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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B01D
審判 査定不服 特39条先願 取り消して特許、登録 B01D
管理番号 1282137
審判番号 不服2013-15775  
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-14 
確定日 2013-12-24 
事件の表示 特願2007-528116「活性汚泥処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年11月20日国際公開、WO2008/139617、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成19年5月14日を国際出願日とする出願であって、平成24年12月21日付けで拒絶理由が通知され、平成25年3月6日付けで手続補正がされ、同年5月30日付けで拒絶査定がなされ(平成25年6月4日発送)、同年8月14日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、これに対して、同年9月26日付けで当審より拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され(平成25年10月1日発送)、同年11月18日付けで手続補正書及び意見書が提出されたものである。

第2 本願発明について
本願の請求項1-4に係る発明は、平成25年11月18日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1-4に記載される事項によって特定される以下のとおりのものである。
(各請求項に係る発明を請求項の順に「本願発明1」「本願発明2」のように記載し、それらを総称して「本願発明」と記載する。)

「 【請求項1】
嫌気槽と好気槽とを備え、前記好気槽には膜ろ過ユニットが浸漬され、排水を順次生物学的に処理して活性汚泥と処理水とに分離する活性汚泥処理装置であって、
前記嫌気槽と前記好気槽との間で活性汚泥を循環させる手段を備えるとともに、
前記膜ろ過ユニットは、
多数の多孔性中空糸を微細間隙をもって平行に並べて得られるシート状の複数枚の中空糸膜エレメントが、その多孔性中空糸を垂直方向に向けて所定の間隔をおいて平行に列設されてなる中空糸膜モジュールと、同中空糸膜モジュールの下方に配され、同モジュールの下端部に向けて微小な気泡を放出し、同中空糸膜モジュールの内部空間と外部空間との間で上下方向に旋回する気液混合流を発生させる微細気泡発生部とを備えてなり、
前記膜ろ過ユニットにおける中空糸膜モジュールの各中空糸膜エレメントが、該中空糸膜エレメントを構成する垂直に平行に並ぶ多孔性中空糸膜間の間隙が微小である第1間隙領域と、その第1間隙領域の間に配され、多孔性中空糸膜間の微小な間隙よりも広い間隙に形成された第2間隙領域とを有してなり、
前記中空糸膜モジュールの並列方向に隣接する複数の中空糸膜エレメント間の一部間隔が広く形成され、その一部間隔の気液混合流の下端導入口に邪魔部材が配されてなるものである、
ことを特徴とする活性汚泥処理装置。
【請求項2】
前記好気槽から前記嫌気槽へ循環される部位におけるDOCが0.2mg/L以下である、請求項1記載の活性汚泥処理装置。
【請求項3】
前記膜ろ過ユニットは、前記中空糸膜モジュールと前記微細気泡発生部の周辺を囲うようにして配され上下を開口させた壁材を有し、該壁材の下端には裾が広がって延在するスカート部を有してなることを特徴とする請求項1又は2記載の活性汚泥処理装置。
【請求項4】
前記スカート部の水平方向の延在長さは1mm以上1000mm以下であり、同スカート部の前記壁材の下端から垂直下方に延びる鉛直線に対する傾斜角度は10°以上70°以下である請求項3記載の活性汚泥処理装置。」

第3 拒絶理由の概要
1.原査定の理由の概要
原査定の理由は、請求項1に係る発明(本願発明1に対応)は下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2-4に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得たものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項2、3に係る発明(本願発明3,4にそれぞれ対応)は引用文献1に記載された発明及び引用文献2-5に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とするものである。
引用文献1:特開2000-51672号公報

2.当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由は、請求項1-3に係る発明(それぞれ、本願発明1,3,4に対応)はそれぞれ先願の請求項1-3に記載された発明を包含するから、請求項1-3に係る発明は特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができない、とするものである。

先願:特願2005-348232号
(特開2007-152179号公報)

第4 刊行物の記載
1.引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された特開2000-51672号公報には、図面と共に次の事項が記載されている。
(1-ア)「【請求項1】処理槽内に、膜面が鉛直方向になるように配設された平型膜モジュールが複数平行に配列されてなる膜分離ユニットが設けられ、この膜分離ユニットの下方に散気装置が設けられてなる膜分離装置において、前記膜分離ユニットを囲む最小体積の直方体の上面の前記平型膜モジュールの膜面と平行な辺の長さをAとしたとき、
前記平型膜モジュールが、その配列方向において、等間隔Wで、前記長さAの0.2?2倍の範囲に配列される毎に、前記Wの1.2?5倍の間隔の空隙が設けられていることを特徴とする膜分離装置。
【請求項6】前記平型膜モジュールが中空糸膜モジュールであることを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載の膜分離装置。」(【特許請求の範囲】)
(1-イ)「図1に示したように、散気装置4は、その上面に複数の孔4aが設けられ、さらに処理槽1の外部のブロワー5に接続されている。すなわち、ブロワー5から気体が供給されることによって、前記散気装置4の孔4aから、散気装置4の上方向に配設された膜分離ユニット2に向かって複数の微細な気泡が発生するようになっている。また、気泡の散気によって、気泡と被処理液とが混合した流れ(気液混合流)が発生する。すなわち、前記気液混合流が平型膜モジュール3に接触することによって、その膜面がスクラビングされ、平型膜モジュール3の表面に付着した固体などが剥離する。そして、膜面の目詰まりを抑制し、平型膜モジュール3の濾過性能の低下を防ぐことができる。」(【0023】)
(1-ウ)「以下、図1に示した膜分離装置における固液分離の操作の一例についてを説明する。まず、処理槽1に、生活排水、工場排水などの汚水を被処理液として満たす。ついで、ブロワー5を作動させ、被処理液中の有機物を、好気性微生物の存在下で、散気装置4から発生する空気と接触させることにより、前記有機物を前記好気性微生物に吸着・代謝分解させて、生物処理する。これと同時に、前記散気装置4によって発生した気液混合流によって、膜分離ユニット2の膜面をスクラビングしながら、膜分離ユニット2に接続された吸引手段を作動させることにより、前記被処理液中の水を平型膜モジュール3の濾過膜を透過させて濾過し、集水配管2’から処理液を取り出す。
このとき、本発明においては、平型膜モジュール3…の相互間に、適度な空隙7が設けられているので、散気装置4から発生した気液混合流は、平型膜モジュール3と平型膜モジュール3の間を速やかに上昇する。そして、平型膜モジュール3が効率よくスクラビングされることにより、膜面への固体の吸着が抑制されつつ、濾過運転が進行する。ここで、例えば、空隙7における距離Waが小さすぎると、複数の気液混合流が互いにぶつかり合って上方に移動しにくくなり、平型膜モジュール3のスクラビングが効率よく行われず、洗浄効果が低下する。一方、空隙7における距離Waが大きすぎると、気液混合流は、抵抗なく、速やかに上昇するものの、平型膜モジュール3と接触しにくくなるため、適度な洗浄効果が得られない。すなわち、本発明においては、適度な大きさの空隙7を設けているため、エアースクラビングの効果を十分に発揮させることができる。」(【0028】、【0029】)
(1-エ)「【実施例】以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
<実施例1>平均孔径0.1μmの精密濾過用ポリエチレン中空糸膜をスクリーン状に展開固定した、図3に示したものと同様の構造の、2枚の編み地を備えた平型の中空糸膜モジュール(商品名:ステラポアL(三菱レイヨン社製);中空糸膜の繊維軸方向の長さ:80cm)を用いた。このような中空糸膜モジュール6本を、隣合うモジュール同士の中心間距離が6cmとなるように、等間隔で平行に並べた。ついで、間隔12cmの空隙を設け、さらにその隣に、同様の中空糸膜モジュールを、隣合うモジュール同士の中心間距離が6cmとなるように、等間隔で6本配置し、その隣に間隔12cmの空隙を設け、さらにその隣に、隣合うモジュール同士の中心間距離が6cmとなるように等間隔で6本配置した。」(【0034】)
(1-オ)「【発明の効果】以上説明したように、本発明においては、膜分離ユニットを構成する平型膜モジュールの相互間に、適切な範囲毎に適度な大きさの空隙が設けられているので、散気装置から発生した気液混合流は、平型膜モジュールと平型膜モジュールの間を速やかに上昇し、平型膜モジュールが効率よくスクラビングされることにより、膜面への固体の吸着が抑制されつつ、濾過運転が進行する。このようにエアースクラビングによる洗浄効果が高められているので、長期間にわたって、膜面の目詰まりが少なく、高い流量での固液分離を行うことができる。この結果、運転を中止してのメンテナンス作業の回数を低減できる。」(【0046】)
(1-カ)「図1に示した膜分離装置に用いられている膜分離ユニットと散気装置と遮閉板の配置関係を示した斜視図」(【図面の簡単な説明】)と題された【図2】(8頁)を以下に示す。



(1-キ)「本発明に用いられる平型膜モジュールの一例として、平型中空糸膜モジュールを示した斜視図」(【図面の簡単な説明】)と題された【図3】(7頁)を以下に示す。



(1-ク)「膜分離ユニットと遮閉板を上方向から見た状態を示した平面図」(【図面の簡単な説明】)と題された【図4】(a)(8頁)を以下に示す。


2.引用文献4
原査定の拒絶の理由に引用文献4として引用された特開平7-299337号公報には、図面と共に次の事項が記載されている。
(4-ア)「【産業上の利用分野】本発明は、特に汚濁性(殊に有機物の汚濁性)の高い液体を濾過するのに適した新規な中空糸膜モジュールに関する。」(【0001】)
(4-イ)「本発明は、エアースクラビング法が効果的に行えるモジュール構造の提案にある。エアースクラビング法を効果的に行うためには、膜面、膜間に確実にエアーを当てることが必要である。特に中空糸膜編織物や平膜などを並列に並べたようなモジュールの場合にはその編織物間や平膜間に確実に洗浄エアーを当てなければならない。
そのためには散気管とモジュールの位置関係及び散気管の開孔のピッチ等が重要なファクターとなるが、それらを現場で厳密に合わせるのは非常に難しい。」(【0016】、【0017】)
(4-ウ)「エアー集中板4は中空糸膜の編織物を1モジュール当りに複数枚用いるとき、編織物間に確実にエアーをいれ、編織物同士の接触を抑える機能を果たす。図1では、スリットのついた波板状のエアー集中板を例示しているが、エアー集中板の形状はこれに限定されず、図3に示すような漏斗状、多孔板、溝付き板等の様々な形状のものを用いることができる。」(【0029】)
(4-エ)「【発明の効果】本発明の中空糸膜モジュールは、エアー集中板を有効に用いることにより、より多くの中空糸膜が直接洗浄エアーと接するので、中空糸膜間への有機物の堆積が抑えられ、中空糸膜間の固着一体化が防止され、特に高汚濁水の濾過において、長期にわたって高い濾過効率を保つことが可能である。又、散気管とモジュールとの細かい位置合わせが不要なため、モジュールの設置が簡便になり、既存の曝気槽等へのモジュール設置も非常に簡便になる。」(【0035】)
(4-オ)「本発明の中空糸膜モジュールの一例を示す斜視図」(【図面の簡単な説明】)と題された【図1】(4頁)を以下に示す。



第5 審判合議体の判断
5-1.原査定の理由について
5-1-1.本願発明1について
(1)引用文献1に記載された発明の認定
i)引用文献1の摘示事項(1-ア)(以下、単に「(1-ア)」のように記す。)に記載の請求項1を引用する請求項6を独立形式で記載すると、引用文献1には、
「処理槽内に、膜面が鉛直方向になるように配設された平型膜モジュールが複数平行に配列されてなる膜分離ユニットが設けられ、この膜分離ユニットの下方に散気装置が設けられてなる膜分離装置において、前記膜分離ユニットを囲む最小体積の直方体の上面の前記平型膜モジュールの膜面と平行な辺の長さをAとしたとき、
前記平型膜モジュールが、その配列方向において、等間隔Wで、前記長さAの0.2?2倍の範囲に配列される毎に、前記Wの1.2?5倍の間隔の空隙が設けられており、前記平型膜モジュールが中空糸膜モジュールである膜分離装置。」について記載されている。
ii)上記「膜分離装置」において、「膜分離ユニット」は、「膜面が鉛直方向になるように配設された平型膜モジュールが複数平行に配列されてな」り、また、「平型膜モジュールが中空糸膜モジュール」であり、「前記平型膜モジュールが、その配列方向において、等間隔W」で「配列され」ており、また、(1-エ)(1-カ)(1-キ)に示されるように、「平型膜モジュール」をなす「中空糸12」は「管状支持体14」間で水平方向に向けて設置されているものである。
よって、上記「膜分離装置」は、複数の中空糸でなり「膜面が鉛直方向になるように配設」される「平型膜モジュール」が、「その配列方向において、等間隔W」で「複数平行に配列され」ていて、「中空糸」は水平方向に向けて設置されている「膜分離ユニット」を有するといえる。
iii)さらに、上記「膜分離装置」は、「膜分離ユニットの下方に散気装置が設けられて」なるものであり、「散気装置」は(1-カ)(1-イ)に示されるように「散気装置4の孔4aから、散気装置4の上方向に配設された膜分離ユニット2に向かって複数の微細な気泡が発生するようになっている。また、気泡の散気によって、気泡と被処理液とが混合した流れ(気液混合流)が発生する。すなわち、前記気液混合流が平型膜モジュール3に接触することによって、その膜面がスクラビングされ、平型膜モジュール3の表面に付着した固体などが剥離する」ものである。
ここで(1-オ)には「散気装置から発生した気液混合流は、平型膜モジュールと平型膜モジュールの間を速やかに上昇し、平型膜モジュールが効率よくスクラビングされる」と記載されており、「平型膜モジュールと平型膜モジュールの間」すなわち「膜分離ユニット」の内側を「上昇」した流れは液面で反転して「膜分離ユニット」の外側へ下降していくものといえる。
よって、上記「膜分離装置」は、「膜分離ユニットの下方」に「設けられて」なり、「膜分離ユニット2に向かって複数の微細な気泡」を発生させ、「膜分離ユニット」の内側を「上昇」し外側へ下降していく「気泡と被処理液とが混合した流れ(気液混合流)」を発生させる「散気装置」を有するものといえる。
iv)そして、(1-ウ)に記載されるように、上記「膜分離装置」は、「処理槽1」中の「生活排水、工場排水などの汚水」に対して「ブロワー5」を作動させ、「被処理液中の有機物を、好気性微生物の存在下で、散気装置4から発生する空気と接触させることにより、前記有機物を前記好気性微生物に吸着・代謝分解させて、生物処理する」と同時に「前記散気装置4によって発生した気液混合流によって、膜分離ユニット2の膜面をスクラビングしながら、膜分離ユニット2に接続された吸引手段を作動させることにより、前記被処理液中の水を平型膜モジュール3の濾過膜を透過させて濾過し、集水配管2’から処理液を取り出す。」ものであるから、「好気性微生物に吸着・代謝分解させて、生物処理」する汚水処理装置の一部として「膜分離装置」が用いられているといえる。
v)以上で検討したことを本願発明1の記載に沿って整理すると、引用文献1には、
「処理槽内で、
膜分離装置は、
複数の中空糸でなり膜面が鉛直方向になるように配設される平型膜モジュールが、その配列方向において、等間隔Wで複数平行に配列されていて、中空糸は水平方向に向けて設置されている膜分離ユニットと、
膜分離ユニットの下方に設けられてなり、膜分離ユニットに向かって複数の微細な気泡を発生させ、膜分離ユニットの内側を上昇し外側へ下降していく気泡と被処理液とが混合した流れ(気液混合流)を発生させる散気装置と、を有し
膜分離ユニットを囲む最小体積の直方体の上面の前記平型膜モジュールの膜面と平行な辺の長さをAとしたとき、前記平型膜モジュールが、その配列方向において、等間隔Wで、前記長さAの0.2?2倍の範囲に配列される毎に、前記Wの1.2?5倍の間隔の空隙が設けられている、
好気性微生物に吸着・代謝分解させて生物処理する汚水処理装置。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)本願発明1と引用発明との対比
i)引用発明は、「複数の中空糸」でなる「平型膜モジュール」を「配列」した「膜分離ユニット」を「膜分離装置」が有するものであるのに対して、本願発明1は、「中空糸膜エレメント」を「列設」した「中空糸膜モジュール」を「膜ろ過ユニット」が有するものであるから、引用発明の「複数の中空糸」でなる「平型膜モジュール」、「膜分離ユニット」、「膜分離装置」は、本願発明1の「中空糸膜エレメント」、「中空糸膜モジュール」、「膜ろ過ユニット」にそれぞれ相当するといえる。
ii)引用発明の「複数の中空糸でなり膜面が鉛直方向になるように配設される平型膜モジュールが、その配列方向において、等間隔Wで複数平行に配列されてい」る「膜分離ユニット」は、本願発明1の「多数の多孔性中空糸を微細間隙をもって平行に並べて得られるシート状の複数枚の中空糸膜エレメント」が「所定の間隔をおいて平行に列設されてなる中空糸膜モジュール」に相当する。
iii)引用発明の「膜分離ユニットの内側を上昇し外側へ下降していく気泡と被処理液とが混合した流れ(気液混合流)」は、本願発明1の「中空糸膜モジュールの内部空間と外部空間との間で上下方向に旋回する気液混合流」にあたるといえるから、引用発明の「膜分離ユニットの下方に設けられてなり、膜分離ユニットに向かって複数の微細な気泡を発生させ、膜分離ユニットの内側を上昇し外側へ下降していく気泡と被処理液とが混合した流れ(気液混合流)を発生させる散気装置」は、本願発明1の「同中空糸膜モジュールの下方に配され、同モジュールの下端部に向けて微小な気泡を放出し、同中空糸膜モジュールの内部空間と外部空間との間で上下方向に旋回する気液混合流を発生させる微細気泡発生部」に相当する。
iv)引用発明の「膜分離ユニットを囲む最小体積の直方体の上面の前記平型膜モジュールの膜面と平行な辺の長さをAとしたとき、前記平型膜モジュールが、その配列方向において、等間隔Wで、前記長さAの0.2?2倍の範囲に配列される毎に、前記Wの1.2?5倍の間隔の空隙が設けられている」ことは、(1-ク)からもみてとれるように、「膜分離ユニット」内で「平型膜モジュールが、その配列方向において、等間隔W」で「配列」され、一定間隔毎に「W」よりも広い間隔の「空隙」を設けることといえるから、これは本願発明1の「中空糸膜モジュールの並列方向に隣接する複数の中空糸膜エレメント間の一部間隔が広く形成され」ることに相当する。
v)引用発明の「好気性微生物に吸着・代謝分解させて生物処理する汚水処理装置」は、本願発明1の「活性汚泥処理装置」に相当する。
vi)以上のことを整理すれば、本願発明1と引用発明とは、
「膜ろ過ユニットは、
多数の多孔性中空糸を微細間隙をもって平行に並べて得られるシート状の複数枚の中空糸膜エレメントが、所定の間隔をおいて平行に列設されてなる中空糸膜モジュールと、
同中空糸膜モジュールの下方に配され、同モジュールの下端部に向けて微小な気泡を放出し、同中空糸膜モジュールの内部空間と外部空間との間で上下方向に旋回する気液混合流を発生させる微細気泡発生部とを備えてなり、
前記中空糸膜モジュールの並列方向に隣接する複数の中空糸膜エレメント間の一部間隔が広く形成されたものである、活性汚泥処理装置。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>活性汚泥処理装置の構造について、本願発明1では「嫌気槽と好気槽とを備え、前記好気槽には膜ろ過ユニットが浸漬され、排水を順次生物学的に処理して活性汚泥と処理水とに分離する」ものであって、「前記嫌気槽と前記好気槽との間で活性汚泥を循環させる手段を備える」ものであるのに対して、引用発明では「処理槽内」で処理されるものである点。

<相違点2>中空糸の向きについて、本願発明1では「その多孔性中空糸を垂直方向に向けて」いるのに対し、引用発明では「中空糸は水平方向に向けて設置されている」ものである点。

<相違点3>中空糸膜エレメントにおける中空糸膜の並び方について、本願発明1では「前記膜ろ過ユニットにおける中空糸膜モジュールの各中空糸膜エレメントが、該中空糸膜エレメントを構成する垂直に平行に並ぶ多孔性中空糸膜間の間隙が微小である第1間隙領域と、その第1間隙領域の間に配され、多孔性中空糸膜間の微小な間隙よりも広い間隙に形成された第2間隙領域とを有してな」るものであるのに対して、引用発明では「平型膜モジュール」を構成する「中空糸」の並び方について特定されていない点。

<相違点4>中空糸膜モジュールの並列方向に隣接する複数の中空糸膜エレメント間の一部間隔が広く形成された箇所の構造について、本願発明1では「その一部間隔の気液混合流の下端導入口に邪魔部材が配されてなる」ものであるのに対して、引用発明では当該構造を有しない点。

(3)相違点4の検討
引用文献4には、上記相違点4に係る本願発明1の特定事項である「邪魔部材」と、「気液混合流の下端導入口に配される」点で共通する「エアー集中板」構造について記載されているから、この「エアー集中板」について検討する。
上記(4-ア)(4-イ)に記載されるように、引用文献4に記載された「エアー集中板」は、「汚濁性(殊に有機物の汚濁性)の高い液体を濾過するのに適した」「中空糸膜モジュール」において、「中空糸膜編織物や平膜などを並列に並べたようなモジュール」の場合に、「その編織物間や平膜間に確実に洗浄エアーを当て」るための構造であって、(4-ウ)に記載されるように、「中空糸膜の編織物を1モジュール当りに複数枚用いるとき」に、「編織物間に確実にエアーをいれ、編織物同士の接触を抑える機能を果たす」ものであり、(4-エ)に記載されるように、「より多くの中空糸膜が直接洗浄エアーと接するので、中空糸膜間への有機物の堆積が抑えられ、中空糸膜間の固着一体化が防止され」るものである。
具体的には、(4-オ)の【図1】の記載によれば、モジュール全体の下部に存在し、各編織物の膜面又は膜間と対応した位置にスリット等が形成された板状物であるから、複数の全ての中空糸膜編織物の膜面又は膜間に沿って確実にエアーを集中して供給し、洗浄と接触防止を行うものである。
これに対して、本願発明1の「邪魔部材」は、「中空糸膜モジュールの並列方向に隣接する複数の中空糸膜エレメント間の一部間隔が広く形成され、その一部間隔の気液混合流の下端導入口」に配されるものであって、中空糸膜モジュールの下部全体に存在するものでなく、導入された気液混合流は、広く形成された一部間隔の下方から隣接する中空糸群の下方に振り分けられた後、そのまま膜面又は膜間に沿って上昇する流れと、該広く形成された一部間隔に向かう斜めの流れとの複合流を形成することにより、膜面を横切る気液混合流によっても洗浄を行うものである(本願明細書【0018】、【0046】、【0047】参照)。
そうすると、引用文献4に記載された「エアー集中板」は、本願発明1の「邪魔部材」とは、構成も機能も異なるものであるから、引用発明に引用文献4に記載のエアー集中板を適用したとしても、本願発明1を導くことはできない。
また、原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された国際公開第03/101896号、引用文献3として引用された特表2002-525197号公報、引用文献5として引用された特開平9-215980号公報のいずれにも本願発明1の「邪魔部材」に対応する構造を記載ないし示唆する箇所を見出すことはできない。

(4)小括
以上から、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2-5に記載された技術手段から当業者が容易に想到し得たものであるということはできない。
よって、本願発明1は拒絶理由を有しない。

5-1-2.本願発明2-4について
本願発明2-4は、いずれも結果的に請求項1の記載を引用し、本願発明1の特定事項を有しているので、本願発明1が上記のように拒絶理由を有するものではないから、本願発明2-4も拒絶理由を有するものでない。

5-2.当審拒絶理由について
平成25年11月18日付け手続補正書による補正によって、本願発明1,3,4は、先願の請求項1-3に記載された発明とそれぞれ同一のものではなくなった。
したがって、当審拒絶理由は解消した。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本願については、原査定の拒絶理由及び当審拒絶理由を検討しても、それらの理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2013-12-10 
出願番号 特願2007-528116(P2007-528116)
審決分類 P 1 8・ 4- WY (B01D)
P 1 8・ 121- WY (B01D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 手島 理  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 川端 修
中澤 登
発明の名称 活性汚泥処理装置  
代理人 野口 武男  
代理人 小林 均  
代理人 林 司  

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