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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11D
管理番号 1285200
審判番号 不服2010-13807  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-23 
確定日 2014-02-26 
事件の表示 特願2006-551559「布地の洗濯又は処置の用途に用いるための組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 8月18日国際公開、WO2005/075619、平成19年 8月 9日国内公表、特表2007-522290〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2005年2月1日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2004年2月3日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成21年7月9日付けで拒絶理由が通知され、同年10月14日に意見書及び手続補正書が提出されたところ、平成22年2月18日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年6月23日に審判請求がされるとともに、手続補正書が提出され、当審において、平成23年9月30日付けで審尋がされ、平成24年4月4日に回答書が提出され、同年10月5日付けで拒絶理由が通知され、平成25年4月9日に意見書が提出されたものである。

第2 本願の特許請求の範囲に記載された発明
本願の特許請求の範囲の請求項1?19に記載された発明は、平成22年6月23日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?19に記載された事項により特定されたとおりのものであり、そのうち、請求項1に記載された発明は次のとおりのものである(以下、特許請求の範囲の請求項1に記載された発明を「本願発明」という。また、本願の明細書を「本願明細書」という。)

「布地の洗濯又は処置の用途に用いるための補助組成物が、共同微粒子混合体を含み、該共同微粒子混合体が、
i)粘土と、
ii)シリコーンからなる疎水性成分と、
iii)カチオン性グアーゴムからなるカチオン性帯電ポリマー布地柔軟増強成分とを含み、
ここで、該補助組成物が、凝集補助剤と1つ以上の補助剤成分とをさらに含み、
前記共同微粒子混合体が、前記シリコーンからなる疎水性成分を、前記粘度及び前記カチオン性帯電ポリマー布地柔軟増強成分と接触させて混合物を形成し、次いで、前記混合物を高剪断混合器及び/又は低剪断混合器で凝集させる、ことを含む方法によって得られるものである、補助組成物。」

(当審注:なお、「前記粘度」は、「前記粘土」の明らかな誤記と認められるので、以下においては、「前記粘土」として判断する。)

第3 原査定の理由及び当審において通知した拒絶理由
(1)原査定の理由
平成22年2月18日付け拒絶査定は、「この出願については、平成21年7月9日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって、拒絶をすべきものです。」という理由によるものであって、平成21年7月9日付け拒絶理由通知書からみて、次の理由によるものである。

「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
<理由1について>
・請求項1?22
・引用文献等1?4

引 用 文 献 等 一 覧
1.国際公開第92/07927号
2.特開平09-111662号公報
3.特開昭54-106696号公報
4.特表平11-504978号公報」

(2)当審において通知した拒絶理由
当審において平成24年10月5日付けで通知した拒絶理由は、以下の理由によるものである。
「本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本願は特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。
…本願の特許請求の範囲の請求項1及びそれを引用する請求項2?19に記載された発明について、本願明細書はサポート要件を満たすものとはいえない。
[付記]
平成22年2月18日付け拒絶査定の理由の適否については、本拒絶理由に対する請求人の対応の内容を踏まえて検討されるものであり、この拒絶理由通知は、拒絶査定の理由の解消を意味するものではない。」

第4 当審の判断
当審は、本願発明は、平成22年2月18日付け拒絶査定における理由(特許法第29条第2項)及び平成24年10月5日付けで当審において通知した拒絶理由における理由(特許法第36条第6項第1号)によって、拒絶されるべきものと判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1.特許法第36条第6項第1号について
(1)明細書のサポート要件について
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(平成17年(行ケ)第10042号判決参照)。そこで、以下、この観点に立って、この出願の特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かについて検討する。

(2)本願発明
本願発明は、前記「第2」に記載したとおりのものである。

(3)本願発明の課題
本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0008】の「…従って、布地洗浄性能に大きな悪影響を与えることなく、洗濯洗剤組成物の布地柔軟化性能を改善する必要性が依然として存在する。」との記載等からみて、本願発明の課題は、次のとおりのものと認められる。
「布地洗浄性能に大きな悪影響を与えることなく、洗濯洗剤組成物の布地柔軟化性能を改善する」こと。

(4)発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明の課題の解決に関連して、次のとおりの記載がある。

a「【0009】
本発明は、上述の問題を、布地の洗濯又は処置の用途に用いるための、共同微粒子混合体を含む補助組成物であり、該共同微粒子混合体が、(i)粘土と、(ii)疎水性成分と、(iii)帯電ポリマー布地柔軟増強成分とを含み、該補助組成物が、凝集補助剤と所望により1つ以上の補助剤成分とをさらに含む、補助組成物の付与により克服するものである。」

b「【0010】
(粘土)
典型的には、粘土はスメクタイト粘土などの布地柔軟化粘土である。…」
c「【0015】
好ましい粘土は、少なくとも70meq/100gのカチオン性交換容量を有する。…」

d「【0018】
(疎水性成分)
典型的には、疎水性成分はシリコーンであり、より好ましくは布地柔軟化シリコーンである。」

e「【0021】
シリコーンは、好ましくは、2つ以上の異なる種類のシリコーンのシリコーン混合物でもよい。好ましいシリコーン混合物は、高粘度シリコーンと低粘度シリコーン、官能化と非官能化シリコーン、又は非帯電シリコーンポリマーとカチオン性シリコーンポリマーとを含むものである。」

f「【0026】
(帯電ポリマー布地柔軟増強成分)
帯電ポリマー布地柔軟増強成分は、好ましくはカチオン性である。好ましくは、帯電ポリマー布地柔軟増強成分は、カチオン性グアーゴムである。」

g「【0032】
帯電ポリマー布地柔軟増強成分は好ましくは、1%?70%、好ましくは10%超?70%、さらに好ましくは10%?60%のカチオン平均置換度を有する。帯電ポリマー布地柔軟増強成分がカチオン性グアーゴムの場合、好ましくはそのカチオン置換度は10%?15%である。…
【0033】
帯電ポリマー布地柔軟増強成分は、好ましくは0.2meq/g?1.5meq/gの電荷密度を有する。…」

h「【0038】
(共同微粒子混合体)
共同微粒子混合体は、粘土、疎水性成分及び帯電ポリマー布地柔軟増強成分を含む。所望により、共同微粒子混合体は1つ以上の補助剤成分を含む。
【0039】
共同微粒子混合体は好ましくは、疎水性成分を好ましくは液体又は液化可能な形態で、及び最も好ましくは乳化した形態で、粘土及び帯電ポリマー布地柔軟増強成分と接触させて混合物を形成する工程、並びに次に該混合物を高剪断混合器及び/又は低剪断混合物(low shear mixture)で凝集させ、所望によりその後乾燥工程を経て、共同微粒子混合体を形成させる工程を含む方法によって得ることができ、あるいは得られる。共同微粒子混合体は顆粒、フレーク、押出品、麺状、針状又は凝集体であり得るが、好ましくは、該共同微粒子混合体は凝集体の形態である。」

i「【0047】
組成物は、洗濯プロセス中に布地の洗浄と柔軟化との両方を行うことができる。典型的には、組成物は、自動洗濯機で使用するように配合されるが、手による洗浄用にも配合されることができる。」

j「【0049】
(実施例1:シリコーンエマルションの調製方法)
100Pa・s(100,000cp)の粘度を有するシリコーン(ポリジメチルシロキサン)81.9gをビーカーに加える。8.2gの30重量%濃度のC_(11)?C_(13)アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)水溶液を次にビーカーに加え、シリコーン、LAS、及び水を平ナイフを使って、手で2分間十分に攪拌し、エマルションを調製する。
【0050】
(実施例2:粘土/シリコーン凝集体の製造方法)
ベントナイト粘土601.2gとカチオン性グアーゴム7.7gをブラウン(Braun)ミキサーに加える。実施例1のエマルション90.1gをブラウン(Braun)ミキサーに加え、該ミキサー内の全ての成分を10秒間、115rad/s(1,100rpm)(速度設定8)で攪拌する。ブラウン(Braun)ミキサーの速度を次に209rad/s(2,000rpm)(速度設定14)に上げ、水50gをブラウンミキサーにゆっくりと加える。 ミキサーを209rad/s(2,000rpm)で30秒間維持し、湿った凝集体を形成する。湿った凝集体を乾燥させた流動床に移し、4分間137℃で乾燥させ、乾燥した凝集体を形成する。乾燥した凝集体をふるいにかけて、粒径が1,400マイクロメートルを超える凝集体と粒径が250マイクロメートル未満の凝集体とを除去する。
【0051】
(実施例3:粘土/シリコーン凝集体)
本発明における使用に適している粘土/シリコーン凝集体は、80.3重量%のベントナイト粘土、1.0重量%のカチオン性グアーゴム、10.9重量%のシリコーン(ポリジメチルシロキサン)、0.3重量%のC_(11)?C_(13)アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)、及び7.5重量%の水を含む。
【0052】
(実施例4:粘土/シリコーン凝集体)
本発明における使用に適している粘土/シリコーン凝集体は、72.8重量%のベントナイト粘土、0.7重量%のカチオン性グアーゴム、15.9重量%のシリコーン(ポリジメチルシロキサン)、0.5重量%のC_(11)?C_(13)アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)、及び10.1重量%の水を含む。
【0053】
(実施例5:洗濯洗剤組成物)
本発明における使用に適している洗濯洗剤組成物は、上記実施例3又は実施例4のいずれか一方の15重量%の粘土/シリコーン凝集体、300,000ダルトンの重量平均分子量を有する0.2重量%のポリエチレンオキシド、11重量%のC_(11)?_(13)直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩洗浄性界面活性剤、0.3重量%のC_(12)?_(14)アルキル硫酸塩洗浄性界面活性剤、1重量%のC_(12)?C_(14)アルキル、ジメチル、エトキシ四級アンモニウム洗浄性界面活性剤、4重量%の結晶性層状ケイ酸ナトリウム、12重量%のゼオライトA、2.5重量%のクエン酸、20重量%の炭酸ナトリウム、0.1重量%のケイ酸ナトリウム、0.8重量%の疎水変性セルロース、0.2重量%のプロテアーゼ、0.1重量%のアミラーゼ、1.5重量%のテトラアセチルエチレンジアミン(tetraacetlyethylenediamine)、6.5重量%の過炭酸塩、ナトリウム塩の形態の0.1重量%のエチレンジアミン-N’N-二コハク酸,(S,S)異性体、1.2重量%の1,1-ヒドロキシエタンジホスホン酸、0.1重量%の硫酸マグネシウム、0.7重量%の香料、18重量%の硫酸塩、4.7重量%のその他/水を含む。
【0054】
(実施例6:洗濯洗剤組成物)
本発明における使用に適している洗濯洗剤組成物は、上記実施例3又は実施例4のいずれか一方の12.5重量%の粘土/シリコーン凝集体、300,000ダルトンの重量平均分子量を有する0.3重量%のポリエチレンオキシド、11重量%のC_(11)?_(13)直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩洗浄性界面活性剤、2.5重量%のC_(12)?C_(14)アルキル、ジメチル、エトキシ四級アンモニウム洗浄性界面活性剤、4重量%の結晶性層状ケイ酸ナトリウム、12重量%のゼオライトA、20重量%の炭酸ナトリウム、1.5重量%のテトラアセチルエチレンジアミン(tetraacetlyethylenediamine)、6.5重量%の過炭酸塩、1.0重量%の香料、18重量%の硫酸塩、10.7重量%のその他/水を含む。
【0055】
(実施例7:洗濯洗剤組成物)
本発明における使用に適している洗濯洗剤組成物は、上記実施例3又は実施例4のいずれか一方の12.5重量%の粘土/シリコーン凝集体、6.0重量%の粘土、300,000ダルトンの重量平均分子量を有する0.3重量%のポリエチレンオキシド、10重量%のC_(11)?_(13)直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩洗浄性界面活性剤、平均7モルのエチレンオキシドで凝結された1重量%のアルキル硫酸塩洗浄性界面活性剤、4重量%の結晶性層状ケイ酸ナトリウム、18重量%のゼオライトA、20重量%の炭酸ナトリウム、1.5重量%のテトラアセチルエチレンジアミン(tetraacetlyethylenediamine)、6.5重量%の過炭酸塩、1.0重量%の香料、15重量%の硫酸塩、4.2重量%のその他/水を含む。」

(5)検討
本願明細書の発明の詳細な説明には、(i)粘土と、(ii)疎水性成分と、(iii)帯電ポリマー布地柔軟増強成分とを含む共同微粒子混合体を含み、凝集補助剤と所望により1つ以上の補助剤成分とをさらに含む、補助組成物によって本願発明の課題が解決されること(摘記a)、(iii)帯電ポリマー布地柔軟増強成分が好ましくはカチオン性グアーゴムであること(摘記f、g)及び当該共同微粒子混合体が、疎水性成分であるシリコーン(摘記d)を最も好ましくは乳化した形態で、粘土及び帯電ポリマー布地柔軟増強成分と接触させて混合物を形成する工程、並びに次に該混合物を高剪断混合器及び/又は低剪断混合物(low shear mixture)で凝集させ、所望によりその後乾燥工程を経て、得られること(摘記h)が記載されているから、これらの事項を総合すると、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願特許請求の範囲の請求項1に記載された発明特定事項を備えた補助剤組成物については、記載されていると認められる。
そこで、本願明細書の発明の詳細な説明に、そのような本願発明によって、「布地洗浄性能に大きな悪影響を与えることなく、洗濯洗剤組成物の布地柔軟化性能を改善する」という本願発明の課題が解決できることについて、当業者が認識できるように記載されているか否か検討する。
本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明の補助剤組成物を含む組成物が洗濯プロセス中に布地の洗浄と柔軟化との両方を行うことができる(摘記i)との記述及び粘土、シリコーン、カチオン性グアーゴムが布地柔軟化効果を有する(摘記b、d、f)との記述はされてはいるものの、実施例はいずれも本願発明の補助剤組成物ないしそれを含有する洗濯洗剤組成物の処方例を開示するに止まるもの(摘記j)であって、本願発明の補助剤組成物を使用した場合の布地の洗浄性、柔軟性がどの程度であるかを何ら開示しないものである。
そして、粘土、シリコーン、グアーガム等の成分に布地を柔軟化する効果があるとしても(摘記b、d、f)、それらの成分としてはカチオン性の成分が使用され得るものであるところ(摘記c、e、g)、一般に、洗浄剤組成物において使用される代表的な洗浄成分としてアニオン性の成分(例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩等)があり、カチオン性の成分とアニオン性の成分とを併用すると各々の成分の性能(例えば、カチオン性の成分による柔軟化性能及びアニオン性の成分による洗浄性能。)が発揮されない可能性があることは周知の技術的事項と認められること(例えば、「洗浄と洗剤」辻薦著(地人書館)1992年10月1日発行の第45頁の「2.1界面活性剤 2)陽イオン(カチオン)系活性剤」の項には、「…この活性剤は一般に湿潤,浸透,乳化,分散,起泡などの性能は強いので,この特性を生かしての用途は広い.また,本来の界面活性力よりも親油性原子団がカチオンに帯電している性質を利用しての用途も多い.洗浄力は強くなく,また陰イオン系の界面活性剤と不溶性の複塩を生成して界面活性力を失うため,これと併用できない…」と、カチオン性界面活性剤がアニオン性界面活性剤と併用すると複塩を形成して、界面活性力を失うことが記載されている。)を考慮すると、本願発明の補助剤組成物等による布地の洗浄性、柔軟性について、具体的な実験データ等による裏付けのされていない本願明細書の発明の詳細な説明の記載からは、当業者は、本願発明によって、布地洗浄性能に大きな悪影響を与えることなく、洗濯洗剤組成物の布地柔軟化性能の改善がされるものと、技術的な合理性をもって認識できるとは認められない。
そして、シリコーンからなる疎水性成分を、粘土と、カチオン性グアーゴムからなるカチオン性帯電ポリマー布地柔軟増強成分とを、接触させて混合物を形成し、次いで、前記混合物を高剪断混合器及び/又は低剪断混合器で凝集させることによって得られた共同微粒子混合体、凝集補助剤及び1つ以上の補助剤成分を含む補助組成物によれば、布地洗浄性能に大きな悪影響を与えることなく布地柔軟化性能が改善されるという技術常識が存在するとも認められないから、技術常識を考慮しても、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、本願発明によって、布地洗浄性能に大きな悪影響を与えることなく、洗濯洗剤組成物の布地柔軟化性能の改善がされるという本願発明の課題の解決が図られると認識できるものとは認められない。

(6)請求人の主張
ア.回答書において提出した実験データについて
審判請求人は、平成25年4月4日付け回答書において、次の実験データを提出して、本願発明によって、布地洗浄性能に大きな悪影響を与えることなく布地柔軟化性能が改善された洗濯洗剤組成物が提供されるものであることを主張していると認められる。








そこで、斯かる主張について検討する。
提出された実験データは、表1の洗濯洗剤組成物(表3の「ベース組成物」に相当する。)と、表2の各組成物(各々、表3の「参照柔軟剤」、「柔軟剤C」、「共同微粒子混合体A」、「共同微粒子混合体B」に相当する。)とを、表3に記載された割合で混合して得られた各組成物を、所定のコットンタオルに適用した場合の柔軟性の評価を表4に示したものと認められる(表3の「参照柔軟剤」を基準として、それに対する「柔軟剤C」、「共同微粒子混合体A」、「共同微粒子混合体B」の柔軟性の評価結果が、表4に示されており、正の数値は、参照組成物を用いた場合よりも柔軟性が優れることを示している。)。
しかしながら、当該実験データは、本願発明の補助剤組成物の試験サンプルの柔軟性についての性能を示すものではあるとしても、布地の洗浄性能については何ら示されていないから、斯かる実験データをもって、本願発明によって布地洗浄性能に大きな悪影響を与えることなく布地柔軟化性能が改善された洗濯洗剤組成物が提供されることを当業者が確認できるものとは認めらない。
よって、審判請求人の主張を採用することはできない。

イ.平成25年4月9日付け意見書における主張について
請求人は、平成25年4月9日付け意見書において、前記回答書において提出した実験データに関連して、
「本願発明による補助組成物は、完全に配合された洗濯洗剤組成物の一部を形成するか、又は、完全に配合された洗濯洗剤組成物に追加するか若しくは併用して用いられるものです(段落[0040])。すなわち、補助組成物自体が布地洗浄性能を備えているのではなく、布地洗浄性能を有する通常の洗濯洗剤組成物に添加されたり併用して用いることにより、洗濯洗剤組成物の布地洗浄性能を損なうことなく、布地柔軟化性能を付与できるものです。そして、上記のような効果を有していることを明確にするため、平成24年4月4日付け回答書において追加実験結果を提出しました。この追加実験結果においては、洗濯洗剤組成物(表1の組成)に、補助組成物(表2の組成)を添加した際の柔軟化効果が明らかにされております。
したがって、この追加実験結果において、洗濯洗剤組成物によって奏される布地洗浄効果が明らかにされていないことをもって、本願発明による補助組成物の効果が、発明の詳細な説明の記載に技術的な裏付けをもって開示されているものとは認められないとする認定は当たらないと出願人は考えます。」、
「しかしながら、出願人は、本願発明による補助組成物が、洗濯洗剤組成物自体の布地洗浄性能に大きな影響を与えることがないという効果を明らかにする用意があり、そのための追加実験を現在行っております。実験結果が出揃うまでに約1ヶ月の期間を要する予定です。追加実験が終了次第その結果を上申致しますので、今しばらく時間的猶予を頂戴致したく、何卒よろしくお願い申し上げます。」
と主張していると認められる。
そこで、これらの主張について検討する。
まず、前者の主張については、前記(5)にも記載したように、粘土、シリコーンからなる疎水性成分、カチオン性グアーガムからなるカチオン性帯電ポリマー布地柔軟増強成分に布地を柔軟化する効果があるとしても、それらの成分としてはカチオン性の成分が使用され得るものであるところ、一般に、洗浄剤組成物において使用される代表的な洗浄成分としてアニオン性の成分があり、カチオン性の成分とアニオン性の成分とを併用すると各々の成分の性能(例えば、カチオン性の成分による柔軟化性能及びアニオン性の成分による洗浄性能。)が発揮されない可能性があることは周知の技術的事項と認められることを考慮すると、柔軟化効果についてのみ記載した当該実験データからは、やはり、当業者は、本願発明によって、布地洗浄性能に大きな悪影響を与えることなく、洗濯洗剤組成物の布地柔軟化性能の改善がされるものと、技術的な合理性をもって認識できるとは認められない。
また、後者の主張については、請求人から追加実験の実験結果は何ら提出されていないため、本願発明のサポート要件についての判断を左右するとはいえないものである(なお、当審から請求人に対して、複数回の電話による確認をし、提出までの猶予期間を複数回設定したが、本件審決の時点において追加実験の実験結果は何ら提出されていない。)。

(7)特許法第36条第6項第1号についてのむすび
よって、本願特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものとはいえない。

2.特許法第29条第2項について
(1)本願発明
本願発明は、前記「第2」に記載したとおりのものであり、再掲すると次のとおりのものである。
「布地の洗濯又は処置の用途に用いるための補助組成物が、共同微粒子混合体を含み、該共同微粒子混合体が、
i)粘土と、
ii)シリコーンからなる疎水性成分と、
iii)カチオン性グアーゴムからなるカチオン性帯電ポリマー布地柔軟増強成分とを含み、
ここで、該補助組成物が、凝集補助剤と1つ以上の補助剤成分とをさらに含み、
前記共同微粒子混合体が、前記シリコーンからなる疎水性成分を、前記粘土及び前記カチオン性帯電ポリマー布地柔軟増強成分と接触させて混合物を形成し、次いで、前記混合物を高剪断混合器及び/又は低剪断混合器で凝集させる、ことを含む方法によって得られるものである、補助組成物。」

(2)刊行物及び刊行物に記載された事項
ア.刊行物
刊行物a.国際公開第92/07927(原査定における引用文献1)
刊行物b.特開平9-111662号公報(原査定における引用文献2)
刊行物c.特開昭54-106696号公報(原査定における引用文献3)

イ.刊行物に記載された事項
本願の優先日(2004年2月3日)前に頒布されたことが明らかな刊行物a?cには、次の事項が記載されている(なお、刊行物aについては、記載された事項については、当審による訳を付して示す。)。

(ア)刊行物a
a1「The present invention relates to fabric treatment compositions. In particular it relates to fabric treatment compositions comprising softening clays and softening polysiloxanes and flocculating agents.」
(本発明は、繊維処理用組成物に関する。特に、本発明は、柔軟化する粘土と柔軟化するポリシロキサンと凝集剤を含有する繊維処理用組成物に関する。第1頁第3?6行)

a2「Further it is an objective to provide softening-through-the-wash detergent compositions comprising such fabric treatment compositions, preferably granular detergent compositions.」
(さらに、そのような繊維処理用組成物を含有する、洗浄を通した柔軟化を行う洗浄剤組成物、好ましくは、粒子状洗浄剤組成物を提供することも(本発明の)目的である。第3頁第4?7行)

a3「Moreover, the fabric treatment compositions herein can contain, in addition to ingredients already mentioned, various other optional ingredients typically used in commercial products to provide aesthetic or additional product performance benefits.…」
(さらに、本発明の繊維処理用組成物は、既述の成分に加えて、典型的には美的ないし付加的な製品性能の利益を提供するために商業製品において用いられる様々な他の任意成分を含むことができる。第12頁第18?22行)

a4「To provide particulate compositions, the compounds of said fabric treatment composition are preferably aggromerated. The typical agglomerate size useful in the present invention is from 0.2 to 1.2 millimeter on average, with individual agglomerates ranging from 0.05 mm to 2.5 mm.」
(粒子状組成物を提供するために、既述の繊維処理用組成物の混合物は好ましくは凝集化されている。本発明で有用な典型的な凝集物の大きさは平均0.2?1.2mmであり、0.05?2.5mmの範囲の個々の凝集粒子からなる。第16頁第6?11行)

a5「Also polymeric soil release agents are useful in the detergent compositions of the present invention. They include cellulosic delivatives such as hydroxyether cellulosic polymers, copolymeric blocks of ethylene terphthalate and polyethylene oxide or polypropylene oxide terephthalate, cationic guar gums, and the like.」
(また、高分子汚れ分散剤は、本発明の洗剤組成物において有用である。それらは、ヒドロキシエーテルセルロースポリマー、エチレンテレフタレートとポリエチレンオキサイドテレフタレートないしポリプロピレンオキサイドテレフタレートの共重合ブロック体、カチオン性グアーゴム、及びそれらと同種のものなどを包含する。第22頁第20?25行)

a6「Example I
For compositions A,B,A'B' the following was prepared: 500g of smectic clay having a cation exchange capacity of 70-80meq/100g was mixed with 50g polysiloxane(10% of clay). The polysiloxane was of the general formula with R being methyl, R' being a strait propyl, q being 329, m being 21, n being 1 and y being a polyether of 12 ethyl oxides capped with acetic acid. Both compounds were intimately mixes and agglomerated by using a Braun^(R) multipractic-electronic-de-luxe mixer. The agglomeration aid was water and the agglomerates were sieved to a particle size from 0.15 to 0.85 mm. A reference without the siloxane was also prepared in the same manner.

Composition A was prepared by dry mixing of the clay/siloxane granules with the detergent granules of composition I, according to Table I, such that the resulting softening-through-the-wash detergent containsed 10.5 % of the smectite clay. As a reference composition B was prepared by dry mixing the clay granules with the same detergent granules of composition I, Table I, such that the resulting STW detergent also containsed 10.5 % of the smectite clay. Further compositions A'B' respectively but using detergent composition II of Table I which contains clay flocculating agent.

To facilitate a softness comparison of A,B,A',B' the following test prosedure was used:
3.5 kg of clean fabric laundry loads are washed in an automatic drum washing machine Miele^(R) 423 at 60℃ for 1.5 hours. The hardness of the water was 3.0mmol of Ca^(2+) and Mg^(2+) per liter and the composition concentration was 1% in the wash liquid. For softness evaluation swatches of terry towel softness tracers were added. The softness tracers were line dried prior to assessment of softness. Comparative softness assessment was done by expert judges using a scale of 0 to 4 panel-score-units (PSU). In this scale 0 is given for no difference and 4 is given for maximum difference. Softness was assessed after one and after four wash cycles.

Softness evaluation results of compositions A,B,A',B'



Taking result 1 there is no additive softening effect realized by adding siloxane to a clay-containing STW detergent. The effect of the invention is demonstrated in result 2 where the combination of the clay, flocculating agent and siloxane shows surprisingly clear softening superiority over prior art composition containing clay and flocculating agent.



(例1
組成物A,B,A′,B′のために、以下の調製がされた。
70-80meq/100gのカチオン交換能を有する500gのスメクタイト粘土が50gのポリシロキサン(粘土の10%)と混合された。ポリシロキサンは、Rがメチル、R′が直鎖プロピル、qが329、mが21,nが1、yが酢酸でキャップされた12個のエチレンオキサイドからなるポリエステルである(前出の)式Iのものである。両成分は、ブラウン多用途電気式デラックス混合機を使用して、緊密に混合し凝集させた。凝集助剤は水であり、凝集物は粒径0.15?0.85mmにふるい分けされた。シロキサンを含有しない対照例も同様に同じ方法で調整された。

組成物Aは、粘土/シロキサン粒状物と、テーブルIによる組成物Iの洗浄剤粒状物とを乾式混合することによって調製され、10.5%のスメクタイト粘土を含有させた、洗浄を通した柔軟化を行う洗浄剤組成物となるようにされた。同様に、粘土粒状物と、同じテーブルIによる組成物Iの洗浄剤粒状物とを乾式混合することによって対照例の組成物Bが調製され、10.5%のスメクタイト粘土を含有させた、洗浄を通した柔軟化を行う(STW)洗浄剤組成物となるようにされた。さらに、組成物A′,B′が、各々、
テーブルIの粘土凝集剤を含む洗浄剤組成物IIを使用したが、組成物A,Bと同様の方法で調製された。

A,B,A′,B′の柔軟性の比較を容易にするために、以下の試験手順を用いた。
3.5kgのクリーンな繊維洗濯物を自動ドラム式洗濯機ミール423中で、60℃で1.5時間洗浄した。水の硬度は、1リットル当たりCa^(2+)、Mg^(2+)3.0mmolであり、組成物の濃度は、洗浄液中で1%であった。 柔軟性の評価のために、タオル地の柔軟性調査物のサンプルが加えられた。その柔軟性調査物は、柔軟性の評価に先立ち干して乾かされた。比較柔軟性評価は、専門の判定者によって、スケール0?4のパネルスコアユニット(PSU)を用いて行われた。このスケールで、0は相違なし、4は最大の相違である。柔軟性は、1及び4洗浄サイクル後に評価された。

組成物A,B,A′,B′の柔軟性評価結果。

結果 組成物の比較 1洗浄サイクル 4洗浄サイクル
1. AとB -0.1PSU 0.0PSU
2. A′とB′ 0.6PSU 0.9PSU
結果1から、粘土を含有する洗浄を通した柔軟化を行う(STW)洗浄剤組成物にシロキサンを加えることによって追加的な柔軟化効果はないことがわかる。本発明の効果は、粘土と凝集剤とシロキサンとの組み合わせが、粘土と凝集剤とを含む先行技術の組成物に対して、驚くほど明らかな柔軟性の優位を示している結果2において実証されている。
(Table I の訳は省略する。)
第26頁第1行?第27頁第23行、第30頁)

a7「CLAIMS
1. A fabric treatment composition comprising

a softening clays and
- 0.005%-20% by weight of said softening clay of a clay flocculating agent and
- 0.1-50% by weight of said softening clay of straight or branched, substituted polysiloxane of the general formula

…」
(クレーム
1.以下を含有する繊維処理用組成物。
a.柔軟化粘土と
-該柔軟化粘土の0.005?20重量%の凝集剤と
-該柔軟化粘土の0.1?50重量%の直鎖、分枝鎖の以下の一般式で表される置換ポリシロキサン
(式の掲載は省略する。) …。
第33頁特許請求の範囲請求項1)

a8「CLAIMS…
16. A laundry detergent composition comprising at least one surface active agent characterized in that it also contains from 1% to 50% by weight of said laundry detergent composition of the fabric treatment composition according to any of the previous claims.」
(クレーム

16.少なくとも1つの表面活性剤を含む洗濯洗浄剤組成物であって、前記いずれかの請求項の繊維処理用組成物をも該洗濯洗浄剤組成物の1?50重量%含有する洗濯洗浄剤組成物。
第37頁特許請求の範囲請求項16)

(イ)刊行物b
b1「【特許請求の範囲】
【請求項1】膨潤性粘土鉱物からなる(a) 成分と、下記の(b) 成分とを含有し、(a)成分の含有量が0.1 ?10重量%、(b)成分の含有量が0.01?20重量%であることを特徴とする衣料用処理剤組成物。
(b)成分:下記 (i)? (ix) からなる群より選ばれる1種又は2種以上の水溶性ポリマー及び/又は水性エマルジョン

ポリマー (ii) ;セルロース誘導体
…」

b2「【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】衣料及び繊維製品は、着用・使用及び洗濯・乾燥を繰り返すうちに繊維処理剤が洗い落とされたり、本来保有している柔らかさ・嵩高さ・しっかり感等の風合いを損ない好ましからざる感触へと変化していく。…従来より、このような現象を防止するためと、よりよい風合いを付与するために、繊維に柔軟性及び帯電防止性を付与する柔軟仕上げ材・帯電防止剤が多用されている。」

b3「【0084】
【発明の効果】本発明によれば、衣類に適度な風合い・肌触り感を与える衣料用処理剤組成物を提供でき、特に該衣料用処理剤組成物と上記の特定の容器とを組み合わせて本発明の衣料用処理物品とした場合には、従来提供され得なかった顕著な効果を奏する衣料用処理物品が提供されることとなり、さらに本発明の衣料用処理剤組成物を用いることにより、衣類に適度な風合い・肌触り感を与えることの可能な衣料の処理方法を提供することができる。」

b4「【0085】
【実施例】以下、実施例にて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1?70及び比較例1?10
(a)成分として、表1に示す膨潤性粘土鉱物、(b)成分として表2?8に示す水溶性ポリマーもしくは水性エマルジョン、(c)成分として表9に示す不溶性シリコーンを配合して表10?12に示す衣料用処理剤組成物を調製した。
【0086】この組成物をトリガー式容器に充填し、衣料用処理物品を調製した。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】



【0095】
【表9】

【0096】
【表10】


【0097】
【表11】


【0099】<性能評価>上記の方法で得られた本発明の衣料用処理物品及び比較物品について以下に示す方法により、風合い、肌ざわりを評価した。
(1) 風合い・肌ざわり
20cm×20cmの木綿ブロード#60からなる試験片を作成し、洗濯機(水容量40?70リットル、回転羽根の回転速度65?90rpm 、回転角度 180?240 °、脱水槽の回転速度 500?720rpm、内径40?55cm)とJIS K3371(衣料用合成洗剤)に規定の洗剤を用い自動洗濯操作(洗濯12分→排水2分→脱水及びスプレー2分→給水3?5分→すすぎ2分→排水2分→脱水及びスプレー2分→遠心脱水3分)を行った。
【0100】この試験片に対し、試験片の乾燥時の重量に対し50%o.w.f.となるよう処理剤組成物を噴霧し、ドリップ乾燥した。即ち、試験片を脱水することなく縦方向が垂直になるように数カ所つかみ、室温で風通しのないところでつるして乾燥した。このように作成した処理試験片を未処理布を対照として、一対比較法により感触テストにより風合いと肌ざわりを評価した。
評価は比較対照物に対し、実施例(本発明品)の方が
+2:非常によい
+1:やや良い
0:どちらとも言えない
-1:ややわるい
-2:非常に悪い
と答えた人数を示す。風合い及び肌ざわりの評価結果を表13?15にそれぞれ示す。
【0101】
【表13】

【0102】
【表14】

…」

(ウ)刊行物c
c1「1.以下の物質を含んで成ることを特徴とする繊維製品調質用組成物。
(a)少くとも16個の炭素原子を有する1個のアルキルまたはアルケニル基か、或いは10乃至22個の炭素原子を有する2個のアルキルまたはアルケニル基を有するカチオン性繊維製品柔軟剤、
(b)(i)カチオン性多糖類ガム

から成る群から選択される0.001乃至0.70重量%の重合体状カチオン性塩、或いはそれらの塩の混合物、ならびに
(c)任意的に、もし、成分(c)が存在するならば…実質的に非水溶性ノニオン性繊維製品調質剤。」(第1?2頁特許請求の範囲の欄)

c2「多糖類ガムのうち、ガラクトマンナンガムであるグアーおよびいなご豆(ローカストビーン)ガムは市場で入手可能であり、これらのものが好ましい。このようにグアーガムは…入手可能である。…カチオン性グアーガムは、本発明による組成物におけるカチオン性重合体の非常に好ましい種類であり、かつ残留アニオン性表面活性剤の除去剤ならびに、たとえ残留アニオン性表面活性剤の僅少若しくは不存在の浴中においてさえ、カチオン性繊維ソフナについて柔軟効果を加えるという両機能を有するものである。」(第7頁左上欄第7行?左下欄第4行)

(3)判断
(ア)刊行物aに記載された発明
刊行物aには、「柔軟化粘土と、該柔軟化粘土の0.005?20重量%の凝集剤と、該柔軟化粘土の0.1?50重量%の特定の一般式で表されるポリシロキサンとを含有する繊維処理用組成物」(摘記a7、1)が記載され、柔軟化粘土としてのスメクタイト粘土に対してポリシロキサンを用いた実施例(摘記a6)が記載されている。
また、刊行物aには、当該繊維処理用組成物が、柔軟化粘土と特定の一般式で表されるポリシロキサンとを含む凝集物を含有する混合物であること(摘記a4、6)、製品性能の利益を提供する他の任意成分を含んでよいこと(摘記a3)、繊維処理用組成物が洗濯の用途で用いられること(摘記a8、6)が記載されている。
以上を総合すると、刊行物aには、次の発明が記載されていると認められる(以下、「引用発明」という。)。

「柔軟化粘土とポリシロキサンを含有する凝集物を含有する混合物を含み、凝集剤と製品性能の利益を提供する他の任意成分を含有する、洗濯の用途で使用される繊維処理用組成物。」

(イ)本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「柔軟化粘土」、「ポリシロキサン」、「凝集物」は、本願発明の「(i)粘土」、「(ii)シリコーンからなる疎水性成分」、「共同微粒子混合体」に相当すると認められるから、引用発明の「柔軟化粘土とポリシロキサンを含有する凝集物を含有し」は、本願発明の「共同微粒子混合体を含み、該共同微粒子混合体が、i)粘土と、ii)シリコーンからなる疎水性成分とを含み」に相当する
引用発明の「凝集剤」、「製品性能の利益を提供する他の任意成分」は、本願発明の「凝集補助剤」、「1つ以上の補助剤成分」に相当すると認められるから、引用発明の「凝集剤と製品性能の利益を提供する他の任意成分を含有する」は、本願発明の「ここで、該補助組成物が、凝集補助剤と1つ以上の補助剤成分とをさらに含み」に相当する。
引用発明の「洗濯の用途で使用される繊維処理用組成物」は、処理される繊維として、布状と解されるタオルが記載されていること(摘記a6)を考慮すると、本願発明の「布地の洗濯又は処置の用途に用いるための補助組成物布」に相当する。

以上を総合すると両者は、
「布地の洗濯又は処置の用途に用いるための補助組成物が、共同微粒子混合体を含み、該共同微粒子混合体が、
i)粘土と、
ii)シリコーンからなる疎水性成分とを含み、
ここで、該補助組成物が、凝集補助剤と1つ以上の補助剤成分とをさらに含む補助組成物。」
の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:本願発明は、共同微粒子混合体が「iii)カチオン性グアーゴムからなるカチオン性帯電ポリマー布地柔軟増強成分」を含むものであるのに対して、引用発明は、共同微粒子混合体に相当する凝集物がそのような成分を含むことを発明特定事項とするものでない点。

相違点2:本願発明は、共同微粒子混合体が「シリコーンからなる疎水性成分を、粘土及びカチオン性帯電ポリマー布地柔軟増強成分と接触させて混合物を形成し、次いで、混合物を高剪断混合器及び/又は低剪断混合器で凝集させる、ことを含む方法によって得られる」ものであるのに対して、引用発明は、共同微粒子混合体に相当する凝集物がそのような方法によって得られるものであることを発明特定事項とするものでない点。

(ウ)検討
i.相違点1
繊維製品に、カチオン性グアーゴム、カチオン性セルロース等のカチオン性物質を用いて、柔軟性を向上させることは公知の技術と認められ(刊行物bについて、摘記b1、3、4参照。なお、刊行物bの衣料の適度な風合いが柔軟性と関連することは、例えば、摘記b2に記載されるように、周知の技術的事項と認められる。また、刊行物cについて、摘記c1、2参照。なお、刊行物cの「カチオン性グアーガム」は「カチオン性グアーゴム」と同義と認められる。)、粘土及びシリコーンからなる疎水性成分に相当する構成成分とカチオン性物質とを併用する例も刊行物b(摘記b4の【表11】に記載された実施例51、52、59、60、67等参照。)に記載されるように公知であることを考慮すると、i)粘土及びii)シリコーンからなる疎水性成分を構成成分として含む引用発明の共同微粒子混合体について、さらに柔軟性の向上を期待して、カチオン性物質としてカチオン性グアーゴムを含むものとすることは、当業者が刊行物b、cに記載された発明に基づいて容易に想到し得たことと認められる。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明の記載をみても、実施例(カチオン性グアーゴムを使用した例)は処方が記載されるのみで、柔軟性、洗浄性等の実験データについて開示しないものであり、また、実施例の他の記載にはカチオン性帯電ポリマー布地増強成分としては、カチオン性グアーゴム以外のカチオン性物質も例示されていること(本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0026】?【0030】)を考慮すると、本願発明において、カチオン性帯電ポリマー布地増強成分として、特に、カチオン性グアーゴムを採用したことによって、顕著な効果が奏されるものとは認められない。
そうすると、引用発明において、共同微粒子混合体を「iii)カチオン性グアーゴムからなるカチオン性帯電ポリマー布地柔軟増強成分」を含むものとすることは、当業者が刊行物b、cに記載された発明に基づいて容易になし得たことと認められる。

また、刊行物aに高分子汚れ分散剤としてではあるが、カチオン性グアーゴムが有用であることが記載されていること(摘記a5)及びカチオン性グアーゴム等のカチオン性物質が繊維製品の柔軟性を向上させる作用を有することは周知の技術と認められること(例えば、摘記c1、2参照。また、例えば、「洗浄の基礎知識」大木建司・八木和久著(産業図書株式会社)平成6年5月30日発行の第86頁には、「柔軟仕上げ…柔軟仕上げ剤の主成分は陽イオン性の界面活性剤であり…衣類への処理によってこれらの界面活性剤が繊維の表面に親油基を外側に向けて吸着する。このため、繊維の表面は一種の油による保護膜ができたのと同じ状態になって繊維同士の滑りがよくなり、布全体がしなやかで、柔らかくなって風合いが回復する。…」と、カチオン性物質である陽イオン性の界面活性剤が繊維製品等の柔軟性、風合いを向上させることが記載されている。)を考慮すると、引用発明において、カチオン性グアーゴムを用いたうえで、カチオン性物質に繊維製品の柔軟性を向上させる作用があるという周知技術を考慮して、カチオン性グアーゴムを「カチオン性帯電ポリマー布地柔軟増強成分」としても認識することは、当業者が刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易になし得たことと認められる。よって、この点からも、引用発明において、共同微粒子混合体を「iii)カチオン性グアーゴムからなるカチオン性帯電ポリマー布地柔軟増強成分」を含むものとすることは、当業者が刊行物a、cに記載された発明、周知技術に基づいて容易になし得たことと認められる。

ii.相違点2
刊行物aには、摘記a6の「70-80meq/100gのカチオン交換能を有する500gのスメクタイト粘土が50gのポリシロキサン(粘土の10%)と混合された。…両成分は、ブラウン多用途電気式デラックス混合機を使用して、緊密に混合し凝集させた。…凝集物は粒径0.15?0.85mmにふるい分けされた。」との記載等からみて、本願発明の共同微粒子混合体に相当する凝集体が「スメクタイト粘土とシリコーンからなる疎水性成分に相当するポリシロキサンとを混合し、次いで、ブラウン多用途電気式デラックス混合機を使用して緊密に混合し凝集させる」方法によって得られたものであることが開示されていると認められる。
そして、斯かる刊行物aに記載された方法について検討すると、「スメクタイト粘土とシリコーンからなる疎水性成分に相当するポリシロキサンとを混合」することは、それによって両成分が相互に接触することは明らかであるから、「シリコーンからなる疎水性成分を粘土と接触させて混合物を形成」することに相当する。また、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例2にブラウンミキサーによる混合処理を行うことが記載されていること(「1.(4)」の摘記j参照。)からみて、ブラウンミキサーを用いて混合処理することは「混合物を高剪断混合器及び/又は低剪断混合器で凝集させる」ことにあたると認められるから、ブラウンミキサーの一種類と認められる「ブラウン多用途電気式デラックス混合機」を使用して緊密に混合し凝集させることは「混合物を高剪断混合器及び/又は低剪断混合器で凝集させること」に相当する。
よって、刊行物aに開示された「スメクタイト粘土とシリコーンからなる疎水性成分に相当するポリシロキサンとを混合し、次いで、ブラウン多用途電気式デラックス混合機を使用して緊密に混合し凝集させる」方法は、「シリコーンからなる疎水性成分を、粘土と接触させて混合物を形成し、次いで、混合物を高剪断混合器及び/又は低剪断混合器で凝集させる、ことを含む方法」に相当すると認められる。
そして、刊行物aに記載された斯かる方法を、刊行物aに記載された発明である引用発明において用いることは、当業者が容易に想到し得たことと認められる。

また、前記i.に記載したとおり、粘土及びシリコーンからなる疎水性成分を構成成分として含む引用発明の共同微粒子混合体を、カチオン性帯電ポリマー布地柔軟増強成分であるカチオン性グアーゴムを含むものとすることは、当業者が刊行物b、cに記載された発明に基づいて容易になし得たことであり、それによって、シリコーンからなる疎水性成分がカチオン性帯電ポリマー布地柔軟増強成分と接触し混合されることは明らかと認められる。

以上によれば、共同微粒子混合体を「シリコーンからなる疎水性成分を、粘土と接触させて混合物を形成し、次いで、混合物を高剪断混合器及び/又は低剪断混合器で凝集させる、ことを含む方法によって得られる」ものとすることは、刊行物aに記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たことであり、「シリコーンからなる疎水性成分を、カチオン性帯電ポリマー布地柔軟増強成分と接触させて混合物を形成」することは、刊行物b、cに記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たことと認められるから、引用発明において、共同微粒子混合体を「シリコーンからなる疎水性成分を、粘土及びカチオン性帯電ポリマー布地柔軟増強成分と接触させて混合物を形成し、次いで、混合物を高剪断混合器及び/又は低剪断混合器で凝集させる、ことを含む方法によって得られる」ものとすることは、刊行物a?cに記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たことと認められる。

v.本願発明の効果について
本願明細書の発明の詳細な説明の「【0008】…従って、布地洗浄性能に大きな悪影響を与えることなく、洗濯洗剤組成物の布地柔軟化性能を改善する必要性が依然として存在する。
【0009】本発明は、上述の問題を、…克服するものである。」との記載等からみて、本願発明は、「布地洗浄性能に大きな悪影響を与えることなく、洗濯洗剤組成物の布地柔軟化性能を改善する」という課題を解決することを発明の効果とするものと解されるが、本願発明によって斯かる効果が奏されることを、本願明細書の発明の詳細な説明からは確認できないし、平成25年4月4日付け回答書における実験データを考慮してもやはり確認できない(前記「1.(5)、(6)ア.」参照。)から、本願発明が引用発明に比べて当業者が予測し得ない程の顕著な効果を奏するものと認めることはできない。

また、刊行物aには、当該刊行物に記載された繊維処理用組成物を含有する洗浄剤組成物によって、洗浄を通した柔軟化を行うこと(摘記a2)が記載され、汚れを分散させて洗浄性を高めるものと解される高分子汚れ分散剤としてカチオン性グアーガムが例示されている(摘記a5)ことを考慮すると、布地洗浄性能及び布地柔軟化性能を改善することは、刊行物aの記載事項から、当業者が予測し得た効果とも認められるものである。

(4)特許法第29条第2項のまとめ
よって、上記相違点1、2に係る本願発明の構成の点は、いずれも当業者が容易になし得たものであり、本願発明によって、当業者が予測し得ない程の顕著な効果が奏されるものとは認められないから、本願発明は、刊行物a?cに記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

第5 むすび
以上のとおりであって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、本願の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、その余の点について検討するまでもなく、本願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-30 
結審通知日 2013-10-01 
審決日 2013-10-17 
出願番号 特願2006-551559(P2006-551559)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C11D)
P 1 8・ 121- WZ (C11D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 服部 智大熊 幸治  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 松浦 新司
小石 真弓
発明の名称 布地の洗濯又は処置の用途に用いるための組成物  
代理人 浅野 真理  
代理人 横田 修孝  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 中村 行孝  

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