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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16J
管理番号 1284945
審判番号 不服2013-8245  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-05-07 
確定日 2014-03-11 
事件の表示 特願2009-536473「静的ガスケット」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 5月15日国際公開、WO2008/058227、平成22年 5月 6日国内公表、特表2010-514989、請求項の数(16)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2007年11月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年11月8日及び2007年11月7日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成24年12月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年5月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?16に係る発明は、平成21年7月3日付け翻訳文提出書の明細書及び特許請求の範囲、並びに図面の記載からみて、その請求項1?16に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)の特許請求の範囲は次のとおりである。
「【請求項1】
静的ガスケットであって、
平坦な金属コアを備え、前記コアは、2つのシール対象部材間でクランプされるよう構成された対向する第1および第2のシール面と、前記コアを貫通しており前記部材の関連付けられた流体通路間での流体の輸送のための少なくとも1つの開口部とを有し、
前記コアは、前記流体輸送開口部を取り囲む少なくとも1つの変形された金属盛上り部を含み、前記盛上り部は、前記第1のシール面と関連付けられた凸側と、前記第2のシール面と関連付けられた凹側とを有し、
前記コアの前記第1および第2のシール面の各々上の選択された領域に施されておりエラストマーシール材料からなる単一のシール層をさらに備え、
前記シール層は、前記エラストマー材料の一体化し立上がっている部分によって形成された少なくとも1つのクラウンビードを含み、前記クラウンビードは、前記盛上り部の前記凸側に沿って連続して延在し、
前記シール層は、前記エラストマー材料の一体化し立上がっている部分によってそれぞれ形成された少なくとも2つの側方ビードをさらに含み、前記側方ビードは、前記第2のシール面に沿って、前記盛上り部の前記凹側に直接隣接して、互いに間隔をあけた非交差な関係で、その間に前記盛上り部を配置されて連続して延在する、静的ガスケット。」

第3 原査定の理由の概要
1.平成24年8月24日付け拒絶理由の概要
理由1
この出願は、下記の点で特許法第37条に規定する要件を満たしていない。

請求項1に係る発明の技術的特徴は、文献1の開示内容に照らして、先行技術に対する貢献をもたらすものではないから、当該技術的特徴は、特別な技術的特徴であるとはいえない。
よって、請求項1に係る発明と、請求項2-16に係る発明との間に、同一の又は対応する特別な技術的特徴を見いだすことができない。
ただし、請求項2、3、5、8に係る発明については、発明の単一性の要件を問わないこととする(「特許・実用新案 審査基準」第I部第2章4.2を参照)。
以上のように、請求項1に係る発明と、請求項4、6、7、9-16に係る発明とは、発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当しないから、この出願は特許法第37条に規定する要件を満たさない。
この出願は特許法第37条の規定に違反しているので、請求項4、6、7、9-16に係る発明については、特許法第37条以外の要件についての審査を行っていない。

理由2
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由3
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1-3、5、8
・理由 2、3
・引用文献等 1
・備考
特に、引用文献1の第2ページ右下欄第1-16行、第3ページ右上欄第15行-右下欄第1行、第3図を参照。
引 用 文 献 等 一 覧
1 特開昭63-289376号公報

2.拒絶査定の概要
理由1?3により拒絶すべきものであるとし、特に請求項1について、備考欄には次のように記載されている。
出願人は、平成24年12月4日付けで提出した意見書において、「引用文献1のシールビード66,68は、ガスケット本体58の一体化し立上がっている部分によって形成されたものではありません。」と述べている。ここで、「一体化」という語について検討するに、一体化とは、一体に化する、すなわちもともと複数のものが合わさり一つのもののようになることと理解される。そうすると、先の引用文献1において、「シールビード」は、エラストマー材料からなる「表面仕上げシート」上に塗布されることで、エラストマー材料に一体化されているといえる。したがって、引用文献1に記載の発明において、シール層は、エラストマー材料(表面仕上げシート)の一体化し立上がっている部分によって形成された少なくとも1つのクラウンビード(シールビード68)と少なくとも2つの側方ビード(シールビード66)を備えている。

第4 当審の判断
まず、拒絶理由の理由3(特許法第29条第2項)の適否について検討する。
1.引用例の記載事項
特開昭63-289376号公報(以下、「引用例」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
なお、全角半角等の文字の大きさ、字体、促音、拗音、句読点などは記載内容を損なわない限りで適宜表記した。
(あ)「従来の技術及び問題点
現在においては、間口ガスケットには間口の周囲あるいはそのような開口と関連して補足用のシ-ルが設けられている。そのような補足用のシールは、ゴルシカ(Gorsica)による米国特許第3,053,544号明細書に示されているように、打ち出し部を有している。そのような打ち出し部は、時々、米国特許第3,721,452号明細書及びドイツ国特許第819,177号明細書に示されているように、付加的なシーラント材料で満たされている。米国特許第4,213,620号明細書のような他の特許はガスケット本体を局部領域を除いて圧縮し、シールをする目的のための盛り上り部分を残すことを示している。他の特許は、例えば、英国特許第899,552号明細書のようなあらゆるタイプの塗付方法によってガスケット表面を塗付することを示している。
さらに他の補足シールは環状パターンのようなプリントされたパターンである。このプリントされたパターンは、典型的には、ヒリヤー(Hillier)による米国特許第3,477,867号明細書に示されているように、ガスケット面を望みのパターンでシルクスクリーニングすることによって得られる。シルクスクリーニング法によって打ち出し部を満たすことは、米国特許第4,140,323号明細書に示されている。シルクスクリーニングによるシールは効果的なガスケットにとって非常に重要な付加物になるが、この方法は比較的高価なものである。
かなりの安い経費で、効果的なシール付加物を作り出す、補足的なシール材料あるいは補足的なシールを利用することは有利なことである。
問題点を解決するための手段
本発明によると改良されたガスケットの製法が提供される。この方法は少なくとも1つの開口を内部に画定し、かつ第1及び第2の主シール面を有する主ガスケット本体を提供することと、1つの主シール面から突出した少なくとも1つのピークを形成することと、シーラント材料で前記ピークのみをローラ塗付し、これを硬化させて、それによって前記ピーク上にシールビードを提供することとからなる。
前記ピークを形成することは、第2の主シール面を打ち出し加工して、そのピークを含む打ち出し部を形成することにより、あるいはガスケットを圧縮してピークを提供することによって行われる。前記ピークは環状パターンであってもよい。両方の主シール面から延在したピークを形成してもよい。」(第1ページ右下欄第13行?第2ページ左下欄第1行)
(い)「前記主ガスケット本体10は、典型的には、孔のあいていない金属コア30のようなラミネートと1対の表面仕上げシート32からなっていてもよい。前記表面仕上げシート32は繊維強化された合成物であり、コア30に対して層状に取付けられている。自立式の表面仕上げシートを提供するのに最も一般的で、かつしばしば用いられる表面仕上げ材は、アスベストあるいはグラスファイバーを結合して、ニトリル、ネオプレン、あるいはポリアクリルのエラストマーを用いている。…(略)…
第2図を参照すると、第1の主シール面11における少なくとも1つの油あるいは水の開口14の周囲に、第2のシール40が設けられている。前記シール40は、シール面11から突出し、既知の方法で打ち出しダイス型によって形成された打ち出し部42と、前記打ち出し部の突出ピーク46の上にのせられたシールビード44とからなっている。前記シールビード44は、一般的には前記ピークあるいはピークの内の最も高い部分を均等に覆っており、従ってこれはガスケットを配置した表面とシール係合するであろう。
前記シールビード44は、ガスケット1が完全に形成され、組立てられて、かつ打ち出し部42が形成された後で、ガスケット1をローラー塗付することによって形成される。従って、ガスケット1は他の方法が終了した後で、ローラー塗付装置に位置決めされ、ローラー塗付器具に関連して移動され、ガスケットの1つの面から突出している全ての打ち出し部のピーク部にのみ層あるいはビード44が付着され、残りの、あるいはその他のガスケット面には塗付されない。このようにしてシールする負荷がピークの所へ集中し、ガスケット本体のシール特性も、ドイツ国特許第819,177号のガスケットの場合と同様、他の方法では変化されない。このような塗付の手順は迅速であり、シルクスクリーンを形成したりスクリーンとガスケットを注意深く合わせたりする、代表的なシルクスクリーン法の必要性がなくなる。
前記ビード44を提供するために用いられる塗付材料は、接着剤となるダウコーニング社の2つの部分からなるシリコンエラストマー96-083のような、耐高温性のシリコンゴムであってもよい。この2つの部分が混合され、硬化剤が添加されると、それは熱で硬化する。使用することのできる他の適当なシール材料としては、ポリウレタン、エポキシ、硬化可能な液体エラストマー、各種のラテックスがある。
打ち出し部42のピーク46上にローラー塗付によって効果的に付着される代表的なものは、ダウコーニング社のシリコンエラストマー96-083である。
ローラー塗付の次に、ガスケットは適当な硬化オーブンに通すことによって硬化される。全体的な手順は第6図に示されている。
次に第3図を参照すると、第2図と同様な位置の断面図が示されており、主ガスケット本体58に1対の打ち出し部60が形成されていることがわかる。そのようにして打ち出し部を形成すると、1つの主表面上に1対のピーク62が形成され、他の側においても、ガスケット本体58の面を越えて突出したピーク64もまた形成されることがわかる。各々のピークにはシールビード66,68が設けられ、これによってガスケット組立体の各主表面において、第2のシール組立体が得られる。
第3図に関連してビード66,68もまた再びローラー塗付によって形成され、この場合は、最初のローラー塗付によって、ガスケット本体58の1つの主表面上にビードが塗付され、これらのビードが硬化された後に、他の主表面上にビード(単数あるいは複数)がローラー塗布される。全ての場合において、一方の側における高位置あるいはピークはこれらの位置のみを容易にローラー塗付され、その後では他方の側における高位置あるいはピークがそのピークのみを容易にローラー塗付され、これらの全ての場合において、塗付しようとしているガスケットにスクリーンあるいはその類似物を合わせるための特別な設備あるいは特別な配慮を必要としない。
もちろん、現在製造、販売されているガスケットの慣習からいうと、第2シールは環状である必要も、またガスケット内の開口を完全に取囲む必要もない。従って、第2シール、即ち、ピークのローラー塗付された打ち出し部は、部分環状あるいはそうでなければ適当に分割された部分であってもよい。
第1図から第3図に関連して示されているように薄層状になったガスケットを打ち出し加工しているが、打ち出し加工以外の方法によって形成されたピークを有している薄層状かあるいは他のガスケットを提供してもよい。」(第2ページ右下欄第1行?第4ページ左上欄第7行)
(う)上記(い)には、「次に第3図を参照すると、第2図と同様な位置の断面図が示されており、」と記載されている。第3図をみると、一対の打ち出し部60、60のほか、第2図の打ち出し部42に相当する打ち出し部が形成されており、該打ち出し部にビード68が形成されている。該打ち出し部を、一対の打ち出し部60、60と区別するため、以下、「打ち出し部42」と称することとする。
以上の事項及び図面(特に第3図)からみて、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ガスケットであって、
平坦な金属コア30を備え、前記コアは、エンジン頭部とエンジンブロック間でクランプされるよう構成された対向する第1および第2のシール面と、前記コアを貫通している水及び油の開口14とを有し、
前記コア30は、前記開口14を取り囲む変形された打ち出し部42及び一対の打ち出し部60、60を含み、前記打ち出し部42は、前記第1のシール面と関連付けられた凸側と、前記第2のシール面と関連付けられた凹側とを有し、
前記コアの前記第1および第2のシール面の各々上の選択された領域に施されており繊維強化されたエラストマーシール材料からなる表面仕上げシート32をさらに備え、
前記表面仕上げシートの打ち出し部42の表面には、ローラー塗布により、シール材料からなるシールビード68が形成されており、前記シールビード68は、前記打ち出し部42の前記凸側に沿って連続して延在し、
前記表面仕上げシートの一対の打ち出し部60、60の表面には、ローラー塗布により、シール材料からなるシールビード66、66がそれぞれ形成されており、前記シールビード66、66は、前記第2のシール面に沿って、前記打ち出し部42の前記凹側に直接隣接して、互いに間隔をあけた非交差な関係で、その間に前記打ち出し部42を配置されて連続して延在する、ガスケット。」

2.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、
後者の「ガスケット」は前者の「静的ガスケット」に相当し、以下同様に、「エンジン頭部とエンジンブロック」は「2つのシール対象部材」に、「水及び油の開口14」は「前記部材の関連付けられた流体通路間での流体の輸送のための少なくとも1つの開口部」に、「打ち出し部42」は「金属盛上り部」に、それぞれ相当する。
後者の「表面仕上げシート32」、「シールビード68」及び「シールビード66、66」からなるものと前者の「単一のシール層」は、「シール層」である点で一致する。
後者の「シールビード68」と前者の「クラウンビード」は「ビード」である点で一致し、後者の「前記表面仕上げシートの打ち出し部42の表面には、ローラー塗布により、シール材料からなるシールビード68が形成されており、」と前者の「前記シール層は、前記エラストマー材料の一体化し立上がっている部分によって形成された少なくとも1つのクラウンビードを含み、」は、「前記シール層は、少なくとも1つのビードを備えている」点で一致する。なお、本願明細書には「【0023】…シール層38は、…シールビード46を備えて形成されている。」と記載されている。
後者の「シールビード66、66」と前者の「少なくとも2つの側方ビード」は「少なくとも2つのビード」である点で一致し、後者の「前記表面仕上げシートの一対の打ち出し部60、60の表面には、ローラー塗布により、シール材料からなるシールビード66、66がそれぞれ形成されており、」と前者の「前記シール層は、前記エラストマー材料の一体化し立上がっている部分によってそれぞれ形成された少なくとも2つの側方ビードをさらに含み、」は、「前記シール層は、少なくとも2つのビードをさらに備えている」点で一致する。
したがって、本願発明と引用発明は、
「静的ガスケットであって、
平坦な金属コアを備え、前記コアは、2つのシール対象部材間でクランプされるよう構成された対向する第1および第2のシール面と、前記コアを貫通しており前記部材の関連付けられた流体通路間での流体の輸送のための少なくとも1つの開口部とを有し、
前記コアは、前記流体輸送開口部を取り囲む少なくとも1つの変形された金属盛上り部を含み、前記盛上り部は、前記第1のシール面と関連付けられた凸側と、前記第2のシール面と関連付けられた凹側とを有し、
前記コアの前記第1および第2のシール面の各々上の選択された領域に施されておりエラストマーシール材料からなるシール層をさらに備え、
前記シール層は、少なくとも1つのビードを備え、前記ビードは、前記盛上り部の前記凸側に沿って連続して延在し、
前記シール層は、少なくとも2つのビードをさらに含み、前記ビードは、前記第2のシール面に沿って、前記盛上り部の前記凹側に直接隣接して、互いに間隔をあけた非交差な関係で、その間に前記盛上り部を配置されて連続して延在する、静的ガスケット。」の点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点]
本願発明の「シール層」は「単一のシール層」であって、
「前記シール層は、前記エラストマー材料の一体化し立上がっている部分によって形成された少なくとも1つのクラウンビードを含み」、
「前記シール層は、前記エラストマー材料の一体化し立上がっている部分によってそれぞれ形成された少なくとも2つの側方ビードをさらに含」むのに対し、
引用発明の「シール層」は「表面仕上げシート32」、「シールビード68」及び「シールビード66、66」からなるものであって、
「前記表面仕上げシートの打ち出し部42の表面には、ローラー塗布により、シール材料からなるシールビード68が形成されており」、
「前記表面仕上げシートの一対の打ち出し部60、60の表面には、ローラー塗布により、シール材料からなるシールビード66、66がそれぞれ形成されて」いる点。

3.判断
(3-1)相違点について
本願発明の「一体化」等に関して、請求人は、審判請求の理由において、
「この点、原査定においては、『一体化とは、一体に化する、すなわちもともと複数のものが合わさり一つのもののようになることと理解される。』とした上で、引用文献1の『シールビード』もエラストマー材料に一体化されていると言えるとの判断が示された。
しかしながら、請求項1に係る本願発明における『エラストマー材料の一体化し立上がっている部分によって形成された少なくとも1つのクラウンビード』との規定の意義を素直に解釈すれば、『クラウンビード』は『エラストマー材料』によって形成されていると理解するのが自然である。また、本願の発明の詳細な説明においても、一貫してそのように説明している。
…(略)…本願発明における『一体化』の文言について言えば、『複数の部材を合わせて形成する』場合と、『もともと1つの部材から形成する』場合とが考えられるから、用語の意義が必ずしも一義的ではなく、この語義は、発明の詳細な説明の記載を参酌して解釈しなければならないものである。原査定は、本願発明の『一体化』の用語の意義の解釈を誤っており、取り消しを免れない。
さらに、請求項1に係る本願発明においては、『前記コアの前記第1および第2のシール面の各々上の選択された領域に施されておりエラストマーシール材料からなる単一のシール層』と規定されており、『クラウンビード』および『側方ビード』は『単一のシール層』に含まれるものであるから、ローラー塗布によって形成された引用例1のシールビード66,68が本願発明の『クラウンビード』および『側方ビード』に相当し得ないことは、特許請求の範囲の記載そのものからも明らかである。」と主張する。
確かに、本願発明の「シール手段」は「単一のシール層」であって、「前記シール層は、前記エラストマー材料の一体化し立上がっている部分によって形成された少なくとも1つのクラウンビードを含み」、「前記シール層は、前記エラストマー材料の一体化し立上がっている部分によってそれぞれ形成された少なくとも2つの側方ビードをさらに含」むものである。
これに対し、引用発明の「シール層」は「表面仕上げシート32」、「シールビード68」及び「シールビード66、66」からなるものであって、「前記表面仕上げシートの打ち出し部42の表面には、ローラー塗布により、シール材料からなるシールビード68が形成されており」、「前記表面仕上げシートの一対の打ち出し部60、60の表面には、ローラー塗布により、シール材料からなるシールビード66、66がそれぞれ形成されて」いる。したがって、
(a)「表面仕上げシート32」、「シールビード68」及び「シールビード66、66」からなるものは、「シール層」といえるとしても、「単一のシール層」でないことは明らかであり、そうすると、「前記シール層」は「少なくとも1つのクラウンビードを含み」とはいえず、また、「前記シール層」は、「少なくとも2つの側方ビードをさらに含」むとはいえない。
(b)引用発明の「繊維強化されたエラストマーシール材料からなる表面仕上げシート32」について、引用例(特に(い))には、「最も一般的で、かつしばしば用いられる表面仕上げ材は、アスベストあるいはグラスファイバーを結合して、ニトリル、ネオプレン、あるいはポリアクリルのエラストマーを用いている。」と記載されており、一方、引用発明の「シール材料からなるシールビード44」(第2図)について、引用例(特に(い))には、「前記ビード44を提供するために用いられる塗付材料は、接着剤となるダウコーニング社の2つの部分からなるシリコンエラストマー96-083のような、耐高温性のシリコンゴムであってもよい。この2つの部分が混合され、硬化剤が添加されると、それは熱で硬化する。使用することのできる他の適当なシール材料としては、ポリウレタン、エポキシ、硬化可能な液体エラストマー、各種のラテックスがある。」と記載されている。すなわち、表面仕上げシートとシールビードの両者に共通する具体的なエラストマー材料は記載されておらず、同じエラストマー材料を用いるという示唆も特にない。そうすると、そもそも、「表面仕上げシート32」、「シールビード68」及び「シールビード66、66」からなるものに共通する材料を想定することはできず、「シールビード68」及び「シールビード66、66」は、「単一のシール層」の「エラストマー材料」であるとは到底いえない。
なお、繊維の含有の有無の点でも異なっている。この差異は、シール性・耐久性等の各部の所要機能に応じた設計であるとも考えられ、繊維の含有の有無の点で同じ構成とすることができる旨の記載も示唆も特にない。
(c)引用発明の「シールビード68」及び「シールビード66、66」はローラー塗布により形成されること、引用例(特に(い))には、「前記シールビード44は、一般的には前記ピークあるいはピークの内の最も高い部分を均等に覆っており、」と記載されており、これは、引用例の図2、3からも概ね看取し得ること、以上からすると、「シールビード44」等は、表面仕上げシート32の突出ピーク46、62、64上の略一面にわたって、略連続した表面をなすように形成されることもあり得る。そうすると、「シールビード44」等が、突出ピーク46、62、64から「立上がっている」という形状を明確に形成するとは、必ずしもいえない。
(d)本願明細書の【0003】や図3にも示されているように、ガスケットにおいて、単に、芯部材に施されているエラストマー層にビードを形成するという事項が既に知られているとしても、引用発明において、例えば、ローラー塗布により形成することに代えて上記事項を採用して、上記相違点に係る本願発明の事項に想到することが容易になし得たとはいえない。すなわち、引用例(特に(あ))をみると、引用発明のローラー塗布は、従来のシルクスクリーニング法に比べて、「かなりの安い経費で、効果的なシール付加物を作り出す」ためである。そうすると、もっと安価な製法があれば、採用し得るとする余地もあろうが、エラストマー層にビードを形成するという上記事項がローラー塗布による製法より安価であるとする根拠は、引用例をみても特に見い出せない。
そして、引用例では一貫してローラー塗布に係る事項の説明に終始しており、それ以外の上記のような事項は全く想定されていないと認められること、上記(b)で述べたように、引用例には、引用発明の「表面仕上げシート32」と「シールビード68」及び「シールビード66、66」とに共通する具体的なエラストマー材料についての記載も示唆もなく、そもそも、これらに共通する材料を想定することもできないことを合わせ考えると、引用発明から上記相違点に係る本願発明の事項に想到することが容易になし得たとはいえない。
(3-2)効果について
引用発明から上記相違点に係る本願発明の事項に想到することが容易になし得たとはいえない以上、本願発明の効果は、引用発明に基づいて当業者が予測し得たとはいえない。
(4)むすび
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

本願発明(請求項1に係る発明)に対する理由3について上記のとおりであるから、理由2(特許法第29条第1項第3号)が妥当でないことは明らかである。
本願の他の請求項に係る発明は本願発明にさらに他の構成要件を付加した発明であるから、上記と同様の理由により、本願の他の請求項に係る発明のいずれについても、理由2、3は妥当でない。
また、本願発明について上記のとおりであるから、理由1(特許法第37条)が適当でないことは明らかである。

第5 結語
本願の請求項1?16に係る発明について以上のとおりであるから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-02-26 
出願番号 特願2009-536473(P2009-536473)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F16J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 立花 啓  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 島田 信一
森川 元嗣
発明の名称 静的ガスケット  
代理人 佐々木 眞人  
代理人 堀井 豊  
代理人 仲村 義平  
代理人 荒川 伸夫  
代理人 森田 俊雄  
代理人 深見 久郎  

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