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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60T
管理番号 1285309
審判番号 不服2012-6186  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-04-06 
確定日 2014-03-05 
事件の表示 特願2006-504464「自動車を動作させる方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月28日国際公開、WO2004/091961、平成18年10月19日国内公表、特表2006-523566〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2004年2月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年4月16日、独逸連邦共和国(DE))を国際出願日とする出願であって、平成23年12月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年4月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、その後、当審において、平成25年2月15日付けで拒絶理由が通知され、平成25年7月11日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?4に係る発明は、平成22年5月12日付け手続補正、及び平成25年7月11日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1は次のとおりである。なお、平成23年4月18日付け手続補正は、原審において、平成23年12月2日付けで決定をもって却下されており、平成24年4月6日付けの手続補正は、当審において、平成25年2月15日付けで決定をもって却下されている。
「【請求項1】
内燃機関(11)と、
前記内燃機関を、停止条件が当てはまると自動的に停止でき、始動条件が当てはまると自動的に始動できる、前記内燃機関(11)用の自動始動/停止装置と、
制動トルクを自動車に加えることができる制御可能なブレーキ装置(22)と、
車両運転者によって作動できるブレーキペダル(24)とを有する自動車を動作させる方法において、
前記ブレーキペダル(24)が車両運転者によって作動されることが前記停止条件の1つであり、
前記ブレーキ装置(22)は制御装置(12、23)によって作動され、
前記停止条件が満たされたとき、
前記制御装置(12、23)は、前記ブレーキペダル(24)の作動の程度と独立して前記制動トルクを増加でき、
前記制御装置(12、23)は、前記ブレーキ装置(22)が作動される前に前記自動車の状態変数又は動作変数に応じてしきい値を決定し、
前記制御装置(12、23)は、現在作用している制動トルクが前記しきい値よりも小さいかをチェックし、
前記チェックの結果が肯定であると、前記制動トルクを、前記しきい値以上の値まで増加し、
前記制御装置(23)は、前記内燃機関(11)が始動する前に前記制動トルクを増加させることを特徴とする方法。」

3.本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)について
(1)本願発明1
本願発明1は上記のとおりである。
(2)引用例
(2-1)引用例1
特開2001-182814号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「【発明の属する技術分野】本発明は車両の制御装置に関し、とくに内燃機関の始動の際のショックを防止する車両の制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、例えば交差点等で自動車が停車した場合、所定の停止条件下でエンジンを自動停止させ、その後、所定の再始動条件下、例えばアクセルペダルを踏み込んだときにエンジンを再始動させる自動停止再始動制御を行う車両の制御装置が提案されている。このような制御はエコラン制御と称され、燃料の節約及び排気エミッションの低減を図ることができるものとして期待されている。」
(い)「【0037】以上のとおり構成された車両において行われる停止時および始動時の制御の例について説明する。図8は、ECU50により実行される制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、図示しないイグニッションキーがオンとされたときから所定時間毎に繰り返し実行される。
【0038】この制御ルーチンが実行されると(ステップ10)、ECU50のCPUは、まず各種信号の入力処理を実行する(ステップ20)。入力信号には、出入力ポートを介して入力される上述の各センサ類、すなわちエンジン回転数センサ、エンジン水温センサ、イグニッションスイッチ、SOCセンサ、ヘッドライト・デフォッガ・エアコンなどの補機、駆動輪速センサ、自動変速機の油温センサ、シフトポジションセンサ、サイドブレーキポジションセンサ、ブレーキペダルセンサ、触媒温度センサ、スロットルポジションセンサ、クランク角センサ、タービンの回転数センサ、外気温センサおよび車内温センサなどの検出信号や作動状態信号がある。
【0039】こうして入力信号処理を実行すると、次に、各種検出値や作動状態が上述のエンジン2の自動停止の条件に合致するかにより、自動停止が可能であるかが判断される(ステップ30)。
【0040】肯定の場合には、次にエンジン自動停止制御、エンジン停止時変速機制御、および発進制御装置作動が行われる(ステップ40)。このうちエンジン自動停止制御では、エンジン自動停止の指令に応じ燃料の供給をカットすると共に点火を中止する。
【0041】エンジン停止時変速機制御では、同じくエンジン自動停止の指令に応じ、エンジン停止前に電動オイルポンプ18が作動を開始する。したがって、エンジン2の停止によって機械式オイルポンプ19が停止しても、電動オイルポンプ18による作動油の供給が継続され油圧が確保される。なお、電動オイルポンプ18の容量は機械式オイルポンプ19に比べ小さく設定されており、低圧、低流量で設計されており、これにより消費電力の低減と省スペース化が図られている。
【0042】エンジン停止時変速機制御ではまた、エンジン停止指令に基づく電動オイルポンプ18の作動開始と共にブレーキB1に作動油が供給され、その係合が完了する。このとき、前進クラッチC1等は係合したままで通常のDレンジの1stポジションに比べブレーキB1が更に係合し、言いかえれば2nd状態で待機する。
【0043】発進制御装置作動では、前記エンジン自動停止の指令に応じ、ABSアクチュエータにてブレーキ装置の油圧制御回路の所定箇所をロック(閉鎖)することにより、車両停止時にブレーキペダルの踏圧に応じて発生した油圧を保持する。その結果、ブレーキ装置による制動状態が維持され、車両が保持される。以上がエンジン自動停止の条件が成立した場合の制御である。
【0044】これを図9に従って説明すると、変速機がDポジションのままでブレーキペダルが踏まれ(ブレーキセンサオン)、車両が停止した後、ECU50によりエンジン停止条件が成立しているかが判断され、エンジン停止指令が出され、エンジン2はエンジン自動停止制御を開始する。自動変速機20もこの指令に基づきエンジン停止時変速機制御を開始し、2ndに保持される。ここでブレーキB1はエンジン停止指令が出た後係合されるが、すでに発進制御装置が作動しているため車両が移動することはない。
【0045】次に、上述のエンジン2の自動再始動の要求があるか否かが、各種検出値や作動状態に基づいて判断される(ステップ50)。この自動再始動の条件は、前記ステップ30の条件のうち何れか1項目でも外れた場合に成立する。通常は、「ブレーキペダルを放す」ことにより自動再始動の条件が成立し、これに応じてエンジン2の始動指令信号が出力される。
【0046】肯定の場合には、エンジン始動のための制御として、エンジン自動始動制御、エンジン始動時変速機制御、および発進制御装置解除が行われる(ステップ60)。このうちエンジン始動制御では、エンジン2の始動指令信号に応じ、モータジェネレータ1への給電が開始され、これによりエンジン2のクランク軸10が起動される。また、クランク角センサの検出値に基いて燃料供給および点火に適した気筒が選択され、燃料供給と点火とが行われ、エンジン2が始動する。他方、次に述べるエンジン始動時変速機制御において、歯車変速機部15で2ndポジションから1stポジションへの切換えを行うべく、油圧制御回路によりブレーキB1が解放(オフ)操作されるのであるが、エンジン自動始動制御では、このブレーキB1の解放のタイミングに合わせ、点火時期変更等によりエンジントルクを低下する制御が行われる。
【0047】エンジン始動時変速機制御では、エンジン2の始動が完了したかを、エンジン回転数が点火後維持され異常振動(失火)や回転変動がないことで確認し、その後、電動オイルポンプ18をオフする。この時すでに機械式オイルポンプ19は正常に作動し、通常のライン圧を発生しており、切換弁33により、自動的に高い方の油圧が選択されている。なお、エンジン始動の際に、ライン圧コントロールソレノイド37の操作によりライン圧を更に低下させ、これによりエンジン始動時の振動・ショックを入力クラッチのスリップにより吸収する構成としてもよい。
【0048】また、ステップ50におけるエンジン2の自動再始動の要求があった旨の判断(肯定判断)からの経過時間をECU50内のソフトウェアタイマにより計測し、所定時間が経過したことを条件に、油圧制御回路によりブレーキB1を解放(オフ)操作する。これにより、上述と同じく歯車変速機部15で2ndポジションから1stポジションへの切換えが行われると同時にエンジントルクを低下させる制御が行われる。これにより駆動輪に伝達する始動トルクが減少し、発進時のショックが軽減される。なお、このブレーキB1はエンジン始動完了後も継続して係合し、次にアクセルペダルが踏圧されるまで継続する構成としてもよい。
【0049】発進制御装置解除では、エンジン2の始動指令に応じ、ブレーキB1の解放に先立って、発進制御装置を解除する。すなわち、ABSアクチュエータによるブレーキ装置の油圧制御回路のロック(閉鎖)を解除し、これによりブレーキ装置による制動力の強制が解除される。
【0050】そして、このとき車両が急な登り坂上にあれば後退しようとするが、フロント及びリヤプラネタリーギア54、55のサンギアがブレーキB1により固定された状態で出力軸(インターミディエイトシャフト)が逆転すると、連結されているRrリングギアも逆転しようとする。その際Rrキャリヤも逆転しようとするが、ワンウェイクラッチF2がそれを許さないため、フロントプラネタリーギア54およびリヤプラネタリーギア55全体が停止(固定)し、車両も斜面に停止する。また下り坂(前進側)の場合は、ワンウェイクラッチF2が正回転を許容するため、歯車変速機部15は2ndの状態となるが、エンジン2も始動されており通常の前進状態と変わらないため問題はない。以上がエンジン自動再始動の条件が成立した場合の制御である。
【0051】これを図10に従って説明すると、エンジン停止中に所定のエンジン再始動条件が成立し(例えばブレーキペダルを放す)、エンジン始動指令に応じてエンジン2が始動され(エンジン自動始動制御)、さらに並行してエンジン始動時変速機制御および発進制御装置解除が実施される。このとき、ブレーキB1の解放前にエンジンが始動され、かつ発進制御装置が解放されるが、変速機が2ndに保持されているためショック・振動は小さい。」
以上の記載事項及び図面からみて、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「内燃機関と、
前記内燃機関を、所定の停止条件下で自動停止させ、所定の再始動条件下で再始動させる内燃機関用の自動停止再始動制御を行なう制御装置と、
ブレーキ力を自動車に加えることができる制御可能なブレーキ装置と、
車両運転者によって作動できるブレーキペダルとを有する自動車を動作させる方法において、
前記ブレーキペダルが車両運転者によって踏み込まれていることが前記停止条件の1つであり、
前記ブレーキ装置はABSアクチュエータを備え、制御装置によって作動され、
前記停止条件が満たされたとき、
前記制御装置は、前記ブレーキペダルの作動の程度と独立して前記ブレーキ力を増加でき、
前記制御装置は、ABSアクチュエータの作動によって車両停止時にブレーキペダルの踏圧に応じて発生した油圧を保持し、
前記制御装置は、停止条件が満たされた後の前記内燃機関の自動再始動の条件が成立すると、内燃機関を始動し、ABSアクチュエータによる制動力の強制を解除する方法。」
(2-2)引用例2
特開平7-69102号公報(以下、「引用例2」という。)には、下記の記載事項が図面とともに記載されている。
(か)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は坂路停車装置に係り、特に車両が坂路で停車したとき車両が後退することを防止するよう構成した坂路停車装置に関する。
【0002】
【従来の技術】例えば、自動車等の車両で坂路を上る場合、信号又は一時停車線などにより坂路の途中で停車することがある。このような場合、運転者はブレーキペダルを踏み続けて制動力を確保するか、あるいは一旦、パーキングブレーキを操作してから坂路発進を行う。
【0003】その際、車両の駆動輪に伝達される駆動力が坂路の勾配(傾斜角)に対して小さいと、ブレーキペダルの踏力をゆるめたとき、あるいはパーキングブレーキをゆるめたとき、車両が後退することになる。このような坂路停車時あるいは坂路発進のときに、車両が後退することを防止するための坂路停車装置が開発されている。
【0004】この種の坂路停車装置としては、例えば実開昭62-79661号公報にみられるように制御回路がスピードセンサ,傾斜センサ,アクセルスイッチなどからの信号及びエンジン回転数に基づいて車両が後退すると判断したときには、マスタシリンダとブレーキ装置とを接続する配管途中に配設された電磁弁を閉弁させてブレーキ油圧回路を遮断するよう構成された装置がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかるに、上記坂路停車装置では、傾斜センサによって登坂路での停車を検出してブレーキ装置の制動力を保持し、アクセルが操作されてエンジン回転数が所定回転数(変曲点)になったときブレーキ装置の制動保持を解除しているが、例えばエンジン回転数が所定回転数に達していても、坂路の勾配によっては、駆動輪に伝達されるエンジンからの駆動力が車両に作用する後退力よりも小さいことがあるため、車両を発進させる際にブレーキ装置の制動保持が解除動作されると車両が後退してしまう。
【0006】即ち、上記坂路停車装置では、坂路の勾配の大きさに応じた後退力の変動を考慮しておらず、ブレーキ装置による制動力の保持を坂路の勾配に応じてきめ細かく調整することができなかった。
【0007】そこで、本発明は上記課題に鑑み、坂路の勾配に拘わらず登坂路で停車した車両が後退することを防止するよう構成した坂路停車装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】図1は本発明の原理図である。同図に示すように、本発明は、坂路の傾斜角度を検出する傾斜角度検出手段A1と、該傾斜角度検出手段A1による検出角度に基づいて車両に作用する後退力を推定する後退力推定手段A2と、該車両の駆動輪に伝達されるエンジンからの駆動力を推定する駆動力推定手段A3と、前記車両が坂路に停車したとき、前記後退力推定手段A2により推定された後退力と前記駆動力推定手段A3により推定された駆動力との偏差に基づいて前記後退力と釣り合う制止力を付加する制止力付加手段A4と、よりなることを特徴とする。
【0009】
【作用】本発明は、車両が坂路に停車したとき、後退力推定手段により推定された後退力と駆動力推定手段により推定された駆動力との偏差に基づいて後退力と釣り合う制止力を付加することにより、車両を坂路で停車させることができるとともに、坂路の傾斜角度に応じた後退力と釣り合う駆動力が駆動輪に伝達されると推定された時点で制止力を解除して発進できるので、発進時に後退することを防止できる。」
(き)「【0032】ここで、CPU40aが実行する処理につき図4を併せ参照して説明する。
【0033】CPU40aは図4に示すS1?S8の処理を所定時間毎に繰り返し実行する。図4中、ステップS1(以下「ステップ」を省略する)では、回転速度センサ35?37からの検出信号に基づいて車両が停車状態にあるか否かを判別する。上記S1において、車両が停車状態にあると判断されたときは、S2に進み、坂路の傾斜角度(勾配θ)を加速度センサ39からの検出信号に基づいて演算する。図5に示すように、坂路の傾斜角度θは車両の後方に作用する力gxを加速度センサ39により検出することによって決まる。つまり、次式(1)により坂路の傾斜角度(勾配θ)は求まる(傾斜角度検出手段)。
【0034】
θ=sin^(-1)(gx) … (1)
続いて、S3に進み、坂路の傾斜角度に応じて車両が重力により後退させれられる後退力Rの推定値を次式(2)により算出する(後退力推定手段)。
【0035】
R=g・sinθ・W … (2)
(但し、gは重力加速度、Wは車両総重量で、夫々ROM40bに記憶されている。)
次に、S4では、上記S3において算出した後退力Rに抗して車両が坂路を登ることができる路面状態にあるかどうかを判別する。つまりR<μ・W_(R) (但し、μは路面の摩擦係数、W_(R) は後輪軸荷重)のとき車両が坂路を登ることができると判断してS5に進む。
【0036】尚、摩擦係数μは、例えばスリップにより生じた前輪と後輪との回転速度差を左前輪回転速度センサ36と後輪回転速度センサ37とからの検出信号により求め、これに基づいて算出される。後輪軸荷重W_(R) は、ROM40bに予め記憶されている。
【0037】次のS5では、傾斜角度θの坂路で停車するのに必要な最小駆動力、即ちエンジンから駆動輪である左右後輪7,8に伝達される駆動力(トルク)Dの推定値を次式(3)により演算する(駆動力推定手段)。
【0038】
D=MIN〔f(θ_(MIN) ,NE)・e・I_(G) ・I_(D) /r,μ・W_(R) 〕 … (3)
(但し、θ_(MIN) はスロットルバルブ44,49の開度の小さい方のスロットル開度、NEはエンジン回転数、eはトルクコンバータのトルク比、I_(G) はギヤ比、I_(D) はデフ比、rはタイヤ径)
尚、路面に伝えられるトルクには限界があるので、駆動力Dの最大値はμ・W_(R) とする。
【0039】続いて、S6では、傾斜角度θの坂路で停車あるいは発進することができるかどうかを判断する。即ち、駆動力Dと後退力Rとを比較してD<Rであるときは、駆動力Dよりも後退力Rの方が大きいので、車両が坂路で停車せず後退するものと判断する。
【0040】その場合、S7に進み、車両が後退しないようにリヤブレーキを使用して車両を坂路で停車させる。このとき左右後輪7,8には、図6に示すように、後退力Rと左右後輪7,8に伝達される駆動力Dとの差に応じた制止力としてのブレーキ力Bが付加される(制止力付加手段)。」
(3)対比
本願発明1と引用例1発明とを対比すると、
後者の「内燃機関用の自動停止再始動装置」は前者の「内燃機関用の自動始動/停止装置」に相当し、同様に、「所定の停止条件下で自動停止させ」は「停止条件が当てはまると自動的に停止でき」に相当し、「所定の再始動条件下で再始動させる」は「始動条件が当てはまると自動的に始動できる」に、「ブレーキ力」は「制動トルク」に、「踏み込まれている」は「作動されること」に、それぞれ相当する。
後者の、
「前記停止条件が満たされたとき、
前記制御装置は、ABSアクチュエータによって車両停止時にブレーキペダルの踏圧に応じて発生した油圧を保持し、
前記制御装置は、停止条件が満たされた後の前記内燃機関の自動再始動の条件が成立すると、内燃機関を始動し、ABSアクチュエータによる制動力の強制を解除する」と、
前者の、
「前記停止条件が満たされたとき、
前記制御装置(12、23)は、前記ブレーキペダル(24)の作動の程度と独立して前記制動トルクを増加でき、
前記制御装置(12、23)は、前記ブレーキ装置(22)が作動される前に前記自動車の状態変数又は動作変数に応じてしきい値を決定し、
前記制御装置(12、23)は、現在作用している制動トルクが前記しきい値よりも小さいかをチェックし、
前記チェックの結果が肯定であると、前記制動トルクを、前記しきい値以上の値まで増加し、」は、
「停止条件が満たされたとき、
前記制御装置は、所定の前記制動トルクを発生させる」という点で一致する。
したがって、本願発明1の用語に倣って整理すると、両者は、
「内燃機関と、
前記内燃機関を、停止条件が当てはまると自動的に停止でき、始動条件が当てはまると自動的に始動できる、前記内燃機関用の自動始動/停止装置と、
制動トルクを自動車に加えることができる制御可能なブレーキ装置と、
車両運転者によって作動できるブレーキペダルとを有する自動車を動作させる方法において、
前記ブレーキペダルが車両運転者によって作動されることが前記停止条件の1つであり、
前記ブレーキ装置は制御装置によって作動され、
前記停止条件が満たされたとき、
前記制御装置は、所定の前記制動トルクを発生させる方法。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]
本願発明1は、
「前記停止条件が満たされたとき、
前記制御装置(12、23)は、前記ブレーキペダル(24)の作動の程度と独立して前記制動トルクを増加でき、
前記制御装置(12、23)は、前記ブレーキ装置(22)が作動される前に前記自動車の状態変数又は動作変数に応じてしきい値を決定し、
前記制御装置(12、23)は、現在作用している制動トルクが前記しきい値よりも小さいかをチェックし、
前記チェックの結果が肯定であると、前記制動トルクを、前記しきい値以上の値まで増加し、
前記制御装置(23)は、前記内燃機関(11)が始動する前に前記制動トルクを増加させる」という事項を備えるのに対し、
引用例1発明は、
「前記停止条件が満たされたとき、
前記制御装置は、ABSアクチュエータの作動によって車両停止時にブレーキペダルの踏圧に応じて発生した油圧を保持し、
前記制御装置は、停止条件が満たされた後の前記内燃機関の自動再始動の条件が成立すると、内燃機関を始動し、ABSアクチュエータによる制動力の強制を解除する」という事項を備える点。
(4)判断
(4-1)相違点について
引用例2には、坂路停車時に、車両の重量、坂路の傾斜角度等に基づいて車両に作用する後退力を求め、エンジンによる駆動力を考慮して、アンチスキッド制御装置等の制止力付加手段により後退力と釣合う制止力を車両に付加することが示されている(エンジンの停止時にはエンジンによる駆動力が零であることはいうまでもない)。このように、車両を停止状態に維持するために必要な制動力が車両の重量、路面の傾斜角度等に依存して決まることは周知であり、当業者に自明であるともいえる。引用例1発明は、内燃機関の停止条件が満たされたとき、ABSアクチュエータの作動によって車両停止時にブレーキペダルの踏圧に応じて発生した油圧を保持するものであるが、ブレーキペダルの踏圧が変動しても所定のブレーキ力を作用させて車両を停止状態に維持しようとするものであるから、車両の重量や路面の傾斜角度等に応じて車両を停止状態に維持し得る所要のブレーキ力を求めて、該ブレーキ力を作用させることは技術的にみて至極合理的であって、引用例1発明に引用例2の上記事項を適用して、車両の重量や路面の傾斜角度等により決まる所要のブレーキ力を付加するように構成することは当業者が容易に想到し得たものと認められる。
また、車両の停止時にエンジンが始動されるとクリープ力が発生し得ること、それにより、一時的な車両停止時には車両の前進運動が起こり得ることは、例えば、特開平11-348607号公報(特に【0004】、【0012】)、特開2000-127927号公報(特に第1ページ左下欄の【課題】、【0006】)に示されているように技術常識であって、当業者に自明である。これらの点に鑑み、安全性等に配慮して、エンジンの再始動にあたってブレーキ力を大きくしておくことは適宜の設計事項にすぎない。
(4-4)効果について
本願発明1の奏する効果は、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が予測し得た程度のものである。
(5)むすび
したがって、本願発明1は、引用例1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

5.結語
以上のとおり、本願発明1(本願の請求項1に係る発明)が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2?4に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-30 
結審通知日 2013-10-01 
審決日 2013-10-21 
出願番号 特願2006-504464(P2006-504464)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B60T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 塚原 一久  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 島田 信一
森川 元嗣
発明の名称 自動車を動作させる方法  
代理人 石戸 久子  
代理人 山口 栄一  

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