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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F02M
管理番号 1285373
審判番号 不服2013-12697  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-03 
確定日 2014-03-25 
事件の表示 特願2009-552053「燃料噴射システム用の鋼製高圧蓄圧管を製造する方法および該方法によって製造される高圧蓄圧管」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 9月12日国際公開、WO2008/106911、平成22年 6月10日国内公表、特表2010-520403、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2008年1月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年3月7日 ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成21年9月4日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出され、平成21年11月2日に明細書、請求の範囲、図面及び要約書の翻訳文が提出され、平成24年5月29日付けで拒絶理由が通知され、平成24年11月1日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年3月1日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成25年7月3日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1ないし9に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明9」という。)は、平成24年11月1日に提出された手続補正により補正された特許請求の範囲並びに平成21年11月2日に提出された翻訳文の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。

「 【請求項1】
内燃機関用のコモンレールシステムを有する燃料噴射システムのための高圧蓄圧管を、高静的強度および高疲労強度を有し1800バール以上の作動圧力に耐える鋼製複合管として製造する方法であって、第1の内管部分が第2の外管部分内にわずかな隙間を有して挿入され、次いで、前記内管部分が、機械的成形による締まり嵌めによって、前記外管部分に隙間なく結合される、方法において、
前記機械的成形は、前記内管部分内で移動する過大寸法の転動工具によって、前記内管部分が延性的に拡径されるとともに、前記外管部分が弾性的に拡径されるような押込み圧延プロセスを含み、前記プロセスの後に、前記外管部分の弾性回復によって、前記作動圧力に相当する残留圧縮応力が、前記内管部分に加えられることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記内管部分と前記外管部分とが異種合金材料からなり、前記外管部分が高強度材料からなり、かつ、前記内管部分が大きな成形性を有する高強度材料からなることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記外管部分が非合金材料または低合金材料からなり、前記内管部分が高合金材料からなることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記内管部分と前記外管部分とが同一材料からなることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記内管部分は、前記外管部分より小さい肉厚を有していることを特徴とする請求項1?4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1?5の何れかに記載の方法によって、高静的強度および高疲労強度を有し1800バール以上の圧力に耐える鋼製複合管として製造された、コモンレールシステムを有する燃料噴射システム用の高圧蓄圧管であって、
前記複合管は、シームレスまたは溶接内管部分(2)と、シームレスまたは溶接外管部分(1)とを備え、前記内管部分の内面が、Rz≦1.0μm、かつ、Ra≦0.2μmの表面粗さを有していることを特徴とする高圧蓄圧管。
【請求項7】
前記内管部分(2)が高合金材料からなり、前記外管部分(1)が非合金材料または低合金材料からなることを特徴とする請求項6に記載の高圧蓄圧管。
【請求項8】
前記内管部分(2)と前記外管部分(1)とが同一材料からなることを特徴とする請求項6に記載の高圧蓄圧管。
【請求項9】
前記内管部分(2)は、前記外管部分(1)より小さい肉厚を有していることを特徴とする請求項6?8の何れか一項に記載の高圧蓄圧管。」


第3 原査定の理由の概要
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2000-73908号公報
引用文献2:特開2005-76477号公報
引用文献3:特開昭62-101328号公報
引用文献4:実公平6-40924号公報

・請求項1-5
本願請求項1に係る発明は、上記引用文献1及び2に記載されるように周知のコモンレールの製造方法として、上記引用文献3に記載される発明を採用することにより当業者が容易になし得たものである。請求項2-5の発明特定事項についても上記引用文献1-3に記載される範囲のものである。

・請求項6-9
本願請求項6の「表面粗さ」を特定した点は、上記引用文献4に記載される技術的課題乃至はその解決手段を採用したものであり、該請求項6の「Rz≦1.0μm、かつ、Ra≦0.2μm」との数値限定についても上記引用文献4に記載される「表面粗さを小さくすることが望まれる」との技術思想の範疇で当業者が適宜決定し得たものである。
請求項7-9の発明特定事項についても同様である。


第4 当審の判断
1.引用文献記載の発明
(1-1)本願の優先日前に頒布された刊行物であり、原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-73908号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア. 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は高圧燃料供給装置に関し、特に蓄圧式燃料供給装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、ディーゼルエンジン等の高圧燃料供給装置として、蓄圧容器が形成する蓄圧室に高圧燃料を蓄圧し、蓄圧室で所定圧に蓄圧された高圧燃料を燃料噴射弁に供給する蓄圧式燃料供給装置が知られている。このような従来の蓄圧式燃料供給装置を図5に示す。
【0003】蓄圧式燃料供給装置100は、円筒状に形成された蓄圧容器101を有している。蓄圧容器101は軸方向に蓄圧室101aを形成している。図示しない高圧ポンプから入口管102の入口通路102aに供給された高圧燃料は蓄圧室101aで所定圧に蓄圧され、出口管103の出口通路103aから図示しない燃料噴射弁に供給される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】近年、排気ガス浄化および燃焼効率の向上等の要求から、燃料噴射圧力を増加し、燃料噴霧をより微粒化することが求められている。しかしながら、燃料噴射圧力を増加するために蓄圧室101aの燃料圧力を増加すると、蓄圧室101aの燃料圧力により蓄圧容器101に加わる引張応力が増加する。この引張応力は、入口通路102aおよび出口通路103aと蓄圧室101aとの連通箇所を形成する蓄圧容器101の角部104に特に集中する。したがって、蓄圧室101aで蓄圧する燃料圧力を増加することにより燃料噴射圧力を増加し、燃料噴霧を微粒化することが困難になっている。
【0005】高圧燃料通路を形成する通路部材の角部に加わる引張応力は、蓄圧容器に限らず、高圧ポンプまたは高圧配管の角部にも加わるので、燃料噴射圧力の増加を妨げる一因となっている。
【0006】本発明の目的は、高圧燃料通路を形成する通路部材の角部に加わる引張応力を低減し通路部材の耐圧性を向上する高圧燃料供給装置を提供することにある。本発明の他の目的は蓄圧容器内の角部に加わる引張応力を低減し蓄圧容器の耐圧性を向上する蓄圧式燃料供給装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の請求項1記載の高圧燃料供給装置によると、高圧燃料通路を形成する通路部材に形成された角部に圧縮応力を加える応力生成手段を備えている。燃料圧力から受ける力により通路部材の角部に引張応力が加わっても、応力生成手段により角部に加わる引張応力を低減する方向に圧縮応力が加わっているので、角部に加わる引張応力が低減される。したがって、通路部材の耐圧性が向上するので、高圧燃料通路の圧力を増加することができる。」(段落【0001】ないし段落【0007】)

イ. 「【0012】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を示す複数の実施例を図に基づいて説明する。
(第1実施例)本発明の第1実施例による蓄圧式燃料供給装置を図1に示す。蓄圧式燃料供給装置1は図示しない高圧ポンプから供給される高圧燃料を所定圧に蓄圧し、図示しない燃料噴射弁に高圧燃料を供給するものである。蓄圧式燃料供給装置1は、外周部材10、内周部材20および封止栓25を有している。外周部材10および内周部材20は通路部材、蓄圧容器および応力生成手段を構成している。外周部材10および内周部材20は円筒状に形成されており、外周部材10に内周部材20が圧入している。外周部材10は一方の軸方向端部が開口しており、内周部材20は軸方向両端が開口している。外周部材10に内周部材20を圧入する前の状態において、内周部材20の外径は外周部材10の内径よりも僅かに大きい。
【0013】封止栓25は、外周部材10の開口を塞ぐ栓である。蓄圧室21は、外周部材10の有底側内周壁10a、内周部材20の内周壁および封止栓25の端部内壁により形成されている。
【0014】外周部材10は入口管11および出口管12を有しており、それぞれ入口通路11a、出口通路12aが形成されている。入口通路11aおよび出口通路12aは蓄圧室21とともに高圧燃料通路を構成している。内周部材20は入口通路11a、出口通路12aと連通する位置にそれぞれ入口孔20a、出口孔20bが形成されている。外周部材10に内周部材20を圧入した状態で、入口通路11aと入口孔20a、出口通路12aと出口孔20bとは連通している。外周部材10の有底側内周壁10aに内周部材20を係止させることで、入口通路11aと入口孔20a、ならびに出口通路12aと出口孔20bとの軸方向の連通位置が位置決めされている。また、入口通路11aと入口孔20a、ならびに出口通路12aと出口孔20bとの周方向の連通位置は、例えば外周部材10および内周部材20の一方に軸方向に案内溝を形成し、他方に案内溝と嵌合する案内突部を形成することにより位置決めすることができる。
【0015】図示しない高圧ポンプから蓄圧式燃料供給装置1に供給された燃料は入口通路11a、入口孔20aを通り蓄圧室21に流入する。蓄圧室21に流入した高圧燃料は蓄圧室21で所定圧に蓄圧される。蓄圧室21で所定圧に蓄圧されれた燃料は、出口孔20b、出口通路12aを通り図示しない燃料噴射弁に供給される。
【0016】前述したように、圧入前の状態で内周部材20の外径は外周部材10の内径よりも僅かに大きいので、外周部材10に内周部材20を圧入すると内周部材20の全周が圧縮される。すると、内周部材20の入口孔20aおよび出口孔20bと蓄圧室21との連通箇所に形成されている角部22、23に圧縮応力が確実に加わる。蓄圧式燃料供給装置1に高圧ポンプから高圧燃料を供給し、蓄圧室21で蓄圧すると、蓄圧室21の燃料圧力により角部22、23に引張応力が加わる。しかし、外周部材10に内周部材20を圧入したことにより角部22、23に引張応力と反対方向に圧縮応力が加わっているので、角部22、23に加わる引張応力は低減される。したがって、角部22、23の耐圧性が向上するので、蓄圧室21で蓄圧する燃料圧力を高圧化することができる。」(段落【0012】ないし段落【0016】)

(1-2)ここで、上記(1-1)ア.及びイ.並びに図面から、次のことが分かる。

ウ.上記ア.の段落【0002】の記載及び図面から、ディーゼルエンジン等の高圧燃料供給装置として、蓄圧容器が形成する蓄圧室に高圧燃料を蓄圧し、蓄圧室で所定圧に蓄圧された高圧燃料を燃料噴射弁に供給する蓄圧式燃料供給装置であることが分かる。

エ.上記イ.の段落【0012】及び【0016】の記載並びに図面から、蓄圧容器が、内周部材20及び外周部材からなる複合管で、内周部材20がその外径より僅かに小さい内径を有する外周部材10の内に挿入され、次いで、内周部材20が、外周部材10に隙間なく結合され、外周部材10に内周部材20を圧入したことによる圧縮応力が、内周部材20に加えられることが分かる。

(1-3)上記(1-1)及び(1-2)より、引用文献1には、次の発明が記載されている。

「ディーゼルエンジンの用の蓄圧式燃料供給装置1を有する高圧燃料供給装置のための蓄圧容器を、複合管として製造する方法であって、内周部材20がその外径より僅かに小さい内径を有する外周部材10の内に挿入され、次いで、前記内周部材10が、前記外周部材10に隙間なく結合される、方法において、
外周部材10に内周部材20を圧入したことによる圧縮応力が、前記内周部材20に加えられる方法。」(以下、「引用文献1記載の発明」という。)

(2-1)本願の優先日前に頒布された刊行物であり、原査定の拒絶の理由に引用された特開2005-76477号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

オ. 「【0012】
<実施形態1>
本発明の第1実施形態を図1乃至図3によって説明する。図1において、デリバリパイプ1は内部に長さ方向に垂直な断面が円形の燃料供給路21を備えたハウジング2と、ハウジング2に装着され燃料供給路21の端部を閉塞するプラグ3、およびプラグ3とハウジング2の端面26との間に設置されたシールガスケット4とを備えている。
【0013】
ハウジング2は、例えばアルミダイカスト(鋳造)により成形され、図1に示すように長尺状をしており、外周部には長さ方向にエンジンの燃料噴射弁IVが取り付けられる円筒状の燃料噴射弁取付部22が複数個形成されている。また、燃料供給路21の内周面には、それぞれ燃料噴射弁取付部22に対応する位置に供給孔23が形成され、燃料供給路21を各々の燃料噴射弁IVに連通させている。更に、ハウジング2のプラグ3が装着された側の反対側に位置する端部には、燃料ポンプに接続される燃料チューブ(図示せず)が取り付けられることによって、燃料供給路21内に燃料を導入するインレット24が形成されている。
【0014】
ハウジング2の端部には、プラグ3を螺合させるための雌ネジ孔25が、燃料供給路21に連通するように形成されている。プラグ3はハウジング2に形成された雌ネジ孔25と螺合する雄ネジ部31と、雄ネジ部31の後方部に設けられた頭部32によって構成されている。頭部32は、プラグ3を雌ネジ孔25にねじ込むときに締付工具にて保持されるように、六角形状あるいは二面幅にて構成されている。
【0015】
シールガスケット4は、例えば銅等の軟性の金属によってリング状に形成され、内周孔に雄ネジ部31を挿通させた後、プラグ3をハウジング2の雌ネジ孔25に螺合させることにより、ハウジング2の端面26とプラグ3の頭部32との間で挟圧されて双方の間をシールし、燃料供給路21を外部に対して液密的に遮断する。
【0016】
燃料供給路21内には、内筒体5が配設されている。図2および図3に示したように、内筒体5は金属板をその長さ方向に垂直な断面がほぼ円形となるように巻かれて成形されており、全体として略円筒形をしている。内筒体5は、その全長に亘りその長さ方向に延びる割り溝5aが形成されており、割り溝5aが狭まって外径が縮径するように撓み可能に形成されている。また、内筒体5には、円周上において割り溝5aと対向する位置に、その外周面と内周面とを連通させるように、燃料噴射弁IVの数に対応して4個の絞り孔5bが長さ方向に一列に並設されている。絞り孔5bの開口面積は、燃料供給路21と供給孔23との間の燃料の流量を制限するような大きさに設定されていることは言うまでもない。
【0017】
内筒体5の外径寸法D1(図2示)は自然状態において、燃料供給路21の内径寸法d(図1示)よりもやや大きくなるように形成されており、内筒体5を燃料供給路21内に配設する場合、割り溝5aを狭めることにより内筒体5の外径を燃料供給路21の内径寸法dよりも小さくした後に燃料供給路21内に挿入し、燃料供給路21内において離すことにより、形状復帰し拡径して、内筒体5の外周面が燃料供給路21の内周面に当接することで固定される。燃料供給路21内に内筒体5を挿入した後、上述したように、プラグ3をシールガスケット4に挿通させた後、雌ネジ孔25に螺合させることにより、燃料供給路21と外部とを遮断する。
【0018】
内筒体5は燃料供給路21内に設置された状態で、上述したように内筒体5が拡径する荷重によって外周面が燃料供給路21の内周面に押圧され密着するため、その円周方向の回転が規制される。図1に示すように、燃料供給路21内に設置された状態で、内筒体5のそれぞれの絞り孔5bは、ハウジング2の供給孔23と対応する直上に位置し、燃料供給路21と燃料噴射弁IVとを確実に連通させている。また、内筒体5は燃料供給路21内に設置された状態で、その両端部が燃料供給路21の右終端面27とプラグ3の先端部とによって挟持され、軸方向への移動も規制されている。
【0019】
本実施形態において、燃料ポンプによって吐出された燃料が、インレット24を介して燃料供給路21内に導入されると、燃料は内筒体5の絞り孔5bおよび供給孔23を介して、燃料噴射弁取付部22に取り付けられた各燃料噴射弁IVに分配され、エンジンの各気筒に噴射される。燃料噴射弁IVの開閉作動によって燃料圧の変動(振動)が発生した場合、その反射波は内筒体5の絞り孔5bによって遮断あるいは減衰され、燃料供給路21内への伝播が防止あるいは低減される。
【0020】
本実施形態においては、デリバリパイプ1は、絞り孔5bが並設された内筒体5を燃料供給路21内に挿入することで、絞り孔5bが供給孔23に対応する位置に配置されるため、ハウジング2にドリル等で絞り孔を穿孔しなくても、燃料噴射弁IVと燃料供給路21の内部とを絞り孔5bで連通させることができ、燃料供給路21内の圧力脈動を低減するデリバリパイプを容易に構成できる。また、内筒体5は、その割り溝5aを狭めることによって、燃料供給路21の内周面に干渉させずに容易に挿入できる。」(段落【0012】ないし段落【0020】)

(2-2)ここで、上記(2-1)オ.及び図面から、次のことが分かる。

カ.上記オ.の段落【0016】及び【0017】の記載並びに図面から、燃料噴射システムのためのデリバリパイプを内筒体5とハウジング2からなる複合管として製造され、内筒体5がハウジング2内に挿入され、次いで、前記内筒体5が、前記ハウジング2に結合されることが分かる。

(2-3)上記(2-1)及び(2-2)より、引用文献2には、次の発明が記載されている。

「エンジン用のコモンレールシステムを有する燃料噴射システムのためのデリバリパイプを、複合管として製造する方法であって、内筒体5がハウジング2内に挿入され、次いで、前記内筒体5が、前記ハウジング2に結合される、方法。」(以下、「引用文献2記載の発明」という。)

(3-1)本願の優先日前に頒布された刊行物であり、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭62-101328号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

キ.「(従来技術〉
周知の如く、配管はあらゆる産業に用いられており、流体輸送や情報伝達、或いは、装置や構造物の部材として重要な役割を果しているが、このうち輸送流体や環境に対する耐蝕性や耐摩耗性を付与しなければならない条件の配管が多く、1つの素材でこれらの複合する条件を満足する材料が現実には見当たらないために、例えば、内管には耐蝕性や耐摩耗性を付与し、外管には耐圧性や強度をもたせるようにした二重管が開発利用されるようになり、例えば、クラッド鋼管等や液圧拡管による緊結二重管が研究開発実用化されている。
<発明が解決しようとする問題点>
さりながら、クラッド鋼管においては、相対重層する外管の当接面の前処理が極めて難しいという難点があり、しかも、工程が複雑でコスト高になるという不利点がある。
又、焼きばめ法や液圧拡管では熱管理が難しいという難点があったり、拡管された後の素管が内管と外管の間の緊結代が局所的に不充分であって境界面に水素が発生する等の不具合もあった。
そして、液圧拡管等では全体における嵌合代が平均して得られるという利点はあるものの、比較的製造工程での作業がし易い液圧拡管による緊結二重管製造の利点を有しながらも解決されねばならない種々の問題点を有していた。
この発明の目的は上述従来技術に基づく二重管等の管体の製造に伴う問題点を解決すべき技術的課題とし、全体的には充分な緊結代が得られる液圧拡管の利点を用いながらも、局所的にも充分に緊結が得られてユニット管境界部における微小クリアランスがなく、又周方向は勿論、長さ方向にも大きな圧縮残留応力が形成出来るようにして各種産業における配管技術利用分野に益する優れた複重管製造方法を提供せんとするものである。
<問題点を解決するための手段・作用>
上述目的に沿い先述特許請求の範囲を要旨とするこの出願の発明の構成は、内側管と外側管の複数のユニットの管を相対重層させて素管となし、その内管の前後端にシールヘッドを装着して内管内を密封すると共に内管内にローラに径方向の押圧力を印加すると共に軸方向に移動させるようにしてローラを回転させ、而して、ローラを軸方向に一段の場合は回転させ、複数段の場合には軸方向相互に回転方向が逆になるようにして素管にねじり作用を与えないようにし、そして、上記液圧拡管に付加するにローラによる回転に伴う局所的な展延を周方向回転、及び、軸方向移動により全域に展延を与え、ローラによる展延と液圧による展延の相乗作用により各ユニット管相互は充分に緊結され、全体、及び、局所に於ける外管の間隙は確実に密着状態にされ、最後に拡管液圧を除去することにより外管の弾性戻り差により縮管され、大きな嵌合代が得られて緊結された複重管が得られるようにした技術的手段を講じたものである。」(第2ページ左上欄第3行ないし同ページ左下欄第17行)

ク. 「<実施例>
次に、この出願の発明の実施例を図面に従って説明すれば以下の通りである。
尚、当該実施例は耐蝕二重管の態様である。
まず、ユニット管としての炭素鋼製としての外管1に対し所定の充分ではあるが可及的に小さなクリアランスを介して同じくユニット管としてのステンレス製の内管2を相対重層させて素管3となし、第2、3図に示す様に、内管2の内部にロッド4の先端に一体的に結合されるテーパ面5を外周に有し、その前後に連通孔6を形成させているマンドレル7とそのテーパ面5、及び、内管2との間にマンドレル7の周方向に等間隔でテーパ面8を当接させたローラ9、9・・・を4つ配設してロッド4を軽く引く状態にして内装させ、更に内管2の前端には拡管液の給排孔10を有するシールヘッド11を当接させると共に後端にはシール12をしてロッド4に相対挿入させたシールヘッド13を当接させて内管2の内部を密封状態にし、そこで前段シールヘッド11の給排孔10に対し三方電磁バルブ14をポンプ15を直列連結した通路16をしてタンク17の拡管液18に連通させてポンプ15を稼動すると、タンク17の拡管液18は内管2、及び、シ-ルヘッド11、13内部の密閉空間に供給され、マンドレル7の連通孔6を介して充満状態にされる。
そこで、更に供給拡管液に拡管圧を印加して素管3に拡管作用を与え、内管2は塑性変形して増径され、内管2が外管1内面に当接するとそれからは両者が一体的になり増径されていく。
そして、当該プロセスにおいて、ロッド4を所定の手段により回転させると共に軸方向へ徐々に引き出すようにし、そこで、各ローラ9はマンドレル7の回転により自転、及び、公転し、その楔作用により径方向へは大きな拡管力を印加されて転動し、又、ロッド4の軸方向引き出し力による楔作用と摩擦を介して径方向へ大きな力が印加されて全体的には回転し、各ローラ9は局所的に内管2の内部に拡管力を印加し、スパイラル状に回転しなからロッド4の軸方向引張りに応じて回転していく。
したがって、この場合、初期状態でマンドレル、及び、各ローラ9が内管2の前端にセットされた状態であると経時示的に徐々にマンドレル7と各ローラ9は後端側に移動し、その間、各-ラ9は内管2の内面にスパイラル状に移動しながら展延を局所的に与え、結果的に全ての内面の領域に展延を付与する。
そこで、内管2は液圧拡管作用が付与されて全体的に塑性変形し、拡管されるのに加えて経時的に連続する局所的な展延とが重畳し、両者の相互作用が相俟って内管2と外管3の両者は局所的にミクロに密着し全体として緊結された状態になり、各ローラ9による局所的な展延5の外管1の弾性戻り差によりその緊結はより強化され、マンドレル7と各ローラ9が内管2の後端部に到達した状態で三方電磁バルブ14を切り替えて内管2内の拡管液圧を除去すると共に終端に於けるマンドレル7をロッド4をして僅かに前進させることにより各ローラ9の展延力は除去され、外管3はその弾性戻り差により全域に於いて内管2に対し縮管作用を与えて外管1と内管2は局所的にも勿論、全体的にも充分な嵌合代が付与されて緊結状態が現出される。」(第2ページ左下欄第18行ないし第3ページ右上欄第20行)

ケ.「尚、上述各実施例のローラ9、9・・・による展延終了後、及び、拡管液圧除去後は上述した如く、外管1の弾性戻りによる周方向の収縮が生ずるために二重管自体の全領域に於ける圧縮残留応力が形成され、完成された二重管の稼動中における応力腐蝕割れ等が確実に防止される。
尚、この出願の発明の実施態様は上述実施例に限るものでないことは勿論であり、対象は二重管のみならず、三重管以上の複重管に対しての適用され、マンドレルがカンチレバ一式でないために設計の許容する限り長いマンドレルを用いることが出来、したがって、長尺管にも適用出来、又、耐蝕複重管のみならず耐摩耗二重管にも用いることが出来る等種々の態様が採用可能である。」(第3ページ右下欄第4行ないし17行)

(3-2)ここで、上記(3-1)キ.ないしケ.並びに図面から、次のことが分かる。

コ.上記ク.及び図面から、耐蝕二重管を、外管1に対し所定の充分ではあるが可及的に小さなクリアランスを介して同じくユニット管としてのステンレス製の内管2を相対重層させて素管3からとして製造していることが分かる。

サ.上記キ.及びク.並びに図面から、内管2部分が外管1部分の内に小さなクリアランスを有して挿入され、次いで、前記内管2が、ローラ9による展延によって、前記外管1部分に隙間なく結合されることが分かる。

シ.上記ケ.及び図面から、外管1の弾性戻りによる周方向の収縮が生ずるために二重管自体の全領域に於ける圧縮残留応力が形成され、完成された二重管の稼動中における応力腐蝕割れ等が確実に防止されることが分かる。

(3-3)上記(3-1)及び(3-2)より、引用文献3には、次の発明が記載されている。

「耐蝕二重管を、鋼製ユニット管として製造する方法であって、内管2部分が外管1部分の内に小さなクリアランス挿入され、次いで、前記内管2が、ローラ9による展延によって、前記外管1部分に隙間なく結合される、方法において、
前記ローラ9による展延は、前記内管2部分内で移動するマンドレル7とローラ9によって、前記内管2部分が延性的に拡径されるとともに、前記外管1部分が弾性的に拡径されるような展延を含み、前記展延の後に、前記外管1部分の弾性戻り差によって、圧縮残留応力が、前記内管2部分に加えられる方法。」(以下、「引用文献3記載の発明」という。)

(4-1)本願の優先日前に頒布された刊行物であり、原査定の拒絶の理由に引用された実公平6-40924号公報(以下、「引用文献4」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ス. 「ー産業上の利用分野ー
本考案は例えば燃料噴射式ガソリンエンジンに用いる燃料噴射装置に関し、特に、加圧燃料源からの燃料をエンジンのシリンダごとに設ける複数の燃料噴射弁に分配する燃料分配管に関する。」(第1ページ第2欄第9行ないし13行)

セ.「そして、加圧燃料が流れる分配管本体1の内面は、圧力損失の防止等の目的より、表面粗さを小さくすることが望まれるが、分配管本体1を射出成形とすることにより分配管本体1の平滑な内面を得ることができる。」(第3ページ第5欄第31行ないし35行)

(4-2)ここで、上記(4-1)ス.及びセ.並びに図面から、次のことが分かる。

ソ.上記ス.及びセ.並びに図面から、燃料分配管において、分配管本体1を射出成形とすることにより分配管本体1の平滑な内面を得ることができることが分かる。

(4-3)上記(4-1)及び(4-2)より、引用文献4には、次の発明が記載されている。

「分配管本体1を射出成形とすることにより分配管本体1の平滑な内面を有している燃料分配管」(以下、「引用文献4記載の発明」という。)

2.対比
本願発明1と引用文献1記載の発明を対比する。
引用文献1記載の発明における「ディーゼルエンジン」は、その構成、機能及び技術的意義からみて、本願発明1における「内燃機関」に相当し、以下同様に、「蓄圧式燃料供給装置1」は「コモンレールシステム」に、「蓄圧容器」は「高圧蓄圧管」に、「内周部材20」は「第1の内管部分」に、「外周部材10」は「第2の外管部分」に、「圧縮応力」は「残留圧縮応力」に、それぞれ相当する。
したがって、両者は、
「内燃機関用のコモンレールシステムを有する燃料噴射システムのための高圧蓄圧管を、複合管として製造する方法であって、第1の内管部分が第2の外管部分の内に挿入され、次いで、前記内管部分が、前記外管部分に隙間なく結合される、方法において、残留圧縮応力が、前記内管部分に加えられる方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
「高圧蓄圧管」の製造に関して、本願発明1においては、「高静的強度および高疲労強度を有し1800バール以上の作動圧力に耐える鋼製複合管として製造する方法であって、第1の内管部分が第2の外管部分の内にわずかな隙間を有して挿入され、次いで、前記内管部分が、機械的成形による締まり嵌めによって、前記外管部分に隙間なく結合される、方法において、
前記機械的成形は、前記内管部分内で移動する過大寸法の転動工具によって、前記内管部分が延性的に拡径されるとともに、前記外管部分が弾性的に拡径されるような押込み圧延プロセスを含み、前記プロセスの後に、前記外管部分の弾性回復によって、前記作動圧力に相当する残留圧縮応力が、前記内管部分に加えられる方法」であるのに対して、引用文献1記載の発明においては、「複合管としての製造方法であって、第1の内管部分が第2の外管部分の内に挿入され、次いで、前記内管部分が、前記外管部分に隙間なく結合される、方法において、残留圧縮応力が、前記内管部分に加えられる方法」である点(以下、「相違点」という。)。

3.判断
上記相違点について検討する。
引用文献1記載の発明は、複合管の材質や強度等については不明であるが、高圧燃料を蓄圧するものであるので、ある程度の高静的強度および高疲労強度を有する鋼製の複合管であることは明らかであるところ、このような高圧管を高静的強度および高疲労強度を有する鋼製とすることは周知技術(以下、「周知技術」という。)でもある。
一方、本願発明1と引用文献3記載の発明を対比すると、引用文献3記載の発明における「鋼製ユニット管」は、その構成、機能及び技術的意義からみて、本願発明1における「鋼製複合管」に相当し、以下同様に、「内管2」は「第1の内管」に、「外管1」は「第2の外管」に、「小さなクリアランス」は「わずかな隙間」に、「ローラ9による展延」は「機械的成形による締まり嵌め」及び「機械的成形」に、「マンドレル7とローラ9」は「過大寸法の転動工具」に、「展延」は「押込み圧延プロセス」に、「弾性戻り差」は「弾性回復」に、「圧縮残留応力」は「残留圧縮応力」に、それぞれ相当するので、引用文献3記載の発明を本願発明1の用語で表現すると、「鋼製複合管として製造する方法であって、第1の内管部分が第2の外管部分の内にわずかな隙間を有して挿入され、次いで、前記内管部分が、機械的成形による締まり嵌めによって、前記外管部分に隙間なく結合される、方法において、
前記機械的成形は、前記内管部分内で移動する過大寸法の転動工具によって、前記内管部分が延性的に拡径されるとともに、前記外管部分が弾性的に拡径されるような押込み圧延プロセスを含み、前記プロセスの後に、前記外管部分の弾性回復によって、残留圧縮応力が、前記内管部分に加えられる方法。」(以下、「引用文献3記載の技術」という。)ということができるが、上記相違点のうち、「1800バール以上の作動圧力に耐える鋼製複合管の製造する方法において、外管部分の弾性回復によって、前記作動圧力に相当する残留圧縮応力が、前記内管部分に加えられる」点については、引用文献3記載の技術には何ら開示も示唆もされていないし、周知技術ともいえない。
また、引用文献3記載の技術は、「外管部分の弾性回復によって、残留圧縮応力が、内管部分に加えられる」技術ではあるが、「外管3はその弾性戻り差により全域に於いて内管2に対し縮管作用を与えて外管1と内管2は局所的にも勿論、全体的にも充分な嵌合代が付与されて緊結状態が現出される。」(引用文献3の第3ページ右上欄第16行ないし20行)と記載されているように、外管部分と内管部分の緊結状態を高める程度の残留圧縮応力を残留させることをその目的とするものであって、1800バール以上の作動応力に相当する残留圧縮応力を残留させる本願発明1の目的とは、明らかに異なるものである。
さらに、前記「1800バール以上の作動圧力に耐える鋼製複合管の製造する方法において、外管部分の弾性回復によって、前記作動圧力に相当する残留圧縮応力が、前記内管部分に加えられる」点については、他の引用文献2及び4記載の発明にも何ら開示されておらず、示唆もされていない。
したがって、本願発明1は、引用文献1ないし4記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
そして、本願発明1は、相違点に係る本願発明1の発明特定事項を有することにより引用文献1ないし4記載の発明及び周知技術の効果とは異なる効果(明細書の段落【0021】参照)を奏するものである。

4.本願発明2ないし9について
本願発明2ないし9は、本願発明1の発明特定事項を全て有していることから、本願発明1と同様に、引用文献1ないし4記載の発明及び周知技術に基づき、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。


第5 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし9は、引用文献1ないし4記載の発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-03-11 
出願番号 特願2009-552053(P2009-552053)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F02M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 稲村 正義  
特許庁審判長 林 茂樹
特許庁審判官 中川 隆司
柳田 利夫
発明の名称 燃料噴射システム用の鋼製高圧蓄圧管を製造する方法および該方法によって製造される高圧蓄圧管  
代理人 河村 英文  
代理人 松島 鉄男  
代理人 奥山 尚一  
代理人 有原 幸一  

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