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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1283534
審判番号 不服2011-7910  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-04-14 
確定日 2014-01-06 
事件の表示 特願2006-541484「コーティング製剤および鉄ベース希土類粉への有機不動態化層の適用」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月 9日国際公開、WO2005/052960、平成19年 5月31日国内公表、特表2007-514303〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、2004年11月24日(優先権主張2003年11月25日、米国)を国際出願日とする出願であって、原審において平成22年12月6日付けで拒絶査定され、これに対し平成23年4月14日に審判請求がなされたものであり、
当審において、平成24年11月26日付けで拒絶理由を通知したところ、平成25年5月1日付けで意見書および手続補正書が提出されたものである。
なお、上記平成24年11月26日付け当審拒絶理由通知は、特許法第36条第4項及び第6項を拒絶の理由とするものであるが、その末尾に(当審注)として付記したように、特許法第29条第2項による原査定の拒絶の理由は保留したものである。

本件出願の請求項5に係る発明は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、平成25年5月1日付けで補正された特許請求の範囲の請求項5に記載された次のとおりのものである。(以下「本願発明」という。)

(本願発明)
「【請求項5】
圧縮成形磁石又はコンパクト成形磁石の製造に使用するための急速凝固させた希土類-遷移金属-ホウ素磁石材料であって、
希土類-遷移金属-ホウ素磁石粉、および一般式
(RO-)_(n)(TiまたはZr)(-OR’Y)_(4-n )
[式中、Rは、ネオペンチル(ジアリル)、ジオクチル、または(2,2-ジアリオキシメチル)ブチル基であり、TiまたはZrの配位数は4であり、R’はホスフィト、ピロホスファト、または環状ピロホスファトセグメントであり、そしてYはジオクチルまたはジトリデシル末端基であり、1≦n≦4である]
の有機チタネートもしくは有機ジルコネートカップリング剤を含み、
前記カップリング剤が磁石粉の重量に対して0.1重量%?0.75重量%の量で存在し、
前記磁石粉が磁石材料の95重量%以上の量で含まれる
上記磁石材料。」


2.引用例に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2000-058313号公報(以下、「引用例」という。)には、「樹脂結合型磁石用組成物及び樹脂結合型磁石」として図面と共に次の記載がある。

イ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、磁気特性に優れた樹脂結合型磁石を与える樹脂結合型磁石用組成物及びこれを用いた樹脂結合型磁石に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、フェライト磁石、アルニコ磁石、希土類磁石等がモーターをはじめとする種々の用途に用いられている。しかし、これらの磁石は主に焼結法により作られるために、一般に脆く、薄肉のものや複雑な形状のものが得難い。また焼結時の収縮が15?20%と大きいため寸法精度の高いものが得られず、精度を上げるには研磨等の後加工が必要であるという欠点を有している。
【0003】樹脂結合型磁石は、これらの欠点を解決すると共に新しい用途をも開拓するもので、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等の熱可塑性樹脂をバインダーとし、これに磁性粉末を充填したものである。しかし、熱可塑性樹脂をバインダーとして用いる樹脂磁石は、成形時に200℃以上の高温下に曝されるため、磁気特性、特に保磁力や角型性の低下が免れない特徴があり、成形後の磁気特性低下率を低く抑える樹脂結合型磁石成形品が得られなかった。
【0004】また、エポキシ樹脂やビス・マレイミドトリアジン樹脂等の熱硬化性樹脂をバインダーとし、これに磁性粉末を充填したものも提案されているが、バインダー量が希少なため圧縮成形法による単純成形品しか得られていなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】近年、小型モーター、音響機器、OA機器等に用いられる樹脂結合型磁石は、機器の小型化の要請から、磁気特性に優れ、かつ複雑形状のものが要求されている。しかし、従来の方法よって得られる樹脂結合型磁石の磁気特性と形状との関係は上記用途に使用するには不十分であり、樹脂結合型磁石の早期改良が望まれていた。
【0006】従って、本発明の目的は、従来の熱可塑性樹脂を用いた射出成形法によって得られる、低磁気特性で複雑形状の成形が可能な樹脂結合型磁石と、従来の熱硬化性樹脂を用いた圧縮成形法によって得られる、高磁気特性で単純形状のみの樹脂結合型磁石の、それぞれの欠点を解消し、磁気特性、形状自由度、成形性、耐熱性の優れた樹脂結合型磁石を与える磁石用組成物を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の目的を達成するために種々の検討を行った結果、磁性粉末と特定の粘度を有する熱硬化性樹脂との組成物とを、射出成形法やトランスファー成形法で製造することで優れた磁気特性、形状自由度、成形性、耐熱性を有する樹脂結合型磁石が得られることを見いだし本発明を完成するに至った。
【0008】即ち、本発明の樹脂結合型磁石用組成物は、チタネート系カップリング剤で被膜処理を施した異方性磁場(HA)が50kOe以上の磁性粉末と、有機バインダー成分の最終混合状態での成形温度における回転粘度計測定法での動的粘度が500mPa・s?3000mPa・sである熱硬化性樹脂バインダーとからなることを特徴とする。」(2頁1?2欄)

ロ.「【0012】
【発明の実施の形態】本発明で用いるチタネート系カップリング剤には、一般に市販されているイソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(N-アミノエチル)チタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート等が挙げられる。これらのチタネート系カップリング剤は、単独もしくは二種以上で用いることができる。
【0013】これらの中では、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネートが特に好ましい。
【0014】また、本発明で用いるアルミニウム系カップリング剤には、アルコキシアルミニウムキレート類が挙げられる。具体的には、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等である。
【0015】磁性粉末への被膜処理は、事前に被膜処理工程を設けて完全に被膜処理を終えた後次工程の有機バインダーと混合しても良く、また、有機バインダー混合時に同時添加しても良い。より確実な被膜を得るためには、事前に完全被膜処理を行った後、有機バインダーとの混合を行うことが望ましい。
【0016】これらの表面処理剤の磁粉への添加量は、種類によって最適値が異なるが、概ね磁粉100重量部に対して0.1重量部?10重量部が好ましく、更に好ましくは、0.1?5重量部である。0.1重量部よりも少ないと磁気特性低下抑止効果や成形性向上効果が得られず、10重量部よりも多くなると成形体の比重が低下して所望の磁気特性が得られない。
【0017】次に、本発明で用いる磁性粉末には、通常樹脂結合型磁石に用いられている磁性粉を使用でき、例えば、異方性磁場(HA)が、50kOe以上の磁性粉末である希土類コバルト系、希土類-鉄-ほう素系、希土類-鉄-窒素系の磁性粉を使用することができる。
【0018】本発明者らは、上記樹脂結合型磁石組成物において、磁性粉として上で例示したNd-Fe-B系の液体急冷法による合金粉末やSm-Co系、Sm-Fe-N系の合金粉末を用いると、例えば90重量%以上の高充填化が可能であり、特に優れた磁気特性を有する樹脂結合型磁石が得られることを確認している。
【0019】尚、液体急冷法によって得られたNd-Fe-B系の磁性粉は、鱗片状の特異な形状を有しているため、好ましくはジェットミルやボールミル等で粉砕した方が良い。これら磁性粉末の好ましい粒径は、平均200μm以下であり、特に好ましくは平均100μm以下である。」
(2頁2欄?3頁4欄)


ハ.「【0031】
【実施例】以下本発明の実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。尚、実施例、比較例に用いた各成分の詳細及び試験方法、評価を例示するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り、これらに限定されるものではない。
【0032】以下の材料及び方法で樹脂結合型磁石用組成物及び磁石を製造し、評価した。用いた材料を下記に示す。
【0033】A 磁性粉末
・磁粉1:Nd-Fe-B 系磁性粉末
(商品名:MQP-B、米国ゼネラルモーターズ社製)
異方性磁場:70.4kOe
・磁粉2:SmCo5 系磁性粉末
(商品名:RCo5合金、住友金属鉱山株式会社製)
異方性磁場:246kOe
【0034】B 表面処理被膜剤
・被膜剤1;イソプロピルトリイソステアロイルチタネート表面処理剤
(商品名:プレンアクトKRTTS、味の素株式会社製)
・被膜剤2;テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート表
面処理剤
(商品名:プレンアクトKR46B、味の素株式会社製)
・被膜剤3;テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシル)ジトリデシルホスファイトチタネート表面処理剤
(商品名:プレンアクトKR55、味の素株式会社製)
・被膜剤4;アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート表面処理剤
(商品名:プレンアクトAL-M、味の素株式会社製)
【0035】C 熱硬化性樹脂
・不飽和ポリエステル樹脂(UP樹脂1)
(商品名:リゴラックM-500D、昭和高分子株式会社製)
・不飽和ポリエステル樹脂(UP樹脂2)
(商品名:リゴラック4214、昭和高分子株式会社製)
・エポキシ樹脂(EP樹脂1);ノボラック型液状エポキシ樹脂
(商品名:タ゛ウ・エホ゜キシ樹脂D.E.N.431、タ゛ウ・ケミカル日本株式会社製)
・エポキシ樹脂(EP樹脂2);ヒ゛スフェノールA型固形エポキシ樹脂
(商品名:エポトートYD-013、東都化成株式会社製)
【0036】D 硬化剤
・硬化剤1;パーオキシエステル系過酸化物(t-フ゛チルハ゜ーオキシヘ゛ンソ゛エート)
(商品名:パーブチルZ、日本油脂株式会社製)
・硬化剤2;エポキシ樹脂加熱速硬化用硬化剤
(商品名:エヒ゜キュアー170、油化シェルエホ゜キシ株式会社製)
・硬化剤3;エポキシ樹脂用潜在性硬化剤
(商品名:DICY7、油化シェルエホ゜キシ株式会社製)
【0037】次に各成形品の製造方法、評価方法は以下の通り実施した。
1.磁性粉の表面被膜処理
それぞれの磁性粉全量に、磁性粉に対して所定の表面被膜処理剤を計量し、有機溶媒系で希釈した後プラネタリーミキサー中で十分混合撹拌(40rpm、30℃)して、均一混合物にした後最大130℃まで徐々に温度を上げて攪拌しながら十分反応させてさらに同一状態で乾燥させ、表面被膜処理済磁性粉を得た。
【0038】2.組成物の混合及び作製
それぞれの表面被膜処理済磁性粉全量に、所定の熱硬化性樹脂や硬化剤等を所定の比率になるよう添加し(各重量部)、更に滑剤として、磁性粉100重量部に対し0.5重量部のステアリン酸カルシウムを加え、プラネタリーミキサー中で十分混合撹拌(40rpm、30℃)し最終組成物を得た。
【0039】これらにより得られた混合物を比較例4と比較例5のみ20mmφシングル押出機(L/D=25、CR=2.0、回転数=20rpm、5mmφストランドダイ、シリンダー温度200?220℃、ダイス温度100℃?150℃)にて押し出し、ホットカットペレタイザーにてφ5mm×5mmの樹脂結合型磁石用ペレットコンパウンドを作製した。
【0040】4.射出成形方法
これらのコンパウンドを射出成形機にて横φ10mm×15mmの円柱試験用樹脂結合型磁石を同1条件(成形温度30?180℃、金型温度100?220℃)にて成形し、得られたこれらの磁石成形品を後述の方法にてそれぞれ評価した。尚、SmCo_(5)を使用したときのみ15?20kOeの磁場中金型内にて成形を行った。
【0041】5.各評価方法
・磁気特性評価
上記射出成形条件にて得られた樹脂結合型磁石試料の磁気特性を、チオフィー型自記磁束計にて常温で測定した。磁気特性のうち(BH)maxの結果を表1?表4に示す。従来の方法での最大値は、6.5MGOeであった。従って、7.0MGOe以上を「効果あり」と判断した。
【0042】・成形性
それぞれの組成物において、上記射出成形条件にて得られた樹脂結合型磁石を10個抽出し、それぞれの重量を測定した。その重量バラツキの範囲(最大値-最小値)が、0.05g未満の場合を「◎」、0.05g以上0.10g未満の場合を「○」、0.10g以上0.15g未満の場合を「△」、0.15g以上の場合を「×」として判断し、その結果を表1?表5に示した。
【0043】・熱変形温度
上記成形条件にて、別途幅4.0mm×高さ11.0mm×長さ120mmの試験片を成形し、JIS K7207(硬質プラスチックの荷重たわみ温度試験方法)に準じて測定した。その結果を表1?表5に示した。
【0044】
【表1】



【0045】
【表2】


」(5頁7欄?7頁)


上記引用例の記載及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、
まず、上記引用例記載の「樹脂結合型磁石用組成物」は、上記イ.【0008】にあるように、「チタネート系カップリング剤で被膜処理を施した異方性磁場(HA)が50kOe以上の磁性粉末」を含むものであって、
上記ロ.【0017】、【0018】にあるように、当該「磁性粉末」には「希土類-鉄-ほう素系(Nd-Fe-B系)の液体急冷法による合金粉末」を使用して「90重量%以上の高充填化が可能」なものである。
また、上記ロ.【0012】、【0013】にあるように「チタネート系カップリング剤」(表面処理被膜剤)としては種々のものが可能であるが、特に上記ハ.【0034】の「被膜剤3」にあるように、例えば「テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシル)ジトリデシルホスファイトチタネート表面処理剤(商品名:プレンアクトKR55)」を使用することができ、
上記ロ.【0016】によれば、「表面処理剤の磁粉への添加量」は、「磁粉100重量部に対して0.1重量部?10重量部が好ましく、更に好ましくは、0.1?5重量部」である。

したがって、上記引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されている。

(引用発明)
「チタネート系カップリング剤で被膜処理を施した異方性磁場(HA)が50kOe以上の磁性粉末を含む樹脂結合型磁石用組成物であって、
前記磁性粉末には、希土類-鉄-ほう素系(Nd-Fe-B系)の液体急冷法による合金粉末を使用して90重量%以上の高充填化が可能なものであり、
前記チタネート系カップリング剤(表面処理被膜剤)としては、例えばテトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシル)ジトリデシルホスファイトチタネート表面処理剤(商品名:プレンアクトKR55)を使用することができ、
該表面処理剤の磁粉への添加量は、磁粉100重量部に対して0.1重量部?10重量部が好ましく、更に好ましくは、0.1?5重量部である
樹脂結合型磁石用組成物」


3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
まず、引用発明の「樹脂結合型磁石用組成物」は、磁石用の組成物(材料)であるから、本願発明の「磁石の製造に使用するための」、「磁石材料」に相当する。
また、引用発明の「樹脂結合型磁石用組成物」は、「磁性粉末」として「希土類-鉄-ほう素系(Nd-Fe-B系)の液体急冷法による合金粉末」を含み、ここで「鉄(Fe)」は「遷移金属」であり、「液体急冷法」とは、液体を急冷して固体である合金を得るのであるから、急速に「凝固」させるものであり、本願発明の「磁石の製造に使用するための急速凝固させた希土類-遷移金属-ホウ素磁石材料」にあたり、
「磁性粉末」(合金粉末)は、「希土類-遷移金属-ホウ素磁石粉」である。

また、引用発明の「チタネート系カップリング剤(表面処理被膜剤)としては、例えばテトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシル)ジトリデシルホスファイトチタネート表面処理剤(商品名:プレンアクトKR55)」と、
本願発明の「一般式 (RO-)_(n)(TiまたはZr)(-OR’Y)_(4-n) [式中、Rは、ネオペンチル(ジアリル)、ジオクチル、または(2,2-ジアリオキシメチル)ブチル基であり、TiまたはZrの配位数は4であり、R’はホスフィト、ピロホスファト、または環状ピロホスファトセグメントであり、そしてYはジオクチルまたはジトリデシル末端基であり、1≦n≦4である]の有機チタネートもしくは有機ジルコネートカップリング剤」を対比すると、
引用発明も「メチル」、「ブチル」などの有機基を含むチタネート(チタン(Ti)化合物)であるから「有機チタネート」であって、択一的な構成である「またはZr」、「もしくは有機ジルコネート」を除き、両者は「有機チタネートカップリング剤」の点で一致する。

そして、引用発明の「該表面処理剤の磁粉への添加量は、磁粉100重量部に対して0.1重量部?10重量部が好ましく、更に好ましくは、0.1?5重量部である」と、本願発明の「前記カップリング剤が磁石粉の重量に対して0.1重量%?0.75重量%の量で存在し、」を対比すると、両者は「前記カップリング剤が磁石粉の重量に対して所定範囲の重量%の量で存在」する点で一致し、
同様に、引用発明の「合金粉末を使用して90重量%以上の高充填化が可能」と、本願発明の「前記磁石粉が磁石材料の95重量%以上の量で含まれる」を対比すると、引用発明においても「合金粉末」(磁性粉)が最終製品である磁石を構成する材料の所定値以上の重量%を占めることとなるのは当然であるから、両者は「前記磁石粉が磁石材料の所定値重量%以上の量で含まれる」の点で一致する。

したがって、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、また相違する。

(一致点)
「 磁石の製造に使用するための急速凝固させた希土類-遷移金属-ホウ素磁石材料であって、
希土類-遷移金属-ホウ素磁石粉、および有機チタネートカップリング剤を含み、
前記カップリング剤が磁石粉の重量に対して所定範囲重量%の量で存在し、
前記磁石粉が磁石材料の所定値重量%以上の量で含まれる
上記磁石材料。」

(相違点)
(1)製造される「磁石」に関し、
本願発明は「圧縮成形磁石又はコンパクト成形磁石」であるのに対し、
引用発明は「樹脂結合型磁石」である点。
(2)「有機チタネートカップリング剤」に関し、
本願発明は「一般式 (RO-)_(n)(TiまたはZr)(-OR’Y)_(4-n) [式中、Rは、ネオペンチル(ジアリル)、ジオクチル、または(2,2-ジアリオキシメチル)ブチル基であり、Tiの配位数は4であり、R’はホスフィト、ピロホスファト、または環状ピロホスファトセグメントであり、そしてYはジオクチルまたはジトリデシル末端基であり、1≦n≦4である]の有機チタネートカップリング剤」であるのに対し、
引用発明は「例えばテトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシル)ジトリデシルホスファイトチタネート表面処理剤(商品名:プレンアクトKR55)」である点。
(3)カップリング剤が磁石粉の重量に対して「所定範囲重量%」の量で存在する点に関し、
本願発明は「0.1重量%?0.75重量%」であるのに対し、
引用発明は「磁粉100重量部に対して0.1重量部?10重量部が好ましく、更に好ましくは、0.1?5重量部」である点。
(4)前記磁石粉が磁石材料の「所定値重量%以上」の量で含まれる点に関し、本願発明は、「95重量%以上」であるのに対し、引用発明は「90重量%以上」である点。


まず、上記相違点(1)の「圧縮成形磁石又はコンパクト成形磁石」について検討するに、
例えば、引用例の上記イ.【0004】には、バインダー量が希少な場合は「圧縮成形法」による、との記載があり、
また、原審拒絶理由にも通知された、特開平05-308007号公報(以下、「周知例1」という。)の【0065】にも「圧縮成形、押し出し成形、射出成形」とあるように、少なくとも「圧縮成形」により(樹脂結合型の)磁石を成形することは周知慣用の手段であるから、相違点(1)は格別のことではない。

ついで、相違点(2)の「有機チタネートカップリング剤」の化学式について検討する。
すると、引用発明の「テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシル)ジトリデシルホスファイトチタネート」において、
「(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)」基は、本願発明の「(2,2-ジアリオキシメチル)ブチル基」(R)であり、
「ジトリデシルホスファイト」の「ジトリデシル」は、本願発明の「ジトリデシル」基(Y)にあたり、
「ホスファイト」は、本願発明の「ホスフィト」(R')であると解されるから、
結局、引用発明に例示された「テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシル)ジトリデシルホスファイトチタネート」も本願発明の「有機チタネートカップリング剤」の一般式「 (RO-)_(n)(TiまたはZr)(-OR’Y)_(4-n)」を満たすものであって実質的な相違はなく、相違点(2)も格別のことではない。
更に言うならば、引用発明のチタネート表面処理剤の商品名「プレンアクトKR55」は、本願明細書【0051】の【表3】や、【0055】の【表6】にある実施例の「KR 55」と符合し、その化学物質名称も実質的に引用発明のそれと同じであるから、この点からしても相違点(2)は格別のことではない。

ついで、相違点(3)の、カップリング剤の磁石粉の重量に対する「所定範囲重量%」について検討する。
すると、そもそも本願発明における「所定範囲重量%」の上限値である「0.75重量%」については、当審拒絶理由通知に於いても指摘したように、実施例としては「0.500?0.600」の記載しか無く、格別の臨界的意義を有する値とは認められない。
また、引用発明においては「表面処理剤」(カップリング剤)は「磁粉100重量部に対して0.1重量部?10重量部が好ましく、更に好ましくは、0.1?5重量部」なのであるから、磁石粉の重量に対する百分率の重量%に換算すると所定範囲の下限値は本願発明と実質的にほぼ一致する上、より好適な範囲を見れば上限値が「10重量部」から「5重量部」に低くされているから、その重量%の所定範囲の上限値を下げることの示唆もあるといえる。
そして、「表面処理剤」(カップリング剤)の割合を下げた分、「磁粉」(磁石粉)の材料全体に占める割合を上げ得るのは自明なことであって、「磁粉」(磁石粉)の割合が高いほど磁石としての性能は向上することも技術常識である。
結局、カップリング剤が磁石粉の重量に対して占める割合(重量%)の上限値を「0.75重量%」とすることも、引用例の記載と技術常識による示唆のもと、当業者であれば適宜に試行し得る程度のことに過ぎず、相違点(3)も格別のことではない。
なお、この点に関しても、例えば前記周知例1の【0084】、【表2】の実施例4には「チタネート系カップリング剤」の「wt%」(重量%)を「0.05」とした実施例の記載があり、
また、原審拒絶査定時に挙げた、特開2003-142308号公報(以下、「周知例2」という。)には、本願発明、引用発明と同様な「樹脂結合型磁石用組成物」に用いる「チタネート系カップリング剤」(Ti剤)の重量部を「0.25?5」とした実施例の記載(【表2】?【表6】)もあるから、「0.75重量%」より低くすることも周知技術の適用に過ぎないものでもあって、いずれにせよ相違点(3)も格別のことではない。

最後に、相違点(4)の磁石粉が磁石材料に「95重量%以上」含まれる点について検討する。
すると、上記相違点(3)についての検討でも述べたように、「磁粉」(磁石粉)の割合が高いほど磁石としての性能は向上することは技術常識であるから、引用発明の「90重量%以上」の充填率を更に高めようとすることは当業者であれば当然に試みることであって、そのための新規な構成もなく臨界的意義もない以上、単に磁石材料の「95重量%以上」とする程度のことは、引用発明、周知技術および技術常識により容易になし得たことと言わざるを得ず、相違点(4)も格別のことではない。
また、この点も例えば原審拒絶査定時に挙げた、特開昭64-041201号公報(以下、「周知例3」という。)の4頁右上欄10?11行には、「高密度(磁石粉90?99%)が達成できる。」と95%以上とし得る旨の開示があり、当業者であれば容易になし得たことでもあって、いずれにせよ相違点(4)も格別のことではない。

そして、本願発明の効果も上記引用発明、周知技術及び技術常識から当業者が予測し得る範囲のものであり、審判請求書および当審の拒絶理由通知に対する意見書における審判請求人の主張も、これらの認定を覆すものではない。


4.むすび
以上のとおり、本願の請求項5に係る発明は、引用発明、周知技術及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-07-31 
結審通知日 2013-08-06 
審決日 2013-08-21 
出願番号 特願2006-541484(P2006-541484)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 倍司  
特許庁審判長 石井 研一
特許庁審判官 関谷 隆一
井上 信一
発明の名称 コーティング製剤および鉄ベース希土類粉への有機不動態化層の適用  
代理人 菊田 尚子  
代理人 田中 夏夫  
代理人 新井 栄一  
代理人 平木 祐輔  
代理人 藤田 節  

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