低下する」という問題点があることが、同(エ)には、「Bi系ガラスは金製又は金合金製の坩堝を使用することで、合金化反応を抑えることが可能である。熔解温度が高い場合には、金坩堝の融点(1063℃)を考慮し、白金、白金合金を用いることが好ましく、熔解温度が低い場合には、白金坩堝よりも金坩堝の方が合金になりにくいため、金又は金合金を用いることが好ましい。」と記載されている。
このため、同(イ)(エ)には、ビスマス系ガラスの熔解において、熔解温度が低い場合には、合金化反応を抑制する金製の部材の使用が好ましく、熔解温度が高い場合には、合金化反応が起こり透過率が低下するが、白金部材を用いることが好ましいことを示しているといえる。
ここで、金の融点が1063℃であるのに対し、白金の融点が1774℃(必要であれば、化学大事典7縮刷版、1964年1月15日、共立出版(株)発行、第99頁「はっきん 白金」の項目の「物理的性質」を参照)である、すなわち、金部材は白金部材より高温強度が低いことは、当業者の技術常識であるから、上記(イ)(エ)の記載に接した当業者は、ビスマス系ガラスの熔解に関して、合金化反応抑制の観点から好ましい金部材には、高温強度の観点で課題があることを認識し得るといえる。
これに対して、以下の周知例によれば、ジルコニウムやチタンの酸化物粉末を分散させて金の高温強度を向上させることは、本願出願前に周知の技術である。これについて、必要なら、特公昭54-3803号公報(以下「周知例1」という。)、特公昭52-12125号公報(以下「周知例2」という。)及び特開昭58-6964号公報(以下「周知例3」という。)を参照されたい。
周知例1には、発明の名称を「分散強化金属または同合金の製造方法」とする発明が記載されており、第10頁左欄の特許請求の範囲には、「白金属金属、金、・・・から選択される溶融金属ホスト物質及び溶融反応性成分を標的に噴霧すること、・・・上記溶融反応成分を変換した酸化物成分に変える雰囲気を通過させて、・・・分散した変換成分を有する上記ホスト物質のインゴットを形成させることから成る分散強化金属」に関する発明が記載されており、第5頁左欄に記載された実施例6によれば、純金に0.08%Tiを添加したインゴットは、高温強度特性として700℃における耐クリープ性が純金に比較して格段に優れている。また、第9頁の左欄12?13行には、該分散強化金属の用途として「高温度において溶融ガラスと接して使用し得る製品」が記載されている。
また、周知例2には、発明の名称を「分散強化金属及びその製法」とする発明が記載されており、第9頁左欄11行?同頁右欄34行には、金の中にジルコニウム酸化物粉末が分散した分散強化ジルコニウム金合金が記載されている。この分散強化ジルコニウム金合金の高温強度特性に関しては、700℃での応力破壊強度をまとめた3)の表によれば、ジルコニウム含有量に応じて高温での応力破壊強度が上昇することが確認できる。
また、周知例3には、発明の名称を「分散強化型金属または合金の機械的性質の改良方法」とする発明が記載されており、第7頁左上欄6行?同頁右上欄20行には、酸化チタンを分散強化材とした金が記載されている。そして、その効果として、700℃におけるクリープ試験結果が純金と比較して表にまとめられており、分散強化した金は高温強度特性が優れることを確認することができる。また、第10頁の右上欄14?20行には、「1300℃を超える温度での長時間使用に耐え、ガラス工業におけるルツボ、撹拌棒」等の用途に適していることが記載されている。
これらの周知例の記載から明らかなように、金にジルコニウムやチタン等の金属酸化物粉末からなる分散強化材を分散させることで、高温での機械的特性を向上させることができることは、本件出願前に周知技術であるといえる。また、このようにして強化した金部材を、溶融ガラスと接触するルツボ等に使用することも周知の技術であったといえる。

上記したとおり、引用例1の記載からは、Bi系ガラスの製造に使用する部材としての金部材は高温強度が劣るという課題を読み取ることができる。 一方、チタンやジルコニウム等の金属酸化物粉末により金を分散強化し金部材の高温強度を向上すること、及び分散強化された金部材は溶融ガラスのルツボとして使用されることは、周知の技術である。
このため、引用例1発明でBi系ガラスの熔融物と接触する部材として使用する金部材の高温強度を強化するために、上記した周知技術を適用することは、その課題が引用例1に示唆されているというべきであるから、当業者が容易に想到するところである。その際に、金部材中の金及び強化材としての金属酸化物粉末の含有量の適切な範囲を設定することは、当業者が目的を達成する上で必要に応じて適宜設定することであり、その効果も技術的に格別のものとすることはできない。

5 まとめ
以上のとおりであるので、本願の請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-25 
結審通知日 2013-10-01 
審決日 2013-10-15 
出願番号 特願2007-106854(P2007-106854)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C03B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 直也武重 竜男  
特許庁審判長 真々田 忠博
特許庁審判官 中澤 登
吉水 純子
発明の名称 光学ガラスの製造方法  
代理人 特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ  

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