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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A23L
管理番号 1285393
審判番号 不服2012-10356  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-06-05 
確定日 2014-03-31 
事件の表示 特願2006-148691号「食品用抗菌組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成19年12月 6日出願公開、特開2007-312740号、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平18年5月29日の出願であって、平成24年3月7日付けで補正の却下の決定及び拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年6月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に、手続補正がなされたものである。
その後、当審において、平成25年2月25日付けで審尋がなされ、平成25年4月26日に回答書の提出がなされ、平成25年12月19日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成26年2月17日に意見書が提出されるとともに、手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明(以下それぞれ「本願第1発明」?「本願第4発明」という。)は、平成26年2月17日に提出された手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載されたとおりのものであると認められるところ、本願第4発明は、以下のとおりである。

「【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項に記載の食品用抗菌組成物を含むことを特徴とする加工食品。」

ここで、本願第4発明は、本願第1発明?本願第3発明を択一的に引用しているところ、引用される本願第1発明は、
「【請求項1】食品の保存性を向上させ、かつ、食中毒を予防する食品用抗菌組成物であって、
牛又は牛以外の哺乳動物由来の食中毒細菌及び食中毒性ウイルスに対する抗体と、
腐敗菌の増殖を抑制する抗菌性成分と、
を含有し、
前記抗体が、大腸菌O-111、大腸菌O-157、サルモネラ菌、リステリア菌、ブドウ状球菌、セレウス菌、腸炎ビブリオ菌、緑濃菌、ノロウイルスに対する抗体を含み、
前記抗菌性成分が、アミノ酸及びその塩類、乳化剤類、ビタミンB1類、アルコール類、植物由来の抗菌性を有する抽出成分、キトサン、ペクチン分解物、オキシダーゼからなる群から選ばれる1種または2種以上の抗菌組成物である
ことを特徴とする食品用抗菌組成物。」であるので、本願第1発明を引用する本願第4発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものと認められる。

「食品の保存性を向上させ、かつ、食中毒を予防する食品用抗菌組成物であって、
牛又は牛以外の哺乳動物由来の食中毒細菌及び食中毒性ウイルスに対する抗体と、
腐敗菌の増殖を抑制する抗菌性成分と、
を含有し、
前記抗体が、大腸菌O-111、大腸菌O-157、サルモネラ菌、リステリア菌、ブドウ状球菌、セレウス菌、腸炎ビブリオ菌、緑濃菌、ノロウイルスに対する抗体を含み、
前記抗菌性成分が、アミノ酸及びその塩類、乳化剤類、ビタミンB1類、アルコール類、植物由来の抗菌性を有する抽出成分、キトサン、ペクチン分解物、オキシダーゼからなる群から選ばれる1種または2種以上の抗菌組成物である
ことを特徴とする食品用抗菌組成物を含むことを特徴とする加工食品。」

3.引用発明
これに対して、当審で通知した平成25年12月19日付けの拒絶理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である特表2004-517115号公報(以下「引用例1」という。)、「機能性食品素材 アサマ乳清たんぱく」(2006年4月 アサマ化成株式会社発行」(平成25年4月26日の回答書に添付されたもの。以下「刊行物2」という。)及び特開2005-278505号公報(以下「引用例3」という。)には、それぞれ図面と共に次の事項が記載されている。

〔引用例1について〕
(1a)「【請求項1】
抗-大腸菌,抗-ヘリコバクター・ピロリ,抗-サルモネラ腸炎菌,及び抗-ネズミチフス菌を同時に含む抗-病原性バクテリア抗体を含有した卵の生産方法であって,
大腸菌抗原,ヘリコバクター・ピロリ抗原,サルモネラ腸炎菌抗原,及びネズミチフス菌抗原を水酸化アルミニウムにより所定割合に乳化させた混合菌乳化液1mlをひよこの片方側脚に1回接種し,
2回目からは乳化アジュバント(ISA25)を使用した混合菌乳化液を1週間隔に1mlずつ2回接種した後,
成長した産卵鶏に3カ月間隔に前記乳化アジュバント(ISA25)を使用した混合菌乳化液を前記混合菌乳化液と同一割合に0.5mlずつ2回接種することを包含して合計5回接種することを特徴とする,抗-病原性バクテリア抗体を含有した卵の生産方法。」(特許請求の範囲。下線は当審が付与。以下同様。)

(1b)「【請求項9】
請求項1?8中何れか一つに記載の方法により生産された,抗-病原性バクテリア抗体を含有した卵。」(特許請求の範囲)

(1c)「【請求項16】
抗-病原性バクテリア抗体(IgY)を含有した卵から分離させた卵黄を蒸留水により所定比率に1次希釈した後,
前記卵黄及び蒸留水の希釈溶液に,水溶性免疫蛋白質及び燐脂質が充分に分離されるように硫酸アンモニウムを添加して,所定期間,所定温度下で静置させて分離した上層部(脂質)を除去した分離液を再び蒸留水により所定割合に2次希釈した後,
所定温度下で静置させ沈澱させて分離することを特徴とする,IgY含有水溶性蛋白質の分離方法。」(特許請求の範囲)

(1d)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,腸炎を誘発させる大腸菌(E.coli),胃炎菌のヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)及び食中毒を誘発させるサルモネラ菌(Salmonella enteritidis and Salmonella typmurium)を抗原化させて幼いひよこに同時に接種することで,胃炎,腸炎及び食中毒を予防することができる抗-病原性バクテリア抗体(IgY)を卵一つに共有させる生産技術,独立的に4種類の抗原をひよこにそれぞれ接種した後,生産された各特殊抗体を適正割合に混合した抗-病原性バクテリア抗体の粉末組成物及び,該抗-病原性バクテリア抗体を有効性分とするヨーグルト,アイスクリーム等の乳加工食品に関するものである。」

(1e)「【0052】
7。4種類の抗体を含有したヨーグルトの製造
(イ)水溶性抗-病原性バクテリア抗体の抽出
水溶性抗-病原性バクテリア抗体の抽出は次のような方法で行った。
膜を除去した卵黄35gを250mlの瓶に入れた後,アルカリイオン水(pH9)35mlを添加して攪拌した。24時間低温(5?10℃)で放置した後,卵黄:アルカリイオン水(1:1)液の上澄液の18倍分量(1260ml)のアルカリイオン水(pH10)と混合し,48時間放置して抽出した後,上澄液をウルトラフィルタレーション(Ultra filteration)システムでホロー・ファイバー(Hollow fiber)膜分離方法により濃縮して,凍結乾燥した。
【0053】
(ロ)新鮮卵黄を含有したヨーグルトの製造
上述したようにヘリコバクター・ピロリ抗原,大腸菌抗原,サルモネラ腸炎菌抗原及びネズミチフス菌抗原を混合させた複合抗原を接種した後,生産された卵から卵黄を分離してヨーグルトの材料として使用した(表3,4)。ヨーグルトの製造工程では殺菌問題が非常に深刻であるにも拘らず,65℃で1分間処理するだけであるので病原菌を殺菌する条件としては適合せず,そのため,製品の流通期間が短縮される問題点が登場した。本発明ではこのような問題点を解決するために,サルモネラ菌IgYを卵黄自体に含ませることで,殺菌しなくてもヨーグルトの製造に使用し得る技術を開発した。
【0054】
(ハ)抽出した水溶性抗-病原性バクテリア抗体を含有したヨーグルト及びアイスクリームの製造
上述したように大腸菌抗原,サルモネラ腸炎菌抗原,ネズミチフス菌抗原及びヘリコバクター・ピロリ抗原を混合させた複合抗原を接種した後,生産された卵から卵黄を分離して,抽出した水溶性蛋白質(crude IgY)粉末を添加した。アイスクリーム及びヨーグルトの製造配合比は次の表1,2,3,4で提示したものと同様である。」

(1f)【表1】には、以下の内容が記載されている。
「 4種類の抗-病原性バクテリア抗体含有アイスクリームの配合比の例
原料 配合比A 配合比B 配合比C
バター 5.0% 5.0% 8.0%
牛乳 36.0 23.0 40.0
乳漿粉末 - - 3.0
全脂粉乳 15.6 14.6 11.0
脱脂粉乳 - - 4.0
白砂糖 5.0 5.0 5.5
水飴(70%ブリックス) 14.5 13.5 14.5
リゾチーム 0.5 0.5 0.5
安定剤 0.6 0.6 0.6
抗-混合菌*卵黄粉末 5.0 - -
抗-混合菌*卵黄IgY抽出粉末 - - 0.6
抗-混合菌*卵黄 - 15.0 -
香料 適当量 適当量 適当量
水 17.8 17.8 2.3
* 混合菌は4種類の菌を同時接種した後生産された卵黄 」

上記記載事項1a?1f及び図面を総合すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「バター、牛乳、乳漿粉末、全脂粉乳、脱脂粉乳、白砂糖、水飴(70%ブリックス)、リゾチーム、安定剤、並びに大腸菌抗原、サルモネラ腸炎菌抗原、ネズミチフス菌抗原及びヘリコバクター・ピロリ抗原を混合させた複合抗原をひよこに接種した後、成長した産卵鶏から生産された卵から卵黄を分離して抽出した水溶性蛋白質(crude IgY)粉末である抗-混合菌卵黄IgY抽出粉末を添加したアイスクリーム。」

〔引用例2について〕
(2a)「弊社は、「母乳栄養」の観点から乳清たんぱくの潜在力に注目し、特に乳清たんぱく中の抗体をそのまま加工食品に活かすことを考えました。
ここに、自然免疫抗体を豊富に含むアサマ乳清たんぱくを開発し、非加熱ないし65℃以下の低温加熱殺菌食品への応用をご提案いたします。」(第1頁下から4?末行)

(2b)「■腸内でできた細菌毒素を無害化します

大腸菌、ブドウ球菌などの悪玉菌は、腸内で細菌毒素(エンドトキシン・エンテロトキシンなど)を産生し、これが吸収されて免疫機能を乱し、リウマチなどの自己免疫病やアレルギー・アトピーの発症に関係することが報告されています(4、5、6)。
アサマ乳清たんぱくは表1のように、細菌と細菌毒素に対する抗体が含まれていますので、これらの細菌を無害化(排泄)し、毒素も無害化(中和)します(7)。

表1 アサマ乳清たんぱくに含まれる主な抗体
エンドトキシンに対する抗体 エンテロトキシン(SEB)に対する抗体
大腸菌O-157に対する抗体 大腸菌O-111に対する抗体
サルモネラ菌に対する抗体 クレブシエラ菌に対する抗体
ピロリ菌に対する抗体 セレウス菌に対する抗体
緑膿菌に対する抗体 アルカリゲネス菌に対する抗体
ブドウ球菌に対する抗体 プロテウス菌に対する抗体
セラチア菌に対する抗体 エンテロバクター菌に対する抗体
肺炎球菌に対する抗体 クロストリジウム菌に対する抗体」(第2ページ下から15?末行及び表1)

(2c)「■細菌やウイルスによる腸炎に有効です

牛乳に含まれる抗体は大腸菌、ピロリ菌、サルモネラ菌、キャンピロバクタ-、緑膿菌、クロストリジウム、コレラ菌、ロタウイルス腸炎、クリストスポリジウム菌などによる感染や下痢に有効であること、また、エイズ(HIV)患者の下痢に有効であることが、ヒトや動物試験で報告されています(表2)(1)。
また、免役しない牛の初乳も、ヒトの病原菌による腸炎に有効であることが報告されました(8,9)。
アサマ乳清たんぱく中には初乳の有効成分が5%以上含まれています。」(第3ページ1?6行)

(2d)「アサマ乳清たんぱくは、生乳由来のたんぱくで抗体を多く含み、ミルク特有の風味を持っています。前述のような機能性の付与の目的で、機能性食品の素材として幅広く利用いただけます。
乳清たんぱく中の抗体は熱に弱いため、一般に65℃以上に加熱すると失活してしまいますが、共存する成分によって安定性は異なります。また、乳清たんぱくは乳酸菌発酵食品等の発酵には影響を与えません。

乳 製 品:加工乳、乳飲料、ヨーグルト、乳酸菌飲料 等
飲 料:スポーツ飲料、野菜/果汁飲料 等
菓 子:錠菓、キャンディ、チョコレート、シリアル、チューインガム等
デザート :アイスクリーム、プリン、ゼリー、ババロア 等
スプレッド:クリームチーズ、マヨネーズ、ピーナッツ、コンデンスミルク等
粉末食品 :ココア、抹茶粉末、ふりかけ 等 」(第3ページ下から12?2行)

上記記載事項2a?2dを総合すると、引用例2には、次の技術的事項(以下「引用例2記載の技術的事項」という。)が記載されている。

「アサマ乳清たんぱくは、牛乳を含む生乳由来のたんぱくで抗体を多く含み、主な抗体は、エンドトキシンに対する抗体、エンテロトキシン(SEB)に対する抗体、大腸菌O-157に対する抗体、大腸菌O-111に対する抗体、サルモネラ菌に対する抗体、クレブシエラ菌に対する抗体、ピロリ菌に対する抗体、セレウス菌に対する抗体、緑膿菌に対する抗体、アルカリゲネス菌に対する抗体、ブドウ球菌に対する抗体、プロテウス菌に対する抗体、セラチア菌に対する抗体、エンテロバクター菌に対する抗体、肺炎球菌に対する抗体及びクロストリジウム菌に対する抗体であり、アイスクリームの素材として利用することができること。」

〔引用例3について〕
(3a)「【0012】
静菌剤としては、食品の保存に用いられるものであれば特に制限なく使用できるが、好ましくは、しらこたん白、ポリリジン、ナイシン、分解ペクチン、ホップ抽出物、唐辛子抽出物、カンゾウ油性抽出物、卵白リゾチーム、酢酸、酢酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム、グリシン、アラニン、焼成カルシウム、グリセリン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる1種または2種以上である。」

4.対比・判断
4-1.本願発明 について
本願発明と引用発明とを対比すると、各文言の意味、機能または作用等からみて、後者の「アイスクリーム」及び「サルモネラ腸炎菌」は、それぞれ前者の「加工食品」及び「サルモネラ菌」に相当する。
後者の「リゾチーム」に関して、リゾチームが抗菌作用を有することは、当技術分野では本出願前周知の事項であるから(上記記載事項(3a)等参照。)、前者の「抗菌性成分」といえる。そして、抗菌性成分であるリゾチームが腐敗菌に対して抗菌作用を示して、腐敗菌の増殖を抑制することは明らかである。また、後者の「リゾチーム」が、前者の「抗菌組成物」の「1種」であることも明らかである。
後者の「大腸菌抗原、サルモネラ腸炎菌抗原、ネズミチフス菌抗原及びヘリコバクター・ピロリ抗原を混合させた複合抗原をひよこに接種した後、成長した産卵鶏から生産された卵から卵黄を分離して、抽出した水溶性蛋白質(crude IgY)粉末である抗-混合菌卵黄IgY抽出粉末」は、食中毒を誘発させるサルモネラ菌に対する抗体を含むから、前者の「食中毒細菌」「に対する抗体」を含むものといえる。また、後者の「抗-混合菌卵黄IgY抽出粉末」と、前者の「大腸菌O-111、大腸菌O-157、サルモネラ菌、リステリア菌、ブドウ状球菌、セレウス菌、腸炎ビブリオ菌、緑濃菌、ノロウイルスに対する抗体」を含むものとは、「サルモネラ菌を含む複数種類の菌に対する抗体」を含む点で共通する。
後者の抗菌性成分である「リゾチーム」及び食中毒細菌に対する「抗-混合菌卵黄IgY抽出粉末」と、前者の「食品の保存性を向上させ、かつ、食中毒を予防する食品用抗菌組成物」とは、「食品の保存性を向上させ、かつ、食中毒を予防する食品用抗菌物」という点で共通する。
後者の「バター、牛乳、乳漿粉末、全脂粉乳、脱脂粉乳、白砂糖、水飴(70%ブリックス)、リゾチーム、安定剤、並びに大腸菌抗原、サルモネラ腸炎菌抗原、ネズミチフス菌抗原及びヘリコバクター・ピロリ抗原を混合させた複合抗原をひよこに接種した後、成長した産卵鶏から生産された卵から卵黄を分離して、抽出した水溶性蛋白質(crude IgY)粉末である抗-混合菌卵黄IgY抽出粉末を添加したアイスクリーム」と、前者の「食品用抗菌組成物を含むことを特徴とする加工食品」とは、「食品用抗菌物を含む加工食品」という点で共通する。

そこで本願発明の用語を用いて表現すると、両者は次の点で一致する。

(一致点)

「食品の保存性を向上させ、かつ、食中毒を予防する食品用抗菌物であって、
食中毒細菌に対する抗体と、
腐敗菌の増殖を抑制する抗菌性成分と、
を含有し、
前記抗体が、サルモネラ菌を含む複数の菌に対する抗体を含み、
前記抗菌性成分が、1種の抗菌組成物である
食品用抗菌物を含む加工食品。」

そして、両者は、次の点で相違する。

(相違点1)
食品用抗菌物について、本願発明では食品用抗菌組成物とされ、抗菌性成分について、アミノ酸及びその塩類、乳化剤類、ビタミンB1類、アルコール類、植物由来の抗菌性を有する抽出成分、キトサン、ペクチン分解物、オキシダーゼからなる群から選ばれる1種または2種以上の抗菌組成物としているのに対して、引用発明ではリゾチームと抗-混合菌卵黄IgY抽出粉末とされ、抗菌性成分について、リゾチームとされている点。

(相違点2)
抗体について、本願発明では牛又は牛以外の哺乳動物由来であり、大腸菌O-111、大腸菌O-157、リステリア菌、ブドウ状球菌、セレウス菌、腸炎ビブリオ菌、緑濃菌及びノロウイルスに対する抗体を含み、食中毒性ウイルスにも対する抗体を含んでいるのに対して、引用発明では、鶏由来であり、大腸菌O-111、大腸菌O-157、リステリア菌、ブドウ状球菌、セレウス菌、腸炎ビブリオ菌、緑濃菌及びノロウイルスに対する抗体を含んでいない点。

そこで、上記各相違点について検討する。

(相違点1の判断)
複数種類の抗菌物を添加するに際して組成物として配合することは、普通のことであり、リゾチームや抗-混合菌卵黄IgY抽出粉末を食品用抗菌組成物とすることも当業者が適宜なし得た事項である。
また、抗菌性成分として、引用例3に静菌剤として挙げられている、しらこたん白、ポリリジン、ナイシン、分解ペクチン、ホップ抽出物、唐辛子抽出物、カンゾウ油性抽出物、卵白リゾチーム、酢酸、酢酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリム、グリシン、アラニン、焼成カルシウム、グリセリン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる1種または2種以上を含有するものは、食品の保存に用いられる周知のものであり、引用発明のリゾチームと同様の抗菌性成分といえる。
そして、上記の引用例3の静菌剤は、抗菌性成分として、アミノ酸、乳化剤類、植物由来の抗菌性を有する抽出成分及びペクチン分解物を例示するものである。
したがって、引用発明のアイスクリームに用いる抗菌性成分として、引用例3の食品に用いる静菌剤を適用して「アミノ酸、乳化剤類、植物由来の抗菌性を有する抽出成分、ペクチン分解物からなる群から選ばれる1種または2種以上」のものとすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
また、食品に添加する抗菌性成分として、アミノ酸塩、ビタミンB1類、アルコール類、キトサン、オキシターゼも、文献を提示するまでもなくよく知られたものであるから、これらを引用発明において用いることも当業者であれば容易に想到し得たことである。

以上のとおりであるから、引用発明において、相違点1に係る特定事項を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

(相違点2の判断)
引用例2記載の技術的事項より、引用例2のアサマ乳清たんぱくは、牛乳を含む生乳由来のたんぱくで抗体を多く含むものであるから、当該抗体は牛由来のものといえ、また、サルモネラ菌を含め複数種類の菌に対する抗体を含み、アイスクリームに利用することができるものであるが、リステリア菌、腸炎ビブリオ菌及びノロウイルスに対する抗体については記載されていない。
そして、本願発明において含まれるリステリア菌、腸炎ビブリオ菌及びノロウイルスに対する抗体が、普通に得られる乳由来の乳清タンパク中に含まれる自然免疫抗体を利用するものであり、免疫等の処理を行わずに普通の飼育方法で飼育した牛が自然免疫により獲得した抗体であって(平成25年4月25日付け回答書第3ページ21?25行)、本願明細書には、抗体として乳清タンパク(「アサマWPC-80」)に含まれるもの以外は記載されていないことから、本願発明で特定された菌及びウイルスに対する抗体は、上記乳清タンパクに含まれる抗体を列挙したに過ぎないとしても、引用例2の乳清たんぱくに含まれる抗体は「自然免疫抗体」であり(上記記載事項2a)、その原料となる乳を採取する牛も免役しない普通の飼育方法により飼育されているとはいえるが、当該牛が自然免疫によりリステリア菌、腸炎ビブリオ菌及びノロウイルスに対する抗体を必ず獲得しているという証拠はない。さらに、引用例2において、上記記載事項2cで示される自然免疫抗体以外の抗体について特段言及はなく、また、乳に含まれる抗体の有無を測定する方法についても何等記載がない。
そうすると、引用発明に引用例2に乳清タンパクを適用しても、リステリア菌、腸炎ビブリオ菌及びノロウイルスに対する抗体を含むものとすることは、当業者といえども想到し得ず、容易になし得たこととは言えない。

以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明、引用例2、引用例3及び周知の事項に基づて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

4-2.本願発明以外の本願第1発明?本願第4発明について
本願発明以外の本願第1発明?本願第4発明は、本願発明と同様に、それぞれ上記相違点2を有しているから、上記4-1.の相違点2の判断と同様の理由により、引用発明、引用例2、引用例3及び周知の事項に基づて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

5.むすび
以上のとおり、本願第1発明?本願第4発明は、引用発明、引用例2、引用例3及び周知の事項に基づて、当業者が容易に発明をすることができたと
はいえないから、本願を原査定の理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-03-18 
出願番号 特願2006-148691(P2006-148691)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A23L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐藤 巌伊藤 良子  
特許庁審判長 竹之内 秀明
特許庁審判官 山崎 勝司

鳥居 稔
発明の名称 食品用抗菌組成物  
代理人 吉永 貴大  

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