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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B65G
管理番号 1287042
審判番号 不服2013-12103  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-26 
確定日 2014-04-24 
事件の表示 特願2010-114666「石炭貯蔵設備及び石炭貯蔵方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年12月 1日出願公開、特開2011-241050〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成22年5月18日の出願であって、平成24年10月18日付けで拒絶理由が通知されたのに対し、平成24年12月17日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年4月22日付けで拒絶査定がなされ、平成25年6月26日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成24年12月17日付けの手続補正書によって補正された明細書及び特許請求の範囲並びに願書に添付された図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「 【請求項1】
互いに区画され内部に石炭が貯蔵可能な複数の貯炭槽と、
前記複数の貯炭槽の上方に配置され石炭を受け入れる石炭受入れ部と、
前記複数の貯炭槽の上方に配置され前記石炭受入れ部に受け入れられた石炭を該複数の貯炭槽に搬入する石炭搬入装置と、
前記複数の貯炭槽それぞれにおける石炭が搬入された石炭搬入時を記憶する記憶部と、
前記複数の貯炭槽の下方に配置され該複数の貯炭槽に貯蔵された石炭を該貯炭槽の下方から払い出す払出装置と、
前記払出装置の下方に配置され該払出装置により払い出された石炭を搬出する石炭搬出路と、
前記石炭搬出路の下流側に配置され該石炭搬出路により搬出された石炭を外部装置に供給する石炭供給路と、
前記石炭搬出路の下流側に配置され該石炭搬出路により搬出された石炭を前記石炭受入れ部に返送する石炭返送路と、
前記石炭搬出路により搬出される石炭の搬送路を、前記石炭供給路側又は前記石炭返送路側に切り替える搬送路切替部と、
前記石炭搬出路に配置され該石炭搬出路を搬送される石炭に散水を施す散水装置と、
前記記憶部に記憶された石炭搬入時から所定時間経過した貯炭槽に貯蔵された石炭を所定の貯炭槽に積み替えるように判断し、前記払出装置、前記石炭返送路、前記搬送路切替部、前記石炭受入れ部及び前記石炭搬入装置を制御する積替制御部と、
前記積替制御部が石炭の積み替えを行うと判断した場合に、前記石炭搬出路を積み替えのために搬送される石炭に散水を施すように前記散水装置を制御する散水装置制御部と、
を備える石炭貯蔵設備。」

3.引用文献1
(1)引用文献1の記載
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開昭58-22204号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の記載がある。

(ア)「 本発明は、石炭貯蔵設備特に密閉貯蔵形式の場合における貯蔵石炭の酸化促進防止、発熱拡散等の管理を行うと共に、発火の早期発見と消火を行うことによつて、常に安全な状態に石炭を貯蔵できるようにした方法に関する。」(第1ページ右下欄第1行ないし第5行)

(イ)「 以下図示の実施例に基いて本発明方法を詳述すると、貯炭ヤード(7)より運搬車両(8)等によつてバンカー(1)に搬送された石炭は、傾斜コンベヤ等の横型運搬機(2)によつて垂直コンベヤ等による運搬機(3)に移送され、同運搬機(3)の上端よりシユート(9)等を介して、運搬機(3)と並設される密閉型貯炭槽(4)内に搬入される。この貯炭槽(4)には例えば、COガス検出器、温度計等の内部状況検出手段となる各種器具乃至装置(10)が具備されると共に、散水パイプ、不活性ガス輸送パイプあるいは各種の消化剤供給パイプ等の消火装置(11)も具備される。この密閉形貯炭槽(4)の排出底部に設置される石炭切出し装置(例えばコンベア等)(5)は、図示のように矢印A方向並びに矢印B方向の何れにも正逆切替運転可能に設置され、矢印A方向への搬出時にはその搬出端に定量供給機(6)が配置され、同供給器(6)を介して、例えば粉砕器、乾燥機等へ搬出コンベヤ(12)をへて移送されるようにし、これに対し矢印B方向への搬出時には、その搬出端は前記した運搬機(2)上に臨むことによつて、必要に応じシユートその他のバイパス路(13)を介し、あるいは直接運搬機(2)上に石炭が落下され、同運搬機(2)より再び運搬機(3)をへて貯炭槽(4)内に返ることにより、貯炭槽(4)内の石炭を槽(4)運搬機(2)(3)間に亘つて循環回走自在また返戻自在としたものである。また前記切出し装置(5)および運搬機(3)には、貯炭槽(4)におけると同様な散水パイプその他による消火装置(11)が具備される。
本発明では、貯炭槽(4)内に運搬機(2)(3)を介して搬入された石炭を、通常時にはその切出し装置(5)を矢印A方向に運転して定量供給機(6)側に搬出し、同供給機(6)をへてコンベヤ(12)により目的の粉砕機や乾燥機等へ供給するのであるが、切出し不要で貯炭をする場合には、例えば数時間/2日のように、定期的に切出し装置(5)を矢印B方向へ逆転させて、槽内の貯炭を運搬機(2)(3)をへて再び貯炭槽(4)内へ戻す循環回路を用いて石炭を循環露出させ、その酸化や発熱促進を妨げて正常な貯炭状態が得られるようにコントロールするのである。また、例えば矢印A方向へ石炭の切出し中に、内部状況検出手段である器具乃至装置(10)によつて、槽内の異常が検出された場合、例えばCOガス検出器の値が例えば50ppmを示した時には、切出し装置(5)を矢印B方向への運転に切替え、石炭を運搬機(2)(3)側へ循環させて酸化促進を停止し、あるいは発熱の拡散を図る等の処理を行い、更にそのCO値が80ppmを示した時には、矢印B方向への運転切替えと共に切出し装置(5)運搬機(3)側に例えば消火装置(11)によつて散水し、更に100ppm等になつた時には、貯炭槽(4)の上部から槽内に散水して発火から燃焼を停止させる等、貯炭槽(4)の内部の石炭状況に応じた各種の防止処理手段を行うようにするのであり、このように処理された石炭は、槽外に存在する場合は、切出し装置(5)から運搬機(2)(3)をへて槽(4)内に戻されることになる。」(第2ページ右上欄第3行ないし右下欄第17行)

(ウ)「 本発明によれば、密閉形貯炭槽(4)内の石炭を、定期的に槽内外に亘る循環回路に循環させることによつて、その酸化促進の防止、発熱の拡散等の発火に至る危険を未然に解消して、常に槽内石炭を安全な状態下で貯炭できるのであり、また石炭切出し中と貯蔵時を問わず、槽内部の石炭状態が危険な状態となつた時、これを直ちに槽内より出して最終的には散水その他の消火手段を含む同様の安全化処理を遅滞なく適切に行うことができるもので、事前の予防と事後の迅速な安全処理が確保でき、長期的にも短期的にも石炭の安全な保管と出入とが得られ、しかも正常化した石炭を再び槽内へ戻すことができ、その消火処理も最小の水やガス、消化剤の使用のみで足りることとなり、石炭の酸化促進、発熱促進、更には発火事故を的確に防ぐものとして優れたものである。(第2ページ右下欄第18行ないし第3ページ左上欄第13行)

(2)引用文献1記載の事項
上記(1)(ア)ないし(ウ)及び図面の記載から、以下の事項が分かる。

(エ)上記(1)(ア)ないし(ウ)及び図面の記載から、引用文献1には、石炭貯蔵設備が記載されており、該石炭貯蔵設備は、貯炭槽(4)と、傾斜コンベヤ等の横型運搬機(2)と、前記横型運搬機(2)に受け入れられた石炭を前記貯炭槽(4)に搬入する垂直コンベヤ等による運搬機(3)と、前記貯炭槽(4)の排出底部に設置される石炭切出し装置(5)と、前記石炭切出し装置(5)の矢印A方向の搬出端に配置され、該石炭切出し装置(5)により切り出された石炭を定量供給機(6)を介して粉砕器、乾燥機等へ搬出する搬出コンベヤ(12)と、前記石炭切出し装置(5)の矢印B方向の搬出端付近に、散水パイプその他による消火装置(11)を備えるものであることが分かる。

(オ)上記(1)(ア)ないし(ウ)及び図面の記載から、引用文献1に記載された石炭貯蔵設備において、前記石炭切出し装置(5)の矢印B方向の搬出端は、前記横型運搬機(2)上に臨むように配置され、前記石炭切出し装置(5)を矢印A方向並びに矢印B方向の何れにも正逆切替運転可能とすることにより、前記石炭切出し装置(5)において矢印B方向に搬出された石炭を前記横型運搬機(2)より前記運搬機(3)をへて貯炭槽(4)へ返戻自在としたものであることが分かる。

(カ)上記(1)(ア)ないし(ウ)及び図面の記載から、引用文献1に記載された石炭貯蔵設備において、切出し不要で貯炭をする場合には、例えば数時間/2日のように、定期的に切出し装置(5)を矢印B方向へ逆転させて、槽内の貯炭を運搬機(2)(3)をへて再び貯炭槽(4)内へ戻す循環回路を用いて石炭を循環露出させ、その酸化や発熱促進を妨げて正常な貯炭状態が得られるようにコントロールするものであることが分かる。

(キ)上記(1)(ア)ないし(ウ)及び図面の記載から、引用文献1に記載された石炭貯蔵設備において、例えば貯炭槽(4)が具備するCOガス検出器のCO値が80ppmを示した時等には、前記消火装置(11)によって散水して、貯炭槽(4)の内部の石炭状況に応じた各種の防止処理手段を行うものであることが分かる。

(3)引用文献1記載の発明
上記(1)及び(2)並びに図面を参酌すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用文献1記載の発明」という。)が記載されているといえる。

「貯炭槽(4)と、傾斜コンベヤ等の横型運搬機(2)と、前記横型運搬機(2)に受け入れられた石炭を前記貯炭槽(4)に搬入する垂直コンベヤ等による運搬機(3)と、前記貯炭槽(4)の排出底部に設置される石炭切出し装置(5)と、前記石炭切出し装置(5)の矢印A方向の搬出端に配置され、該石炭切出し装置(5)により切り出された石炭を定量供給機(6)を介して粉砕器、乾燥機等へ搬出する搬出コンベヤ(12)と前記石炭切出し装置(5)の矢印B方向の搬出端付近に、散水パイプその他による消火装置(11)を備え、
前記石炭切出し装置(5)の矢印B方向の搬出端は、前記横型運搬機(2)上に臨むように配置され、前記石炭切出し装置(5)を矢印A方向並びに矢印B方向の何れにも正逆切替運転可能とすることにより、前記石炭切出し装置(5)において矢印B方向に搬出された石炭を前記横型運搬機(2)より前記運搬機(3)をへて貯炭槽(4)へ返戻自在としたものであって、
切出し不要で貯炭をする場合には、例えば数時間/2日のように、定期的に切出し装置(5)を矢印B方向へ逆転させて、槽内の貯炭を運搬機(2)(3)をへて再び貯炭槽(4)内へ戻す循環回路を用いて石炭を循環露出させ、その酸化や発熱促進を妨げて正常な貯炭状態が得られるようにコントロールするものであり、
例えば貯炭槽(4)が具備するCOガス検出器のCO値が80ppmを示した時等には、前記消火装置(11)によって散水して、貯炭槽(4)の内部の石炭状況に応じた各種の防止処理手段を行う石炭貯蔵設備。」

4.引用文献2
(1)引用文献2の記載
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2007-45564号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の記載がある。

(ア)「【請求項1】
石炭サイロにおいて、
石炭貯蔵エリアを隔壁により複数個の区画に分けた槽と、
前記貯蔵エリアの上方に配置され、石炭を搬入する受入コンベアと、
前記槽の各々の上方に配置され、前記受入コンベアの石炭を槽内に搬入する積付機と、
前記槽の各々の下方に配置され、石炭を搬出する払出機と、
前記払出機の石炭を搬出する払出コンベアとを備え、
前記払出機は、比較的古い石炭を貯蔵する槽から順に石炭を払い出し、また、前記槽の上方に配置された積付機によって石炭を搬入し、下方に配置された払出機によって石炭を搬出することにより、貯蔵石炭の先入れ先出しを実行する、石炭サイロ。
【請求項2】
請求項1に記載の石炭サイロに於いて、更に、
前記払出コンベアから石炭を受け取って前記受入コンベアに引き渡す再循環コンベアを備え、発熱した石炭を空冷するための石炭再循環ルートが形成されている、石炭サイロ。
…(中略)…
【請求項9】
請求項5に記載の再循環制御システムにおいて、
更に、
石炭貯蔵時間を計測するタイマと、
石炭貯蔵場所のデータ及び前記タイマのデータから、各貯蔵石炭の貯蔵期間データを生成する貯蔵日数管理装置とを備え、
前記自然発火防止コントローラは、前記貯蔵期間データが所定期間を超えたとき、請求項4の再循環方法の実行を決定する、再循環制御システム。」(【特許請求の範囲】の請求項1ないし9)

(イ)「【0001】
本発明は、火力発電所の石炭サイロ、貯蔵石炭の再循環方法、貯蔵石炭の再循環制御システムに関する。
…(中略)…」(段落【0001】)

(ウ)「【0008】
しかし、サイロ方式においても、石炭を積んだ場合に発生する問題点がある。石炭の性質上、石炭を積んだ状態にしておくと、酸化反応が進み発熱する。そのまま放置すると、酸化反応は一層進んで高温になり、火災に至る場合もある。
【0009】
従って、石炭サイロの中で石炭の温度上昇をどのようにして防ぐかが問題となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、火力発電所の石炭貯蔵において、自然発火を防止するため、石炭の温度上昇を防ぐことができる石炭サイロを提供することを目的とする。
【0011】
更に、本発明は、火力発電所の石炭貯蔵において、自然発火を防止するため、貯蔵石炭の再循環方法を提供することを目的とする。
【0012】
更に、本発明は、火力発電所の石炭貯蔵において、自然発火を防止するため、貯蔵石炭の再循環制御システムを提供することを目的とする。
【0013】
本発明に係る石炭サイロは、石炭貯蔵エリアを隔壁により複数個の区画に分けた槽と、前記貯蔵エリアの上方に配置され、石炭を搬入する受入コンベアと、前記槽の各々の上方に配置され、前記受入コンベアの石炭を槽内に搬入する積付機と、前記槽の各々の下方に配置され、石炭を搬出する払出機と、前記払出機の石炭を搬出する払出コンベアとを備え、前記払出機は、比較的古い石炭を貯蔵する槽から順に石炭を払い出し、また、前記槽の上方に配置された積付機によって石炭を搬入し、下方に配置された払出機によって石炭を搬出することにより、貯蔵石炭の先入れ先出しを実行する。」(段落【0008】ないし【0013】)

(エ)「【0025】
以下、本発明に係る火力発電所の石炭サイロ及び貯蔵石炭の再循環制御システムの実施形態に関して、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図面においては、同じ要素に対しては同じ符号を付して、重複した説明を省略する。
【0026】
[火力発電所の石炭サイロ]
図1は、火力発電所における石炭サイロ3、ボイラ7、タービン10,11,12及び発電機13,14の関係を示す図である。なお、図を簡単に分かり易くするため、火力発電所を構成するその他の機器は省略してある。
石炭船1で火力発電所まで運ばれた石炭は、連続式揚炭機(アンローダ)2で船1からコンベア4に陸揚げされ、石炭サイロ3に運ばれて、実際に使用されるまでの期間、一時的に貯蔵される。
【0027】
その後、再びコンベア4により運ばれ、バンカ5から入れられた石炭は高性能微粉炭機6で粉末(微粉炭)にされてボイラ7に投入される。微粉炭はボイラ7内で燃焼して、給水8を高温(例えば、約600度C)の熱エネルギを有する蒸気9に変え、この蒸気が高圧タービン10や中圧タービン11で機械エネルギとなってこれを回転させ、これらに連結された発電機13を駆動して電気エネルギを生成する。また、余熱を低圧タービン12に導き、これに連結された発電機14も駆動している。
【0028】
図2は、石炭サイロの一例を示す図である。
図に示す石炭サイロ3は、周囲を鋼製シェル構造21で囲まれた型式鋼製角型集合サイロを呼ばれる石炭サイロであり、貯炭エリアとして複数個に仕切られた区画(「槽」と呼ぶ。)を備えている。図に示すように、石炭サイロの槽の配置は、縦方向にA,B,Cの3列で、各列は横方向に1,2,3,4の4つに分かれて、合計12槽からなっている。従って、各槽は、例えばA1,A2,…,B1,C1,D1と夫々呼ばれている。石炭サイロ3の上部には、換気集塵設備29が備えられている。
【0029】
石炭サイロ3において石炭の平均貯蔵期間を出来るだけ短くするため、原則として、石炭の石炭サイロへの搬入・搬出は「先入れ先出し」により運用される。「先入れ先出し」は、異なる槽間においても、また同じ槽内においても、実行される。従って、コンベア4(図1参照)で運ばれてきた新しい石炭は、石炭サイロ3の各槽の上部に設置された受入コンベア20に導かれ、積付機23により槽内の貯蔵石炭の上に落とされ搬入される。
一方、石炭使用時には、搬入日時の古い槽の石炭から優先的に搬出される。また、同じ槽内では、各槽の下部に貯蔵されている比較的貯蔵期間の長い石炭から、ホッパ25の近くに設置された払出機24によって払出コンベア(地下)22に送られ、搬出される。このようにして、異なる槽間においても、また同じ槽内においても、貯蔵石炭の先入れ先出しが実行されている。
…(中略)…
【0033】
石炭の温度が上がった場合の冷却方法としては、基本的には空冷である。例えば、温度の上がった貯蔵石炭をベルトコンベアで移動することで石炭の温度を下げることができる。石炭は、全く空気が存在しないところでは酸化反応をおこさないため発熱しないが、わずかな空気がゆっくりと流れるような状態で一番発熱しやすい。逆に、コンベア等を用いて搬送して大量の空気に触れる状態にすると、石炭の発熱量より放散熱量の方が多くなり、石炭の温度は下がる。従って、サイロに貯蔵されて一旦温度が上がった石炭に対しては、コンベアを用いてサイロ外に払い出して、再びサイロ内に戻す再循環をさせることとする。
【0034】
図4は、このサイロ内に貯蔵されて温度の上がった石炭を、後で説明する再循環制御システム(図5,6参照)の制御の下、再循環するシステムを説明する図である。
直方体形状の槽が12個用意されている。各槽を形成する隔壁は、各槽の隅部に鉛直方向にある主柱31と、隣接する主柱31間に隔壁を形成する鉛直方向の複数本の中間柱33及び水平方向のリング梁32とを有する。隔壁の下部は、図3で説明したホッパ25及び払出機24が設置されており、石炭39は矢印方向に運ばれ、図2で説明した払出コンベア(地下)22へと移動する。
【0035】
払出コンベア(地下)22で運ばれた石炭39の内、ボイラ7に送られる石炭は払出コンベア26に受け渡され、バンカ5へ送られる。一方、再循環される石炭は、再循環コンベア27へ受け渡される。種々のコンベアにより移動することで温度の上がった石炭は空冷することができる。温度の下がった石炭39は、複数ある受入コンベア20のいずれかに受け渡される。受入コンベア20と積付機23は、図2で説明した通りである。即ち、受入コンベア20は、石炭の新規搬入の際と同じように、石炭を積付機23に運び、再び元の槽又は空の槽に戻される。このようにして、温度の上がった貯蔵石炭39を空冷し、再び槽内に戻す石炭の再循環が行われる。」(段落【0025】ないし【0035】)

(オ)「【0038】
本実施形態の石炭サイロで貯蔵石炭39の自然発火を防止するための再循環制御方法は、次のように行っている。
【0039】
(a)原則として、「先入れ先出し」により運用する。即ち、サイロ3内ある古い石炭から先に出して平均貯炭期間を短くしている。図2及び3で説明したように、新規搬入の石炭は、各槽内に、積付機23によって上方から蓄積される。ボイラ7に送られる石炭は、比較的古い石炭の貯蔵された槽から、また各槽の下方から払出機24により引き出され、コンベア22,26により搬出される。こうして、貯蔵石炭の先入れ先出しを実現している。
【0040】
(b)優先払出・積替基準として、石炭の温度上昇防止に直接つながる基準を設けている。優先払出・積替基準の1つとして、期間の観点から、石炭搬入後から所定期間(例えば、1.5ヶ月)を超えて貯蔵する場合は、温度上昇防止のため、温度上昇の有無に拘わらず、コンベアによる再循環を行っている。
【0041】
この所定期間の根拠は、本出願人の電発石川火力の石炭昇温実績値、三隅発電所の昇温率の高い石炭(例えば、ブレアソール炭)の昇温実績値より決定している。
【0042】
各槽の石炭の搬入日時はタイマ40により計時され、搬入日時データは貯蔵期間管理装置41に送られる。貯蔵期間管理装置41は、この搬入日時に基づき貯蔵期間を算出し、貯蔵期間データを、自然発火防止コントローラ50に送っている。」(段落【0038】ないし【0042】)

(カ)「【0056】
次に、図6に示す再循環制御を実行するコンピュータ・プログラムのフローを説明する。このプログラムは、自然発火防止コントローラ50のCPU(図示せず。)で実行される。
【0057】
ステップS01で、石炭サイロ3の或る槽内に、貯蔵石炭が有るか否かを判定される。石炭が無い場合には終了する。石炭がある場合、ステップS02に進む。
【0058】
ステップS02で、貯蔵期間管理装置41から石炭搬入後からの貯蔵日数データが読み込まれる。
【0059】
ステップS03で、この貯蔵日数が所定期間(例えば、1.5ヶ月)を超えているか否かが判定される。超えていれば、ステップS11に進み、石炭積替え手段51を駆動し、再循環システム(図4参照)を駆動する。超えていなければ、ステップS04に進む。」(段落【0056】ないし【0059】)

(2)引用文献2記載の事項
上記(1)(ア)、(オ)及び(カ)並びに図面の記載から、以下の事項が分かる。

(キ)引用文献2に記載された石炭サイロにおいて、「貯蔵期間管理装置41」は、槽内に貯蔵された石炭が有る場合に、石炭搬入後からの貯蔵日数データが読み出すものであるから、複数個の区画に分けた槽のそれぞれに貯蔵された石炭が搬入された石炭搬入時を記憶する記憶手段を当然に備えているものと認められる。

(3)引用文献2記載の技術
上記(1)、(2)及び図面を参酌すると、引用文献2には次の技術(以下、「引用文献2記載の技術」という。)が記載されているといえる。

「石炭貯蔵エリアを隔壁により複数個の区画に分けた槽と、
前記貯蔵エリアの上方に配置され、石炭を搬入する受入コンベア20と、
前記槽の各々の上方に配置され、前記受入コンベア20の石炭を槽内に搬入する積付機23と、
複数個の区画に分けた槽のそれぞれに貯蔵された石炭が搬入された石炭搬入時を記憶する記憶手段を備え、槽内に貯蔵された石炭が有る場合に、石炭搬入後からの貯蔵日数データが読み出される貯蔵期間管理装置41と、
前記槽の各々の下方に配置され、石炭を搬出する払出機24と、
前記払出機24の下方に配置され、前記払出機24により払い出された石炭を搬出する払出コンベア(地下)22と、
前記払出コンベア(地下)22の下流側に配置され該払出コンベア(地下)22より搬出された石炭をボイラ7に供給する払出コンベア26と、
前記払出コンベア(地下)22の下流側に配置され該払出コンベア(地下)22より搬出された石炭を受入コンベア20に受け渡す再循環コンベア27と、
前記貯蔵期間管理装置41から読み出した石炭搬入後からの貯蔵日数が所定期間(例えば、1.5ヶ月)を超えているときに、再循環システムを駆動する石炭積み替え手段51を有する石炭サイロに係る技術。」

5.対比
本願発明と引用文献1記載の発明とを対比すると、引用文献1記載の発明における「貯炭槽(4)」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明における「貯炭槽」に相当し、引用文献1記載の発明における「横型運搬機(2)」は、貯炭ヤードから運搬された石炭を受け入れる機能を有すると認められるから、本願発明における「石炭受入れ部」に相当する。
また、引用文献1記載の発明における「横型運搬機(2)に受け入れられた石炭を貯炭槽(4)に搬入する垂直コンベヤ等による運搬機(3)」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明における「貯炭槽の上方に配置され石炭受入れ部に受け入れられた石炭を貯炭槽に搬入する石炭搬入装置」に相当する。
そして、引用文献1記載の発明における「貯炭槽(4)の排出底部」は、「貯炭槽の下部付近に設けられ貯炭槽に貯蔵された石炭を貯炭槽の下方から払い出す払出機構」という限りにおいて、本願発明における「複数の貯炭槽の下方に配置され複数の貯炭槽に貯蔵された石炭を貯炭槽の下方から払い出す払出装置」に相当する。
また、引用文献1記載の発明における「貯炭槽(4)の排出底部に設置される石炭切出し装置(5)」は「石炭切出し装置(5)の矢印B方向の搬出端は、横型運搬機(2)上に臨むように配置され、石炭切出し装置(5)を矢印A方向並びに矢印B方向の何れにも正逆切替運転可能とすることにより、石炭切出し装置(5)において矢印B方向に搬出された石炭を横型運搬機(2)より運搬機(3)をへて貯炭槽(4)へ返戻自在とした」ものであるから、「払出機構より払い出された石炭を搬出して、搬送する搬送設備」という限りにおいて、本願発明における「払出装置の下方に配置され該払出装置により払い出された石炭を搬出する石炭搬出路」に相当する。
そして、引用文献1記載の発明における「粉砕器、乾燥機等」は、石炭貯蔵設備の外部に設けられた設備であるから、本願発明における「外部装置」に相当し、引用文献1記載の発明における「前記石炭切出し装置(5)の矢印A方向の搬出端に配置され、該石炭切出し装置(5)により切り出された石炭を定量供給機(6)を介して粉砕器、乾燥機等へ搬出する搬出コンベヤ(12)」は、「搬送設備の下流側に配置され該搬送設備により搬送された石炭を外部装置に供給する石炭供給路」という限りにおいて、本願発明における「前記石炭搬出路の下流側に配置され該石炭搬出路により搬出された石炭を外部装置に供給する石炭供給路」に相当する。
さらに、引用文献1記載の発明において「石炭切出し装置(5)において矢印B方向に搬出された石炭を横型運搬機(2)より運搬機(3)をへて貯炭槽(4)へ返戻」することは、本願発明において「石炭の積み替えを行う」ことに相当するから、引用文献1記載の発明における「石炭貯蔵設備」が「切出し不要で貯炭をする場合には、例えば数時間/2日のように、定期的に切出し装置(5)を矢印B方向へ逆転させて、槽内の貯炭を運搬機(2)(3)をへて再び貯炭槽(4)内へ戻す循環回路を用いて石炭を循環露出させ、その酸化や発熱促進を妨げて正常な貯炭状態が得られるようにコントロールする」ことは、「石炭搬入時から所定時間経過した貯炭槽に貯蔵された石炭を所定の貯炭槽に積み替える」という限りにおいて、本願発明における「積替制御部」が「記憶部に記憶された石炭搬入時から所定時間経過した貯炭槽に貯蔵された石炭を所定の貯炭槽に積み替えるように判断し、払出装置、石炭返送路、搬送路切替部、石炭受入れ部及び石炭搬入装置を制御する」ことに相当する。
そして、引用文献1記載の発明における「散水パイプその他による消火装置(11)」は、「搬送設備に配置され該搬送設備を搬送される石炭に散水を施す散水装置」という限りにおいて、本願発明における「石炭搬出路に配置され該石炭搬出路を搬送される石炭に散水を施す散水装置」に相当する。
さらにまた、引用文献1記載の発明における「散水パイプその他による消火装置(11)」は、石炭切出し装置(5)の矢印B方向の搬出端付近に具備されていることから、石炭の積み替えを行うときに用いるものであると認められ、引用文献1記載の発明における石炭切出し装置(5)が具備する「散水パイプその他による消火装置(11)」が「例えば貯炭槽(4)が具備するCOガス検出器のCO値が80ppmを示した時等には、前記消火装置(11)によって散水して、貯炭槽(4)の内部の石炭状況に応じた各種の防止処理手段を行う」ことは、「散水装置により搬送設備を積み替えのために搬送される石炭に散水を施す」という限りにおいて、本願発明において備える「散水装置制御部」が「積替制御部が石炭の積み替えを行うと判断した場合に、石炭搬出路を積み替えのために搬送される石炭に散水を施すように前記散水装置を制御する」ことに相当する。

したがって両者は、
「貯炭槽と、石炭受入れ部と、貯炭槽の上方に配置され石炭受入れ部に受け入れられた石炭を貯炭槽に搬入する石炭搬入装置と、貯炭槽の下部付近に設けられ貯炭槽に貯蔵された石炭を貯炭槽の下方から払い出す払出機構と、払出機構より払い出された石炭を搬出して、搬送する搬送設備と、搬送設備の下流側に配置され該搬送設備により搬送された石炭を外部装置に供給する石炭供給路と、搬送設備に配置され該搬送設備を搬送される石炭に散水を施す散水装置を備え、
石炭搬入時から所定時間経過した貯炭槽に貯蔵された石炭を所定の貯炭槽に積み替え、
散水装置により搬送設備を積み替えのために搬送される石炭に散水を施す石炭貯蔵設備。」
である点で一致し、次の点で相違する。

〈相違点〉
(a)「貯炭槽と、石炭受入れ部と、貯炭槽の上方に配置され石炭受入れ部に受け入れられた石炭を貯炭槽に搬入する石炭搬入装置と、貯炭槽の下部付近に設けられ貯炭槽に貯蔵された石炭を貯炭槽の下方から払い出す払出機構と、払出機構より払い出された石炭を搬出して、搬送する搬送設備と、搬送設備の下流側に配置され該搬送設備により搬送された石炭を外部装置に供給する石炭供給路と、搬送設備に配置され該搬送設備を搬送される石炭に散水を施す散水装置を備え、石炭搬入時から所定時間経過した貯炭槽に貯蔵された石炭を所定の貯炭槽に積み替え」ることに関し、
本願発明においては、「互いに区画され内部に石炭が貯蔵可能な複数の貯炭槽と、
前記複数の貯炭槽の上方に配置され石炭を受け入れる石炭受入れ部と、
前記複数の貯炭槽の上方に配置され前記石炭受入れ部に受け入れられた石炭を該複数の貯炭槽に搬入する石炭搬入装置と、
前記複数の貯炭槽それぞれにおける石炭が搬入された石炭搬入時を記憶する記憶部と、
前記複数の貯炭槽の下方に配置され該複数の貯炭槽に貯蔵された石炭を該貯炭槽の下方から払い出す払出装置と、
前記払出装置の下方に配置され該払出装置により払い出された石炭を搬出する石炭搬出路と、
前記石炭搬出路の下流側に配置され該石炭搬出路により搬出された石炭を外部装置に供給する石炭供給路と、
前記石炭搬出路の下流側に配置され該石炭搬出路により搬出された石炭を前記石炭受入れ部に返送する石炭返送路と、
前記石炭搬出路により搬出される石炭の搬送路を、前記石炭供給路側又は前記石炭返送路側に切り替える搬送路切替部と、
前記石炭搬出路に配置され該石炭搬出路を搬送される石炭に散水を施す散水装置と、
前記記憶部に記憶された石炭搬入時から所定時間経過した貯炭槽に貯蔵された石炭を所定の貯炭槽に積み替えるように判断し、前記払出装置、前記石炭返送路、前記搬送路切替部、前記石炭受入れ部及び前記石炭搬入装置を制御する積替制御部と」を備えるのに対し、引用文献1記載の発明においては、「貯炭槽(4)と、傾斜コンベヤ等の横型運搬機(2)と、前記横型運搬機(2)に受け入れられた石炭を前記貯炭槽(4)に搬入する垂直コンベヤ等による運搬機(3)と、前記貯炭槽(4)の排出底部に設置される石炭切出し装置(5)と、前記石炭切出し装置(5)の矢印A方向の搬出端に配置され該石炭切出し装置(5)により切り出された石炭を定量供給機(6)を介して、粉砕器、乾燥機等へ搬出する搬出コンベヤ(12)と散水パイプその他による消火装置(11)を備え、前記石炭切出し装置(5)の矢印B方向の搬出端は、前記横型運搬機(2)上に臨むように配置され、前記石炭切出し装置(5)を矢印A方向並びに矢印B方向の何れにも正逆切替運転可能とすることにより、前記石炭切出し装置(5)において矢印B方向に搬出された石炭を前記横型運搬機(2)より前記運搬機(3)をへて貯炭槽(4)へ返戻自在としたものであ」る点(以下、「相違点1」という。)。
(b)「散水装置により搬送設備を積み替えのために搬送される石炭に散水を施す」にあたり、本願発明においては、「積替制御部が石炭の積み替えを行うと判断した場合に、石炭搬出路を積み替えのために搬送される石炭に散水を施すように前記散水装置を制御する散水装置制御部を備える」のに対し、引用文献1記載の発明においては、「例えば貯炭槽(4)が具備するCOガス検出器のCO値が80ppmを示した時等には、前記消火装置(11)によって散水して、貯炭槽(4)の内部の石炭状況に応じた各種の防止処理手段を行う」点(以下、「相違点2」という。)。

6.判断
まず、上記相違点1について検討する。
本願発明と引用文献2記載の技術を対比すると、引用文献2記載の技術における「石炭貯蔵エリアを隔壁により複数個の区画に分けた槽」は、その構成からみて、本願発明における「互いに区画され内部に石炭が貯蔵可能な複数の貯炭槽」に相当し、以下同様に、「貯蔵エリアの上方に配置され、石炭を搬入する受入コンベア20」は「複数の貯炭槽の上方に配置され石炭を受け入れる石炭受入れ部」に、「槽の各々の上方に配置され、受入コンベア20の石炭を槽内に搬入する積付機23」は「複数の貯炭槽の上方に配置され石炭受入れ部に受け入れられた石炭を複数の貯炭槽に搬入する石炭搬入装置」に、「記憶手段」は「記憶部」に、「槽の各々の下方に配置され、石炭を搬出する払出機24」は「複数の貯炭槽の下方に配置され複数の貯炭槽に貯蔵された石炭を貯炭槽の下方から払い出す払出装置」に、「払出機24の下方に配置され、払出機24により払い出された石炭を搬出する払出コンベア(地下)22」は「払出装置の下方に配置され払出装置により払い出された石炭を搬出する石炭搬出路」に、「払出コンベア(地下)22の下流側に配置され払出コンベア(地下)22より搬出された石炭をボイラ7に供給する払出コンベア26」は「石炭搬出路の下流側に配置され石炭搬出路により搬出された石炭を外部装置に供給する石炭供給路」に、「払出コンベア(地下)22の下流側に配置され払出コンベア(地下)22より搬出された石炭を受入コンベア20に受け渡す再循環コンベア27」は「石炭搬出路の下流側に配置され石炭搬出路により搬出された石炭を石炭受入れ部に返送する石炭返送路」に、「石炭サイロ」は「石炭貯蔵設備」に、それぞれ相当する。
また、引用文献2記載の技術における「再循環システム」は、上記4.(1)(カ)の記載並びに図4及び図6から、「払出機24」、「再循環コンベア27」、「受入コンベア20」及び「積付機23」を駆動制御するものであることは明らかであるから、引用文献2記載の技術における「貯蔵期間管理装置41から読み出した石炭搬入後からの貯蔵日数が所定期間(例えば、1.5ヶ月)を超えているときに、再循環システムを駆動する石炭積み替え手段51」は、本願発明において「前記記憶部に記憶された石炭搬入時から所定時間経過した貯炭槽に貯蔵された石炭を所定の貯炭槽に積み替えるように」、「前記払出装置、前記石炭返送路、前記搬送路切替部、前記石炭受入れ部及び前記石炭搬入装置を制御する積替制御部」に相当するものということができる。
したがって、引用文献2記載の技術を、本願発明の用語を用いて表現すると、
「互いに区画され内部に石炭が貯蔵可能な複数の貯炭槽と、
前記複数の貯炭槽の上方に配置され石炭を受け入れる石炭受入れ部と、
前記複数の貯炭槽の上方に配置され前記石炭受入れ部に受け入れられた石炭を該複数の貯炭槽に搬入する石炭搬入装置と、
前記複数の貯炭槽それぞれにおける石炭が搬入された石炭搬入時を記憶する記憶部と、
前記複数の貯炭槽の下方に配置され該複数の貯炭槽に貯蔵された石炭を該貯炭槽の下方から払い出す払出装置と、
前記払出装置の下方に配置され該払出装置により払い出された石炭を搬出する石炭搬出路と、
前記石炭搬出路の下流側に配置され該石炭搬出路により搬出された石炭を外部装置に供給する石炭供給路と、
前記石炭搬出路の下流側に配置され該石炭搬出路により搬出された石炭を前記石炭受入れ部に返送する石炭返送路と、
前記記憶部に記憶された石炭搬入時から所定時間経過した貯炭槽に貯蔵された石炭を所定の貯炭槽に積み替えるように、前記払出装置、前記石炭返送路、前記搬送路切替部、前記石炭受入れ部及び前記石炭搬入装置を制御する積替制御部を有する石炭貯蔵設備に係る技術。」
ということができる。
そして、引用文献1記載の発明において、石炭切出し装置(5)が矢印A方向並びに矢印B方向の何れにも正逆切替運転可能とすることにより、粉砕機、乾燥機等への搬出と、貯炭槽への返戻を切り替えるものを、搬送路切替部を設けて搬送先の切替えを行うようにすることは、単なる装置設計上の事項にすぎない。
また、石炭貯蔵設備において、石炭の搬入出装置等を制御する制御装置を設けることは常套手段であるから、石炭の積み替えを行う引用文献1記載の発明において、該積み替えのために搬入出装置等を制御する制御装置を設けることも、単なる設計上の事項にすぎない。
したがって、引用文献1記載の発明において、同様に石炭貯蔵設備において石炭の積み替えを行う技術である引用文献2記載の技術を適用することによって、上記相違点1に係る本願発明の特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
なお、引用文献1記載の発明に引用文献2記載の技術を適用した際に、散水パイプその他による消火装置(11)を具備する位置を石炭搬出路とすることは、レイアウト等を考慮して設計上適宜決定される程度の事項にすぎない。

次に、上記相違点2について検討する。
引用文献1記載の発明は、「貯蔵石炭の酸化促進防止、発熱拡散等の管理を行う」(上記3.(1)(ア)参照。)ものであり、「定期的に切出し装置(5)を矢印B方向へ逆転させて、槽内の貯炭を運搬機(2)(3)をへて再び貯炭槽(4)内へ戻す循環回路を用いて石炭を循環露出させ、その酸化や発熱促進を妨げて正常な貯炭状態が得られるようにコントロールするものであ」る。
一方、「石炭の冷却のために、循環運転中の石炭に消火ホースなどによって散水を行うこと」は、慣用技術(以下、「慣用技術」という。例えば、特開2006-305528号公報の段落【0010】、【0018】及び【0019】等参照。)である。
したがって、引用文献1記載の発明において、上記慣用技術を参酌し、酸化や発熱促進を妨げるために石炭の循環、すなわち積み替えを行うときに、散水を施すようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、上記したように、石炭貯蔵設備において石炭の搬入出装置等を制御する制御装置を設けることは常套手段であるから、引用文献1記載の発明において、散水を制御する制御部を設けることは、単なる設計上の事項にすぎない。
なお、審判請求人は、審判請求書において、「引用文献1では、(3-2)で摘記したとおり、定期的に切出し装置を作動させることによる石炭の冷却は、循環回路を用いるだけで行なっている。COガス検出器が50ppmを示した時でも、消火装置(11)は作動せずに発熱の拡散(空冷)だけを行っており、消火装置(11)が作動して散水するのは、CO値が80ppmを越えたような場合だけである。すなわち、引用文献1の散水は、あくまでも消火を目的としたものであって、100ppmに達した際に、「散水して発火から燃焼を停止させる」とされているように、発火寸前の状態も含め、消火を行う必要のあるときだけに行うものである。したがって、文献1では、石炭の冷却自体は、切出し装置や運搬装置により石炭を搬送し、空冷することで行っている」と主張している。
しかし、貯蔵石炭の酸化がどの程度進んだときに冷却を行うかということは、石炭の種類や貯蔵設備等に応じて、設計上、適宜定められる事項である。
そして、引用文献1において、COガス検出器の値に対応した処理についての記載は、例示にすぎないものであるから、引用文献1記載の発明において、散水の条件を必要に応じて変え、積み替えを行うときに散水を施すようにすることが困難であったとすることはできない。
また、審判請求人は、審判請求書において、引用文献1記載の発明が「消火のためにやむを得ず散水することがあるものの、冷却のための散水は基本的に避ける必要があることを前提とした技術」であるとも主張している。しかし、引用文献1には、密閉型貯炭槽を前提としたときに散水を必要最小限に止める旨が記載されているのであり、上記のように、引用文献1記載の発明において、密閉型でない貯炭槽を有する引用文献2記載の技術を適用したときには、そのような制約が生じないことが明らかであるから、請求人の同主張は失当である。
したがって、引用文献1記載の発明において、上記慣用技術を参酌することにより、上記相違点2に係る本願発明の特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明を全体としてみても、本願発明の奏する効果は、引用文献1記載の発明、引用文献2記載の技術及び慣用技術から当業者が予測できた範囲内のものであり、格別に顕著な効果ではない。

7.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1記載の発明、引用文献2記載の技術及び慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-02-18 
結審通知日 2014-02-25 
審決日 2014-03-11 
出願番号 特願2010-114666(P2010-114666)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B65G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 日下部 由泰  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 金澤 俊郎
久島 弘太郎
発明の名称 石炭貯蔵設備及び石炭貯蔵方法  
代理人 正林 真之  

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