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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1284811
審判番号 不服2013-7497  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-04-23 
確定日 2014-02-12 
事件の表示 特願2008- 64567「デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成20年10月 2日出願公開、特開2008-233904〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年3月13日(パリ条約による優先権主張2007年3月20日、米国)の出願であって、平成23年3月7日、同年12月12日及び平成24年8月14日付けで手続補正がなされ、同年12月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成25年4月23日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。
なお、請求人は、当審における平成25年5月31日付け審尋に対して同年9月2日付けで回答書を提出している。

第2 平成25年4月23日付け手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成25年4月23日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容
(1)平成25年4月23日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についてするもので、特許請求の範囲については、本件補正前の請求項1に、
「導電性基材と、
前記導電性基材上に配置されたゴム材料と、
前記ゴム材料上に配置された表面材料と、
前記導電性基材と前記ゴム材料との間に設けられた導電性発泡体と、
前記導電性基材上に配置した1つ以上の機能層と、
からなるバイアス化(bias-able)デバイスであって、
前記ゴム材料は、ゴムマトリックス中に分散させた多数のナノチューブを含み、
前記ナノチューブの量は、前記ゴム材料が、機械的適合性(mechanical conformability)と、10^(5)?10^(10)オーム・cmの電気抵抗とを持つような量であり、
前記ゴムマトリックスは、エチレン-プロピレン-ジエンモノマー類(EPDM)と、エピクロロヒドリン類と、ウレタン類と、スチレン-ブタジエン類と、シリコーン(silicon)類と、ニトリルゴム類と、ブチルゴム類と、ポリエステル熱可塑性ゴム類と、天然ゴム類と、ポリカルボン酸類、ポリビニルピロリドンならびにセルロース系ポリマーから成る群から選択される1つ以上の環境的に許容可能なグリーンゴムと、から成る群より選ばれる1つ以上のゴム類を含み、
前記ゴムマトリックス中に加えた多数の前記ナノチューブの重量は、0.1重量%以下であり、
1つ以上の前記機能層は、柔軟(compliant)層、電極化層、抵抗調整層、または表面保護層の1つ以上を含むことを特徴とするデバイス。」とあったものを、

「導電性基材と、
前記導電性基材上に配置されたゴム材料と、
前記ゴム材料上に配置された表面材料と、
前記導電性基材と前記ゴム材料との間に設けられた導電性発泡体と、
前記導電性基材上に配置した1つ以上の機能層と、
からなるバイアス化(bias-able)デバイスであって、
前記ゴム材料は、ゴムマトリックス中に分散させた多数のナノチューブを含み、
前記ナノチューブの量は、前記ゴム材料が、機械的適合性(mechanical conformability)と、10^(5)?10^(10)オーム・cmの電気抵抗とを持つような量であり、
前記ゴムマトリックスは、エチレン-プロピレン-ジエンモノマー類(EPDM)と、エピクロロヒドリン類と、ウレタン類と、スチレン-ブタジエン類と、シリコーン(silicon)類と、ニトリルゴム類と、ブチルゴム類と、ポリエステル熱可塑性ゴム類と、天然ゴム類と、ポリカルボン酸類、ポリビニルピロリドンならびにセルロース系ポリマーから成る群から選択される1つ以上の環境的に許容可能なグリーンゴムと、から成る群より選ばれる1つ以上のゴム類を含み、
前記ナノチューブは単層カーボンナノチューブであって、前記ゴムマトリックス中に加えた多数の前記単層カーボンナノチューブの重量は、0.1重量%以下であり、
1つ以上の前記機能層は、柔軟(compliant)層、電極化層、抵抗調整層、または表面保護層の1つ以上を含むことを特徴とするデバイス。」とする補正を含むものである(下線は審決で付した。以下同じ。)。

(2)本件補正後の請求項1に係る上記(1)の補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「ナノチューブ」を「単層カーボンナノチューブ」であると限定するものである。

2 本件補正の目的
本件補正後の請求項1に係る上記1(2)の補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下検討する。

3 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された「本願の出願前に頒布された刊行物である特開2005-62475号公報(以下「引用例」という。)」には次の事項が記載されている。
(1)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真機器用導電性組成物の製法に関するものであり、詳しくは現像ロール,帯電ロール,転写ロール,トナー供給ロール,除電ロール,給紙ロール,搬送ロール,クリーニングロール,現像ブレード,帯電ブレード,クリーニングブレード,転写ベルト等の電子写真機器用部材に用いられる電子写真機器用導電性組成物の製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子写真分野における電気抵抗の制御方法としては、(1)カーボンブラック等の電子導電剤を、マトリックスポリマー中に分散する方法や、(2)第四級アンモニウム塩等のイオン導電剤を、マトリックスポリマー中に分散する方法等があげられる。
【0003】
上記(1)の方法では、マトリックスポリマー中にカーボンブラック等の電子導電剤粒子を分散させ、電子の伝導により導電制御を行うため、温度や湿度による影響は受けないものの、電子導電剤粒子の分散状態の影響を受けたり、成形工程での材料流動の影響や、塗布乾燥状態の影響等により、均一な導電制御が困難である。
【0004】
一方、上記(2)の方法では、マトリックスポリマー中にイオン導電剤が溶解しているため、均一な導電制御が可能であるが、導電化できたとしても、温度や湿度による影響を受けやすく、通電と共に電気抵抗が上昇する傾向にあり、画質が安定しないという難点がある。また、イオン導電剤との相溶性等の点から、効果を発揮できるマトリックスポリマーが制限される等の問題もある。
【0005】
そこで、これらの問題を解決すべく、カーボンブラック等の電子導電剤や、第四級アンモニウム塩等のイオン導電剤に代えて、カーボンナノチューブを用いた電気抵抗の制御方法が提案されている。例えば、電子写真方式の複写機、プリンター、ファクシミリ等の画像形成装置の接触型帯電器において、感光体と接触する面に離散して配置された樹脂層があり、かつ、この樹脂層によりカーボンナノチューブが保持されている接触型帯電器が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002-132016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の接触型帯電器は、熱可塑性高分子樹脂層等から構成された樹脂層の表面に、カーボンナノチューブが固定保持された構成であるため、後述の理由により、カーボンナノチューブの分散性が劣り、電気抵抗のばらつきが大きいという難点があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、カーボンナノチューブ等の電子導電性繊維状充填剤の分散性に優れ、かつ、電気抵抗のばらつきが小さい、電子写真機器用導電性組成物の製法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の電子写真機器用導電性組成物の製法は、下記の(A)を溶解可能な溶媒中に下記の(B)を予備分散した後、(A)を加え、(A)と(B)とを混練する工程を備えるという構成をとる。
(A)固形ポリマー。
(B)電子導電性繊維状充填剤。
【0009】
すなわち、この発明者は、カーボンナノチューブ等の電子導電性繊維状充填剤の分散性に優れ、かつ、電気抵抗のばらつきが小さい、電子写真機器用導電性組成物を得るべく、鋭意研究を重ねた。そして、上記特許文献1に記載の接触型帯電器における電気抵抗の制御法について研究を続けたところ、この接触型帯電器においては、熱可塑性高分子樹脂層等から構成された樹脂層の表面に、カーボンナノチューブが単に固定保持されているにすぎず、カーボンナノチューブが樹脂層中に混練されていないため、カーボンナノチューブの分散性が劣り、電気抵抗のばらつきが大きいことを突き止めた。そこで、さらに研究を続けたところ、予め、固形ポリマーを溶解可能な溶媒中に、カーボンナノチューブ等の電子導電性繊維状充填剤を予備分散させることにより、電子導電性繊維状充填剤の凝集物(塊)をほぐして伸ばした後、固形ポリマーと、電子導電性繊維状充填剤とを混練すると、固形ポリマー中での電子導電性繊維状充填剤の分散性に優れ、電気抵抗のばらつきが小さい、電子写真機器用導電性組成物を調製できることを見いだし、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電子写真機器用導電性組成物の製法によると、予め、固形ポリマーを溶解可能な溶媒中に、カーボンナノチューブ等の電子導電性繊維状充填剤を予備分散させることにより、電子導電性繊維状充填剤の凝集物(塊)をほぐして伸ばした後、固形ポリマーと、電子導電性繊維状充填剤とを混練するため、固形ポリマー中での電子導電性繊維状充填剤の分散性に優れ、電気抵抗のばらつきが小さい、電子写真機器用導電性組成物を作製することができる。」

(2)「【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0012】
本発明の電子写真機器用導電性組成物の製法は、固形ポリマー(A成分)を溶解可能な溶媒中に、電子導電性繊維状充填剤(B成分)を予備分散した後、固形ポリマー(A成分)を加え、上記固形ポリマー(A成分)と電子導電性繊維状充填剤(B成分)とを混練する工程を備えている。
【0013】
本発明で用いる固形ポリマー(A成分)としては、例えば、合成ゴム、熱可塑性エラストマー、塗料用マトリックスポリマー等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、柔軟性が高く、へたりが少ない点で、架橋可能な合成ゴム、塗料用マトリックスポリマーが好適に用いられる。
【0014】
上記合成ゴムとしては、例えば、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合ゴム(EPDM)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ニトリルゴム(NBR)、ヒドリンゴム(ECO)等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、B成分がほぐれやすく、非極性溶剤に溶解する点で、EPDM、SBRが好適に用いられる。
【0015】
また、上記熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、溶解しやすさ、柔軟性を併せ持つ点で、ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)が好適に用いられる。
【0016】
また、上記塗料用マトリックスポリマーとしては、例えば、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、イミド系樹脂、アミドイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレア樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、溶解しやすさ、柔軟性を併せ持つ点で、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂が好適に用いられる。
【0017】
これらの固形ポリマー(A成分)を溶解可能な溶媒としては、特に限定はないが、例えば、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)、ヘキサン、ヘプタン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N′-ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、アセトン、キシレン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0018】
つぎに、上記固形ポリマー(A成分)とともに用いられる電子導電性繊維状充填剤(B成分)としては、特に限定はないが、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノコイル等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、安定した導電性が得られる点で、カーボンナノチューブが好ましい。
【0019】
上記電子導電性繊維状充填剤(B成分)の外径は、50nm以下が好ましく、特に好ましくは外径が25nm以下である。すなわち、外径が50nmを超えると、少量の添加では導電性の制御が難しく、多量の添加では物性への悪影響がでるおそれがあるからである。
【0020】
上記電子導電性繊維状充填剤(B成分)の配合割合は、上記固形ポリマー(A成分)100重量部(以下「部」と略す)に対して、0.1?5部の範囲内が好ましく、特に好ましくは0.3?3部の範囲内である。すなわち、B成分が0.1部未満であると、導電性を付与できなくなる傾向がみられ、逆にB成分が5部を超えると、物性への悪影響(へたり、硬度上昇)がでる傾向がみられるからである。
【0021】
本発明の電子写真機器用導電性組成物の製法は、例えば、つぎのようにして行われる。すなわち、上記電子導電性繊維状充填剤(B成分)をトルエン等の溶媒と混合した後、ビーズミル、超音波、攪拌、磨り潰し等の方法により、予備分散する。この予備分散工程は、溶液の粘度を5,000mPa・s(25℃)未満に設定することが好ましく、特に好ましくは2,000mPa・s(25℃)未満である。すなわち、予備分散時に溶液の粘度が5,000mPa・s(25℃)以上になると、B成分を溶剤中でほぐすことが困難になる傾向がみられるからである。
【0022】
つぎに、固形ポリマー(A成分)を固形の状態または溶媒に溶解させた状態で加え、3本ロール、ニーダー等を用いて、固形ポリマー(A成分)と、電子導電性繊維状充填剤(B成分)とを混練する。この混練工程は、溶液の粘度を50,000mPa・s(25℃)以上に設定することが好ましく、特に好ましくは100,000mPa・s(25℃)以上である。すなわち、混練工程時の溶液の粘度が50,000mPa・s(25℃)未満であると、B成分の凝集物を細くするための混練機のパワーが凝集物に伝わらない傾向がみられるからである。
【0023】
ここで、上記溶媒の揮発は、必ずしも上記の混練工程において行う必要はなく、例えば、後記のように、固形ポリマー(A成分)を架橋する場合、架橋直前まで、溶媒を併存させておいても差し支えない。」

(3)「【実施例1】
【0030】
直径1nmの単層カーボンナノチューブ(MTR社製、NT-5)0.5部を、トルエン500部に予め配合し、ビーズミルを用いて予備分散した後、EPDM(住友化学社製、エスプレン505)100部を溶解して混合し、溶液の粘度を2000mPa・s(25℃)に調整した。つぎに、この溶液からトルエンを揮発させた後、ZnO 5部と、共架橋剤としてトリアリルイソシアヌレート(TAIC)3部と、過酸化物架橋剤(日本油脂社製、パーヘキサ25B40)8部とを配合し、粘度を100,000mPa・s/25℃以上(固体)に調整した後、ニーダーを用いて混練して、導電性組成物を調製した。
【実施例2】
【0031】
直径1nmの単層カーボンナノチューブ(MTR社製、NT-5)0.5部を、MEK500部に予め配合し、ビーズミルを用いて予備分散した後、TPU(三井武田ウレタン社製、エラストラン1040)100部を溶解して混合し、溶液の粘度を2000mPa
・s(25℃)に調整した。つぎに、この溶液からMEKを揮発させ、粘度を100,000mPa・s/25℃以上(固体)に調整した後、ニーダーを用いて混練して、導電性組成物を調製した。
【実施例3】
【0032】
直径1nmの単層カーボンナノチューブ(MTR社製、NT-5)1部を、トルエン300部に予め配合し、ビーズミルを用いて予備分散した後、塗料用マトリックスポリマーとしてウレタン系樹脂(日本ポリウレタン社製、ニッポラン5230)100部を溶解して混合し、溶液の粘度を2000mPa・s(25℃)に調整した。つぎに、この溶液からトルエン等の溶剤を揮発させ、粘度を100,000mPa・s/25℃に調整した後、3本ロールを用いて混練して、導電性組成物を調製した。
【実施例4】
【0033】
直径1nmの単層カーボンナノチューブ(MTR社製、NT-5)0.5部を、NMP500部に予め配合し、ビーズミルを用いて予備分散した後、塗料用マトリックスポリマーとしてポリアミドイミド(東洋紡績社製、バイロマックスHR16NN)100部を溶解して混合し、溶液の粘度を2000mPa・s(25℃)に調整した。つぎに、この溶液からNMPの一部を揮発させ、粘度を50,000mPa・s/25℃に調整した後、3本ロールを用いて混練して、導電性組成物を調製した。
【0034】
〔比較例1〕
EPDM(住友化学社製、エスプレン505)100部に、チタン酸カリウムウィスカー(大塚化学社製、デントールWK)45部を配合し、ZnO5部と、共架橋剤としてトリアリルイソシアヌレート(TAIC)3部と、過酸化物架橋剤(日本油脂社製、パーヘキサ25B40)8部とを配合し、粘度を100,000mPa・s/25℃以上(固体)に調整した後、ニーダーを用いて混練して、導電性組成物を調製した。
【0035】
〔比較例2〕
塗料用マトリックスポリマーとしてポリアミドイミド(東洋紡績社製、バイロマックスHR16NN)100部に、チタン酸カリウムウィスカー(大塚化学社製、デントールWK)12部を配合し、これらを攪拌して、導電性組成物(粘度:2,000mPa・s/25℃)を調製した。
【0036】
このようにして得られた実施例品および比較例品を用いて、下記のようにして各特性の評価を行った。これらの結果を、後記の表1に併せて示した。
【0037】
〔凝集物の粒度分布〕
各導電性組成物において、カーボンナノファイバー等の導電剤の凝集物を、粒度分布計LA500(堀場製作所社製)を用いて観察した。そして、10μm以上の凝集物の粒度分布(%)を求めた。
【0038】
〔架橋速度〕
160℃において、架橋トルクが90%の時の時間(t90)と、架橋トルクが10%の時の時間(t10)を求めた。そして、t90-t10(分)を架橋速度とした。
【0039】
〔架橋速度の遅延率〕
導電性組成物の架橋速度(t1)と、カーボンナノファイバー等の導電剤を添加する前の組成物の架橋速度(t2)を求めた。そして、〔(t1-t2)/t2〕×100から架橋速度の遅延率(%)を求めた。
【0040】
〔電気抵抗〕
各導電性組成物を、所定の条件(150℃×30分)で架橋して、ゴムシートを作製するか、あるいは、各導電性組成物をガラス板上にコーティングして、導電性塗膜(厚み20μm)を作製した。そして、20℃×50%RHの環境下において、1Vの電圧を印加した時のゴムシート等の電気抵抗(Rv1)を、SRIS 2304に準じて測定した。また、上記ゴムシート等を100%伸ばした時の電気抵抗(Rv2)を、SRIS 2304に準じて測定した。そして、log(Rv2/Rv1)から、変動桁数を求めた。
【0041】
〔硬度(JIS タイプA)〕
各導電性組成物を用いて、前記と同様にして、ゴムシートを作製し、このゴムシート等の硬度Aを、JIS K 6253に準じて測定した。また、カーボンナノファイバー(比較例品はカーボンブラック等の導電剤)を添加する前の組成物を用いて、上記と同様にしてゴムシート等を作製し、このゴムシートの硬度Bを、上記と同様にして測定した。そして、〔(硬度A-硬度B)/硬度B〕×100から、硬度の変動率(%)を求めた。
【0042】
〔弾性率〕
各導電性組成物を用いて、前記と同様にして、ゴムシートを作製し、このゴムシート等の弾性率Aを、JIS K 7161に準じて測定した。また、カーボンナノファイバー(比較例品はカーボンブラック等の導電剤)を添加する前の組成物を用いて、上記と同様にしてゴムシート等を作製し、このゴムシートの弾性率Bを、上記と同様にして測定した。そして、〔(弾性率A-弾性率B)/弾性率B〕×100から、弾性率の変動率(%)を求めた。
【0043】
〔圧縮永久歪み〕
各導電性組成物を用いて、前記と同様にして、ゴムシートを作製し、このゴムシート等の圧縮永久歪みを、温度70℃、試験時間22時間、圧縮率25%の条件下、JIS K 6262に準じて測定した。
【0044】
【表1】

【0045】
上記結果から、実施例品は、凝集物の粒度分布が小さかったのに対して、比較例品は、凝集物の粒度分布が大きかった。」

(4)「【実施例7】
【0049】
〔ベース層用材料の調製〕
実施例1と同様にして、導電性組成物を調製した。
【0050】
〔表層用材料の調製〕
実施例3と同様にして、導電性組成物を調製した。
【0051】
〔現像ロールの作製〕
軸体である芯金(直径10mm、SUS304製)をセットした射出成形用金型内に、上記ベース層用材料を注型し、150℃×45分の条件で加熱した後、脱型して、軸体の外周面に沿ってベース層(厚み4mm)を形成した。つぎに、この表面に、上記表層用材料を用いて、表層(5μm)を形成し、ベース層の外周面に表層が形成されてなる2層構造の現像ロールを作製した。
【実施例8】
【0052】
〔表層用材料の調製〕
実施例4と同様にして、導電性組成物を調製した。
【0053】
〔現像ロールの作製〕
上記表層用材料を用いる以外は、実施例7と同様にして、ベース層の外周面に表層が形成されてなる2層構造の現像ロールを作製した。
【0054】
〔比較例3〕
比較例1と同様にして、導電性組成物を調製した。そして、これを用いてベース層を形成する以外は実施例5と同様にして、現像ロールを作製した。
【0055】
このようにして得られた実施例品および比較例品の現像ロールを用いて、下記の基準に従い、各特性の評価を行った。これらの結果を、後記の表2に併せて示した。
【0056】
〔電気抵抗〕
各現像ロールの電気抵抗の中央値およびばらつき桁(36点)を、電圧1Vで、1mm^(2)の電極を用い、SRIS 2304に準じて測定した。
【0057】
〔硬度(JIS タイプA)〕
各現像ロールの硬度を、JIS K 6253に準じて測定した。
【0058】
〔圧縮永久歪み〕
各現像ロールの圧縮永久歪みを、温度70℃、試験時間22時間、圧縮率25%の条件下、JIS K 6301に準じて測定した。
【0059】
〔現像特性〕
(画像むら)
各現像ロールを市販のカラープリンターに組み込み、画像評価を行った。評価は、ハーフトーン画像での濃度むらがなく、細線のとぎれや色ずれがなかったものを○、そうでないものを×とした。
【0060】
(圧接痕)
各現像ロールを市販のカラープリンターに組み込み、画像評価を行った後、現像ロール表面の圧接痕を目視観察した。評価は、圧接痕がないものを○、圧接痕があるものを×とした。
【0061】
【表2】

【0062】
上記表の結果から、実施例品の現像ロールは、いずれも電気抵抗のばらつきが小さく、圧縮永久歪みも小さく、現像特性に優れていた。
【0063】
これに対して、比較例品の現像ロールは、電気抵抗のばらつきが大きく、圧縮永久歪みも大きく、現像特性に劣っていた。」

(5)「【実施例10】
【0066】
〔ベース層用材料の調製〕
実施例1と同様にして、導電性組成物を調製した。
【0067】
〔表層用材料の調製〕
実施例3と同様にして、導電性組成物を調製した。
【0068】
〔帯電ロールの作製〕
軸体である芯金(直径10mm、SUS304製)をセットした射出成形用金型内に、上記ベース層用材料を注型し、150℃×45分の条件で加熱した後、脱型して、軸体の外周面に沿ってベース層(厚み3mm)を形成した。つぎに、この表面に、上記表層用材料を用いて、表層(5μm)を形成し、ベース層の外周面に表層が形成されてなる2層構造の帯電ロールを作製した。
【0069】
〔比較例4〕
比較例1と同様にして、導電性組成物を調製した。そして、これを用いてベース層を形成する以外は実施例9と同様にして、帯電ロールを作製した。
【0070】
このようにして得られた実施例品および比較例品の帯電ロールを用いて、前述の現像ロールの評価方法に準じて、各特性の評価を行った。これらの結果を、下記の表3に併せて示した。
【0071】
【表3】

【0072】
上記表の結果から、実施例品の帯電ロールは、いずれも電気抵抗のばらつきが小さく、圧縮永久歪みも小さく、帯電特性に優れていた。
【0073】
これに対して、比較例品の帯電ロールは、電気抵抗のばらつきが大きく、圧縮永久歪みも大きく、帯電特性に劣っていた。」

(6)「【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の製法により得られる電子写真機器用導電性組成物は、例えば、現像ロール,帯電ロール,転写ロール,定着ロール,トナー供給ロール,除電ロール,給紙ロール,搬送ロール,クリーニングロール等のロール部材、現像ブレード,帯電ブレード,クリーニングブレード等のブレード部材、転写ベルト,紙送りベルト等のベルト部材等の電子写真機器用部材に用いられる。」

(7)上記(1)ないし(6)から、引用例には次の発明が記載されているものと認められる。
「軸体である芯金の外周面に沿ってベース層用材料を用いてベース層を形成し、この表面に表層用材料を用いて表層を形成してなる、現像ロール、帯電ロール等の電子写真機器用部材において、
用いられる電子写真機器用導電性組成物の電気抵抗の制御方法としては、(1)カーボンブラック等の電子導電剤を、マトリックスポリマー中に分散する方法や、(2)第四級アンモニウム塩等のイオン導電剤を、マトリックスポリマー中に分散する方法があったが、上記(1)の方法では、マトリックスポリマー中にカーボンブラック等の電子導電剤粒子を分散させ、電子の伝導により導電制御を行うため、温度や湿度による影響は受けないものの、電子導電剤粒子の分散状態の影響を受けたり、成形工程での材料流動の影響や、塗布乾燥状態の影響等により、均一な導電制御が困難であり、上記(2)の方法では、マトリックスポリマー中にイオン導電剤が溶解しているため、均一な導電制御が可能であるが、導電化できたとしても、温度や湿度による影響を受けやすく、通電と共に電気抵抗が上昇する傾向にあり、画質が安定しないという難点があり、イオン導電剤との相溶性等の点から、効果を発揮できるマトリックスポリマーが制限される等の問題もあったので、カーボンブラック等の電子導電剤や、第四級アンモニウム塩等のイオン導電剤に代えて、カーボンナノチューブを用い、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合ゴム(EPDM)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)等の、B成分がほぐれやすく、非極性溶剤に溶解する合成ゴム、又は、溶解しやすさ、柔軟性を併せ持つ、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂等の塗料用マトリックスポリマーが好適な、へたりが少ない、柔軟性が高く、架橋可能な固形ポリマー(A成分)を溶解可能な溶媒中に、カーボンナノチューブ(B成分)を予備分散した後、前記固形ポリマー(A成分)を加え、該固形ポリマー(A成分)とカーボンナノチューブ(B成分)とを混練して製造した、カーボンナノチューブの分散性に優れ、かつ、電気抵抗のばらつきが小さい、電子写真機器用導電性組成物を用いた、電子写真機器用部材であって、
前記カーボンナノチューブの外径が50nmを超えると、少量の添加では導電性の制御が難しく、多量の添加では物性への悪影響がでるおそれがあるから、前記カーボンナノチューブの外径は、好ましい50nm以下とし、特に好ましくは25nm以下とし、
前記カーボンナノチューブ(B成分)の配合割合が、前記固形ポリマー(A成分)100重量部に対して、0.1重量部未満であると、導電性を付与できなくなる傾向がみられ、5重量部を超えると、物性への悪影響(へたり、硬度上昇)がでる傾向がみられるから、前記カーボンナノチューブの(B成分)の前記固形ポリマー(A成分)100重量部に対する配合割合を0.1?5重量部の範囲内とし、
例えば、前記ベース層用材料として、直径1nmの単層カーボンナノチューブ(MTR社製、NT-5)0.5重量部を、トルエン500重量部に予め配合し、ビーズミルを用いて予備分散した後、EPDM(住友化学社製、エスプレン505)100重量部を溶解して混合し、溶液の粘度を2000mPa・s(25℃)に調整し、この溶液からトルエンを揮発させた後、ZnO 5重量部と、共架橋剤としてトリアリルイソシアヌレート(TAIC)3重量部と、過酸化物架橋剤(日本油脂社製、パーヘキサ25B40)8重量部とを配合し、粘度を100,000mPa・s/25℃以上(固体)に調整した後、ニーダーを用いて混練して調製した、電気抵抗(Rv1)が4.0×10^(5)Ω・cmの導電性組成物を用い、かつ、前記表層用材料として、直径1nmの単層カーボンナノチューブ(MTR社製、NT-5)1重量部を、トルエン300重量部に予め配合し、ビーズミルを用いて予備分散した後、塗料用マトリックスポリマーとしてウレタン系樹脂(日本ポリウレタン社製、ニッポラン5230)100重量部を溶解して混合し、溶液の粘度を2000mPa・s(25℃)に調整し、この溶液からトルエン等の溶剤を揮発させ、粘度を100,000mPa・s/25℃に調整した後、3本ロールを用いて混練して調製した、電気抵抗(Rv1)が8.0×10^(4)Ω・cmの導電性組成物を用いた、電子写真機器用部材。」(以下「引用発明」という。)

4 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「軸体である芯金」、「『電気抵抗(Rv1)が4.0×10^(5)Ω・cmの導電性組成物を用い』た『ベース層用材料』」、「『電気抵抗(Rv1)が8.0×10^(4)Ω・cmの導電性組成物を用い』た『表層用材料』」、「現像ロール、帯電ロール等の電子写真機器用部材」、「『エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合ゴム(EPDM)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)等の、B成分がほぐれやすく、非極性溶剤に溶解する合成ゴム』からなる『へたりが少ない、柔軟性が高く、架橋可能な固形ポリマー(A成分)』」及び「ナノチューブ(B成分)」は、それぞれ、本願補正発明の「導電性基材」、「ゴム材料」、「表面材料」、「バイアス化(bias-able)デバイス」、「ゴムマトリックス」及び「ナノチューブ」に相当する。

(2)引用発明の「バイアス化(bias-able)デバイス(現像ロール、帯電ロール等の電子写真機器用部材)」は、「導電性基材(軸体である芯金)」の外周面に沿って「ゴム材料(ベース層用材料)」を用いてベース層を形成し、この表面に「表面材料(表層用材料)」を用いて表層を形成してなるものであるから、本願補正発明の「導電性基材と、前記導電性基材上に配置されたゴム材料と、前記ゴム材料上に配置された表面材料と、前記導電性基材と前記ゴム材料との間に設けられた導電性発泡体と、前記導電性基材上に配置した1つ以上の機能層と、からなるバイアス化(bias-able)デバイス」と、「導電性基材と、前記導電性基材上に配置されたゴム材料と、前記ゴム材料上に配置された表面材料と、からなる」点で一致する。

(3)引用発明において、「ゴム材料(ベース層用材料)」は、例えば、直径1nmの単層カーボン「ナノチューブ(ナノチューブ)」(MTR社製、NT-5)0.5重量部を、トルエン500重量部に予め配合し、ビーズミルを用いて予備分散した後、「ゴムマトリックス(EPDM)」(住友化学社製、エスプレン505)100重量部を溶解して混合し、溶液の粘度を2000mPa・s(25℃)に調整し、この溶液からトルエンを揮発させた後、ZnO 5重量部と、共架橋剤としてトリアリルイソシアヌレート(TAIC)3重量部と、過酸化物架橋剤(日本油脂社製、パーヘキサ25B40)8重量部とを配合し、粘度を100,000mPa・s/25℃以上(固体)に調整した後、ニーダーを用いて混練して調製した、電気抵抗(Rv1)が4.0×10^(5)Ω・cmの導電性組成物であり、前記カーボンナノチューブの(B成分)の配合割合0.5重量部は、物性への悪影響(へたり、硬度上昇)がでる傾向がみられる5重量部を超えていないから、引用発明の「ゴム材料」と本願補正発明の「ゴム材料」とは、「ゴムマトリックス中に分散させた多数のナノチューブを含」む点、及び、「前記ナノチューブの量は、前記ゴム材料が、機械的適合性(mechanical conformability)と、10^(5)?10^(10)オーム・cmの電気抵抗とを持つような量であ」る点で一致し、引用発明の「ゴムマトリックス」と本願補正発明の「エチレン-プロピレン-ジエンモノマー類(EPDM)と、エピクロロヒドリン類と、ウレタン類と、スチレン-ブタジエン類と、シリコーン(silicon)類と、ニトリルゴム類と、ブチルゴム類と、ポリエステル熱可塑性ゴム類と、天然ゴム類と、ポリカルボン酸類、ポリビニルピロリドンならびにセルロース系ポリマーから成る群から選択される1つ以上の環境的に許容可能なグリーンゴムと、から成る群より選ばれる1つ以上のゴム類を含むゴムマトリックス」とは「エチレン-プロピレン-ジエンモノマー類(EPDM)を含む」点で一致し、引用発明の「ナノチューブ」と本願補正発明の「ナノチューブ」とは「単層カーボンナノチューブであ」る点で一致する。

(4)引用発明において、前記カーボンナノチューブの(B成分)の配合割合は、前記固形ポリマー(A成分)100重量部に対して、0.1重量部未満であると、導電性を付与できなくなる傾向がみられ、5重量部を超えると、物性への悪影響(へたり、硬度上昇)がでる傾向がみられのであるから、前記カーボンナノチューブの(B成分)の配合割合を少なくすると柔軟層として機能し、前記カーボンナノチューブの(B成分)の配合割合を多くすると導電層として機能するものと解される。
してみると、引用発明における、「ゴム材料(ベース層用材料)」を用いて形成したベース層は、前記カーボンナノチューブの(B成分)の配合割合が少ない柔軟層としての機能を有し、該ベース層と、この表面に「表面材料(表層用材料)」を用いて形成した表層とは、前記カーボンナノチューブの(B成分)の配合割合が少ない導電層と多い導電層とを組み合わせて抵抗値を調整する層の機能を有しているといえる。
そして、上記引用発明における「柔軟層」及び「抵抗値を調整する層」は、本願補正発明の「柔軟(compliant)層」及び「抵抗調整層」に相当する。
したがって、引用発明は、本願発明の「『柔軟(compliant)層』及び『抵抗調整層』を含む『前記導電性基材上に配置した1つ以上の機能層』」の構成を備えている。

(5)上記(1)ないし(4)から、本願補正発明と引用発明とは、
「導電性基材と、
前記導電性基材上に配置されたゴム材料と、
前記ゴム材料上に配置された表面材料と、
前記導電性基材上に配置した1つ以上の機能層と、
からなるバイアス化(bias-able)デバイスであって、
前記ゴム材料は、ゴムマトリックス中に分散させた多数のナノチューブを含み、
前記ナノチューブの量は、前記ゴム材料が、機械的適合性(mechanical conformability)と、10^(5)?10^(10)オーム・cmの電気抵抗とを持つような量であり、
前記ゴムマトリックスは、エチレン-プロピレン-ジエンモノマー類(EPDM)を含み、
前記ナノチューブは単層カーボンナノチューブであり、
1つ以上の前記機能層は、柔軟(compliant)層及び抵抗調整層を含む、
デバイス。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
本願補正発明では、前記「導電性基材」と前記「ゴム材料」との間に導電性発泡体が設けられているのに対して、
引用発明では、導電性発泡体が設けられていない点。

相違点2:
前記「ゴムマトリックス」中に加えた多数の前記「単層カーボンナノチューブ」の重量が、
本願補正発明では、0.1重量%以下であるのに対して、
引用発明では、0.498重量%(EPDM100重量部に対して0.5重量部)である点。

5 判断
上記相違点1及び2について検討する。
(1)相違点1について
ア 芯金と導電性非発泡ゴム層との間に導電性発泡層が設けてある電子写真機器用部材は、本願の優先日前に周知である(以下「周知技術」という。例.特開平11-125952号公報、特開平11-133707号公報(【0047】、【0048】、図1参照。)、特開平11-272042号公報(【0016】の「導電性基層16」、【0020】の「抵抗調整層20」、図3参照。)、特開2001-166565号公報(【0037】?【0040】、図2参照。)、特開2002-236407号公報)。

イ 上記アからみて、引用発明において、軸体である芯金とEPDMからなる導電性組成物を用いたベース層との間に導電性発泡層を設けること、すなわち、引用発明において、上記相違点1に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が周知技術に基づいて適宜なし得た程度のことである。

(2)相違点2について
ア 引用発明は、前記カーボンナノチューブの(B成分)の配合割合が、前記固形ポリマー(A成分)100重量部に対して、0.1重量部未満であると、導電性を付与できなくなる傾向がみられ、5重量部を超えると、物性への悪影響(へたり、硬度上昇)がでる傾向がみられるから、前記カーボンナノチューブの(B成分)の前記固形ポリマー(A成分)100重量部に対する配合割合を0.1?5重量部の範囲内としたものであり、例示されている導電性組成物は、直径1nmの単層カーボンナノチューブ(MTR社製、NT-5)0.5重量部、EPDM(住友化学社製、エスプレン505)100重量部からなり、電気抵抗(Rv1)が4.0×10^(5)Ω・cmのものであるところ、引用例に記載されている実施例の中で電気抵抗(Rv1)が最も高い実施例は実施例4であり、その電気抵抗(Rv1)は3.0×10^(9)Ω・cmであるから、引用発明は、発明の実施に際して、そのカーボンナノチューブの(B成分)の固形ポリマー(A成分)100重量部に対する配合割合を0.1重量部にしてもよいものであり、その電気抵抗(Rv1)を3.0×10^(9)Ω・cm程度にしてもよいものである。

イ してみると、引用発明は、前記ベース層用材料に用いる導電性組成物を、例示されたものから、直径1nmの単層カーボンナノチューブ(MTR社製、NT-5)の配合割合を下限の0.1重量部まで減らしたものとし、電気抵抗(Rv1)を、3.0×10^(9)Ω・cm程度を限度に4.0×10^(5)Ω・cmよりも高くしてもかまわないものである。

ウ したがって、引用発明において、前記ベース層用材料に用いる導電性組成物を、例示されたものから、直径1nmの単層カーボンナノチューブ(MTR社製、NT-5)の配合割合を下限の0.1重量部まで減らすことは、当業者が発明の実施に際して適宜なし得た設計上の事項である。

エ 引用発明において、前記ベース層用材料に用いる導電性組成物を、例示されたものから、直径1nmの「単層カーボンナノチューブ」(MTR社製、NT-5)の配合割合を下限の0.1重量部まで減らすと、EPDM(住友化学社製、エスプレン505)は100重量部であるから、前記「ゴムマトリックス(EPDM)」中に加えた多数の前記「単層カーボンナノチューブ」の重量は、0.0999重量%(=0.1÷(100+0.1))になるから、引用発明において、上記相違点2に係る本願補正発明の構成となすことは、上記ウからみて、当業者が発明の実施に際して適宜なし得た設計上の事項である。

(3)効果について
本願補正発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果及び周知技術の奏する効果から当業者が予測することができた程度のものである。

(4)まとめ
したがって、本願補正発明は、当業者が引用発明、引用例の記載事項及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。
本願補正発明は、当業者が引用発明、引用例の記載事項及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

6 小括
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1及び2に係る発明は、平成24年8月14日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成24年8月14日付け補正後の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、上記「第2〔理由〕1(1)」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、上記「第2〔理由〕3」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本件補正は、上記「第2〔理由〕1(2)」のとおり、本願発明を特定するために必要な事項を限定するものであるから、本願補正発明は、本願発明を特定するために必要な事項を限定したものに相当する。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2〔理由〕5」に記載したとおり、当業者が引用発明、引用例の記載事項及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が引用発明、引用例の記載事項及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
本願発明は、以上のとおり、当業者が引用例に記載された発明、引用例の記載事項及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-11 
結審通知日 2013-09-17 
審決日 2013-09-30 
出願番号 特願2008-64567(P2008-64567)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野口 聖彦佐々木 創太郎畑井 順一  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 清水 康司
鉄 豊郎
発明の名称 デバイス  
代理人 特許業務法人YKI国際特許事務所  

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