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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16F |
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管理番号 | 1285395 |
審判番号 | 不服2013-14511 |
総通号数 | 172 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-04-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-07-29 |
確定日 | 2014-03-25 |
事件の表示 | 特願2009- 70887「防振装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年10月 7日出願公開、特開2010-223324、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成21年3月23日の出願であって、平成24年12月28日付けで拒絶理由が通知され、平成25年2月8日付けで手続補正がされ、平成25年4月22日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成25年7月29日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1?5に係る発明は、平成25年2月8日付け手続補正で補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明の特許請求の範囲は次のとおりである。 「【請求項1】 振動発生部と振動受け部とのうちいずれか一方に連結される筒状の第1取付部材及び他方に連結される第2取付部材と、 前記第1取付部材と前記第2取付部材とを弾性的に連結する弾性体と、 液体が封入された前記第1取付部材内の液室を、前記弾性体を壁面の一部とする一方側の主液室と他方側の副液室とに区画する仕切り部材と、を備えた液体封入型の防振装置であって、 前記仕切り部材には、 前記主液室と前記副液室とを連通させ、シェイク振動の入力に対して液柱共振を生じさせる第1制限通路と、 流通抵抗が前記第1制限通路より小さく、且つ、アイドル振動の入力に対して液柱共振を生じさせる第2制限通路と、 前記主液室内の液圧変動に応じて、前記第2制限通路と前記副液室との連通及びその遮断を切り替える切替機構と、が設けられ、 前記第2制限通路には、アイドル振動の入力時に該通路内で液柱共振を生じさせるように弾性変形し、且つ、前記主液室と前記副液室との連通を遮断する薄膜体が配設され、 前記仕切り部材は、前記主液室及び前記副液室にそれぞれ連通され、内周面にオリフィス開口部が形成されたシリンダ室を有し、 前記切替機構は、前記シリンダ室内を、前記第2制限通路の一部を構成すると共に前記副液室に連通したオリフィス空間と、前記第2制限通路から隔離されると共に前記主液室に連通した加圧空間と、に区画すると共に、主液室内の液圧変動に応じて両空間の拡縮方向に移動するピストン部材を有し、 前記オリフィス開口部は、前記第2制限通路における前記オリフィス空間と他の部分とを連通させていると共に、前記ピストン部材の移動によって閉塞或いは開放させられることを特徴とする防振装置。」 第3 原査定の理由の概要 上記の拒絶理由によれば、原査定の理由の概要は、次のとおりである。 この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ・請求項 1?3,5 ・引用文献 1及び2 ・備考 請求項1?3及び5に係る発明と引用文献1に記載された発明とを対比すると、引用文献1に記載された発明は、切替機構に相当する構成がない点で相違する(特に、引用文献1の[0024]?[0028]、[0036]?[0038]及び図1参照。)。 引用文献2に記載された発明には、シェイク振動時に移動するプランジャを備えた防振装置が記載されている(特に、引用文献2の[0021]?[0023]、[0035]?[0038]、[0044]?[0047]、図1及び図2参照。)。 引用文献1及び2に記載された発明は、共に、流体がオリフィスを通って振動を減衰するという共通の機能を有するものであるから、引用文献1及び2から請求項1?3及び5に係る発明とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。 ・請求項 4 ・引用文献等 1?5 ・備考 弾性板によってシェイク振動時に弾性変形して振動を吸収することは、本願出願前周知の技術である(例えば、文献3の[0038]及び図1、文献4の[0051]、[0054]及び図1、並びに文献4の[0038]、[0046]、[0048]及び図1参照。)。 ・請求項 6 ・引用文献等 1?6 ・備考 引用文献6には、オリフィス部材と仕切り板の中央部にゴム膜の変位を規制する格子を備える流体封入式防振装置が記載されている(特に、引用文献6の[0024]及び図1参照。)。 引用文献等一覧 1.特開平08-004823号公報 2.特開2004-003615号公報 3.特開2001-050333号公報 4.特開2000-266107号公報 5.特開2008-133937号公報 6.特開2003-294078号公報 第4 当審の判断 1.本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)について (1)引用例 (1-1)引用例1 原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-4823号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。 (あ)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、振動を発生する部材からの振動の伝達を防止する防振装置に関するものであり、特に、車両に搭載されるエンジンを支持するマウント類に適用可能なものである。」 (い)「【0009】 【課題を解決するための手段】請求項1による防振装置は、振動発生部及び振動受部の一方に連結される第1の取付部材と、振動発生部及び振動受部の他方に連結される第2の取付部材と、前記第1の取付部材と前記第2の取付部材との間に介在されて取付けられる弾性体と、内壁の少なくとも一部が前記弾性体により形成され且つ液体が封入された主液室と、前記主液室との間に介在される隔壁部材により前記主液室との間が隔離され且つ内壁の少なくとも一部が弾性変形可能に形成される第1の副液室と、前記隔壁部材に形成され且つ前記主液室と前記第1の副液室との間を連通する第1のオリフィスと、前記隔壁部材の前記主液室側に対向する部分に形成される第2の副液室と、前記主液室と前記第2の副液室との間を隔離する膜状に形成された弾性膜体と、前記第1の副液室と前記第2の副液室との間を連通し且つ前記第1のオリフィスより長さが短いか或いは断面積が大きい第2のオリフィスと、を有することを特徴とする。 【0010】請求項2による防振装置は、振動発生部及び振動受部の一方に連結される第1の取付部材と、振動発生部及び振動受部の他方に連結される第2の取付部材と、前記第1の取付部材と前記第2の取付部材との間に介在されて取付けられる弾性体と、内壁の少なくとも一部が前記弾性体により形成され且つ液体が封入された第1の主液室と、前記第1の主液室との間に介在される第1の隔壁部材により前記第1の主液室との間が隔離され且つ内壁の少なくとも一部が弾性変形可能に形成される第1の副液室と、前記第1の隔壁部材に形成され且つ前記第1の主液室と前記第1の副液室との間を連通する第1のオリフィスと、前記弾性体の一部を膜状にして形成された弾性膜体と、内壁の少なくとも一部が前記弾性膜体により形成され且つ液体が封入された第2の主液室と、前記第2の主液室との間に介在される第2の隔壁部材により前記第2の主液室との間が隔離され且つ内壁の少なくとも一部が弾性変形可能に形成される第2の副液室と、前記第2の主液室と前記第2の副液室との間を連通し且つ前記第1のオリフィスより長さが短いか或いは断面積が大きい第2のオリフィスと、を有することを特徴とする。」 (う)「【0023】 【実施例】本発明に係る防振装置の第1実施例を図1及び図2に示し、これらの図に基づき本実施例を説明する。 【0024】本実施例を表す図1に示すように、この防振装置100の下部側を形成する第1の取付部材である底板10の下部側には、振動受部である車体(図示せず)にこの防振装置100を図示しないナットの螺合により連結して固着する為のボルト12が突出している。そして、この底板10の周囲は立壁10Aとなっており、その上端部には円筒状に形成された支持円筒14が取付けられている。この支持円筒14は円板状のフランジ部14Aを有しており、このフランジ部14Aの外周端部が立壁10Aとかしめて固着されている。このフランジ部14Aの内周部から直角に筒部14Bが立設されており、この筒部14Bの上端部からテーパ状に広がる支持筒部14Cが連続されている。 【0025】支持筒部14Cの内周面には、円筒状をしたゴム製の弾性体16の外周面が加硫接着されており、この弾性体16の内周面は、中央部が下側に突出して形成された連結板19に加硫接着されている。 【0026】そして、連結板19の上方に位置して第2の取付部材となる頂板18がこの連結板19に溶接されて、連結板19の上部に頂板18が固定されている。 【0027】従って、弾性体16は頂板18と底板10との間に介在されて取り付けられることとなり、弾性体16と頂板18との間に連結板19が取り付けられることとなる。さらに、この頂板18の中央部から突出されるボルト20は振動発生部であるエンジンへの連結用として用いられることとなり、図示しないナットの螺合によりエンジンが固定される。 【0028】他方、立壁10Aと共にフランジ部14Aへダイヤフラム22の外周部分がかしめられて、ゴム製のダイヤフラム22が固着されており、このダイヤフラム22、支持円筒14及び弾性体16等の間には、これらの部材の内壁面で形成された液室26、28が設けられていて、例えば水、オイル等の液体が封入されている。そして、支持円筒14の筒部14B内には、弾性体16の薄肉となった部分を介して、図1及び図2に示すような合成樹脂製の隔壁部材42が嵌合されつつ配置されており、液室26、28を主液室26と第1の副液室28とに二分して区画している。」 (え)「【0032】一方、この隔壁部材42の上部には、中央に第2の副液室30に対向して開口部46Aが形成されたリング板46が、隔壁部材42に接着等の手段により固着されて配置されていて、このリング板46の開口部46Aに円盤状に形成されたゴム製のメンブラン48が配置されるように、開口部46Aの内周面にメンブラン48の外周面が加硫接着されている。従って、このメンブラン48が主液室26と第2の副液室30との間を隔離する膜状に形成された弾性膜体を構成する。尚、リング板46の小孔32に対向する箇所には、孔部47が穿設されている。 【0033】また、隔壁部材42の下面側には、円板状に形成された封止板50が接着等の手段により固着されつつ配置されており、この封止板50により下側が封止されて第2のオリフィス52となる溝部が、この隔壁部材42の下面に円環状に形成されている。そして、この第2のオリフィス52は、第1のオリフィス44より液体の通過抵抗を小さくすべく、第1のオリフィス44より長さを短くされると共に第1のオリフィス44より断面積を大きくされている。」 (お)「【0035】次に本実施例の作用を説明する。頂板18に搭載されるエンジンが作動すると、エンジンの振動が頂板18及び連結板19を介して弾性体16に伝達される。弾性体16は吸振主体として作用し、弾性体16の内部摩擦に基づく制振機能によって振動を吸収することによって、底板10に連結された車体側に振動が伝達され難くなる。 【0036】また、エンジンが発生した振動がシェイク振動(例えば、周波数15Hz未満の振動)等を含んだ低周波数の振動の場合、弾性体16の変形に伴って主液室26が拡縮し、これに合わせて第1のオリフィス44を介して主液室26に連通される第1の副液室28と主液室26との間で液体が流通して、第1のオリフィス44内での液体流動の粘性抵抗及び液体共振に基づく減衰作用で、防振効果を向上することができる。 【0037】さらに、エンジンが発生した振動がアイドル振動(例えば、周波数20?40Hzの振動)等を含んだ中程度の周波数の振動の場合、第1のオリフィス44が目詰まり状態となるが、主液室26の内壁の一部を構成することになるメンブラン48の変形に伴って、メンブラン48を介して主液室26と対向する第2の副液室30に、この中程度の周波数の振動が伝達される。 【0038】このため、第1のオリフィス44より液体の通過抵抗を小さくすべく、第1のオリフィス44より長さが短く形成されると共に断面積が大きく形成された第2のオリフィス52を介して、第1の副液室28と第2の副液室30との間で液体が流通して動ばね係数が下がり、中程度の周波数の振動に対する防振効果を向上することができる。 【0039】一方、エンジンが発生した振動がこもり音(例えば、周波数40Hzを超える振動)を生じさせるような高周波数の振動の場合、第1のオリフィス44及び第2のオリフィス52がそれぞれ目詰まり状態となるが、主液室26と第2の副液室30との間に介在されるメンブラン48に波打ち等の変形が生じ、このメンブラン48の変形により動ばね係数が下がった結果として、高周波数の振動が吸収されて防振効果を向上することができる。 【0040】尚、メンブラン48の直径Dの大きさを変更することにより、メンブラン48が吸収する振動の周波数が変化するので、例えばこもり音等が生じる周波数が異なる用途にこの防振装置100を採用する場合には、これに合わせて、容易に防振装置100の設計を変更することが可能となる。」 以上の事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「振動発生部と振動受け部とのうちいずれか一方に連結される筒状の第1取付部材及び他方に連結される第2取付部材と、 前記第1取付部材と前記第2取付部材とを弾性的に連結する弾性体16と、 液体が封入された前記第1取付部材内の液室を、前記弾性体16を壁面の一部とする一方側の主液室26と他方側の副液室28とに区画する隔壁部材42と、を備えた液体封入型の防振装置であって、 前記隔壁部材42には、 前記主液室26と前記副液室28とを連通させ、シェイク振動の入力に対して液柱共振を生じさせる第1のオリフィス44と、 流通抵抗が前記第1のオリフィス44より小さく、且つ、アイドル振動の入力に対して液柱共振を生じさせる第2のオリフィス52と、が設けられ、 前記第2のオリフィス52には、アイドル振動の入力時に該通路内で液柱共振を生じさせるように弾性変形し、且つ、前記主液室と前記副液室との連通を遮断するメンブラン48が配設される防振装置。」 (1-2)引用例2 原査定の拒絶の理由に引用された特開2004-3615号公報(以下、「引用例2」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。 (か)「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、振動を発生する部材からの振動の伝達を防止する防振装置に係り、特に、自動車のエンジンマウントやブッシュ等に適用可能な流体封入式の防振装置に採用可能なものである。」 (き)「【0021】 【発明の実施の形態】 次に、本発明に係る防振装置の第1の実施の形態を図1及び図2に示し、これらの図に基づき本実施の形態を説明する。 本実施の形態を表す図1及び図2に示すように、防振装置10の下部側を第1の取付部材である皿状の底板金具12が形成し、この底板金具12の下部には、図示しない車体にこの防振装置10を連結して固着する為のボルト14が植設されている。そして、この底板金具12の外側にはフランジ部12Aが設けられており、このフランジ部12Aの上部には、円筒状であって上側がフランジ状に拡がる形に形成された外筒金具16が配置されている。 【0022】 この外筒金具16の内周面には、円筒形状をしたゴム製の弾性体18の下部側を形成する薄肉ゴム層18Aが加硫接着されており、また、この弾性体18の上部側中央部は、第2の取付部材となる頂板金具20に加硫接着されている。そして、この頂板金具20の中央部から図示しないエンジンの連結用として用いられるボルト22が、上側に突出している 。 【0023】 弾性体18の下部であって弾性体18と空間を挟んだ位置には、薄肉ゴム層18Aを介して外筒金具16の内側に仕切部材28が嵌合されつつ配置されていて、これら弾性体18及び仕切部材28で区画された空間が主液室30を構成しており、例えば水、オイル、エチレングリコール等の液体が封入されている。従って、液体が封入された主液室30の隔壁がこれら弾性体18及び仕切部材28により構成されることになる。」 (く)「【0035】 以上より、第1開口部24Cを介して主液室30に繋がり、第2開口部26Fを介して副液室32に繋がると共に、環状リブ24Bを貫通する貫通部46により連通された空間が、アイドルオリフィス52とされており、このアイドルオリフィス52がアイドル振動吸収用の制限通路となっている。 【0036】 他方、図1及び図2に示すように、外周溝形成部26Aの二段の溝状空間が仕切部材28の周方向に沿って、仕切部材28の外周面にそれぞれ形成されており、これら二段の溝状空間が前述の第2連通部26Cで相互に繋がった構造となっている。そして、この外周溝形成部26Aの溝状空間と薄肉ゴム層18Aの内周面とで形成された通路がシェイク振動吸収用の制限通路となるシェイクオリフィス54とされている。このシェイクオリフィス54の一端側は、第1連通部26B及び上側部材24の開放部分を介して主液室30に連結されており、このシェイクオリフィス54の他端側は、第3連通部26Dを介して副液室32に連結されている。 【0037】 以上より、本実施の形態に係る防振装置10は、アイドルオリフィス52及びシェイクオリフィス54を介して、主液室30と副液室32とがそれぞれ連通されることになる。但し、アイドルオリフィス52は、シリンダ空間S内に摺動可能に嵌合されるプランジャ36が下降した場合に貫通部46が塞がれて、閉鎖されることになる。従って、図1に示すように、プランジャ36が上昇してアイドルオリフィス52が開放される位置と、図2に示すように、プランジャ36が下降してアイドルオリフィス52が閉鎖される位置との間で、プランジャ36が移動してプランジャ36の位置が切り換えられることで、アイドルオリフィス52が開閉されることになる。 【0038】 尚、本実施の形態では、アイドルオリフィス52の通路長さよりシェイクオリフィス54の通路長さの方が長く、アイドルオリフィス52の通路断面積よりシェイクオリフィス54の通路断面積の方が細くなっている。つまり、オリフィスの長さや断面積により制限通路での液柱共振周波数が決定されるので、上記の様な相違が生じることとなる。」 (け)「【0044】 以下に、本実施の形態に係る防振装置10の具体的な動作を説明する。 例えば車両が停止すると、エンジンがアイドルモードであるアイドリング運転となって振動の周波数が高く振幅が小さいアイドル振動(20?40Hz)が生じ、防振装置10にこの振動が加わる。この際、主液室30の液圧変動により生じる力よりも、プランジャ36を逆止弁34側に向かって付勢するコイルスプリング38の予圧縮荷重の方が大きい為、図1に示すように逆止弁34は閉じた状態となり、コイルスプリング38によりプランジャ36が押し上げられて、このプランジャ36がシリンダ空間S内の上方位置に静止した形となっている。 【0045】 そして、プランジャ36がシリンダ空間S内の上方で静止し、貫通部46が開かれるのに伴って、貫通部46及び第2開口部26Fを通過した液体がこのシリンダ空間S内で流動可能とされて、アイドルオリフィス52を開放する開放状態となる。この為、アイドルオリフィス52を介して主液室30と副液室32とが連通され、液体がアイドルオリフィス52を行き来することができるようになる結果、アイドルオリフィス52内で液体が液柱共振等して防振装置10の動ばね定数が低減され、アイドル振動が吸収される。 【0046】 また、本実施の形態では、この第2開口部26Fがコイルスプリング38の内周部分に位置していることから、液体の流路をコイルスプリング38の内周部分に配置できることなる。尚、このアイドルオリフィス52が開放された状態では、主液室30内からアイドルオリフィス52及びシェイクオリフィス54にそれぞれ液体が流入するが、アイドルオリフィス52はシェイクオリフィス54に比べて太く且つ短い為、液体の大部分はアイドルオリフィス52を介して主液室30と副液室32との間を流動することになる。 【0047】 一方、例えば車両走行時に、突起の乗り越し等でアイドル振動よりも比較的大きな振動入力があると、エンジンは重量とエンジンマウントの支持ばねで決定される周波数の強制振動(シェイク振動:15Hz未満)を励起され、防振装置10にこの振動が加わる。これにより、主液室30の液圧変動により生じる力も大きくなってコイルスプリング38の予圧縮荷重より大きくなる為、弁体34Aが下側にヒンジ部分廻りに開くのに伴って、液体が主液室30から流入し、この液体に押されてプランジャ36が、図2に示すようにコイルスプリング38の付勢力に抗しつつコイルスプリング38側である下方に移動され、主液室30の液圧変動の最大値とコイルスプリング38の付勢力とが釣り合う位置で、静止する。 【0048】 さらに、プランジャ36の外周部分によって貫通部46が塞がれて、アイドルオリフィス52の一部が確実に遮断されるアイドルオリフィス52の閉鎖状態となり、シェイクオリフィス54のみで主液室30と副液室32との間が連通される。この結果、シェイクオリフィス54内を液体が積極的に行き来して通過抵抗を受け、または液柱共振することによって、シェイク振動が吸収される。」 (2)対比 本願発明と引用発明とを対比すると、 後者の「隔壁部材42」は前者の「仕切り部材」に相当し、同様に、「第1のオリフィス44」は「第1制限通路」に、「第2のオリフィス52」は「第2制限通路」に、「メンブラン48」は「薄膜体」に、それぞれ相当する。 したがって、本願発明の用語に倣って整理すると、両者は、 「振動発生部と振動受け部とのうちいずれか一方に連結される筒状の第1取付部材及び他方に連結される第2取付部材と、 前記第1取付部材と前記第2取付部材とを弾性的に連結する弾性体と、 液体が封入された前記第1取付部材内の液室を、前記弾性体を壁面の一部とする一方側の主液室と他方側の副液室とに区画する仕切り部材と、を備えた液体封入型の防振装置であって、 前記仕切り部材には、 前記主液室と前記副液室とを連通させ、シェイク振動の入力に対して液柱共振を生じさせる第1制限通路と、 流通抵抗が前記第1制限通路より小さく、且つ、アイドル振動の入力に対して液柱共振を生じさせる第2制限通路と、が設けられ、 前記第2制限通路には、アイドル振動の入力時に該通路内で液柱共振を生じさせるように弾性変形し、且つ、前記主液室と前記副液室との連通を遮断する薄膜体が配設される防振装置。」である点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点] 本願発明の「仕切り部材」には、「前記主液室内の液圧変動に応じて、前記第2制限通路と前記副液室との連通及びその遮断を切り替える切替機構」が設けられ、 また、「前記仕切り部材は、前記主液室及び前記副液室にそれぞれ連通され、内周面にオリフィス開口部が形成されたシリンダ室を有し、 前記切替機構は、前記シリンダ室内を、前記第2制限通路の一部を構成すると共に前記副液室に連通したオリフィス空間と、前記第2制限通路から隔離されると共に前記主液室に連通した加圧空間と、に区画すると共に、主液室内の液圧変動に応じて両空間の拡縮方向に移動するピストン部材を有し、 前記オリフィス開口部は、前記第2制限通路における前記オリフィス空間と他の部分とを連通させていると共に、前記ピストン部材の移動によって閉塞或いは開放させられる」のに対し、 引用発明は、そのような事項を具備していない点。 (3)判断 (3-1)相違点について 引用発明は上記のような切替機構等を備えていないが、複数の振動に応じてオリフィスないし通路を切り替える機構を設けた防振装置は、広く知られている。例えば、引用例2には、防振装置において、「仕切り部材28には、主液室30及び副液室32にそれぞれ連通し、内周面に貫通部46が形成されたシリンダ室が形成され、シリンダ室内には、主液室30内の液圧変動に応じて移動する移動するプランジャ36が設けられ、アイドルオリフィス52を連通状態とする貫通部46は、プランジャ36の移動によって開閉される」という事項を備えたものが開示されている。 しかし、引用例2の該事項は、引用発明の第2のオリフィス52(第2制限通路)の単なる代替物ではなく、第2のオリフィス52に相当するアイドルオリフィス52に、貫通部46及びプランジャ36等からなる切替機構を追加した構成に相当する。また、引用発明の第2のオリフィス52に代替して引用例2の上記事項を設けようとすると、貫通部46及びプランジャ36と引用発明の他の事項との構成・配置上の調整が不可避の問題となる。さらに、引用発明は、引用例1(特に【0036】?【0038】)に記載されているように、オリフィスや通路等を開閉する切替機構を設けることなく、シェイク振動とアイドル振動を各オリフィスの液柱共振の作用によって減衰する発明であって、その構成によって十全な減衰作用・効果を奏する以上、引用例2の切替機構を追加する必要性・理由は特にない。以上からすると、引用発明に引用例2の上記事項を適用することが単なる設計的事項であるとはいえないとともに、格別の契機もなく、そのようにすることが当業者にとって容易になし得たということはできない。そのような格別の契機は見出し得ない。 仮に、構造の複雑化やコスト増大をいとわず、何らかの契機に基づいて引用発明に引用例2の上記事項を適用することを着想するに至ったとしても、そのようにすることが想到容易であるとは言い難い。すなわち、引用発明に引用例2の上記事項を適用しようとするとき、その切替機構を、引用発明の第2のオリフィス52の連通を開閉する機構とするのが道理であるが、(a)引用発明の主液室26と第2のオリフィス52(及び第2の副液室30)はメンブラン48により隔離されていること(本願発明では、本願明細書の【0051】等に記載されているように、主液室6と加圧空間23aは連通している。)、(b)引用例2(特に【0028】)では、プランジャ36の中央部には小さい貫通孔36Aが形成されており、プランジャ36によって2つの空間が区画されるとは必ずしもいえないこと、以上からすると、引用発明に引用例2の上記事項を適用したとき、相違点に係る本願発明の上記事項を充足しつつ、アイドル振動の入力時に第2のオリフィス52を連通し、かつシェイク振動の入力時に第2のオリフィス52を閉塞するように開閉する切替機構とすることができるのかどうか、少なからぬ技術上の問題・困難性が認められるとともに、また、そのようにするためには、切替機構を組み込んだ設計にあたって相当の検討と全体構造の相当の適応的変更を要することとなり、このような設計変更はもはや想到容易の範囲を超えるというべきである。 (3-2)効果について 本願発明の効果は、引用発明が奏し得る効果ではなく、また、引用発明に引用例2の事項を組み合わせた発明が奏し得る効果でもなく、格別のものである。 (4)まとめ したがって、本願発明は、引用発明に基づいて、あるいは、それと引用例2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 2.本願の請求項2?5に係る発明について 本願の請求項2?5に係る発明は、本願発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに特定事項を追加して限定したものであるから、上記の理由と同様の理由により、引用発明に基づいて、あるいは、それと引用例2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 第5 むすび 以上のとおり、本願の請求項に1?5に係る発明は、引用発明に基づいて、あるいは、それと引用例2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2014-03-12 |
出願番号 | 特願2009-70887(P2009-70887) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(F16F)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 鎌田 哲生 |
特許庁審判長 |
山岸 利治 |
特許庁審判官 |
島田 信一 森川 元嗣 |
発明の名称 | 防振装置 |
代理人 | 高橋 詔男 |
代理人 | 大槻 真紀子 |
代理人 | 仁内 宏紀 |
代理人 | 志賀 正武 |