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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B23H |
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管理番号 | 1282248 |
審判番号 | 不服2013-13508 |
総通号数 | 169 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-01-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-07-12 |
確定日 | 2013-12-17 |
事件の表示 | 特願2008-157177「放電加工方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年12月24日出願公開、特開2009-297860、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
1.手続の経緯と本件発明 本願は平成20年6月16日の出願であり、平成24年10月4日付拒絶理由通知に対して平成24年11月27日に意見書と手続補正書が提出されたが、平成25年5月29日付で拒絶査定がなされたものである。本件審判はこれに対し、該査定の取消を求めて平成25年7月12日に請求されたものである。 本願の請求項1及び2に係る発明は、平成24年11月27日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、請求項1の記載は次のとおりである。 「電極と被加工物とを所定の間隙で対向させて配置し、前記電極をプラス極とし、前記被加工物をマイナス極として前記間隙に電圧を印加して放電を発生させ、前記電極と前記被加工物との間にパルス状の放電電流を流して前記被加工物を加工する放電加工方法において、 前記電極がグラファイトであり、前記被加工物が銅合金、亜鉛合金またはアルミニウム合金である場合に、前記放電電流の立ち上がりから、設定された前記放電電流のパルス幅の30%以上の時間まで勾配をつけるように、前記放電電流を制御することを特徴とする放電加工方法。」(以下、「本件発明」という。) 2.原査定の拒絶理由の概要 原査定の拒絶理由は、概略、本願の請求項1及び2に係る発明は、本願の出願前に頒布された以下の刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 刊行物1: 特開平3-294116号公報 刊行物2: 特開昭64-27812号公報 3.刊行物に記載された発明または事項 上記刊行物には、以下の記載がなされている。 3.1 刊行物1 a.(第2ページ右下欄第9?18行) 「また近年では、形彫放電加工機に特に有用な低電極消耗条件による放電加工の技術が開発され実用化されている。これはワーク側を陰極にしてその材料を鉄鋼、アルミニウム等に限定し、電極側を陽極にしてその材料としては銅、グラファイト等を使用する技術である。この場合には加工用パルスのパルス幅を拡げるにつれて電極の消耗量が減少し、或る値において最小となることが知られているのでこの幅のパルスを連続的に印加することで電極の消耗の少ない放電加工が実現される。」 放電加工が、「電極とワークとを所定の間隙で対向させて配置し、前記間隙に電圧を印加して放電を発生させ、前記電極と前記ワークとの間にパルス状の放電電流を流して前記ワークを加工する方法。」であることは技術常識であるため、技術常識を考慮しつつ上記記載事項を整理すると、刊行物1には次の発明が記載されているということができる。 「電極とワークとを所定の間隙で対向させて配置し、前記電極を陽極とし、前記ワークを陰極として前記間隙に電圧を印加して放電を発生させ、前記電極と前記被加工物との間にパルス状の放電電流を流して前記ワークを加工する放電加工方法において、 前記電極をグラファイトとし、前記ワークをアルミニウムとする放電加工方法。」(以下、「刊行物1記載の発明」という。) 3.2 刊行物2 a.(特許請求の範囲) 「加工液中に被加工物と工具電極を微小間隙を介して対向させ、上記被加工物と工具電極間に電圧を印加して、上記微小間隙にパルス電流を供給し、上記被加工物を加工する放電加工方法において、上記パルス電流の供給は、パルスの立ち上がり時の電流値が、パルスの立ち下がり時の電流値の0.2倍から0.35倍の範囲で設定され、上記パルスの立ち上がり時の電流値を始点として、上記パルスの立ち下がり時の電流の大きさに反比例する正の傾斜率で、上記パルスの立ち下がり時の電流値まで増加する波形であって、上記パルスの立ち上がり時及び立ち下がり時の電流値、上記傾斜率及び上記パルスの立ち上がりから立ち下がりまでの時間のそれぞれが任意に設定できるパルス電流を、任意の時間間隔で連続して上記微小間隔に供給することを特徴とする放電加工方法。」 b.(第2ページ右上欄第2?6行) 「従って上記矩形波よりも更に低消耗が実現できる第17図に示す鋸歯状波が用いられる様になってきている。この鋸歯状波は第17図に示す様に、任意のピーク電流Ip(A)とパルス幅τp(μsec)を得る為に、(以下省略)」 c.(第2ページ左下欄第11?15行) 「ここで、放電加工の加工速度は加工電流の波形面積にほぼ比例するので、上記鋸歯状波加工電流を用いた場合には低消耗化が計られる反面、加工速度が上記矩形波加工電流に比して約45?65%に低下するということになる。」 d.(第3ページ左下欄第17行?右下欄第5行) 「以上の様に、この発明によればパルス電流の立ち上がり時の電流値を、パルス電流の立ち下がり時の電流値の0.2?0.35倍の範囲に設定し、上記パルス電流の立ち下がり時の電流値まで増加する電流の傾斜率を、上記立ち下がり時の電流値と反比例する様にしたので、工具電極の消耗を最少に保ったまま加工速度を上げることができるという効果がある。」 上記記載事項を整理すると、刊行物2には次の事項が記載されていると認められる。 「鋸歯状波加工電流を用いた場合には工具電極の低消耗化が計られる反面、加工速度が矩形波加工電流に比して約45?65%に低下すること。」(以下、「刊行物2の記載事項1」という。)、及び 「パルス電流の立ち上がり時の電流値を、パルス電流の立ち下がり時の電流値の0.2?0.35倍の範囲に設定し、パルス電流の立ち上がり時の電流値からパルス電流の立ち下がり時の電流値まで増加する電流の傾斜率を、上記立ち下がり時の電流値と反比例する様にすると、工具電極の消耗を最小に保ったまま加工速度を上げることができること。」(以下、「刊行物2の記載事項2」という。) 4.対比 刊行物1記載の発明の「ワーク」、「陽極」、「陰極」が、本件発明の「被加工物」、「プラス極」、「マイナス極」に相当することは明らかであるため、本件発明と刊行物1記載の発明とは以下の点で一致及び相違すると認められる。 <一致点> 「電極と被加工物とを所定の間隙で対向させて配置し、前記電極をプラス極とし、前記被加工物をマイナス極として前記間隙に電圧を印加して放電を発生させ、前記電極と前記被加工物との間にパルス状の放電電流を流して前記被加工物を加工する放電加工方法において、 前記電極がグラファイトである放電加工方法。」である点。 <相違点1> 被加工物が、前者では銅合金、亜鉛合金またはアルミニウム合金であるのに対し、後者ではアルミニウムである点。 <相違点2> パルス状の放電電流が、前者では放電電流の立ち上がりから、設定された放電電流のパルス幅の30%以上の時間まで勾配をつけるように、放電電流を制御するのに対し、後者ではこのような特定がない点。 5.当審の判断 上記相違点について検討する。 5.1 <相違点1>について 「アルミニウム」という場合、通常は不可避的な不純物を除けば純粋なアルミニウムを指すのに対し、「アルミニウム合金」という場合は、意図的に他の金属を混入することによって純粋なアルミニウムとは異なる機械的、電気的、または熱的な特性をもつ金属材料を指すことは、当業者間の一般知識であるため、刊行物1記載の発明の「アルミニウム」は、本件発明の「アルミニウム合金」とは異なる材料と認められる。 しかしながら、「アルミニウム」と「アルミニウム合金」とは、共にアルミニウムをその組成の主要部とする金属材料であるため、刊行物1記載の発明において、被加工物をアルミニウムに代えてアルミニウム合金とすることは、当業者であれば当然試みるものである。 5.2 <相違点2>について 本件発明において、「放電電流の立ち上がりから、設定された放電電流のパルス幅の30%以上の時間まで勾配をつける」とは、本願の図2、I2に示されるように放電電流がゼロから立ち上がり、設定された電流値i0まで勾配をもって増加することを指すのに対し、刊行物2の記載事項2によれば、放電電流は立ち上がり時において、パルスの立ち下がり時の電流値、すなわち最大電流値または設定電流値の0.2?0.35倍の範囲から勾配をもって増加しているため、両者の放電電流が同様の波形をもつということはできない。 したがって、たとえ工具電極の消耗を最小に保ったまま加工速度を上げることが放電加工において周知の課題であるとしても、刊行物2記載の事項2を刊行物1記載の発明に適用した場合に、本件発明の放電加工方法に至るものではない。 また、刊行物2には、電極及び被加工物の材質についての記載は見当たらないため、刊行物2記載の事項2を刊行物1記載の発明において被加工物をアルミニウム合金としたものに適用した場合にも、上記課題の達成を予測し得るということはできない。 5.3 本件発明の効果について 刊行物2記載の事項1によれば、鋸歯状波加工電流、すなわち放電電流の立ち上がりから、設定された放電電流のパルス幅の100%の時間まで勾配をつけるように、放電電流を制御した場合は、工具電極の低消耗化が計られる反面、加工速度が矩形波加工電流に比して低下するとされている。これに対し、本件発明では、電極をプラス極とし、前記被加工物をマイナス極とする放電加工方法において、電極をグラファイトとし、被加工物を銅合金、亜鉛合金またはアルミニウム合金とした場合に、放電電流の立ち上がりから、設定された放電電流のパルス幅の30%以上の時間まで勾配をつけるように放電電流を制御することによって、本願の図6,7,8に示されるように、加工速度を落とすことなく電極の消耗率を低く抑えるという効果を生じており、このことは、刊行物2の記載事項1から予測することはできない。 したがって、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の事項2を適用したとしても、本件発明に至ることはなく、また、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の事項1を適用したものからは予測されない効果を生じるということができる。 なお、拒絶査定において周知技術を示す例として挙げられた特開平7-256515号公報、特開平11-48039号公報及び特開2002-254250号公報にも、「電極がグラファイトであり、被加工物が銅合金、亜鉛合金またはアルミニウム合金である場合に、放電電流の立ち上がりから、設定された前記放電電流のパルス幅の30%以上の時間まで勾配をつけるように、放電電流を制御する」ことについて、記載も示唆も見当たらない。 6.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから、原査定の拒絶理由によって拒絶することはできない。 本願の請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の発明特定事項をすべて含むから、同様の理由により、原査定の拒絶理由によって拒絶することはできない。 また、そのほかに本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 . |
審決日 | 2013-12-05 |
出願番号 | 特願2008-157177(P2008-157177) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(B23H)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 山崎 孔徳 |
特許庁審判長 |
豊原 邦雄 |
特許庁審判官 |
長屋 陽二郎 刈間 宏信 |
発明の名称 | 放電加工方法 |
代理人 | 酒井 宏明 |