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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01P
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01P
管理番号 1284828
審判番号 不服2012-17848  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-09-12 
確定日 2014-02-14 
事件の表示 特願2007-24262「絶対変位・速度計測用センサ」拒絶査定不服審判事件〔平成20年8月21日出願公開、特開2008-190943〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この審判事件に関する出願(以下、「本件出願」という。)は、平成19年2月2日にされた特許出願である。そして、平成23年10月14日付け手続補正書により特許請求の範囲についての補正がされた。さらに、平成24年3月30日付け手続補正書により特許請求の範囲についての補正がされたが、この補正は、同年5月30日付けの決定をもって却下され、同日付けで拒絶査定がされた。査定の謄本は、同年6月12日に送達された。
これに対して、同年9月12日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に特許請求の範囲についての補正(以下、「本件補正」という。)がされた。その後、当審の平成25年7月16日付け審尋に対し、同年9月20日付け回答書が提出された。

第2 本件補正の却下の決定
[結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
本件補正は、本件補正前(平成23年10月14日付け手続補正書による補正の後をいう。以下同じ。)の特許請求の範囲を以下のように補正することを含む。なお、下線は、当審が付したものであり、補正箇所を示す。

(本件補正前)
「【請求項1】
筐体と、この筐体に内蔵されていると共に、一対のばね及びダンパによって可動に支えられた重りと、この重りを計測範囲内で不動にするように作動するアクチュエータと、筐体に対する重りの相対速度を検出する相対速度センサと、重りの動きをアクチュエータを介して制御するコントローラとからなっており、一対のばねは、重りが一方向のみに動けるように当該重りを両側から支持して筐体内に取り付けられており、アクチュエータ及び相対速度センサは、永久磁石により作られた磁気回路とムービングコイルとからなり、重りの動きを計測範囲内で不動にするように制御するために挟み込むように配置されており、コントローラは、微分回路、積分回路、増幅回路及び加算回路を持っており、相対速度センサで計測された相対速度から相対加速度信号、相対変位信号及び相対速度の増幅信号を造り、それらの増幅信号に適度な倍率を掛けて合成して重りの動きを計測範囲内で不動にするようにアクチュエータを介してフィードバック制御するようになっており、このフィードバック制御における、相対加速度信号のネガティブフィードバック制御と、相対変位信号及び相対速度信号のポジティブフィードバック制御とによって、振動の計測範囲を低い振動数まで拡大して、小型ながら大変位を計測できるようになっている絶対変位・速度計測用センサ。」

(本件補正後)
「【請求項1】
筐体と、この筐体に内蔵されていると共に、一対のばね及びダンパによって可動に支えられた重りと、この重りを計測範囲内で不動にするように作動するアクチュエータと、筐体に対する重りの相対速度を検出する相対速度センサと、重りの動きをアクチュエータを介して制御するコントローラとからなっており、一対のばねは、重りの重力による偏りに関わらず、重りが一方向のみに動けるように当該重りを両側から挟み込むように支持して筐体内に取り付けられており、アクチュエータ及び相対速度センサは、永久磁石により作られた磁気回路とムービングコイルとからなり、重りの動きを計測範囲内で不動にするように制御するために挟み込むように配置されており、コントローラは、微分回路、積分回路、増幅回路及び加算回路を持っており、相対速度センサで計測された相対速度から相対加速度信号、相対変位信号及び相対速度の増幅信号を造り、それらの増幅信号に適度な倍率を掛けて合成して重りの動きを計測範囲内で不動にするようにアクチュエータを介してフィードバック制御するようになっており、このフィードバック制御における、相対加速度信号のネガティブフィードバック制御と、相対変位信号及び相対速度信号のポジティブフィードバック制御とによって、振動の計測範囲を低い振動数まで拡大して、小型ながら大変位を計測できるようになっている絶対変位・速度計測用センサ。」

本件補正のうち、請求項1についての補正は、「一対のばね」の取り付け方について、「重りが一方向のみに動けるように当該重りを両側から支持して筐体内に」とされていたものを、さらに限定して「重りの重力による偏りに関わらず、重りが一方向のみに動けるように当該重りを両側から挟み込むように支持して筐体内に」とするものである。
したがって、本件補正は、いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

2.刊行物に記載された事項
以下に掲げる刊行物1及び周知例1から5までは、いずれも本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である。また、刊行物1は、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である。

刊行物1:特開2004-251666号公報
周知例1:宮田康弘、石黒勲、背戸一登、「サーボ速度・変位センサの
開発と振動制御への応用」、Dynamics and Design
Conference 2001 講演論文アブストラクト集、日本機械学
会、2001年、第30ページ
周知例2:宮田康弘、石黒勲、背戸一登、「サーボ速度・変位センサの
開発と振動制御への応用」、日本機械学会関東支部第8期総
会講演会講演論文集、日本機械学会、2002年、第183
ページから第184ページまで
周知例3:特開2003-130628号公報
周知例4:特開平9-79900号公報
周知例5:特開平9-133705号公報

(1)刊行物1
ア.刊行物1の記載
刊行物1には、以下の記載がある。

(ア)段落0001
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、重りの振動を動的に抑制しつつ振動を計測するサーボ型センサに係り、特に、振動を測定する対象物の絶対変位と絶対速度が直接出力され、小型軽量かつ丈夫で、極低振動数から振動の測定を可能にするサーボ型絶対変位・速度センサに関するものである。」

(イ)段落0026から0028まで
「【0026】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態には2種類がある。1つは相対速度検知器を用いた形態で第1の発明に属する。他の1つは相対変位検知器を用いた形態で第2の発明に属する。
【0027】
図1には、相対速度検知器を用いた形態を示す。図示されるように、本発明のサーボ型絶対変位・速度センサは、振動する対象物の測定面Aに設置されるセンサ本体1と、このセンサ本体1の測定面A側より立ち上げられた支持バネ2と、この支持バネ2で支持された重り3と、センサ本体1及び重り3間の相対速度を検知する相対速度検知器4と、センサ本体1に固定された磁気回路(図4参照)及び重り3に連結された電磁コイル(図4参照)を有し測定面Aに垂直な方向に重り3を負荷として駆動する電磁アクチュエータ5と、相対速度検知器4で検知した相対速度信号及びその相対速度信号を微分した相対加速度信号及び上記相対速度信号を積分した相対変位信号を電磁アクチュエータ5に帰還するサーボ回路10とからなる。
【0028】
サーボ回路10は、相対速度信号を利得Kaで増幅する速度出力用増幅器11と、この増幅された相対速度信号を積分して相対変位信号を得る積分器12と、上記増幅された相対速度信号を微分するべく容量Cfの容量素子及び抵抗Rfの抵抗素子からなる微分回路13と、速度出力用増幅器11で増幅された相対速度信号を利得Kvで増幅して帰還する速度帰還用増幅器14と、微分回路13での微分による相対加速度信号を利得K_(A)で増幅して負帰還する加速度帰還用増幅器15と、積分器12での積分による相対変位信号を利得K_(D)で増幅して正帰還する変位帰還用増幅器16と、これら相対加速度信号及び相対速度信号及び相対変位信号を加算してその加算結果による駆動信号を電磁アクチュエータ5に出力する利得Kfの加算器17とからなる。」

(ウ)段落0044から0046まで
「【0044】
このようにして,式(7)の条件下、すなわちセンサの固有振動数より振動の測定対象の角振動数が大きい条件下では、振動の測定対象の絶対速度と絶対変位が測定できることが分かったが、問題となるのは低い振動数まで振動の絶対速度と絶対変位が測定できるようにするには、センサの固有振動数を低振動数に設定できなければならないと云うことである。従来の技術ではこの問題が解決できなかったために、未だ数Hzの振動が測定できる振動の絶対速度と絶対変位測定用センサが世の中に存在していない。
【0045】
この問題は、本センサの構成によって得られた式(4)と式(5)によって解決できる。すなわち、式(4)の分子項は支持バネのバネ定数とサーボ回路で作られたサーボバネ定数の差を示している。サーボバネ定数が負の符号を取るのは、相対変位信号を利得K_(D)で増幅して正帰還した効果である。この利得K_(D)を増加することによって分子項の左側項kに対し右側項の値を近付け、分子項を止めどなく小さくできる。また、式(5)の分母項は重りの質量にサーボ回路で作られたサーボ質量が加算されている。これは相対加速度信号を利得K_(A)で増幅して負帰還することによって得られた効果である。この利得K_(A)を増加することによって分母項も止めどなく大きくできる。このようにして,本発明のサーボ回路で作られたサーボバネ定数とサーボ質量によって、理論上はセンサの固有振動数を零に近づけることができる。このように、本発明のセンサでは重りの質量は小さくとも、またバネのバネ定数は低下させなくとも、サーボバネ定数とサーボ質量と呼ぶサーボ制御で作られた仮想の物理量によって固有振動数を下げることができるので、小型軽量で有りながらある程度強いバネが使えて、衝撃に強い構造が実現できる。また、式(5)はセンサの位相特性に関与する減衰比を表しており,この値は相対速度信号を利得K_(V)で増幅して帰還することによって任意に調整できる。本センサでは、減衰比が小さ過ぎれば負帰還、大き過ぎれば正帰還に切り換えるような仕組みになっている。
【0046】
本発明のセンサのもう一つの大きな特長は、上記相対加速度を負帰還することによって、振動する対象物の動きに対して支持バネで支持された重りの動きを抑制し、振動する対象物の絶対変位の測定範囲を大幅に広げることを可能にしたことである。…(略)…」

(エ)段落0051
「【0051】
本発明を具体化した実施形態の一例を図4に示す。この例では,測定面Aは水平方向に振動する対象物の振動を測定するために設置する。測定面A上にセンサ本体1が設けられ、そのセンサ本体1の上部から吊り下げられた平行板状バネ20の下部に、電磁アクチュエータの電磁コイル21と相対速度センサの電磁コイル23が取り付けられている。これら電磁コイル21及び電磁コイル23の質量を合わせたものが重り31の質量mとなる。磁気回路22は電磁アクチュエータの駆動用に設けられ、磁気回路24は相対速度検知器4として出力電圧を得るために設けられている。この構造を簡略化するために、電磁アクチュエータの電磁コイル21の外側に相対速度センサの電磁コイル23を重ねて巻いてもよい。…(略)…」

イ.刊行物1に記載された発明(引用発明)
刊行物1には、センサの減衰比の大小に応じて相対速度信号の帰還の正負を切り替える旨の記載がある(上記ア.(ウ)、段落0045)。
したがって、刊行物1に記載されたサーボ型絶対変位・速度センサは、何らかの減衰要素を備えていることがうかがえる。実際、支持バネとダンパとで支持された重りを利用したサーボ型絶対変位・速度センサは、例えば周知例1(左欄第17行及び図A1)、周知例2(「2.本センサの理論とその構成」の冒頭及び図1)及び周知例3(段落0019及び図1)に記載されているように、本件出願の前に周知である。したがって、刊行物1に記載されたサーボ型絶対変位・速度センサの重り3が、支持バネ2だけでなく、ダンパでも支持されていることは、当業者にとって明らかである。
また、減衰比が大きいセンサについて、相対速度信号を正帰還することも記載されている。
以上のことを踏まえて、上記ア.(ア)から(エ)までの記載と図1に示された事項とを総合すると、刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「振動する対象物の測定面Aに設置されるセンサ本体1と、
センサ本体1の測定面A側より立ち上げられた支持バネ2とダンパとで支持された重り3と、
測定面Aに垂直な方向に重り3を負荷として駆動する電磁アクチュエータ5と、
センサ本体1と重り3との間の相対速度を検知する相対速度検知器4と、
相対速度検知器4で検知した相対速度信号、相対速度信号を微分した相対加速度信号、及び相対速度信号を積分した相対変位信号を電磁アクチュエータ5に帰還するサーボ回路10とからなり、
電磁アクチュエータ5は、磁気回路22と電磁コイル21とからなり、
相対速度検知器4は、磁気回路24と電磁コイル23とからなり、
サーボ回路10は、相対速度信号を増幅する速度出力用増幅器11と、増幅された相対速度信号を積分して相対変位信号を得る積分器12と、増幅された相対速度信号を微分して相対加速度信号を得る微分回路13と、増幅された相対速度信号を利得K_(V)で増幅して正帰還する速度帰還用増幅器14と、相対加速度信号を利得K_(A)で増幅して負帰還する加速度帰還用増幅器15と、相対変位信号を利得K_(D)で増幅して正帰還する変位帰還用増幅器16と、相対加速度信号、相対速度信号及び相対変位信号を加算した駆動信号を電磁アクチュエータ5に出力する加算器17とからなり、
重り3の振動を動的に抑制しつつ振動を測定する対象物の絶対変位と絶対速度が直接出力され、小型軽量かつ丈夫で、極低振動数から振動の測定を可能にした
サーボ型絶対変位・速度センサ。」

(2)周知例4及び5
ア.周知例4の記載
周知例4には、以下の記載がある。

(ア)段落0001
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、重りの振動を動的に抑制しつつ振動を計測するサーボ型センサに係り、特に、速度と変位とが直接出力され、軽量小型かつ丈夫で、低周波でも作動するサーボ型速度・変位センサに関するものである。」

(イ)段落0025
「【0025】
【発明の実施の形態】図1に示されるように、本発明のサーボ型速度・変位センサは、振動する対象物の測定面Aに設置されるセンサ本体1と、このセンサ本体1の測定面A側より立ち上げられた支持バネ2と、この支持バネ2に接続された重り3と、センサ本体1及び重り3間の相対変位を検知する検知器4と、センサ本体1に固定された磁気コア及び重り3に連結された電磁コイルを有し測定面Aに垂直な方向に重り3を負荷として駆動する電磁アクチュエータ5と、変位信号を微分した速度信号と変位信号とを電磁アクチュエータ5に帰還するサーボ回路11とからなる。」

(ウ)段落0042
「【0042】本発明を具体化した実施形態の一例を図5に示す。銅などの導体で作られた重り3は、センサ本体1の垂直壁から張り出し測定面Aにほぼ平行な平行板バネ2aで支持されている。…(略)…」

(エ)段落0047
「【0047】図5のサーボ型速度・変位センサは、支持バネを弱くする必要がなく、しかも板バネとしたので、センサ本体1の取り付け方向は自由であり、重り3の質量も20gと極めて軽量にできている。…(略)…」

(オ)段落0055から0058まで
「【0055】
【発明の効果】本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0056】(1)…(略)…
【0057】(2)…(略)…
【0058】(3)重りを支える支持バネを平行板バネ構造にすることによって、振動方向に直交する方向の強度を増し、取り付け方向の制約を無くすことができる。」

イ.周知例5の記載
周知例5には、以下の記載がある。

(ア)段落0001
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は加速度センサに関し、特にたとえば、加速度による検出片の変位を大きくするための附加質量体を有する加速度センサに関する。」

(イ)段落0007
「【0007】附加質量体は加速度による検出片の変位の向きにのみスライド可能に形成されているため、附加質量体は、その他の向きに移動することはない。そのため、検出片には、附加質量体によって、そのスライド可能な向き以外の向きの力が加わらない。つまり、加速度センサに加速度が加わって、附加質量体がスライドしたときにのみ、附加質量体による力が検出片に加わる。…(略)…」

(ウ)段落0018及び0019
「【0018】また、図4に示すように、矩形の塊状の附加質量体28の対向側面を、湾曲部を有する板ばね38で保持してもよい。図4に示す例では、4つの板ばね38によって、附加質量体28の4つの端部が保持されている。したがって、附加質量体28は、板ばね38の幅方向には変位せず、厚み方向にのみスライドすることができる。このとき、板ばね38に湾曲部が形成されていることによって、附加質量体28の移動にともなう板ばね38の伸縮が吸収される。なお、板ばね38は、附加質量体28の対向端面に1つずつ形成されてもよい。
【0019】これらの附加質量体28を用いる場合にも、附加質量体28のスライド可能な向きと測定すべき加速度の向きとが一致するように、附加質量体28が基板14に取り付けられる。また、基板14と附加質量体28とは、ばねなどの弾性体を介して結合される。それによって、感度が良好で、雰囲気温度の変化や衝撃などの影響の少ない加速度センサを得ることができる。」

ウ.周知例4及び5に記載された周知技術
加速度を受けて移動する重りを利用したセンサにおいて、重りを両側から2枚の板バネで挟み込むように支持することにより、重りが移動する方向を制限し、重りを加速度の方向にだけ移動させることは、周知例4及び5のいずれにも記載されている。したがって、これは、本件出願前に当業者に周知の技術である。

3.対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、以下のとおりである。

(1)引用発明の「振動する対象物の測定面Aに設置されるセンサ本体1」、「支持バネ2」、「ダンパ」、「重り3」、「電磁アクチュエータ5」、「相対速度検知器4」、「サーボ回路10」及び「サーボ型絶対変位・速度センサ」は、それぞれ本件補正発明の「筐体」、「ばね」、「ダンパ」、「重り」、「アクチュエータ」、「相対速度センサ」、「コントローラ」及び「絶対変位・速度計測用センサ」に相当する。
引用発明の「磁気回路22」及び「磁気回路24」は、いずれも本件補正発明の「永久磁石により作られた磁気回路」に相当し、引用発明の「電磁コイル21」及び「電磁コイル23」は、いずれも本件補正発明の「ムービングコイル」に相当する。
引用発明の「微分回路13」、「積分器12」及び「加算器17」は、それぞれ本件補正発明の「微分回路」、「積分回路」及び「加算回路」に相当し、引用発明の「速度出力用増幅器11」、「速度帰還用増幅器14」、「加速度帰還用増幅器15」及び「変位帰還用増幅器16」は、いずれも本件補正発明の「増幅回路」に相当する。

(2)引用発明の「重り3」が「センサ本体1の測定面A側より立ち上げられた支持バネ2とダンパとで支持された」ことと、本件補正発明の「重り」が「この筐体に内蔵されていると共に、一対のばね及びダンパによって可動に支えられた」こととは、「重り」が「この筐体に内蔵されていると共に、ばね及びダンパによって可動に支えられた」点で共通する。

(3)引用発明の「電磁アクチュエータ5」が「測定面Aに垂直な方向に重り3を負荷として駆動する」ことは、最終的に「重り3の振動を動的に抑制」するためであるから、本件補正発明の「アクチュエータ」が「この重りを計測範囲内で不動にするように作動する」ことに相当する。

(4)引用発明の「相対速度検知器4」が「センサ本体1と重り3との間の相対速度を検知する」ことは、本件補正発明の「相対速度センサ」が「筐体に対する重りの相対速度を検出する」ことに相当する。

(5)引用発明の「サーボ回路10」が「相対速度検知器4で検知した相対速度信号、相対速度信号を微分した相対加速度信号、及び相対速度信号を積分した相対変位信号を電磁アクチュエータ5に帰還する」ことは、本件補正発明の「コントローラ」が「重りの動きをアクチュエータを介して制御する」ことに相当する。

(6)引用発明の「電磁アクチュエータ5」が「磁気回路22と電磁コイル21とからなり」、「相対速度検知器4」が「磁気回路24と電磁コイル23とからな」ることは、本件補正発明の「アクチュエータ及び相対速度センサ」が「永久磁石により作られた磁気回路とムービングコイルとからな」ることに相当する。
また、引用発明の「電磁アクチュエータ5」と「相対速度検知器4」とは、「重り3の振動を動的に抑制」するように配置されていることが明らかである。そして、このことと、本件補正発明の「アクチュエータ」及び「相対速度センサ」が「重りの動きを計測範囲内で不動にするように制御するために挟み込むように配置されて」いることとは、「アクチュエータ」及び「相対速度センサ」が「重りの動きを計測範囲内で不動にするように制御するために配置されて」いる点で共通する。

(7)引用発明の「サーボ回路10」が「…速度出力用増幅器11と、…積分器12と、…微分回路13と、…速度帰還用増幅器14と、…加速度帰還用増幅器15と、…変位帰還用増幅器16と、…加算器17とからな」ることは、本件補正発明の「コントローラ」が「微分回路、積分回路、増幅回路及び加算回路を持って」いることに相当する。
引用発明の「サーボ回路10」が「サーボ回路10は、相対速度信号を増幅する速度出力用増幅器11と、増幅された相対速度信号を積分して相対変位信号を得る積分器12と、増幅された相対速度信号を微分して相対加速度信号を得る微分回路13と、増幅された相対速度信号を利得K_(V)で増幅して正帰還する速度帰還用増幅器14と、相対加速度信号を利得K_(A)で増幅して負帰還する加速度帰還用増幅器15と、相対変位信号を利得K_(D)で増幅して正帰還する変位帰還用増幅器16と、相対加速度信号、相対速度信号及び相対変位信号を加算した駆動信号を電磁アクチュエータ5に出力する加算器17とからな」ることは、本件補正発明の「コントローラ」が「相対速度センサで計測された相対速度から相対加速度信号、相対変位信号及び相対速度の増幅信号を造り、それらの増幅信号に適度な倍率を掛けて合成して重りの動きを計測範囲内で不動にするようにアクチュエータを介してフィードバック制御するようになって」いることに相当する。

(8)引用発明の「加速度帰還用増幅器15」が「相対加速度信号を…負帰還する」ことは、本件補正発明の「このフィードバック制御における、相対加速度信号のネガティブフィードバック制御」に相当する。
引用発明の「速度帰還用増幅器14」が「相対速度信号を…正帰還する」こと及び「変位帰還用増幅器16」が「相対変位信号を…正帰還する」ことは、本件補正発明の「このフィードバック制御における、…相対変位信号及び相対速度信号のポジティブフィードバック制御」に相当する。

(9)引用発明の「サーボ型絶対変位・速度センサ」が「振動を測定する対象物の絶対変位と絶対速度が直接出力され、小型軽量かつ丈夫で、極低振動数から振動の測定を可能にした」ものであることは、本件補正発明の「絶対変位・速度計測用センサ」が「振動の計測範囲を低い振動数まで拡大して、小型ながら大変位を計測できるようになっている」ことに相当する。

(10)以上のことをまとめると、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

(一致点)
「筐体と、この筐体に内蔵されていると共に、ばね及びダンパによって可動に支えられた重りと、この重りを計測範囲内で不動にするように作動するアクチュエータと、筐体に対する重りの相対速度を検出する相対速度センサと、重りの動きをアクチュエータを介して制御するコントローラとからなっており、アクチュエータ及び相対速度センサは、永久磁石により作られた磁気回路とムービングコイルとからなり、重りの動きを計測範囲内で不動にするように制御するために配置されており、コントローラは、微分回路、積分回路、増幅回路及び加算回路を持っており、相対速度センサで計測された相対速度から相対加速度信号、相対変位信号及び相対速度の増幅信号を造り、それらの増幅信号に適度な倍率を掛けて合成して重りの動きを計測範囲内で不動にするようにアクチュエータを介してフィードバック制御するようになっており、このフィードバック制御における、相対加速度信号のネガティブフィードバック制御と、相対変位信号及び相対速度信号のポジティブフィードバック制御とによって、振動の計測範囲を低い振動数まで拡大して、小型ながら大変位を計測できるようになっている絶対変位・速度計測用センサ。」

(相違点1)
本件補正発明の「ばね」は、「重りの重力による偏りに関わらず、重りが一方向のみに動けるように当該重りを両側から挟み込むように支持して筐体内に取り付けられて」いる「一対のばね」であるのに対し、引用発明の「支持バネ2」(本件補正発明の「ばね」に相当する。)は、単に「センサ本体1の測定面A側より立ち上げられた」ものであり、「センサ本体1」(本件補正発明の「筐体」に相当する。)の内部に取り付けられていることは明らかであるものの、「重り3」(本件補正発明の「重り」に相当する。)をどのように支持しているのか明らかでない点。

(相違点2)
本件補正発明の「アクチュエータ」及び「相対速度センサ」は、「重り」を「挟み込むように」配置されているのに対し、引用発明の「電磁アクチュエータ5」(本件補正発明の「アクチュエータ」に相当する。)及び「相対速度検知器4」(本件補正発明の「相対速度センサ」に相当する。)は、「重り3」(本件補正発明の「重り」に相当する。)とどのような位置関係で配置されているのか明らかでない点。

4.相違点についての判断
(1)相違点1について
引用発明の「サーボ型絶対変位・速度センサ」は、明らかに、加速度を受けて移動する重りを利用したセンサである。したがって、引用発明の「サーボ型絶対変位・速度センサ」において、「重り3」を両側から2枚の板バネで挟み込むように支持することにより、重りが移動する方向を制限し、重りを加速度の方向にだけ移動させることは、周知技術(上記2.(2)ウ.)の単なる適用にすぎない。この結果、「重り3」を「一対のばね」が「両側から挟み込むように支持」するようになることは、明らかである。
また、重りを移動させる方向は、加速度の方向(すなわち、測定しようとする振動の方向)に応じて当業者が適宜選択し得る事項である。そして、例えば測定しようとする振動の方向が重力の方向と異なれば、「重り3」は、その振動の方向にだけ移動し、重力の方向への移動は制限されることになる。その結果、「重り3」が「重りの重力による偏りに関わらず、重りが一方向のみに動けるように」なることは、明らかである。

(2)相違点2について
引用発明の「サーボ型絶対変位・速度センサ」の「電磁アクチュエータ5」及び「相対速度検知器4」の配置は、「重り3の振動を動的に抑制しつつ振動を測定する対象物の絶対変位と絶対速度が直接出力」できる範囲で当業者が適宜決定し得る設計事項にすぎない。

5.請求人の主張について
請求人は、審判請求書の3.(d)で次のように主張し、回答書の2.(2)でも同様の主張をする。

「しかも、特開2002-55115号公報、実願平5-53335号(実開平7-18269号)のCD-ROM及び特開平3-206969号公報のいずれにも、重力の影響については、一言隻句もありません。
そうしますと、2枚の板バネ3で錘4の両端が支えられるという技術的事項、板ばね5がおもり10の揺動軌跡内に対向して配置されているという技術的事項及び磁性体54が板ばね53a、53bに支持されているという技術的事項が知られているとしましても、「一対のばねを、重りが一方向のみに動けるように当該重りを両側から支持して筐体内に取り付けることは、加速度センサの技術分野における周知技術に過ぎず」とのご認定には、重力の影響を考慮する限りにおいては、承服し難いのであります。」

しかし、上記2.(2)ウ.で述べたとおり、加速度を受けて移動する重りを利用したセンサにおいて、重りを両側から2枚の板バネで挟み込むように支持することにより、重りが移動する方向を制限し、重りを加速度の方向にだけ移動させることは、本件出願前に当業者に周知の技術である。そして、重力の影響が排除できるのは、重りを移動する方向を、測定しようとする振動の方向に応じて選択したことの単なる結果にすぎない。
請求人の主張は、採用することができない。
なお、請求人は、回答書の3.で、本件補正発明の「挟み込むように支持」に代えて「挟み込んで」又は「挟んで」と記載する補正案を提示している。しかし、この補正案は、上記4.(1)で述べた相違点1についての判断を左右するものではない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明(引用発明)と周知技術とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件出願に係る発明についての判断
1.本件出願に係る発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1及び2のそれぞれに係る発明は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1及び2のそれぞれに記載された事項によって特定されるとおりのものである。特に、請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
筐体と、この筐体に内蔵されていると共に、一対のばね及びダンパによって可動に支えられた重りと、この重りを計測範囲内で不動にするように作動するアクチュエータと、筐体に対する重りの相対速度を検出する相対速度センサと、重りの動きをアクチュエータを介して制御するコントローラとからなっており、一対のばねは、重りが一方向のみに動けるように当該重りを両側から支持して筐体内に取り付けられており、アクチュエータ及び相対速度センサは、永久磁石により作られた磁気回路とムービングコイルとからなり、重りの動きを計測範囲内で不動にするように制御するために挟み込むように配置されており、コントローラは、微分回路、積分回路、増幅回路及び加算回路を持っており、相対速度センサで計測された相対速度から相対加速度信号、相対変位信号及び相対速度の増幅信号を造り、それらの増幅信号に適度な倍率を掛けて合成して重りの動きを計測範囲内で不動にするようにアクチュエータを介してフィードバック制御するようになっており、このフィードバック制御における、相対加速度信号のネガティブフィードバック制御と、相対変位信号及び相対速度信号のポジティブフィードバック制御とによって、振動の計測範囲を低い振動数まで拡大して、小型ながら大変位を計測できるようになっている絶対変位・速度計測用センサ。」

2.原査定の拒絶の理由
本件発明に対する原査定の拒絶の理由は、概略以下のとおりである。

「本件発明は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1に記載された発明と周知技術とに基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:特開2004-251666号公報(前掲)」

3.刊行物1に記載された事項
刊行物1に記載された事項は、上記「第2」2.(1)に記載したとおりである。

4.対比・判断
本件発明は、本件補正発明から、「重りが一方向のみに動けるように当該重りを両側から支持して筐体内に」とされていた「一対のばね」の取り付け方を「重りの重力による偏りに関わらず、重りが一方向のみに動けるように当該重りを両側から挟み込むように支持して筐体内に」とする限定を省いたものである。
そして、本件発明の発明特定事項を全て含み、さらに上記の限定を含む本件補正発明は、上記「第2」6.に記載したとおり、刊行物1に記載された発明と周知技術とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
そうすると、本件発明も同様に、刊行物1に記載された発明と周知技術とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、刊行物1に記載された発明と周知技術とに基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-11-26 
結審通知日 2013-12-03 
審決日 2013-12-16 
出願番号 特願2007-24262(P2007-24262)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01P)
P 1 8・ 121- Z (G01P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三田村 陽平  
特許庁審判長 小林 紀史
特許庁審判官 関根 洋之
飯野 茂
発明の名称 絶対変位・速度計測用センサ  
代理人 高田 武志  
代理人 高田 武志  

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