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審決分類 審判 査定不服 特37 条出願の単一性( 平成16 年1 月1 日から) 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N
管理番号 1287400
審判番号 不服2012-10535  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-06-06 
確定日 2014-05-09 
事件の表示 特願2004-283329「デジタル・ビデオに電子透かしを入れる方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 4月21日出願公開、特開2005-110274〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年9月29日の出願(優先権主張2003年9月29日、米国)であって、平成22年10月28日付で拒絶の理由が通知され、平成23年5月6日付で意見書及び手続補正書が提出されたものの、平成24年1月30日付で拒絶査定がなされたものである。
本件は、上記拒絶査定を不服として平成24年6月6日に請求された拒絶査定不服審判であって、平成24年7月18日付手続補正書(方式)によって、その請求の理由が補正され、当審において、平成25年4月8日付(起案日)で拒絶の理由が通知され、平成25年10月15日付で意見書及び手続補正書が提出されている。

2.平成25年4月8日付拒絶理由通知の概要
当審において、平成25年4月8日付(起案日)で通知した拒絶の理由の概要は以下のとおりである。

『A.本件出願は、明細書及び図面の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
B.本件出願は、明細書及び図面の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
C.この出願は、下記の点で特許法第37条に規定する要件を満たしていない。


平成23年5月6日付手続補正書で補正された請求項1に係る発明と、平成23年5月6日付手続補正書で補正された請求項11?14,16?17に係る発明とは、「ビデオ信号のクロミナンス部分に追加情報が刻印される(されている)」という共通の技術的特徴を有している。しかしながら、当該技術的特徴は、下記引用例2,3の開示内容に照らして、先行技術に対する貢献をもたらすものではないから、当該技術的特徴は、特別な技術的特徴であるとはいえない。
また、平成23年5月6日付手続補正書で補正された請求項1に係る発明と、平成23年5月6日付手続補正書で補正された請求項11?14,16?17に係る発明との間に、ほかに同一の又は対応する特別な技術的特徴は存在しない。
したがって、平成23年5月6日付手続補正書で補正された請求項1に係る発明と、平成23年5月6日付手続補正書で補正された請求項11?14,16?17に係る発明とは、同一の又は対応する特別な技術的特徴を有しない。
よって、この出願は、特許法第37条に規定する要件を満たさない。

D.本件出願の請求項1,8?10,15,16?17に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2000-175161号公報
2.松井甲子雄「電子透かしの基礎 -マルチメディアのニュープロテクト技術-」1998.08.21発行、森北出版、第1版第1刷、p.13?15, 57?60
3.上野義人、村上健自「動きベクトル参照型動画像電子透かし方式」情報処理学会論文誌、情報処理学会、2002.08.15発行、第43巻第8号、p.2511?2518
4.米国特許公開第2002/0164046号明細書』

3.特許法第37条(発明の単一性の要件)
3.1.特許請求の範囲の請求項1,11,16の記載
平成25年10月15日付手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1,11,16には以下のとおり記載されている。

「【請求項1】
ビデオ信号に電子透かしを入れる際に使用する方法であって、
ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値の少なくとも1つの選択されたビットに、追加情報の複数のビットを入れることにより該ビデオ信号に刻印されるべき該追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビットを複製するステップと、
連続するフレームの同じブロック位置に刻印されるべき複製されたビット及び元のビットを供給するステップとを含む方法。」
「【請求項11】
ビデオ信号のクロミナンス成分に刻印された追加情報を含む該ビデオ信号の受信器で使用する方法であって、
最後の追加情報を特定するために、規定のフレームからのそれぞれの同様のブロック位置の各々のクロミナンス部分のみから抽出した最初の追加情報を組み合わせるステップと、
該最後の追加情報を出力として供給するステップとを含む方法。」
「【請求項16】
ビデオ信号のクロミナンス部分上に刻印された追加の非ビデオ情報を含む該ビデオ信号から該追加の非ビデオ情報を抽出するための受信器であって、
該ビデオ信号から該非ビデオ情報を抽出するための抽出器と、
少なくとも該抽出された非ビデオ情報を受信し、該ビデオ信号の少なくとも1つのフレームに刻印された少なくとも1つの規定のシーケンスを検出するシーケンス・プロセッサとを含む受信器。」

3.2.同一の又は対応する技術的特徴
特許請求の範囲の請求項1,11,16に係る発明が、特許法第37条に規定する「経済産業省令で定める技術的関係を有することにより発明の単一性の要件を満たす一群の発明」に該当するか否か、すなわち、特許法施行規則第25条の8に規定する「同一の又は対応する特別な技術的特徴を有している」か否かを判断するために、まず、請求項1,11,16に係る発明が、どのような「同一の又は対応する技術的特徴」を有しているか、以下検討する。

第一に、請求項1,11,16に係る発明は、上記「3.1.特許請求の範囲の請求項1,11,16の記載」で摘記した記載のとおりのものと認めることができるが、本願明細書、特許請求の範囲又は図面の記載を参酌すると、請求項1,11,16に係る発明の「刻印され」とは、電子透かしによって情報を入れることを指し、また、請求項1,11に係る発明の「追加情報」と請求項16に係る発明の「追加の非ビデオ情報」とは、ビデオ信号に電子透かしを用いて入れられる「追加の情報」である点で一致しているから、請求項1に係る発明と請求項11に係る発明という組み合わせの間では、および、請求項1に係る発明と請求項16に係る発明という組み合わせの間では、「ビデオ信号に電子透かしを用いて追加の情報を入れる/ビデオ信号に電子透かしを用いて入れられた追加の情報を抽出する」という同一の又は対応する技術的特徴を有している。
第二に、請求項1,11,16に係る発明の、電子透かしはビデオ信号のクロミナンス成分に入れられているから、請求項1に係る発明と請求項11に係る発明という組み合わせの間では、および、請求項1に係る発明と請求項16に係る発明という組み合わせの間では、「電子透かしはビデオ信号のクロミナンス成分に入れられている」という同一の又は対応する技術的特徴を有している。

しかしながら、その余の部分について、以下の点で、請求項1,11,16に係る発明は互いに異なっている。

(1) 「電子透かし」を入れる対象の「ビデオ信号のクロミナンス成分」について、請求項1に係る発明は「ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値の少なくとも1つの選択されたビット」であるのに対し、請求項11に係る発明は単なる「ビデオ信号のクロミナンス成分」、請求項16に係る発明は単なる「ビデオ信号のクロミナンス部分」であるのに留まる点で異なる。

(2) 請求項1の「連続するフレームの同じブロック位置に刻印されるべき複製されたビット及び元のビットを供給するステップ」との記載、および、本願明細書段落【0015】の「したがって、本発明の原理により、ブロックのクロミナンス部分の平均値にデータが刻印される前に、データは、少なくとも一回、好適には複数回、複製される。原本と、それぞれの作成された複製が、同時出願の米国特許出願第10/673892号の技術を使用して、別フレームの同じブロック位置に送信される。同じデータを伝える同様に配置されたブロックを有するフレームは1グループと見なされ、好適には、そのフレームは表示順に連続している。」、段落【0155】の「図9は、本発明の原理により、ブロックのクロミナンス部分の平均値にデータが刻印される前に、刻印されるべきデータを、少なくとも1回、好適には数回、複製することによってちらつきを低減することのできる送信器例を示す。元のデータと、それぞれの複製されたデータは、別個の連続したフレームの同じブロック位置で送信される。好適には、同じデータを伝える、ブロックを同様に配置させたフレームは、表示順で連続する。さらに、本発明の一態様により、フレームの特定ブロックは、ユーザのデータを符号化するのではなく、特定の周知のデータ・シーケンス、例えばBarkerシーケンスで埋め込むことができる。」、段落【0157】の「リピーター925は、ブロック・インターリーバー121または任意選択のシーケンス加算器927からビットを受け取る。リピーター925は、受け取ったビットを記憶し、それらを少なくとも2つのフレームの同様に配置されたブロックに出力する。本発明の一実施形態では、リピーター925が、受け取ったビットを記憶し、それらを3つのフレームの同様に配置されたブロックに対して出力する場合、良い結果が達成されることが判明している。当業者は、データが反復されるフレーム番号を選択することにより、電子透かしデータの所望のスループットで、認知されたちらつきをどれでもトレードオフすることができよう。」との記載からみて、請求項1に係る発明は「連続するフレームの同じブロック位置」に同じ「刻印されるべき複製されたビット及び元のビット」が電子透かしとして入れられるものであって、その結果「ちらつきを低減することのできる」ことができるものである。これに対し、

(2-1) 請求項11の「最後の追加情報を特定するために、規定のフレームからのそれぞれの同様のブロック位置の各々のクロミナンス部分のみから抽出した最初の追加情報を組み合わせるステップ」との記載からみて、請求項11に係る発明は、電子透かしを「連続するフレーム」に入れるものではなく、請求項11に係る発明は少なくとも「最初の追加情報」「最後の追加情報」を電子透かしとして入れたものであって、同じ情報を電子透かしとして入れるものでもない。そして、これらが相違するため、請求項11に係る発明では「ちらつきを低減することのできる」という結果を得ることができないから、請求項1に係る発明の電子透かしが入れられる「同じブロック位置」と請求項11に係る発明で電子透かしが入れられる「同様のブロック位置」が対応するものということはできない。結局、請求項1に係る発明は「連続するフレームの同じブロック位置」に同じ「刻印されるべき複製されたビット及び元のビット」が電子透かしとして入れられるものであって、その結果「ちらつきを低減することのできる」ことができるものであるのに対し、請求項11に係る発明は、そのようなものではない点で異なる。

(2-2) 請求項16の「少なくとも該抽出された非ビデオ情報を受信し、該ビデオ信号の少なくとも1つのフレームに刻印された少なくとも1つの規定のシーケンスを検出するシーケンス・プロセッサ」との記載からみて、請求項16に係る発明は、電子透かしを「連続するフレームの同じブロック位置」に入れるものではなく、また、同じ情報を電子透かしとして入れるものでもない。結局、請求項1に係る発明は「連続するフレームの同じブロック位置」に同じ「刻印されるべき複製されたビット及び元のビット」が電子透かしとして入れられるものであって、その結果「ちらつきを低減することのできる」ことができるものであるのに対し、請求項11に係る発明は、そのようなものではない点で異なる。

したがって、請求項1に係る発明と請求項11に係る発明という組み合わせの間で、および、請求項1に係る発明と請求項16に係る発明という組み合わせの間で、それらの組み合わせが有する「同一の又は対応する技術的特徴」は、以下のとおりである。

「ビデオ信号に電子透かしを用いて追加の情報を入れる/ビデオ信号に電子透かしを用いて入れられた追加の情報を抽出するものであって、電子透かしはビデオ信号のクロミナンス成分に入れられているもの」

3.3.先行技術
これに対し、下記「4.2.2.引用例2」で述べるように『松井甲子雄「電子透かしの基礎 -マルチメディアのニュープロテクト技術-」1998.08.21発行、森北出版、第1版第1刷、p.13?15, 57?60』(以下「引用例2」という。)には、

「圧縮された動画像データの色差成分に透かし情報を埋込む方法として、画像の各ブロックを二次元DCT変換し、得られた色差成分の空間周波数成分であるDCT係数S(u,v)を表3.2(b)の量子化テーブルに示す対応するステップサイズQ(u,v)(u,v=0,1,・・・,7)を用いて、S(u,v)/Q(u,v)の除算結果が実数値となるものを近隣の整数値にまるめるround関数を用いて量子化し量子化データR(u,v)を求めるときに、R(u,v)のどの(u,v)座標に透かしデータを秘匿するかブロックごとに鍵を用いて可変型式に指定し、埋め込む透かしビットが0ならば、round関数の出力の最下位ビットを0として出力し、透かしビットが1ならば、round関数の出力の最下位ビットを1として出力することによって透かしを埋め込む、圧縮された画像データに透かし情報を埋込む方法。」

という発明(以下「引用発明2」という。)が記載され、下記「4.2.3.引用例3」で述べるように『上野義人、村上健自「動きベクトル参照型動画像電子透かし方式」情報処理学会論文誌、情報処理学会、2002.08.15発行、第43巻第8号、p.2511?2518』(以下「引用例3」という。)には、

「動画像フレームの色差成分(CbまたはCr)のDCT変換後の量子化値のD.C成分に透かし情報を、透かし情報が“1”のとき色差成分(CbまたはCr)のDCT変換後の量子化値のD.C成分の値を偶数とし、透かし情報が“0”のとき色差成分(CbまたはCr)のDCT変換後の量子化値のD.C成分の値を奇数とする、奇数偶数値制御方式を用いて埋め込む、MPEG符号化方式を一部変更した、透かし情報埋め込みアルゴリズム。」

という発明(以下「引用発明3」という。)が記載されている。

3.4.「同一の又は対応する技術的特徴」が「特別な技術的特徴」であるか否かの判断
上記「3.2.同一の又は対応する技術的特徴」で述べた請求項1に係る発明と請求項11に係る発明という組み合わせの間で、および、請求項1に係る発明と請求項16に係る発明という組み合わせの間で、それらの組み合わせが有する「同一の又は対応する技術的特徴」が「特別な技術的特徴」であるか否かを判断するために、上記「3.2.同一の又は対応する技術的特徴」で述べた、請求項1に係る発明と請求項11に係る発明という組み合わせの間で、および、請求項1に係る発明と請求項16に係る発明という組み合わせの間で、それらの組み合わせが有する「同一の又は対応する技術的特徴」と、引用発明2,3を対比する。

第一に、引用発明2は「圧縮された動画像データの色差成分に透かし情報を埋込む方法」であり、引用発明3は「MPEG符号化方式を一部変更した、透かし情報埋め込みアルゴリズム」であるから、引用発明2,3ののいずれも、請求項1,11,16に係る発明が有する「同一の又は対応する技術的特徴」と同様に「ビデオ信号に電子透かしを用いて追加の情報を入れる/ビデオ信号に電子透かしを用いて入れられた追加の情報を抽出するもの」であるということができる。
第二に、引用発明2は「圧縮された動画像データの色差成分に透かし情報を埋込む方法」であり、引用発明3は「動画像フレームの色差成分(CbまたはCr)のDCT変換後の量子化値のD.C成分に透かし情報を、透かし情報が“1”のとき色差成分(CbまたはCr)のDCT変換後の量子化値のD.C成分の値を偶数とし、透かし情報が“0”のとき色差成分(CbまたはCr)のDCT変換後の量子化値のD.C成分の値を奇数とする、奇数偶数値制御方式を用いて埋め込む」ものであって、いずれも、請求項1,11,16に係る発明が有する「同一の又は対応する技術的特徴」と同様に「電子透かしはビデオ信号のクロミナンス成分に入れられている」ものであるということができる。

したがって、請求項1に係る発明と請求項11に係る発明という組み合わせの間で、および、請求項1に係る発明と請求項16に係る発明という組み合わせの間で、それらの組み合わせが有する「同一の又は対応する技術的特徴」である「ビデオ信号に電子透かしを用いて追加の情報を入れる/ビデオ信号に電子透かしを用いて入れられた追加の情報を抽出するものであって、電子透かしはビデオ信号のクロミナンス成分に入れられているもの」は「特別な技術的特徴」であるということはできない。すなわち、請求項1に係る発明と請求項11に係る発明という組み合わせの間で、および、請求項1に係る発明と請求項16に係る発明という組み合わせの間では「同一の又は対応する特別な技術的特徴」を有さない。

3.5.特許法第37条(発明の単一性の要件)に関するまとめ
以上のように、特許請求の範囲の請求項1,11,16に係る発明は、特許法施行規則第25条の8に規定する「同一の又は対応する特別な技術的特徴」を有さないから、特許法第37条に規定する「経済産業省令で定める技術的関係を有することにより発明の単一性の要件を満たす一群の発明」に該当しない。

よって、この出願は、特許法第37条に規定する要件を満たさない。

4.特許法第29条第2項(進歩性)
4.1.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年5月6日付、平成25年10月15日付手続補正書で補正された明細書、特許請求の範囲又は図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものと認められるところ、請求項1には以下のとおり記載されている。

「【請求項1】
ビデオ信号に電子透かしを入れる際に使用する方法であって、
ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値の少なくとも1つの選択されたビットに、追加情報の複数のビットを入れることにより該ビデオ信号に刻印されるべき該追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビットを複製するステップと、
連続するフレームの同じブロック位置に刻印されるべき複製されたビット及び元のビットを供給するステップとを含む方法。」

4.2.引用刊行物
4.2.1.引用例1
4.2.1.1.引用例1の記載事項
当審における平成25年4月8日付の拒絶の理由で引用した特開2000-175161号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに以下の記載がある。

「【請求項1】 画像フレームをブロック分割し、抽出されたブロックにDCT処理を施す手段と、
該DCT処理により得られた係数のうちの少なくとも一つの係数値の絶対値を大きくする透かしデータ埋め込み手段とを具備したことを特徴とする動画像に対する透かしデータ埋め込み装置。」
「【請求項2】 請求項1に記載の動画像に対する透かしデータ埋め込み装置において、
前記透かしデータ埋め込み手段は、各画像フレームに対して、同じ位置のブロックであって、かつ同じまたは異なる位置のDCT係数に、透かしデータを埋め込むことを特徴とする動画像に対する透かしデータ埋め込み装置。」
「【0015】本発明の一実施形態(以下、形態a)では、前記ブロック抽出部2は動画像の全てのフレームから前記テンプレート9で指示された同じ位置のマクロブロックを抽出し、かつDCT係数抽出部4で該テンプレート9によって指示された同じ位置のDCT係数を抽出して、前記透かしデータ埋め込み部5で透かしデータを埋め込むことにする。すなわち、図3(a) に示されているように、動画像の毎フレームF_(1)、F_(2)、F_(3)、F_(4)、…の特定のブロックのDCT係数の同じ位置に透かしデータxを埋め込むことにする。」
「【図3】



4.2.1.2.引用例1記載の発明
引用例1全体の記載からみて、当業者は引用例1記載の発明を「方法の発明」として把握することができるから、引用例1の上記記載からみて、引用例1には以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

「画像フレームをブロック分割し、抽出されたブロックにDCT処理を施し、該DCT処理により得られた係数のうち、動画像の全てのフレームの、同じ位置のブロックであって、かつ同じ位置のDCT係数に透かしデータを埋め込むことを特徴とする動画像に対する透かしデータ埋め込み方法。」

4.2.2.引用例2
4.2.2.1.引用例2の記載事項
当審における平成25年4月8日付の拒絶の理由で引用した『松井甲子雄「電子透かしの基礎 -マルチメディアのニュープロテクト技術-」1998.08.21発行、森北出版、第1版第1刷、p.13?15, 57?60』(以下「引用例2」という。)には、図面とともに以下の記載がある。

「1.4 電子透かしの分類
ステガノグラフィに関する研究論文を分類してみると,大きく分けて代入法,選択法,構成法の3種類になる.電子透かしも本質的にはステガノグラフィと同じであるのでその分類に従って,それぞれの概要を述べる.

(1)代入法
電子透かしの基本は,デジタルメディアのノイズ成分を,秘密の符号やロゴマークなどの識別可能な情報でおきかえることである。すなわち,代入法(substitute steganography)はこのノイズレベルに透かし情報を代替として設定する方法である.このためには,受け皿としての電子メディアは十分に冗長性に富み,かつある程度のノイズ性をもつデータからなることが必要である.通常,メディアを画像とした場合,各画素の最下位のビットプレーンはランダム性を示すデータからなっているので,この代入法を容易に適用できる.
しかし,画像や音声の量子化データは,一般にそのまま利用されず,データ圧縮されることが多い.このとき,ノイズ成分に相当する下位ビット情報は,圧縮操作の対象となり,そこに埋め込まれている透かし情報は必然的に消去される可能性が生まれてくる.これが代入法の弱点である.
この弱点を補うために,量子化データの中間層のビットプレーンに透かし情報を埋め込む方法も考えられている.この場合,データ圧縮の処理によって透かし情報が消失するのを防ぐことができるが,画質や音質に与える影響も増大する.したがって,透かしビットの埋込み位置とその量をよく考慮してその場所を決定することが大切であろう.

(2)選択法
マルチメディアを扱うコンテンツは多量のデータから構成されている.しかも,同じような画像フレームが連続して現れたり,また音声波形も類似したものが続くことが多い.このような連続的に類似現象が出現するコンテンツに対して,透かし情報を密かに紛れ込ませても,ユーザーには気づかれにくい.そこで,できるだけ自然な形に沿うように紛れこませる方法が考えられている.1枚の画像フレームに対しても類似した走査画素の中に透かしビットを挿入する方法も提案されている. これらの方法は,前後左右のフレームや周囲画素ととくに目立たないように離散的に選んだ特定位置にのみ透かし情報を埋め込むもので選択法(selective steganography)と呼ばれている.
この選択法のポイントは, どこに埋め込むかを鍵で指定することにある.復号時に埋込み位置を確定できないと透かし情報を得られず,役に立たなくなる.一方,あまりに幼稚な隠匿工作では,第三者の攻撃を受けることにもなる.そこで,必然的に公開鍵暗号のように一方通行関数の性質を用いた鍵で分散配置することが考えられている.また,マルチメディアに直交関数系の変換を施し,その周波数スペクトルに選択法の考え方を適用する例も多く見られる.透かし情報を選択的に埋込み後,逆変換を施すと,前述の代入法のように,ノイズレベルに擬装した透かしビットが画面全域に拡散される効果が得られるからである.

(3)構成法
透かしの対象となるマルチメディアの量子化ノイズに注目し,その統計的な性質を調べると新しいノイズモデルを作為的に構成することができる.そのような擬似ノイズモデルを利用して透かしのサインを埋め込む方法を構成法(constructive steganography)とよんでいる.ノイズモデルをつくるためには,多くのコンテンツに対してデータを詳細に検討し,ソースデータとノイズ分布に関する正確な知識を得なければならない.この作業は労多くして果報の少ないことが多く,たいへんに難しい仕事である.より多くのデータと時間を費やして,初めてデータに見合うノイズモデルを開発することができる.しかし,実際に透かし情報を埋め込んでみると,モデルのバランスが崩れ,秘匿したはずのものがわずかの処理で簡単に浮上して見えてしまいセキュリティの向上につながらないことがある.また,ノイズモデルをつくることは透かしのアルゴリズムの一環であり,アルゴリズムを秘密にすると幅広い運用に支障をきたし,公開すれば第三者に簡単に攻撃の糸口を与えてしまう.このように構成法には多くの問題点があるが,代入法や選択法と異なってコンテンツの全域にわたって透かし情報を分散配置できるためコンテンツの部分的な切り抜き(clipping)などにも頑健に耐えることができる特徴がある.
一方,マルチメディアの符号化に当たり,画像フレームから絵を構成する概形を切り出してデータ圧縮する研究が始まっている.この方法はモデルに基づく符号化法(model-based coding)とよばれ, MPEG-4に採用されている.この画像フレームから抽出したコンテンツの一部分を透かし信号に従って削除,変形,追加などの再編集を行なうことが提案されている114).このモデルそのものを偽造する企図も動画像を対象とした構成法的な電子透かしの分類に入るものであろう.」(第13?15頁)
『3.3.2 周波数領域における量子化誤差の利用
予測符号化における予測誤差信号を量子化する際に情報が非保存となる性質を利用して,圧縮された画像データに透かし情報を埋込み可能であることを述べた.これは実画像領域における処理であるが,それによく似た方法が画像の周波数領域においてもデータの圧縮の際に実行できることを紹介しよう.

(1) 離散コサイン変換の考え方
離散コサイン変換(discrete cosine transform : DCT)は画像信号を空間周波数に直交変換する一つの方法である.その基本的な処理の流れを図3.17に示す.まず,入力画像を8×8画素のP(m,n) m,n=0,1,・・・,7の小ブロックに分ける.そして,この画素値集合P(m,n)に対してつぎの変換を行う.



この変換を二次元DCTという.ここに,



である.このDCTを画像の各ブロックに適用する.その結果,ブロックごとに(u,v)平面上8×8画素の出力S(u,v)が得られる. とくにS(0,0)を直流(DC)成分,それ以外の63個のS(u,v)を交流(AC)成分とよんでいる.DC成分は画像の明るさを表しており,また,AC成分は画像の変化模様を表し,uまたはvの値が大きいほど高い空間周波数成分になっている.
図3.17からわかるように二次元DCTで得られた空間周波数成分S(u,v)は広い範囲に広がって分布しているため,そのまま保存(または伝送)したのではデータ量を削減できない.そこで,通常,量子化操作によってデータを圧縮する.各DCT係数S(u,v)が表3.2の量子化テーブルに示す対応するステップサイズQ(u,v)(u,v=0,1,・・・,7)の何倍であるかを四捨五入した整数値で求める.その値をもって量子化データR(u,v)(u,v=0,1,・・・,7)とするのである.すなわち,まるめ(round)関数を用いて



この方法は,DCT係数の大小に依存せず一定のステップサイズを用いているので,一様量子化ともよんでいる.表3.2より量子化ステップサイズは空間周波数が高いほど大きくなり粗い量子化となっている.これは高い空間周波数(すなわち,微細にわたる画像の変化分)のひずみほど人間の目には知覚されにくいという視覚特性を利用している.このデータ圧縮方式では量子化誤差が導入されるので,原画像と同一の再生画像を復元することはできない.いわゆる情報非保存型の変換であることに注目する.




(2)透かし情報の埋込み
round関数は式(3.13)におけるS(u,v)/Q(u,v)の除算結果が実数値となるものを四捨五入則によって近隣の整数値にまるめている.このとき,Q(u,v)のステップサイズによってはかなり大きな誤差が導入されることになる.これが情報非保存性の誘因の一つになる.しかし,それでも再生画像に対して人間はあまり違和感を覚えないでいられる.そこで,この四捨五入則を拡張して,透かし情報から得たビット系列でround関数を制御することを考えよう.

(a) 直接制御方式^(35))
埋め込む透かしビットが0ならば,round関数の出力を除算値の最近傍の偶数値に設定し,透かしビットが1ならば,その出力を最近傍の奇数値に設定する.きわめて単純な発想であるが,R(u,v)のどの(u,v)座標に透かしデータを秘匿するかブロックごとに鍵を用いて可変型式に指定する.このときブロック当たり1ビットの埋込みでも,1画面(256×256画素)では約1Kビットの透かし情報を保有できることになる.この方式のポイントは,透かしを埋め込む周波数成分を少なくし,その他をすべて四捨五入則によって量子化するならば秘匿性を十分に保持できることにある.

(b) 変換テーブル方式^(36))
四捨五入則の代わりに,新しい変換テーブルを設けるものである.これは,すでに述べた予測誤差信号に対する透かし情報の埋込みと同じ発想である.

(c) 再量子化方式^(37))
まず透かし情報の埋込み座標(u,v)を(a)と同様に秘密鍵系列で指定し,対象周波数成分R(u_(0),v_(0))を取り出す.特別に設定した秘密の埋込み強度パラメータhでその値を再量子化する.すなわち,




とする.
もし,透かしビットbが0ならば, R(u_(0),v_(0))に最も近いつぎのような整数値を選び,R(u_(0),v_(0))の代替とする.




ここに,tは最近傍を採択するための自然数である.一方,もしb=1ならば、



とする.この方法は,乱数系列で埋込み位置を秘匿するとともに,hによる再量子化という誤差成分を導入することによって秘匿効果を高めかつ復号率を向上させている.
復号に際しては,透かし情報を含有する周波数成分R(u_(0),v_(0))を取り出し,それを秘密に所有するパラメータhで式(3.14)により再量子化する.その結果qとR(u_(0),v_(0))との差分p(mod h)を求めてつぎの判定を行う.
0≦p<h/2 ならば b←0
h/2≦p<h ならば b←1
中村^(37))らは,この方法でシミュレーション実験を試みている.その報告によると,256×256画素256階調のgirlに8×8画素の2次元DCTをかけて,埋込み対象周波数(u_(0),v_(0))を8組選んで実験し,表3.3の結果を公表している.再量子化パラメータhが10を超えると著しくSN比が降下することがわかる.画像品質保持の立場からすると低周波成分に透かしビットを入れるのでこのあたりが利用限界ではないかと推定される.逆に,hを小さくしすぎると透かし情報の復号率が低減することにも注意する.



』(第57?60頁)

4.2.2.2.引用例2記載の発明
引用例2の上記記載について検討する。

第一に、上記「表3.2 量子化テーブルの例」(第58頁)には「(b) 色差成分用量子化テーブル」という記載があるところから、引用例2の「3.3.2 周波数領域における量子化誤差の利用」(第57?60頁)には、圧縮された画像データの色差成分に透かし情報を埋め込むことが記載されているといえる。
第二に、上記「(1) 離散コサイン変換の考え方」(第57?59頁)には「画像の各ブロックを二次元DCT変換し、得られた色差成分の空間周波数成分であるDCT係数S(u,v)を表3.2(b)の量子化テーブルに示す対応するステップサイズQ(u,v)(u,v=0,1,・・・,7)を用いて、S(u,v)/Q(u,v)の除算結果が実数値となるものを近隣の整数値にまるめるround関数を用いて量子化」し「量子化データR(u,v)を求める」ことが記載されている。
第三に、上記「(2)透かし情報の埋込み」「(a) 直接制御方式」(第59頁)に記載される「埋め込む透かしビットが0ならば, round関数の出力を除算値の最近傍の偶数値に設定し,透かしビットが1ならば,その出力を最近傍の奇数値に設定する.」とは、結局、透かしビットが0ならばround関数の出力の最下位ビットを0とし、透かしビットが1ならばround関数の出力の最下位ビットを1とするものである。
第四に、上記「(2)透かし情報の埋込み」「(a) 直接制御方式」(第59頁)には「R(u,v)のどの(u,v)座標に透かしデータを秘匿するかブロックごとに鍵を用いて可変型式に指定する.」ことが記載されている。
第五に、DCT係数に対して透かしを埋め込む手法は、DCT変換を行うJPEG符号化、MPEG符号化のいずれにもそのまま適用できることは良く知られているから、上記「3.3.2 周波数領域における量子化誤差の利用」に記載されるものもDCT変換を行うものであることを考えると、動画像を対象としたものと認めることができる。

したがって、引用例2の「3.3.2 周波数領域における量子化誤差の利用」(第57?60頁)には、以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。

「圧縮された動画像データの色差成分に透かし情報を埋込む方法として、画像の各ブロックを二次元DCT変換し、得られた色差成分の空間周波数成分であるDCT係数S(u,v)を表3.2(b)の量子化テーブルに示す対応するステップサイズQ(u,v)(u,v=0,1,・・・,7)を用いて、S(u,v)/Q(u,v)の除算結果が実数値となるものを近隣の整数値にまるめるround関数を用いて量子化し量子化データR(u,v)を求めるときに、R(u,v)のどの(u,v)座標に透かしデータを秘匿するかブロックごとに鍵を用いて可変型式に指定し、埋め込む透かしビットが0ならば、round関数の出力の最下位ビットを0として出力し、透かしビットが1ならば、round関数の出力の最下位ビットを1として出力することによって透かしを埋め込む、圧縮された画像データに透かし情報を埋込む方法。」

4.2.3.引用例3
4.2.3.1.引用例3の記載事項
当審における平成25年4月8日付の拒絶の理由で引用した『上野義人、村上健自「動きベクトル参照型動画像電子透かし方式」情報処理学会論文誌、情報処理学会、2002.08.15発行、第43巻第8号、p.2511?2518』(以下「引用例3」という。)には、図面とともに以下の記載がある。

「2.動きベクトル参照型動画像電子透かし方式の構成
後述する透かし情報埋め込みアルゴリズムを実現する方式構成は,MPEG符号化方式の構成図を一部変更して,図1のように構成できる.
動き補償回路で検出された動きベクトルを参照して,動きベクトルが存在する参照元I-フレームのマクロブロックの画素に透かし情報を直接,画素の輝度成分(Y)や色差成分(CbまたはCr)に埋め込む.
透かし情報の埋め込み方法として,奇数,偶数値制御方式,すなわち,

(1)透かし情報が“1”のとき,たとえば,I-フレームにおける動きベクトル参照元マクロブロックの画素の輝度信号レベル(Y)の値を偶数とする.
(2)透かし情報が“0”のとき,I-フレームにおける動きベクトル参照元マクロブロックの画素の輝度信号レベル(Y)の値を奇数とする.



このような奇数,偶数値制御方式で,透かし情報の埋め込み制御を行うことができる.
また,透かし情報のフラグビット埋め込み場所として,図1の点線で示すように,どのような動画像フレームにも必ず存在するDCT変換後の量子化値のD.C成分に透かし情報を埋め込むこともできる.もちろん,DCT変換後の量子化値の低周波成分に埋め込む方法も考えられるが,どの低周波数成分に埋め込むかを指定する情報が必要となり,回路構成が複雑になる.
このため,画素の輝度成分(Y)と色差成分(CbまたはCr)のDCT変換後の量子化値のD.C成分に透かし情報を奇数,偶数値制御方式を用いて埋め込むことができる.
したがって,透かし情報の埋め込み場所として,I-フレームの動きベクトル参照元マクロブロックの画素の

(1)輝度成分(Y)
(2)色差成分(CbまたはCr)輝度成分
(3)(Y)の量子化値のD.C成分
(4)色差成分(CbまたはCr)の量子化値のD.C成分

などが採用できる.
このように,透かし埋め込み処理を行ったI-フレームをI,B,B,P-バッファで埋め込み前のI-フレームと入れ替えた後,可変長符号化して出力符号化ストリームを得る方式が構成できる.これらの方法は,ソフトウエア的にリアルタイム処理が可能である.」(第2512頁左欄?右欄)

4.2.3.2.引用例3記載の発明
引用例3の記載について検討する。

引用例3の上記摘記した以外の部分、すなわち、「3.チェインコードを用いた電子透かし法」「4.2分木アルゴリズムを用いた電子透かし法」「5.実験結果」には、動きベクトルに透かし情報を埋め込むもののみが具体的に記載されているが、上記摘記したように引用例3には「また,透かし情報のフラグビット埋め込み場所として,図1の点線で示すように,どのような動画像フレームにも必ず存在するDCT変換後の量子化値のD.C成分に透かし情報を埋め込むこともできる.」「このため,画素の輝度成分(Y)と色差成分(CbまたはCr)のDCT変換後の量子化値のD.C成分に透かし情報を奇数,偶数値制御方式を用いて埋め込むことができる.」との記載があり、それら動きベクトルに透かし情報を埋め込むものを、色差成分(CbまたはCr)の量子化値のD.C成分に埋め込むものと読み替えることができるから、引用例3全体としてみても、動画像フレームの色差成分(CbまたはCr)のDCT変換後の量子化値のD.C成分に透かし情報を埋め込むことも記載されていると認めることができる。すなわち、引用例3には以下の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されている。

「動画像フレームの色差成分(CbまたはCr)のDCT変換後の量子化値のD.C成分に透かし情報を、透かし情報が“1”のとき色差成分(CbまたはCr)のDCT変換後の量子化値のD.C成分の値を偶数とし、透かし情報が“0”のとき色差成分(CbまたはCr)のDCT変換後の量子化値のD.C成分の値を奇数とする、奇数偶数値制御方式を用いて埋め込む、MPEG符号化方式を一部変更した、透かし情報埋め込みアルゴリズム。」

4.3.対比
本願発明と引用発明1を比較する。

4.3.1.「ビデオ信号に電子透かしを入れる際に使用する方法であって・・・とを含む方法」
引用発明1は「画像フレームをブロック分割し、抽出されたブロックにDCT処理を施し、該DCT処理により得られた係数のうち、動画像の全てのフレームの、同じ位置のブロックであって、かつ同じ位置のDCT係数に透かしデータを埋め込むことを特徴とする動画像に対する透かしデータ埋め込み方法」であって、引用発明1で透かしデータを埋め込む対象となる「動画像」は「ビデオ信号」であるということができるから、引用発明1と本願発明は「ビデオ信号に電子透かしを入れる際に使用する方法であって・・・とを含む方法」である点で一致している。

4.3.2.「ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値の少なくとも1つの選択されたビットに、追加情報の複数のビットを入れることにより該ビデオ信号に刻印されるべき該追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビットを複製するステップ」
まず、本願発明の「ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値」「少なくとも1つの選択されたビット」「少なくとも1つの選択されたビットに、追加情報の複数のビットを入れることにより該ビデオ信号に刻印されるべき該追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビットを複製する」が、それぞれ、どのような意味なのか、本願明細書の記載を参照して検討する。

第一に、本願発明の「ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値」について、本願明細書段落【0009】に「動画像符号化専門家会合MPEG-1、MPEG-2、MPEG-4など、(MPEG)標準の1つのような、ビデオのブロック・ベースの周波数領域の符号化を使用する場合、電子透かしを入れたデータのビットの代入は、ブロックのクロミナンス・マトリックスの少なくとも1つの、平均値に対応する、DC係数の値を調整することにより達成することができる。」との記載があり、この「MPEG標準の1つのような、ビデオのブロック・ベースの周波数領域の符号化」として二次元DCT変換を利用するものが良く知られていることからみて、本願発明の「ビデオ信号のブロック」とはMPEG符号化におけるマクロブロックを指し、また、本願発明の「ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値」とは、MPEG符号化におけるマクロブロックのクロミナンス成分に対して二次元DCT変換をおこなったときのDC成分、すなわち、(0,0)成分を指すものと認めることができる。
第二に、本願発明の「少なくとも1つの選択されたビット」について、本願明細書段落【0009】に「例えば、ブロックに対するDC係数の2番目の最下位ビットは、同ブロックに刻印されることが望まれる電子透かしビットの値に置き換えられる。」、段落【0044】に「例えば、電子透かしデータがブロックの選択されたクロミナンス部分の平均の整数部分の最下位ビットで伝えられるべき場合、平均値に加算される必要のある値は0または1である。平均値の整数部分の最下位ビットが、伝えられるべき電子透かしデータ・ビットと既に同じである場合は0が加算され、平均値の整数部分の最下位ビットが、伝えられるべき電子透かしデータ・ビットの補数である場合は1が加算される。電子透かしデータが、ブロックの選択されたクロミナンス部分の平均の整数位置の2番目の最下位ビットで伝えられるべき場合、当該ピクセルに加算されるべきデータの値は-1、0、または1である。平均値の整数部分の2番目の最下位ビットが、伝えられるべき電子透かしデータ・ビットと既に同じである場合は0が加算され、平均値の整数部分の2番目の最下位ビットが、伝えられるべき電子透かしデータ・ビットの補数である場合は1または-1が加算される。1が加算されるか-1が加算されるかは、平均値の整数部分の2番目の最下位ビットをその補数に変更しながら、平均値に対して最小の変更の原因となるのはどちらかによって異なる。2番目の最下位ビットを使用すると、埋め込まれるべきデータが、MPEGまたは類似の処理による符号化に耐える可能性が高まる。ブロックの選択されたクロミナンス部分の平均の整数部分の3番目の最下位ビットにデータが入れられるべき場合、当該ピクセルに加算されるべきデータの値は-2、-1、0、1、または2である。平均値の整数部分の3番目の最下位ビットが、伝えられるべき電子透かしデータ・ビットと既に同じである場合は0が加算され、平均値の整数部分の3番目の最下位ビットが、伝えられるべき電子透かしデータ・ビットの補数である場合は、-2、-1、1、または2が加算される。-2、-1、1、または2のどれが加算されるかは、平均値の整数部分の3番目の最下位ビットをその補数に変更しながら、平均値に対して最小の変更の原因となるのはどれかによって異なる。3番目の最下位ビットを使用すると、埋め込まれるべきデータが、適切な結果を達成するために、MPEGまたは類似の処理による符号化に耐える可能性が高まる。上記の説明から、当業者は、ユーザまたはシステムにより決定される、さらに上位のビット位置に対して加算されるべき値を容易に決定することができる。」との記載があり、この記載からみて、本願発明の「少なくとも1つの選択されたビット」とは「ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値」の中の最下位から最上位のどの位置のビットであってもよいいずれかのビットをいうものであると認めることができる。
第三に、続けて、本願発明の「少なくとも1つの選択されたビット」について、本願明細書段落【0049】の「当該ブロックに対するクロミナンス部分の値の特定ビット平均、例えば、ビット・マッパー123により供給されたデータが刻印される、当該クロミナンス部分に対するDC係数は、ビット・マッパー123によって決定される。一構成では、ブロックに対するDC係数の2番目の最下位ビットは、当該ブロックに刻印されることが望まれる特定値で置き換えられる。別の構成では、DC係数のどのビットが置き換えられるかは、当該ブロックのテクスチャ変動により異なる。テクスチャ変動が増えるに従い、置き換えられるビットをより上位にすると有利である。何故ならば、MPEG符号化標準は、より高いテクスチャ変動に対してより大きな量子化ステップ・サイズを利用するが、そのようなより大きな量子化ステップ・サイズを使用することにより、十分に上位でないビット位置に入れられた場合、その電子透かしデータ・ビットを濾過できるからである。当該ブロックに対するクロミナンス部分の値の特定ビット平均、例えば、ビット・マッパー123により供給されたデータが刻印される、当該クロミナンス部分に対するDC係数は、ビット・マッパー123によって決定される。本発明の実施形態例では、ブロックに対するDC係数の2番目の最下位ビットは、当該ブロックに刻印されることが望まれる特定値で置き換えられる。本発明の別の実施形態では、DC係数のどのビットが置き換えられるかは、当該ブロックのテクスチャ変動により異なる。」との記載からみて、本願発明の「少なくとも1つの選択されたビット」とは、上記「第二に」で述べたような「ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値」の中の最下位から最上位の位置のビットの中から、「2番目の最下位ビット」のように固定した位置のビットが選択されるものと、「当該ブロックのテクスチャ変動」に基づいた位置のビットが選択されるものの、いずれであっても良いものと認めることができる。
第四に、本願発明の「少なくとも1つの選択されたビットに、追加情報の複数のビットを入れることにより該ビデオ信号に刻印されるべき該追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビットを複製する」について、本願明細書段落【0007】の「必要に応じ、電子透かしデータを伝えるべきブロックの選択されたクロミナンス部分の平均値のビットが、電子透かしデータ・ビットの値と同じになるようにするために、ブロックの個々のピクセルの選択されたクロミナンス部分の値を調整することができる。」、段落【0008】の「電子透かしデータを含むべき平均値のビットの値が既に電子透かしデータ・ビットの値と同じ場合、当該ブロックのどのピクセルにも変更は行われない。しかし、電子透かしデータを含むべき平均値のビットの値が、当該ブロックで伝えられるべき電子透かしデータ・ビットの値の補数である場合、ビットを電子透かしデータ・ビットの値に変更する平均値に対する少なくとも最小限の変更が、平均値に行われる。」、段落【0046】の「ビット・マッパー123は、各ブロックの複数のクロミナンス部分のうち選択された1つのクロミナンス部分の平均値のビット位置の1つへの電子透かしデータの挿入を制御する。データはそこに刻印され、したがって、そのビット位置のビットと効果的に置き換えられる。」、段落【0049】の「当該ブロックに対するクロミナンス部分の値の特定ビット平均、例えば、ビット・マッパー123により供給されたデータが刻印される、当該クロミナンス部分に対するDC係数は、ビット・マッパー123によって決定される。一構成では、ブロックに対するDC係数の2番目の最下位ビットは、当該ブロックに刻印されることが望まれる特定値で置き換えられる。」との記載からみて、本願発明の「少なくとも1つの選択されたビットに、追加情報の複数のビットを入れることにより該ビデオ信号に刻印されるべき該追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビットを複製する」とは、ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値の少なくとも1つの選択されたビットが、追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビットと同じになるように、ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値の少なくとも1つの選択されたビットを、追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビットと置き換えるものと認めることができる。

次に、これらを前提として、本願発明の「ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値の少なくとも1つの選択されたビットに、追加情報の複数のビットを入れることにより該ビデオ信号に刻印されるべき該追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビットを複製するステップ」と、引用発明1を対比する。

まず、引用発明1は「画像フレームをブロック分割し、抽出されたブロックにDCT処理を施し、該DCT処理により得られた係数のうち、動画像の全てのフレームの、同じ位置のブロックであって、かつ同じ位置のDCT係数に透かしデータを埋め込むことを特徴とする動画像に対する透かしデータ埋め込み方法」である。
これに対し、本願発明は「ビデオ信号に電子透かしを入れる際に使用する方法」であって「ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値の少なくとも1つの選択されたビットに、追加情報の複数のビットを入れることにより該ビデオ信号に刻印されるべき該追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビットを複製するステップ」を有するが、上記したように、本願発明は「ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値」を求める過程で、MPEG符号化におけるマクロブロックのクロミナンス成分に対して二次元DCT変換をおこなうものであり、また、本願発明の「少なくとも1つの選択されたビットに、追加情報の複数のビットを入れることにより該ビデオ信号に刻印されるべき該追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビットを複製する」とは、ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値の少なくとも1つの選択されたビットが、追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビットと同じになるように、ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値の少なくとも1つの選択されたビットを、追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビットと置き換えるものである。
そうすると、引用発明1と本願発明は、いずれも、ビデオ信号のブロックに対して二次元DCT変換をおこない、得られたDCT係数に透かしデータを埋め込む点で一致しているが、透かしデータを埋め込む対象となるDCT係数が、本願発明では「ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値の少なくとも1つの選択されたビット」であり、透かしデータの埋め込む手法について、本願発明は「追加情報の複数のビットを入れることにより該ビデオ信号に刻印されるべき該追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビットを複製する」ものであるのに対し、引用発明は、いずれも何ら特定されていない点で異なっている。

4.3.2.「連続するフレームの同じブロック位置に刻印されるべき複製されたビット及び元のビットを供給するステップ」
まず、本願発明の「連続するフレームの同じブロック位置に刻印されるべき複製されたビット及び元のビットを供給するステップ」とは、どのような意味なのか、本願明細書の記載を参照して検討する。

本願明細書段落【0015】の「したがって、本発明の原理により、ブロックのクロミナンス部分の平均値にデータが刻印される前に、データは、少なくとも一回、好適には複数回、複製される。原本と、それぞれの作成された複製が、同時出願の米国特許出願第10/673892号の技術を使用して、別フレームの同じブロック位置に送信される。同じデータを伝える同様に配置されたブロックを有するフレームは1グループと見なされ、好適には、そのフレームは表示順に連続している。」、段落【0155】の「図9は、本発明の原理により、ブロックのクロミナンス部分の平均値にデータが刻印される前に、刻印されるべきデータを、少なくとも1回、好適には数回、複製することによってちらつきを低減することのできる送信器例を示す。元のデータと、それぞれの複製されたデータは、別個の連続したフレームの同じブロック位置で送信される。好適には、同じデータを伝える、ブロックを同様に配置させたフレームは、表示順で連続する。さらに、本発明の一態様により、フレームの特定ブロックは、ユーザのデータを符号化するのではなく、特定の周知のデータ・シーケンス、例えばBarkerシーケンスで埋め込むことができる。」、段落【0157】の「リピーター925は、ブロック・インターリーバー121または任意選択のシーケンス加算器927からビットを受け取る。リピーター925は、受け取ったビットを記憶し、それらを少なくとも2つのフレームの同様に配置されたブロックに出力する。本発明の一実施形態では、リピーター925が、受け取ったビットを記憶し、それらを3つのフレームの同様に配置されたブロックに対して出力する場合、良い結果が達成されることが判明している。当業者は、データが反復されるフレーム番号を選択することにより、電子透かしデータの所望のスループットで、認知されたちらつきをどれでもトレードオフすることができよう。」との記載からみて、「連続するフレームの同じブロック位置に刻印されるべき複製されたビット及び元のビットを供給する」とは、刻印されるべきデータ、すなわち、請求項1に係る発明の「ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値の少なくとも1つの選択されたビットに、追加情報の複数のビットを入れることにより該ビデオ信号に刻印されるべき該追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビットを複製するステップ」における「該追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビット」を、複数回複製し、その複製前の「元のビット」を「連続するフレーム」の最初のフレームの「同じブロック位置に刻印」し、複製によって作り出された「複製されたビット」を、最初のフレームに続く「連続するフレーム」それぞれの「同じブロック位置に刻印」できるように、ひとつづつ「供給する」ものであると認めることができる。

次に、これらを前提として、本願発明の「連続するフレームの同じブロック位置に刻印されるべき複製されたビット及び元のビットを供給するステップ」と、引用発明1を対比する。

ここで、引用発明1は「画像フレームをブロック分割し、抽出されたブロックにDCT処理を施し、該DCT処理により得られた係数のうち、動画像の全てのフレームの、同じ位置のブロックであって、かつ同じ位置のDCT係数に透かしデータを埋め込むことを特徴とする動画像に対する透かしデータ埋め込み方法。」であって、「動画像の全てのフレームの、同じ位置のブロックであって、かつ同じ位置のDCT係数に透かしデータを埋め込む」ためには、埋め込まれる「透かしデータ」を、埋め込みの対象となる「フレーム」それぞれに対して用意する必要性があり、また、この「透かしデータ」はビットで構成されているから、結局、引用発明1は本願発明と同様に「連続するフレームの同じブロック位置に刻印されるべき複製されたビット及び元のビットを供給するステップ」とを含むということができる。

4.4.一致点・相違点
ここで、上記「4.3.対比」で述べたことをまとめると、本願発明と引用発明1は、以下の点で、一致し、また、相違する。

[一致点]
「ビデオ信号に電子透かしを入れる際に使用する方法であって、ビデオ信号のブロックに対して二次元DCT変換をおこない、得られたDCT係数に透かしデータを埋め込むものであって、連続するフレームの同じブロック位置に刻印されるべき複製されたビット及び元のビットを供給するステップとを含む方法。」

[相違点]
透かしデータを埋め込む対象となるDCT係数が、本願発明では「ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値の少なくとも1つの選択されたビット」であり、透かしデータの埋め込む手法について、本願発明は「追加情報の複数のビットを入れることにより該ビデオ信号に刻印されるべき該追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビットを複製する」ものであるのに対し、引用発明は、いずれも何ら特定されていない点。

4.5.特許法第29条第2項(進歩性)についての当審の判断
引用発明2は「圧縮された動画像データの色差成分に透かし情報を埋込む方法として、画像の各ブロックを二次元DCT変換し、得られた色差成分の空間周波数成分であるDCT係数S(u,v)を表3.2(b)の量子化テーブルに示す対応するステップサイズQ(u,v)(u,v=0,1,・・・,7)を用いて、S(u,v)/Q(u,v)の除算結果が実数値となるものを近隣の整数値にまるめるround関数を用いて量子化し量子化データR(u,v)を求めるときに、R(u,v)のどの(u,v)座標に透かしデータを秘匿するかブロックごとに鍵を用いて可変型式に指定し、埋め込む透かしビットが0ならば、round関数の出力の最下位ビットを0として出力し、透かしビットが1ならば、round関数の出力の最下位ビットを1として出力することによって透かしを埋め込む、圧縮された画像データに透かし情報を埋込む方法。」であって、引用発明2における「R(u,v)のどの(u,v)座標に透かしデータを秘匿するかブロックごとに可変型式に指定」できる「鍵」は、R(0,0)を含むR(u,v)のいずれの(u,v)座標を指定できるものであるから、引用発明2には、R(0,0)に透かしデータを秘匿するものも含まれているということができる。

これに対し、上記『4.3.2.「ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値の少なくとも1つの選択されたビットに、追加情報の複数のビットを入れることにより該ビデオ信号に刻印されるべき該追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビットを複製するステップ」』の「第一に」?「第四に」で述べたように、本願発明の「ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値の少なくとも1つの選択されたビットに、追加情報の複数のビットを入れることにより該ビデオ信号に刻印されるべき該追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビットを複製するステップ」において、

(1) その「ビデオ信号のブロック」とはMPEG符号化におけるマクロブロックを指し、本願発明の「ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値」とは、MPEG符号化におけるマクロブロックのクロミナンス成分に対して二次元DCT変換をおこなったときのDC成分、すなわち、(0,0)成分を指すものと解釈すること、
(2) その「少なくとも1つの選択されたビット」とは「ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値」の中の最下位から最上位のどの位置のビットであってもよいものと解釈すること、
(3) その「少なくとも1つの選択されたビット」とは、「ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値」の中の最下位から最上位の位置のビットの中から、「2番目の最下位ビット」のように固定した位置のビットが選択されるものと、「当該ブロックのテクスチャ変動」に基づいた位置のビットが選択されるものの、いずれであっても良いものと解釈すること、
(4) その「少なくとも1つの選択されたビットに、追加情報の複数のビットを入れることにより該ビデオ信号に刻印されるべき該追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビットを複製する」とは、ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値の少なくとも1つの選択されたビットが、追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビットと同じになるように、ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値の少なくとも1つの選択されたビットを、追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビットと置き換えるものと解釈すること、

ができる。そして、この解釈に基づいて、本願発明の「ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値の少なくとも1つの選択されたビットに、追加情報の複数のビットを入れることにより該ビデオ信号に刻印されるべき該追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビットを複製するステップ」と引用発明2を以下比較する。

(a) 引用発明2において、鍵としてR(0,0)を指定するものが選ばれた場合には、引用発明2も本願発明の「ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値の少なくとも1つの選択されたビットに、追加情報の複数のビットを入れることにより該ビデオ信号に刻印されるべき該追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビットを複製するステップ」も、いずれも、処理の対象が、MPEG符号化におけるマクロブロックのクロミナンス成分に対して二次元DCT変換をおこなったときのDC成分となる点で共通する。
(b) 引用発明2は「埋め込む透かしビットが0ならば、round関数の出力の最下位ビットを0として出力し、透かしビットが1ならば、round関数の出力の最下位ビットを1として出力することによって透かしを埋め込む」ものであって、この「round関数の出力の最下位ビット」とは、「round関数の出力」の中から「最下位ビット」という固定した位置のビットが選択されたものということができるから、引用発明2の「round関数の出力の最下位ビット」と本願発明の「ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値の少なくとも1つの選択されたビット」が対応する。
(c) 引用発明2の「埋め込む透かしビットが0ならば、round関数の出力の最下位ビットを0として出力し、透かしビットが1ならば、round関数の出力の最下位ビットを1として出力する」とは、結局、round関数の出力の最下位ビットを埋め込む透かしビットで置き換えているということができるのに対し、本願発明の「少なくとも1つの選択されたビットに、追加情報の複数のビットを入れることにより該ビデオ信号に刻印されるべき該追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビットを複製する」とは、上記(4)で述べたように、ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値の少なくとも1つの選択されたビットが、追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビットと同じになるように、ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値の少なくとも1つの選択されたビットを、追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビットと置き換えるものと解釈できるから、引用発明2と本願発明は、いずれも「少なくとも1つの選択されたビットに、追加情報の複数のビットを入れることにより該ビデオ信号に刻印されるべき該追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビットを複製する」処理を行っている。

すなわち、上記(a)?(c)からみて、引用発明2も、本願発明の「ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値の少なくとも1つの選択されたビットに、追加情報の複数のビットを入れることにより該ビデオ信号に刻印されるべき該追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビットを複製するステップ」に相当する処理を行っている。

そして、引用発明1は「画像フレームをブロック分割し、抽出されたブロックにDCT処理を施し、該DCT処理により得られた係数のうち、動画像の全てのフレームの、同じ位置のブロックであって、かつ同じ位置のDCT係数に透かしデータを埋め込むことを特徴とする動画像に対する透かしデータ埋め込み方法。」であるが、このような引用発明1において「抽出されたブロックにDCT処理を施し、該DCT処理により得られた係数のうち、動画像の全てのフレームの、同じ位置のブロックであって、かつ同じ位置のDCT係数に透かしデータを埋め込む」ときに、ブロックの中の各色毎に複数存在するDCT係数のうち、どのDCT係数に透かしデータを埋め込むのか、また、その透かしデータを埋め込むときにどのような手法を採用するかは、引用発明1を具体的に実現する過程で、当業者が、それら手法の特徴、得失を考え選択すべきものであって、その選択の結果、引用発明1において「抽出されたブロックにDCT処理を施し、該DCT処理により得られた係数のうち、動画像の全てのフレームの、同じ位置のブロックであって、かつ同じ位置のDCT係数に透かしデータを埋め込む」手法として引用発明2を採用し、その結果として、本願発明のように「ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値の少なくとも1つの選択されたビットに、追加情報の複数のビットを入れることにより該ビデオ信号に刻印されるべき該追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビットを複製するステップ」としたことは、当業者が容易になしえたことにすぎない。

また、本願発明は、格別の作用効果を奏するものとも認められない。

したがって、本願発明は、引用発明1,2に基づき当業者が容易に発明できたものである。

なお、上記判断は、引用発明2における「R(u,v)のどの(u,v)座標に透かしデータを秘匿するかブロックごとに可変型式に指定」できる「鍵」は、R(0,0)を含むR(u,v)のいずれの(u,v)座標を指定できるものであって、引用発明2には、R(0,0)に透かしデータを秘匿するものも含まれているということができ、この場合、引用発明2と、本願発明の「ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値の少なくとも1つの選択されたビットに、追加情報の複数のビットを入れることにより該ビデオ信号に刻印されるべき該追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビットを複製するステップ」が行う処理は互いに一致していることを前提としている。
これに対し、本願発明の「ビデオ信号のブロック上のクロミナンス部分の平均値の少なくとも1つの選択されたビットに、追加情報の複数のビットを入れることにより該ビデオ信号に刻印されるべき該追加情報の複数のビットのうちの少なくとも選択されたビットを複製するステップ」には、引用発明2の「鍵」に相当するものが存在しないのに対し、引用発明2は「R(u,v)のどの(u,v)座標に透かしデータを秘匿するかブロックごとに可変型式に指定」できる「鍵」を必ず含むものである点が相違していると仮定したとしても、引用発明3で透かし情報が埋め込まれる「色差成分(CbまたはCr)のDCT変換後の量子化値のD.C成分の値」は、引用発明2でいう「DCT係数S(u,v)を表3.2(b)の量子化テーブルに示す対応するステップサイズQ(u,v)(u,v=0,1,・・・,7)を用いて、S(u,v)/Q(u,v)の除算結果が実数値となるものを近隣の整数値にまるめるround関数を用いて量子化し」た結果の「(0,0)成分」と対応するものであるが、引用例3には上記摘記したように「また,透かし情報のフラグビット埋め込み場所として,図1の点線で示すように,どのような動画像フレームにも必ず存在するDCT変換後の量子化値のD.C成分に透かし情報を埋め込むこともできる.もちろん,DCT変換後の量子化値の低周波成分に埋め込む方法も考えられるが,どの低周波数成分に埋め込むかを指定する情報が必要となり,回路構成が複雑になる.」と記載されているように、引用発明3において、「色差成分(CbまたはCr)のDCT変換後の量子化値のD.C成分の値」に対して「透かし情報」を埋め込むのは「回路構成が複雑になる」ことを避けるためであって、このように「回路構成が複雑になる」ことを避けるか、それを許容しつつその他の利点を得ることを選ぶかは、本願発明や引用発明1?3が属する技術分野において常に検討しなければならないものであって、その検討の結果、引用発明2において、「R(u,v)のどの(u,v)座標に透かしデータを秘匿するかブロックごとに可変型式に指定」できる「鍵」を省き、常にR(0,0)成分に透かしデータを秘匿するように構成し、引用発明3と同様の構成とすることは、当業者が容易になしえたことにすぎない。

4.6.特許法第29条第2項(進歩性)に関するまとめ
以上のように、本願発明は引用発明1,2に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5.むすび
以上のとおり、この出願は、特許法第37条に規定する要件を満たしていない。
また、本願の請求項1に係る発明は、引用例1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本件出願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-11-29 
結審通知日 2013-12-03 
審決日 2013-12-24 
出願番号 特願2004-283329(P2004-283329)
審決分類 P 1 8・ 65- WZ (H04N)
P 1 8・ 121- WZ (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 畑中 高行  
特許庁審判長 松尾 淳一
特許庁審判官 小池 正彦
渡邊 聡
発明の名称 デジタル・ビデオに電子透かしを入れる方法  
代理人 岡部 正夫  
代理人 岡部 讓  
代理人 吉澤 弘司  

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